シュウジ「やあみんな、素敵なお兄さんことシュウジだよ」ギリギリ
エボルト「いやコブラツイストされてるけど」
ハジメ「いっぺん殺す」
シュウジ「はっはっはっ、親友からの愛が重い。さて、前回は一ヶ月ぶりに心の回復を済ませて投稿したんだったな。で、今回は俺の戦いだ」
エボルト「ったく、危険なことばかりしやがって…実に俺好みじゃないか」
ハジメ「おい外道宇宙人」
エボルト「おっと。それじゃあいくぞ、せーの」
三人「「「さてさてどうなる帝国編ラスト!」」」
ポキッ
「「「あっ」」」
三人称 SIDE
「はっ!」
『ふっ!』
ずれた世界の中で、シュウジとランダの拳が激突する。
片や滅びの力を携え、片や物理的に接触できないものすら破壊する究極の剛拳。
それらがたった一秒の間でいくつも繰り出され、現実世界のハジメたちにすら衝撃を錯覚させた。
普通ならば、基本スペックは及ばないシュウジが競り負ける。
だが、しかし見事に拮抗している。その秘密はシュウジの纏う紫色のオーラにあった。
「くっ、私の力を消して……!」
『それでも出力の三割ってとこが限界だけどな。ほんと化け物だ、よっ!』
「グゥ……!」
素早く回転して繰り出された回し蹴りを、ランダは両腕を交差させて受ける。
接触の瞬間、ランダの膂力を「消して」いるエボルアサシンの能力は驚異的だった。
それ自体が装甲やスーツを形成しているので、操作が不得手なシュウジが操作できるのは僅かな力。
しかし、ほんの数パーセントの力でさえ、ランダと肉体的に互角に渡り合えるほどの力を発揮していた。
もしこれを、同じく召喚された《憤怒の獣》たるアベルが使っていたらと思うと……ゾッとするランダ。
だが……
「君は、わかっていながらその力を使っていると言ったな! それがどれだけ狂っているのかわかっているのか!?」
『ああ、わかってるさ! だが、そうしなけりゃいけねえんだから、ケツの穴引き締めて踏ん張ってんだよ!』
これほどの力を扱う代償が、ないわけがない。
先日手に入れた魂魄魔法による魂の防御、そして防護服でもあるスーツの保護によって負担は減らされている。
それでもなお、仮面の下で血涙を流すほどにはシュウジの肉体を激しい苦痛が蝕み続けていた。
「あの馬鹿野郎……!」
同じように、その極限の危険性を理解しているハジメはこれ以上ないほどの怒りにまなじりを吊り上げる。
心を支配するのは、約束を破った親友への怒りと、やはりあの時に破壊しておけばよかったという後悔。
そして……何故今、自分はシュウジの隣にいないのだろうかという、強い強い悔しさだった。
「ハジメ、天之河くんの治療はなんとかなったよ!」
「失血気味だけど、安静にしてれば平気みたい!」
「……そうか。ありがとう、美空、香織」
致命傷を受けた光輝の治療をしていた二人は、ハジメの低い声に顔を見合わせる。
彼女たちもまた、悔しさを胸に抱えていた。薄々、最近のシュウジの体のことには気がついていたのだ。
特に、ノイントの肉体に魂を入れてもらう過程で、魂魄の状態になった香織は見てしまった。
シュウジの魂に、まるで蔦のように何重にも絡みつくドス黒い力を。
その時はあまりに恐ろしくて目を背けてしまったが、間違いなくハジメに言っておくべきだった。
「シュウジ……」
「また、使っちゃった……」
「なんで、あの人はいつもっ……!」
ユエも、ウサギも、シアも、たった一人で戦っているシュウジを見て悲痛そうに言葉をこぼす。
そこにいるのに、声も、姿もあるのに、伸ばしても手が届かない。その苦しみの強さはハジメとなんら遜色がない。
なお、同じようにそれを見ているハウリア族や、特に皇帝たち帝国人は、ただ一人として動けない。
ほとんどが手足を切られていることもあるが、すぐそばでブロスたちとスマッシュが戦っているのだ。
かつての皇太子の変わり果てた姿、そして下手に動けば死ぬという恐怖が、彼らを縛り付けていた。
「平気かのう、雫殿?」
「……ええ」
そして、雫は。
誰よりもシュウジを愛し、そしてその自分を顧みない理論を知っている彼女は、ただ見守った。
帰ってきたら、ハジメたちに散々叱られたシュウジを……めいいっぱい抱きしめようと。
そう。心の中で思いながら。
《おい、あと五分だ。それで能力が切れて現実に戻る》
『わかった……!』
「はぁっ!」
『っと!』
首筋めがけて繰り出された貫手を避け、クロスカウンター気味にストレートを繰り出す。
ランダは紙一重でそれを避け、その代わりとしてたなびいた法衣の肩口が拳の纏うオーラに消し飛んだ。
これはエヒトが与えた、最上級の防具でもあるのだが……世界そのものが持つ破壊の概念には敵うはずがない。
