シュウジ「おう、俺だ。前回は俺が寝てる間の話だったな」
雫「まったく、あんまり心配させないでね」
シュウジ「善処する」
ハジメ「それ実現しないやつじゃねえか…で、今回からまた樹海だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」
ドナドナド〜ナ〜以下略
三人称 SIDE
帝国での騒動から、何日か経った。
当初、すべての亜人奴隷を解放するという規格外の触れ込みに帝都中が大騒ぎになった。
それもたった1日で、帝都全ての亜人を一人残らず解放しようというのだ。不眠不休での大仕事となった。
あの場にいたものを含め、生き残った重鎮の中でハウリアを侮った者の首が飛んだ回数は数知れず。
他にも、例えば亜人奴隷を商品としていた奴隷商などは当然抵抗しようとしたが、同じように首だけの置物に。
文句があるなら自分を殺せという皇帝にその通りにしようという者もおり、もれなくハウリアのトロフィーに。
そんなこんなでハウリア族が提示した法律を急ピッチで制定した帝国政府は、どうにかギリギリで要求に答えた。
天使の肉体を持つ香織の「エヒト様の御意志(笑)という宣言や、それに伴って現れた復調した光輝などの存在も大きい。
そうして数千人の亜人たちは解放され、混乱も歓喜も冷めやらぬうちにフェルニルに取り付けられた巨大籠に乗せられ。
解放されたことを改めて知らしめるためにもハルツィナに向けて空の旅をしているわけだが……
「……あの」
「あ?」
「なんでもございませんですます」
「そうか。今集中してるから話しかけるな」
「ハイ」
フェルニル自体のものに加え、数千人分の重量によって途轍もない魔力を消費しているハジメは精密操作に戻る。
その周りには、当然のようにユエとシア、シアに膝枕されているウサギ、両肩にそれぞれ手を置く香織と美空。
その足元では……かれこれ半日ほど正座中のシュウジがいた。
首からは「私はこの世界で一番の大馬鹿です」というプラカードを下げており、とても格好悪い。
その隣に先ほどハジメにル◯ンダイブして足技で絞め落とされたティオが転がっていたりするが、全員スルーである。
「香織、南雲くんはこの調子で進んで平気なの?」
「うん、私と美空で交代しながら魔力を使う時の負担を和らげる魔法をかけてるから」
「伊達にチートじゃないし。まあハジメたちに比べたらそれほどじゃないけど」
グッと親指を立てる二人に、反対側のベンチに座った雫は大丈夫そうねと微笑んだ。
その際に口元に持っていった右手の手首には彫刻の施された腕輪が嵌っており……それはシュウジの左手首にもある。
「おいおい、随分と楽しそうだな? え?」
そこにガハルドが挑発的な物言いとともに戻ってきた。
フェアベルゲンの長老会議にて誓約の説明をするためにリリアーナ共々同乗した彼は、一見ハーレム野郎のハジメに絡む。
本人は機体操作と魔力操作の訓練で半ば無意識状態なのだが、まあ周りから見ればその感想しか思い浮かぶまい。
「あ〜、船内探索は終わったのか? それと坂上と谷口はお疲れさん」
「おう……」
「うへぇ、疲れた……」
ガハルドのお目付役として同行していた二人は、もう勘弁だとでも言うように食卓の椅子に座り込む。
クラスメイトに無関心であるハジメだが、一時期一緒に特訓をし、以前誠実な姿を見せた龍太郎はある程度信用している。
同様に、そんな龍太郎と仲睦まじくしている鈴のことも、普通に会話をする程度には仲は良好だ。
「ん、姫さんがいないようだが」
「この船とんでもないな。ああ、それと姫さんはあの勇者と一緒にいるよ」
言いながら、さりげなく雫の隣に座ろうとするガハルド。
「──ッ」
「っと……」
が、その瞬間正座しているシュウジから全身にナイフを突き刺されたような殺気を送られ、直前で階段に座った。
若干ガハルドが
ケッとつまらなさそうに吐き捨てた直後、目の輝きを増したガハルドはハジメの方を向いた。
「なんでこんな金属の塊が空を飛ぶんだ? 最高に面白い、俺用に一機欲しいな! 言い値は払うから用意してくれ」
「やらん。金もいらん。メリットがない」
相手にするのもだるい状態なので、ハジメは至極簡潔に返答した。
しかし、ガハルドもまた一人の男。目の輝きを失わず、ハジメに詰め寄る。
