シュウジ「オス、シュウジだ。みんなもこんな時期だ、気を付けろよ」
エボルト「うがい手洗いは忘れずにな。それと十分な睡眠を、だ」
雫「暗い中での文字の注視にも気をつけましょうね。さて、前回は私のことを私とちゃんとわかってくれたわね」
シュウジ「あたぼうよ。で、今回は前回に引き続き、姿の変わった皆の話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」
「え、ええと、どうなってるんですか……?」
「ほんとに、シズシズ達なの……?」
「その通り。これも迷宮の試練だよ」
ゴブリンモドキ……いや、雫と手を繋いでやってきたシュウジは、いつもの調子で笑う。
「シュウジさん、どういうことですか?」
「簡単に言えば、この迷宮のコンセプトは〝見てくれや感情に惑わされるな〟なのさ。で、複数人で挑戦した時には何人かがそういう姿になって、残ったメンバーが見抜けるかどうか試す」
「なるほど……じゃあ本当にユエと美空なんだね」
目覚めた光輝と一緒に帰ってきた香織は、ハジメと抱擁を交わしている二匹のゴブリンを見た。
その視線に二人? が振り返ると、香織は小柄な方……つまりユエの方を注視して目を細める。
「確かに、貧乳なところはユエみたいだけど……貧乳は瓜二つだけど」
「ッ!」
カッ! とゴブリンモドキの目が見開かれた。
一瞬でハジメの腕の中から抜け出し、ぴょーんと周囲の樹よりも高く飛び上がる。
そして……
「グギャァッ!」
「くうっ!」
「ユエさん! これ確実にユエさんですぅ!」
「ん、この鮮やかな足技はユエ」
香織にコークスクリューをふんだんに加えたライ◯ーキックをお見舞いした。
旋風を巻き起こし、香織に両手で防がせる様は、とても身体能力が落ちているとは思えない。
「なんで香織はわざわざ煽ったんだ……」
嬉しそうに納得するウサギコンビとは裏腹に、色々な意味で変わってしまった幼馴染に光輝は頭を抱えた。
しばらくユエと香織の攻防は続き、ユエをハジメが諫め、香織の尻に美空がタイキックをすることで止めた。
両者共に落ち着いた? 所で、グギャとしか話せない三人に念話石を仕込んだアクセサリーが配られる。
ユエと美空にはイヤリングを、雫にはシュウジが指輪を。勿論薬指……ではなく中指に。
「本当はこっちがいいが、それは一度きり……本気のものにしたいからな。実を言うと、まだいくつか宝石を作る類の魔法があるんだ」
「グギャ♡」
恭しく雫(ゴブリン)の指に膝をついて指輪を通すシュウジに、見た目も関係なく砂糖を吐きそうになる一同だった。
まあ二人の仲睦まじさは今更なので、それ以上の反応はせず、アクセサリーを装着した三人に目を向ける。
『……シュウジ? 聞こえるかしら?』
「おお、数時間ぶりの女神様の声だわ」
『もうっ♪』
ポッと頬を赤く染める(雫)ゴブリンモドキ。見た目だけならシュールである。
またも何か吐きそうになりながらも、振り返ったシュウジにハジメ達は聞こえている、と首肯した。
特に最初に疑ってかかった光輝などはえらい驚きようで、パクパクと口を開閉させている。
「問題なく聞こえるな。それなら……」
今度はユエと美空の方に視線が集まった。
二人は頷いてアクセサリーに魔力を流し、意思を伝達してみる。
『ハジメ? こっちも聞こえる?』
『ハジメ刻む』
「おう、聞こえ……今何か怖いこと言いませんでしたか美空さん」
『なんのこと? それより早く再生魔法を使って戻してくれない? 流石にこのままの格好っていうのは……』
元ネットアイドルということもあり、容姿に自信を持つ美空は嫌そうに自分の体を見下ろす。
無論のこと、それはわかっているので香織が手をかざすが……その手首をシュウジが掴んだ。
「やめとけ、魔力の無駄だ」
「……どうして?」
「考えてみ。再生魔法が迷宮に入るための条件なのに、わざわざそれで解けるような変異をさせると思うかい?」
「あ……」
確かに、と納得した顔の香織。
ハジメが鋭い目で見上げれば、シュウジはアイコンタクトで正確な「情報」だと伝えた。
意気消沈する二人に、ハジメはその頭に手を置くと優しい声で語りかける。
