星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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うちの主人公と勇者が想像以上にギスギスしてない件について。

楽しんでいただけると嬉しいです。


プレデター救出作戦

 帝都の一角にある食事処、そのテラス席で飯を食いながら、俺たちはシュウジを待っていた。

 

「北野っち、平気かな……」

「シューがやれると言ったのだから、心配する必要はないと思うわ」

 

 気弱にぼやく谷口に、努めて平静に八重樫が返している。

 

 そこに強がりとか、隠した不安とかそういったものは欠片もなく、ただ純粋に思ったままのことを言っている。

 

 いつもながら大した信頼関係だ。これで前は天之河達の世話まで焼いてたっていうんだから、すげえ胆力だわ。

 

「でも、本当に平気でしょうか?結構時間が経ってますけど……」

「そろそろ1時間くらいか……」

 

 そう言いながらサンドイッチのようなものを食べようと、開けていた口を閉じる。

 

 が、パンのふんわりとした食感は感じなかった。驚いて自分の手を見ると、そこに三角形の物体はない。

 

「ん、結構美味いなこれ」

「っ! シュウジ!?」

 

 気がつけば、テラスを囲っている手すりにシュウジが腰掛けていた。

 

 人数が多いので、半ば貸し切りのような状態になっていたその場にいる全員が、俺の横にいるあいつを見た。

 

「ただいま帰還しましたっと。いやー腹減った。なんか頼んでいい?」

「あ、ああ」

「それじゃお邪魔してっと」

 

 わざわざ空けておいた隣の席に、シュウジが腰を下ろす。当然ながら空席だったそこの隣に座っているのは八重樫だ。

 

 シュウジはメニューを見て、俺から強奪したサンドイッチと同じものと紅茶もどきを頼み、帽子をテーブルに置く。

 

「いやはや、なかなか骨が折れたよ。仕事ってのは楽じゃない」

「その様子を見る限り、情報は手に入ったみたいだな?」

 

 ニッと誇らしげに笑って、シュウジは認識阻害の結界を張った。

 

 そして、ジャケットの内ポケットから小さい円盤を取り出し、それをテーブルに置いて真ん中のボタンを押す。

 

 すると、立体的な地図が浮かび上がった。地図を魔力で投影するアーティファクトだ。

 

 離れた席にいた奴らは身を乗り出し、それを注視する。どうやら牢屋らしき場所のようだ。

 

「こいつは例の元牢番の記憶から読み取った、帝城の地下牢獄の地図だ」

「へえ、シューくんこんな道具も持ってたんだね」

「なかなか便利だぜ? んで、カムさんが捕まってるのはここ」

 

 マップの中に、一点の赤い目印のようなものが現れる。構造的には独房の一室らしき場所だった。

 

「やったですぅ!これで父様を助けられますぅ!」

「だが……問題なのはこっからだ」

 

 シュウジがマップのある点を指差す。

 

 一見なんの変哲も無い、単なる牢屋の一つだったが……そこに突如として三つの点が新たに現れた。

 

「これは?」

「どうやらカムさんの他にも、捕らえられてる兎人族がいるらしい」

「なんだと?」

 

 マスターから聞いた話では、カムが暴れてる間に他の連中は逃げたはずだ。

 

 カムだけでなく、他の家族も捕まっていると聞いたシアの顔が青くなる。俺たちはどういうことだとシュウジを見た。

 

 すると、シュウジは数日前に突如現れ、自分たちを代わりにして、カムの解放を要求したところをとっ捕まったと話す。

 

「ついでにちょっと足を伸ばして聞いた話だ。カムさんのところとは少し離れたところに幽閉されてるみたいだな」

「そんな! どうしてそんなことを……」

「……ふむ」

 

 シアや天之河たちが騒然とする中で、俺は一人思考を巡らせる。

 

 徹底的に存在を消し、対象を殺す。それを骨の髄まで教え込まれたあいつらが、わざわざ姿を見せた?

