前書きのあのノリ、復活させるかなぁ。
楽しんでいただけると嬉しいです。
フェルニルを降下させると、奴らはすぐに気がついた。
一瞬警戒こそしたものの、こんなもので空を飛んでくるのはこの世界で俺たちだけだとわかったのだろう。
谷間に着陸させ、中から降りた頃にはすっかり全員揃って整列し、仮面を脇に抱えて敬礼をしていた。
その後ろには百は降らない数の亜人族がいた。おそらくあの馬車の中にいた、連れ去られた奴らだろう。
皆女子供ばかりで、兎人族以外にも狐人族や犬人族、猫人族、森人族だ。
「ボス!再びお会いできる日を心待ちにしておりました!まさか、このようなものに乗って登場するとは改めて感服致しましたっ!」
「おう。俺の方こそこんなところでお前らに会うとは思ってなかったが……なかなか腕を上げたじゃねえの」
そう言ってやると、プレデターハウリアどもは全員めを見開き、それからグッと涙を堪えるように上を向いた。
「「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」」
そして谷間に響き渡る、訓練された返答の言葉。
俺や後ろのユエたちに警戒の目線を向けていた亜人族たちも、ついでに姫さんたちも唖然とした。
後ろからヒシヒシとドン引きする美空や香織の視線を感じていると、ポンと肩を叩かれる。
「中々の仕上がり具合だねえ。もう軍人レベルだ」
「シュウジ」
「誰のせいですか、誰の」
ジッと睨みつけるシアの目線から逃げるシュウジは、敬礼をしてる奴らのうち、子供のやつに歩み寄る。
「センセイ!ご無沙汰しておりますっ!」
「うんまあ、正確には俺じゃないけどね。元気そうじゃんパル君」
「せ、センセイ……」
なんとも複雑そうな苦笑いを浮かべたあいつがパルとか言った子供の頭を、ごく自然に撫でた。
そのままワシワシと優しくなでつけると、プレデターじみた凛々しい顔は何処へやら、パルは頬を赤らめ口元を緩ませる。
「あーいうとこ、昔からかわってないよね」
「ええ、地球にいた頃もよく子供に懐かれていたわ」
「何かとガキには甘いからな、あいつ」
以前も言っていたように、あいつにとって子供とは最も純粋なもの、何より守るべき人間。
あの時と意味合いは違えど、しかしすでにカインの記憶によって様々なことを知っているあいつには大切なのだろう。
「で、こんな場所でどしたよ。パル君も、他のみんなも帝国兵なんかコロコロしちゃってさ」
「はっ。ですがセンセイ、報告の前に一つだけよろしいでしょうか」
「ん、なになに?」
いつもより幾分か優しい顔で聞いたシュウジに、キリッと顔を戻したパルは。
「今の俺の名前は、〝必滅のバルトフェルド〟です。そこんとこよろしくお願いしやすぜ」
「えーそういう方に振り切っちゃったのー?」
隣でシアがグリグリとこめかみを押さえた。美空さんそんな呆れた顔で見ないで、俺のせいじゃない。
「てことは……」
「はい、私は〝疾影のラナインフェリナ〟です」
「私は、〝空裂のミナステリア〟!」
「俺は、〝幻武のヤオゼリアス〟!」
「僕は、〝這斬のヨルガンダル〟!」
「ふっ、〝霧雨のリキッドブレイク〟だ」
「これはもうダメかもわからんね」
ついに思考を放棄したようだった。俺も女性陣からの呆れを多分に含んだ目に居心地が悪くて仕方ない。
シアに至っては、ジョ○ョ的な凄まじい体幹を使ったポーズをとるプレデターハウリアどもにエクトプラズムを吐いている。
「どうしてこんなことに……どっから出てくるんですかその捻ったネーミングセンス……」
「……シア、お前愛用の調理器具の名前なんだっけ?」
「え?お玉のタマーティアウスと菜箸のサイヴァシュルスタがどうかしましたか?」
「血筋じゃねえかなぁ」
俺たちと一緒にいて、特に汚染されてないはずのシアでもこの有様。きっとハウリア族そのものに素質があったんだろう。
遠い目をして現実逃避するのもそこそこに、とりあえず亜人族たちをどうにかするため声を張り上げた。
「あー、なんだ。別にお前らを捕まえようだなんて考えてない。それと、この中に誰かまとめ役みたいなやつはいるか?」
「でしたら、私が」
そう言って進み出てきたのは、耳の尖った金髪の女だった。森人族だろうそいつは、どこかアルフレリックの面影がある。
