それにしても何故だ。何故シリアスになるんだ。
楽しんでいただけると嬉しいです。
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カインのイラスト。何故かスーツになった。
ハルツィナ樹海についた俺たちは、フェアベルゲンに向かって濃霧の中を進んでいた。
「相変わらず、全然前見えないなこれ」
「私は初めて来たけど、年中こうなの?」
「そうですよ雫さん。まあ、私たちみたいに亜人族じゃないのに、見えてないだけで平然と進んでるその人がおかしいんですが……」
またもシアさんからジト目が飛んできた。ここ最近当たりがキツいと思います。
『自業自得だな』
得してないんですがそれは。
「しかし、本当になんで道がわかってるんだ?正直俺でも方向感覚が狂ってるんだが……」
「瞬間移動だよ。あれの座標は、一度つけると解除しない限りは絶対に消えないんだ」
本当、便利な技能だ。
まあ元はエボルトの惑星間の運行を確実にするための力だし、それくらいじゃないと困る。
「つまり、道がわかってるわけじゃなくて、そのポイントに向かって進んでるのか」
「そゆこと……っと、何か来るな」
「武装した集団見たいですぅ」
俺は気配で、シアさんは超人的な聴力と索敵能力で近づいてくる対象を正確に言い当てる。
それに背後の亜人族たちから驚きの視線を受ける中、濃霧をかき分けて現れたのは……虎耳のむさ苦しいフレンズだった。
全員警戒して武器に手をかけているフレンズたちは、後ろの亜人族たちに驚きを示し、その後に俺たちを見る。
そのうちの一人、リーダーっぽい虎耳のおっさんに見覚えがあった。
「お前達は、あの時の……」
「お、最初に来た時にあった人じゃん。元気してた?」
「……ああ、お前の育てたハウリア達のおかげでな」
あら渋い顔。まあ前に会った時はハジメの発砲、フィーラーによる演出と散々やったからね。
まだ警戒を続けながらこちらの事情を聞いてくるおっさんに、森人族の姫さんも交えて敬意を話す。
姫さんの無事に珍妙な顔をして驚いていたものの、虎耳フレンズ達はフェアベルゲンまで案内してくれた。
そして霧を抜け、たどり着いた先にあったものは──
「うわぁ……こりゃ酷い」
「ずいぶん手酷くやられたな」
物の見事に、美しい秘密の王国の景観はおじゃんの巻になっていた。
入り口の巨大な門や、木の幹できた空中回廊、水路も全て無残な瓦礫とともに惨い姿をさらしている。
「これでもハウリア達の助力のおかげで、どうにかマシに済んだんだ」
「そりゃ育てた甲斐があったねぇ」
俺じゃなくてカインの残留思念だけど。
「それに、最近ランダ様の姿が見えなくてな。一体どこに行ってしまわれたのか……」
「っ……」
体が硬直したような錯覚を覚える。
けれどおっさんも、他の亜人族達もフェアベルゲンに帰って来れたことの方が大切なようで、誰も気が付かなかった。
亜人族達は我先にと警護隊の先導でフェアベルゲンに入っていき、そして俺たちだけがその場に残る。
雫が歩み寄ってきて、俺の肩に手を置く。
途端、体に熱が戻った気がした。
「シュー」
「……平気さ。もう戦うって、決めたんだからな」
たとえ、この命を削ってでも。
「あいつにはあいつの約束がある。俺はそれを、信念を以って超えていく。それだけの話だ」
カインの記憶に刻まれた、彼女との約束。《獣》となった今もその心を縛っているのだろう約定。
女神に見放されたことによって歪みが消え、取り戻したあの記憶は……俺が乗り越えるべき、試練だ。
「北野達は何の話をしてるんだ?」
「色々あったんだよ、光輝くん」
そうだ。あいつはカインの友としての誇りを貫こうとしている。それなら俺も、例えこの身を賭けてでも……
「ったく、何辛気臭い顔してんだ」
「おわっ!?」
突然バシンと背中を叩かれ、バランスを崩す。
慌てて踏みとどまり、後ろを振り返ると……そこには優しい微笑みを浮かべた、ハジメたちがいた。
「お前は一人じゃない。俺たちがいるってことを、忘れるな」
「……そうだったな。ありがとよ、ハジメ」
「ああ。さあ、俺たちもさっさと入るぞ」
「おう」
ハジメと互いに不敵な笑みを浮かべあい、雫の手を取ってフェアベルゲンへと入っていった。
すると、人で埋め尽くされた広場では、亜人族達が家族や恋人と仲良く抱き合って、再会を喜んでいた。
「アルテナ、お前が無事で本当に良かった……」
「お祖父様……」
