シュウジ「シュウジだ。そろそろ挨拶の言葉がネタ切れしてきた」
エボルト「作者が調べてないからな、あるはずがない」
雫「メタいわよ…前回は私のいないうちに、何だか秘密の話をしてたわね」
二人「「ギクッ」」
雫「はぁ……南雲くんや、光輝も何だか様子がおかしかったわね。今回は迷宮に入るまでの話よ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」
三人称 SIDE
体に纏わり付くような濃霧を、迷いなく進む一団がいた。
そんなことが出来るのは、亜人達以外にはごく限られた人間しかいない。
フェアベルゲンで一日の休息を取り、霧が晴れる周期である明朝に出発したシュウジ達である。
本当ならばもう少し後でも良かったのだが、フェアベルゲンにいると亜人達に押し潰されそうだった。
「よっし転ばした」
「じゃあ俺尻尾切るわ」
「したら俺は爆弾設置しますかね」
「おいおま、それしたら……あっ」
「吹っw飛wんwだw」
「この野郎」
いつもは先頭にいるハジメとシュウジは、今は後ろにいた。というかゲームをしていた。
あまりにも舐め切っている態度ではあるが、ユエ達ハジメ側の女性陣もハウリア達も何も言わない。
というのも、出発する前に色々とあったのだ。
主にシュウジと光輝の亜人達とのあれこれや、待ちくたびれたハジメが二人の頭にゴム弾を撃ち込んで引きずって行ったり。
龍太郎が鈴の事を酔った亜人に馬鹿にされ、キレて決闘を始めたり、朝から結構ヘビーだった。
無論、そんな事をしていれば霧に潜む魔物達が襲ってくるのだが……案内役のシアと一緒に前で戦っている者がいる。
『オラァッ!』
「てやぁっ!」
黄金のエネルギーを纏った拳が、飛びかかってきた猿の魔物を粉砕する。
その隙を突くようにもう二匹襲いかかってきたが、煌めく二本の巨大剣が真っ二つに両断した。
グリスに変身した龍太郎と、ノイントの体に慣れるために訓練がてら梅雨払いを希望した香織だ。
「ふっ、はっ!」
「シズシズ、今っ!」
「ハッ!」
少し離れたところでは、ヒット&アウェイ戦法で奇襲してくる魔物を光輝と雫、鈴の三人が相手している。
光輝は先日の件で聖剣(笑)が折れたのでハジメの用意した剣で、悪戦苦闘しながらも魔物を倒し。
雫は得意の素早い動きで逆に翻弄しながら、切れ味抜群の刀で一閃。魔物の首を飛ばす。
鈴は二人を結界でサポートに徹し、鉄壁の防御で見事に魔物の攻撃を阻害している。
ちなみに雫だが、服の上から被さるように擬態した、カーネイジによって守られていた。
時折光輝の攻撃と鈴の結界、彼女自身の斬撃を潜り抜ける魔物がいるが、尽く串刺しになっている。
そんなこんなで、前衛に比べてシュウジ達は割とのんびりと樹海の中を進んでいた。
現在、大樹の大迷宮の情報はシュウジの頭に刻まれたものしかない。
最初からそれに頼り切りでは、とても鬼畜な迷宮が光輝達の試練攻略を認めるとは思えなかった。
その為、【オルクス大迷宮】とは勝手の違うこの樹海の魔物の相手をさせ、ウォーミングアップをしている。
目的通りと言うべきか、周囲の霧の平衡感覚を失わせる効果もあって、慣れない光輝達は中々に苦戦していた。
「しかし、香織は随分と戦えるようになってきたな」
「苦労して魂を入れた甲斐があるよ、っと。はい捕獲」
「うわ相変わらず無駄に手際いい……お前らはどう思う?」
「ん……スペックが異常。うかうかしてられない」
「あれで見た目は元のままなんだから、更にすごく見えるよね」
「一回、やってみたい」
しゅっしゅっと軽くシャドーをするウサギに苦笑し、ハジメは彼女の頭に手を置くと撫でる。
ウサギが顔を綻ばせれば、自分も自分もとユエや美空達が詰め寄った。羨ましい光景である。
「ハジメ」
「ハジメ、私も」
「私にも! 私にでもですハジメさん!」
「はいはい、順番にな……しかし、もう少し慣れるのに時間がかかると思ってたんだが」
「ん〜……そりゃそう出来るように調節したからな」
女性陣に群がられながらハジメが聞くと、シュウジはゲーム機の電源を落としながら振り返る。
「どういうことだ?」
「魂と肉体の関係は、言わばペットボトルの水とそれを持つ手ってわけさ。ボトルの中身をコップに注ぐ時……」
「少しずつ注ぐか、勢い良く注ぐか……か?」
「
「つまり香織は、自分で目盛りを調節しながら戦えるってわけだな」
