星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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エピローグは3話と言ったな。膨れ上がって嘘になった。

リリンキーさん、evolutionさん、高評価ありがとうございます。なんとかモチベーション維持になっております。

エピローグは次回です。楽しんでいただけると嬉しいです。


それぞれ思うところがあるようで 後編

 

 愛子 SIDE

 

 

 

「……どうか、安らかに」

 

 夕暮れ、応急西北側の岸壁。

 

 そこで私は、目の前の忠霊塔に名を刻まれた、この国の兵士や騎士の方々に向かって一人で祈っていた。

 

 また、石碑の前には損傷した西洋剣と槍も置かれている。今回の騒動で亡くなっていた近藤くんと、檜山くんのものだ。

 

 南雲くんから経緯を聞き、私はただ……彼らの安寧を祈った。たとえ檜山くんが、外道に落ちていたとしても。

 

『フン、死者ヲ悼ンデ何ニナル。食エスラシナイモノヲ』

 

 私たちの世界は死を尊ぶものなんですよ、ヴェノムさん。食べられることを基準にしないでください。

 

 そうして黙祷を捧げていると、不意に後ろから足音がした。殺気はなく、ただこちらに近づいてくる。

 

「……清水くんですか」

 

 ピタリと止まる足音。閉じていた目を開けて振り返ると、やはりそこにいたのは清水くんだった。

 

 いつものローブで顔を隠し気味にした彼は、私と目があうと途端にバツが悪そうに視線をそらす。

 

 ふとその手元を見ると、花束が握られていた。思わずふと微笑みが溢れて、彼を手招きする。

 

「清水くんもお参りに来たのでしょう?」

「……まあ、そんなとこっす」

「だったら、お供えしてください。きっと彼らも喜びますよ」

「……うす」

 

 私の横までやってきた清水くんは、跪いて石碑に花束を献花すると、ぎこちなく黙祷をする。

 

 私もまた、手を握りあわせて続きをする。たとえこれが、もう届くことのない、無意味な行為だったとしても。

 

 しばらくして、隣で清水くんが動いたのがわかった。きっと黙祷をやめたのだろう。

 

「ありがとうございます、清水くん」

「え?」

「ここにきてくれたことも、私たちを助けてくれたことも。本当に感謝しています」

 

 祈ったままに、清水くんに感謝の言葉を送る。

 

 数日前、あの謎のご老人に助けられた私たちを山の麓で待っていてくれたのは、清水くんと遠藤くんだった。

 

 背後では山が崩れ、バイクの止め方もわからなかった私たち二人を、清水くんに寄生したヴェノムさんが受け止めてくれたのだ。

 

 そして、どうやら南雲くんたちから逃げてきたらしい魔物たちを、遠藤くんの力でやり過ごして帰ることができた。

 

『オ前ノ中ハソコソコ居心地ガ良カッタゾ』

「ひっ……!」

「ヴェノムさん」

 

 楽しそうに笑ったヴェノムさんが体内に戻ると、清水くんはほっと安堵したようだ。

 

 それから私を見て、以前地球にた時のようにたどたどしく喋り始める。

 

「俺は……ただ、ここにくれば先生がいるかなって」

「慕ってくれる生徒がいて、先生は嬉しいですよ」

「せ、先生は命の恩人だから」

 

 命の恩人、か……

 

「ありがとうございます。もっとも、そう呼ばれる資格はないのですけどね」

「え……?」

 

 困惑したような声を上げる清水くんに、私は目を開いて彼を見た。

 

「清水くん。あなたには、畑山愛子とマリス……今の私がどちらに見えますか?」

「そ、それって前世の……」

「涙がね。出ないんですよ」

 

 もう一度、石碑に立てかけられた生徒たちのものだった武器を見る。

 

 やはり心は動かない。()()()を悼むという気持ちはあっても、それ以上の感情は存在しない。

 

