星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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友人と話した結果、シュウジの声は杉田になりました。

奴らが帰ってくる。

楽しんでいただけると嬉しいです。


【第7章】帝国
帰ってきたプ◯デター


 頬を撫でる風。

 

 

 

 照りつける太陽。

 

 

 

 そしてそれらを取り巻く、澄み渡る青空。

 

 

 

 全てが完璧に組み合わさったそれは、まるで一つの黄金比のようで。

 

 

 

 それは実に──

 

 

 

「んん〜……ねみぃ」

 

 実に、格好の日光浴日和だった。

 

 遮蔽物一切なし、この世界のどんなものより一番近くで直射日光を浴びる今の俺の体はビタミン増し増しだ。

 

 片手にはパイナップルモドキジュース、地上数百メートルの雲海。二つ並んだビーチチェアの右側には最愛の彼女。

 

 実に充実した環境。毒も体から抜けて、実に気分が良い昼下がりだ。

 

『主に頑張ったの俺だけどな』

 

 お前が体内で解毒してた時、ハジメと踊り食い対決してたからね。

 

『安静にしろよ(至極まともな正論)』

 

 嫌だね、踊る。(愉悦顔)

 

「こうも快適だと気が抜けるねぇ」

「おかしいわ……何がおかしいって、この状況を受け入れていることが一番おかしいわ」

 

 おや、どうやら雫さんにはお気に召さないらしい。服装はバリバリ日光浴スタイルだけど。

 

「まあまあ、しばらくゆっくりとしようぜ……帝国に一度着くまでは空の旅をエンジョイだ」

 

 ハイリヒ王国での魔人族による侵攻から、い週間と少し。

 

 現在俺たちは、飛空挺アーティファクト〝フェルニル〟を使ってヘルシャー帝国への空路を旅していた。

 

 直径120メートルにもなるこの飛空挺は、俺とハジメの全力のロマンとふざけと利便性を詰め込んだ素敵マシンである。

 

 ぶっちゃけ移動だけなら飛行できるフィーラーでもよかったんだけど、軒並み姫さんの護衛が腰を抜かした。

 

 なお、俺とハジメが魔力と重力魔法、生成魔法を使って操作する。可能とするには結構な練習を積んだ。

 

『運転手の決め方がアレな点を除けば完璧だったな』

 

 ばっかお前、どっちが操縦するかは伝説の儀式(にらめっこ)で決めただろうが。

 

『伝説の儀式とは(真顔)』

 

 俺がルールだ。

 

『Reset』

 

 おいやめろせっかくの雫との時間が消えて無くなる。

 

「まあ、わざわざ馬車で2ヶ月かけていくよりは遥かにマシだけどね……」

「そゆこと。これなら無駄なイベントにも巻き込まれないし」

 

『メタいよ』

 

 だって絶対何か起きるじゃん。山賊とか野盗とか盗賊とか。

 

『山賊焼きって美味いよな』

 

 そーそー、コンビニの惣菜は最高のジャンクフード……って違うそっちじゃない。

 

「あ、ここにいたのか」

「あん?」

 

 だが、そこに俺の気分を著しく悪くする要因が入り込んできた。

 

 ハッチを開けて顔を出したのは、ここ最近の奇行っぷりの酷さが当社比ナンバーワンの勇者(元)くん。

 

 なんか気持ち悪くない代わりに、薄気味悪い邪気の無さを纏った奴はハッチを閉めると俺たちに近づいてくる。

 

「よし雫、ブリッジに行こう。そんでこの部分はそこで光ってる変なのごと機体から切り離そう」

「ちょっ!」

「冗談よ、冗談。そうでしょ?」

「……ウン、ソウダヨ」

 

『めっちゃ片言じゃねえか』

 

 雫がいなければ蹴り落としていたものを……

 

『悪意たっぷりかよ』

 

「で、何の用だよ。この前は本調子じゃなかったからなあなあで済ませたが、俺はお前と関わりたくない」

 

 天之なんちゃらに向かって視線の一つもよこさず、殺意すら込めた口調でそう言い放つ。

 

 久しぶりに見たら随分とメタモルフォーゼしてたが、それでも俺がこいつを心底嫌いなのは変わりない。

 

 それは、頭に綿菓子詰まってるんじゃないかと思うような甘っちょろい思想への嫌悪だけではなくて……

 

