ハイリヒ王国、王宮の一室。
貴賓用に設けられたその部屋は今、とある集団によって占拠されていた……
「じゃあ、女子会を始めよう!おー!」
小声で手を振り上げる少女──パジャマ姿の香織に、ベッドの上にいる少女たちも反応を示す。
「「おー」」
「おーですぅ!」
「おー。ふふ、こういう趣向も悪くないのじゃ」
ややノリ気な様子なのが、ユエとウサギ。
続けていつも通り元気溌剌にシアが手を振り上げ、ティオが(見た目は)上品に微笑む。
「お、おー?」
「雫、無理に乗らなくていいと思うよ?」
「そう?あまりこういうのは慣れてなくて……」
無理矢理に乗ろうとして、微妙なイントネーションになった雫の肩に美空がポンと手を置いた。
もとより、雫はどちらかと言えば話を聴く側である。こういったノリにはあまり慣れていなかった。
さて。もうお分かりだろうが、この状況はまったくもって危機などではない。
巨大なベッドの上に集まった寝間着姿の少女たち、光魔法で作られた暗めの光球、そして楽しそうな表情。
これらを見れば一目瞭然だろう。
簡潔に言って、深夜の女子会である。古今東西あらゆる作品で使い古されたような展開なのである。
まあそこはどうでもいい。本編に戻ろう。
「あの……私はもう、少女という年でもないのだが……」
そして、残りの二人のうちの一人。
香織と美空に無理矢理連れてこられたセントレアは、所在なさげに体を揺らす。
その拍子に体の前で組まれた腕の間で潰れた二つのスイカに、ユエがチッと舌打ちしたのはご愛嬌だ。
「まあまあ、いいではないですか。最近セントレアは根を詰めすぎていますし、こういった戯れも必要ですよ」
そんな彼女の背中からちょこんと顔を出すのは、第二王女リリアーナ。無論のこと彼女もパジャマスタイルである。
「し、しかしリリアーナ王女……」
「ほら。肩を抜いて、ね?」
「……あなた様がそう仰るのなら」
騎士として仕える王族の言葉には逆えず、若干赤い顔で渋々了承するセントレア。
その時、リリアーナが香織と美空に素早くアイコンタクトを送った。それを受け取った二人は小さく頷く。
この女子会は、例の一件以降落ち込んだままのセントレアを元気付ける意味もあった。発案はリリアーナである。
「それで、香織。女子会って何する?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれたねユエ。女子会……それはね、普段秘めている心の中を打ち明けて、より仲良くなるためのイベントだよ!」
そして、と得意げに胸を張った香織(香織サイズに調整したので元のノイントより大きい)は、ビシィッ!と指を立てる。
「女子会といえば……恋バナ!お題は馴れ初めだよ!」
「また定番なものを選んだわね、香織」
「ま、普通そうだよね。ていうかそれ以外にないし」
「恋バナ……つまりハジメとの思い出を語れる」
「面白そう」
「恋バナですか!楽しそうですぅ!」
「ほぉ、そういったことじゃったか。それは心が躍るのう」
「まあ、素敵ですわ!」
「恋バナ……う、ううむ……」
各々が反応を示す中で、ポンとリリアーナが両手を合わせて微笑む。
「でも、一度聞いてみたかったですわ。あんなに南雲さんとがよろしいので、どのように出会ったのかを知りたかったのです」
「ん、任せる。なんなら一晩中語る」
「ユエ、それは反則。制限時間を決める」
「そうですよ!ていうかユエさんなら本当に一晩明かしちゃいそうですぅ」
「ん……それもそう。じゃあ決める」」
ウサギコンビには甘いユエは、グッと握っていた拳を納めてすぐに了承した。
それから話し合いが行われ、一人の持ち時間は10分、長くても15分となった。現在午後8時、夜更かしは乙女の天敵である。
ルールを決めたところで、香織はどこからともなく棒の入った長い箱を取り出し、円陣の中心に差し出す。
「はい、これで順番を決めるから引いてね。番号の小さい順から話してくから」
「それって、〝大結界を修理したついでに誰がハジメとの写真集を流せるか〟勝負で使った……」
「ちょっと待って、あなた達そんなことしてたの?」
「わ、我が国の防御の要をそんな風に使わないでいただきたいのですが!」
呆れるオカン、慌てる王女。
ベルナージュ共々に事後処理で地獄を見たリリアーナとしては、これ以上の厄介ごとはごめんであった。
