長くなるため、半分に分けました。
エボルト「よう、俺だ。少しずつ寒くなってきたが、元気にやってるか? 是非このコーヒーを飲んでくれ」
ハジメ「ズズッ…まずっ!」
シュウジ「ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇ!」
エボルト「おう喧嘩なら買うぞ…前回はシュウジの話だったな。で、今回からまた現実の話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」
三人称 SIDE
「……っ!」
目を覚ましたハジメ。
最初に感じたのは、後頭部と背中に感じる冷たく、硬い感触。それと乾いた空気。
「ここは……」
ゆっくりと起き上がったハジメは、周囲を見渡す。
灯ひとつない場所だったが、〝夜目〟の技能があるハジメには問題なく見ることができた。
結果、どうやら転移した際の洞と同じ類の、二回りほど大きいドームにいるらしいことがわかった。
注意深く探るが、出口のようなものは一切確認できない。
立ち上がったハジメは、続けて自分の寝そべっていた周囲にあるものへと視線を移す。
一言で表すならば琥珀、だろうか。
樹液などで長い年月をかけて生成されるそれに似た、黄褐色の繭のようなものが円形に置かれている。
その数は11。試しに一番近くにあったものを覗き込んでみる。
「……なるほどな。これに入ってたわけだ」
中には、まるで眠るように目を瞑った、元通りの姿のユエがいた。
順々に視線を巡らせていくと、その隣には同じく元に戻った美空、シア、ウサギ……と続く。
ちなみに、ティオも元の美しい姿に戻っていた。雫もそうだったので、シュウジも安心だろう。
最後にユエとは反対側の隣のものにシュウジが入っているのを確認して、ほっと息を吐いた。
「つまりこれは、
あの、蜜のように甘い理想の世界。
この琥珀のようなものは、都合の良いあの世界を挑戦者に見せ、眠りにつかせるための柩なのだ。
〝気配感知〟で全員生きていることは分かっているが、何日、何週間と続けば……結果は想像したくない。
「まあ、天之河達はわからんがシュウジ達はすぐ目覚めるだろうし。ちょっと待ってるか」
覚醒直後の硬い声音はどこへやら、いつも通りの声で呟くハジメ。
〝宝物庫〟からやけに凝った装飾の椅子を取り出し、自分の寝ていた場所に設置する。
そうして腰を下ろすと、ふと左隣の琥珀の中にいるシュウジを見下ろしてふっと笑った。
「早く戻ってこいよ、この馬鹿野郎。いつもみたいに俺を呆れさせてくれ」
眠り、ある種あどけない顔でいるシュウジだが、それすらもどこか余裕がある。
あの夢の中の、頼りなくてハジメの手助けがなくてはいけないような男は、やはりシュウジではない。
あの夢の中以上に怒ることもある。呆れることもある。エボルアサシンの件は悲しみすらした。
でもやっぱり、ハジメはこの親友がいいのだ。
「なんなら夢を楽しんでから帰ってきそうだな」
案外ドンピシャなことを言いながら、ハジメは腕組みをして瞑目した。
(それにしても、ユエやウサギのブレザー姿…………あれはヤバい。うん、想像以上のものだった。それにシアのも……)
頭の中で、そんな呑気なことを考えながら。
パァ……
日本に帰ったら来てもらおう、などと計画していると、不意に一つの琥珀に異変が起こった。
真っ暗闇の中で光を放つそれに一瞬で我に返り、鋭く目を向けるハジメ。
そんな彼の前で、その琥珀は端からトロリと蜂蜜のように溶け、ものの数分で解かれていく。
五分もしないうちに全てが消え、地面の中に吸い込まれていき……中に入っていた人物が起き上がった。
「ん……ここは…………」
「よう、お前が一番最初か」
