星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回も長え…

ヤッベ投稿時間ミスった!

シュウジ「最近かなり寒くなってきたな、俺だ。前回は全員目覚めて、次へ行ったんだったな」

美空「トイレでヘルプを呼ぶシュウジ…ぷぷっ」

シュウジ「笑わんといてくだされ美空……ま、今回はその次の試練の話だ。それじゃあせーの、」


二人「「さてさてどうなる大樹編!」」


エロトラップ回だよ(直球)

 三人称 SIDE

 

 

 

 光が収まり、シュウジ達は目を開ける。

 

 

 するとそこは、依然として樹海のままだった。

 

 だが、明確に違う。

 

 樹海は永遠かと思うほどに広がっているわけではなく、遠く向こうに一際大きな大樹があった。

 

 あれが目的地だろう。上を見てみると、天井まで見える。どうやら地下空間のようだ。

 

 大樹に意識を定め、ハジメは振り返って一度メンバーを確認した。

 

「今回は……全員いるみたいだな」

「杞憂さ、ハジメ」

 

 疑り深く観察するハジメに、陽気に笑うシュウジがステッキで肩を軽く叩いた。

 

 などと言いながらこの男、転移してからコンマ0.数秒という時間でありとあらゆる魔法を発動した。

 

 合金ではないかという面の皮によって隠されているものの、一番疑り深いのは彼。

 

 

 勿論の事、ここ最近のこともあってそれを察しているハジメは、特に言及することはない。

 

「お前がそう言うなら、いよいよ偽物の可能性はなさそうだな」

「二度と雫の手は離したくないんでね」

 

 ステッキを持つのとは反対の手で、ぎゅっと隣にいる雫の手を握る。

 

 雫は顔をほころばせ、未だに俯いている光輝と気絶中の鈴以外全員が口内が甘そうな顔をした。

 

 とりあえずいつもの流れを済ませたところで、鬱蒼と茂る樹海を前に一行は出発をした。

 

「うにゅ……」

「龍太郎くん、平気?」

「おう、ハザードレベルの恩恵もあるしな。間違っても落とすようなことはしねえさ」

 

 不安げに訪ねてきた香織に、龍太郎は気さくに笑って自分の首に回った細腕を優しく叩いた。

 

 現状、戦力として数えられない鈴は龍太郎がおぶって歩き、光輝は後方、しんがりのシアの前ほどにいる。

 

「…………」

 

 1000%龍太郎が悪い鈴はともかく、光輝の落ち込みよう……というより、苦悩ぶりは凄まじい。

 

 明らかに覇気のない姿に、ちらりと振り返ったシュウジはふうと深い深い、マリアナ海溝のようなため息を吐いた。

 

 しかし、それだけである。ぶっちゃけ光輝が落ち込んでいようと愉悦案件ですらある。

 

 

《ゲスめ》

 

 

 地の文には突っ込まないでいただきたい。

 

「おい天之河、お前死にたいのか?」

 

 シュウジがガン無視となれば、仕方なしに忠告するのはハジメだ。

 

 無論ハジメとて心底どうでもいいが、一応連れてきている身としては、やる気のない輩は邪魔でしかない。

 

 なにせここは大迷宮。一歩間違えれば地獄の三丁目直行だ。そんな魔境で、真剣でない者は足枷だ。

 

「……死にたいわけ、ないだろ」

 

 辛辣な物言いに、緩慢な動きで光輝は顔を上げる。

 

「だったらもう少しまともにやれ。やる気ねえのか」

「あるさ……でも今は、放っておいてくれ」

 

 強く、今は自分に関わるなとでも言いたげな眼光で睨み返してくる光輝。

 

 思ったよりもガッツのある態度に、ハジメは内心ミリ単位で期待をプラスに傾けながら前に向き直る。

 

 光輝も無言で視線を斜め下に戻し……それからまた、無意識的に左肩に手を置いた。

 

 それをちらり、と一瞥するシュウジ。

 

「……一つだけ忠告だ」

「っ!?」

 

 

