ハジメ「前回のあらすじ。勇者がなんか覚醒(笑)してた」
シュウジ「簡潔ゥ!」
ハジメ「それと作者はスランプ気味になってても映画ばっか見てないで執筆しろ。さて、今回は大迷宮の試練だな。それじゃあせーの、」
二人「「さてさてどうなる大樹編!」」
ハジメ SIDE
チュンチュンチュン……
「んんっ……」
……小鳥のさえずりが聞こえる。
うっすらと目蓋を開けると、途端にカーテンの隙間から差し込む陽光に目を焼かれた。
咄嗟にベッドに潜り込もうとした瞬間、枕元に置いたスマートフォンがけたたましくアラームを鳴らす。
狙いすましたようなその音に、仕方なしと割り切って毛布の中からモゾモゾと這い出した。
「ふわあ〜ぁ……」
欠伸をしながら体を起こすのは、とてつもない重労働だ。
睡魔という名の誘惑する悪魔と戦いながら、未だに自分の存在を主張するスマホの音を止めた。
「ふぁ、流石に三時までやるのはまずかったかな……」
二度目の欠伸をしながら独り言を呟き、それから部屋の中を見渡した。
ここは
僕の親友の、何度も来慣れた部屋だ。
やけにお洒落なデスクに難解そうな書籍のずらりと並んだ本棚、古めかしいレコードなどなど。
隣の棚には僕も一緒に攻略したゲームのパッケージが並び、その横には……四角い奇妙な箱がある。
部屋に備え付けられた小型テレビにはゲーム機器が繋がれ、付けっぱなしのゲーム画面…
ジリリリリリリリッ!
「いいっ!?」
昨日寝落ちしたままの部屋を眺めていると、またもやかましい目覚まし時計が鳴った。
僕のではない。
僕が使っていた敷布団の隣に並んだベッドに眠る、この部屋の持ち主のものだ。
「ん……んぁ……」
そいつは枕とは逆さまに布団を頭からかぶっていて、そこから足だけを緩慢に突き出した。
それで器用に目覚まし時計を止めると、そのまま足を引っ込めてまた寝息を立て始める。
「はぁ、まったく……」
もう見慣れた、
「シュウジー! ハジメくーん! 早く起きなさーい!」
ほら、下からもお呼びがかかった。
想定していたタイミング通りの呼びかけに苦笑いしながら、立ち上がった僕はそいつに近づく。
そうすると、何の躊躇もなく全身でくるまっている布団を引っぺがした。
「ほら、起きて! 朝だよ!」
「うぐぉお……ハジメ……あと五分だけくれぃ……」
「なーに言ってんの、そのセリフもう聞き飽きたよ」
まったくこいつは、何年経っても
そいつは少しでも日の当たらない場所に行こうと体を縮こませ、足で挟みとった枕で頭を隠す。
実に無駄に器用なその行動にまた溜息を吐いていると、コンコンと扉がノックされた。
「はーい?」
「ん、私。入っていい?」
ドアの向こうから、綺麗な声が聞こえた。
聴き慣れたその声に「どうぞ」と返すと、扉が遠慮がちに……なんてことはなく、躊躇なく開けられた。
入ってきたのは、もう見慣れた顔。
既に呆れた顔でいる黒髪の女の子……幼馴染である美空と、
美空と女の子……ユエは、僕と枕を被っているそいつを見比べると、またかと小さく呟いた。
「まーたいつもみたいに籠城してるわけ?」
「……往生際が悪い」
「だよねぇ。ほらシュウジ、二人が来たよ」
そう言えば、親友はビクッと体を震わせた。
しかし、僕たち幼馴染三人組の中で一番怖い美空が来ても、そいつはまだ惰眠を貪ろうとしている。
美空達と顔を見合わせ、仕方がないと肩をすくめた僕は最終手段に出ることにした。
「そういえば美空、八重樫さんは?」
「下にいるよ。おばさんの朝食作りを手伝ってる」
「そう。おーい八重樫さーん! シュウジが
「だぁーっ! わかった負けだ! 俺の負けだからそれはよせ!」
あ、起きた。まったく最初から素直にすればいいものを。
ジト目の僕と後ろにいる美空、ユエの視線を受け、そいつはうっと無駄にイケメンな顔を引きつらせた。
北野シュウジ。
僕の親友で……