「わかってる。ただ、中にいるのもいたたまれなくてな……」

「何かあったの?」

「いや、こう……胸焼けがしそうで」

 

 その一言で、反吐が出るほど嫌だが中で何が起こっているのか察した。

 

 多分いつも通りハジメがユエたちとイチャついてんだろう。そこに美空と香織の百合の花も添えて。

 

 あとは坂みんと谷ちゃんあたりか? 今ならシアさんの飯食ってる頃だろうけど、ピュアっピュアなラブコメしてるし。

 

「そういう訳だ。別に近づいたりしない」

「そうか、なら絶対話しかけるなよ」

「わかってる。結構広いし、あっちにいるよ」

 

 機体が大きい分、このスペースもそれなりに……ビーチチェアを並べで置けるくらいの広さはある。

 

 そして勇者(元)は自ら端っこの方に行った。後に残ったのはさっきと同じように、俺と雫だけである。

 

「ちょっとツンケンしすぎじゃないの?」

「これでいーのよ、これで。俺はあいつを蔑んで、あいつは俺に干渉しない。それで丁度いいんだ」

 

 そう言いながら、自分の言葉がとても言い訳がましく聞こえた。

 

 天之河光輝を遠ざける理由。それは以前となんら変わりないが、一つだけ新たに生まれたものがある。

 

 今でこそハジメたちを地球に返すという、初志貫徹を貫き通すと決めた俺だが、少し前までこの心は空っぽだった。

 

 だからだろうか。祖父の教えを盲信し、穴だらけの理論を振りかざしていた奴を見ると妙に複雑な気持ちになる。

 

 しかも奴は、なんかド◯えもんのきこ◯の◯に落としたんじゃないかという豹変をして目的を見つけていた。

 

「俺は反吐が出る悪道を貫き、あいつは絵本に出てくるような正道を目指すとのたまった。それがどうも落ち着かん」

「ふふっ」

「え、なんか面白いポイントありました?」

「いえ……ただね。シューも男の子らしくなってきたなあって」

「ええ……どゆことですか雫さん」

 

 ワケワカメ状態の俺に、雫はくすりと笑った。

 

 

 

 

 

「要するにあなた、光輝が羨ましいんでしょ」

「…………………………はい?」

 

 

 

 

 

 ……え、待ってわかんない。我が最愛の人は何を仰っているのだろうか。

 

「あなたはカインさんの記憶を持っているから、既にそのやり方の苦しさや理論の重さを理解してる。だからこそ何も気にせず、がむしゃらに前に進もうとしている光輝を羨んでる。違うかしら?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや、ないないないないないって、それだけはないから!」

『まっ、要約すればそういうことだよなぁ』

「エボルト!?」

 

 こいつまで肯定しやがるのか!?

 

 俺があの勇者(笑)を羨ましく思ってる? いくらこいつらが相手といえど、断固反対させてもらうぞ。

 

「雫、お前はいつも俺のことを支えてくれてるし、間違ったことを考えてりゃ正してくれた。本当に感謝してる」

「あら、ありがとう。恋人として鼻が高いわ」

「だがな、その言葉だけは看過できねえぜ?俺があいつを羨ましいだって? そんなの太陽が真下に落ちるくらいありえないね」

 

 俺があいつに抱いているのは軽蔑と同族嫌悪、それだけだ。これっぽっちも別の感情なんて介在する余地がない。

 

 確かに、この前はなんか色々とイケメンみたいなこと言ってて驚きはしたが。なんなら自分の正気を疑ったが。

 

「そもそも俺とあいつは正反対、互いに振り返ることなんざない。だったら……」

「だったら、なんでそんなに必死に否定してるの?」

 

 被せるような言葉。

 

 思いもよらないその指摘に、何故か言葉が止まってしまった。いつの間にかムキにってた自覚があるからだろうか。

 

「シュー。好きの反対は無関心なのよ。そして以前のあなたは、どこまでも光輝に価値を見出してなかった。なのに今はこれでもかと悪口を言って、遠ざけてる。それはどうして?」

「それ、は……」

 

 ただ近くにいると無性に腹が立つからだ、と答えようとした。

 

 そしてその言葉が、ある意味雫の言葉を肯定する意味を孕んでいることに、遅ればせながら気がつく。

 

「ね?」

「…………別に羨ましくなんてないし。俺の方が強いし」

 

