星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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シュウジ「よう、シュウジだ。思ったより要望が多かったから復活したぜ」

ハジメ「前回は皇帝との会談だったな。お前超キレてたし」

シュウジ「雫に手出しはさせん。誰にもな」

ハジメ「年相応の反応になったのか……で、今回は間の繋ぎともいうべき話だ。それじゃあせーの、」


二人「「さてさてどうなる帝国編!」」


このクソッタレな帝国に終焉を! 3

三人称 SIDE

 

 

 

 皇帝との会談が終わって、少しの後。

 

 リリアーナ姫は婚約パーティーのため、召使たちの手を借りて自らを着飾っていた。

 

「まぁ!素敵ですわ、リリアーナ様!」

「本当に…まるでお花の妖精のようです」

「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」

 

 何十と試着されたドレスの中、彼女に着られる権利を勝ち取った一着が姿見の中でくるりと袖を広げる。

 

 淡い桃色をしたそれは、14歳という少女と女のちょうど境目にある彼女の魅力を引き出し、より美しく仕立て上げていた。

 

 まさしく、次女の一人が口にしたように花の妖精のごとき可憐さ。これがよくスルーされて落ち込んでる人間とは思うまい。

 

「そうね。なら、これにしましょうか…後はアクセサリーだけど」

 

 リリアーナ自身、このドレスが気に入ったので、装飾品の選定に移った。

 

 これは政略結婚だ。リリアーナにとっては王族としての責務の一つであり、心を通わせた末の婚姻ではない。

 

 おまけに相手は、皇帝と同じく女癖が悪く、過去十歳にも満たない彼女に劣情のこもった目線を向けた下衆。

 

 さらに自分より弱いものを嬲って楽しむと言う、まあ典型的な悪人であるが、それでも皇太子である。

 

 王女である自分が、恥をかかせるわけにはいかない。人生に二度とは滅多にない舞台だ。最大に着飾ろう。

 

 たとえ、そう決意する度に近頃精悍になってきた一人の男の顔を思い浮かべようとも。

 

「……? 何か騒がしいですね」

 

 ネックレスを選んでいたリリアーナは、ふと廊下が騒々しいことに気づいた。

 

 何事かと眉をひそめる彼女の前で、ノックもなしに扉が開け放たれる。そして大柄な男が入ってきた。

 

 無遠慮な足取りで突然現れた男は、リリアーナの近衛の制止も聞かずに彼女に詰め寄る。

 

「ほぉ、今夜のドレスか……そこそこだな」

「……バイアス様。なんの断りもなく淑女の部屋に押し入ると言うのは感心致しませんわ」

「あぁ?何口答えしてんだ?俺はお前の夫だぞ?」

 

 それ以前に人としての礼節を欠いている、と言う言葉をぐっとリリアーナは飲み込んだ。

 

 突然現れた皇太子は、ひと睨みして近衛や次女を部屋から追い出すと、リリアーナを見下ろす。

 

 威圧的なその男……バイアス・D・ヘルシャーは以前と変わらぬ、実に粗野な人物だった。帝国人らしいとも言うべきか。

 

 だが、一つだけ違った。

 

 舐め回すようにリリアーナの全身を見る目に、どこか他の何かと比べるような色があるのだ。

 

「……フン。まあ俺の横には相応しかろう。〝あのお方〟の美しさには遠く及ばないがな」

 

 やがて、一通り見て飽きたとでも言うように、投げ捨てるようにバイアスはそう言った。

 

 リリアーナは心底驚いた。てっきりこの場で押し倒されることさえ想定していたというのに、どういうことなのか。

 

 虚空を見上げるバイアスの目には、恍惚の色がある。まるで自分には届かないものを見るような、渇望じみた感情。

 

 これがあの、目についた端から気に入れば他人のものでも平気で奪う皇太子か。

 

 何かがおかしいと彼女は思った。

 

「あのお方、とは……?」

「……あのお方は、まさしく美の化身。この世で最も神々しき人。俺の力も、心も決して及ばぬ。ただ、その足元に椅子として跪くことさえできればいいのだ」

「え……」

 

 今度はドン引きした。一体この皇太子は何を言っているのだろうか。

 

 元の俺が世界の王と言わんばかりの傲慢な態度は嘘だったのかというほどに、バイアスは骨抜きの顔になっていた。

 

 一つだけ、〝あのお方〟とやらに心を奪われているのだろう、ということだけはわかる。自分に興味がなくなるほどに。

 

「本当ならば、幼い頃から反抗的だったお前をこの場で犯してやろうと思っていたが……もうどうでもよい。俺に恥だけはかかせるなよ」

 

 混乱しつつも、なんとか納得しようとするリリアーナに目線を戻し、バイアスは高圧的に言う。

 

 それだけで、他には何もせずに部屋を出て行った。最後まで混乱の中にあったリリアーナはその背中を呆然と見送る。

 

「な、何が彼に起こって……」

「あら、お綺麗ね」

 

 するり、と首筋に誰かの手が這った。

 

「ひっ……!」

 

 リリアーナの口から悲鳴が漏れる。そして今まで以上の混乱と恐怖が全身を駆け巡った。

 

 何故。この部屋に出入り口は一つしかない。おまけに特殊な仕掛けがしてあるので、部屋に入れば音がする。

 

 だというのに、今自分の首筋を指で撫でるこの人物は誰だ。気配も、物音一つもなく侵入したのか?