それでもこいつも頼りがいのあるところもあって……と。朝から何考えてるんだろうか、僕。
ちなみにここで言う特別な方法とは、こいつの彼女である八重樫さんに、お茶の間に出せないアレコレを……
「はい、今日は五分オーバーね。八重樫さんに報告しとく」
「うぉいハジメン! もう起きたから許してくれない!?」
「……昨日もそう言ってた」
「いい加減学べばいいのに」
二人のツッコミにそっぽを向くシュウジだが、三人で見続けるとそのうち「……明日はちゃんと起きる」とぼやいた。
はいはいと我ながら期待しない返事をしながら、美空達に先に下に行ってもらい支度を始めた。
「いやー、いつもすまんなハジメ。お前に頼って」
「まったく、なんで学校の成績とか運動は抜群なくせにこういうとこはだらしないのさ」
着替えながら、これまたお決まりになった会話をする。
こんな風に言い始めてからもう何年になるかわからない。
こいつはすごい所とそれ以外の落差が激しいのだ。だから僕が手助けしてやらないといけない。
「なはは、そこはお前がいるからいいんだよ」
「僕で埋めないでよ……ふふ、まったく」
でも、それを悪くないと思うあたり僕はこいつのことが本当に大切な友達なんだろう。
きっとこれからもそうしていく。朝から重いこと考えてるのはわかってるけど、そんな確信がある。
違う
「ん? 何か言った?」
「んにゃ、なんも?」
「そっか。ほら、着替えたら下行くよ。朝ごはんが冷めちゃう」
「ほいほいっと。あ、ハジメそこにゴミが……」
「あだぁっ!?」
床に転がっていた、ポテチか何かの空き袋を踏んですっ転んだ。
ジンジンと痛む後頭部をさすりながら、後ろを見てジロリとシュウジを睨む。
「……シュウジ。ゴミをちゃんと片付けろって言ったよね?」
「……ごめんちゃい⭐︎」
てへぺろ顔したバカには、とりあえずゲンコツを一発入れた。
●◯●
「まだ
「ふふ、シューったら」
朝の通学路、五人で歩く平凡な登校。
僕を中心に、左に美空とユエ。
そして右隣に頭をさする(自業自得)シュウジと、その恋人の八重樫さん。
彼女は、僕より高いすらりとした完璧な体と、雑誌に載るほどの剣道の達人で、学校でも有名な美人さん。
それが偶々小学生の時に出会い、その時シュウジに助けられた。
まあ助けられたと言っても、プールで幼馴染とはぐれた彼女にシュウジが声をかけ、一緒に探そうとして迷ったのだが。
なんとも
我が親友は基本高スペックなくせに、何かと抜けてる所があるので心配は尽きない。
それ以降粘り強いアタックをかけ続けて、中学生の時にシュウジと恋人になった。
こいつは
そんな時、
「ちゃんと気をつけましょ、ね?」
「これに懲りたら、ちゃんと片付けしてね」
「善処します、はい」
「あい……」
「相変わらず甘いなー、二人は」
「……ん。でもそこがいいところ」
ユエの言葉に照れてしまう。
呆れていた美空も「ま、それもそっか」と言ってくれて、僕はなんとも面映い気分になった。
こんな生活が始まったのは、ほんの数ヶ月前のこと。
最初は僕とシュウジ、美空だけだった所に、ある日八重樫さんが加わった。
次に
初日に堂々とクラスメイト全員の前で僕に告白し、それに前々からアプローチをかけてきた美空が本気を出した。
元から美空と仲良くしていて目をつけられていた所に、とんでもない美少女が現れたらどうなるか。
言っちゃなんだが、僕はいわゆるオタクだ。
ゲームとシュウジのフォロー、後は父さんの会社の手伝い漬けの日々を送っている。
そんなやつが美少女達にチヤホヤされていようものなら、まあリア充の方々を筆頭に男子が嫉妬するわけで。
怒り狂い、正気を失った男子どもから逃げ回ること数ヶ月、ようやくこの平穏まで漕ぎ着けた。
シュウジのフォローで世話焼き癖がついているため、多少味方してくれる奴がいたのが幸いか。
他にも色々あるのだが、そうして僕の日々は回って…………
回って、いただろうか?