 

 実に不自然だ。それに、逃げた全員ではなくたった三人だけという点にも引っかかる。もしかしてあいつら……

 

「でも、よくそんなのわかったね?どうやって情報を手に入れたの?」

「……聞きたい?」

 

 美空にニヤリと笑うシュウジ。その場にいる全員がゾッとしたことが、肌感覚でわかった。

 

 これ以上聞いてはならない。そう本能で察し、これ以上の追求はせずに早速話し合いを始める。

 

「つーことで、ウサギ救出大作戦と行こう」

「……私?」

 

 自分の顔を指差し、こてんと首をかしげるウサギ。可愛い。

 

「場所はわかった。あとは助けるだけだ。警備は厳重だが、まあ俺たちにかかれば問題ない。さっと助けてトンズラ、いたってシンプルな作戦だな」

「それなら人数は絞った方がいいな。俺とシュウジ、それにユエとシアで行こう」

「私たちはどうすればいい?」

「美空と香織は帝都の外にいるパルたちのところにいてくれ。あいつら確実に尋問されてるだろうからな、連れてくるから治療を頼む」

「「わかった(よ)!」」

 

 それからテキパキとそれぞれの行動を割り振り、作戦を詰めていく。

 

 結果、最初に決めた、俺を含めた四人が潜入。香織、美空、ティオ、八重樫、坂上、谷口は外で待機。

 

 そして……

 

「で、勇者は囮な」

「なんで俺一人だけ!?」

「バッカお前、俺たちが潜入してることに気付かれないために注意を引きつける奴が必要だろうが」

 

 実にもっともらしい意見だ。看守や帝城の警護の目がそちらに向けば、格段にやりやすくなるだろう。

 

 ただし俺たちが見つかる可能性があれば、だが。その可能性はゼロに等しいことはもうわかっている。

 

 つまり……天之河に嫌がらせしたいだけだこいつ。一番見つからなさそうなくせに言ってる時点で明白である。

 

「どうせなら、亜人の待遇改善を要求する!とか、捕らえている兎人族を解放しろ!とか叫んどけ。実に愉快な目で見られるぞ」

「……お前、意味がないってわかってて俺にやれって言ってるだろ」

「ちょっと何言ってるかわかりません」

「無駄にモノマネ上手いな!?」

 

 最近、天之河のツッコミのキレが良くなってきている。

 

 これまでこいつに何の興味もなかったが、シュウジのボケの対応を押し付け……ゲフンゲフン手伝ってくれるならありがたい。

 

 しかし、意味がないね。よりによって天之河がそれを言うとはな……てっきり当然みたいな顔をするものかと思っていた。

 

 そう、もう穏便に事は済ませられない。カムたちは不法入国の上、帝国兵を殺してる。今更丸くは収まらないのだ。

 

「いやほんとほんと、おまえがようどうやってくれたらちょうたすかる」

「棒読みじゃないか!……ああもう、わかったよ!やってやるよ!やればいいんだろ!?」

 

 ついにヤケクソ気味に天之河が了承する。

 

 その瞬間、実に嫌らしくシュウジが笑ったのを俺は見逃さなかった。

 

「よくぞ言った。じゃあお前にはこれをやろう」

 

 そう言って天之河に差し出したのは──勇者(笑)と日本語で達筆に書かれた、ボール状のマスク。

 

「やっぱり嫌がらせだろお前!!!」

 

 

 

 

 

 とりあえず天之河には八重樫と坂上、谷口も付いてくことになった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 深夜。それは暗闇が支配する世界。

 

 

 

 

 

 すなわち、闇に紛れるものにとっては水を得た魚の如き活動を可能とする時間だろう。

 

 それはヘルシャー帝国の帝城、その地下にある光一つ指すことのない牢獄においても同じこと。

 

「ん?」

 

 カラン、という音に巡回をしていた兵士が疑問の声を上げる。

 

 兵士はまず、音の発生源を探して魔法陣と鉄格子によって囚人を捕らえている無数の檻へ目線を向けた。

 

 汚物と血に塗れ、反吐が出るような匂いと沈鬱な空気に包まれた牢の中に入れられた囚人は沈黙を保っている。

 

「何だ、気のせ」

 

 そして、たった一瞬の気を逸らした瞬間。

 

 何者かが背後から音も立てずに両手を這わせ、右腕二の腕で口と鼻を塞ぐ。そして知覚される前に左手を振るう。

 

 指先から衝撃を与える技法、その極致たる一点集中の奥義だったか。それを用いて脳に振動を与え、脳震盪を起こすらしい。

 

 気絶する程度に調節したそれは確実に意識を刈り取り、音が立たないように看守の体を寝かせる。

 

