星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はウサギの話。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ウサギの一日

 

 シュウジたちがクラスメイト一同に話をしてから、一晩が経過した。

 

 

 

 その後の話し合いで光輝の他に鈴、龍太郎、そして帝国との会談に向かうリリアーナが一時的に旅に同行することに。

 

 更に、各所の混乱が落ち着いて外へ出るための関門が使えるようになるまでの数日、一行は王都に留まることになった。

 

 なので、各々好きな様に楽しむことにした。ハジメはユエや美空とデートを、香織は肉体の制御訓練、など。

 

「どこ、行こっかな」

「ゲコッ」

 

 ウサギと、腕に抱え込まれているカエルもまた、その一人と一匹である。

 

 魔人族の襲撃があった今、人間族らしからぬその耳と尻尾は、シュウジのアーティファクトで不可視化されている。

 

 なお、当の本人は城下町の広場で頭にピクルスを乗せてロボットダンスしたために王宮に療養(収容)である。オカンは強い。

 

「ゲコッ」

「ご飯?でもさっき食べたばかり」

「ゲコッ」

「じゃあ食後のおやつ……むう、食いしん坊」

 

 コミカルな会話を交わしながらも、ウサギは熱気……とも言い切れない賑わいを見せる大通りを見やる。

 

 幸い、王都の結界が破壊されてすぐに張られた謎の結界で被害はなかったが、それでも恐怖は残っている。

 

 だがそれに負けじと、人々は明るさを失わずにいた。その証拠に普段ほどではないが、十分賑わっている。

 

 それは彼女の創造主が尊んだ、人の〝強さ〟だ。打ちのめされようと前に進み続ける不屈の意志だ。

 

 平和のために生み出されたホムンクルス。微妙に色の違う、しかし美しいその桃色の瞳は、少し嬉しそうだった。

 

「……そうだ。おねえちゃんに会いにいこう」

「ゲコッ?」

「うん、会いたいでしょ?」

「ゲコッ」

 

 そこかしこから漂ってくる食べ物の匂いに舌舐めずりをしていたカエルは、急に大人しくなる。

 

 口の両端を少しあげ、ウサギはカエルの体を抱く力を少し強めると、雑踏の中に一歩踏み出した。

 

 

 

キュゥ

 

 

 

「……んぅ」

「ゲコッ、ゲコッ」

 

 が、その瞬間にウサギのお腹が可愛らしくなった。

 

 ウサギはその圧倒的な身体能力故に、使用に負担のある月の小函(ムーンセル)以外から大量のエネルギーを必要とする。

 

 そのため、ブラックホールの如き貪食さを持つカエルほどではないが、ウサギもかなりの大食らいだった。

 

 これではカエルを嗜めた意味がない。親指と人差し指で忌々しそうに自分の腹をつねるウサギ。

 

 仕方がなく、彼女は近くの露店に足を向けた。

 

「……すみません、これ一袋分ください」

「おっ、こりゃまた別嬪な嬢ちゃんだ!はいよ、一袋分ね!」

 

 一本や二本などという可愛い数ではなく、見た目からは到底考えられない量を頼むウサギ。流石ハジメの女は伊達ではない。

 

 牛串のようなものを売っていた露店の男は定型文の世辞を言い……まあ実際美少女なのだが……商品を用意する。

 

「そら、持ってきな!」

「お代、どうぞ」

「おうよ!家族で食べるのか?うちのはちょいと他の店のやつとは違うぜ?」

 

 どうやら店主はウサギが家族に頼まれ、買い出しに来た少女だと勘違いをしたらしい。

 

 実際に平らげるのはここにいる一人と一匹のだが、まあそこは言わぬが花だろう。スルーしてウサギは店主に尋ねる。

 

「ここらへんで、帽子を売ってるところ、ない?」

「ん、なんだ嬢ちゃん、観光客か。また大変な時に来てるもんだな。帽子ならあっちの通りに店が……」

「店じゃなくて。もっと……こう、自由な感じの」

 

 胸の前で両手を広げ、ジェスチャーするウサギ。たまたま通りかかった通行人のうち男数人が胸を押さえた。

 

 様々な客を相手してきた歴戦の店主は首を捻り、この少女の言わんとするところを察そうとする。

 

「つまり何かい、店を構えてるわけじゃない帽子やってことかい?」

「ん、それ。どこかにない?」

「それだったらあっちの通りだな。自分で作ったものを売ってる露店が並んだ通りだ」

「あっち……ありがと」

「おう、また買いに来てくれよな!」

 

