星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はハジメサイドです。
原作とかなり違いますが、ご容赦を。

シュウジ「さて、前回は女神様から衝撃の事実を知らされて、んでその後ルイネとの対面だな」

ルイネ「どうも、紹介に預かったルイネだ」

エボルト「よお、来たかルイネ。あっ、俺はおなじみエボルトです。今日も元気ハツラツオロナ◯ンCだぜ。え、誰も聞いてない?はは、そんなわけないだろ」

シュウジ「いや誰も聞いてないぞ」

ルイネ「うむ」

エボルト「なん…だと……!?まあいい、今回はハジメの話だな」

シュウジ「みたいだな。どうなることやら…それじゃあせーの、」

三人「「「さてさてどうなる迷宮編!」」」


喪失

  意識が戻ったとき、最初に聞こえたのはザァザァと水の流れる音だった。冷たい微風が頬を撫で、冷え切った体が身震いした。

 

「うっ……」

 

  ゴツゴツとした感触と、下半身の小さい頃、冬場にシュウジと大雪の中半ズボンで遊びまわって帰った後みたいな感覚に、うっすらと目を開けた。

 

  ぐ、意識が朦朧としてる。それに全身が痛い。思わず眉を寄せながら、僕は両腕に力を入れて上半身を持ち上げた。

 

「いつつ、頭痛が。ええと、僕は確か……」

 

 ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回す。幸い、緑光石のお陰でうっすらと見える。

 

  今僕は、幅五メートル程の川の中におり、下半身が浸かっているようだった。服の裾が、突き出た川辺の岩に引っかかってる。

 

  次に上を見上げると、真っ暗な穴が見えた。どうやらあそこから落ちてきたようだ。途中なんども体をぶつけたから、きっと横穴の一つにでも運よく落ちたんだろう。

 

  立ち上がりながら服の裾を外し、僕は身震いした。ううっ、寒い。確かポケットの中にシュウジからもらったライターがあったっけ。

 

「あいつなんでも作れすぎだろ……へっくし!さ、寒い……」

 

  言いながらポケットからライターを取り出し、川から上がって服を絞った。そしてそのまま脱いでいく。

 

  パンツ一丁になると、〝錬成〟して地面から器を作り出し、そこに適当に石ころを放り込む。そして石にライターを使った。

 

  このライター、どんなものでも火がつくというわけのわからない代物である。相変わらずシュウジの技術は謎だ。

 

「うわ、ブレードに水が……」

 

  錬成で椅子を作り出しながら、持ち物の点検をした。幸い、スチームブレード改は防水加工してあったようで無事だった。

 

  だが、鍛えられていた全員に支給されていた携帯のほうはボコボコにぶっ壊れていた。これじゃあ連絡を取るのは無理か。

 

「それにしても、ここどこだろう。まあ奈落の底なのは確実だろうけど、近くにシュウジがいればいいな…」

 

  いくら小さい頃からの訓練と、ハザードレベルである程度の強さがあるとはいえ、何がいるかわからないところで一人で動くのは危険だ。

 

「とりあえず、シュウジと合流することにしよう」

 

  そしたら、地上に戻る。いつまでも美空を放ってはおけないしね。例えば坂上くん的な意味で。あのドルオタ何もしてないだろうな。

 

 ラビットエボルボトルをいじって時間を潰し、二十分ほど暖をとると服もあらかた乾いたので、出発することにする。

 

  どこの階層かは知らないが、いつ魔物が出てもおかしくないので、とても慎重に奥へと続く巨大な通路に歩みを進めた。

 

「うーん、いかにも迷宮って感じだな」

 

  ブレードを手に、周囲を警戒しながら通路を進む。形状は洞窟そのもので、一本道では無くうねうねしてる。あの罠のあった最後の部屋への道みたいだ。

 

 ただし、大きさは比較にならない。通路の直径は優に二十メートルはある。狭い所でも十メートルはあるのだから、相当な大きさだ。

 

「その分、隠れる場所も多いから良いんだけどね」

 