 結局返せたのは、そんなわけのわからん言葉だった。

 

「ふふ、拗ねちゃって」

「拗ねてないですー」

 

 ニコニコ顔で頭を撫でる雫に唇を尖らせるのが、自分でもわかった。

 

『少なくとも、ボケる余裕はなさそうだな』

「なあエボルト、お前ってどれくらい高いとこからなら、擬態の状態でも落ちて平気なんだろうな?」

「ちょっやめ、ア────ッ!」

 

 体の中からエボルトを追い出して手すりの外にポイ(八つ当たり)しかけていると、不意にフェルニルが揺れる。

 

 驚いて床から魔力の巡りを確認する。そうすると、機体の進路が変更を始めていた。

 

 携帯を取り出して、ブリッジにいるはずのハジメに電話をかける。数コールの後に通話が繋がった。

 

「モスモスハジメ、何かあったのか?」

『ああ、ちょっと来てくれ』

「おけ。雫、召集だ」

「わかったわ。光輝ー!集合よー!」

 

 端っこの方で黄昏てた勇者(元)に叫ぶ雫。律儀なことで。

 

 ビーチチェアやその他もろもろを異空間の中に放り込み、さっさとハッチを開けて中に入る。あいつは知らん。

 

「北野シュウジ、重役出勤でーす」

「来たか」

 

 ブリッジに入ると、そこにはすでにみなさん揃い踏みだった。

 

 全員〝遠見石〟と〝遠透石〟を生成魔法で付加した水晶の周りにおり、そこに移る映像を見ている。

 

 雫と顔を見合わせ、そちらに行く。

 

「あれ?これ兎人族じゃね?」

「うん、どうやら帝国兵に追っかけられてるみたい」

 

 美空の補足に、もう一回映像に目を移す。

 

 峡谷の狭い合間を走る二人のウサミミねーちゃん、そして追いかける帝国兵たち。リアル鬼ごっこだ。

 

 映像に移る帝国兵たちのはるか後方には、大型の輸送馬車らしきもの。見たとこ、逃したか新しく見つけたってとこか。

 

「で、これを見て進路変更したわけね」

「そうだ。シアがいる手前、ちょっと気になってな」

「不味いじゃないか!すぐに助けに行かないと!」

「耳元でうるせぇ」

 

 後ろで叫ぶ勇者にノールックでエルボーを入れる。「ゲフッ」と言って崩れ落ちる勇者。

 

 慌てて白っちゃんが治療を始めるのを傍目に、俺は隣にいるハジメの険しい横顔に何かを感じ取った。

 

 三度、映像に目を落とす。そこにはあいも変わらず、帝国兵に追っかけられてる見事なドレッドヘアーのウサミミ……

 

「あっ」

「お前も気づいたか」

 

 ハジメの言葉に、俺はなんでこの様子を見ているだけなのかをようやく察した。

 

 シアさんを見れば、うちの中で比較的優しい方の彼女が無言で……というかこっちを睨みつけてますね、はい。

 

「これ、絶対ラナさんとミナさんです……どっかの鬼畜眼鏡のせいであんな髪型に……」

「ちょっと?眼鏡キャラはカインだからね?俺は寝てただけだからね?」

「もし髪型の一つでも違えば、俺も少し悩んだが……動きが明らかに素人じゃないからな」

 

 俺含めて全員髪型で把握してて草。まあオアシスの民であるアンカジですらあの髪型の人いなかったからね。

 

「ごほっ、いきなり鳩尾に肘はないだろ……」

「うっさい無駄ピカ勇者。で、どうすんのこれ?」

「この表情、迷いのない動き……ふむ」

 

 復活した勇者くんの訴えを軽やかにスルーして、映像を中止する俺とハジメ。

 

 そうこうしているうちに、水晶の中でウサミミねーちゃんたちが倒れこむように足を止めた。

 

 いっそ鮮やかなほどのピンチ到来に、しかし谷間の少し開けたその場所に俺たちは目を細めた。

 

「お、おい、助けなきゃこの人たちが……」

「大丈夫よ、光輝」

「雫……」

 

 また喚こうとした勇者を諌め、俺の方に手をのせる雫。

 

 映像から視線を外し、そちらを見ると、彼女は信頼しきった目で俺を見上げた。

 

「そうでしょ、シュウジ」

「そりゃモチのロンさ。なんたって……」

 