「彼らの死を悲しむ気持ちはあるんです。あちらへ帰れた時に、彼らの親にどう説明すればいいのかと……でも、()()()()()()()()()

 

 悲観する心は、畑山愛子としての私が培ってきた倫理観から発するもの。

 

 そして()()()()()()()として判断し、後悔を抱かない心はマリスさんの記憶から生じる冷徹さ。

 

 最初はそのことにショックを受けた。自分の中の人間らしさが失われてしまったようで、恐ろしかった。

 

「こうして祈るのも、せめて安らかにというよりは、来世で良い人生が送れますようにという願い。そして……」

「そして……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 けれど私は、それを受け入れようと思った。

 

 あの夢を見て、私の意識は畑山愛子に戻った。だがどうしても、私の中に彼女は存在している。

 

 ある意味では一種の洗脳だったのだろう。彼女の記憶に唆され、教師にあるまじき殺人をしたこともある。

 

 それは、業だ。私がこの記憶と共に背負っていかねばならない罪禍だ。

 

「こうしていると、脳裏に思い浮かぶんです……彼女が敬愛した人の後ろ姿を」

 

 彼女の記憶の中の彼は、謝り続けていた。

 

 救えなくてすまない。苦しめてすまない。どうしようもなく無力ですまないと、繰り返し何度も。

 

 どこまでも他の為に、傲慢と罵られてもおかしくないほどに〝死〟という救いを選択し続けたその姿勢に彼女は憧れた。

 

 人にとって悪であっても、彼女にとっては光だったのだろう。他の全てを塗り潰しても手に入れたいほどに。

 

「わかっているんです。こんなことをしても私にはわかりっこない、って……でも、私は解らなくてはいけないから」

 

 それでも、少しでも受け入れられるように。自分の醜さを受け入れた北野くんのように、私も前へ進まなくては。

 

 この行為は、突き詰めればそんな利己的なもの。こんな醜い人間に、恩人と呼ばれる資格も……教師でいる意味もない。

 

「だからね、清水くん。私のことは……」

「ち、違うっ!あんたは立派な先生だ!」

 

 これまで聞いたことのないような大声に、私は驚いて彼を見た。

 

 必死な顔で私を見る清水くんの目には、何か鬼気迫るものがあった。それに圧倒されて、二の句が出てこない。

 

「あんたがいなければ、俺はウルの街で檜山みたいに殺されてたっ!魔人族にいいように扱われて、ゴミみたいに死んでいた!」

「それは……でも、その時の私は」

「たとえあんたが、自分を責めていたって!それでもあんたは、俺が唯一尊敬した〝先生〟なんだ!」

 

 その時の私の気持ちを、どう表現すればいいのだろう。

 

 まるで、突然見つからなかったものを見つけたような感覚。不意を突かれたような衝撃と驚愕。

 

 呆然としている私に、ハッとした清水くんは顔を青くして、ヴェノムさんに食べないでくれと懇願し土下座する。

 

 慌てて駆け寄り、土下座をやめさせると彼の目を見て、はやる気持ちを抑えて言葉を紡ぐ。

 

「清水くん、ありがとうございます。そんなふうに思ってくれて嬉しいです」

「いや、あの、俺はただ、先生を励まそうって……」

「そんなに焦らなくても、怒ってませんよ。でもそうですね……確かに、私は自分を責めていたのかもしれません」

 

 彼女を理解しようとする裏側で、自分のしてきたことや、冷たい感情しか向けられないことを悔やんでいた。

 

 あるいは理解しようとすることで、その気持ちに蓋をしようとしていたのか。彼の言葉でようやく気がついた。

 

「本当に成長しましたね、清水くん。勇者などというものに拘っていた時よりもずっと逞しいですよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 照れ臭そうにする彼の背中を撫でながら、私はもう一度決意する。

 

 必ずこの記憶を受け入れ……慕ってくれる彼や、クラスの皆。そして北野くんたちの為に〝教師〟になろうと。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 谷口鈴 SIDE

 

 

 

「……どうしよう」

 

 

 

 部屋で一人考え込んでると、なんかおかしくなっちゃいそうだから出てきちゃった。

 

 それはいい。今は王宮も騒がしくて、誰も鈴のことなんて気にしてられないくらい忙しそうだ。

 

 問題なのは……なんで鈴、龍っちの部屋の前に来てるのかなぁ?