異世界のテンプレのように美しい外見をしたその女もまた、両手と両足に無骨な枷がはめられていた。
「あなた方は、南雲ハジメ殿と北野シュウジ殿でよろしいですね?」
「そうだ」
「以後お見知り置きを、レディ」
俺が簡潔に答え、シュウジが芝居掛かった仕草で礼をすると、森人族の女はホッとしたように胸をなでおろす。
その拍子にカシャリと擦れた枷に思わず目が行くと、顔を上げたシュウジが突然その手を取った。
「え、あの……」
「ちょいと動くなよ、お嬢さん」
シュウジの指先に紫色の魔法陣が現れ、それで鎖で繋がれた手枷と足枷に触れる。
鉄枷の表面に幾何学模様のような模様が浮かび上がり、次の瞬間どちらとも外れて地面に落ちた。
「か、枷が……!」
「あとは首輪を外して、っと」
「あの……何故このような」
「あいにくと、女の子に恥をかかせたまま話をさせるほど野暮じゃないんでね」
実にイケメンな笑顔を浮かべるシュウジ。枷を外された女は目を見開き、ぽっと頬を染める。
案の定というか、香織や美空以外のユエたちの目が珍獣を見るものになった。ま、普段あれだけ馬鹿騒ぎしてたらな。
「……あれ、狙ってる?」
「いや、普通に素だ。元々はああいうやつなんだよ。俺たちの前ではっちゃけてるだけで」
この世界に来てからネタキャラムーブが増えたが、本来のあいつの外面の良さは度肝を抜かれる。
万人に好かれる人間などいないというのはよく聞くが、あいつの人心掌握術は大したもので、実際俺も助けられてきた。
あいつが緩衝材になってくれてたおかげで、教室で香織に絡まれても女子連中の目はそんなにキツくなかったのだ。
「ただ、それに対してボケてる時の差が酷い」
「……納得」
「ほんと、ぱっと見た時だけはイケメンだし。パッと見た時だけは」
「ハジメくんも美空も酷いよ!」
ほんと、なんでああなんだか……それだけ俺たちに気を許しているってことなら、悪い気はしないが。
「でも、しゅーちんがモテてるってのは、鈴あんまり聞いたことないなぁ」
「まあ、普段から南雲と一緒だったしな。光輝はよくぶっ飛ばされてたしよ」
「龍太郎、あんまりからかわないでくれ」
げんなりとする天之河、カラカラと笑う坂口。
あいつがあの見た目と外面の良さがあるのにモテない理由、ね……
「さて、話を続けようか」
「は、はい……あなた方が本当にあのお二人ならば、先ほどの言葉を信じてもよろしいですね。祖父からあなた方は、敵対的な態度や姿勢を取らない限りは良くも悪くも平等であると聞いております」
「祖父?もしかしてアルフレリックか?」
「その通りです。申し遅れましたが、わたくしはフェアベルゲン長老衆の一人、アルフレリックの孫娘アルテナ・ハイピストと申します」
やっぱりか……一族の代表の孫娘ということは、森人族の姫さんということになる。
つまりそれだけ警護も、有事の際の対策も立ててあるだろうに、こうして捕まったってことは……どうにもきな臭いな。
ちらりとパルたちを見ると、直立不動で立っていたあいつらは静かに頷く。それでなんとなく察した。
「とりあえず、全員フェルニルに乗れ。樹海に行くついでだ、乗せてってやる。お前らが指揮をしろ」
「Yes,Sir!あっ、申し訳ないんですがボス。帝都近郊に潜んでいる仲間に連絡がしたいんで、途中で離脱させて頂いてもよろしいですか?」
「ああ、それならちょうど、こっちも帝都に送る予定だった奴等がいるから、帝都から少し離れた場所で一緒に降ろしてやるよ」
「有難うございますっ!」
元気よく答えるパル。
それにしても、帝国か……ここは帝都からはかなり手前だし、おそらく帝国に行く途中じゃなくて、帰りだったんだろう。
そしてこの亜人族たちを見つけたということになる。一体何をしているのか知らんが、随分アグレッシブになったな。
「うわぁ、いろんな種族の人がいっぱいだね」
「ハイリヒ王国じゃ、他の種族への差別が厳しすぎてあんまり見たことねえからなあ」
シュウジが枷を外し、フェルニルに乗り込み始めた亜人族たちを眺めていると、坂上たちのそんな会話が聞こえる。
改めて見れば、確かに色々な亜人がいる。以前行った時はおっさんの亜人ばかりだったから、興味が薄くなってた。
ウサミミは当然、犬耳、猫耳……くっ、ケモナーの性癖が!
