シア「もう嫌ですぅ…父様達がぁ…」
エボルト「諦めろ。さて、今回は会議の話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」
三人称 SIDE
さて。
案内された広間にて、カムを筆頭とした数人のハウリアの監視のもと、長老衆とガハルドが対面したわけだが。
「ちょ、おい! 本当にこのまま送り返すつもりかっ!」
「いやだってもうやることやったじゃん。さっさと帰れよコウテイサマ」
即行返されるガハルドであった。
なんのことはない。
敗北の証明と誓約の再度確認。それが終わったので必要以上の接触をする前に帝国に強制送還である。
色々と行動に制限をかけられたシュウジだが、ガハルドに関しては誰も関知しないので遠慮なく引きずっていた。
その行き先はハジメの開いたゲート。向こう側に見える帝城の一室に直接ポイのコースだ。
「いやいやいやっ、まだ5分くらいしか経ってないぞ!? せっかくフェアベルゲンに来たんだ、色々知りたいことがっ、って引きずるな!」
「はいはい良い子はお家に帰りましょうねー」
「聞けぇっ!」
スルー。全員スルーである。
長老衆は色々ガハルドに思うところ……ともすれば生きたまま返すつもりはなかったのだが、扱いの雑さにドン引き。
ハジメ達もシュウジと同意見なので全く反応もせず、光輝も帝国に対して複雑な心境なので苦い表情で見ていた。
「はい、それじゃあばいなら〜」
「覚えてろよぉ! 北野シュウジィイイ!」
最後まで実に哀れな扱いのまま、床に開いたゲートホールにケツを蹴り飛ばされてガハルドは落ちていった。
「皇帝なのに〜、皇帝なのに〜、その扱い〜」
「リリィ、あんた……」
「言わないであげて美空、色々忙しくてストレスが溜まってるんだよ……」
「いや帰りのフェルニルで暇すぎて蕎麦打ってたけど」
「……鬱憤がたまるときってあるよね!」
ドップラー効果で残存する捨て台詞に、同じ雑扱いのリリアーナがそんな反応をして美空達に同情する目で見られた。
「ふぃ〜、邪魔者もいなくなったところで」
まるでゴミを捨てた後のようにパンパンと手を払い、それから長老衆に振り返る。
彼らは皆一様に、なぜ皇帝を帰したのかと目で訴えている。それを気にせず、シュウジはにこやかな笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、俺たちもこれで。大樹の方に行くからバイビー」
「待ってくれ、北野殿。まだ報いる方法が決まっていない」
「いや、なんもいらねぇよ。それよりさっさと帰らせてくれ」
いい加減長老達の目線が鬱陶しくなってきたハジメが、すげなく断る。
アルフレリックとしてはそれでは困ったものである。主に例の件で鋭い目を向けてきているカムのせいで。
「そう言わずに、これだけの大恩があって何もしなければ、我らはとんだ恥知らずだ」
「せめて、今夜の寝床や料理くらいは振る舞わせてくださいまし」
アルテナが歩み出て付け加えると、いよいよハジメは面倒だとため息を吐いた。
シュウジを見ると、どうする? と楽しそうな目線で見返してくる。どうやらシュウジはどちらでもいいらしい。
もう一度アルフレリックとアルテナを見れば、梃子でも動かなそうな顔をしている。ここで断れば粘るだろう。
「……はぁ、わかったよ。一晩世話になる」
「うむ……」
「アルフレリック」
頷きかけたアルフレリックに、カムの冷たい声が届いた。
さっさと言えやオラァ! と言わんばかりの威圧を巨体から発するカムに、深いため息を吐いてシュウジの方を向いた。
「それから、北野殿。なにやら帝国では随分と大変な思いをしたご様子。我ら森人族の秘湯を使うがよろしい」
「まあ、お祖父様。いいんですの?」
「まあ、な」
一応あの場にはいたものの、アルテナは祖父の言葉に驚いた。
他の長老衆もざわめくが、ハウリア達がシャキン! と何かを出したので、災いの元は断つべしと口をつぐんだ。