「……大丈夫だ、必ず攻略していくうちに解決策は見つかる。ずっとこのままなんて試練として終わってるからな」
「その通り! だから雫も、あと少し我慢してくれ」
『ええ、わかったわ。あなたと手を繋げないのは残念だけど……』
「何言ってんだ。どんな手でも雫の手だろ」
ざらりとした感触の手を引っ込めた雫に、迷いなくシュウジは手を握った。
赤い顔で俯く雫。この男、普段のへっぴり腰は何処へやら、少々テンションがおかしくなっている。
「……お二人って、長く離れるとああなるんですねえ」
「シア、現実逃避しないで」
『ん、ツッコむのはシアの役目』
『頑張って!』
「嫌ですぅ! なんで私が担当で定着してるんですかぁ!」
「あはは、どちらかと言うとシュー君が押してるような……」
「ほっとけ、溜まってた分の放出みたいなもんだ」
「南雲君、その表現は……」
「そんなキノコの胞子みたいな……」
背後から感じる猛烈な甘さに、ハジメ達は決して振り向かぬと決意した。
そんなこんなで締まり切らぬ空気のまま、背後の二人を放っておいて現状確認を始める。
「なるほど、身体能力も魔法も奪われてると……厄介だな」
『ごめんハジメ。迷惑かけて』
『せめて香織みたいに、戦う手段があればよかったんだけどね……』
「気にするな。この程度苦難ですらない」
「美空は私が守るよ!」
「絶対、ぜぇ〜ったい、元に戻しますからね!」
「ん。それはそれで可愛いけど、やっぱりいつもの二人がいい」
「お、俺も頑張るぞ!」
「鈴も手伝うよ!」
励ますハジメ達に、意気消沈していたユエと美空は顔を見合わせ、醜悪な顔で笑った。
見た目こそ凶悪なものの、それが照れ笑いであると察したハジメは微笑みながら立ち上がる。
それからイチャコラしていたシュウジ達をこちらに呼び戻し、強い意志のこもった顔で言った。
「それじゃあ、一刻も早くユエ達を元に戻すためにも、さっさとティオと坂上を見つけて攻略を進めるぞ」
その号令と共に、焦土と化した樹海を背後に一行は再び進み始めた。
……などと探索を再開し、三十分ほど経過した頃である。
「グォ、オォオ!」
「ガ、ガァ……」
「……なあ、あれって」
「……まあ、そうかなあ」
なんとも言えぬ顔で振り返ったハジメに、シュウジは曖昧に笑った。
一行の前にあるもの。
それは……コートのような形の毛皮を着たオーガが、他のオーガになにやら話している光景だ。
腕を組み、切り株に座ってドスの効いた声で鳴くオーガに、正座した他のオーガ達は何故か疲れている。
「あれ、ぜっっったい龍っちだ……」
「ええと何々、『鈴は頑張り屋で、抱え込むところもあるけど、そういうところがむしろ守ってやりたくなるんだ』と……」
「!?」
バッ! と振り返った鈴が見たのは、イ◯リン◯ル的なアプリを携帯で起動したシュウジの姿。
その受信先は……疑うまでもなく、上機嫌で何か話している毛皮コートのオーガであった。
「『だから俺はもっと強くなって、いつか鈴のことを』……」
「やめてええええええっ! お願いだから龍っちそれ以上言わないでぇええええええっ!!!」
夕焼けのように真っ赤な顔をして、素晴らしい走り出しでオーガへと突撃した鈴。
陸上部もかくやという見事なフォームのまま、鈴はガッハハ! と笑っているオーガの脇腹に頭突きした。
「オグッ!」
「なにやってんのさ龍っち!」
「ゴ、ゴガァ!?」
シュウジの背後から全員が画面を覗き込むと、そこに「た、谷口!?」と表示された。
次の瞬間に裏拳をもらった光輝が空中で一回転する中で、鈴は困惑するオーガにまくし立てる。
「なんで! 魔物相手に! 惚気てんの!? 龍っちもしかしてバカに戻ったの!?」
「ゴグガァッ!」
「せめてもなにも筋肉つける要素すらなくバカだよっ! ていうかそこまでするならいい加減肝心の言葉を言ってくれない!?」
「ガ、グヌググ……」
「なんでそこで照れて黙るのさ!」
頬をかいてそっぽを向くオーガ、なぜか意思疎通ができている鈴、困惑するオーガ達。
とりあえず最後の連中は冷静じゃないうちにハジメが全て撃ち殺し、痴話喧嘩している二人に近付く。
そして龍太郎にもアクセサリー……ではなく、慣れ親しんでいるスマホ(シュウジ製)を渡した。