 

「あらあら、そんなに怯えられては堪りませんわ……食べてしまいたくなるじゃない」

「あ、あなたは、一体、誰、ですか……?」

 

 問いに答えは返らず、代わりに首筋を上へと伝っていった指は顎に突き当たり、そこから更に顎先へと向かっていく。

 

 喉が引きつって声が出ない。それに、先ほど出て行った召使が一人も戻ってこないこともおかしい。

 

 誰にも助けを求められず、正体不明の背後の人物にリリアーナはカタカタと震えた。

 

 そんな彼女の怯えを助長するように、その人物は顎先まで到達した指を唇へと持っていき、そして両端に添える。

 

「な、何を……」

「いけませんわ。せっかくお姫様がお粧ししたのですから、笑ってなくては台無しでしてよ?」

 

 突然ガッと肩を掴まれ、背後の人物は自分ごとリリアーナの体を姿見の方に向けさせる。

 

 鏡の中に写り込んだのは、今にも涙がこぼれそうなほどに恐怖で彩られたリリアーナの顔。

 

 そして、不自然につり上がった口元を支える……魔物のような風貌をした鎧を纏う人物だった。

 

「ッーー!」

「あら、淑女がみだりに大声をあげてはいけませんわ」

 

 思わず悲鳴をあげそうになったリリアーナの唇に、怪物はすっと口の端を上げていた指を添える。

 

 人差し指をたて、まるで子供に静かにするように言い聞かせる怪物に、リリアーナは即座に声を飲み込む。

 

「そう、それでいいわ。本番も頑張ってくださいな」

「何、が、目的、なんですか……」

 

 自分にこのようなことをして、この怪物になんの得があるのか。リリアーナはそう問いかける。

 

「何も? ただ……その()()を捨てるのはやめなさい」

 

 ドクン、と胸が高鳴るのがわかった。

 

 何故。何故この怪物が知っている。香織たちにしか話さなかった自分の気持ちを、こんな化け物が、何故。

 

「アレは守るものが増えるほど磨かれる類の愚か者。愚かさは時として成長への糧となる。故に貴女には、あの男の枷としての役割があるの。お分かりになって?」

「どう、いう……」

「せいぜい踊りなさい、可愛らしいお姫様。そして……私を楽しませてくださいな」

 

 スッと怪物はリリアーナから離れる。

 

 その瞬間、素早くリリアーナは後ろを振り返り……だがそこには誰もいなかった。

 

「……何が………」

 

 まるで最初から幻だったかのように自分一人の部屋を見て、リリアーナは呆然と呟いた。

 

 

 

 

 

●◯●

 

 

 

 

 

 深夜、リリアーナとバイアスの婚約パーティーが開かれている帝城の一角。

 

「今頃、貴族やお偉い様たちはパーティーか。美味いもん食ってんだろうなぁ」

「おい、無駄口たたくなよ。バレたら俺もどやされるだろうが」

 

 地下牢がある建物の外周部で、魔法を用いた松明擬きを片手に巡回している帝国兵たちがいた。

 

 怠そうにぼやく彼らは、時折明かりの漏れる帝城の窓を見上げ、職務中の自分たちと比べて嘆息する。

 

「でもよ、お前も早く出世して、あそこに行きたいと思うだろ?」

「そりゃ、な。あそこに行けるくらいになったんなら、金も女も困らねえだろうしよ」

「だよなぁ。パーティーで散々飲み食いして、あとはお嬢様方と朝までしっぽりだろ?この世の天国じゃん。あー、こんなとこでつまらない巡回なんかしてねえで女抱きて〜。兎人族の女がいいなぁ〜」

「お前、本当好きだなぁ。亜人族の女は皆いい体してっけど、お前、娼館行っても兎人族ばっかだもんな」

「あいつらが一番いい声で泣くからな」

「趣味わりぃな……」

「何言ってんだよ。兎人族って、ほら、イジメてくださいって感じがあるだろ?俺はそれを叶えてやってんの。お前だって何人も使い潰してんだろ」

「しょうがねぇだろ? いい声で泣くんだから」

 

 顔を見合わせ、下品な声で笑う二人の帝国兵。

 