ハジメと同じように夢を見た後のような眠気があるのか、指で目元を擦っていた人物が振り返る。
彼女はハジメのように〝夜目〟を持ってはいないが、声とそれのした方向で気が付いたのだろう。
「ええ。てっきりシューが出迎えてくれると思ったけど、南雲くんが最初なのね」
「すまんな、八重樫。こっちも正直な所、ユエ達じゃなくて期待外れだ」
「あら手厳しい」
元の体になって起きた雫は、クスクスと笑う。
それからポケットより携帯を取り出し、画面を操作するとライト機能をオンにして立ち上がる。
自分も入っていた琥珀を確認し、足を引っ掛けないようにしながらハジメの前に来た。
「シューは?」
「そこだ」
くいと顎で指し示すハジメに、すぐ後ろにある琥珀に振り返った雫は微笑んだ。
本来のすらりと長い脚を折り、琥珀に手を触れさせると、細く美しい指をそっと表面に這わす。
「……南雲くん。私ね、この人が私がいなきゃ何もできない、甘えん坊でおっちょこちょいな夢を見てたわ」
「奇遇だな。俺はそいつが頼りなくてガキより弱い、俺が守ってやらなきゃいけない夢を見たよ」
そう言い合った二人は、顔を見合わせるとくっくっくっと堪え笑いをした。
「ありえねえよな。あいつが俺に毎朝起こされるんだぜ?」
「信じられる? あの人、私がやらなきゃ洗濯物片付けられないのよ?」
「そりゃ傑作だ。起きたらからかってやるから詳しく教えてくれよ」
「ええいいわよ。南雲くんの見た、弱っちいシューも教えてちょうだい?」
同じような夢を見たことがおかしいのか、はたまた現実では絶対にありえないシチュエーションが楽しかったのか。
嬉々として、互いが望んだことのあるらしい〝理想のシュウジ〟を語り合うハジメと雫。
一つ確実なことは、やはり彼らにとってアレは所詮夢、こうだったらいいなという程度の軽い願望なのだ。
「で、ゲンコツを入れて……っと」
会話が白熱してきたところで、シュウジの繭が光を放つ。
二人は示し合わせたようにクスリと笑い、まるで悪戯をする子供のような顔で口を開いた。
「今回はここまでみたいだな」
「ええ。それじゃあ早速、この人が起きたら……」
「盛大にからかってやろう」
悪巧みをする二人の目の前で、雫の時と同じように溶けた琥珀が地面に吸い込まれる。
それから幾ばくもしない内に、パチリと目を開けたシュウジはキョロキョロと周りを見た。
〝夜目〟のような魔法を使っているのか、緑に光る瞳でしばらく周りを見て、ハジメ達を見つける。
そうするとニヒルな笑みを浮かべ、片手で帽子を押さえながら体を起こした。
「やあ二人とも、一番乗りは逃したか。どんな試練だった?」
また冗談にでもしようというのか、笑いながら聞いてくるシュウジに二人はニヤッと笑い。
「あらシュー、ちゃんと一人でパジャマは洗濯機に入れられるのかしら?」
「……ほへ?」
「シュウジ、ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てなきゃダメだぞ」
「え、ええ?」
「大丈夫、大丈夫よ。一々コーヒーメーカーを壊さなくても、ちゃんと私が淹れてあげるから」
「それはちょっとしてほしいな」
「今度変な女が近寄ってきたら俺がガツンと言ってやるからな、呼び出しにビビらなくてもいい」
「……お前らまさか」
二人がどんな夢を見ていたのか、薄々察したシュウジの顔が引きつっていく。
実にこちらが望む通りのリアクションをしてくれるシュウジに、ニッコリとさらに笑って。
「「ちゃんと俺(私)が世話してやるよ(あげるわ)、シュウジ(シュー)?」」
「お、お前らなぁ……」
自分が夢に出てきたことが恥ずかしいのか嬉しいのか、なんとも複雑な顔をするシュウジ。