  岩や壁がせり出しているので、それに身を隠しながら進んでいく。安全第一、魔物に見つかりませんように、と思いながら。

 

  しばらく歩いていると、分かれ道にたどり着いた。巨大な四辻である。岩の陰に隠れながら、どの道に進むべきか逡巡した。

 

「ん、何かいる……?」

 

  暫く考え込んでいると、視界の端で何かが動いたので、岩陰に身を潜めて、顔を少しだけ出して様子を伺った。

 

  すると、僕のいる通路と真正面の道で、白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。

 

「……デカくない?」

 

  見た目はウサギなんだけど、大きさが中型犬くらいある。後ろ足がやけに大きく発達していて、赤黒い線が血管のように脈打っていた。

 

  うん、あれ明らかに関わっちゃいけないやつだ。正面の通路は諦めて、右か左の通路に進むほうがいいだろう。

 

  飛び出すタイミングを見計らい、様子を伺う。そしてウサギが後ろを向いた瞬間、立ち上がって駆け出そうとした。

 

 その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスっと背筋を伸ばし立ち上がる。警戒するように、耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

  バレたか、そう思ってすぐさま岩陰に戻った。心臓がうるさいくらいに高鳴っており、この音があの耳に届く錯覚さえ覚える。

 

 

 グルゥア!!

 

 

  しかしそのとき、また新たな声が聞こえた。今度はなんだと嫌な顔しながら、そっと岩陰の向こうを覗いてみる。

 

  すると、これまた白い毛並みの狼のような魔物が、ウサギ目掛けて岩陰から飛び出していた。遅れてさらに二匹でてくる。

 

 その白い狼は、大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っていた。

 

「……赤黒い線が最近の魔物の流行なんだろうか」

 

  今年のトレンドは赤黒い線、より鮮やかな線の方が美しい!みたいな。ないか、うん、絶対ないな。何考えてんだ僕。

 

  こんな状況なのに、シュウジとエボルトに毒されているなと思っていると、いつの間にか音が止んでいた。

 

  どうなったかと、恐る恐る見てみると、ウサギの足元で狼たちはお陀仏になっていた。頭がひしゃげていたり、粉砕されている。

 

 対するウサギは、

 

「キュ!」

 

 と、勝利の雄叫び?を上げ、耳をファサと前足で払っていた。そこからは勝者の余裕が見て取れる。

 

 乾いた笑みを浮かべながら、僕は覗いたまま硬直していた。ヤバイなんてものじゃない。あれ戦ったら死ぬやつだ。

 

 思わず、無意識に後退してしまう。それが、自分の命運を分けるとも知らずに。

 

 

 

 カラン。

 

 

 

 

「っ!?」

 

  そんな音が、洞窟内にやたらと大きく響いた。バッと足元を見ると、足先に当たった小石がコロコロと転がっていくところだった。

 

  あまりにベタで痛恨のミスである。額から冷や汗が噴き出てきた。小石に向けていた顔をギギギと油を差し忘れた機械のように回してウサギを見る。

 

 

 …………………。

 

 

 ウサギは、ばっちりこっちを見ていた。

 

 赤黒いルビーのような瞳が僕を捉え、細められている。蛇に睨まれたカエルとはこのことか。全く体が動かない。

 

 そうしているうちに、首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとこちらを向き、足をたわめ、グッと力を溜めた。

 

  くる、そう悟った瞬間、僕の体は自動的に動き始めた。小さい頃からシュウジに鍛えられた恩恵だ。

 

 

《ラビット!》

 

 

  ほんの刹那の時間でブレードのスロットにラビットエボルボトルを挿しこみ、体を横にそらしてブレードを構えた。

 

  次の瞬間、ウサギが後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してくる。そして唸りを上げて蹴りが襲いかかってきた。

 

  咄嗟の行動が功を奏し、ウサギの蹴りはブレードと接触して逸らされる。火花が散り、腕に凄まじい負担がかかった。

 

