星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回は光輝の視点です。

彼も成長中。楽しんでいただけると嬉しいです。


このクソッタレな帝国に終焉を! 1

 

 光輝 SIDE

 

 

 

 初めて見たヘルシャー帝国の帝城は、凄まじい威圧感を放っていた。

 

 前に聞いた話では、幅二十メートルはある水路には魔物が住み、城壁には魔法的防御措置があるらしい。

 

 おまけに入城する審査もかなり厳しくて、こうして列に並んでる俺たちを城壁の上から巡回の人が厳しい目で見ている。

 

 ……そう、見ているのだ。帝城に入る人の列に並んでいる俺たちを、帝国の兵士が。

 

「……な、なあ南雲。本当に大丈夫なのか?」

 

 思わず後ろで、ユエさんやシアさんと仲睦まじくしている南雲にそう聞いてしまう。

 

 面倒くさげに俺の方を向いた南雲は、胡乱げな眼差しで見てくる。

 

「あん? 今更怖気付いてんのか?」

「そういう訳じゃないが……」

 

 兎人族の人たちの計画を聞いて、陽動として加担までした上で、こうして堂々と正面から帝城に入ろうとしている。

 

 そのことに言いようのない不安を覚える。もし門番の前まで行って、バレたらどうしようかと。

 

 まあ、あの仮面は南雲の作ったアーティファクトらしいから平気だろうが……

 

「だったら大人しくしてろ。むしろそうやって狼狽てる方が怪しい」

「わ、わかった」

 

 たしかに、そわそわしてる方が怪しまれるよな。ここは毅然とした態度で臨もう。

 

「ん、あれ?兎さんやないか!」

「ふぇ?」

 

 なるべく自然体でいようと頑張っていると、後ろからそんな声が聞こえた。

 

 振り返ると、他のみんなも後ろを見ている。そこには軍服っぽいものをきた双子が立っていた。

 

 そのうち女の人の方がシアさんを指差して、嬉しそうに笑っている。あの二人は確か、騎士団の……

 

「ソウさん!どうしてここに!?」

「ちょいと野暮用でな!ウサギさんこそどしたん〜、こないな粗野な国におったらあかんで?」

 

 シアさんと、ソウと呼ばれた女性は手を取り合ってきゃっきゃとはしゃぐ。

 

 南雲は見ているだけで特に何も言わない。つまりあの二人は危険な相手ではない、ということだろう。

 

「アンカジ以来やな、シュウジの旦那。けったいな落ち込み方しとったけど平気かいな?」

「絶好調も絶好調さ。そっちも……気分は悪くなさそうだな」

「まあ、ぼちぼち……な」

「っ!?」

 

 な、なんだ!?あの男、一瞬だがとても恐ろしい顔で笑った!無意識に剣の柄に手がかかるほどに!

 

 しかし、そうやって身構えているうちに男の顔は元に戻っていた。見間違い、だったのか……?

 

「ん、あー……」

「?どうかしましたかソウさん?」

「いやな。ちょいとウサギさんの彼氏さん、ええか?」

「いや、彼氏じゃないんだが……なんだ?」

「ええとな……」

 

 ソウさんが、何やら南雲に耳打ちする。

 

 南雲は一瞬驚いたような反応をして、それから面倒臭そうにため息を吐いた。一体何を言われたんだ?

 

「あー……シア、耳を貸せ」

「なんですかハジメさん?」

 

 今度は南雲がシアさんに耳打ちをして何かを言うと、彼女の顔が尋常でないくらい強張った。

 

 ただならぬその表情に思わず一歩踏み出すと、シアさんの頬を南雲が引っ張る。するとシアさんは驚き、それから照れた。

 

「気にすんな。もしそうなっても、俺が守ってやる」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 ……なんか、解決したみたいだ。よく分からないけど、俺が口を挟んでもどうにかなるわけでもなさそうだった。

 

 そうやって心の中で自然に線引きした自分に少し驚きながら、俺は南雲たちのことを眺めていた。

 