「へぇ……」
ちらりとカムを見るシュウジ。
それは幾分か鋭いものだったが、ハジメ達同様に彼を案ずるカムはまっすぐに見返してきた。
《愛されてるなぁ》
(いやおっさんだけどね)
楽しそうに笑うエボルトに、しかしシュウジはふと口元を緩めた。
「うし、そんじゃあアルフレリックさんの好意に甘えさせてもらいますわ。あ、雫も一緒でいい?」
「構わん……さて」
緩んだカムの威圧に安堵して、アルフレリックは一度咳払いをすると話を変える。
「これでハウリア族の功績が確かに実証された。追放された身で襲撃者どもを退け、なおかつ帝国から同胞を取り戻して誓約まで結ばせた。我等はお前達に報いなければならない。然るに、ハウリア族の追放処分を取り消すことに異存のあるものはいない。これからは好きにフェアベルゲンを訪れてくれ」
渋々といった表情で頷く長老衆。
これは集解以後の長老会議で決まっていたことだった。
いかに過去の遺恨があろうと、フェアベルゲンが救われたのは事実。その功績まで無視するほど傲慢ではない。
だが、カムは「そうか」と呟くだけで表情も変えなかった。至極どうでもよさげだ。
「そして、だ。此度の功績に関しては、ハウリア族の族長であるカムに、新たな長老の一席を用意することを提案したい。他の長老達はどうだ?」
側近達が驚いた目でアルフレリックを見る。
森人、虎人、熊人、翼人、狐人、土人。この六種族が最優であり、そこに兎人族が加わるのは歴史的快挙に他ならない。
既に何度も協議したことであるので、長老達は顔を見合わせると、満場一致で賛成に頷き合った。
「というわけだ。カムよ、長老の座、受け取ってくれるか?」
「だが断る」
「「「「「……え?」」」」」
完全に新たな仲間を迎えよう! というムードだった亜人族達は目が点になる。
あっさりと歓待ムードをぶった切ったカムに、一番付き合いの深いアルフレリックはなんとか気持ちを持ち直した。
「……何故か、聞いてもいいか?」
「このカムが一番好きなことは、自分が強いと思っているやつにノーと言ってやることだ……それに何故も何も、そもそもお前達は勘違いしている」
「勘違い?」
「そうだ。フェアベルゲンを救ったのはあくまでついで、あくまで同族達の未来を思ってのことだ。他の亜人族は正直どうでもいいのだよ」
「な……」
信じられないものを見るような目を向ける長老達に、カムは身じろぎもしない。
「故に、言っておく。我等ハウリア族は
右手を掲げ、拳を握る。
鋭い音を立てて飛び出した刃は、長老衆に向けられる。部屋の壁に等間隔に並んだハウリア達も同様に刃を剥いた。
「わ、我らは同胞ではないか! 同じ亜人族に刃を向けるというのか、狂人め!」
「おや、その同族とやらを蔑んでいたのはどこのどいつらだったか……まあ、どうでもいい。とにかくこれだけ覚えておけ、我らが刃は同胞がためのもの、それ以外に振るうつもりはない」
きっぱりと言い切ったカムの顔は清々しい。
ハウリア達も同様に、仮面に包まれていてもその目が物語っている。
自分達に首輪はつけさせない、と。
実際、そういう打算もないわけではなかったので、アルフレリックらの表情は険しい。
一方で、ハジメの周りにて事を見守っていた少女達は一斉に魔神のような少年を見る。
誰かさんとカムの言動は、実にそっくりだった。
「……まるで独立した種族、と言いたげだな」
「アルフレリック、お前は物分かりが良くて助かるよ。全くその通り。これから兎人族は兎人族のルールでやっていく。お前達のルールに組み込まれるつもりは毛頭ない」
長老、そして側近達が不遜な物言いに激昂しようとするが、プレデターハウリア達がそれを飲み込む殺気で抑え込む。
今にもレイザーディスクが飛び交いそうな雰囲気に、難しい表情をしていたアルフレリックは深い深いため息を吐いた。