 気のいい店主に小さく手を振り、ウサギはカエルと串焼きの小包を両手にそちらの通りへ入る。

 

「あむ……おいしい」

「ゲコッ」

「食べすぎちゃダメ。あの人に渡す分もあるから」

 

 放っておくと全て食べ尽くしてしまいそうなカエルの舌をピシッと食べかけの牛串で弾き、歩くウサギ。

 

 彼女の頭の中には数少ない兄弟姉妹との記憶が蘇っていた。

 

 今彼女が会おうとしている人物は、その見た目に反して肉が大好きなのだ。

 

「あの、ここに帽子屋ってありますか」

「ああ、それならそこの角を曲がった先だ」

「ありがとうございます」

 

 時折露店で質問かつ、ハジメたちへのお土産を買いながら進んでいくウサギ。

 

 たまにある軽食を売っている露店でカエルの無限袋(胃袋)を満たさせながら、彼女は近付く予感に胸を躍らせる。

 

 そうしてしばらく進んだところ……不意に、ウサギは自分と何かが繋がったような感覚を覚えた。

 

「……見つけた」

「ゲコッ」

 

 その〝繋がり〟にウサギは歓喜し、自然と足取りは早くなる。

 

 大通りほどでないにしろ、それなりに多い人通りの間を持ち前の反射神経でするすると通り抜けていった。

 

 そうしていよいよ、近付いていくにつれどんどん強くなる〝繋がり〟の元へたどり着いた時。

 

そこにあったのはーー

 

「兄さんは、甘えんぼ、ね。ふふっ」

「……………」

 

 眼鏡をつけ、後ろで髪を束ねた大の男が、大量の帽子の中に座っている退廃的な美女に頭を撫でられている光景だった。

 

「……お兄、ちゃん?」

「!」

 

 テケテンッ!とBGMがつきそうな動きで振り返る男。

 

 そこにいたのは、七人の解放者オスカー……の姿を再生魔法で記憶から【擬態】した、フィーラーだった。

 

 黄金の瞳には、自分をそれはそれは不思議そうに見下ろしているウサギ()の姿が映り込んでいた。

 

「こんなとこで何してるの?」

「ゲコッ」

「……?」

 

 お前こそ、と目で聞き返すフィーラー。

 

 言葉を使わずとも伝わってくるその意思に、ウサギは少しの間目線を彷徨わせ……美女へと狙いを定めた。

 

 そこでようやく、ゆるりとウサギの方を振り向く女性。

 

「あら。妹ちゃんまで、いるわ」

「……久しぶり、〝ハッター〟」

 

 ハッターと呼ばれた女性……ウサギやフィーラーと同じホムンクルスは、コロコロと鈴のように笑う。

 

「元気そう、ね。嬉しいわ。それに、随分と姿が違うけど。()()()()も、いるわ」

「ゲコッ」

 

 すっとハッターが差し出した手を、カエルは一声鳴いただけでなんの抵抗もなく受け入れる。

 

 弾力のあるカエルの頭を撫で、満足そうに笑うハッター。実にマイペースである。

 

「そっちも元気そうだね。グリューエンにいなかった時は、びっくりした」

 

 少し拗ねたように言うウサギに、ハッターは「ごめんなさい、ね」と微笑む。

 

 彼らには、その人造の魂に波長のようなものがあり、近くにいると感じ取ることができる技能がある。

 

 シュウジの一件もあったが、最終試練の部屋まで到達しても全くハッターの存在を感知できなかったことにウサギは驚愕した。

 

「何年か前に、ね。偶然目覚めたの。それから、ずぅっと旅を、しているの」

「でも、そうしたらエヒトに……」

 

 休眠状態にある間、大迷宮の最奥で彼女らは徹底的にその存在を隠蔽され、エヒトの魔の手から守られている。

 

 逆に言えば、一度大迷宮から出てしまえばその庇護はなくなるということ。最高の手駒になる彼女らをエヒトは見逃さない。

 

「あら。お姉ちゃん、こう見えて強いの、よ?」

 

 むんと脱力的に胸の前で拳を握るハッターに、なんとも言えない苦笑いをこぼすウサギ。

 

 この様子だと、おそらくハッターのことを回収するために、何度か神の使徒がやってきたのだろう。

 

 しかし、当人の言う通り彼女は見た目に反して強い。並の使徒では返り討ちだ。

 