そもそも、シュウジはこんなに抜けていたか? 頼りなかったか?
むしろ、周囲との協調をないがしろにしていた僕がうまくフォローされていたような、そんな気がする。
そもそもユエと出会ったのだって、外国だっただろうか? 最初に会ったあの薄暗い場所はどこだった?
倒したのは本当に暴漢だったか? そんな
「……ジメ、ハジメ!」
「んっ……あ、あれ?」
「……どうしたの? ボーッとしてた」
「あ、ごめん。それでどうしたの?」
「ほらあれ」
ユエに袖を引かれ、美空が指差す方を見る。
すると、見覚えのある綺麗な緑色の髪をした幼い女の子が、うずくまるシュウジの前で狼狽ていた。
困った顔の八重樫さんと同じようにポニーテールにくくられた長髪を振り乱し、おろおろとする幼女の近くには両親がいる。
「あー、また股間に突撃されたのか……」
「そうみたい。リベルちゃんは元気だね」
「そうだね……カインさん、ルイネさん、おはようございます」
「ああ、おはよう南雲君」
「今日も調子は良さそうですね」
スーツを着た美女と、眼鏡をかけた知的な男性の夫婦。
以前ちょっとした事で知り合った国会議員のルイネさんと、その秘書のカインさん。そして娘のリベルちゃん。
リベルちゃんはシュウジにとても懐いていて、こうして暴走した結果シュウジが撃沈するのも恒例だ。
「いつもすまないな、娘には言い聞かせているのだが……」
「余程彼を気に入っているのでしょう」
「大丈夫ですよ、あいつ無駄に頑丈だから」
「ここは頑丈にならないぞーハジメー……」
おっと、男にしかわからない苦痛に呻く声が。
少しして復活したシュウジが今度リベルちゃんと遊ぶ事を約束して、一家と別れた僕達は学校へ向かう。
「ふぅ、朝から危機一髪だったぜ」
「ごめんね、考えごとしてて気がつかなかったよ」
「いんや、ハジメのせいじゃないさ」
そう言って笑うシュウジに、僕はなるべくこいつを守ろうと、
「……微睡んでいればいい、この心地良い理想に」
「ん? 何か言った?」
「何も?」
そう? と答えながら、僕は四人と歩き続けた……どこか、拭きれない違和感を抱えながら。
「ハジメさぁ──ん!」
「ん、ハジメ」
雑談を交わすうちに学校について、下駄箱で靴を履き替えていた時だった。
突如背中に柔らかい衝撃が伝わって、僕はまたかと慌てて後ろを振り返る。
「シア! だから僕に抱きつかないでっていつも言ってるでしょ!」
「そんな〜、私の幸せを奪わないでくださいよぉ〜!」
「ん、そう。ハジメは大人しく受け止めるべき」
「ウサギも止めてよ……」
カエルのぬいぐるみを腕に抱き、静かに言うウサギはこてんと首をかしげる。
こりゃ聞く気ないなと思いつつ、美空とユエからの極寒の視線に後ろにひっついているシアをひっぺがした。
ぶーぶーと文句を言いつつも、離れた彼女は淡い青色がかった白髪を揺らして天真爛漫に笑う。
この二人も、ユエのように長期の海外留学でうちの学校にやってきている姉妹。
彼女達とその家族がユエのように絡まれているところを助けて以来、ずっとこんな感じでいる。
男としてモテ期が来た事自体は嬉しいけど、胃薬とそろそろ友情が芽生えそうだよ……
「シシッ、朝から大変だなハジメ。教室に行ったら白崎さんも待ってるぜ?」
「忘れてたかったのに、言わないでよ……」
思わずため息を吐きながら、僕はみんなと一緒に嫉妬渦巻くだろう教室へと向かった。