「何故だ! 何故そこまでして、理不尽に命を喰らわれながらも戦う! 立ち続ける!」
『おいおい、今更まだ問答するってか!?』
激しく攻防を繰り返しながら、なおも叫ぶランダに激しい口調で言い返す。
シュウジの中では、既にハルツィナのフェアベルゲンで語り合った時点でランダとの決別は終わっている。
なおも、この《獣》は問おうというのか。
力を削られ、あと数分といえど逃げることも敵わない、これほどの不利な状況の中で。
まるで物語の中で何度も現れ、その覚悟をしつこく聞いてくるライバルのように。凡そ邪神の尖兵とは言い難い言動だ。
「君の守りたいものは理解した! 彼の記憶と意志を受け継ぎ、なおも己を獲得しようという不遜も許そう!」
『じゃあ、これ以上お前は俺に何を求める!』
「──賭ける覚悟の重さだ!」
渾身の一撃。
シュウジはそれを、腰を落として腕を両手で掴み、どうにか受け止める。
会場全体に響き渡るほどの大声が残響する中で、至近距離に立ったランダは仮面の奥にあるシュウジの顔を鋭く睨む。
「君は何を賭ける! 何かを得るために何を失う! その全てを、私は知りたい!」
そう。
全ては、《嫉妬の獣》などという不愉快な称号を与えられるに値する、自分の未練を断ち切るために。
かつて、一人の男に憧れた。
男は友だった。他の者よりは幾分か長命だったが、それでも定命の中で足掻く人間そのものだった。
歪められ、縛り付けられ、解放されて。
それでもなお、世界を滅ぼしかけるほどに悪への断罪を望んだ。
今は底の底まで堕落したものの、かつては悪しき神を喰らう獣だった彼女。
だからこそ、
だからこそ羨んだ。自分が持っていないそれを持つ彼のもとに集った、三人の女が。
友でしかない自分が憎らしくてたまらなかった。男の隣に行けたならばと思うほど、命の限りを感じて目を背けた。
故に。
彼女は答えを欲する。狂うほどに焦がれた男の全てを受け継いだこの人形が、何を賭けるのかを。
『──全てだ!』
そして。
彼は、北野シュウジは──女神に作り出された、かりそめの人格でしかない男は。
そう、答えたのだ。
『愛と平和のために戦った男がいた! 万人の救いを信じ、正義の味方を追い求めた男がいた! 槍に記憶も魂も奪われ、それでも誇りを忘れない獣がいた! 作られた贋作でも、その復讐を果たそうとした女がいた! 人喰いの怪物に作り変えられ、それでも守ろうとした男がいた!』
彼らは皆、強靭なカインの人格を消すために、かりそめの人格を作るために呼び寄せられた者達。
僅かながらに受け継がれた彼らの記憶が、性質が、その強い心が、シュウジの中に根付いている。
『なら! 俺のせいで消えたカインのために! 彼らのために! 俺が守りたいものを守るために、命も力も記憶も、何もかもを賭けなくてどうする!』
「全て、全て踏みにじられてもかッ!」
『ああそうさッ! 本当に守りたいもののためなら、俺ごときちっぽけなピエロの頭、どれだけでも踏みにじらせてやる!』
本当に大切なもの。
その言葉に、おちゃらけた普段では決して口にしないような熱い言葉に。
これ以上ないほどにハジメたちは溢れる無数の感情に胸を締め付けられるのだ。
『だからっ!』
「ぐっ!?」
問答を繰り返しながら、シュウジは受け止めたランダの拳を上へ弾くと前蹴りを食らわせた。
超至近距離によって、身を引く間も無く直撃を受けたランダは、血を吐きながら数メートルほど後退する。
『最後に倒れるその時まで、俺は賭け続けよう! この身が持つ、全てを!』
「ッ、あああぁあああああああっ!!!!!」
ついに、言葉さえも無駄であると悟ったか。
あるいは、決して変わらない──その暴虐の鎧に包まれた体に重なる、友の幻影に正気を失ったか。
残る力の全てをかき集め、雄叫びをあげながら《嫉妬の獣》はその身を奇獣へと変じさせていく。
かつては黒と灰色だったその毛皮は、神の眷属になったためだろうか……無遠慮な白に侵されていた。
「ガァアアアアアアアッ!!!」
『……決着をつけよう、ランダ』
突撃してくる獣に、シュウジはレバーを回した。
悍ましい笑い声の入り混じる荘厳な音楽が流れ、残存エネルギーの全てを収束していく。
《Ready Go!》
『はっ!』
全身からあふれ出したオーラに身を任せ、宙へ飛ぶ。
そのまま右足を突き出すような体制へと空中で体を動かして……跳躍してきたランダに落下した。
《Evoltich Finish! Ciao〜♪》
『ハァアアアアア!!!』
「ガァアアアァアアアアァァアア!!!」
蹴撃と、牙が激突する。
次元の垣根を超え、両者の間で爆発した膨大なエネルギーがパーティー会場を激しく揺らした。