 そして次の瞬間、光輝は驚いた。

 

 あのシュウジが、自分に話しかけてきた。これまで決してありえないことに驚愕する。

 

 無論彼だけではなく、二人の仲をよく知るハジメ達に至っては。天変地異の前触れかとさえ疑いだした。

 

 珍しくそれをスルーして、シュウジはごく平坦、冷徹にして素っ気ない声で光輝に告げる。

 

()()に抗おうってんなら、むしろ飲み込む覚悟さえしろ」

「何……?」

「断言してやる。お前はそれに勝てない。耐えられるはずがない。お前にそれだけの器はない」

「っ……」

 

 光輝は息を呑む。

 

 なぜ傷のことを知っているのか、この正体不明の力について何か知っているのか、と疑問が浮かぶ。

 

 だが、そんなことを訪ねさせるほど、シュウジの発する雰囲気は生易しいものではなかった。

 

「壊れる前に身を委ねて狂うか、擦り切れる前にさっさとモノにするか、その二択だ。じゃないとお前、そのまま昔の映画みたいにパァになるぞ」

 

 光輝にも見えるように、振り返らず何かが飛び散るように右手の指を広げるシュウジ。

 

 まだ過激な表現が多くあった時代の映画、頭が爆発するシーンを思い浮かべた光輝は顔を強張らせる。

 

「…………俺は」

「ま、俺としてはそっちの方が見たいがね」

 

 そのまま俯いてしまい、シュウジの隣で事の成り行きを見守っていた雫は心配そうに振り返る。

 

 

「……わかった」

 

 

 だが結論から言えば、彼女の気持ちは杞憂に終わった。

 

 もう一度顔を上げた時──光輝は以前のように、けれど前とは違う、強い目をしていた。 

 

 溢れるほどの自信によく似たそれは、決意の光。それを感じ、雫ら幼馴染組は安堵の笑顔を浮かべた。

 

 

(……さて、いつ壊れるかね)

 

 

 忠告している当の本人もまた、密かに嗤っているのだが。

 

「シュウジ、お前……」

「その話は後だ。今は迷宮攻略、だろ?」

「……ああ、そうだな」

 

 笑ってこそいるものの、冷淡。

 

 有無を言わせない声音に、まだ触れるべきでない事情と察したハジメはそれ以上何も言わなかった。

 

 それを見ていた光輝の肩を、龍太郎が鈴を落とさないようにバシッと叩いて励ます。

 

 

 

 それからしばらく進んだものの、一向に変化は現れなかった。

 

 巨樹にこそ近づいているものの、音の一つもなく、風すら吹かない状況はやけに不気味に感じる。

 

 草木をかき分ける音さえも心を揺らし、徐々に女性陣の表情が不安げなものへと変わっていく。

 

「うーむ、なんだか嫌な感じじゃの」

「なんだか、オルクスで待ち伏せされてた時を思い出すね」

「確かに……魔物も一匹も出てこないし」

 

 顔をしかめるティオに香織が反応し、その言葉にあの時を思い出した雫がシュウジの手を握る。

 

 普段ならばこんな場所でそんなことはしないが……あの件は彼女達にとって色々な意味で衝撃的だった。

 

 無論のこと、それをわかっているのでシュウジは彼女の手を握り返した。

 

「心配しなさんな。このフロアはそういう意味じゃ安全だ」

「そういえば、シュウジさんは大迷宮の情報を持ってるんでしたよね。ここはどんな試練なんですか?」

 

 シアが尋ねる。シュウジはふむ、と帽子の縁を指でなぞりながら考えた。

 

 今もなお、トータスに来たばかりの頃に女神に与えられたこの世界の情報は生きている。

 

 しかし、大まかに言えばそれは辞書のようなものであり、現場から最適な情報を探し出さなければいけない。

 

 ここまでの短時間の道のり、大樹の存在、周囲の状況からシュウジは情報を抜き出していき……

 

「そうだねぇ……頭上注意、ってとこかな?」

「頭上、ですか?」

「……空から女の子が?」

「なんで知ってるんだウサギ……」

「ま、あと少しは安全さ。こいつらも先行してるしな」

 