●◯●
「ふぅ……やっと一日が終わったぁ……」
夜、風呂から上がって早々にベッドに倒れ込む。
ああ、今日も大変だった……主に対人関係で。
教室に入って早々白崎さんがやってきて美空達と冷戦状態になるし、シュウジはポカやらかすし。
ユエとシア、ウサギが仲が良いのが救いだ。全員が敵対してたら目も当てられない。
それでもなんとか、どうしてかすごく懐かしいような気がする授業を受けて、騒がしく昼食をとって。
居眠りするシュウジの脇腹を突いて起こし、ティオ先生のセクハラを躱し、レミアさんの代わりにミュウを迎えに行き……
忙しいけれど、楽しい一日。ずっと続いてきた日常。
それなのに……
「……なんだろう、この感覚は」
何かが違う。何かがおかしい。
帰宅中、見かけた暴漢にユエが近接格闘術を披露した時。
自分がその時、冷静に戦略分析をしていた時。
三日に一度くらいは会ってるはずなのに、ミュウと話すのが久しぶりな気がした時。
何よりも……
その全てに、僕の中の何かが訴える。
目を覚ませと。こんなはずがないと。
こんなに平穏なのに。こんなに楽しくて、安全で理想的な生活なのに、本能が拒んでいる。
「なんで、こんな……」
「おーいハジメ、いるか?」
胸に手を当てて考えていると、窓の方から声がした。
一緒にノックオンがして、カーテンを開けると、すぐ間近にある隣の家の部屋からシュウジが手を伸ばしている。
「よっ、まだ起きてたか」
「どうしたの?」
「ちょっとそっち行っていいか?」
「……また落ちかけないでよ?」
気遣い半分、警戒半分でいうと、シュウジは曖昧に笑った。
……そうじゃないだろ。そんなミス俺がすると思うかい? なんて言って、華麗に飛んでくるだろ。
なんて、浮かんだ自分の考えに驚いているうちにシュウジは窓伝いに入ってくる。
端に寄って場所を開けてやると、シュウジはすぐ隣に座り込んだ。
「よっこらせ……いやあ、高くてこえーな」
「飛べるだろ、お前」
「え? 何言ってんだ?」
……ほんとに何言ってんだろ。人が飛べるわけないのに。
「それで、何の用なの?」
「ああいや、実はな……お前に礼を言おうと思って」
「礼?」
鸚鵡返しに聞き返すと、シュウジは照れ臭そうに頬をかく。
……これも、違っている。お前が礼を言うときは、やけに格好のついた顔をするはずなんだ。
「いつも助けてくれて、ありがとな。色々頼ってばかりでさ、情けないけど本当に感謝してる」
「……いきなりどんな心境の変化?」
「いやほら、もうすぐ俺たちの誕生日じゃん」
そうだった。
なんの偶然か、僕とシュウジは生まれた日も、時間さえもほとんど同じなのだ。
「この十七年、お前に支えられっぱなしだ。いつか、俺はお前に恩返しできるようになるから……そん時までよろしく頼むわ」
柔和に笑うシュウジは、そのイケメン顔も合わさって、女の子が見れば気弱な王子様のようで。
その笑顔から、瞳から、全幅の信頼を感じる。心の底から僕を頼ってくれていると、そう確信できる。
ああ、そうか……
「お前、やっぱり違うわ」
やっぱりこれは、
「え……?」
「
そうだ、こいつが抜けてるなんてありえねえ。
こいつはいつだって完璧で、気持ち悪いくらいに隙がなくて、補わせてくれる弱点なんか見つからない。
俺がこいつをフォローする? 頼りない部分の面倒を見てやる?