「色んな国に、行ったのよ。たくさんの人を見て、たくさんの帽子と出会ったの」

「帽子を作るの、相変わらず好きなんだね」

「ええ。帽子は、人の姿をより華やかに、飾るもの」

 

 自分の周りに積み重なった帽子を見て、とても楽しそうに笑うハッター。

 

 その名前(ハッター)の由来ともなっている帽子は、彼女の在り方を語る点において重要な要素である。

 

 かつて、まだ生まれて間もない、名前すらない頃。解放者たちは意思を持ったホムンクルスたちに様々なことを教えた。

 

 その中で特に彼女が興味を示し、憧れ、そして平和の象徴としたのが、帽子という装飾品の一つ。

 

 人が着飾るのは、心に余裕のある時だけだ。故にこそ彼女は、全力で帽子という平和の中で活きる物を愛していた。

 

「グルルルル……」

「お兄ちゃん……」

「ふふ。ありがとね、兄さん。ちゃんと気を、つけるわ」

 

 側から聞けば、単なる唸り声。しかしウサギは驚きに顔を染め、ハッターが嬉しそうにクスリと笑う。

 

「それ、で。なんで私がいると、わかったの?」

「……あの時の結界。あんなものを作れるのは、ハッターだけだから」

「ふふ。正解、よ」

「……白々しい」

 

 ウサギの月の小函(ムーンセル)によって生じる膨大な魔力の、自分への付与。

 

 リベルの重力魔法。全ての神代魔法を扱うキャパシティを持つフィーラーと、今も擬態を可能としているサメの再生魔法。

 

 それと同様に、ハッターにもホムンクルスとして神代魔法……空間魔法を使う力が備わっていた。

 

 それが魔人族も、魔物の軍勢すらも一匹も王都に入れず、すべてを跳ね除けた謎の結界である。

 

「私の結界は、許可したもの以外の全てを()()する。私の世界と定めた場所に境界を定め、それ以外を拒絶する」

「おかげで、私たちもハジメも戦いやすかった。ありがとう」

「私も、ここは好きだもの。他の場所よりも、賑やかで楽しい、わ」

 

 ね?と首をかしげるハッター。どうやらこの王都は彼女のお気に入りであり、だから力を貸したようだ。

 

 彼女の興味は、帽子を自由に作れるか。その次にそれを存分に使ってもらえる環境か。それに収束する。

 

 世界そのものを守る意思があるかと言われれば……彼女の気の向くまま、と言うのが一番正しいだろう。

 

「仲間の、知り合いがいる。できればこれからも、ここにいてほしい」

「いいわ、よ。まだまだ帽子が売れそう、だもの。彼氏さんと、仲良くね」

 

最後に付け加えられた一言に、ウサギは驚く。

 

 先ほどちらりと一回名前を出しただけなのに、この姉は鈍そうで相変わらず見るところは見ている。

 

 身内から恋愛関係を応援されると言うのは、案外恥ずかしいものだ。ウサギは顔をカエルの後頭部に埋める。

 

「……お姉ちゃんの、いじわる」

「あら。恥ずかしがるくらい、仲が良いの、ね」

「っ! うぅ〜!」

 

 揶揄うような口調で言うハッターに、ウサギはとうとうフィーラーの背中に体を隠してしまった。

 

 それから五分ほど、クスクスと笑うハッターの前にウサギは出てこなかった。仲の良い姉妹である。

 

「そういえ、ば。それは?」

「あ。忘れてた、はいお姉ちゃん」

 

 片手に持っていた小包を開け、まだかろうじて暖かい牛串もどきを見せる。

 

「わぁ!これ、大通りの、美味しいところよ!」

 

 途端に、それまでの退廃的な雰囲気を捨て、目をキラキラとさせるハッター。

 

 どうやら好みは変わっていないようだと、ウサギは三分の一ほど中身が残っているそれを差し出す。

 

 ハッターは嬉々とした様子でそれを受け取り、一本取り出すと頬張って幸せそうな声を漏らした。

 

「ん〜!美味しい!」

「良かったね」

「ありがと、ね!」

 

 少女のようにあどけない顔で笑うハッターに、ウサギは揶揄われたことも忘れ、毒気が抜かれて微笑んだ。

 

 

 

 それからしばらく、彼女らはその場で歓談を楽しんだ。

 




本編で書き忘れてますが、神山にホムンクルスは保管されておりません。聖教教会のお膝元で利用されると厄介なので。

次回は女子会かなぁ
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