 

「ホント、ホント鈴……」

 

 部屋のドアに額を擦り付け、自分の顔の熱がそっちに逃げないかと馬鹿なことを考える。

 

 こんな時まで無意識に頼るとか、ちょっと乙女的思考になりすぎじゃない? 大丈夫鈴、今後普通に龍っちと話せる?

 

 ……ダメだ、絶対変なこと言う。あの時のこと思い出してみょうちきりんなことを口走る自信があるよ。

 

「あうう……これも全部、龍っちのせいだぁ……」

「俺がどうしたって?」

「わひゃっ!?」

 

 突然扉が開いて、体重を預けてたせいで前に倒れる。

 

 でも、太い腕に支えられて転ばなかった。見上げると、不思議そうな顔をした龍っちが鈴を見てる。

 

 自分でもびっくりするくらいの速度で姿勢を戻して、龍っちと距離を取った。今胸が腕に当たってた!ちっぱいだけど!

 

「おおっ、元気だな。その様子だと気分はそんなに悪くないのか?」

「う、うん、まあね!龍っちも、平気なの?」

「ん? これか? 別にどうってこたぁねえよ」

 

 吊るされてる左腕を持ち上げて、ニカッと笑う龍っち。

 

 その他にも、龍っちは体のあちこちに治療の跡があった。相変わらずかおりんやみーちゃんに治してもらわずにいるみたい。

 

 確かこの前聞いたときは、「一度負けた不甲斐なさを戒めるため」って言ってたっけ……心配するこっちの気も知らないで。

 

「むう。龍っちのバカ」

「え、なんで俺バカ呼ばわりされてんの?変なことしたか?」

「い、いいの!それより、龍っちは何してたの?」

「えっ、あ、ああいや……読書?」

 

 ……鈴の長年クラスの中心グループにいたことで鍛えられた、嘘センサーが反応している。

 

 スッと目を細めてみると、龍っちは目を逸らした。これは明らかに怪しい、何か言えないことをしてた証拠だ。

 

「もう一回聞くよ。何をしてたの?」

「だ、だから読書だって。ほら、最近は俺も勉強をだな……」

「何を、してたの?」

 

 ずずいっと近寄り、下から龍っちのことを睨みあげる。

 

 ウッと息を詰まらせた龍っちは、しばらく鈴の視線から逃れようとしてたけど……やがて諦めたようにため息を吐いた。

 

「……ちょっと筋トレを」

「ベッドへ行けーっ!」

 

 思わず叫んじゃった。自分から重傷をそのままにしといて、何やってんのこの脳筋男!

 

 追い立てるようにベッドの方まで龍っちを押し戻して、無理やり寝かせる。部屋の中は少し汗臭かった。

 

「まったく!少しは自分のこと大切にしなよ!これじゃあ鈴も心配で目が離せないよ!?」

「おっ、そりゃ安心だな」

「〜〜っ!鈴をからかうんじゃなーい!」

 

 ああもう、この男はいつもとおんなじ笑い方でこういうことを! これじゃあ顔が緩ん……違うからね鈴っ!

