エボルト「クク、いい感じに仕上がってるな」
シア「ああ、私の頭を優しく撫でてくれた父様や、優しかったみんなは一体どこへ…」
ハジメ「諦めろ。さて、今回は前回の続き、内容的には後半といったところか。それじゃあせーの、」
四人「「「「さてさてどうなる帝国編!」」」」
三人称 SIDE
「交渉……だと?」
「正確には契約、といった方がいいかな?」
また部下の首を飛ばされては叶わないと、慎重に喋るガハルドに冷徹な目で答えるカム。
「それは〝誓約の首輪〟という。ガハルド、貴様が口にした制約を、貴様と貴様に連なる者の命をもって厳守させるアーティファクトだ。守らなくても、違えても死ぬ」
淡々と自分の首にかけられた物の説明をされ、ガハルドの頬に冷や汗が伝う。
何故ならそれは、言外に既に他の皇族達も確保しているという意味を含んでいるのだから。
このアーティファクトは、ハジメが魂魄魔法と生成魔法を使って作り出したものである。
このネックレスを着けたものが口にした誓約を魂に刻み、それに外れた行動、言動をした場合に対象者の魂を消滅させる。
またこれは、ガハルドに連なる魂を持つ者……つまり血族にも効果があり、当然彼らも誓約を破れば待つのは死だ。
彼らが皇族である限り、そしてこの世界にいる限り、末代まで解けない呪いの品そのものである。
なお、某取り立て屋のスタンド的なデザインのものもあったが、シュウジがさりげなく改修した。
「誓約は四つ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守」
「何……?」
「理解したな?では〝ヘルシャーを代表して約束する〟と言え。それでアーティファクトが発動する」
「呑まなければ?」
「帝国が滅ぶか、我々が滅ぶその日まで、永遠に将校達の首が飛ぶことになるだろう。あるいはその親、子供、親戚、愛する者、全てのな。泥沼の暗殺劇だ」
「ハッ、帝国を舐めるなよ」
先ほど三つも首が飛んだにも関わらず、強い口調でガハルドはカムを笑った。
「たとえ俺たちが死のうとも、帝国が簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海に侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼす。お前だってわかっているだろう? 樹海を進むのはそう難しくない」
「だろうな。亜人の奴隷を使うか、あるいは森そのものを焼き尽くしてしまえば霧など意味がない」
「そういうことだ。今までフェアベルゲンを落とさなかったのは、
森が畑であれば、収穫するのは亜人たち。非人道的な言葉であるが、彼らにはそれを是とする力がある。
力こそ正義、勝者こそ強者。死んだ者にも倒れた者にも何かを口に出す資格はない。そして今度こそ、亜人は根絶やしにされる。
そう脅しをかけられたカムはーーだが、あいも変わらず平然とした表情だった。
「今ならまだ間に合うぜ。この短時間で帝城を俺たちより知り尽くし、俺を倒したその連携と技能、滅ぼすには惜しい。俺専属の部隊として飼ってやるぞ?」
「論外だ。貴様の言うことなど一つとして信用に値しない。それこそ、〝誓約〟でもせねばな」
「ならば仕方がない、戦争だ。俺は絶対誓約など口にしない」
こちらの要求を飲まなければ折れることなどあり得ないと、そうどこまでも傲慢に吐き捨てるガハルド。
(たとえこの場にいる全員が死のうと、帝国の裏には
ガハルドの心の中には、ある一点の望みとまではいかないまでも、カムたちに勝るあてがあった。
今から一ヶ月前、あっという間にこの帝国を裏から支配した組織。彼らも帝国が滅んでは損失のはずだ。
〝奴〟の持つ怪物や兵器があれば、あるいはこの恐ろしい兎人族でも……と。
「そうか。なら
ガハルドの態度に嘆息したカムの対応は、やはり〝減点〟であった。
また別の場所にスポットライトが当てられ、そこに一人の男が暗闇の中から引き摺り出される。
「離せェ! 俺を誰だと思ってやがる! この薄汚い獣風情がァ! 皆殺しだァ! お前ら全員殺してやる! 一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ! 女は全員、ぶっ壊れるまで嬲ってやる!」
それは、皇太子バイアスであった。
汚らしい喚き声を上げるバイアスの声に混じってちらほらと息を呑む音が聞こえる中、バイアスを拘束しているプレデターが動く。
鉄鋼の側面に装着された、リストブレイドよりも更に長いものが首筋に当てられ、振り上げられたその時。
「ああ、ちょっと待ってくれや」
ハウリア達以外の、声が響いた。
一部を除き、誰もが驚く。今この場で彼ら以外に口をきけるものが、まだいたというのか?と。
そんな中、コツコツという足音と共にスポットライトの下に現れたのは……軍服を着た、二人の兄妹。
「お、お前達は……!」
「やっほー、皇太子さん」
「無様な格好やな、バイアス」
ハクと、ソウ。
意外すぎる人物の登場に、大半の彼らを知らぬ者は困惑し、ハジメ達でさえも眉を潜め……シュウジが一人、嗤う。
(来た!)