 シュウジが手に持ったステッキを掲げると、宝石部分に乗っていた黒いカマキリがキシっと鳴いた。

 

 初めて見た香織と光輝は驚き、久しぶりに登場……失礼、出てきたそれに懐かしげな顔をする。

 

「俺の蜘蛛型ゴーレムも先行してるが確かに敵襲って意味の危機は……ん?」

 

 途中で言葉を止め、ハジメは天井を見上げた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 突然立ち止まったハジメに他のメンバーも停止し、不思議そうな顔で上を見上げる彼を見た。

 

 すると、ポツリと顔に何かが落ちてくる。香織かシアかが「ひゃっ!」と驚いて声をあげた。

 

「あ、雨?」

「みたいだね」

「ん……」

 

 光輝や香織が手で雨を防いでいると、顔に当たる水滴に小さくうめき声をあげ、うっすらと鈴が目を開いた。

 

「おっ、起きたか鈴。気分は大丈夫か?」

「ふぇ……っ、りゅりゅ龍っち!?」

「そんだけ声が出るなら平気だな……さっきは変なこと言ってすまん」

「あ、うぅ……」

 

 ほんのりと頬を赤く染め、龍太郎の背中に顔を埋める鈴。

 

 なんとも可愛らしい仕草に光輝達が微笑んでいると、不意に香織が雫の方を向いた。

 

「あれ? 雫ちゃん、それ……」

「え?」

 

 香織の懐疑的な顔に、ふと雫は自分のすぐそばから異音がすることに気がついた。

 

 つられて全員がそちらを見て、雫も音の発生源たる自分の頭上を見上げる。

 

 

 何かを断続的に弾くようなその音は、半球状に広がった黒い魔力が水滴を防いでいる音だ。

 

 

 

 その発生源を辿れば、それはシュウジが逆さまに持ったステッキ……即席の傘だった。

 

 もともと手を繋いでいて近かった距離をさらに詰めて、雫を雨に打たせまいとしている。

 

「雫を濡らしはしないさ」

「ありがと、シュー」

「いやいや……それに、この雨は()()()()()()()()

 

 シュウジの言葉に、一気に緊張が走る。

 

 普段こそおちゃらけているものの、こういう時に無意味な発言はしないことを全員わかっていた。

 

 つまりこれは意味あること──すなわち、この迷宮においての異変、という意味に直結する。

 

「チッ、ユエ!」

「んっ、〝聖絶〟!」

 

 ハジメの呼びかけに、阿吽の呼吸でユエが障壁を展開した。

 

 

 

 ザァアアア!! 

 

 

 

 直後、土砂降りの雨がシュウジ達を襲う。

 

 ユエの張った結界によって弾かれ、表面を()()()と滑り落ちていく様は、明らかに雨ではない。 

 

 そもそもここは閉鎖空間。例え樹海が広がっていようと、自然と雨が降り出すなどあり得ないのだ。

 

 ならば、自ずと答えは二つに一つ。

 

 なんらかの毒性を持った液体──あるいは、魔物。

 

「だから言ったろ、頭上注意って」

「下手な魔物よりタチが悪りぃな! 魔眼石にすら感知されなかったぞ!」

「見て、周りが!」

 

 舌打ちするハジメに、いち早くシュウジの行動の意味に気がついて観察を始めていた雫が叫ぶ。

 

 その視線の先には樹々や草、岩の間、地面などから滲み出てくる、大量な乳白色の何かがいた。

 

「クソッ! このスライムども、気配遮断にしても隠密性高すぎだろ!」

「勘も大事ってことさ。まあ俺カンニングしたんだけど」

 

 言いながら、カーネイジナイフをハジメの足元に投げ打った。

 

 それはちょうど足の間の地面に突き刺さり、そこからはい出ようとしていた物体の動きを止める。

 

「ギィガァアアア!」

 

 そのまま小型のカーネイジへと変形し、その場で魔物を喰らい尽くしてしまった。

 