ハッ、それこそ
「…………」
そう宣言すれば、笑っていたシュウジはスッと表情を落とした。
もう惑わされない。ずっと感じていた違和感も、霧をかけたような記憶も元に戻った。
久しぶりに両方見える目をカッ! と見開き、気合と根性で無理やり魔力を放出する。
「これは、仮初だ。俺にとって都合のいい、俺が溺れてもいいと思えるような、そんな甘い絹糸だ」
確かに、美空もユエもシアもウサギも、その他も全て理想のような関係だった。
〝たとえ全部忘れてしまっても〟だなんて、心底馬鹿げたことすら思えてしまうようなものだ。
だが、この世界のユエはいくつもの死線をくぐり抜け、共にこの世界を抜け出すことを誓ったユエか?
あの穏やかでしかないウサギは、奈落の底で最初に俺に生きる意志を与えてくれた恩人か?
何よりも許せないのは──こんな無力で、惨めったらしい面構えのクソ人形が、俺の親友だと?
「ふざけるな。ふざけるなよハルツィナ。あいつはな、俺の知る人間の中で誰よりも強いんだよ!」
流されかけた自分に、この最悪の試練に怒りを向け、ギリギリと歯を食い縛る。
それを抑えるために、俺は思い切り自分の頬を殴り抜いて……それから大迷宮の作った親友を見た。
「……お前は、弱ってなんてくれない」
「何故? お前はずっと俺を支えることを、頼られることを望んでいたのに」
無機質に、試すように聞いてくる人形。
ニヤリと笑む。ああ、そういう魂胆なら付き合ってやるよ。
「お前は、肝心なところで俺たちを巻き込んでくれない」
「何故? お前はずっと俺を止め、平穏にいることを望んでいたのに」
「お前は、俺達に気を許していながら俺達の前でだけはだらしなさを見せない」
「何故? お前は何もかも委ね、寄りかかってすらくれることを望んでいたのに」
ああ、そうだ。
俺の言葉。この人形の言葉。
どちらも本物。どちらも正解。鏡ですらない。
全部、俺の願望だ。
「ここにいればいい。ここは理想の世界、お前が俺を救える世界。ユエもいる、美空もいる。他の皆もいる。ならば……」
「幸せだろって? ──馬鹿野郎。俺とあいつの約束はな、こんなおままごとで満足できるような軽いもんじゃねえんだよ」
あいつが死ぬのを止めた時。
俺が生まれて初めてあいつに勝って、本音で語り合って、本気の本気で拳で語り合った時。
──俺がお前を支えてやる! お前が自分を認められないっていうなら、俺が認めてやる! 前を向くのが怖いっていうなら、一緒に見てやる! お前が、これまで俺にそうしてくれたみたいに!
涙も怒りも悲しみも苦しさも全部全部込めて……ただ、それだけを言ったんだ。
●◯●
「あの日に誓った。誓ったんだよ、あいつと! 誰より認めるって、一緒に歩くって!」
こんなところで立ち止まってなんかいられない。
吐き気がするクソ甘い理想で溺死している暇があるのなら、俺はヘドロにだって食らいつく。
歯を食いしばって、腕を伸ばして、足をばたつかせて、どんなに不格好でも追いかけるんだ。
「俺の理想で、あいつを歪ませるなど許せない。俺の願望で、あいつが弱くなるなど間違ってる」
俺のわがままであいつを捻じ曲げるなんて──そんなの、死んだほうがマシだ。
「あいつは誰かの定めた枠になんか収まらない。いつだって飛び抜けてて、だから俺はその首根っこ掴んで引きずり下ろして、無理やりにでも歩幅合わせんだ!!!」
力の限り叫び、魔力でこの世界をぶっ叩く。
消費しすぎて倦怠感が襲うが、そんなの気にせずこの箱庭に抗い続ける。
「だから! 俺のちっぽけな理想など! 俺の想像できる程度のあいつなど、思い通りになる仲間など!」
全て!! 全て!!! 全てッ!!!!!
