星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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こんばんは、夏休み最終日、家族と遊びに行ってきた作者です。
いやぁ、それにしても昨日、ついにジオウ始まりましたね!ジオウもゲイツも激かわならぬ激カッコよでした。自分的にはオーマジオウが好きですw
感想にて、とある方からシュウジの前世が違和感があると言われました。もし他の方もそうでしたら、申し訳ありません。
しかし、この要素を外すことは今後の筋書きの大幅な修正、並びにシュウジという人格の根底がなくなることになるので外すことはしません。ご了承ください。
それはともかく、今回もハジメの話です。


シュウジ「さーて、あらすじのお時間だ。前回はハジメがとんでもない目にあったな」

エボルト「全くだ。へんなウサギには絡まれるわ、片腕喰われるわ……いやあ、キツイわぁ」

シュウジ「地球丸ごと飲み込もうとしたお前が言っても説得力皆無だよ。はぁ……俺心配だよ、ハジメがグレちゃわないか」

エボルト「だな。まあ、その時はその時だ。それじゃあせーの、」

二人「「さてさてどうなる迷宮編!」」


犠牲

 

 ぺろ……ぺろ……

 

 

「んぅ……」

 

  頬をくすぐる生暖かい感触に、暗い闇の底にあった意識が徐々に覚醒していく。そしてうっすらと目を開けた。

 

  すると、最初に目に移ったのはひっきりなしに頬を舐める、蹴りウサギの姿だった。くすぐったくて、無意識に身じろぎをする。

 

 

 キュッ!?

 

 

  すると、蹴りウサギは驚いたように声を上げて、頭でグイグイと頬を押して来た。それに否が応でも意識がはっきりとする。

 

  あれ、ここはどこだろう……?それより、生きてる?助かったのか?そう思いながら、グッと体を持ち上げる。

 

 

 ゴツッ !

 

 

「あだっ!?」

 

  そして低い天井に頭をぶつけた。あまり広くない空間の中で痛みに悶える。そうだった、そんなに縦幅なかった……。

 

 

 キュキュッ!

 

 

  心配するように体を擦り付けてくる蹴りウサギに、「大丈夫だよ」と苦笑して言いながら〝錬成〟で縦幅を増やそうとする。

 

  しかし、視界に入った腕は右腕だけだった。あれ、おかしいな?今、確かに両手を天井に伸ばしたはずなんだけど。

 

 しばらく呆然としていたが、少しして気絶する前のことがフラッシュバックする。そして左腕を失っことを改めて認識した。

 

 

 ズキッ !

 

 

 

  自覚した瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じた。いわゆる幻肢痛というやつだろう。思わず苦悶に顔を歪める。

 

「……あれ?」

 

  そうして反射的に左腕を押さえて、初めて気がついた。切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに。

 

 

 キュキュッ!

 

 

「あ、うん。大丈夫だよ」

 

 心配そうな声を上げた蹴りウサギの頭を撫でると、二つあるはずの耳の感触が片方かなり短かった。やはり切り飛ばされたのは見間違いじゃなかったのか。

 

  それにしてもやけに傷口が乾いているなと思いながら、頭から手を離して周りを探る。するとヌルヌルと気持ち悪い感触が返ってきた。

 

  右側と左側も、どこを触っても同じ感触がする。この分だと、僕の周り一帯血の海になってるだろう。明らかに生きていられる量じゃない。

 

  それに血が乾いていないことから、気を失ってからそれほど時間は経っていないみたいだ。

 

「でも、それにしたっておかしい。ハザードレベルが上がっても、別に怪我の治りは速くならなかったし……」

 

 

 ぴちょん……

 

 

  一体どういうことかと思っていると、突然頬や口元に水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、少し体に活力が戻る。

 

  ……そういえば気絶する直前、同じように水滴が落ちて来たような気がした。

 

「……まさか、これのおかげで?」

 

  もしそうなら、蹴りウサギの切られた耳の出血も、僕の頬についてたこの不思議な水滴を舐めて止まったのかも。

 

  ある予想を頭の中で立てながら、幻肢痛と貧血による気怠さをこらえながら、水滴が落ちるほうの壁に〝錬成〟を行う。

 

 

