星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はハジメ回。シリアスに見せかけたただのふざけだよ。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ハジメのくれた始まり

 

 

夢を見た。

 

 

 

 大層なことじゃあない。また女神に呼ばれたわけでもなけりゃ、シリアスなもんでもない。

 

 いや訂正、多少は真面目だ。何も年がら年中騒いでるわけじゃない。精々九割だ。

 

 だが少なくとも、俺にとっては大事な記憶だ。

 

 何より愛し、奪われるのを嫌った……平穏な時の思い出。

 

「お、やーっぱしここにいたか」

「……あ、シュウジ」

 

 あれは中学一年の時のことだった。

 

 雪が深々と降り積もる冬のとある日、いつもの公園でポツンとベンチに座っていたハジメに声をかける。

 

 手に持っていた傘を少し傾け、こちらを振り返ったハジメの顔には……憔悴した様子と赤い痕があった。

 

 服も部屋にいる時の変T(俺作)にゴム紐のズボン、その上からコートを羽織っただけで、飛び出してきたのが一目でわかる。

 

「よくここがわかったね」

「お前が何か悩んでる時は絶対ここだろ? もう何年もこの公園にゃ世話になってるしな」

 

 丘の上から見渡す公園は、一面の雪景色。

 

 白一色に染まった野原はいっそ息を飲むほど美しくて、きっと明日には子供たちの遊び場になるんだろう。

 

「あはは、それもそうだね」

「おう。だから先に言っとくと、お前が座ってるとこにこの前からし味噌つけた」

「いや何やってくれてんの!?」

「うっそぴょーん!」

「このっ……!」

 

 いつもの調子でツッコミを入れようと立ち上がったハジメの胸に、ビニール袋を押し付ける。

 

 やや重たいそれに、反射的に両手で支えたハジメはたたらをを踏んだ。俺は腕を突き出したままに笑う。

 

「あんまん。ついさっきそこのコンビニで買い占めてきたぜ?」

「……僕の好物だね」

「ついでに俺の好物だ。なんでコンビニのって美味えんだろうな?」

 

 そう返せば、ハジメはキレツッコミしようとしていたのに、呆れたように笑った。

 

 ハジメが差していた傘以外の場所は雪が積もり、ケツが冷やした桃みたいになりそうなので背中合わせに座る。

 

「うわ、ほんとにめっちゃ入ってる……買い占めって冗談じゃなかったのか」

「あ、480円ね」

「お金取るんかい!?」

「幸福には……犠牲がつきものなのだよ……」

「だいぶ押し付けがましい幸福だよ……まあもらうけどさ」

 

 ぶつくさ言いながらもあんまんを取り出し、頬張るハジメ。

 

 俺も一個取り出して食う。うん、いいねこの甘さ。この天気の中だから余計にあったかいものは美味く感じる。

 

 ついでにエボルトには、レンチンたこ焼き買って帰ってやろう。きっと飛び跳ねて喜ぶぞぉ(ゲス顔)

 

「んで、今日はどしたよ?こんな時間に外まで出ちゃってさ」

「はぐ……ん、ちょっとね」

 

 さて皆さん、ここで問題です。この場合のハジメの言う「ちょっと」とは何を指しているでしょうか。

 

 当てた人にはあんまんを包んでいたゴミを進呈します。不正解だった場合には雪だるまの中身になってもらいます(理不尽)

 

「ははぁん、さては美空と喧嘩したな?」

「んぐっ……なんでわかるのさ」

 

 あんまんを喉に詰まらせたハジメに黄色いコーヒー缶を差し出しつつ、んーと考えるフリをして答える。

 

「いやまあ、家が隣だから普通に聞こえるよねっていう」

「最初からわかってるんじゃん……なんで聞いたし」

「様式美?」

「いつもながらほんとふざけてるね?殴っていい?」

「おっと、体は鋼だぞ」

「ア◯ムじゃないんだから……」

「いやド◯えも◯」

「足引っこ抜くぞ無駄長身イケメン」

「いや怖い、いつもながら怖いよハジメん」

 

 確かに、中学生の時すでに10センチ以上は違ったけどネ。時々足に視線(殺意)を感じていた……(震える声)

 

 まあ俺とハジメの今も続く身長格差問題はともかくとして、美空との何事かを当てられてハジメは苦笑いしている。

 

「僕がやらかしちゃってね……だいぶ怒らせちゃった」

「漫画ばりの紅葉ついてたら一目瞭然さ。相当ご立腹の様子だな」

「うん……だからほとぼりが覚めるまでここにいようかなってさ」

「文字通り頭を冷やすってか?けどまあ、仲直りできる程度の喧嘩ならいいべ。十分仲がいい証拠だ」

 

 うん、我ながら名言。

 

 後で仲直りができると確信できている喧嘩は、それだけで深い絆があるとである。つまりハジメと美空は仲良しだ。

 

 だというのに、なぜにハジメの顔はどんどん渋くなっていくのでしょう。チベスナ顔になってるよ?