「そう言わずに、な? 金が要らないなら女なんてどうだ? 娘にちょうどいいのが一人いるぞ? ちょっと気位は高いが……」
「は?」
美空のひと睨みでガハルドは閉口した。
その目はこれ以上増やしたら切り刻むと言っている。その威圧感は先ほどのシュウジのそれに匹敵した。
ユエたちも同じ目をしていたので、降参とでも言うようにガハルドは両手を挙げた。女性陣は殺気を収める。
「ったく、おっかねえ女どもだな」
「お前が変なこと言い始めるからだろ。お前みたいに女をコレクションする趣味はない」
「食えないガキだ。そのうちリリアーナ姫もあの勇者から掻っ攫うんじゃねえか?」
「いや、天地がひっくり返ってもねえから」
またも即答するハジメ。
〜〜〜
「…………」
「? どうしたリリアーナ?」
「いえ、なんだかまた雑に扱われたような……」
「そ、そうか……」
〜〜
一国の王女に対して非常に軽い扱いに、ガハルドはこらえ笑いをする。
「ククッ、あの姫さんも災難だな。まあ今のところは勇者にお熱か」
「そういうお前こそどうなんだよ? あの皇太子はいろいろあって結局は首チョンパされたが、そのうち他の皇族をあてがうんじゃないのか?」
「馬鹿野郎、お前らのせいでこっちはそれどころじゃねえよ。なにせ外せば死ぬ首輪付きの皇族だからな」
ちょんちょん、とガハルドは自分の首にかかったネックレスを指差す。
「下手に国民が誓約を破れば死、そんな状態の中で取締体制の抜本的な改革と確実に執行される厳罰の体制……誰も彼もてんてこ舞いだ」
「ほーん、大変だな」
「他人事みたいな顔しやがって……おかげで労働力がガタ落ちな上に、いつ死ぬかわからない婚約相手。この際
たった一夜にして、強大な帝国はその力をかなり減衰させた。
ちなみに首輪の呪いの件は、誓約を聞かずに首飾りを取った皇族の1人が発狂死したことで実証されている。
それからより一層帝国上層部は真剣になり、現在どこもかしこも大忙し、というのが現状だ。
「だから、落ち着いてきたら皇族の娘を一人、ランデル殿下……今は国王か。に嫁がせるのが常識的な展開だな」
「そうか。頑張れ」
「だから軽い……はぁ、もういい。まあある意味気楽だよ、なんせ
そう言いながら、ガハルドはシュウジへとまた目線を向ける。
釣られて全員の視線を向けられれば、流れるような動きでシュウジはそっぽへ目を逸らした。
あの夜の戦いの件で、目覚めたシュウジは散々説教された。
まずハジメに五、六時間ほど懇々と説教され、その次は女性陣全員による小言地獄。
更には全員との模擬戦(という名のリンチ)をしこたま受け、罰として一日十二時間の正座一週間を言い渡された。
更に、シュウジは今後への対策としてあるアーティファクトの着用を義務付けられた。
それは有り体に言えば、ガハルドら皇帝一族に付けられた誓約の首飾り、その応用改良版である。
もしもハジメ達の認識内で危険なことをしようとした場合、シュウジは手首につけられた手枷から魂を締め上げられる。
その他にもありとあらゆる魔法や技能で罰を与えるそれは、たとえ腕ごと切り落とそうと自動で体に装着される優れもの。
その手綱は、最もシュウジを御すことのできる雫に委ねられたのである。
「スッパリ死ねる俺たちと違って首輪をつけられたようなもんだ、どんな気分だ?」
「言っておくがねコウテイサマよ、お前を死なない程度にどうこうするのは許されてるんだからな?」
「えっ」
マジか、とガハルドは雫を見ると、彼女はにこりと笑った。
先ほど止めなかったのはそういうことか、とガハルドは嫌らしい笑みから一転して苦虫を噛み潰したような顔をした。
雫もハジメ達も、あくまでシュウジがおかしな行動をとらないための措置であり、他は全くのスルーなのである。
「まあ、これくらいは当然だし」
「……ん。閉じ込めないだけまだ温情」
「もうっ、反省してくださいね?」
「……猛省」
「私も今回は怒ってるよ?」
「はは〜っ」
じろりと睨み下ろす女性陣に、わざとらしく畏まったシュウジは土下座した。
(……ま、やりようはあるしな)
『反省しない奴だな』
(言わぬが花さ)
すっかり尻に敷かれたシュウジだが、そんな彼の内心をハジメ達は知らない。
二度使った時点で、硬く縛り付けていたシュウジの心の枷は……
「で、考えは変わらないか?」
「お前もしつこい奴だな……もう両手いっぱいだっての。これ以上欲しいものがあるなら自分で手に入れるさ。お前にもらうようなものは何もない」