 ニヤリと笑い、後ろで回されているだろう映像を想像して。

 

 

 

 

 

「あれはプレデ……ごめん間違えた、〝ハウリア〟だからな」

 

 

 

 

 

 やっべ、素で間違えた。

 

『侵食されてんじゃねえか』

 

 最高にキメるはずだったセリフを外し、いそいそと苦笑いする雫の目線から逃げる。

 

「あっ!」

 

 不意に美空が息を飲んだ。

 

 その視線の先は、俺と同じく水晶に向けられていて……そこに映り込む帝国兵の死体に口元を覆っていた。

 

 頭を何かで吹っ飛ばされ、あるいはバラバラ死体になった帝国兵たち。ハウリアを知らないギャラリーの目が点になる。

 

 そうこうしているうちに、先行の足音が途絶えたことを訝しみ、数人の斥候が後続から放たれる。

 

 そして仲間の死体の山を見つけ、そばで震えてるウサミミねーちゃんたちに何か恫喝しながら近寄り……

 

「わっ!?」

 

 その瞬間、突如として爆散した斥候の頭にまた誰かが声をあげた。

 

 まるでトイレットペーパーが切れていることに気づいた時のように固まった斥候たちに、更なる死の手は迫る。

 

 震えてたウサミミねーちゃんたちが突然、腕につけていたガントレットから二本のブレイドを展開。

 

 それであっという間に一番近い斥候の首をすっ飛ばし、もう一人がその生首を蹴り飛ばして隣のやつの頭を潰す。

 

 あっという間に三つの死体の出来上がりだ。

 

「うっ」

「ここで吐くくらいならさっさと外かトイレに行け」

「わ、わかってる……」

 

 ったく、なんで俺がこいつに注意しなきゃならんのだ。この程度で気分悪くなるとか、いざ戦争が始まったら真っ先に死ぬだろ。

 

「こ、これは本当に兎人族なのですか……?」

「そんな目で見ないでくださいリリィさん……全部そこの鬼畜が悪いんですぅ……」

 

 一斉にこっちに視線が集中する。その目には「ああ、またこの人か?」と書かれていた。

 

「訓練したのは俺じゃなくて俺の裏に隠れてた人格の方だから。つまり俺は悪くない」

「こういう時だけしらばっくれてるんじゃないですぅ!」

「おごごごご……」

 

 俺がシアさんに締め上げられている間にも、視界の端っこで戦況は動いていた。

 

 全く帰ってこない仲間に訝しんだ連中は、全員まとめて行軍し、所狭しと並んだ仲間の死体を見つけて動揺する。

 

 捕食者たちはその隙を見逃さない。

 

 左右の崖から特徴的な鎧を纏った五人の仮面ウサミミたちが飛び出して、流水のように帝国兵を蹂躙した。

 

 あるものはその肩に取り付けられたキャノン砲で吹っ飛び、またあるものは手裏剣のごとく投げられたディスクに細切れにされ。

 

 しかも空間に溶けるように消えるウサミミ(プレデター)に、帝国兵たちは迂闊に動くこともできずに。

 

 馬車の中に隠れていた最後の一人の首をスティック状の槍で掲げ、ものの数分で部隊は壊滅したのだった。

 

「こ、これが兎人族だというのか……」

「マジかよ……」

「うさぎコワイ……」

 

 近くでそんな声が聞こえる。俺?襟首掴まれて首締まってるんでシアさんの腕にタップしてます。

 

「前よりも動きが鋭いな……なかなかやるじゃねえの」

「……ん、相変わらず強烈」

「結構、強いね」

「もう……何がきても驚かないし」

「シアさんもだけど、兎人族の人ってみんな強いんだね……」

「あれは痛そうなのじゃ……ご主人様、持っとらんかの?」

「なんならフェルニルの先端にひん剥いてくくりつけてやろうか?」

「龍っち、鈴これから兎人族のこと兎様って呼ぶことにするよ」

「戻ってこい谷口!」

 

 各々が反応する中で、チラリと映像を見たシアさんはそれはそれは綺麗な笑顔で、体が宙に浮いた俺を見て。

 

「何か言いうことはありますかぁ?」

「…………みんな頑張ってるネ」

「ふんぬっ!」

 

 俺が天井のオブジェになったのは、それから0.5秒後のことだった。




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