星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回も超長いよ。

ハジメ「ハジメだ。前回は天之河がティオの同類になったな」

シュウジ「よーし殴っていいんだな?」

光輝「待て!俺は変態でも被虐趣味でもないぞ!」

シュウジ「問答無用!」

光輝「こ、殺されるっ!?」


ギャーギャー


ハジメ「しばらく追いかけっこしてるなありゃ…で、今回はシュウジの話だ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」


そして道化に、狂おしいほどの満足(終末)を。

 シュウジ SIDE

 

 

 

「……ュー、シュー?」

「ん……」

 

 呼ばれる声に、ふと瞼を開ける。

 

「シュー、どうしたの?」

 

 隣を振り向く。

 

 するとそこには、まあなんと随(・)分(・)と(・)懐(・)か(・)し(・)い(・)高校の制服を着た雫がいるではないか。

 

 柔らかく吹く暖かい風に髪を抑える様は、ただ歩いているだけでまるで絵画のように綺麗だ。

 

「ん、雫か。やっぱりその格好似合うな」

「そう? ふふ、嬉しい」

 

 んー可愛い。もうこの微笑みは美の女神なんて目じゃないわ。

 

 

《始まって早々延々と惚気るのはよせ》

 

 

 お、エボルトか。

 

 始まって、ってことはやっぱりもう試練は始まってるんだな? 

 

《お前内容知ってるだろ?》

 

 そうだけど、ちょっとうたた寝して夢を見てましたー、なんて展開もあるかもと思ってな。

 

 記憶がそのまま保持されてるのは……お前がいる影響だな。大迷宮の干渉を防いでくれたんだろ? 

 

《丁寧な解説どうも。だが気をつけろ、一切の戦闘能力を奪われてる》

 

 まさしく儚い夢の中、ってわけか。

 

 

 

 ここは理想の世界。

 

 

 

 あの転移の魔法陣によって読み取られた挑戦者の記憶、経験から形作られるひと時の夢の中。

 

 深層心理で望んでいるIFの可能性すら加えた、なんとも都合の良く居心地の良さそうな幻だ。

 

 

 

 クリア方法はわかってる。どうすればこの夢の中に溺れないのか、その心構えも知っている。

 

 魔法や暗殺術だけが俺の武器じゃあない。簡単だが自己的な心理操作だって、お手の物だ。

 

「まあ、しばらくはこの世界を楽しむか」

 

 どんな感じか、ちょっと期待してたしネ。

 

 

《程々で切り上げろよー》

 

 

 ハジメ達も待たせられないからな。

 

「シュー、今日はうちに来ない?」

「おっ、いいねえ。じゃあこのまま行こうか」

「一度帰らなくていいの?」

「こんな事もあろうかと、実は登校した時にそこの校門の裏の草陰に荷物を隠しておいたんだ」

「あらお見通し。それなら気兼ねせずに呼べるわね」

 

 クスッと笑う雫。

 

 ちなみにこれは、昔本当にあった事だ。前日の雫の仕草や視線の意味、電話中の声音などから推測した。

 

 時々突発的に誘ってくることがあるので、雫自身驚く事もなく彼女の家に一緒に帰った。

 

「でもその前に……あれ、どうにかしたほうがいいんじゃない?」

「ん? なんのこと……っと」

 

 雫の視線の先を見て、次の俺の言葉は「あー」という慣れたものを見る時のものだった。

 

 前方数メートル先。そこではまだ地球にいた頃の姿のハジメがユエ達とわちゃわちゃしてる。

 

 右腕に美空、左腕にユエ。背中からシアさんとウサギが抱きつき、ユエを引き剥がそうと白っちゃんが狙っている。

 

 全員雫と同じ格好、つまりは俺達の学校の制服。いつもの衣装を知っているとコスプレじみている。

 

 おまけに後ろ、校舎の方から変態的な視線が……多分ティオさんを元に作られた幻覚だろう。

 

 

《いつも通りだな》

 

 

 いつも通りすぎて驚きもしないね。

 

「しかし、そうか……」

 

 俺の中で一番平和だった時代をベースに世界を作り、そこに俺の大事だと認識している人物を再現する。

 