「……ではカムよ。お前さん達を、兎人族という〝フェアベルゲンと対等な存在〟とするのはどうだ。無論会議への参加資格を有するものとして、だ。これならばフェアベルゲンのおきてに従うことなく、会議の決定に従う義務もなく、その上で我らと対等の影響力を保てる」
「ほお。まあ、悪くはないな」
此れはしたり、とカムは笑う。
彼も、また帝国が攻めてきた時のため、フェアベルゲンとの繋がりは保っておきたいと考えていた。
とはいえ、先ほど言ったように長老会議の長々しい議決を取ってその意に従う、などまっぴら御免被る。
故にこの申し出は……否、あえて引き出した妥協はカムにとって最善の方向であった。
「待て、それでは優遇しすぎだ!」
「いかに多大な功績があるとはいえ、それでは我等の立場がない!」
「では、その多大な功績にこれ以外どう報いる?」
反対の声を上げた長老らを、アルフレリックはたった一言で封殺した。
助けられた立場の上に、彼らを無理やり従える程の力もない。
アルフレリックは最良の策を選択した。それはわかっていたものの、やはり感情では納得できないもので。
「もしここで無理に押し通すことで彼らとの縁が切れたら、次に帝国や魔人族がやってきた時どう立ち向かう? 我らが総力を上げてもできなかったことを、彼らはたった百人と少しで成し遂げたのだ。その意味がわからないお前達ではあるまい?」
アルフレリックの説得に、ぐぬぬぬぬと聞こえそうな顔をする長老衆。
だが彼らにこれ以上に良い案がない以上、反論のしようがない。最後には諦めた彼らはガクッと肩を落とした。
「という訳で、長老会議の権限でお前達を〝長老衆と同等の権利を持つ種族〟とする。それでいいか?」
「まあ、お前達がどう言おうがやることは変わらんが、いいだろう……あ、それと大樹近辺と樹海の南方は我等が使うから周知しておけ。下手に侵入しても命の保証はできない」
しれっと追加注文した。
これには流石にアルフレリックも頬がピクっている。
「うらぁっ!」
「げぼばっ!」
父親の傲岸不遜さに、シアは真っ赤な顔でシュウジにボディーブローを叩き込んだ。
崩れ落ちるシュウジ。誰も心配しないあたり、一人としてまだ怒りが解けたわけではないのだ。
「えふっえふっ、内蔵が……」
「あ、あの……」
「ああ、まだいたのか姫さん。王国に送ってやろうか?」
「ま、まだ……はい、お願いします」
今の今まで忘れられていた事実に、リリアーナ姫は「おうじょなのにぃ……」と呟く。
ともかく、帝国とのあれこれが山積みである彼女を送り返すため、キーを使ってゲートが開かれる。
見送りをするため、光輝達が歩み出ると流れるような動きでシュウジが光輝の足を引っ掛けてすっ転ばせた。
「それではお姫様、またお会いしましょう」
「は、はい……雫達も、頑張ってください」
「ええ。リリアーナも頑張ってね」
「応援してるよ!」
「仕事も程々にね」
「またね!」
「あんま気張りすぎるなよ」
各々激励の言葉を投げかける雫達に頷き、リリアーナは光輝を見る。
立ち上がり、礼をしているシュウジをジト目で睨んでいた光輝は、その視線に気づいて目を合わせた。
「……光輝さんも。お体に気をつけて」
「ああ。リリアーナも、無理しないようにな」
「はい。それでは皆様、またお会いしましょう」
綺麗にお辞儀をしたリリアーナは、そのままゲートの向こう側へと去っていった。
「さーて、どうやら秘湯に連れてってもらえるみたいだし? 雫、行こうぜ」
「ふふ、いいわよ」
「おいアルフレリック、俺も入っていいか?」
「あ、ああ。構わないが……」
「おっ、ハジメもやっぱ血が騒いじゃう?」
「そりゃ、日本人の魂だからな」
「ん、なら私たちも一緒に」
「あっ、ずるい! 私も私も!」
先ほどまでの緊迫した空気は何処へやら、非常に騒がしい一行であった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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