星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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 うちの光輝です←えっ

ハジメ「ハジメだ。前回は俺の内容だったが…原作だと惚気だったのがなぜ少年漫画展開に?」

男の友情って…ええやん?

シュウジ「はいはいぼっちぼっち。で、今回は原作には絶対なかっただろう勇者(笑)の話だな。つまりほぼオリジナル。読み飛ばしていいよ」

エボルト「よくねえよ。ま、楽しんでってくれ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」


愚者には夢を。

 光輝 SIDE

 

「1本! そこまで!」

「っ!」

 

 鋭い声に、ハッと我を取り戻す。

 

 目の前を見ると……俺の面で尻餅をついた、剣道の防具を着た対戦相手がいた。

 

 

 次の瞬間、ワッと喝采が上がる。

 

 

 その声と審判があげた旗、そして自分の視界を遮っている面マスクを見て、ぼんやりとした頭が冴えはじめる。

 

 ……そう、そうだった。今日は近所の強豪校との練習試合で、俺は雫の道場の門下生として参加した。

 

 

 そして俺は、相手の大将に勝ったのだ。

 

 勝利の余韻と達成感に浸りつつも、立ち上がった相手に慌てて対戦が終わる時の動きを取る。

 

 竹刀を納め、礼をする。

 

 それから八重樫流の仲間達の所に戻ると、みんなが口々に俺をたたえながら出迎えた。

 

「やっぱり天之河はすげえよ!」

「いや、みんながいたからこその勝ちだよ」

「ったく、このイケメンめ!」

 

 茶化してくる門下生にはは、と曖昧に笑う。

 

 どうしてだろう。試合に勝って嬉しいはずなのに、何故なのか致命的にズレている気がする。

 

 そもそも、俺はこんなところで剣道の試合なんてしている場合だったか? もっと別に、やるべきことが……

 

 いや、そんなはずはない。これでいいはずだ。俺は勝った、いつも通りに皆の期待に応えた。

 

 それでいいじゃないか。

 

「天之河なら、そのうち北野さんにも勝てるかもな!」

「っ……」

 

 北野。そうだ、あいつはどこにいる? 

 

 観客席を見渡す。しかし、龍太郎達やクラスメイトの女の子達はいるものの、あいつはいなかった。

 

 最初からいるはずがない。確かにあいつは雫の彼氏だけど、俺の試合なんて絶対に見にこない。

 

 

 それこそおかしくはないか? あいつは雫と付き合ってるんだから、八重樫流の試合は見に来て当然だ

 

 

 

 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。

 

 今この場所に、()()()()()()()、学校以外で北野と会うことなんて……

 

「すごかったよ光輝くーん!」

「っ!」

 

 よくわからない葛藤に苛まれていると、香織の声が聞こえた。

 

 顔をあげると、龍太郎や雫と一緒の所に座っている香織は、こちらに手を振ってくれている。

 

 とりあえず、手を振り返そうとして──香織の隣に座っていた、クラスメイトに目が行った。

 

「御、堂……?」

 

 日本人なのに、外国人の人のように綺麗な金髪の、とても美しい女の子。

 

 彼女は他のクラスメイトの女子達と同じような、うっとりとした顔で俺のことを見ていて……

 

 

 違う、違う! あれは御堂じゃない! 

 

 

 御堂は俺をあんな顔で見ない! あんな好意を抱いたような、そんな顔はしないはずだ! 

 

 あれは、あれは一体──

 

「天之河? ボーッとしてどうしたんだよ?」

「っ。いや、なんでもない……ちょっと疲れたのかもしれないな」

 

 ……今、一瞬感じた酷い不快感はなんだ? 

 

 御堂は学校でもそうしているように、香織達と一緒にいる。それだけのことじゃないか。

 

 なのに俺は、どうして女の子に対してあんなことを思ったのだろう。本当に疲れてるのか? 