対して、ガハルドの心には期待と希望が生まれていた。
絶対強者としての自信を持つ彼だが、それでもなお内心では素直に喜ぶほどに彼らは頼もしいのだ。
つまりガハルドは、あの兄妹を
「ちょ、丁度いい! おい貴様ら、俺を助けろ! 〝ファウスト〟の奴らだろう!? だったらーー!」
「は? 嫌やけど」
「お断りするわー」
「「………は?」」
だからこそ、無関心そうに拒絶した二人にバイアス共に間抜けな声を上げた。
「なんや、都合のいい勘違いしてるみたいやけどな。俺たちがここにいるのは……」
「お前の首が飛ぶところを、ちゃあんとこの目で見るためやで、お馬鹿さん♪」
「なん、だと……」
「お前はもういらんらしくてなぁ。だから……これは予定調和や」
ハクの言葉に、まさかとガハルドはカムを睨みつけるように見上げる。
カムは何も言わなかったが……ただ、悪魔のように口を裂き、ニィイイとガハルドに向かって笑った。
その瞬間ガハルドは悟った。彼らは、自分が希望を見出していた〝組織〟とすら繋がっているのだ、と。
「……おい、シュウジ」
「ん? どしたよハジメ」
「……いや、なんでもない」
その場から離れたところで、小声で話す二人組がいたが……放心状態のガハルドには聞こえていない。
「それに……お前には俺たちの
「う、恨みだと…?」
「ま、あんたは覚えてないと思うけどね、皇太子さん」
バイアスを見下ろし、二人は怒りを内包した声音で話し出す。
その口調から、いつの間にか軽薄な関西弁モドキは消え失せていた。
「お前が嬲ってくれた亜人族の中にはな……ウチらの母親代わりのような人もおったんや」
「な、何?」
「そんな複雑な話でもない。成功して金を持ってた冒険者の男が、ガキの世話をさせるために奴隷を買った。で、たまたまその奴隷を気に入った皇太子に金を積まれた男は、あっさりとその奴隷を売った」
「彼女は亜人だったけど、私たちは本当の母のように慕っていた。だから男を……父から吸収できる全てを手に入れた後に殺して、そして貴方への復讐も誓ったの」
「そ、そんな理由で……!」
「お前にとってはそうだろうな。だが……街の外れに打ち捨てられていた彼女の、散々に嬲られた亡骸を見た時の俺たちの気持ちが、お前などにわかるものか!」
「あの日に私たちは誓った!何をしても、どんな汚い手段に手を染めても、貴方が絶望の中で死ぬ様を見てやるって!」
最初の頃とは比べ物にならないような激情に満ち溢れた声で、バイアスに向かって二人は叫ぶ。
それを聞いて、大半の者は首を傾げただろう。バイアス同様に、たかが亜人一人のためにこんなことを?と。
また、静かに様子を見守っていたハジメは、ようやく彼らがこの国にいた理由を……門で話した時に見たハクの〝目〟の意味を察した。
そんな彼らが見守る中で、一度深呼吸をして気持ちを落ち着けた二人は、再び無表情でバイアスを見下ろす。
「だから俺たちは組織の兵器となり、この場に立つための力を手にした。そして今、悲願が成就する」
「それじゃあさいなら。馬鹿で愚かで間抜けな、皇太子殿下?」
「き、貴様ら、絶対に許しぐぇーー」
最後まで言い切る前に、バイアスの首は宙を舞った。
プレデターハウリアは腕を振り切っており、血飛沫を上げて体が倒れた後に首が落ちてくる。
コロコロと転がってきたそれを、ハクは踏んで止め……ソウと共に、返り血の飛んだ顔で笑った。
「なんだ、呆気ないな」
「こんなのに人生賭けてたんか、うちらは。あーアホらし」
バイアスの死体を見下ろしたまま、その場から動かない二人から目線を外し、カムは静かなガハルドを見下ろす。
心から次代皇帝を侮辱した二人の言葉。しかしガハルドは声も上げず、表情すら変えていなかった。
「やはり息子の首が飛んでもその顔か。元より貴様に子供への愛情などないのだろうな」