その中にはアルフレリックさんもおり、俺たちが歩み寄っていくと人垣が割れた。
あちらも俺達に気がついて、姫さんを抱きしめていたアルフレリックさんは孫娘と離れる。
「よう、アルフレリックさん。どうやらあんたも元気そうだな」
「どうにか、な……まさか、このような形で再会することになろうとは。孫娘を助けられるとは思わなんだ」
「俺たちはただ送り届けただけだ。感謝するならハウリア族にしてくれ」
「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんらだろうに」
「変えたっつーか、魔改造っつーか」
なんなら全く新しい種族を作っちゃったよねっていう。あ、シアさんが拳を握りしめている。これはまずい。
「巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」
「……まあ、そこまで言うなら一応受け取ってやるよ」
若干困ったように頬をかくハジメに、思わず俺や美空達の目が微笑ましいものになっていく。
後ろで「これが、俺と南雲達の違いか……」とか言ってる勇者もいたけど俺は知りません。
その後、フェアベルゲンに常駐しているハウリア族と連絡を取るということで、アルフレリックさんの家に行くことに。
「シュウジ、お前はどうする?」
「んー……ちょいと気になる事があるから、そっちに行ってくるわ」
「それなら私も……」
「おっと、一人で行けるさ」
一歩歩み出てくれた雫を、手で制する。
立ち止まった雫はどうして?と目線で問いかけてきたが、それに応える事なく俺は帽子を脱いだ。
そしてそれを、雫に差し出す。恐る恐る受け取った彼女は、ますます困惑した様子を見せた。
「こいつを預かっててくれ。お気に入りなんだ」
「……わかったわ。本当に平気なのね?」
「ああ、少し散歩してくるだけさ」
ハジメとアイコンタクトをかわし、こちらのことを任せると一人その場から離れる。
「確か、こっちで合ってたよな」
『また独断行動だな』
「今から行くところは危険かもしれない。こういうのは俺の役目さ」
『やれやれ、困った相棒だ』
若干怪しい記憶を頼りに、目的の場所へ警戒しながら移動する。
その道中で見た家屋や回廊も、とても自然と調和した美しい景観を保っていたとは思えないほど破壊されている。
……俺たちが
だが、よもやここまでとは……やはりもう少し、魔人族の動きをコントロールする必要があるか。
「……ここだな」
やがて、その場所にたどり着く。
そこは他の住宅と同じように、木の上に作られた場所で……最初にランダと出会った時に訪れた、彼女の家だ。
以前来た時は仰向けで引きずられてったから、何となくの位置しか掴めてなかったが……なんとか見つけられた。
腰の後ろのホルダーから黒ナイフ(呼称が面倒臭いので省略)を引き抜き、警戒を最大にしながら扉を開ける。
その瞬間滑り込むように中に入り、感知系の能力を全て最大にして気配を探った。
「誰も……いないか」
「本当にそうだと思うかい?」
思わずナイフを握る手を緩めかけたその瞬間、明かり一つついていない部屋の中で特に濃い暗がりから声がする。
一瞬で警戒心を引き上げ、ナイフを構え直すと、ゆっくりと声の主は暗闇の中から歩み出てきた。
白い法衣のような衣装。中性的で整った顔立ち。そして鋭くこちらを睨め付ける、強い瞳。
「……もしかしたら、って思ってたけど。まさか本当にいるとはな、ランダ」
「どうやら最悪の予想が当たったようだね。忘れたのかい? 私の権能は〝希釈〟。この世界そのものに溶け込む力。誰にも気取られることなく侵入することなど、容易いのさ」
最初に《獣》として対峙した時と同じように、自らの力をご丁寧に解説してくれる。
会話はそこで終わり、その代わりに互いに殺意が高まっていく。
そして一歩踏み出そうとした、その瞬間。
「おいおい、殺伐としてるな」
「「!?」」
知らぬ第三者の声がした。
いや、知らないというのは嘘だ。たった一度だけ、その声を俺は聞いた事がある。それも最近だ。
ある程度の確信を伴って、後ろを振り返れば……そこには俺を助けた、あのイケオジがいた。
「少しピリピリしすぎじゃあないか? もう少し穏やかにいった方がいいと俺は思うがね」
「君は、アベルの報告にあった未来から来た男か。どうしてここにいる?」
未来から来た男、だって……?そんなバッ○トゥザ○ューチ○ーみたいな設定だったのかこの爺さん。