 これで巡回していた看守は最後。詰所は既にクリア。侵入者対策のトラップも全て解除した。

 

 その様子を魔眼石の〝遠望〟で見届け、俺はノイズの走った耳元に手を当てた。

 

「こちらシュウジ。ターゲットまでのルートを制圧」

「了解。すぐにそっちに向かう」

 

 耳の穴に埋め込むように嵌めた通信機で連絡を取る。念話を付与したスパイグッズである。

 

 隣にいるユエとシアに頷いて、先に進む。光源はユエが光の球を魔法で形成して確保できた。

 

 程なくして、暗闇の向こうに立つシュウジの姿が見えた。

 

「ご苦労さん。こういうところを見ると、お前が暗殺者だって思い出すよ」

「なにも盛り上げるばかりじゃないさ」

 

 軽口を言い合って、先行してあらかじめ確保してくれた最短ルートを案内してもらう。

 

 まず向かっているのは、三人組の方。障害となるものは全て取り除かれたので、堂々と歩いていく。

 

 やがて、目的の牢屋近くにきたところでシュウジが片手をあげる。立ち止まると、耳を澄ませた。

 

「────、──た?」

「お──、──────ぜ」

「話し声が三人。全員無事だ」

「よ、よかった……!」

「早く行こう」

「ん、迅速に行動する」

 

 もう一度念入りにトラップがないかをシュウジが確認してから、話し声の方へと近づいていく。

 

 しばらくすると、最初は微かだった話し声も明瞭に聞こえてきた。

 

 その内容は……

 

「おい、今日は何本逝った?」

「指全部と、アバラが二本だな……お前は?」

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だぜ?」

「はっ、その程度か? 俺はアバラ七本と頬骨……それにウサミミを片方だ」

「マジかよっ? お前一体何言ったんだ? あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに……」

「な~に、いつものように、背後にいる者は誰だ? なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。……言ってやったんだよ。〝お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?〟ってな」

「うわぁ~、そりゃあキレるわ……」

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ? それに背いたってことは……」

「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

「「「「……………………」」」」

 

 こちら振り返るシュウジの顔は引きつっていた。多分、俺たちも同じ表情だろう。

 

 俺たちが思ってたよりも、あいつらはずっとイカれた精神力になってるらしい。

 

 若干覚悟を決めたような気分で、その牢の前にたどり着くと……

 

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな……」

「そうだな……なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

「お? いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

「お前、大穴すぎるだろ?」

「いや。最近の族長、ますます言動がボスとセンセイに似てきてるんだよな……」

「ああ。新兵の訓練の時はボスのように、そして敵を殺す時はセンセイのように冷酷に……思い返すだけでブルッちまうぜ」

「ああ、まるでお二人が乗り移ったみたいだ。あんな罵詈雑言を、冷徹な顔で言われたら……」

「まぁ、ボスならそもそも捕まらねぇし、センセイは気付かないうちに相手を皆殺しだろ!」

「むしろ帝国そのものが血の海に沈むぜ?きっと地図から消えるな」

「ボスは鬼畜だからな!」

「むしろ魔王だからな!」

「いやいや、魔人族の王と同列は低く見過ぎだろ。もう魔神だ魔神」

「ならセンセイは……死神だな!」

「「「それだ!」」」

 

 なんということだ、耳の穴から血が吹き出るほど素晴らしい会話をしているじゃないか。

 

 またシュウジと顔を見合わせる。光に照らされたあいつの目には、ピクピクと口元がひくついてる俺の顔が。

 

 ……ステイクールだ。過去の自分とカインの行いを消し去りたい気持ちを押さえ込むんだ。

 

「……よし落ち着いた。やあ皆さんお元気?」

「久しぶりにあったと思えば、ずいぶんな言い草だな?この〝ピ──ッ〟共」

 

 びくりと牢獄の中の影が揺れる。

 

 さらに近寄ると……そこには満身創痍のウサミミ三人がおり、俺たちを見て目を見開いた。

 

 先ほどの会話の通り、散々拷問されたんだろう。悲惨な家族の姿にシアがうっと口元を押さえている。

 