「ぐぅおおおおおっ!」

 

  しかし、僕は腹の底から声を張り上げて、それを耐えしのいだ。ウサギが体の横を通過し、背後で爆裂音が鳴る。

 

  痺れたブレードを持つ右腕を抑えながら、後ろを振り返る。すると、爆発して抉れたような地面の上でウサギが停止していた。

 

  その隙にバックステップで距離を取り、痺れが薄れてきたブレードを構えて臨戦態勢をとる。

 

  危なかった。とっさにラビットエボルボトルでブレードを振る速度を上げてなければ、今頃あの狼たちの仲間入りをしてた。

 

「自分の脳みそが吹っ飛ぶところなんて、想像もしたくないよ……!」

 

  そう悪態をついていると、ゆらりとウサギが振り返る。するとそのルビー色の瞳には、驚きと怒りが浮かんでいた。

 

  多分、相当自分の蹴りに自信を持っているんだろう。それが防がれたことに、屈辱を感じたのかもしれない。

 

  でも、あいにく僕も死ぬわけにはいかない。八重樫さんじゃないけど、地上に戻って美空を幸せにするまでは死ねないんだ。

 

「フゥ………」

 

  深く息を吐き、半身を引く。そしてシュウジから教わったとある〝技〟を使う体制に入った。蹴りウサギも足をたわませる。

 

 

 ドンッ!!!

 

 

  またも突進してくる蹴りウサギ。蹴りウサギの体格からして、ミドルキックのような位置から脚が迫った。

 

「フッ!」

 

  そして、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。驚いたように目を見開くウサギ。

 

  しかしマグレだと思ったのか、飛び退ってまた突進してきた。それに備えて、またブレードを構える僕。

 

  蹴りウサギが肉薄し、今度は上からのかかと落としが落ちてきた。また同じ速度でブレードを振るい、いなす。

 

 

 キュッ!?

 

 

  流石に二度目ともなるとマグレとは思えないようで、飛び退った蹴りウサギは警戒するように目を細めた。

 

「フゥ……」

 

  対する僕は、また深く息を吐いてブレードを構える。そしてさあ、どこからでもかかってこいと蹴りウサギを睨んだ。

 

  この技の名は、〝阿吽〟。阿吽の呼吸ということわざの文字通り、相手と同じ速度で攻撃を当てる防御術の一つだ。

 

  先ほどの戦闘で、だいたいの蹴りウサギの速度はわかった。あとはそれに、どれだけ僕がついていけるか。

 

「さあ、根比べといこうじゃないか…!」

 

 

 キュキュゥッ!

 

 

  そうして、僕と蹴りウサギの戦いは始まった。蹴りウサギは縦横無尽に飛び回り、様々な角度から蹴りを放ってくる。

 

  そのことごとくを、僕は〝阿吽〟で防いだ。たまに受けきれなくて掠り、裂傷が体に刻まれる。

 

  それでも死んでなるものかと、全力で応戦した。冷静に蹴りを見極めて、目を見開いて蹴りウサギを追いかける。

 

 

 キュキュッ!

 

 

  すると、ならこれはどうだと言わんばかりに、突進してきた蹴りウサギは()()()()()()()()()()()()

 

「固有魔法か……!」

 

  いよいよ本気を出してきたなと思いながら、手汗とともにブレードを固く握りしめる。やってやろうじゃないか。

 

 

 キュゥッ!

 

 

「ぐぅっ!」

 

  鋭い回し蹴りを、腕が折れる覚悟で全力で受け止める。ブレードの腹に手を添えて、ようやく受け止められた。

 

「どうだ……!」

 

 

 キュゥ……!

 

 

  やるな、と言わんばかりに蹴りウサギが目を細める。また僕から離れると、ここからが本番だと言わんばかりにさらに激しい猛攻が始まった。

 

  空間を蹴った変則的な蹴りが加わり、苛烈になっていく蹴りウサギの攻撃。速さもどんどん増していき、被弾する回数が増えた。

 

「負けて、たまるかぁっ!」

 

 

 キュウウウウッ!