爺さんはランダの質問には答えず、腕組みをして肩を入り口の柱に預けると、不敵に微笑む。
その笑い方に、また既視感を覚えた。
「いやなに、こちとら一難去ったばかりなのにまたドンパチされると敵わんのでね。ハイペースな展開は老体には堪えるんだ」
「そうか……」
より一層、ランダの体から立ち上る殺気が膨れ上がり……そして霧散した。
あっさりと戦意が消えたことに呆然としていると、ランダは険しい顔のまま椅子に座る。
「まあいいさ。今回は元から話をしに来ただけだからね。さっきのは怖気付いてないか試したのさ」
「……なるほどな」
完全に消え、隠した訳でもないようなので、一旦構えを解く。
けれど決してナイフは手放さず、ちらりと後ろの爺さんを見る。
「そんなに警戒しなくても、俺は見てるだけさ。そこの獣が何かしない限りな」
「私もこの国には多少の愛着がある。一度なにもしないと言った以上、ここでは暴れない」
……どう思う、エボルト。
『少なくとも、警戒は怠るなよ。この女は当然、あの男もこの前は助けられたが、敵じゃないとは言い切れない』
同意見だ。
「で、なにを話すって?これからもっと俺を狙うから覚悟しとけよってか?」
「ある意味そうではある。まあ、座ってくれよ」
なおも気を緩める事なく、以前フェアベルゲンに訪れた時にそうしたように対面した椅子に腰を下ろす。
右手はナイフを握りしめ、それをあえて机の上に置いて見せつけながらランダの顔を見た。
「先に断っておく。アベルにもそう言ったように、俺はこの命をお前らに渡すつもりも、エヒトにこの体を明け渡すことも絶対にない。俺の目的のために俺の命は利用する」
「……どうやら一皮剥けたようだ。では聞こう。君はその力を使いこなせるのか?」
力、と言われて思い当たるものは一つしかない。
〝抹消〟。世界のバグを修正する為の力。ありとあらゆる物体、事実、記憶さえも削除できる権能。
カインは、これを悪用され、誰かが受け継いだ時はそいつを殺してくれと、そうランダに頼んだ。
彼女はそれを果たそうとしている。エヒトの眷属となった今この瞬間さえも、己の意思で俺を殺そうと決意している。
だが……
「そもそも気になってたんだ。どうしてお前はエヒトの眷属なんかになった?悪神を喰らうのがお前の在り方だろ?」
「……それは過去の話だ。この世界に来た時、私はあの矮小な神の手先となった」
「この世界に来た時、ね。つまりその時に何か呪いでも刻まれたわけだ」
爺さんが会話に割り込んできた。
驚いた様子のランダは、忌々しそうに爺さんの方を睨んでから、諦めたようにため息を吐く。
「……そう。数年前、ちょうど私がこの世界に来た時。エヒトはいずれやって来る何かを恐れ、別の世界から強い力を持つものを召喚しようとしていた」
「いずれやって来る?」
「君さ」
指を刺され、一瞬訝しんだものの、すぐに得心がいった。
「なるほど。〝抹消〟か」
「理解が早くて助かるよ。腐ってもアレは神だ、いつか自分を滅ぼしうる力を持つ者が現れることを察知し、対抗しうる眷属を手に入れようとした」
「だが自分の作り出したあの戦闘人形たちだけでは心許なく、別世界からの召喚を行った。そしてお前はそれに引っかかったわけだ」
またも先回りして、爺さんが補足をする。それはまるで、あらかじめ知っていたことを話すような口ぶりで。
「……未来を知る者、か。こうも厄介とはね」
「おう、俺はお前たちにとってはこれ以上ない厄介者だぞ?」
「忌々しい……だが君の言う通りだ。運悪く私は、世界を移動する際その召喚の魔法陣に引っ張られた。そして魂に枷をつけられ、眷属となったのさ」
なるほどな……こりゃまた、リアル中学二年生でもびっくらこくような話だ。
「エヒトも驚いていたよ。一人召喚するはずが、まさか七人も眷属が手に入るとは、とね」
「なんだって……?」
まさか、まだそんな謎が……
「ああ、そりゃ俺のせいだな。この時間軸に俺が介入した影響で、本来の歴史からズレが起こった」
「いやあんたかよ!」
すまんすまん、と言いながらカラカラと笑う爺さんに、なんかゲンナリとする。こいつなんなんだマジで。
だがそうなると、ランダは無理矢理《獣》という役割に縛られているということになる。ならば……
「呪いを解こうなどとは考えないことだ。たとえこの役目失ったとて、私の目的は変わらない事は、君が一番知っているのだからね」
「……ごもっともで」
こいつとは戦いたくないんだが、そんな寝言を言ってる余裕はなさそうだ。