 ぴちょん……ぴちょん……

 

 

  すると、水滴の量が増えた。ビンゴだ。ふらふらとしながらも、〝錬成〟を繰り返して源泉を追い始める。

 

  蹴りウサギを伴い、ずるずると這いずるように進みながら〝錬成〟を繰り返した。不思議なことに、この水滴を飲むと魔力が回復するので、いくらでも〝錬成〟を使える。

 

 やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ついに源泉にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

 

 そこには、バスケットボールぐらいの大きさの、青白く発光する鉱石が存在していた。

 

 その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており、下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。

 

  アクアマリンの青をより濃くしたようなその輝きに、一瞬幻肢痛も忘れて見惚れてしまう。そして自然と、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

 

 すると、断続的に発生していた鈍痛や、靄がかったようだった頭がクリアになり、倦怠感も治まっていく。やはりこの石が源泉のようだ。

 

  そして石から溢れる液体には、治癒作用がある。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

 

 後に僕は、これが【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だということを知ることになる。

 

 

 キュキュッ!

 

 

  その液体……これも後に【神水】という不死の霊薬と呼ばれる代物だと知る……を啜っていると、蹴りウサギにテシテシと背中を蹴られた。

 

「あ、ごめんね。〝錬成〟」

 

  適当に地面から器を作り出し、液体を溜めると蹴りウサギの前に置く。蹴りウサギは鼻をヒクヒクとさせて匂いを嗅いだ後、チロチロと飲み始めた。

 

  文字通り小動物じみた姿に苦笑しながら、ズルズルと壁にもたれてへたり込む。意識がはっきりとして、ようやく生き残ったことの実感が湧いてきた。

 

  どうじに、爪熊への恐怖も。片腕を奪われ、目の前で食われたあの瞬間、僕の中の〝強さ〟は完全に木っ端微塵となった。

 

  もはや、脱出しようとすら思わない。シュウジと合流など以ての外だ。ずっとこのまま、ここに閉じこもっていたい。

 

  悪意とも敵意とも違う、あの爪熊の捕食者の目に、僕の〝勇気〟も〝決意〟も、〝意思〟も全てへし折られた。

 

  思えば、弱肉強食のピラミッドの頂点で人間である僕は、これまであそこまで完全に〝見下される〟ことがなかったのかもしれない。

 

 

 キュッ?

 

 

  不思議そうに首をかしげる蹴りウサギを抱きかかえて、死への恐怖に震える。そんな僕は、あまりにも惨めだった。

 

「誰か、助けて……」

 

 しかし、ここは奈落の底。僕の言葉は誰にも届かない……

 

 

 ●◯●

 

 

 それから、どれ程の時間が経過したのか。

 

「……………」

 

  僕は右手首につけられた、ひび割れて薄汚れた時計を見る。例の携帯同様、もしもの時のためにシュウジが作ったコンパス付きのものだ。

 

  それによると、この穴ぐらに閉じこもり始めてから、既に四日間も経過していた。それに特に驚くこともなく、腕を落とす。

 

 

 キュキュ?

 

 

「ああ、ごめんね。それでね……」

 

  僕はこの四日の間、ほとんど何もしないまま過ごしていた。ぽっかりと心に穴が空いたように、無気力な状態だ。

 

  例の石から流れる液体を啜って生き長らえ、挙げ句の果てには寂寥感に苛まれて蹴りウサギに話しかける始末。

 

  どうやらこのウサギ、かなり知能が高いらしい。まああのカポエイラの達人みたいな蹴り技からして、技を磨くだけの知能はあると思ってたが。

 

  だからそんなウサギに、元の世界での楽しかったことを語って、激しい飢餓感と幻肢痛に耐えられなくなったら液体を飲んで誤魔化し、眠る。ただ、それの繰り返し。

 

  こんな僕を見たら、美空やシュウジは幻滅するだろうか。いや、きっと「何しょげてんだよ」と、「大丈夫?」と肩を叩いてくれるのだろう。

 

  今僕が極限の苦痛の中生きてられるのは、そんなシュウジや美空たちとの暖かい記憶と、話す相手があるから。

 

  わかってる。こんなの現実逃避だ。でももう、怖い思いなんかしたくない。痛いのは嫌だ。戦うのも嫌だ。だからもう、僕は何もしない。

 

  いっそのこと、ずっとこのまま石から液体が流れなくなって、衰弱して死ぬまでこうしていよう。

 

「それで……う"っ!」

 

  やや荒々しく空腹を主張する腹を、右手で抑える。同時に、左腕から幻肢痛が襲いかかって来た。

 

  歯を食いしばり、脂汗を流しながら、〝錬成〟して作った器を取って中身を煽る。そうすると少しはマシになった。

 

「ふう……」

 

 

 キュ?