 

 

  それでも歯を食いしばって、蹴りウサギに立ち向かった。蹴りウサギも意地なのか、息を切らしながら突撃してくる。

 

  それは、誰かが見れば滑稽な光景だっただろう。傷だらけの男とウサギが戦っているのだから。

 

  でも、僕たちは互いの死力を尽くして戦っていた。生きるために、あるいは誇りのために。何度も、何度もぶつかり合う。

 

 やがて……

 

「はぁあああっ!」

 

 

 キュッ……!

 

 

  勝ったのは、僕の生きようとする意思だった。最後の力で繰り出した蹴りが蹴りウサギに入り、吹っ飛んでいく。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

  ゴロゴロと転がっていく蹴りウサギを見ながら、僕はブレードを手放して地面の上に大の字に倒れた。息は荒く、目眩が酷い。

 

  それでも、勝った。生きようと、生きたいという僕の気持ちが、蹴りウサギを倒した。どこか、達成感が込み上げてくる。

 

 

 キュッ

 

 

  そうして、どれだけ倒れていただろうか。気がつけば、頭の横に蹴りウサギが立っていた。息も絶え絶えに、そちらを見る。

 

  すると、蹴りウサギの目にもう敵意はなかった。むしろ友好すら感じる柔らかい光が宿っている。

 

「えっと……」

 

  困惑しながら上半身を持ち上げると、蹴りウサギはスリスリと体を擦り付けてくる。えっと、懐かれたんだろうか、これ。

 

  試しに頭を撫でて見ると、キュキュッ!と嬉しそうな声を出した。あれか、へっ強いじゃねえかお前、認めてやるよ的な感じか。

 

 

 キュキュッ!

 

 

「あはは、そんなに飛び回らなくてもーーっ!?」

 

  体の周りを飛び回る蹴りウサギに苦笑していると、不意に空気が変わったのを肌で感じ取った。とっさに起き上がってブレードを持つ。

 

  横を見ると、蹴りウサギもまるで何かを恐れる、あるいは怯えるように体を震わせて右の通路を睨んでいた。

 

 

 ハァアアアア………

 

 

 そして、〝ソイツ〟は現れた。

 

 

 その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に、白い毛皮。例に漏れず、赤黒い線が幾本も体を走っている。

 

  その姿は、例えるならば熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

 その爪熊が、瞬く間に接近しており、蹴りウサギと僕を睥睨していた。血走った爪熊の目に、体が凍りつく。

 

  辺りを静寂が包む。喉の奥から「あ………」という掠れた声が出た。そして本能が、コイツには勝てないことを告げる。

 

 

 ……グルルル

 

 

 と、この状況に飽きたとでも言うように、突然、爪熊が低く唸り出した。それにようやく、ハッと我に帰る。

 

  そしてもう一度爪熊の目を見て……その瞬間、悟った。この爪熊が、僕たちを見て何を考えているのか。

 

 

 すなわち、エサを見つけた、と。

 

 

「うぁあああッ!!」

 

 その捕食者の目に、僕は悲鳴をあげてしまった。ダメだ、ダメだ、ダメだ!コイツの前にいちゃダメだ!早く、早く逃げないと!

 

 

 ゴウッ!!

 

 

 だが、そう思った時には遅かった。

 

  風がうなる音が聞こえると同時に、強烈な衝撃が体左側面を襲った。そして、そのまま壁に叩きつけられる。

 

「がはっ!」

 

 肺の空気が衝撃により抜け、咳き込みながら壁をズルズルと滑り崩れ落ちた。揺れる意識の中で、蹴りウサギの鳴き声が聞こえる。

 

「ぐ、ぁ……っ!」

 

  衝撃に揺れる視界で何とか爪熊の方を見ると、爪熊は何かを咀嚼していた。それを見た瞬間、時が止まる錯覚を覚える。

 