「ぼ、ボス!?それにセンセイも!?」

「いや、騙されるな!きっと俺たち幻聴が聞こえ始めたんだ!」

「それに幻覚も……はは、ここまでか」

「あのお二人が助けに来てくれるはずねえよな……」

「フッ、最後に聞くのがボスとセンセイの声とはな……せめて可愛い女の子が良かったぜ」

 

 そんなことを言いながら、どこかから隠し持っていたレイザーディスクを自分の首筋に当てる。

 

 ちょっと待て、こいつらまさか──

 

「おい、待てお前ら……」

「一旦落ち着い……」

「さらば!」

「次の人生では彼女が欲しい!」

「南無三!」

 

 俺たちの制止も虚しく、目の前で次々と首を掻っ切っていくプレデターハウリアども。

 

 阿鼻叫喚と血飛沫が飛び散る牢獄の前で、手を伸ばした状態のまま固まった俺とシュウジに冷たい声が降りかかった。

 

「ハジメさん、シュウジさん。日頃の行いって大事だと思うんですよ」

「……これは酷い」

「普通にごめんなさい」

「俺も今しみじみとそれを感じてる」

 

 とりあえず潔すぎるプレデターハウリアたちには、ケツに神水の入った試験管を突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「いやあ、まさか本当にお二人とは!俺たちもまだまだですわ!」

「それな!あんな生温い拷問でとんだ勘違いをしちまいましたよ!」

「族長に知られたら地獄の特訓メニューですわ!」

 

 あっはっはっはっ!と笑う、ケツに試験管を生やしたプレデターハウリアズ。

 

「……どうやら、俺が思っていたよりこいつらはずっとタフだったみたいだな」

「俺が育てました」

「……見た目の割に、元気」

「なんだか心配する気が失せました……」

 

 そんなハウリアに俺たちは苦笑いである。救出?そんなの必要だった?みたいなレベルで元気だ。

 

 とりあえず牢屋に仕掛けられていたトラップをシュウジがサクッと解除し、俺が錬成で鍵を破壊する。

 

 解放された全快状態のプレデターハウリアたちは、それはそれは元気よくヒャッハー!と牢屋から出てきた。

 

「「「助けていただきありがとうございましたぁ!」」」

「おう、まあ気にすんな。それでお前ら、どうしてこんなところにいる?」

 

 昼間話を聞いた時も思ったが、透明化までできる装備を持ってるこいつらが捕まってるのはおかしい。

 

 わざと捕まった可能性のことを示唆すると、三人は顔を見合わせ……ニヤリと獰猛な獣のように笑った。

 

「流石ボス、鋭いですね」

「確かに捕まってんのはわざとです」

「するってーと、何か目的があるわけだ」

「その通りですセンセイ。ですが、まずは族長を助けに行きやしょう」

 

 どうやらここから脱出するつもりはないようだ。ギラギラとした目には闘志が宿っている。

 

 シュウジたちを見ると、やれやれといった様子で肩をすくめた。俺もつられてため息が溢れる。

 

 ったく、血気盛んな連中だ。そうしたのは俺たちだが、元の虫も殺せない弱小種族はどこにいったんだか。

 

 何はともあれ、カムを助けるのは第一優先事項なので、新たにシュウジが装備を与えて同伴させる。

 

 シュウジの腕は優秀で、既にそちらまでの障害もことごとく排除されており、なんの苦労もなく辿り着けた。

 

「……ここか」

 

 たどり着いたのは尋問室。どうやらこの時間はカムが尋問をされているらしい。

 

「父様……」

「心配しなさんな」

「ん、きっと平気」

 

 後ろのシアを元気付ける声を聴きながら、ドアノブに手をかけたその瞬間。

 

「何だその腑抜けた拳は! それでも貴様、帝国兵かっ! もっと腰を入れろ無能な〝ピ──ッ〟野郎め! まるで〝ピ──ッ〟している〝ピ──ッ〟のようだぞ! せめて骨の一本でも砕いてみせろ! 出来なければ、所詮貴様は〝ピ──ッ〟ということだ!」

「う、うるせぇ! 何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!」

「なんなんだこの筋肉ダルマ!本当に兎人族か!?」

「口を動かす暇があったら手を動かせ! 貴様のその手は〝ピ──ッ〟しか出来ない恋人か何かか? ああ違うな、所詮貴様は元から〝ピ──ッ〟を〝ピ──ッ〟するその手が恋人だったか!」