しかし、そうであるならば。この迷いを断ち切り、俺はランダに宣言できる。
「なら俺は、真正面からお前を打ち倒そう。他の獣も、アベルも、そしてエヒトも殺して、俺の目的を果たす。決して立ち止まる気はない」
「……へえ」
ランダの目が、値踏みをするようなものへと変わる。
本当にお前にその力があるのか、貫き通す勇気があるのかと、そう言いたげな目に俺はいつものように笑う。
「そういや話が逸れてたな。この力を使えるのかって? ああ、使ってやるさ。それが必要なことならな」
俺はレプリカだ。
同じ記憶や力を持っていても、自在にこの力を扱えるアベルはおろか、カインにさえ届かない。
所詮は寄せ集めのガラクタ、欠陥品。だがガラクタはガラクタなりに、継ぎ接ぎしてできることがある。
「お前は俺を認めないだろう。アベルも認めないだろう。だがな、そんなお前らのシリアスな事情なんざぶっ飛ばして、最後に笑うのは俺さ」
できないならば、代償を支払ってでもやってやろう。
お前らが否定するならば、俺自身がそんなことは一番わかっていると嗤ってやろう。
だって俺は、どこまでも笑顔を貼り付け、卑劣な悪道を行く
「私を前に、いい度胸だ」
「なんならそのままビビって、手を出さないでくれると嬉しいんだがな」
「それはできない。君がそう在るならば、私も存分に己の役割を全うできる」
「……どうやら、平行線らしいな」
もう二度と、俺たちが友として交わることはないだろう。いいや、最初からそうだったのだ。
しばらく視線の応酬を交わし、やがてランダは面白そうに笑うと席を立った。
「また会おう。我が友の写し身よ」
そして、足元に現れた光り輝く魔法陣の中へと消えていった。
しばらくその場所を見つめ、やがて完全にその名残のような空気が霧散したところで……俺は盛大なため息を吐いた。
「ちょっとイベント立て続けに起こりすぎじゃないですかね」
「はは、災難だったな」
エボルトよりも早く答えた爺さんに座ったまま振り返り、眉を潜める。
「……なあ、あんたは」
「その先を言う必要はない。
「誰なのか、ね」
これまでの行動、ランダの事情、俺にさえ悟らせない実力に、先ほどもたらされた未来人という事情。
そして何より、俺自身の思い出がこいつを知っている。どれだけ老けてようが、わからないはずがない。
それら全てを総合すれば、自ずとこの老人が誰かはわかるというものだ。その目的は定かではないが……
「お前やあの獣がそうするように、俺にも目的がある。そのために好き勝手やらせてもらうさ」
「歳なんだから気を付けろよ」
「なに、その塩梅が分かってこそ歳を重ねた意味がある」
そう言ったきり、爺さんは踵を返してその場を立ち去ろうとした。
やはり見覚えのあるその後ろ姿に、俺は最後に一言投げかける。
「その帽子、似合ってんな」
「……お前ほどはな」
懐かしいような、確かめるような口調でそう言い、爺さんは外の明るさの中へ消えていった。
「俺もこんなとこで座り込んでウジウジしてても仕方ねぇし、ハジメたちのとこに行くか」
独り言をのたまいながら、ハジメを座標にして瞬間移動を使う。
背後に現れた穴の中に吸い込まれ、そして再び視界が確保された時……そこではハジメとシアさんが見つめ合っていた。
こう、ハジメが両手でシアさんの顔を包み込んで、シアさんはその上に自分の手を乗せてトロンとした顔をしてる。
「うん、これは完全にセッ」
『おいそのネタはやめておけ』
えー。
「うわびっくりした!シュウジ、いつの間にそこにいたの!?」
「今来たとこだよん。で、アレどういうわけ?」
突然現れた俺にびっくりしてる一同……なんか知らないプレデターハウリアが敬礼してる……に聞く。
明らかにロマンティックなシーンなんですけども。目と目があってフォーリンラブしちゃってるんですけど。
「おいおいハジメさんや、なぜにシアさんとイチャついてるんだい?」
「ああ、来たのか。突然だが帝国に行くことになった。こいつの頼みでな」
「聞いてくださいよシュウジさん、ついにハジメさんがデレてくれたんですよぉ〜!」
「ほう、そいつぁ面白そうな話だ」
いつものように、変わらぬように、ハジメたちに絡んでいく。
シアさんがはしゃぎ、ハジメが照れ、俺が煽り、ユエたちがそれをからかって、雫たちが呆れて。
あと少し、もう少しだけ。
この暖かい場所にいたいと、そう思った。
次回から帝国だぜ。
感想をいただけると生命力になります(真顔)