 これがこの国の常識だ。彼らにとって亜人族は単なる道具、そうである以上は配慮などあるはずがない。

 

 そんな風に退屈さを紛らわせていると、ふと片方が物陰へと目をやった。そこで何かが動いた気がしたのだ。

 

「おい、今何か……」

「あ?何かあったか?」

 

 松明で物陰を照らすため、ゆっくりと歩み寄っていく兵士。相棒も首を傾げつつ、それについていく。

 

 先行した兵士がバッ!と、人が一人通れるかどうかの物陰を照らし……何もないそこに舌打ちした。

 

「んだよ、気のせいか。マウル、さっさと行こ……」

 

 そうして振り返った時。そこに先ほど一緒に馬鹿笑いしていた相方はいなかった。

 

 所在なさげに松明が時点に転がっているだけで、影も形も無い。兵士は薄気味悪さを覚えた。

 

 冷や汗を額に浮かべながら、相棒が持っていた松明を地面から拾い上げ、光が照らす場所を大きくする。

 

「おい、何悪ふざけしーーんぐっ!?」

 

それが命取りだった。

 

 背を向けた物陰、そこから不可視の両手が伸びたかと思えば兵士の口元を押さえ、影の中に引き摺り込む。

 

 何が起きたのかわからずに混乱する兵士の鉄兜に、トンと何かが当てられるような感触がした。

 

 

シャキンッ!

 

 

「がっーー」

 

 次の瞬間、一直線に鋭いものが兵士の頭を鉄兜ごと貫く。

 

 脳を串刺しにされた兵士は、一瞬身体を飛び跳ねさせた後に永眠した。その亡骸を透明の何かは闇の中に引きずっていく。

 

 後に転がっていた、二つに増えた松明も瞬く間に消え。そして道には血の匂いが混じった風が吹いた。

 

 その風に紛れ、監視を始末した者達は手に装着した装置を起動し、仲間へと暗号化されたメッセージを送る。

 

〝HQ、こちらアルファ。Cポイント制圧完了〟

〝アルファ、こちらHQ。了解。E2ポイントへ向かえ。歩哨四人。東より回りこめ〟

〝HQ、こちらアルファ。了解〟

 

 トータスの文字ではない、楔文字のような赤いホログラムで会話を交わしたその者……捕食者(プレデター)達は〝狩り〟を進めた。

 

 もし彼らの姿を見る者がいたら、こう言うだろう。〝奇妙な鎧を着た変な髪型のウサミミだ〟と。

 

 透明化の上に、極限まで気配を消した狩人(ハウリア)達は建物の影に身を潜め、こっそりと様子を伺う。

 

 送られた情報にあった通り、そこには互いが見える位置で二人ずつ歩哨がいた。

 

 通信をしていたうちの一人がハンドサインを行うと、背後にいた残りの三人が音もなくその場を去った。

 

「……!」

 

 ほんの数十秒の後、残っていた一人のヘルメットの中に三人分の〝配置につきました〟というメッセージが。

 

 受け取った一人が後ろの二人にハンドサインで示し、そして狩人達は密かに動き始める。

 

 所定の位置につき、そして二人組が互いに互いを視界の外に置いた、その瞬間。

 

「シッーー」

 

 両組に向けて残忍のプレデター達が音もなく忍び寄り、一人が背後から兵士の口と鼻を押さえ、反応を封じる。

 

 そして、遠距離から狙える代わりに音が出るプラズマキャノンを使わず、残りの二人がリストブレイドで顎下から頭部まで貫いた。

 

 先ほどの巡回達同様、脳を破壊された兵士たちは一瞬にして絶命し、手から松明を取り落とす。

 

 地面に落ちる前にそれを拾い上げ、プレデターたちは再び闇の中へ死体と共に紛れた。最初からいなかったように。

 

 

 

 このような暗殺は、現在進行形で帝城の至る所で行われていた。

 

 

 

 与えられた装備と自らの技能、そして師匠から叩き込まれた暗殺術を用い、確実に、少しずつ敵の数を減らしていく。

 

 否、もはや敵とは呼べまい。見えないものを感じ取れすらしない帝国兵たちなど、案山子と何ら変わらないのだ。

 

 装備を由来にそう師匠たちから呼ばれていた彼らは、今や名実ともに立派な捕食者(プレデター)なのだから。

 

 今宵の空に浮かぶのは繊月。別名〝二日月〟と呼ばれる、新月の翌晩に昇る極細の月である。

 

 それはまるで、悪魔が浮かべた笑みの如く。夜空が嘲笑っているかのようではないか。

 

 

 

 

 

 強者と驕った者達がかつて最弱だった狩人たちによって狩られるという、滑稽な今宵に実に相応しかろう。

 

 

 

 




次回はパーティー。
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