 思った以上に精巧だ。女神の知識で知ってはいたが、これは予想以上に楽しめるかもしれん。

 

 

《アトラクション感覚で行われる試練とは(真顔)》

 

 

 こ、これは一体……とかテンプレな反応、ちょっとやってみたかった。

 

「まーほっといても平気でしょ。そのうち収まるよ」

「またそんなこと言って。あとで南雲君が怒り狂うわよ?」

「おっとそいつはいけねえ、ちょいと今日のことも報告がてらフォローしてくるわ」

「いってらっしゃい」

 

 雫に見送られ、俺は歩くスピードを上げてハジメ達に近寄る。

 

 距離はたったの三メートル。

 

 もうハジメ達は校門の目と鼻の先にいて、敷地から出るまで何秒もかからないだろう。

 

「……ッ!」

 

 その時、見えた。

 

 校門の影……そこで身を潜めて、ハジメのことを恨めしげに睨みつけている一人の男の姿が。

 

 

 自慢になるが、俺は目がいい。

 

 

 7歳の時にネビュラガスを注入し、極限まで肉体を鍛えた影響だ。

 

 その五感はこの世界でも反映されているようで……だから、その男が手に持っているものも見えちまった。

 

「チッ、ハジメ!」

 

 肩に引っ掛けていた鞄を投げ捨て、全力で走り出す。

 

 いつもよりかなり遅い。それでもハジメを助(・)け(・)る(・)た(・)め(・)に、俺は両足を動かした。

 

「? シュウジ、どうかして──」

 

 校門を出る直前で立ち止まったハジメとユエ達が、こちらを振り向く。

 

 正面からハジメ達の目線が外れた、その瞬間を狙いすまして男は物陰から飛び出した。

 

「南雲ぉおおおおおおおおッ!」

「っ!? 檜山く──」

「死ねぇえええええええええ!」

 

 出てきたのは、いつぞや奈落に俺達を突き落としてくれた産業廃棄物一号。

 

 その手にキラリと光るのは、刃を半分以上も露出させたカッターナイフ。ぶっちゃけ貧弱な得物だ。

 

 だがしかし……戦う手段を何もかも奪われたこの世界じゃ、とんでもない凶器になる。

 

 

 

「ハジ、メぇえええええええっ!」

 

 

 

 だから俺は、あと一メートルの所まで走ったところでほぼジャンプしてハジメに近づいて。

 

 硬直していた親友の胸に、檜山が涎を撒き散らしながら血走った目でカッターを突き出し──

 

 

 

 ドスッ、と。鈍い音がした。

 

 

 

「ぐ、ぁ……」

 

 ポタリ、ポタリと血が落ちる。

 

 カッターの切っ先は薄い学校指定のシャツを簡単に貫いて、相手の内臓に深い傷をつけた。

 

 小さなプラスチックとアルミでできた凶刃を伝い、一滴また一滴と血が地面に落ちて染みていく。

 

 

 

「は、は。案外、いてぇもんだ、な……」

 

 

 

 その血は、俺の腹から溢れてた。

 

「シュウジッ!?」

 

 ああクソ……腹が焼けるように痛え。

 

 長らく忘れていた刃の痛み。この世界に来てからだって、アベルのジジイに一度受けただけだ。

 

 そんなことを思い出していると、檜山がフラフラと後ろに下がって、カッターが腹から抜けた。

 

 途端にボタボタと音が大きくなり、出血の量が夥しくなる。

 

「かふっ……雑誌でも入れとくんだった……」

「お、俺は悪くない! 南雲が調子乗ってるから悪いんだ! き、キモいオタクのくせに調子に──」

「テメェの無駄口は…………聞き飽きてんだよっ!」

 

 残った力を振り絞り、思い切り檜山を殴りつける。

 

 我ながら綺麗なフックは檜山の顎の骨を砕き、そのままひっくり返ったゴミ野郎は動かなくなった。

 

「ナイス、パーンチ……」

 

 そこで限界がやってきて、俺も無様にぶっ倒れた。

 

「「「「シュウジ!」」」」

「シュウジさん!」

「シューッ!」

 

 ハジメ達の……声が聞こえる。

 

 ドクドクと流れ出る血は止まることを知らず、掌で押さえつけても馬鹿みたいに止まらねえ。

 