 たった一瞬の出来事にさらにハジメの眼光が鋭くなり、同じようにそれを見た面々も気がつく。

 

「そりゃ地面からも出てるんだ、ここにも来るよな!」

Exactly(その通り)! 皆様足元にお気をつけください、濡れることがございます」

 

 シュウジの言葉を皮切りに、一斉に障壁の内部にスライムが飛び出してきた。

 

 全員を狙ったそれに、シュウジはステッキの上部を捻ると、エ・リヒトを球状に自分と雫の周りに展開する。

 

 当然のようにスライム達が群がり、二人を襲うとするが……

 

「〝纏毒〟」

 

 次の瞬間、半透明の結界が身の毛もよだつ紫色に変色して、スライム達を溶かし始めた。

 

 強力なエボルトの毒に煙を上げ、魔物達はさらにドロリと形を崩して死んでいく。

 

「そうか、ユエ!」

「んっ!」

「鈴、いけるか?」

「う、うん!」

 

 すぐに魔法のエキスパートたるユエと、結界師である鈴が行動を開始する。

 

 素早く各々の所へ集合し、ユエの張った結界にハジメ、シア、ウサギ、美空、香織、ティオが。

 

 一拍遅れて展開された鈴の障壁の中に、光輝と彼女を背負っている龍太郎が入り。

 

 最後にユエが不要になったドーム状の障壁を消し、代わりに三つの新たな避難場所が出来上がった。

 

「よし、全員避難したな……じゃ、掃除の時間だ」

 

 全員が退避したことを確認し、シュウジが結界の中で右手を掲げる。

 

 すると、手の平から少し浮いた場所に、ユエの重力球によく似た黒い球体が出現した。

 

 

 フッ……

 

 

 それは少しずつ手の平の上から浮かび上がり、シュウジの結界をすり抜けていく。

 

 未だに降り注ぐスライム達すらも透過して、樹々よりもさらに高く飛んだ黒球は──ドッ、と一瞬で広がった。

 

 

 

 それは、ブラックホール。全てを飲み込む宇宙の穴。

 

 

 

 渦巻くそれがその力を発揮し、徐々にスライム達が穴の方へ吸い寄せられていった。

 

 徐々にその力は強くなっていき、対象外としているシュウジ達を除いた全てが根こそぎ吸い込まれていく。

 

「ふう、なんとか難を逃れたな……」

 

 ブラックホールの方に飛んでいく、結界に覆い被さっていたスライムに、ほっと光輝は安堵の息をはいた。

 

「鈴、助かった。ありが──っ!?」

 

 そして礼を言おうと、龍太郎の背にいる鈴に振り返って──ギョッとした。

 

「? どうしたの光輝くん?」

「い、いや、なんでもないぞ! ああ、なんでもない!」

「?」

 

 慌てて顔をそらした光輝に、鈴は不思議そうに首をかしげる。

 

 背負っているため、鈴のことが見えない龍太郎も同じような顔をして、試しにハジメ達の結界を見て。

 

「ブッ!?」

 

 それはもう見事に吹き出した。

 

 そうすると慌てて鈴の足を支えていた腕の片方を外し、グワシィ! と光輝にアイアンクローする。

 

「いだだだだっ!? りゅ、龍太郎っ!?」

「すまん光輝! だが今は鈴を見るんじゃねえ!」

「だからすぐに目線を外し……痛い痛い!」

 

 ギリギリと指の力を強める龍太郎に、光輝が絶叫した。

 

「ふ、二人ともいったい何を……」

 

 話の発端である鈴は、さっきからなんなのかと自分の体を見下ろす。

 

 そして、白く粘着質な液体で()()()()()()()()体を見て目を剥いた。

 

 白濁した粘っこい液体によって、ピッチリと肌に張り付いた服……どう考えてもアレっぽいのである。

 

「い、いやぁあああ!」

「あがっ!?」

「龍っち見ないで、見ないでぇええ!」

「いや俺は見えなッ、があぁアアアアッ!」

 