「……いくら煽ったところで、俺は絶対に誓約などしない。皆殺しにされようと。怒り狂った帝国に押し潰されるがいい」
「ふむ。まあ、想定通りの反応だ。流石は身内で殺し合いをして皇帝を決めるような一族だ」
カムの言葉に、ガハルドは肯定も否定もしなかった。
ヘルシャー帝国の皇族は、皇帝の座を賭けて身内での決闘が認められている。その中でたとえ相手を殺してもいい。
何故なら、それは死んだ方が弱いから悪いことになるのだ。弱肉強食の帝国を体現した決まりである。
何十人といる側室の一人の子であるバイアスとて、それに勝ち抜いたから皇太子になったまでのこと。
そんな子供達にガハルドは人並みの愛情を抱いていないという噂があるが……まさにそれが証明されたような反応だ。
「わかっているなら、無駄なことはやめるんだな。お前達にあるのは恭順か、死だ」
「まあ、そう結論を急ぐな。どうしても誓約はしないか?全員死ぬまでハウリア族を追い回し続けるのか?」
「くどい」
「……そうか。残念だよ」
意見を変えぬガハルドに、カムはガントレットを操作する。
空中に浮かんだ楔文字のような赤いホログラムを操作するカムに、ガハルドは怪訝な顔をした。
「おい、一体なにを……」
「……さて、ガハルド。私の言葉を覚えているかな?」
ガハルドの質問に答えることはなく、操作を終えたカムは腰の後ろで両手を組んだ。
ますます訝しむガハルドの前で、二人のハウリアが降りてくる。そしてガントレットを操作し、映像を空中に投影した。
ガハルドに見える位置に展開されたそれには、帝国のどこかと思しき場所が映し出されている。
「慎重に言葉を選べ、と言った。結論を吟味しろと。それができない場合はーー」
「ーーッ! おい、待て! やめっ!」
「ーー〝減点〟だ」
次の瞬間、映像の中で大爆発が起こり、パーティー会場に腹の底を叩かれるような轟音と衝撃が伝わってきた。
歯を食いしばってそれに耐えたガハルドは、バッ!と映像を見て……燃え盛る光景に目を見開いた。
「貴様、どこを爆破した!」
「奴隷の監視用の兵舎だ。数百人くらいは吹き飛んだだろう。お前のせいでな」
「ふざけるな! 貴様がやったことだろう!」
「ふむ。どうやらガハルド、お前はあまり理解力がよろしくないようだな」
カムが片手を顔の横に上げ、軽く開いた拳をグッと握る。
ハウリア達が映像を切り替え……そして僅か0.5秒後、先程と全く同じように爆発と轟音、衝撃が鳴り響く。
「……今度はどこを爆破した?」
「治療院だ」
「なっ、てめぇ!」
「安心しろ。爆破したのは軍病院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ……ああ、あと一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区などにも仕掛けてあるぞ? ん?」
「一般人にまで手を出しやがって……! 堕ちるとこまで堕ちたか、ハウリア!」
「……貴様らは、亜人というそれだけで散々迫害してきただろうに。被害者になった途端善人面か。見当違いも甚だしい」
「待てっ!」
ガハルドの静止も聞かず、それどころかもはや見せる必要もないと言わんばかりに映像が切られた後に拳が握られる。
三度の爆発音と衝撃に、ガハルドは帝国民が建物ごと吹っ飛ばされたと
もっとも、実際に破壊されたのは帝城の跳ね橋である。一番大きな脱出路を奪ったのだ。
更に言えば、爆発源のガントレットはシュウジから与えられた数がそこまでないため、多くは設置できない。
しかも近くから別の端末で操作する必要があるため、先ほど列挙したような場所にまでは設置できていないのだ。
だが、事実はどうあれガハルドが思い込む、それだけで十分なのである。
「ふむ、確かこう言ったか? 〝俺は絶対に誓約などしない、と〟」
「ッ、それがどうした……!」