 

「そっか。ほら、挨拶が始まるぜ」

「あ、ああ」

 

 促されるまま、相手校の人達と向かい合って最後の挨拶をする。

 

 結果は俺たち八重樫流道場の勝ち。雫のお父さんと相手の顧問の人が握手をして、にこやかに会話していた。

 

 俺はそれをぼんやりと聞きながら、試合が終わったことで帰り始めた観客達を眺める。

 

「…………」

「天之河、左肩どうした?」

「……え?」

「いや、ずっと抑えてるけど。痛めたのか?」

「あ、いや、平気です」

 

 年上の門下生に言われ、慌てて無意識に掴んでいた僧帽筋のあたりから手を離した。

 

 

 一通りのやり取りを終えると、互いに礼をして練習試合は終わった。

 

 

 俺達は雫のお父さん……師範代に今日の健闘への称賛と今後の改善点を言い渡され、労われる。

 

 解散した後も、更衣室で互いの試合についての感想を交わした。その時また褒められて、少し恥ずかしかったが。

 

 打ち上げに行かないかと誘われたが、妙に気分が落ち着かないので辞退させてもらった。

 

「ん? あれって……」

 

 体育館を出たところで、ふとあるものを見かける。

 

 ここは学校のものではなく、申請すれば誰でも使うことのできる公共の体育館だ。

 

 そのため、外に出るとすぐそこにある駐車場や、ちょっとした広場のようなものがあるのだが……

 

「あの、やめてください」

「いいじゃんいいじゃん。君、あの道場の子?」

「いや、あの天之河とかいうやつの学校の子だろ。めっちゃ可愛いじゃん」

 

 そこで御堂が、今日の相手校のやつらに囲まれていた。

 

 試合で相手した選手ではない。その応援に来ていた、ひと目見て不良とわかるような軽薄なやつらだ。

 

 近くに龍太郎や他のクラスメイト達はいない。きっと一人で帰ろうとしたところをからまれたのだろう。

 

 

 御堂は学校でも一、二を争うくらいに美人だ。

 

 香織や雫もそういう意味では有名だけど、彼女は派手な見た目に反して大人しく、話を聞くのが上手い。

 

 庇護欲を掻き立てられる、と言うとなんだか小動物扱いしてるみたいだが、とにかくそういう女の子で。

 

 

 きっとあのままでは、あいつらに何かおかしなことをされるかもしれない。助けなくては。

 

 ……けど、俺の助けなんか必要か? 

 

 だって御堂は、俺よりもずっと強い。あんな奴ら歯牙にも掛けないで蹴散らせてしまう。

 

 いやいや、何を考えてるんだ俺は。御堂が強いはずがないだろう? 

 

 さっき大人しいって自分で考えてたじゃないか。何もしなきゃ、御堂は危険な目に遭ってしまう。

 

 

 

 だったら、俺が守ってやらないと

 

 

 

 そう思って、俺は不良達に走り出した。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「お前ら、何やってるんだ!」

「ああ? ……チッ、王子様のご登場かよ」

「行こうぜ」

 

 走り寄ると、そそくさと不良達はどこかへ行ってしまった。

 

 すぐに逃げ出してしまった不良達の背中を見送って、俺は目の前にいる御堂を見下ろす。

 

「御堂、大丈夫だったか?」

「うん。ありがとう天之河くん」

「よかった……」

「あの人達は怖かったけど、天之河くんが来てくれたからもう平気だよ」

 

 柔和に笑い、宝石のような緑色の目で俺を見上げてくる御堂。

 

 確か、お母さんが外国人で、お父さんが日本人のハーフだったっけ。その仕草にドキリとしてしまう。

 

「どうせなら、家まで送っていこうか?」

「え、いいの?」

「ああ。またああいうのに出会す可能性もあるしさ」

「それじゃあ……お願いしようかな」

「任せてくれ」

 

 俺は、御堂を送るために彼女と一緒に歩き出した。

 

 周囲はもう薄暗い。試合で熱っていた体は既に冷めて、吹き抜ける風が少し冷たい。

 

 御堂の家は少し遠くのようで、体育館からそう遠くない駅で電車に乗る。

 

「わざわざ応援に来てくれてありがとう」

「天之河くん、今日の試合凄かったね」

「そうか?」

「うん。相手は手も足も出ないって感じだったよ」

 

 電車の中、小さな声で会話を交わす。

 

 普段頻繁に話すわけでもないのに、話していてもあまり新鮮さを感じない。

 

 彼女は龍太郎達みたいにいつも一緒にいるってわけじゃなくて、単にクラスメイトの一人だったはず。

 

 けれど何故か……理由はわからないけど、気を引かれる自分がいる。

 