 

 

  安堵のため息を吐いていると、蹴りウサギが不思議そうに首を傾げた。まるで何故そんなに苦しむのかわからないといった顔だ。

 

「……そうだよね。君は、魔物だもんね」

 

  いくら知能が高いとはいえ、もとは動物の魔物。人間ほど多感じゃないから、このくらいなんともないんだろう。

 

  あるいは、爪熊みたいな化け物が闊歩するような場所で暮らしてるから、飢餓感なんて慣れているのかもしれない。

 

  不覚にもその純粋が少し、羨ましくなった。だが、それは自分が人間らしさを捨てるのと同義である。

 

「……別に、今更人間性がどうだなんてどうでもいいけど」

 

  そう呟きながら、僕は蹴りウサギに通じるかどうかわからない挨拶をしてから、その体を湯たんぽがわりに抱えて胎児のように眠った。

 

  そしてまた起きて、話をして、苦しみを覚え、液体でごまかして眠る。何の意味もない、苦痛から逃れるために生きる。

 

  そうして、二日だろうか、あるいは三日だろうか。もう時計を見るのをやめたから、どれだけの時間が経ったかわからない。

 

  ともかく、ついに恐れていたことが起こった。

 

「だから………あ」

 

 記憶が、尽きた。

 

  いくら記憶を掘り返しても、思い出そうとしても、どれもこれも全て話したものばかり。新しいものは、一つとしてない。

 

  それはそうだ。どんなにたくさんあったって、何時間も、一週間以上も話し続けていれば、思い出も全て尽きてしまう。

 

  それに、ある種の絶望を覚えた。まるで自分という存在が底をついたような、色褪せていくような感覚。

 

「……もう話すこと、なくなっちゃったみたい。ごめんねーー」

 

 

 ドクン。

 

 

  その感覚を誤魔化すように蹴りウサギをみて、話しかけようとした瞬間、全身の血管が沸き立つような感覚を覚えた。

 

  全身が総毛立ち、ドクンドクンといやに大きく心臓の音が響く。視線は蹴りウサギに釘付けになり、息が荒くなってきた。

 

  そして、心の奥底から本能が訴えかけてくる。腹が減ったなら、目の前の〝食料〟を食らえばいい、と。

 

  突然何が、と思うが、それはある意味当然だったのかもしれない。この極限状況において、平和な世界で育ったことで腑抜けていた本能が顔を出したのだ。

 

  生きるために、他の生物の命を奪ってその血肉を食らう。生物として当然の食欲という本能だ。

 

 そうだ、だから今ここで、蹴りウサギを殺して食っても……

 

 

 キュッ?

 

 

「っ!」

 

  愛らしく首をかしげる蹴りウサギに、ハッと熱に浮かされたような気分が元に戻る。すると全身の感覚も消えた。

 

  ぼ、僕は今、一体何を考えていたんだ。心の支えになってくれている、このウサギを食べるなんて。

 

  記憶が尽きた今、それをしてしまったら僕は完全に何もなくなってしまう。その時、僕という人間は壊れる。

 

「あ、あはは。な、何でもないよ。ちょっと腕が痛いから、もう寝るね」

 

  そう言い訳して、僕は地面に横になって目を瞑った。いまだに僅かに胸の奥で疼く、食いたいという欲を押さえつけて。

 

 

 

  それから僕は、それまでとは少し違うものになった飢餓感を抑えながら、穴ぐらの中で過ごすことになった。

 

  蹴りウサギを食いたいという衝動から目をそらすために、石のおかげで魔力が尽きないのをいいことに〝錬成〟で遊ぶ。

 

  動物や魔物、果ては人間。必死に逃げるように作ったそれらは、無駄に精巧になっていく。そして蹴りウサギの蹴りの練習台と化した。

 

  他にも穴を広げたり器を豪華に〝錬成〟し直したり、とにかく気を紛らわすために〝錬成〟をフル活用する。我ながら無駄な行為だ。

 

 

 キュッ!