 

「……八重樫さんの告白待ちから散々逃げまくってるお前に言われても、いまいち説得力ないんだけど」

「ハジメ、お前いつからゲイボルグ使えるようになったの?」

 

 親友がいつの間にか一撃必殺を身につけていた件について。

 

 いや、ツッコミと関節技はよくかけてくるけどね? 誰だハジメに寝技を教えたやつ出てこい(俺です)

 

「誤魔化すな。そろそろ八重樫さん泣くよ?」

「おいおい、俺はいつも自分に正直に、清廉潔白な生き方をしてるぜ?なんなら新品の白いTシャツみたいにな」

「ほお?なら八重樫さんに一言一句同じようにメールしていいんだな?」

「待って待って待って、なんで連絡先交換してるん?」

「そりゃしてるさ。八重樫さんが何年お前にアタックしてると思ってるの?」

 

 ぐ、と息が詰まる。

 

 そう。この頃の俺はイケイケドンドンで猛アタックを仕掛けてくる雫に対し、なんとも曖昧な対応をしていた。

 

 イベントごとには必ず一緒、なんなら週末は大体うちか、あっちの家に入り浸っているような状態。

 

 天之河みたいなハッピーな思考はしてないので、小学生の時点で既に雫の感情には気がついていた。

 

 だが俺は、中学生になってより積極化したあいつの気持ちに、目を背けていたのだ。

 

「早く答えないと、僕は八重樫さんにイエスと返すことにするよ」

「ねえ待って、マジで待って? え、何にイエスなの? 八重ちゃんと何を話してんの?」

「さあね〜」

 

 くっ、愉悦顔しやがって……うちの可愛いハジメをこんな風に育てやがったのはどこのどいつだ!(俺です)

 

 携帯を片手にスタンバイしている裏切り者に、俺は諦めのため息を吐くとハジメの背中に体を預ける。

 

「……逃げてるってわけじゃないさ。ただ迷ってんだよ」

「よかった。この期に及んでまだ逃げ道があるなんて素敵な勘違いはしてなかったんだね」

「毒を吐くのはこの口か?えぇ?」

「もがっ!?」

 

 言葉のナイフを飛ばしてくるハジメの口に新しいあんまんを詰め込んでやる。思えばこの頃から毒舌だったな。

 

 別に俺だってわかっていた。当時すでに家族は雫を完全ロックオンしてたし、妹に至っては義姉呼びしてた。

 

 極め付けは、雫んちのNINJAどもに気に入られたことだろう。俺の力は八重樫家にとって有用と思われたらしい。

 

「んぐ……ごくっ。それで?w何を悩んでるのさ?」

「本当の俺を知られること、かな。八重ちゃんはそれを求めてるけど……俺はそれが堪らなく怖くて、足踏みしてるのさ」

 

 このおちゃらけた仮面の中に隠された、俺の本性。

 

 人は誰しも二面性を持つという。そして隠された裏の部分に踏み込まれるほど、恐怖を抱くと。

 

 俺の本性は、冷徹で、手段を選ばず、大切な相手には後悔をさせる生き方をしてしまう、そんなもの。

 

 その本性を露わにするのを……それをあえて知ろうとしてくれる、強く、美しい彼女を、俺は恐れていた。

 

「きっと受け入れたとして、俺は八重ちゃんを……雫を傷付ける。それは嫌なんだよ」

「傷付ける……?」

 

 疑わしそうな顔をするハジメ。

 

 この時のハジメは、「本人の前じゃ名前呼べないようなヘタレが何言ってんだ?」と思ってたらしい(涙)

 

 まあぶっちゃけ、こんなこと言いながらも当時の時点で雫にベタ惚れだったので、無意味な悩みだったと断言しておく。

 

「ほら、お前とか美空は知ってる上でこうやって付き合ってくれてるしいいだろ? でも……」

「それが恋人になると、勝手が違うって言いたいの?」

「そゆこと。お前らとは別の意味で、そこまで関係が深くなると……失った時に怖い」

 

 こんな男をここまで好いてくれる女は、きっとこの先一生現れないだろう。

 

 そう思えるほどに雫は小さい頃からいい女だった。だからこそ彼女との関係が変わると考えただけで怖かった。

 

 お前はどう思う?と、生まれた時に病院のベッドで隣同士になって以来の大親友にアドバイスを求めてみる。

 

「……馬鹿じゃないの?」

「うわひっど!ハジメんが脅すから話したのに〜」

「ちょ、体重かけないで重い……いやでも、聞いててアホらしいよ。というか、らしくなさすぎる」

「らしくない?」

 

 そんなこと考えても仕方ないとかじゃなくて、らしくないと言われたことで意表をつかれた。

 

 首を捻ってハジメの方を見ると、ちょうどこちらをチベスナ目で見ていたハジメは話し出す。

 

「僕の知ってるシュウジは、そんなふうに縮こまってるやつだった?もっと理不尽で、最後は相手も笑っちゃうようなやつだったはずだ」

「おいおいハジメさんよ、俺のことどう思っちゃってるわけ?」

「少なくとも今は、腑抜けって思ってるかな」

 