「でも、まだまだ強くならないと」

「天之河くんって努力家なんだね。もしかして勝ちたい相手がいるとか?」

「勝ちたい相手、か……」

 

 そう言われ、真っ先に思い浮かんだのは一人の男の顔。

 

 剣の腕という意味では師範代だけど……それよりも心情的なもので、あいつにはいつか勝ちたい。

 

 いや、勝てなくてもいい。それでもせめて、あいつのやり方と同じくらいに貫けるものを持てれば……

 

「いるにはいるけど、でもそうじゃない気がするんだ」

「あ、わかった。それじゃあ好きな子がいて、その子のためとか!」

「好きな子、か……」

 

 次に思い浮かんだのは、なぜか南雲とあいつに話しかける香織の姿だった。

 

 あまりやる気のない……本当にそうかは記憶が曖昧だが……南雲に、香織は積極的に関わろうとする。

 

 それに胸が少し痛んで……でも、俺にとってそれはもう大切なことではない。

 

 いつの間にか、そうなっていた。

 

 

 じゃあ、そうでないとしたら……俺が好きな相手は? と言われると、よくわからない。

 

 女の子と話していると、友達は「天之河なら選り取り見取りだよな」などと言う。

 

 もちろんそんな不誠実なことはしない。そんなことしてられないくらい、やるべき事が他に……

 

「それなら……私、少し困るな」

「え?」

「だって、私も……天之河くんをずっと見てるから」

 

 恥ずかしそうに、赤くなった顔で囁くように御堂はそう言ってきた。

 

 上目遣いというのだろうか、下から覗き込むような目に、俺の胸は高鳴って……

 

 

 

 

 ──その言葉を投げかけるには、貴方は弱すぎますわ。

 

 

 

「っ!」

 

 誰かの言葉が、脳裏をよぎった。

 

 今の声は確か、俺に大切なことを気付かせてくれた……

 

「天之河くん? 大丈夫?」

「あ……俺、ぼうっとしてたか?」

「うん」

 

 すっと、御堂の綺麗な手が俺の頬に添えられた。

 

 細い指は柔らかくて、うまく言葉を組み立てられず口を開閉させる。

 

「とても強い相手に勝って、夢見心地だったりするのかな?」

「えっ、と……」

「ふふ、今はいいんじゃない? せっかく頑張ったんだから……その夢のような気持ちに浸ったままで」

 

 柔らかく微笑んで、俺に囁いてくる御堂。

 

「……今日は、随分優しいんだな」

「今日はって?」

「……なんでもない」

 

 何かおかしい。今日は変なことばかり考えている。

 

 そう、御堂はいつもこうだ。誰にでも優しくて、人のことを気遣える優しい女の子。

 

 

 

 だから……御堂が冷酷で残虐非道な、いつも人を見下している傲慢なやつだなんて妄想は、今すぐやめなくては。

 

 

 

 頭の中にちらつく、彼女の不遜な笑みをかき消して。

 

 頬に添えられた手にそっと触れて引き離すと、優しく微笑みかけた。

 

「心配してくれてありがとう。でも俺は、大丈夫だ」

「それならいいけど……あ、この駅なの」

 

 ゆったりとした口調で車内に到着が告げられて、すぐ側のドアが開く。

 

「ほら天之河くん、早く早く!」

「あ、ちょっと待ってくれ!」

 

 御堂と一緒に降りて、小走りに改札へと向かう彼女を追いかけた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 駅を出て、それからの道中は何気ない会話に使われた。

 

 

 学校のこと、香織達とのこと、趣味の話なんかもして。

 

「鈴ちゃんがまた恵里ちゃんに止められてね……」

「そうか。あの二人はいつも仲がいいよな」

「というより、いいコンビってところかな?」

 

 ああ、心地良い。

 

 今日試合した相手は、県内でも有数の強豪校だった。そんな強者に俺は勝った。

 

 門下生の仲間にも、香織達にも褒められて。きっと明日学校に行けば、クラスメイト達も俺を凄いと言ってくれる。

 

 俺が認められる場所。俺の力が通じる世界。

 

 

 

 俺が、正しく俺のしたいようにできる、そんな世界。

 

 

 

 そこには香織達も……御堂もいて。

 

 今こうしているように、彼女は俺に笑いかけてくれる。優しい言葉をくれて、認めてくれるんだ。

 