彼自身、夢の中で何度も二人を助けて死んだ〝弱い自分〟を体験したためか、うまく言い返せない。
初めてやり込められたためか、ハジメや雫はこれまでにない上機嫌な顔だった。
「うわあああああっ!?」
などと和やかな雰囲気でいると、それをぶち壊す悲鳴が轟いた。
この閉鎖空間の中、大きく響いたその声にハジメとシュウジは不快げに顔を顰め、雫はハッとする。
三者三様の表情でそちらを見ると……激しく肩を上下させ、滝のように汗をかく光輝が起きていた。
「へえ。てっきり一番攻略できないと思ってたんだけどな」
「つーかそのまま放置していこうと思ってたのに」
「こら、二人とも……でもどうしたのかしらね、あれ。とても現実に戻って残念って感じじゃないわ」
怪訝な表情をした雫が、携帯を片手に光輝に歩み寄る。
シュウジと対極の位置に座り込んでいる光輝は、雫がライトで照らしても反応をしなかった。
尋常でない幼馴染の様子に、不安げな目になった雫は手を伸ばし。
「どうしたの光輝、何か酷い夢でも──」
「ッ!」
自分の
激しい音が鳴り、上へ弾かれた雫の手はジンジンと痛む。
目を見開く雫。ハジメは明らかにおかしい光輝の反応に目を細め、シュウジは……それ以上に鋭い目で睨んだ。
「……光輝?」
「はぁッ、はぁッ…………し、雫?」
ようやく、光輝は正気を取り戻す。
焦点の定まらずにいた瞳が雫の輪郭を捉え……一瞬、ギョロリと左目が赤く染まった。
雫は驚いて目を瞬かせる。
次に彼女が目を開けた時、光輝の目は元どおりの色になっていた。
「光輝、どうしたの……?」
「俺は……そうだ、俺は夢を見て……」
うわ言のように呟いた光輝は、ふと硬く握られた自分の手と雫の手を見比べる。
無意識に自分のやったことを思い出したのか、さらに難しい顔をする光輝に雫は困惑した。
「何がどうなってんだ、あれ」
「……さあ。あの勇者(笑)のことなんて知らね。それよりユエさん起きるぞ」
「ん、マジか?」
シュウジの言葉に後ろを振り返ると、ユエの琥珀が溶け出すところだった。
三度目なので慌てることもなく、琥珀が溶け切るのを待って、静かに呼吸をしているユエの側に跪く。
そっと抱え上げ、優しく抱きしめたハジメ。やはり不安は残っているもので、こうしたかった。
少しして体を離し、ユエの顔にかかった髪を払っていると、ふるふると目蓋が震え始めた。
やがて、ゆっくりと目蓋が持ち上がって赤い瞳が露わになる。
「……ハジメ?」
「おう、よく眠ってたな」
「本物のハジメ……?」
「はは、その質問の理由はわかるが……それはユエ自身に確かめてもらうしかないな」
ハジメの言葉に、ユエは彼の頬に手を添えてじっと目を合わせる。
深く深く、まるで魂の底まで見通すような眼差しで見つめ続け……やがて、ふっと微笑した。
「……ん、今度こそ本当に本物のハジメ。私の中の何かが、そう訴えかけてる」
「俺もだ。今この手の中に抱えてるお前は、紛れもない俺の〝特別〟の一人だって、そう魂が言ってる」
「ハジメ……」
「ユエ……」
「はいはい、そこまで」
今にもキスしそうな二人に、冷ややかな声が降り注ぐ。
バッと顔を上げると、突き刺すような視線で二人を見下ろす美空がいる。
「よ、よお美空。目覚めてたのか、よかった」
「そうだねー。で、私には同じことしてくれないわけ?」
「いや、だってどこからどう見ても美空だろう?」
「……ふーん。即答したところは褒めてあげる。でもユエさんばっかり構うのは許さない!」
「わっ、ちょ、おまっ!」
飛びかかった美空にユエもろとも押し倒され、結局ここ最近のテンプレートな展開となった。
その後立て続けに目を覚ましたシアやウサギも加わって、さらに騒がしくなったのは言うまでもない。
読んでいただき、ありがとうございます。
感想かもーんおーれ。