 痛い。いや寒い。つーか熱い。

 

 これも幻の一部なんだろうけど、ここまでリアルじゃなくてもよくないですかね。

 

「──ジ、しっ──して!」

「ユ──ん、きゅうきゅ──を!」

「わかっ……る……!」

 

 耳が遠くなってきた。ハジメか、雫か、ユエ達の誰かが救急車を呼ぶ声がする。

 

「シュウジ、シュウジッ!」

「おー……平気かーハジメー……」

「馬鹿野郎っ! なんでこんな、こんなことしたんだよ!」

「決まって、んだろ……これが、俺の……やく、め……」

「……シュウジ? シュウジ、ダメだ! 目を閉じちゃダメだ!」

 

 必死で体を揺さぶってくる幻のハジメ。

 

 たとえそれが偽物でも……守れてよかったななどと軽く考えるのは、これが幻だと知ってるからか。

 

 それにしても、こいつはたまげた……俺の理想の世界とやらの指向性が、だんだんと解ってきた。

 

 

《疑似的な死を味わうとはな……お前の理想とやらはさぞ歪んでるらしい》

 

 

 ああ、まったくもってその通り。

 

 そうエボルトに答えようとした途中で、俺の意識は暗闇に頭から落ちていった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「──あなた? こんな所で何してるの?」

「っ!」

 

 次の瞬間、後ろから聞こえた声にハッとする。

 

 馴染み深い声、けれど一度も使われたことのない呼び方。

 

 後ろを振り返る。

 

 

 すると、これはどうしたことか。

 

 

 そこにはなんと、和服を着た雫がいるではないか。

 

 風呂上がりなのか頬は上気し、艶やかな長い髪は縛られることなく下ろされている。

 

 その顔立ちは、俺の知る雫より大人びていて……そして何より、彼女の腹部は不自然に膨らんでいた。

 

 なるほどな。次はそ(・)う(・)い(・)う(・)理(・)想(・)か。

 

「ん、ちょっと風にあたってた」

「そう……隣、行っていい?」

「どうぞどうぞ」

 

 いつもよりややぎこちない動きで、雫は俺の横に腰を下ろす。

 

 お腹が重いのか、それだけの動きで深く息を吐いた雫の肩に、羽織っていた上着を脱いでかけた。

 

「ありがとう」

「体を冷やしたら危ないからな」

「ふふ。優しいパパね〜」

 

 慈愛に満ちた顔でお腹を撫でる雫。

 

 まだ一度も見たことのない顔。いつか見たいと願い、その未来のためにも戦おうと決意した。

 

 ううむ……なんとも奇妙な感じだ。確かにこんなことも夢見てはいるが、ちょっと早すぎる実体験。

 

 

《リアルすぎるのも考えものってか》

 

 

 練習にはちょうどいいかも、なんてね。

 

「俺はいい父親になれるかねぇ」

「大丈夫よ。父さんも母さんも太鼓判を押してくれたじゃない」

「ふむ……まあそうなんだけどな」

 

 頭の中に知らない記憶が流れ込んでくる。

 

 一緒に過ごした大学生活、年齢的にまだ地球では実現できない色々なデート、そして結婚式。

 

 もう直ぐ生まれる子供にはしゃぎ、俺たちを招いて宴を開いた雫の両親や裏八重樫流の門下生達。

 

 これはついさっきまでの記憶……ということになっている。

 

 

 

 今この瞬間に至るまでの、様々な過程。

 

 

 

 ああなるほど、そういう設定なのか。

 

 自我がはっきりとしているとまるで舞台の台本のように感じるな。

 

 とはいえ、楽しむと決めた以上はある程度従おう。

 

「俺は結構ろくでもない人間だが、お前はちゃんと育てるからな」

 

 俺は雫の肩を抱き、それから彼女のお腹に手を当てて言う。

 

 これはシミュレーションのようなもの。そこに俺達の子供はいない……が、そういう気持ちが大事なのだ。

 

 

《演技派だな》

 

 

 アカデミー賞取れるな(確信)

 

「いいえ、あなたは立派な人よ」

 

 俺の想像上の大人の雫が、落ち着いた声でそう言ってくれる。

 