 ずっとこれでいい。このままがいい。そうすれば俺はきっと、いつまでも幸せでいられるんだ。

 

 

 

 ああ……だから、俺が弱い世界はいらない。

 

 

 

 苦悩に喘ぎ、暗闇の中でがむしゃらに答えを探す必要なんてない。

 

 そう…………だから……これ、で……

 

 

 

「いいわけが………………ない」

 

 

 

 俺は、立ち止まった。

 

「? 天之河くん、いきなり止まってどうしたの?」

 

 数メートル先を行っていた彼女は、こちらを振り返って、今度はどうしたのかと心配そうに眉を落とす。

 

「……違う。違うんだよ、御堂。お前は、俺にだけはそんな顔はしないんだ」

「天之河くん? 何を言って……」

 

 

 

 ──まるで芋虫の歩みの如き自覚の遅さですわね。

 

 

 

「君は。お前は、俺が何かに甘えて考えるのをやめることを許さず……嘲笑うんだ」

 

 

 

 ──少しは成長したと思っていましたが、一歩か二歩の違いでしたか。ここまで愚かだとむしろ笑えてきますわね。

 

 

 

「お前は、俺が変わったと自分で思ってもそれを肯定したりしないで……鼻で笑って蹴り飛ばすんだ」

 

 御堂英子は、天之河光輝を絶対に肯定しない。

 

 優しい言葉も、甘い言葉も、ましてや励ます言葉も、俺なんかには与える価値もないと見下して。

 

 必ず俺の醜いところを言い当てて、現実を突きつけてくれる。

 

 そんな、誰より厳しい女の子だ。

 

「これが夢なのか幻なのか、俺には分からない。けどお前は、決して御堂じゃな」

 

 

 

 

 

          チガウ

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 なんだ……今、視界に文字みたいなものが……

 

 

 

コレが現実ダ。コれが俺ノ世界だ。これコそガ望ンでイタモノなんダ。

 

 

 

 今度は、はっきりと見えた。血で書いたようなおぞましい文字だ。

 

 これはなんだ? これもこの幻の一部なのか? 

 

 けど、正体がなんだとしても……

 

「違う! 確かに俺はこんなものを望んでいたこともあった……でも今は、それより求めるものがあるんだ!」

 

 そうだ、俺は御堂に言ったんだ。あるかもわからない甘い夢を求め、その果てに強さがあると信じて進むと。

 

 甘い夢に浸り、自分を全ての中心だと思い込む俺を受け入れてくれる、そんな彼女は求めてない。

 

 あれもこれも何もかも蹴散らして、俺の全てを否定してくれることさえも望んだんだ! 

 

 

 

ほんんんんンンンンとととヴヴヴににににニニに? オマまママママええええええええが否定サレツヅけルルルルルるるルルルせせせかかかかカカイイいいいいいいヲをををヲヲ??? 

 

 

 

「ああそうだ! どんなに辛くても、それでも俺は現実の先に夢を追いかける!」

 

 

 

チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ

 

 

 

 視界が、赤い文字に覆われていく。

 

 アスファルトも、コンクリートの地面も、俺を見つめる御堂の形をしたものも、全てが赤くなっていく。

 

 

 

ズクッ! ズクッ! ズクッ! 

 

 

 

 それだけじゃない……肩が、痛い! 

 

 燃えるような、いいや違う。まるで少しずつ、神経の一本一本を切られているように痛む! 

 

「ぐ、ぁ……!」

 

 思わずその場で膝をつく。

 

 僧帽筋を引きちぎらんばかりに服の上から握りしめ、爪を立てて、痛みを痛みで上塗りしようとした。

 

 

 

ズズズズズッととトトとトととととととゆゆゆゆゆユユユゆゆゆゆメメメメメメめめめめメメメメメメメノノノノのなななナナカカカカににににににニニニニににニにににに

 

 

 

「うる……さい……! 俺の、中から……でて、いけ……!」

 

 歯を食いしばり、そう言葉を絞り出す。

 

 

 

何故? 

 

 

 

 そうしたら、急に痛みが止まって。

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

俺は、お前なのに

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うわああああああぁぁあああああああァア──────────ッ!?」

 

 振り返り、がっぱりと開いた傷口から顔を覗かせた()()()()、悲鳴を上げて意識を手放した。

 




完全に主旨がホラー。

読んでいただき、ありがとうございます。

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