「結果は見ての通り、さ」
笑いながらシュウジが水平にした手を向け、戦う香織を示す。
「ここ……いや、これくらいで、こうっ!」
香織は銀色に輝く翼をはためかせ、同色の羽をホーミングミサイルのように飛ばしては魔物を追跡・分解している。
それを抜ける魔物には、ノイントの肉体から受け継いだ戦闘技能によって、大剣で綺麗に一刀両断。
技術こそシュウジの戦ったライオット込みでのノイントより劣るが、十分にバグった戦闘能力だ。
「しばらく戦って体に慣れれば、完全にあの肉体の力が上乗せされるよん」
「しかも私と同じか、それ以上の治癒魔法でしょ? は〜ぁ、地球にいた頃からしつこく狙ってきてたのに、もっと厄介になったし」
「その割にあんまり嫌そうじゃないな?」
「……ま、あの一途で一生懸命努力するところは認める」
本当に仕方がない、と言わんばかりの態度を取る美空だが、その口元には面白そうな笑みが浮かんでいる。
ちょっとというか、結構腹黒いものを感じるその凄味に、ハジメとシュウジは「女子って怖い」と内心思った。
「そんな事ないよ。魔法は訓練以外じゃ使い物にならないし、分解もいちいち意識を集中しないと発動しないし……剣だって雫ちゃんからは一本も取れないし」
ハジメ達の会話を、その優れた聴力で戦闘中でも正確に聞いた香織が大声で話に割り込む。
近くで聞いていた雫は、また飛びかかってきた猿の魔物を切り捨てながら深いため息を吐いた。
「……香織みたいに物凄く強い肉体に変わったわけでもない、龍太郎みたいに変身もできない私からしたら嫌味にしか聞こえないわ。それに剣技だって、そのうち私より素早く、力強くなるわよ」
「だ、大丈夫だよシズシズ! それを言うなら鈴が一番弱いから!」
『鈴は俺が守るからいいんだよ!』
「ふぇっ!?」
全然予想してない所から返答が返ってきて、鈴の顔が真っ赤になった。雫は苦笑した。
「……そうだな。香織や北野、南雲達に追いつくためにも、迷宮を攻略して神代魔法を……手に入れるッ!」
そして光輝が、渾身の力を振り絞って剣を振り抜いた。
──ズクッ
「っ!?」
その瞬間、左肩に一瞬激痛が走る。
目を見開く光輝だが、構わず剣を振ると──魔物は木っ端微塵になった。
「……は?」
目を点にする光輝。
それから慌てて周りを見渡すが、幸いと言うべきか他の皆は戦闘していてこちらを見てはいない。
ホッとして、光輝は何だか窮屈になった鎧の代わりに着た、多少耐久性の高い服の肩口を捲る。
傷跡にあの目玉はない。
それどころか、痛んだのが気のせいかと思うほどに動かしてもなんともなかった。
「今のは……」
手の中の剣に視線を移し、ジッと見る。
デザインに拘るシュウジによって多少は見栄えがいいが、単なる硬くて壊れにくいだけのロングソードだ。
これのせいではないとしたら、やはり先ほど走った痛みが原因か──光輝は棒立ちで考え出した。
「光輝っ!」
「キキーッ!」
「っ!? くっ!」
咄嗟に反射神経だけで魔物の爪を受け止め、光輝は一旦戦闘に思考を戻した。
元勇者(笑)組が戦い、シュウジ達はのんびりとし、ハウリア族が時々後ろから来る魔物を瞬殺。
そんな風に進むこと十数分、不意にシアが足を止める。
「みなさ〜ん、着きましたよぉ〜」
振り返った彼女が告げたのは、目的地への到達だった。
言ってから早速、濃霧の向こうに走り去った彼女を追いかけてシュウジ達も足を進めると、霧のない場所に出る。
そこに立っていたのは、以前と変わらず枯れ果てた巨大な樹だった。
そびえ立つ、という言葉がこれ以上ないほどピッタリなそれは、横幅だけで壁のようなボリュームをしている。
「これが……大樹……」
「でけぇ……」
「すごく……大きいね……」
天辺が霧に隠れ、決して見ることのできないその先端を見上げ、光輝達はポカンと立ち尽くした。
三人と異なり、シュウジの携帯に記録されていた写真で見ていた雫と香織も、実物を前に面食らう。
最初にここに来たとき、自分達もきっとそんな顔をしてたのだなと懐かしくなり、シュウジ達は微笑む。
「うし、早速行くか」
「ああ。確か石板がこの辺りに……っと」
ハジメが視線を巡らせると、大樹の根本に以前と同じように石板が鎮座していた。
解放者達の紋章が上に刻まれた七角形、その裏側にある窪みの前までやって来て、ハジメがしゃがみ込む。