 視線を上げると、俺の知っているよりも大人の色気を持ったたおやかな微笑を浮かべていて。

 

 

 

「だってあなたは、私も南雲くん達もあの世界から救い出して、こうして幸せにしてくれたんだから」

 

 

 

「……そう、だったな」

 

 ああ、こいつは確かに理想だな。

 

 もう覚悟したのに、決意したのに、心のどこかにこの結末を望んでいる俺がまだいたのだろう。

 

 こんな言葉をかけてほしい。こんな平和な結末が、俺(・)の(・)い(・)る(・)未(・)来(・)が欲しい……そんな望みが。

 

 

 それを恥とは思わない。

 

 弱さだとは思うが、生憎と昔ほど〝強くいなくては〟という強迫観念には囚われてない。

 

 その分無茶振りが増えたような自覚がないわけでもないというかなんというか……つまりエボルトが全部悪い。

 

 

《責任転嫁にも程がある……》

 

 

「ま、トータスでのアホみたいにキツい戦いを思えば、子育てくらい華麗にこなしてみせますか」

「頼りにしてるわ。私も一緒に頑張るから」

「いざとなったら、ハジメ達も頼ることにするよ」

「南雲くんの方が大変なんじゃない?」

「そりゃ確かに」

 

 実際に地球に帰ったら、まずあの中で誰が最初にハジメとの子供をもうけるか争いになりそう。

 

 

《その戦いで町が一つ壊滅しそうだな》

 

 

 街どころか日本から県が一つ消えるまで余裕で想像できちゃう。地球じゃ過剰戦力もいいとこだ。

 

 逆にあれだけの人数なら子育ては常時万全そうだから、安心っちゃ安心かもな。

 

「リベルちゃんも手伝ってくれるだろうし、きっと平気よ」

「……だな」

 

 リベル、か……ここじゃない現実の我が愛娘は、果たして元気にしているのか。

 

 いつかいつかと先延ばしにしているが、そのうちあの子に……あいつにも、会わなくては。

 

「さて、そろそろ肌寒くなってきた。寝室に行こうぜ」

「そうね」

 

 雫に手を差し出し、体の不自由な彼女を支える。

 

 立ち上がった彼女と一緒に中庭の縁側から去ろうとしたとき……ヒュンッ! と音がした。

 

 

 即座にその音の解析を始める。

 

 

 弓矢、ナイフ、銃弾、手榴弾の類……正確に記憶した飛来音のどれとも音は一致しない。

 

 

 

 何十通りもの暗器を想像して……やがてそれが、ボウガンの矢が飛ぶ音だと特定した。

 

 

 

「雫」

「え、きゃっ……」

 

 俺は、雫のことをそっと抱きしめた。

 

 幻の中でも、けれど正確に再現された雫は可愛らしい声を上げてなされるがままになる。

 

 そのことに感謝して……その一瞬の後、トンッと背中に衝撃が走った。

 

「いきなり抱擁なんて……久しぶりね?」

「……ああ、どうしてもしなきゃいけなくてな」

「え?」

 

 ぐらりと、自分の体が傾いたのがわかった。

 

 雫の背中に回していた両腕から力が抜け、次いで足の踏ん張りが効かなくなる。

 

「ふっ……!」

 

 最後の力を振り絞り、倒れる中で和装の寝巻きの胸元に仕込んでいたナイフを投擲する。

 

 我ながら実に無意識的な動きだったが、作られた記憶通り懐にあったナイフは飛んでいった。

 

「ぐぁっ……」

 

 貫いたのは眉間か、喉元か、頸動脈か。

 

 ボウガンを放った相手は、かすみ始めた視界の中で塀の上から落っこちた。

 

 多分設定は、地球でも色々やってた俺への報復か、国の暗部である八重樫家を狙った輩とか、そんなとこ。

 

 それを見届けながら、背中から心臓を射抜かれた俺も床の上に倒れ伏した。

 

「ぐっ、うぅ……」

「あなた! いやっ、いやぁっ!」

 

 ああくそ、さっきも痛かったけどこれはこれで超痛え。

 

 なまじさっきよりも致命傷なだけあって、雫に揺さぶられても感覚が消えていくのが早かった。

 