 

 

「……〝錬成〟」

 

  スターク状態のエボルトの像を蹴り砕く蹴りウサギを尻目に、〝錬成〟をする。するとシュウジの石像が出来上がる。

 

「……シュウジ」

 

  あいつは、今どうしているだろうか。またどこかで、エボルトと一緒にバカなことを言い合っているだろうか。

 

  そうボーッと考えながら、手元で無意識に〝錬成〟をする。全快していた魔力が尽きたところで、ようやく止まった。

 

  そして手元を見ると、発光する石に照らされて、うっすらと大量の蹴りウサギの石像が浮かび上がった。

 

  それを作った理由は……間違い無く、胸の中で疼く食欲。それを理解した途端、凄まじい自己嫌悪の念が溢れ出てくる。

 

「……ごめん、もう疲れたから寝るね。像は勝手に使っていいから」

 

  そう言い訳がましくいいながら、蹴りウサギの反応を確認する前に、僕は地面に転がってまた目を瞑った。

 

 

 ……………

 

 

  その時、ウサギがじっと僕をみていたのだが……それを知る前に、僕の意識は闇に堕ちていった。

 

 

 ●◯●

 

 

「……ん?」

 

  ふと、目がさめる。特に幻肢痛や飢餓感に襲われたわけでは……いや、断続的に続いてはいるのだが……ないのにだ。

 

  ただ、なんとなくいやな予感がして、硬い地面に押し付けていた頬を離して、むくりと起き上がる。

 

  あくびをしながら服の砂を払っていると、ふと後ろ腰のホルスターから剥ぎ取り用のナイフが消えているのがわかった。

 

 

 

 ドスッ……

 

 

 

  一体どこに。そう思った瞬間、後ろからそんな乾いた音が聞こえてきた。聞きなれないその音に、動きを止める。

 

  ぶわりと、全身から冷や汗が溢れ出てきた。あれほど食欲が疼いていた本能が、今度は振り返るなと警告する。

 

  僕の心も、振り返るなとそうなんども訴えかけてくる。後ろを見れば後悔すると、このままもう一度眠れと、そう言ってくる。

 

  それでも後ろを振り向いてしまったのは、果たしてやるなと言われるとやりたくなる人間の性か。僕は、ゆっくりと顔を背後に向けた。

 

 

 

 ポタ……ポタ……

 

 

 

  そこには、腹にナイフの突き刺さった、血の海に沈んでいる蹴りウサギの姿があった。傷口から絶えずドクドクと血が流れている。

 

「ウサギッ!」

 

  我ながら一体どこにそんな力があったんだというほどの速度で蹴りウサギに飛びつき、ナイフを引き抜いて投げ捨てる。

 

  そして右手で血の海からすくい上げ、何度も呼びかけながら揺さぶった。思えば、この時すぐに【神水】を飲ませればよかったのかもしれない。

 

 

 ……キュ

 

 

  しばらく揺さぶっていると、うっすらと蹴りウサギの瞼が開いた。そして弱々しいルビー色の瞳を僕に向ける。

 

「ウサギ!よかった、すぐに【神水】を……」

 

  そういいながら、石の下に置いてある蹴りウサギのほうの器を足で引き寄せる。そして蹴りウサギを器に寄せて……

 

 

 ガッ!

 

 

  しかし、蹴りウサギは液体の溜まった器を自慢の豪脚で蹴飛ばした。液体をひっくり返しながら吹っ飛ぶ器。後ろの壁に当たって砕ける音がする。

 

「な、なんで……?」

 

  困惑して聞くが、しかし蹴りウサギは答えるはずもなく。ただ、僕に向けて鋭く強い眼光を向けるだけだった。

 

  ここにきて、ようやくある疑問が浮かび上がってきた。それは本当なら、一番最初に気付きそうなこと。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

  この穴ぐらの中には、僕と蹴りウサギ以外誰もいない。そして僕はつい先ほどまで、ぐっすりと眠っていた。

 

 とすると、答えはたった一つ。

 

「まさか、自分で……!?」

 

  どうしてそんなことを、そう考えたことで、また一つある予想が浮かび上がってきた。考えうる中で最悪の予想だ。

 

  蹴りウサギは、僕の視線に気づいていたんじゃないのか?自分が食料として見られていることを知っていたんじゃないのか?