元よりハウリア達のせいでめちゃくちゃだった会場は、至る所に亀裂が走り、壁や地面が抉れていく。
ハジメ達は自前で結界を、死なれても困るので、ハウリア達が貴族らをバリア型アーティファクトで守護した。
『オオオォオオオオオオオオッ!』
「グルァアアアァアアアアァァアアッ!!」
雄叫びを上げ、力をぶつけ合う二人。
だが、少しずつその均衡がランダの方へと崩れ始める。
紫色のオーラが、ランダの不気味な神々しいオーラを食い破っていき。
『ハァッ!』
「ガッ!?」
ついに、蹴り抜いた。
毛皮も、仮面の顔も全てが消し飛ばされ、その奥にあった元の生まれたままの体が露わになる。
シュウジは戸惑うことなく、そのまま無防備なランダの心臓目掛けて最後の一撃を喰らわせ──
「ああ、やっとか──」
エネルギーが、爆発した。
会場が再び揺れる。先ほどよりは小さく、然程のものでもないが……それを上回る大火が空中で咲いた。
『……っと』
誰もがそれを見上げる中、炎の中から紫色の人影が着地する。
キックに全ての力を込めた為か、シュウジが床に降り立った瞬間、その存在が現実に復元される。
同時に、スーツを構成する為のエネルギーが霧散して、傷だらけのシュウジが姿を現した。
「………………」
──ありがとう、私を
無言で床を見つめる瞳には……彼女の、最後の晴れやかな微笑みが焼き付いて離れなかった。
「お前もいい加減くたばれや!」
「いつまでも未練がましくこの世にへばりついとるんやないで!」
《ファンキードライブ! ギアエンジン!》
《ファンキードライブ! ギアリモコン!》
同じ頃、会場の反対側でようやく疲弊したスマッシュにブロスが必殺技を放つ。
白と水色、歯車型のエネルギーがブロスの装甲から形成され、スマッシュの全身を打ち付ける。
『ぐあああああァァアアアアッ!?』
断末魔の叫びを上げ、オウルロストスマッシュは爆発した。
少しして爆炎が晴れると、スマッシュの全身が光の粒子に変わり、元のバイアスへと戻る。
どうと床に倒れた瞬間、倒された時に元の体も死んだのだろう。首が元のように離れて転がった。
「ったく、しつこいやっちゃな」
「もう疲れたわー……帰ろ兄様」
「そやな。ほんじゃ皆さん、またいつか会おうや」
死体のそばに転がっていた黒く変色したボトルを拾い、ネビュラスチームガンの引き金を引いて横に振る。
銃口から大量の煙が噴出し、それに包まれたブロス達はほんの数秒煙が消える間に忽然と消え失せた。
「う、ぐ……」
「シュウジ!」
そのコンマ数秒後、限界に達したシュウジが前へと体を傾ける。
三年もの寿命を使い酷使した力によって、自立することもままならないシュウジは倒れていく。
それを見ていたハジメ達は咄嗟に走り寄ろうとして──その誰よりも早く、彼に駆け寄って受け止める者がいた。
「し、ずく……?」
「……もう、また無茶をして…………どれだけ私を泣かせれば、気が済むの?」
真正面から強く抱きしめられ、脱力して抱き返すこともできないシュウジはその温もりに微笑む。
「ごめんな……でも、ちゃんと終わっ、た、か、ら……」
なによりも安心できるその手の中で、そのまま気絶するように眠りに落ちた。
小さく寝息を立てる恋人に、涙を拭いながら雫は仕方がないというようにもう一方の手で頭を撫でる。
そんな二人にハジメ達が近寄り、雫が一旦シュウジを預けると治癒師コンビがすぐに治療を始めた。
だが、外傷をいくら治そうとも、削れた魂までは……
「ったく、目覚めたら泣いて土下座して謝るまで説教だ」
「そうしてあげてちょうだい」
「ああ……《獣》をやっと一人倒したのか」
「ええ……」
爆発した場所を見上げ、その他様々な技能で確かめるものの、もうその痕跡すら残っていない。
ランダは不滅の存在。永久の時を生きる神の一柱。
それ故に無限の苦しみを味わっていたが……ある意味では、シュウジは彼女を救ったのだ。
「これでやっと終わりか……なあガハルド?」
「あ、ああ。いまいち事情はよくわからんが……まあ、これ以上やると俺もこいつらも参っちまうからな。改めて降参だ」
もう、呆れているのか勘弁してくれと思ってるのかよくわからない表情でガハルドは言う。
それを見たハジメは不適に笑い、それからカムにちらりと目配せをした。
彼は言わんとするところを察して、通信機を起動状態にしながらゆっくりと語り出す。
「では、ひとまずの勝鬨をあげよう──我らハウリア族の、勝利だ!」
わっ! という歓声が、この会場のみならず帝都のあらゆる場所に潜んだハウリア族から上がり。
そうしてようやく、長い長い帝国の夜が終わりを迎えた。
幕間でルイネのことでも書こうかな。
創作エネルギーになりますので感想ください(率直)