 

《我慢しろ。死ねば終わる》

 

 

 親切にどうも。

 

「誰か、誰か来て! 旦那が射たれたのっ!」

 

 聞いたこともないような金切り声を上げる雫。

 

 誰かを呼びに行くためか、離れようとした彼女の手を震える手で掴んだ。

 

「無事でよかった……お前と、子供を守れて、よかったわ……」

 

 我ながらなんともドラマチックなセリフを吐くと、ぐっと顔を歪めた雫は両手で俺の手を包み込む。

 

「お願い、喋らないで……じゃないと傷が……」

「まあ、どうせ最後だからな……あとちょっと話しとくわ……」

 

 

 ……ここは、夢の中。

 

 

 エボルト以外は誰も知らない、いずれ終わる泡沫。

 

 

 ああ、それならば……決して本物の彼女には言えない、言葉を。

 

 

「……色々、ごめんな。心配も、迷惑も、たくさんかけた……」

「そんなことないわ……あなたはいつも、私を最後には笑わせてくれたじゃない」

 

 ああ、そういえばそんな約束もしたっけ。

 

 だけど……

 

「どうせなら、ちゃんとそれを守りたいが…………本当に、ごめ……ん…………」

「あな、た……?」

「……じゃ、あな…………しず、く……」

 

 そう言えば、雫はまた俺の名を叫んだ気がして。

 

 

 

 

 

 満足感の中、俺は二度目の理(・)想(・)の(・)死(・)を迎えた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 ……それから、色んな死に方を体験した。

 

 

 

 

 

 三度目はナシタに押し入った強盗がぶっ放した凶弾から美空を庇い、死亡。

 

 四度目はユエと一緒にハジメへのプレゼントを選んでいる所、錯乱した男に突き飛ばされた彼女を体で庇って、三階から転落して死亡。

 

 五度目は同様の理由でシアさん、ウサギと下校中、暴走トラックが突っ込んできたところを咄嗟に割って入り死亡。

 

 六度目は白っちゃんの相談に乗っていて、またも出てきた檜山にハサミで刺されて死亡。

 

 七度目はティオさん、その次は坂みんと谷ちゃん、八度目はリベル……

 

 

 

 ただひたすらに、死んで死んで死んで、死んだ。

 

 

 

 俺の大事な人、守らなくてはいけない誰かを守り、その過程で必ず最後に命を落としていった。

 

 ちなみに何度か檜山が悪役で出てきたが、死ぬ前に、毎回ちゃんと首の骨を折った。トロフィー獲得できそう。

 

 

 

 いい加減自覚できた。というか二度目で薄々気がついた。

 

 

 

 俺の理想の世界。

 

 それは俺の力で、俺の意思で……俺の命で、大切な人を危険から守れる世界。

 

 それが他殺だろうが見方によっては自殺だろうが、結局のところ俺の願望とは破滅そのものだ。

 

 

 

 ただ一つだけ俺の恐れること、それは俺の計画通りではない場合で俺の命が損なわれる場合。

 

 その恐怖を根底として、大迷宮はこんな世界を用意したのだろう。

 

 別に不快じゃない。何度も満足できる死に方を体感できるんだ、むしろ大いに感謝したいね。

 

 我ながら狂っているとは思うが、別にこの世界にいたいと思ってるわけではないから別にいいだろう。

 

 

《そろそろ次が始まるぞ》

 

 

 ん、もうか。

 

「…………ん」

 

 エボルトの合図でブラックアウトしていた意識が浮上して、俺は目を開ける。

 

「さて、今度はどんな理想の世界を……」

 

 その目で、次の世界を確かめて。

 

 

 

「っ──」

 

 

 

 俺は、息を呑んだ。

 

 そこは知っている世界だった。実(・)際(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)い(・)が(・)、それでも鮮明に記憶に焼き付いている。

 

 体を打ち据える大粒の雨のカーテン。

 

 瞬く間に身に纏う薄汚れた黒いローブは湿っていき、目深に被るフードから滴が滴り散る。

 

 

 

 上を見上げると、大量の雨粒が落ちてくる空の左右を覆い隠す高い壁。

 