 

  もとより蹴りウサギは、過酷な迷宮の中で生きていた野生の魔物。むしろそういう視線には敏感なほうだろう。

 

  だとするならば、また新たな疑問が浮かび上がってくる。僕の視線を勘付いていたとして、なんでこんなことを?

 

 

 キュ、キュ……

 

 

  その答えが出る前に、腕の中から蹴りウサギが這い出した。そしてゆっくりと血の海の方へと向かっていく。

 

  自然とその後を追いかけると、血の海の一歩手前で蹴りウサギは止まった。そして小さく「キュ……」と鳴く。

 

  一体なんだと思い、蹴りウサギの止まった場所を見てみると、そこには文字が書かれていた。ぐちゃぐちゃで、まるでミミズみたいな文字だ。

 

 そしてその文字とは……

 

 

 

 

 

 

 

 〝い き て〟

 

 

 

 

 

 

 

「……………ま、さか」

 

 

 

  蹴りウサギは、僕に自分を食べろと、そう言っているのか?

 

 

 

「そんなこと、できるわけないだろっ!?」

 

  声を荒げて、右腕で地面を叩く。地面に額を押し付けて、砂利が突き刺さる痛みで必死に怒りを抑えた。

 

  なんでウサギは、そんなことを言うんだ。君は、この暗闇の中で唯一僕を保つ、たった一匹の大切な存在なのに。

 

「……いや、違う」

 

  僕に、蹴りウサギを責める権利なんてない。蹴りウサギがこんなことをしたのは、元を辿れば僕が原因だ。全部、僕の蒔いた種だ。

 

  それでもこれは、あまりにも酷じゃないか。この世界は僕から散々奪って置いて、さらに奪おうと言うのか。

 

 

 ズリ……ズリ……

 

 

  悔しさと罪悪感、自分への怒りに押しつぶされそうになっていると、また蹴りウサギが這いずる音が聞こえてきた。

 

  反射的に顔を上げた瞬間……鼻先を、この数日の間で慣れた、湿った感触が通り過ぎる。蹴りウサギの舌の感触だ。

 

  目を見開いて、目と鼻の先にいる蹴りウサギを見る。すると蹴りウサギはまた「キュ……」と鳴いて。

 

 そして、動かなくなった。

 

「あ、あぁ……………」

 

  ブルブルと震える手で、蹴りウサギを触る。けれどもう、その体から暖かさは消え失せていた。感じるのは、冷たさだけ。

 

  そうして触れることで、ようやく実感する。自分の最大の救いにして、〝僕〟でいられる最後の砦が壊れたことを。

 

 

 

 

 

「あ、あぁあああぁああああぁあぁあああぁあああぁあああぁああああぁあああぁああああぁあああぁあああああぁあああぁあああぁあああぁああッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

  誰もいない穴ぐらの中で一人、慟哭を上げる。涙を流し、蹴りウサギだったものを搔き抱いて、喉が張り裂けそうなほど声を張り上げる。

 

  だが、いくら泣こうと喚こうと、もう蹴りウサギは戻ってこない。蹴りウサギは僕のために、自ら犠牲になったのだから。

 

  あまりにもあっけない、一つ命が消えるにしては酷すぎる終わり方だった。心が軋みをあげ、ひび割れていく。

 

 

 

「ああぁあああぁあああぁあああぁああッッ!!!」

 

 

 

  そうして僕は、誰も居ないくらい穴の中で、唯一の理解者を失った悲しみに泣き叫ぶのだった……




ウサギは犠牲になったのだ……(`・ω・´)
書いててキッツイなぁこれと思いました、はい。
例のアンケート、メルさんとセントレアさんで五分ですね。あと一票、どちらかに入ったら終了します。
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