呆れたようにガハルドに隻眼を向けながらも、ハジメは両脇にいるユエとシアを抱き寄せた。
更に軽く首を横に倒して、美空の手に頬を乗せる。女性陣は皆一様に顔をほころばせた。
「あと強いて言うなら、そのバカの言動が落ち着くことだが……」
いつの間にかひょっとこのお面をつけているシュウジから目線を奥にやり、雫を見る。
現在シュウジを管理していると言っても過言ではない彼女は……恍惚とした表情をしていた。
「ふふっ……いつでもシューと繋がってる……ずっと一緒……」
「……まあ、平気だろ」
「いや、これちょっと危なくねえか?」
「大丈夫だ、相手の方がイかれてるから釣り合ってる」
「ハジメンひどくなーい?」
「そういう問題じゃねえだろ……」
「考えるな、感じろ」
ジト目のガハルドからハジメが目を背けると、そんなハジメに背後と足元からも声が上がった。
「美空もユエたちもずるいよ! ねえ、その両手に私も入ってるんだよね? ね?」
「ご主人様よ、妾も素晴らしい足技を受けた直後で申しにくいのじゃが、妾もその両手の中がいいのじゃ」
美空の手の方に傾けられたハジメの首を自分の方に傾けようとする香織に、膝の上に顎を乗せるティオ。
「……ふっ」
「……ここは特等席。もう埋まってる」
そんな二人に、ふっと勝ち誇った表情の二人が告げた。
自分たちの優位は揺らがないとでも言うように、地球にいた頃からの、この世界での一番の〝特別〟の少女達は笑う。
ついでにシアとウサギも、とでも言うように二人を指差し、更に二人への挑発をした。
ブチッ、という音がブリッジに響いた。
たとえくんずほぐれつ(意味深)する少女が相手であろうと、そこは譲れない。
「……ふ、ふふふ。美空とはちょっと、ちょぉっとお話しする必要がありそうだね?」
「そうじゃな。これはじっくり、入念に、話し合いをせねばなるまい」
ドドドドド! という効果音がついていそうな怒気を纏う二人。
龍太郎と鈴がびびしになってたけっている間に、二人の圧を受けたユエ達は立ち上がって正面から向き直った。
「ふぅん? いい度胸だし」
「……本気でやったら、結果は一目瞭然」
「「上等!」」
もはや乙女達を止めるタイミングは過ぎた。
「お、お二人とも? ちょっと雫さん、止めてくれませんk……」
「ふふふ……」
「雫さぁーん!?」
八重樫雫、若干17歳。恋する乙女は恋人との繋がり(物理)にうっとりとしている最中である。
事の発端であるハジメも、魔力操作と訓練でだるいために口を挟まない。
彼の中では、日常茶飯事な単なるコミュニケーション()なのも理由の一端である。
「坂上くん、前衛お願いね」
「え? 俺もやるのか?」
「鈴、力を貸してくれるかの?」
「え、えぇ〜っ!?」
文句を言う暇もなく、治癒特化である美空に龍太郎が、ユエの魔法を相手するためにティオに鈴が引きずられていった。
同様にユエもシアを連れていき、結果的にウサギがハジメの膝の上に収まってブリッジに静寂が戻る。
女性陣が去っていった外の甲板の方から、ほどなくして轟音やら爆音らしきものが聞こえてきた。
あまりに激しい……こんな場所でする音じゃないそれに、ガハルドが大きな体をビクッと飛び跳ねさせた。
「戯れてんな〜」
「戯れてるなんてレベルじゃねえだろ……」
「ふふ、そのうち戻ってくるわよ」
ボヤーっとしているハジメ、呆れるガハルド、微笑む雫。そして正座しているシュウジ。
カオス。実にカオスである。
いつもはツッコミ役を務めているハジメがコレであるため、誰も止める者がいない。
「うおぉっ!?」
「ひゃぁあっ!」
と、そこで甲板にいた光輝がリリアーナを横抱きにして飛び込んできた。
ユエ達の争いに巻き込まれたのか、着ている服はおろか肌からもプスプスと煙が上がっている。
「お、おい南雲! あれを止めてくれ!」
「ああ、姫さん。無事だったか」
「え、ええ、なんとか光輝さんのおかげで……」
「スルー!?」
愕然とする光輝だが、そんな彼の顔を腕の中からリリアーナが頬を染めて見上げている。
そんなこんなで、一行は着実に樹海へと近づいていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
今回の章のメインは……火星人!(えっ)
感想をいただけると嬉しいです。