「0点だ。減点を通り越して失格だよ、ガハルド。ならば望み通り、帝国全てを木っ端微塵にしてやろう。貴様とここにいる者達への手向けだ、喜べ」
もはや完全にテロリストの発言である。
一体誰が彼らを無慈悲で冷酷なプレデターへと変えたのか……会場の隅で一人の男に視線が集まった。
無論、本人は彼女ら…特に若干一名…をスルーして、いつもと同じ形の色違いの白い帽子を被って無理矢理目線を切った。
「……………」
脂汗を流し、即答できずにいるガハルドの頭の中では目まぐるしい速度で打開策が検討されていた。
帝国民が人質に取られている。ファウストは味方ではない。他に頼れるものも直ぐには来ず、手詰まりだ。
追い詰められ、苦悶の表情をするガハルドに、しかしカムは全く容赦などしない。
「どうやら心は決まったようだな。では……」
「待てッ!」
拳を握りかけたカムに、ガハルドが慌てて制止の声をかける。
そして、苛立ちと悔しさを振り払うために頭を床に打ち付けると、顔を上げて叫んだ。
「かぁーー、ちくしょうが! わーたよっ! 俺の負けだ! 要求を呑む! だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」
「それは重畳。では誓約の言葉を」
要求が通ったというのに、カムは笑顔の一つも浮かべず、事務的に最初の言葉を繰り返した。
ガハルドは苦笑いしながら、肩の力を抜いて、会場にいる生き残り達に向かって語りかけた。
「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。……帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを示した。民の命も握られている。故に、〝ヘルシャーを代表してここに誓う! 全ての亜人奴隷を解放する! ハルツィナ樹海には一切干渉しない! 今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する! これを破った者には帝国が厳罰に処す! その旨を帝国の新たな法として制定する!〟文句がある奴は、俺の所に来い! 俺に勝てば、あとは好きにしろ!」
その言葉は、これまで通りにしたければ俺を殺せ!ということだ。実力主義国家にふさわしい言葉である。
そんな彼の宣言が終わった後に、また一つスポットライトが当てられ、皇族一族が勢揃いして照らし出された。
その首には一様に、ガハルドと同じものがかかっている。埋め込まれた赤い宝玉は輝いていた。
「ふむ、しっかりと発動したようだな」
「ケッ、コレで満足かよ」
「ああ。ヘルシャーの血を絶やしたくなければ誓約は違えないことだ」
「わかっている」
「明日には誓約の内容を公表し、帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ。あくまでそれが第一段階だ」
「明日中だと? 帝都にどれだけの奴隷がいると思って……」
「やれ」
開いた拳を見せるカムに、ガハルドは「クソッタレ」とぼやきながら了承した。
「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」
「一人でか? 普通に殺されるんじゃねぇのか?」
「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」
「はぁ…わかったよ。お前らが脱獄した時から、何となく嫌な予感はしてたんだ。そもそも、最初から捕まったこと自体がおかしかったがな……」
ガハルドは、もはや全てに降参だと言わんばかりに笑った。
そして、この事態の元凶である者達に悪態をつこうとしたーーその時。
「ぐぁッ!?」
「がッ!?」
突然、カムの後ろにいたハウリアたちが苦悶の声を上げた。
まだだ、まだ終わらんよ。
感想をくれると嬉しいゾ。