「て、てめぇ! 俺にはナターシャっていうちゃんとした恋人がいるんだよぉ!」

「よ、よせヨハン! それはダメだ! こいつ死んじまうぞ!」

「ふん、どいつこいつも〝ピ──ッ〟ばっかりだな! いっそのこと〝ピ──ッ〟と改名したらどうだ! この〝ピ──ッ〟共め! 御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!」

「なんだよぉ! こいつ、ホントに何なんだよぉ! こんなの兎人族じゃねぇだろぉ! 誰か尋問代われよぉ!」

「もう嫌だぁ! こいつと話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

 

 

 

 ……………………………………。

 

 

 

「なあ、帰っていいか?」

「……助ける必要、ある?」

「ああああああもぉおおおおおっ!」

「ドガスッ!」

「「「せ、センセぇえええええ!」」」

 

 俺とユエは顔を見合わせ、シアがシュウジを殴り飛ばし、プレデターハウリア三人が絶叫する。

 

 もうこれ中に入りたくないんだけど。回れ右して小一時間くらい遊んでからもう一回来るんじゃダメだろうか。

 

「ふん、口ほどにもないっ。この深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアの相手をするには、まだ早かったようだな!」

 

 …………カムの野郎、追い討ちかけてきやがった。

 

「……シア。お前の親父、何か凄いことになってるぞ」

「……考え過ぎて収拾がつかなくなった感じ」

「うぅ……父様は私に何か恨みでもあるんでしょうか? 娘を羞恥心で殺そうとしてますぅ」

「センセイ!しっかりしてください!」

「ダメだ、首の骨が折れてる!」

「シアの姉御強すぎるぜっ!」

 

 いよいよシアはしゃがみこんでしまった。メンタルへのダメージは絶大なようだ。

 

 そしてそれは尋問官たちも同じだったようで、部屋から飛び出して来たところを二人とも殴り飛ばす。

 

 扉を開けた瞬間、俺の振りかぶった拳で吹っ飛んだ二人の兵士はそのまま伸びて動かなくなった。

 

 それから部屋に踏み込んで、蝋燭が仄かに照らす中で跪いている巨大な人影に声をかける。

 

「カム」

「ボス……ですか?」

 

 カムは、三人組よりもさらに満身創痍の様子だった。

 

 二メートルに届こうかという巨躯は十を超える枷で縛られ、至る所に裂傷やアザを拵えている。

 

「ユエ殿にシアまでも……幻覚ではない?」

「私は幻覚であってほしかったですよぉ……」

「よしよし」

「いやー痛かった、シアさんほんと強くなったね」

「センセイまで……!」

 

 茫然と俺の顔を見上げていたカムは、後から入って来たシュウジを見てさらに驚いた。

 

 それから最後に三人組を見ると、ふっと何かを悟ったようにニヒルな笑みを浮かべる。

 

「どうやらお手数をおかけしたようです。しかし、帝国兵の奴らを罵るのに忙しくて気配に気付かないとは。俺もまだまだですね」

「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院に行くべきです。もちろん、頭の治療の為に……ていうか、その怪我で何でピンピンしているんですか」

「気合だが?」

 

 もう手遅れのようだった。

 

 シアが綺麗な回し蹴りをシュウジに叩き込んでいる間に、カムの拘束を解いてやる。

 

 傷の治療を拒否したカムは、台の上に乗せられていたガントレットを装着するとこちらに向き直った。

 

「ご助力、感謝します。今回の不始末もまとめて、後は自分たちでなんとかしますので」

「何をやる気だ?」

「クククク……ボスたちもきっと気に入りますぜ」

 

 ……何やら企んでいるみたいだが、まあこれ以上のヘマはしないだろう。

 

 とりあえず問題はなさそうなので、表で陽動に勤しんでいるだろう八重樫たちに連絡をする。

 

「八重樫、俺だ。こっちのやることは終わった。もう引き上げていいぞ」

『良かった……ならそうさせてもらうわ』

「俺の渡したものは役に立ったか?」

『ああ、ごん狐人族ね……ところでシューは?』

「シアの蹴り食らって悶絶してる」

『何で?』

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、無事?にカムたちを救出できた俺たちだった。

 

 




長くなってしまった……

感想を書くのって面倒なんですかね。いや、魅力がないだけか。
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