「そんじゃ、うちらはもう行くわ。やることがあんねん」

「そうなんですか?残念ですぅ」

「そらうちもや。いつもちょびっとしか一緒におれんでな。今度はお茶でもしよなー!」

 

 元気よく手を振ったソウさんは、北野と話していたもう一人と一緒にどこかへ行ってしまった。

 

 見送っているうちに列が動いて、俺たちの番になる。一応俺が先頭なのだが、門番の人は訝しげな顔をした。

 

「見慣れない顔だな……許可証を出してくれ」

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「ステータスプレート……?」

 

 帝城に入るために必要な許可証の代わりに、懐からステータスプレートを取り出して手渡した。

 

 門番の人はジロジロと、俺たちの鎧や武器を見た。まあ、お城に入るのにはちょっと無骨かもな。

 

 疑わしげに俺たちを一通り見た門番の人は、ステータスプレートに視線を落として……目を見開いた。

 

「こ、この天職……〝勇者〟?王国に召喚された神の使徒の?」

「はい、その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが、ちょっと事情があって後からやってきました」

 

 答えながら、強い違和感を感じた。

 

 まず一つ目に、この世界が、神のゲームの盤上だと聞いたから。神の使徒という称号に寒気を感じた。

 

 次に、これまでずっと誇ってきたはずの〝勇者〟という称号に。俺にはその名前にふさわしい中身などないというのに。

 

「しょ、少々お待ちください!今確認をとってまいります!」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、いつの間にか集まっていた数人の門番の人たちが上に取り次いでくれるようだった。

 

 猛ダッシュで帝城の中に消えていく兵士の人たちとは裏腹に、南雲たちを含めて俺たち全員、詰所の中に通される。

 

 待合室みたいな場所でしばらく待っていると、廊下の方からドタドタと足音が聞こえてきた。

 

 ほどなくして入ってきたのは、さっきとは違う兵士の人だった。特に大柄な人が、俺たちをジロジロと見る。

 

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です」

 

 なんだか無遠慮な視線に居心地の悪さを感じながらも、どうにか受け答えした。

 

 その人は俺の他にも、いつも通りの南雲たちや、雫とくっついてる北野、そして……シアさんを見つける。

 

 その瞬間、兵士はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。身の毛もよだつような感覚に思わず身が竦む。

 

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう」

「は、はあ、どうも」

 

 例えようのない気持ち悪さを感じながら、差し出されたステータスプレートを受け取った。

 

「ところで勇者殿、その兎人族は? それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え? いや、彼女は……」

 

 ……どうやって答えればいいんだ?

 

 確かにシアさんがつけているのは、首輪ではなくてチョーカーっぽいアクセサリーの様に見える。

 

 かといって、南雲の恋人と言うにはなんだか複雑な様だし……というか、俺に聞かれても困るんだけどな。

 

 そんな風に迷っている俺に見切りをつけたのか、グリッドさんはシアさんの方を見る。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。一つ聞いていいか……俺の部下はどうしたんだ?」

「部下?……っ、あなたは」

 

 な、なんだ。シアさんがいきなり顔を青ざめさせたぞ!?

 

 部下ってなんのことだ?もしかしてまた俺の知らない、どうしようもないことが目の前で起きてるのか?

 

「おかしいよな?俺の部下は一人も戻ってこなかったのに、お前はなんで生きてるんだ?あぁ?」

「ぅあ……」

 

 にじり寄るグリッドさんに、シアさんは気圧された様に後ずさる。

 

 その光景に、思わず彼の肩を掴んでいた。

 

「……勇者殿、何か?」

「あの……それくらいで」

 

 何もわからない、でも南雲の仲間が嫌なことをされているのだけはわかった。

 

 これが正しいことなのか。正直、今この瞬間だって迷ってる。もしかしたらシアさんの方が悪いのかもしれない。

 

 だけどここで見ているだけなのは、凄く嫌だ。それだとまた、言うことだけは偉そうな俺に戻りそうだったから。

 

「……問題ありませんよ勇者殿。少しこの亜人に聞きたいことがあるだけなんで」

「あっ」

 

 だが、強く肩を前に突き出されたことで、あっさりと俺の手は振りほどかれる。

 