 容赦のない罵倒に、しかし俺は一切の反論の言葉がないことを自覚している。

 

 その時の俺は、ハジメの言う通り。

 

 ただ一歩だけ踏み出すことを、どうしようもなく躊躇していたのだ。

 

「お前は僕が知る中で、一番すごいやつだ。なんでもできて、そのくせ誰とでも仲良くできる」

「貶したり褒めたり……何、ハジメさんもしかしてツンデレだったの?」

「そうかもね。美空やシュウジはよく僕のことを優しいなんていうけど、僕自身からすればものぐさなだけだ。だからお前のことを尊敬してる」

 

 だけど、とハジメは目を鋭くして。

 

「今のお前は、全然尊敬できない。子供みたいに怖いから嫌だなんて弱音吐いてるのは、僕の知ってるシュウジじゃない」

「子供みたいねぇ」

「それにさ、結局傷付けるかもしれないなんていうのはお前の心配だろ?本当にそうなるかはわからないじゃないか……うん、わからないって」

「ハジメ?」

 

 突然声音が変わって、何事かと空を見上げていた視線を戻す。

 

 すると、なんかハジメの顔は青くなっていた。今更寒くなってきたとかじゃあなさそうだ。

 

「そうだよ、八重樫さんが傷付くわけない……海の底のような瞳……シュウジの味の好みを答えるまで延々と繰り返される質問……そして僕の意識は暗闇の中へ……」

「おーいハジメ?寒すぎて頭フリーズした?」

「ハッ!?」

 

 おおっ、頬ペチペチしてたら正気に戻った。一体どしたんこいつ?

 

「大丈夫?おっぱい揉む?」

「なんでお前の胸筋触らないといけないんだ……とにかく、始まってもいない関係の先を怖がってても仕方がないと僕は思うけど」

「始まってもいない、か……」

「それにさ」

 

 また悩み出そうとした俺にそうさせないように、ハジメは。

 

「何かあっても、シュウジならいくらでも跳ね除けられるだろ?」

 

 そう言って笑う顔からは、俺への信頼が伝わってきた。

 

 ハジメは昔から、いつでもそうだった。真っ先に俺が思い悩めば勘付いて、他の誰より一番に信じてくれる。

 

 変な方向に行きそうになれば、この時や……自ら死のうとしたあの時だって真正面から受け止めてくれた。

 

 この優しさが……裏でコソコソとすることしかできない俺には到底真似できない強さが、今の俺を作ったんだ。

 

「まあ、もしまた悩んだ時があれば……」

「あれば?」

「えいっ」

「んむぐっ」

 

 口の中にあんまんを突っ込まれる。ハジメは悪戯げに笑っていた。

 

「その時は、今度は僕があんまん買ってあげるよ」

「……んぐ。なははっ、覚えとくわ」

 

 笑い合って、俺が手に持っている最後の一つを、口をつけた部分とそれ以外の半分で分けてハジメに渡す。

 

 ハジメはそれを受け取り、二人でもぐもぐとあんまんを食べた。この気温ですっかり冷たくなってるな。

 

「そういやいつの間にか俺の方が相談してて忘れてたけどさ、お前なんで美空と喧嘩したの?」

「……父さんと一緒に徹夜でデバック作業してて、糖分補給に冷蔵庫の中漁った時に美空のプリン食べた」

「あー、あの限定品のやつな。そりゃ怒るわな」

「あとお前のチョコミント餅も食べた」

「殴り合おうぜハジメ……久しぶりに、キレちまったよ」

 

 その後、ハジメは美空に三つプリンを買うことで機嫌を直してもらい。

 

 ハジメの言葉で勇気をもらった俺は、その一週間後のクリスマスに雫と恋人になった。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーおい、船漕いでんじゃねえ」

「ハッ!?」

 

 目を開けると、そこには呆れ笑いを浮かべたハジメ。

 

 そこでようやく、俺は夢を見ていたことを自覚した。

 

 まるで現実のような夢だった。ハジメの声で目覚めなければ、おそらくそのままガチ寝していただろう。

 

「いやーすまんすまん、ちょいと暇すぎて眠くなっちまった」

「そりゃ、もう十五戦目だからな。神経衰弱じゃなくてポーカーにするか?」

「んー、そうすっか」

 

 遊び相手兼監視役のハジメは、広げていたトランプを集めてシャッフルし始める。

 

 その様子を、俺はふと無言で眺めた。

 

 白い髪に眼帯、随分と大きくなった背丈。記憶の中の一見気弱そうなハジメとは、似ても似つかない。

 

 だがそれでも、こいつは根っこのとこでは何も変わってない。そうどこか確信できる気持ちがあった。

 

「ははっ」

「あん?いきなり笑い出してどうした?」

「いやいや、なんでもねえ。それより次勝った方が王宮の厨房に忍び込んで、お菓子盗んでくるのはどうよ?」

「いいぜ、乗った」

 

 不敵に笑ったハジメと、俺はまたゲームを始めるのだった。

 

 

 

 




さて、奴らが帰ってくるのか……

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