なお、結界の要を修理した際にいた国の兵士たちの必死の説得によってユエ(勝者)との愛のメモリーは流されなかった。
「ほら、雫ちゃんも」
「え、ええっ?私も?」
皆がくじを引くのを眺めていた雫は、てっきり自分は監督役だと思っていたので、差し出された箱に面食らう。
「当たり前。雫だけ逃げるとか許さないし?」
「というか、北野さんとの仲の良さを考えると雫が一番濃厚そうですよね」
「ちょっと、リリィ……」
リリアーナの言葉に照れ臭そうにする雫。否定しないところに強者の余裕というか、すでに新妻の貫禄が出ていた。
とはいえ、一人だけ乗らないのも申し訳なく感じた雫もくじ引きに参加する。
「ん、一番は私」
「あ、私二番だ」
「私が三番でぅす!」
「ふむ、こうなったかのぉ」
「美空もユエもくじ運いいなぁ。私は五番目だったよ」
「あら、それなら香織の一つあとね」
「七番目、だね」
「結構後になっちゃいました」
「わ、私が最後か……」
結果、一番乗りがユエ、次に美空、シア、ティオ、香織、雫、ウサギ、リリアーナ、セントレアという順に決まった。
まるで最初から決まっていたと言わんばかりにドヤ顔をするユエと美空。ユエだけなら香織が突っかかっていただろう。
「ぶー。それじゃあユエから。さっさと話してよね」
「わかった。制限時間まできちんと話す」
皮肉を皮肉で返すユエに、香織が黒い笑顔を浮かべる。もやは一種の習性じみたやり取りであった。
とはいえ、リリアーナの手前部屋を壊すのも気がひけるので、おとなしく話を始めるユエ。
「あれは、奈落の底で絶望の底に沈んでいる時のことだった……」
そして彼女は語る。家族に裏切られ、地の底に幽閉されて、そこから助け出してくれたハジメの勇姿を。
まるで物語の中のような救出劇、そして運命的な出会いに、初聴きのリリアーナとセントレアは興味深そうに耳を傾ける。
一方、ハジメ嫁同盟の陣営は改めて聞く二人の出会いに、あるものはハジメらしいと呆れ笑いをし、あるものは少しだけ悔しがる。
特に、霊体でずっと二人を見てきたウサギはユエの頭を撫でていた。肉体年齢だけなら遥かに年上なので、姉のような気分だ。
「……そしてハジメは、私を美空と同じように大切にすると誓ってくれた。一緒に故郷に帰ると、約束してくれた」
「はぁ……そんなおとぎ話みたいな出会いがあるんですね!私、感動してしまいました!」
「うむ、規格外の実力とは聞いていたが、そんな経歴があったとはな。あの南雲殿が釣れているのも頷ける」
「ま、私と同じくらいってことでハジメに悪戯するのはやめとくし」
「ふふ。いつか、追い抜く」
「負けないし」
ニヤリと笑い合うユエと美空。香織がガチガチにぶつかり合うライバルならば、こちらは凌ぎ合う戦友といったところか。
「じゃあ、次は私ね。知っての通り、私とハジメは幼馴染で、昔は……」
そうして、先ほどの順番通りに次々と各人の馴れ初めが語られていく。
美空の決して派手ではない、しかし穏やかで甘い恋に頬笑みが漏れ、シアのエキセントリックな出会いに笑い。
ウサギの死してなおハジメを想う意思に心を打たれ、またティオのトンデモな出会いに顔を引きつらせて。
雫の、とても同い年や、年下とは思えないほどの深い愛情に胸を高鳴らせ、乙女たちの心は踊る。
「……で、アタックし続けて告白したもらったの」
「す、すごいですぅ……来世になっても、その次でも追いかけ続ける覚悟だなんて……」
「ふふ、香織なんかはもう聞き飽きてるでしょう?」
「ううん、何回聞いてもすごいなって思うよ。きっとシュウジくんも、いつも雫ちゃんにありがとうって思ってるんじゃないかな?」
「その割には無茶ばかりをするけどね。そろそろ本格的にストップさせるスイッチを作っておくべきかしら……」
真剣な顔で「後戻りできないくらい甘やかすか、それとも徹底的に叱るか……」と呟く雫に苦笑する一同。
「じゃあ、次はリリィね」
「私、ですか……でもその、皆さんと違って私はそれほどの恋をしたことがないというか」
「なーに言ってんのよ、最近天之河くんのこといっつも見てるくせに」
「み、美空っ!?」
リリアーナの顔が真っ赤に染まり、美空と香織、雫がニヤリと笑う。なんとなく主人の気持ちを察していたセントレアもだ。
一方、ユエたちはあの光輝を?という正気を疑う目を向けるも、先日のことを思い出してなんともいえない顔になる。