正気に返った光輝達がこちらに戻ってくる中で、ハジメは後ろにいたカムに目を向けた。
「カム、何が起こるかわからないからお前達は下がっておけ」
「はっ。御武運を」
大樹近辺からその南方を領土とした為、ついでに付いてきたカム達ハウリア族がその場を立ち去る。
それを確認してから、ハジメの後ろに立っていたシュウジは異空間から取り出したメルジーネのコインを指で弾いた。
「ほいっと」
ピン、と軽い音を立てて飛んだコインは、七つの窪みのうちの一つ、同じ紋章が刻まれた穴に嵌る。
すると石板が淡く輝き、文字が浮き出た。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「これは同じか。使う証は……」
「オルクス、ミレちゃんの、グリューエンのでいいんじゃね?」
「そうだな。【神山】のはやめとくか」
実際には関係ないが、エヒトに近い場所のそれを心理的に使いたくない二人だった。
既に嵌ったコインの他に、三つの証をハジメが一つずつ嵌め込んでいく。
【オルクスの指輪】と【ライセンの指輪】、【グリューエンのペンダント】……
一つ使うごとに光が増し、最後の一つを入れた瞬間、その輝きは根を伝って大樹へと移った。
光は大樹全体に広がり、眩い光を放つ大樹に紋様が浮かび上がる。
「この紋様は……」
「再生の力、だな」
石板にあるものと同じ、七角形の紋様を見上げながら歩み寄ったユエは、幹に手を触れると再生魔法を使う。
その力を受けた大樹は、自発的にそれまでよりさらに強い、光を放った。
ユエの手から再生魔法の力が波紋のように広がっていき、天辺に向かい走り出す。
まるでそれを栄養分のように、あるいは水のように吸い取って、大樹は驚くべき変化を始めた。
大樹が、再生し始めたのだ。
「あ、葉が……」
シアが、巻き戻すように姿を変えていく大樹に見蕩れながら頭上の枝にポツポツと芽吹いた葉を指差す。
生命の誕生、そう題名を付けても決して大袈裟ではない光景に、ハジメ達は不可思議な感動を覚えた。
大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した。
少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。
と、次の瞬間に亀裂が入り、左右に分かれて巨大な〝洞〟が姿を現した。
「くぱぁ」
「言うと思ったわ……て言うか前に来たとき、よく開けたなお前」
「いやぁほら、あれは裏技ってかチート行為だからノーカンノーカン」
《精巧に複製した証を見抜けなかったのが悪い》
酷い言いがかりである。
「解放者が泣くぞ……さて、行くか」
ハジメとシュウジは顔を見合わせ頷き合うと、躊躇なく洞の中へ足を踏み入れた。
「…………」
「あ、別に攻略の証を持ってない奴も一緒なら入れるから心配ナッシングよ」
「心を読むな……」
「その代わり、何があっても自己責任だけどネ」
悪戯げに笑うシュウジがハジメの密かな懸念を無くしつつ、全員が中に入る。
ハジメ達は視線を巡らせた。
だが、洞の中は特に何もないようだ。ドーム状の空間が広がっているだけである。
「行き止まりなのか?」
光輝が訝しそうに、そう呟く。
ゴ、ゴギギギギ……
直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた。
「なっ!?」
「嘘だろオイ!?」
「あ、あれ危ないんじゃ!」
「焦るな! そのまま大人しくしてろ!」
徐々に細くなっていく外の光に思わず慌てる光輝達を、ハジメが一喝する。
程なくして入り口は完全に閉ざされ、暗闇に包まれた洞の中。
すかさずユエが光源を確保しようと手をかざす……が、その必要はなかった。
前触れなく足元に大きな魔法陣が出現し、それが強烈な光を発したのだ。
「なになに! なんなのっ!」
「谷口、俺から離れるなよ」
動揺する鈴の手を龍太郎が掴む中で、シュウジは全員に見える位置に立つ。
そうすると、さながら某夢の国でアトラクションの説明をする係員の如く、にこやかに宣言した。
「さてさて皆様、これより始まるは──心惑わす不思議な樹海ツアーにございます。どうぞ、お楽しみください」
この迷宮の全容を知るシュウジの宣言と共に、全員の視界が暗転した。
読んでいただき、ありがとうございます。
この迷宮は中々扱いが難しいな…
感想をもらえると活力になります。