「……ワキワキ」
「ちょっ、ウサギさん突然耳つかまないでくださいよぉ。びっくりしますぅ」
「シアが一番、可愛い」
「もうっ、ユエさんまで!」
きゃっきゃとはしゃぐユエたち。ああ、ケモ耳への欲望が薄れていく。
そんな風に和んでいると、ふとシュウジの隣で八重樫が、何かを言いたげにしていることに気がついた。
「雫は可愛いもの好きだし、あれは結構萌えるんじゃねえの?」
「そうね……ところでシュー、私が」
「もし雫が何かに捕われたとしたら。それができるのは俺だけだ」
お前を何にも縛らせないと、そんなことがあるとすればそれは自分であると、そう言うシュウジ。
聞いてて鳥肌が立つようなキザなセリフを、なんの前触れもなくシュウジは放った。
言われた八重樫は数秒ぽかんとして、それから満足したように笑い体を寄せる。ケッ、見てて砂糖を吐きそうだ。
「鈴、口の中がざらざらするよ……」
「これでわかったろ、谷口。あいつがそんなにモテない理由」
「うん、よくわかったよ南雲くん……」
森人族の姫さんを見ると、あの二人を見てショックを受けたようなリアクションをしている。
モテるモテない以前に、アレを見たら、まともな神経をしてればとてもちょっかいをかけようとは思わない。
そう考えると、俺の周りの女はメンタル強すぎである。どいつもこいつも肉食獣並みの積極性だ。
恋愛的な意味で一番安全なのは、ただ変態行動してるだけのティオ……変態が一番マシとかどうなってんだ。
「ボス、これで全員です!」
「よし。じゃあお前たちも乗れ、出発だ」
世の中の無常さに遠い目をしているうちに、亜人族が全員フェルニルに乗った。
俺たちも乗り込み、物珍しげに船内を見ている亜人族たちを、もう一度点呼をとってからフェルニルを発進させる。
「──という経緯であります」
そして、ブリッジで行われたパルの報告に俺はふむと頷いた。
「つまり要約すると、樹海に魔人族が攻め込んできて、なんとか追い返して疲弊してるとこに帝国が仕掛けてきたわけだな?」
「はっ。そういうことです、ボス」
もう一度頭の中で整理してみよう。
まず、俺たちが一週間前相手にしたフリードたちのように、樹海も魔人族の軍勢によって責められた。
考えてみれば当たり前だ。魔人族が神代魔法を求めているのなら、それで有名な大樹を狙わない理由がない。
方向感覚を失わせる樹海の霧をものともせず進軍する魔物と魔人族に、フェアベルゲンは必死に抵抗。
その魔人族ってのが厄介な野郎で、相当に亜人族を見下し、魔人族が世界で唯一繁栄するべきとかなんとか言ってたらしい。
かなりのイカレ野郎だったらしく、亜人族を皆殺しにする勢いだったとか。だからフェアベルゲンはハウリアに助けを求めた。
で、必死に頭を下げる使者に、こいつらは国のためではなく俺たちが帰ってくるまで大樹を守るため、戦争に参加した。
そして闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ、トラップと何でもかんでも使い、追い詰め続け。
ようやく魔人族の首を落として戦いを終わらせ、戦後処理にハウリアが引っ込んだところで奴らが侵入したらしい。
「どうやら帝国の方でも魔人族の侵攻があったようでさぁ。見てわかるように、奴らの狙いは人攫い。それも目的は労働力じゃあありやせん」
「ま、戦いで疲弊した兵士たちの慰み者ってとこだろうな。あいつらはそういう奴らだ」
「なんて非道な……っ!」
ガンッと天之河が壁を殴りつける。思わず顔を顰めると、シュウジが「イヤーッ!」と奇声をあげて飛び蹴りを入れた。
蹴っ飛ばされた天之河を尻目に、片膝をついて跪いているパルに目線を戻して話を続ける。
「で、流石に見過ごせなくて追いかけたら、カムたちと連絡が取れなくなったのか」
「はい。どうやら帝都に入ったものの、連絡も取れず動けない状態のようでして」
「なるほどな……だいたいの事情はわかった。とりあえず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだな?」
「肯定です。あと、ボスには申し訳ないんですが……」
「わかってる。どうせ道中だ。捕まってたやつらは、樹海までは送り届けてやるよ」
「有難うございます!」
頭を下げるパルに、やれやれとため息を吐く。
どうやら樹海は相当な厄ネタを引いてるらしい。その第一号は、おそらく俺たちだろうがな。
「………………」
「シア、どうした?」
「……なんでもありません」
「?」
後ろでモゴモゴと何か言いたげにしているシアの様子に気がついていたが、俺は何も言わなかった。
あいつ自身が話してくるまで待とうと思いながら、俺はフェルニルの進路をしっかりと樹海に定めたのだった。