 それ以上は何もできない悔しさを感じながらシアさんを見ると……彼女は、ユエさんとウサギさんと手を繋いでいた。

 

 微笑む彼女の目は、少し目を離した隙にもう強いものになっていて……その後ろで、南雲が不敵に笑った。

 

「あなたの部下の事なんて知ったことじゃないですよ。頭悪そうな方達でしたし、どこかで魔物の餌になったんじゃないですか? ですので、私のことであなたに答える事なんて何一つありません」

「……随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか、あぁ? 勇者殿一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか?」

 

 俺への丁寧そうな態度とは打って変わって、とても粗暴な口調になった。

 

 まただ。ただ種族が違うというだけで、こんなにも簡単に、人を人とも思わずに貶められる。

 

 ……俺がなんの覚悟もなく、魔人族と戦おうとしていたみたいに。

 

「奴隷じゃないなら、どうせその体で媚でも売ってんだろ? 売女如きが舐めた口を利いてんじゃねぇぞ」

「っ、流石に言い過ぎ──」

「おい、下っ端」

 

 俺が口を開く前に、南雲の声が割り込んだ。

 

 グリッドさんが、南雲の方を見る。怒りで引き攣った顔とは裏腹に、あいつは鬱陶しそうな顔だった。

 

「なんだと……」

「いつまで無駄口叩いてんだ下っ端。お前の役目はもう終わってるだろうが。ガタガタ言ってないでさっさと引っ込め」

「てめ……」

「それでもまだ身の程を弁えられないなら……うちの狂犬がその喉食いちぎるぞ?」

 

 付け加えて「もちろん俺もな」という南雲の隣で、ソファに座っていた北野がいつの間にかナイフを持っていた。

 

 今のままで気が付いていなかったことを後悔するくらいに……その瞳は、静かな殺意に満ちていた。

 

「これ以上俺の仲間を貶すなら、一生その薄汚い、冷蔵庫の隅に何年も放置されてた腐った肉みたいな舌とおさらばしてもらうぜ?」

「……っ!」

 

 グリッドさんの顔が真っ赤に染まって、激怒していることがわかる。

 

 だが、今にもナイフを投げそうな北野のせいか、それとも〝勇者〟の俺がいるからか、黙っていた。

 

 南雲と北野を睨みつけるグリッドさんに少し引きながら、俺たちは青い顔をした兵士に案内してもらう。

 

「南雲、もしかしてさっき入場門の時に言ってたのって……」

 

 歩く道すがら、南雲に話しかける。

 

「まあ、首輪もしてなかったらああなるだろうってことだ。なにせここは帝国の中枢だからな」

「そうだったのか……」

「で、なんでお前は口出ししてんだ?」

「っ、すまない。迷惑だったよな……」

 

 あの時すでに南雲はシアさんを守ると言っていたのだし、俺は完全に邪魔だった。

 

 後悔はしていない。だが余計なことをするなと言われたようで、少し落ち込んだ。

 

「ま、少しは成長したんじゃねえの」

「え……」

 

 南雲が、俺のことを褒めた……?

 

「あと一歩あいつがこっちに踏み込んでたら、シュウジが目と鼻、耳、それと手の指辺りは飛ばしてたからな」

「え」

「よかったな天之河、お前はあの下っ端を救ったぞ?」

 

 クツクツと面白そうに笑う南雲に、自分の頬が引きつるのがわかった。

 

 北野ならやりそうだな……オルクスでも雫を傷つけたあの魔人族に、あれだけ怒っていたんだから。

 

 ちらりとあいつを見ると、さっきよりもっとすごい殺意を込めた目で睨まれたので慌てて前を向く。

 

「──ふふ。木偶の坊も少しは卒業かしら?」

「ッ!?」

 

 もう一度、後ろを振り向く。

 

 だが、北野たち以外は誰もいない。ただ俺のことを不審げに見る視線以外は何も。

 

「光輝、どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 幻聴か……?

 

 

 

 

 雫の言葉に誤魔化すように答えて、俺は前に進んだ。




さて、次は皇帝を処刑か。

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