 鈴の両手が龍太郎の目の窪みに食い込み、あまつさえ両足をバタバタとさせた。股間の上で。

 

 

 

 ドスッ、ドスッと股間にめり込む、右足のかかと、そして左足のかかと。

 

 

 

 さしもの龍太郎も壮絶な、男にしかわからない痛みに苦悶の声を上げざるを得ない。

 

「ぎゃああああっ!!」

 

 それによってさらに力んだ手が光輝の頭蓋骨を軋ませ、もう地獄絵図だった。

 

「何やってんだあいつら……」

「……ベトベト」

「気持ち、悪い……」

「くっ、これ取れないし……」

「美空、なんかエロい……」

「盛るな変態」

「変態じゃないもんっ!」

「うぅ、恥ずかしいですぅ……」

「ふむ、これはこれで良いの」

 

 同様に、龍太郎が見たユエ達も同じことになっている。

 

 素早く行動したのでそこまでではないものの、彼女達もやはり最初の雨によってやられていた。

 

 ユエの首筋や頬を伝うもの、シアやウサギの胸元に溜まったもの、美空のスカートに染み込んだものに、香織の髪に付着したもの……

 

 

 総じてアウト案件決定だ。

 

 

(……最悪、見たやつは目を潰すか)

 

 ハジメなどそんなことを考えており、確認だけしてすぐに目をそらした龍太郎は僥倖だったであろう。

 

「香織、とりあえず〝分解〟でユエ達のを取ってくれ」

「う、うん……」

 

 一番除去に適した能力を持っている香織が、やや赤い顔でスライムの取り除きを開始した。

 

「あなた、どうせなら南雲くん達も守ってあげてばよかったじゃない」

「いやー、ああなるとわかってるとつい雫を最優先しちまってな」

「それは嬉しいけど……」

「あとラッキーイベントの用意をしなきゃと思って」

「南雲くん怒るわよ?」

 

 キラリと目を光らせ(幻覚魔法)、無駄にキマった顔で言うシュウジに、雫は呆れた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、ブラックホールの範囲内のスライム全てが吸収される。

 

 結果的に、樹海の一角にぽっかりと円形の広場ができることになった。

 

 その向こう側から入ってこようとするスライムもすぐに吸い込まれる。

 

 一時的に安全が確保されたのを確認して、結界を解除した一同は顔を見合わせる。

 

「た、頼む……香織かみーたん、どっちでもいいから回復魔法を……」

「私が回復するから、香織は鈴をどうにかして」

「う、うん」

「ううっ、ごめんね龍っち」

 

 なお、男の象徴に何度も攻撃を受けた龍太郎は、すぐさま治療にかかった。

 

「……雨が止まないな。無尽蔵か?」

「穴を塞ぐしかないな。どうする? 俺のカマキリはちょいと品切れだ」

 

 樹海全体に散らばせていたカマキリ達は、すでにほとんどがスライムに飲み込まれて死んでいる。

 

 とはいえ、〝箱〟には無尽蔵にいるし、同様に限りのないカーネイジで穴を埋めることもできるのだが……

 

「いや、俺がやる。ユエ達をこんなにしてくれたんだ、少しくらいやり返さないと気が済まない」

 

 ニヤリと獰猛に笑ったハジメに、シュウジはどうぞご自由にとでも言うように笑い返した。

 

「それじゃあ早速……っと!」

 

 〝宝物庫〟からシュヴァルツァーを大量に出し、魔力を流して起動するハジメ。

 

 赤く目を輝かせ、ひとりでに宙に浮いた黒い鮫達は、凄まじい速さで天井に向けて泳いでいった。

 

 

 

 軌道上にあるスライムの雨を、口を開いて発射したミサイル弾の爆炎によって焼き尽くし進むシュヴァルツァー。

 

 二機でグループになったシュヴァルツァー達は、勢いを緩めることなく天井に衝突。

 

 そのまま胸ビレと尾びれを垂直に変形させ、互いの体で円を描くように水平に天井に埋まった。

 

「よし」

 