 やや現代風ではなく、かといって古くもないそれは、やはり俺の知っているものとそっくりで。

 

 ああ、だからこそ……次はどのような理想が叶えられるのか、手にとるようにわかってしまった。

 

「……そこに……誰か……いる、のか…………」

 

 ……足元から、声が聞こえた。

 

 ゆっくりと顔を落とすと、そこには俺以上に全身を泥と傷に塗れた女が、地面に倒れている。

 

 寒さを痛みと誤認しているのか、肌が赤(・)い(・)鱗(・)に変化した手は俺のブーツを掴んでいて。

 

 それは酷く力弱くて……胡乱げにこちらを見上げる瞳にも、力はなかった。

 

「たす、けて……くれ…………」

「……は、ははっ」

 

 儚く、今にも消えてしまいそうな声。

 

 

 

 

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは────ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 俺は、自(・)分(・)で(・)自(・)分(・)を(・)嘲(・)笑(・)っ(・)た(・)。

 

「ははははは、ひ、ふひ、ふひはははははひはははははひは……」

「何を……笑って…………」

「ははは…………愚かだッ!!!」

 

 足を振り、女の手を蹴り飛ばす。

 

 心は痛まない。痛むはずがない。痛んでいいはずがない。傷んだらそれこそ笑いものに他ならない。

 

 ああ……常々俺は自分が愚かで狂っていると思っていたが。

 

 

 

「どうやら、それ以上の狂人だったらしいな」

 

 

 

 認めよう。俺は自分がヒロイックな最期を迎えることを望んでいる。

 

 断じてヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)に(・)な(・)り(・)た(・)い(・)か(・)ら(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。その死に方は、過程で引き換えに何かを救えるからだ。

 

 だから許容した。独りよがりだと嘲笑って、仮初でもハジメ達を悲しませると理解していて、自己満足だと知ってて。

 

 

 

 しかし。しかし、だ。

 

 

 

「〝これ〟ばかりはあいつと決別した時に捨てるべきだったんじゃねえか。ええ、北野シュウジ?」

 

 悍しくて反吐が出る。もう一度絶句してしまいそうだ。

 

 

 

 だってそうだろう──俺が、ルイネを救いたいなどと。

 

 

 

 哀れという言葉すらもったいない程の酷い傲慢だ。カインの記憶をなぞり、こんな気持ち悪いユメを作り上げた。

 

 そうじゃないだろ。

 

 お前は先生に諭されて、こんなものが間違いだとわかったはずだ。

 

 俺は俺、カインにはなれない。だからこそルイネと向き合わなくちゃいけないのだ、と。

 

「ダメだダメ、コレだけはダメ。流石に許容範囲外だよ、ハルツィナ」

 

 楽しかった世界だが、ここらで切り上げるとしよう。

 

 

《やっとか。俺としてはお前が死ぬのを延々と見てるのなんざ、退屈すぎてこっちが死にそうだったよ》

 

 

 おお、待たせたな。

 

「助けて……くれ…………」

「はいはいもういいから……んっ」

 

 右手を振り上げ、そこに意識を集中する。

 

 すると瞬く間に手が発光し、シンプルな作りの、柄頭に白い宝玉のついた両刃のナイフが現れた。

 

 〝抹消〟のナイフに酷似しているが、これは本物ではなく俺の〝終わらせたい〟心象が具現化したもの。

 

「それじゃあ、さよならっと!」

 

 俺はそれを、躊躇なく地面に突き立てた。

 

 

 

 パリィィイインッ!!! 

 

 

 

 一瞬にしてひび割れた世界は、甲高い音を立てて砕け散った。

 

 雨も、壁も、ルイネの幻覚もすべて破片となって、まるでガラスの破片のようにキラキラと煌く。

 

 

 

「──合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」

 

 

 

 誰かの優しい声がした。

 

 どこか微笑みを浮かべながら言っているようなその言葉に、意識がこれまでとは違う暗転を始め。

 

 

 

 

 

「心の底から同意だよ、リューティリス・ハルツィナ」

 

 

 

 

 

 そして、理想世界は終わりを告げた。

 

 




あー、書くの楽しかった。

読んでいただき、ありがとうございます。

首…ではなくて感想を出せい……
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