「最近帰ってきたばっかだからあんまり知らないけど、リリィいつも訓練した後に天之河くんにタオル渡してるらしいじゃん?」
「そ、それはその、光輝さんは一応勇者であるわけですし、王女の私が労うのは当然というかですね……」
一応という前置きに苦笑いを隠せない幼馴染二人。
だが今の光輝ならば、確かになと笑って受け入れそうだとも考える。それほどまでの豹変だった。
「へー。じゃあ食事の時ぼーっと見てるのは?」
「美空、なんでそんなところ見てるんですか!?」
「だって、ねぇ?」
「ねー」
顔を見合わせ、ニヤニヤとする美空と香織。「ううっ」と赤面したリリアーナは唸る。
実のところ、リリアーナの様子を見ていたのはこの二人だけではなく、クラスメイトの女性陣たちもだった。
先日の一件から、クラス内で地味に下がっていた光輝の株が上がり始め、そんな彼と王女の恋愛模様が話題になることも少なくない。
「もうみんな知ってるしさ、隠さなくていいよ?」
「うう……美空は意地悪です」
野次馬根性丸出しの笑い方に、とうとう諦めたリリアーナは深いため息を吐く。
「……その。最近の光輝は一皮向けたように見えるというか。先日の南雲さんたちとの話し合いでもそうでしたが、何か成長したように思えるのです」
「びっくりしましたよねぇ。ユエさんとかすっごい目で見てましたし」
「ん。一瞬皮を被った別人かと思った」
今でも衝撃的なのか、鳥肌が立ったというように腕をさするユエ。雫と香織としては曖昧な顔をするしかない。
「で、そんな天之川くんが気になってると」
「……………………はぃ」
小声でボソッと答えたリリアーナが、いよいよ限界とでもいうように両手で顔を覆い隠す。
「でもしれなら、チャンスあるんじゃない?帝国までは一緒なんだしさ」
「それはそうなのですが、公務ですし……」
話し合いの結果、再び旅を始めるハジメたちについていく形で光輝、鈴、そして龍太郎の参加が決まった。
ついでに樹海に行く際に帝国との会談があるリリアーナを落としていくことになり、そこまでは共に行動する。
「まあ、今の光輝なら多少は安心して任せられるかもね」
「雫……」
「……皆、羨ましいな。愛するものが近くにいて、触れ合える」
ふと、そんな言葉がセントレアの口からこぼれた。
ひどく落ち込んだその口調に、盛り上がっていた香織たちはセントレアの方を見やる。
「もう、私にはそれができない。あいつは私の手など届かない、ずっと遠くに行ってしまった」
「……セントレアさんは、メルド団長のことを?」
気遣わしげに聞く雫に、セントレアはごまかすこともなく自嘲気味に笑って頷いた。
「ああ。あいつとは、美空と南雲殿のように昔馴染みでな。共に剣を学び、騎士になり……いつも一緒だった」
「仲が良かったんですね」
「ああ。だかあいつは、いつも私の先を行っていて……今も到底追いつけないところに行ってしまった」
ふと天井を見上げ、あの夜のメルドのことを思い出すセントレア。
龍太郎と同じ、圧倒的な力。なすすべなく押さえつけられた自分に、申し訳なさそうに目を伏せた。
明確な国への反逆。否、その時点でもはや前エリヒド国王は死していたのだから、それすらも無意味な言葉だろうか。
「あいつは忠義に厚い男だった。それは誰より私が知っている……だからこそ、敵として立ちはだかったことが信じられなかった」
「セントレア……」
「今もまだ、心のどこかで信じているのだ。あれは見間違いで、ただの幻だったのだと……そんなはずがないのに」
押し黙る一同。リリアーナも、ひどく悲痛そうな顔をした臣下に何を言えばいいのか分からずに狼狽る。
そんな、まだ年端もいかない少女たちと自らの仕える主君の一人にセントレアは微笑み、毅然とした眼差しとなる。
「だからこそ、私はあいつを信じようと思うよ。いつか帰ってくることを……皆の絆を聞いて、そう思えた」
「……そう、だよね。龍太郎くんだってライダーだけど味方なんだし、絶対に理由があると思います」
「メルドさんにはお世話になったし、私たちも信じる」
「ありがとう、香織、美空……済まないな、こんな暗い話で」
「いえ、そんなことは。それより昔からの仲ってことは、何か甘い話が……」
少し沈んだ空気を一変させるように手をワキワキとさせる美空に、皆しょうがないというように笑う。
その後、馴れ初めから印象に残った思い出に話は変わっていき、少女たちの夜は更けていった。
ネタ切れてきた。次回は何を書こう。