同じものを渡された鈴は、隣に座っている龍太郎(オーガ)とラ◯ン的なアプリで会話する。
『で、なにやってたの?』
『気がついたらなんか魔物になってた。んで、一緒にいた群れっぽい連中が俺の異変に気がついて襲ってきたから、全員ぶちのめした』
『もうっ、危ないなぁ! ユエさん達も身体能力が下がってるって言ってたのに!』
『まあ大した連中でもなかったしな。で、そのうちお前らが来るだろうと思って、その間ちょっと世間話をだな……』
『世間話じゃないよね、鈴の話だよね』
じろりと睨む鈴。龍太郎(オーガ)はさらに大きくなった体をビクリと震わせた。
『いや、こうなんとなく思いついたのがその話題でよ。気がついたら止まらなくなってて……』
『だから! そういうことなら! もう一回! 鈴に! 告白しなさいよっ!』
強調するために一言ずつメッセージを送る鈴。その顔は赤く、自分でも照れているのがわかる。
それをちらりと見た龍太郎(オーガ)は、少し考えるようなそぶりを見せた後に極太の指で画面をタップした。
『メルドさんにもう一度勝って、あの日の負けを挽回したらちゃんと言う。こんな姿だし、文字なんかで言いたくねえ』
「っ、そ、そういうことなら待ってあげなくも……ないかなぁー、なんて」
しまいには口で言ってしまってる鈴に、龍太郎(オーガ)は般若のように笑い……本人は優しく笑ってるつもり……頭を撫でる。
途端に、さらに顔を赤くして黙り込む鈴。太腿の上でスマホを両手で握りしめ、体を縮めた。
が、密かに口元が緩んでいるのが一目瞭然である。
「「うーん、コーヒーが甘い」」
「なんで南雲と北野はコーヒーブレイクしてるんだっ!」
光輝のツッコミが、虚しく樹海に響いた。
決して、決してこの中で唯一の独り身だから叫びたくなったわけではない。決して。
ともあれ、無事に? 龍太郎を回収し、シュウジ達は再び樹海の中を進んだ……のだが。
「……ハジメさん。今度は私にだってわかりますよ」
「私にもわかるよ……」
「あれ、どう見てもティオ」
『ん、ウサギに同意』
『むしろ他にいたらこの世界ヤバくない?』
移動して、わずか10分。
先ほどとは打って変わって、汚物を見る目でいるシュウジ達の前にいるもの。
それは……恍惚の表情で他のゴブリンに袋叩きにされている、一匹のゴブリン。
ティオだった。誰がどう見ても、どう解釈してもユエ達のように魔物に変わったティオだった。
余計に気色悪くなった光景にハジメ達は全員もれなく、道端に落ちているゴミを見下ろす目をしている。
あの雫でさえ冷たい目をしている。なまじ今は同じ姿だからこそ、あれを受け入れ難いのだろう。
「あれ、放送禁止レベルだよ……」
『見るな谷口、目の毒だ』
イ○リ○ガル改め、オーガリンガルで声を発した龍太郎が鈴の目を大きな手で塞いだ。
「南雲……俺、全力でお前を尊敬するよ」
「やめろ天之河、その尊敬だけはやめろ。受け入れてない、俺は諦めてるだけだ」
「よかったなハジメ、勇者(偽)に敬われたぞ!」
「お前とはもう一度殴り合う必要があるな?」
片や北斗○拳、片や酔○の構えを取り始めた二人。互いの想い人達が嘆息した。
「グ? ギャギャ!」
などと騒いでいるうちに、困惑しながらもティオを棍棒で叩いていたゴブリンの一匹がシュウジ達に気がついた。
つられて他のゴブリンも振り向き、当然ながら突然責め苦がなくなったティオも顔を上げる。
「グゴギャ!」
かと思えば、カッと大きく目を見開き、それまで暴行されていたのが嘘のような俊敏さでハジメに突進してきた。
まるで某先輩のごときカサカサ移動をするティオに、同じゴブリン達が思わずドン引きしている。
「グギャギャギャギャ!」
そんなのお構いなしに、ティオはル○ンダイブを彷彿とさせる姿勢でハジメに飛びかかった。
ダミ声なので意味は不明だが、おそらく「会いたかったのじゃ、ご主人様ぁ〜!」などと行っているのだろうが。
「寄るな、このド変態が!」
返答は、それはそれは綺麗なアッパーカットと罵声であった。
うーむ、オリジナル要素を増やすと話数が増える。
読んでいただき、ありがとうございます。
感想をいただけると嬉しいです。