 

 ああもう、変な考えになってる!頭をぐしゃぐしゃにかき回して、なんとかリセットすると龍っちを見る。

 

「とにかく、大人しくしてること!龍っちは今回一番頑張ったんだから、ちゃんと休んで!」

「けど……」

「けども江戸もない!そりゃ、鈴だって感謝して……」

 

 そこまで言って、ハッとする。あの時の、何もできなかった自分を思い出して。

 

 自然と振り上げていた手を落として、俯く。お花畑になっていた考えも自然と自室にいた時に戻っていた。

 

「……うん、龍っちには感謝してる。守ってくれて」

「谷口……?」

「そんなにボロボロになるまで、龍っちが戦ってる間……鈴は、鈴は何もしてなかった」

 

 ただ、何もしないで震えてるだけだった。

 

 みんなが殺されかけた時も、恵里が本性を現した時も近藤くんの槍が自分に振り下ろされた時でさえも。

 

 光輝くんも動けない中で、なんとかしようと考えてたのに……鈴は何もかもを放棄していた。

 

 戦うことも、考えることすらも嫌で……自分に見下した目を向けてくる恵里から必死に目を逸らしたがってた。

 

「……鈴」

 

 ぽん、と頭に手が置かれた。

 

 それは間違いなく龍っちのもので、あの時と同じように名前を呼ばれたことに肩が震える。

 

「……バチが、当たったのかな」

「バチって?」

 

 優しく、子供に聞くみたいに龍っちが繰り返す。

 

 子供扱いされてるみたいで、なんだか少し複雑だったけど……それよりもずっと、嬉しかった。

 

「鈴ね、昔から一人が怖いの。自分を誰も見てない気がして、世界に鈴だけが取り残されたみたいで……」

「誰だって、誰かと一緒にいたいと思うだろ。それの何が悪いんだよ」

「うん、だからね。鈴も恵里を()()してた。誰にでも優しくて、笑って話を聞く恵里のそばにいれば……鈴も、誰かといれるから」

 

 思えば、酷い打算だ。鈴が明るく振る舞うのも、そうすれば誰かが反応してくれるから。

 

 本当の鈴は寂しがりで、怖がりで、意地汚い女の子。恵里が鈴にそう言ったみたいに、鈴も恵里といるのは都合が良かった。

 

「そんなふうに思ってたから、きっとバチが当たったんだよね……鈴は所詮、そんな女の子なんだって……」

 

 足の上で握りしめた拳に、ポタポタと雫が零れ落ちる。

 

 それが自分の涙だと気付いた時にはもう遅くて、止めようとしても次から次へと流れて止まらない。

 

 ごめんなさい、恵里。こんな醜い子で。許してなんて言わない。でもお願い、せめてあと一回だけ……

 

「……お前は、優しいな」

「えっ、あ──」

 

 気がついたら、龍っちの胸の中にいた。

 

 頭に置かれていた手は肩にあって、たぶん龍っちの方に引き寄せられた。

 

 片腕が使えないからか、それ以上は何もしてこなくて……だから鈴は、ギュッと龍っちのシャツを掴む。

 

「鈴。お前は優しい女の子だ。そんで強い女の子だ。自分からそんなことを口に出せる奴はそうそういねえ」

「でも、鈴は、鈴は……」

「大丈夫だ、ここには俺しかいない。鈴の本音を聞いてたのも俺一人だ。だからよ」

 

 肩から離された手が、もう一度頭に置かれて。

 

「こんなむさ苦しい胸でよけりゃ貸すから、吐き出してけ」

「っ…………!」

「安心しろ、俺ぁバカだ。食って寝たら忘れてやる。思う存分、たまったもん全部洗いざらい出しちまえ」

「……うん。ごめん、借りるね」

「好きなだけ借りろ」

 

 その言葉で、鈴の感情は決壊した。

 

 

 

「う、ぁあ、あああああああああっ!!!」

 

 

 

 それから、いっぱい泣いた。

 

 背中を撫でてくれる龍っちの優しさに甘えて……利用して。

 

 鈴は、何日も溜め込んでいた感情を吐き出し続けた。

 

 

 

 

 

(……俺が、守らないとな)

 

 

 

 

 

 だから、龍っちの表情にも気がつかなかった。

 




次回は勇者がメタモルフォーゼっていうか種族変化してるよ。

読んでいただき、ありがとうございます。
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