「消えて、なくなれェエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
紅蓮に染まり、ひび割れた世界で最後の咆哮をあげた、その瞬間。
バリィインッ!!!
世界が、
世界の欠片が、ガラスの破片のように宙を舞う。
それはゆっくりと落ちていき……そして、俺が立っている
俺は今、無数に積み重なった人の上に立っている。
誰も彼も動かず、まるで死体の山の上に立っている気分だが……まあ、さっきよりかはマシだ。
「──そう。だからこそお前はお前だ。南雲ハジメ」
「……てっきり、解放者がクリア通知でもしに来ると思ったんだがな」
意識は沈まない。むしろはっきりとしている。
いつの間にか戻った服装を確認しながら、俺は喋りかけてきた声の方向に振り向いた。
そこに立っていたのは──グリューエンで俺達を助けた、あの爺さん。
「決して満足しない。飢えた狼のようにどこまでも、どこまでも求める。それは純粋にして明快なる本能だ」
「人のことを犬畜生呼ばわりとは、随分と舐めてくれるな?」
「まあ、どれだけ歳食っても変わらないんだ。そう言いたくもなる」
肩を竦める爺さん。
どれだけ歳を重ねても、か……あの時は思考的に余裕はなかったが、一目見て何となくわかってた。
それにこの前、シアと二人でいた時に義眼の中に一瞬だけ映ったあの光景。
疑念が確信になった。
この瞬間、このタイミングで現れるなんて、あまりに大きすぎるヒントだ。
「何を望む?」
「お前と同じものを。当たり前だろう?」
だって俺は……という続きを目で語る爺さん。
俺は笑い、続きを投げかけた。
「必ず半ばで力尽きるぞ」
「俺は失敗を知っている。二度はない」
「それが届かない理想だと解ってるのにか?」
「届くさ。そのために
両手を広げ、何かを見せつける爺さん。
俺は少しの間、視線を右往左往させて……それから「ああ」、と小さく呟いた。
「これ、
そう呟けば、ずっと不自然に暗かったそいつらの色んな顔が見えて。
喜び。楽しさ。慈しみ。友情。愛情。
怒り。悲しみ。苦しみ。憎しみ。恐怖。
全部捨てた。きっとそれ以外にも、たくさんたくさん。
数え切れないくらいに削ぎ落として、抉り取った。
「残ったのは一本の芯だけ、か……」
「お似合いだろう?」
「
自嘲気味に笑う顔が、爺さんと重なった。
ああ、俺は……
「飢えた狼、だな」
「腹を満たすには理想が必要だ。手足を動かすには願望が必要だ。走り抜くためには……溢れかえるほどの覚悟が必要だ」
きっとこいつは、その全てを手に入れて。
そして、それ以外の全てを捨てたんだ。
「お前を辿れば届くのか?」
「バカタレ、それじゃ遅い。俺の背中を踏んで跳び越えろ」
「今から歩いて間に合うか?」
「死ぬ気で走れ。心臓が止まっても走り続けろ」
「あいつは……救えるか?」
その問いにだけは、少しの間沈黙して。
「そうしなきゃ、失ったものに釣り合いが取れないさ」
そう、寂しそうに笑った。
その顔にあっけに取られていると、不意にずぶりと自分の両足が沈み込んだ。
驚いて下を見ると、足場になっていた背中や手足が崩れて、生まれた穴の中に引きずり込まれる。
「また会おう、南雲ハジメ。俺とは違う、同じ結末を望む者よ」
「……次にもう一回会う時までにそのしかめっ面をどうにかしやがれ、クソジジイ」
「できるかどうかは自分に聞け、ケツの青い若造が」
黒い、ひどく見覚えのある帽子をかぶって踵を返す。
その様子を見送って──俺は、自ら目を閉じた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回は勇者(笑)回!
感想が来れば来るだけ自分は寿命(メンタル)が延びます。