  あ、あれ?おかしいな。爪熊は、何を食べてるんだろう。どうして、あの腕には見覚えがあるんだろう。

 

  理解できない事態に混乱しながら、僕は何故かスっと軽くなった左腕を見た。それが、逃げていた現実を直視することだと知りながら。

 

「あ、あれ?」

 

  そこに、僕の腕はなかった。代わりにあるのは、肘から先がなくなった、血の吹き出している左腕だったものだけ。

 

  脳が、心が、理解することを拒む。嫌だ、そんなわけがない、これはただの悪い夢だ、そう無意識に自分に言い聞かせる。

 

 

 

 ズキンッッ!!!!!

 

 

 

  しかし、そんな現実逃避がいつまでも続くわけがない。夢から覚めろと言わんばかりに、凄まじい痛みが襲いかかってきた。

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああッーー!!!」

 

 自分の絶叫が、迷宮内に木霊する。それはどこかぼんやりとしていて、別の場所で響いているようだった。

 

「ああぁあああぁあああぁあっ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ!!?」

 

  ブレードを取り落とし、綺麗に切断された左腕を抑えてのたうちまわる。視界が真っ赤に染まり、口から金切り声が漏れた。

 

  鍛錬やハザードレベルによる自信は、木っ端微塵になった。恐怖で心が塗りつぶされ、惨めに地面を這い回る。

 

 

 キュゥッ!

 

 

 グルアアァアッ!

 

 

  そんな中、蹴りウサギと爪熊の声が聞こえた。涙でぼやける視界の中、そちらを向くと、蹴りウサギが爪熊の気を引いて飛び回っていた。

 

「な、にを……」

 

  痛みで思考が混濁する中、そう呟くと、蹴りウサギはこちらをちらりと見た。それに、自分が囮になるから逃げろと言っているのを悟る。

 

 

 グルアアアッ!

 

 

 キュッ!?

 

 

  だが、それを受け取るのと同時に爪熊の腕が振るわれた。片耳が切り飛ばされ、風圧で僕の目の前に転がってくる蹴りウサギ。

 

 

 キュ、キュゥ……

 

 

  小刻みに震える蹴りウサギは、僕を見て鳴き声を上げる。その姿に、僕はぐっと歯を食いしばって体を動かす。

 

  左腕の残っている部分で蹴りウサギを抱えると、這いずるように後ろを振り向いて壁に右手を押し当てた。

 

「〝錬成〟ッ!」

 

 そして、唯一の呪文を唱える。すると、縦五十センチ横百二十センチ奥行二メートルの穴が空いた。その中に体を潜り込ませる。

 

 

 グルアアアァアアァアッ!!!!!

 

 

  そとから、爪熊の苛立った声が聞こえた。次の瞬間、壁がガリガリと削られる。おそらくあの固有魔法だろう。

 

「ちくしょぉっ、〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬成〟ぇッ!」

 

 爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に叫びながら、何度も〝錬成〟を行う。そしてズルズルと奥へ入っていった。

 

  そうして錬成を、何度繰り返しただろうか。いよいよ魔力が切れて、〝錬成〟が使えなくなる。そこでパタリと手が落ちた。

 

「もう、いし、きが……」

 

  血を流しすぎたのか、意識がほとんど落ちかけている。僕は仰向けになり、気絶している蹴りウサギを手放した。

 

  ぼーっとしていると、頭の中で走馬灯が走っていく。目の前が真っ暗なせいか、やけに鮮明に移り出した。

 

  保育園、小学校、高校……次々と流れていく記憶。その中には美空に告白された日や、シュウジや八重樫さんと四人で遊ぶ記憶もあった。

 

「たす、けて………」

 

  その記憶に、右手を伸ばし……しかし、つかめるはずもなく。僕の意識は、腕が落ちたのとともに闇に飲まれた。

 

  意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じた気がしたが、それを気にすることはなかったのだった。

 




はい、ウサギと友達になりました。
原作と違ってギリギリ渡り合えましたね。
次回は引き続きハジメの話です。
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