 〝遠目〟でそれを確認したハジメは、〝宝物庫〟から大量の蜘蛛型ゴーレムを出した。

 

 うわ、と顔を引きつらせる美空や香織達に構わず、手元に残していたシュヴァルツァーでゲートを作る。

 

 メタリックな蜘蛛達はそのゲートを通り、天井に突き刺さった多くの〝出口〟から出て行った。

 

 そのまま散開していくその数、約200。

 

「おお、随分と操作できるようになったな」

「何百ってカマキリからの情報を、なんともない顔で受け取って処理するお前ほどじゃないがな。で、あの穴を〝錬成〟で塞げば……」

 

 ハジメの操作によって、あらゆる穴の近くにスタンバイしていた蜘蛛達が動き出す。

 

 生成魔法で付与された〝錬成〟を発動し、あっという間に滲み出るスライム達を穴ごと埋めてしまった。

 

「こんなもんでいいだろう。あとは……」

 

 雨が収まり、またはっきりと見えるようになった大樹の方を見るハジメ。

 

「あそこまでの道のり全部、まとめて焼き払ってやる」

「んじゃこれ使え」

 

 シュウジが投げ渡したものを、ハジメが危なげなく受け取る。

 

 それは不死鳥のシンボルが描かれたフルボトル……フェニックスボトルだった。

 

「それをシュヴァルツァーに装填すれば、火力が上がると思うぞ」

「なるほどな……サンキューブラザー」

 

 ニヤリ、と笑い合う二人に、光輝と龍太郎は一瞬悪魔の集会を幻視した。

 

 ハジメはシュヴァルツァーに歩み寄り、二機あるうちの一機の背中のくぼみにボトルを挿し込む。

 

 

《 《 《 フルボトル! フェニックス! 》 》 》

 

 

 より赤くカメラアイを輝かせ、全てのシュヴァルツァーから同じ音声が発せられた。

 

 シュウジの改造により、シュヴァルツァーは一機に装填されたフルボトルの効果を共有できるのである。

 

 それを確認し、ハジメは天井から全機を移動させると、大樹へ一直線にシュヴァルツァーを並べ。

 

「ファイヤ」

 

 躊躇なく命令を下し、ミサイル弾を発射させた。

 

 

 

 ドン! ドォンッ!! ドドォンッ!!! 

 

 

 

 投下されたミサイルが一拍置いて、連鎖爆発を始める。

 

 凄まじい轟音と振動を発させ、光輝や鈴を背負って不安定な龍太郎が思わずたたらを踏んだ。

 

 瞬く間に炎の海と化した樹海の中で、大量のスライムが焼け焦げて死んでいく。

 

 おまけに、ボトルの力によって爆発力を増したそれらはメラメラと立ち上る、十メートルほどの炎を生んだ。 

 

 大樹までの道どころではない。このフロア全体を焼き滅ぼそうとしていた。

 

「はははは、燃えろ燃えろ」

「せっかくのキャンプファイヤーだ、もうすこし派手にしよう」

「「は?」」 

 

 楽しそうに笑ったシュウジに光輝と龍太郎が呟いた瞬間、彼の背後に穴が開く。

 

 今もなお、今度は炎を吸って自分たちを守っているブラックホールに似たそれは、異空間の穴。

 

 

 

 ザザザザザッ!!! 

 

 

 

 そこから何千、何万という夥しい量のカマキリが飛び立った。

 

 彼らは数匹で一つのドラム缶らしきものをいくつも運んでおり、もしや……と顔を青ざめさせる二人。

 

「さあ、もっと楽しもうぜ?」

 

 その予想は、指を鳴らしたシュウジによって実現された。

 

 各地の空中で静止したカマキリ達がドラム缶の蓋を開け、そこから炎に黒い液体を注ぎだしたのだ。

 

 

 

 それが触れた瞬間──炎の勢いが何倍にも増した。

 

 

 

 そう、シュウジが投下したのはタールである。

 

「「………………」」

「どうよ、このデコレーション」

「最高のスパイスだな」

 

 炎上する樹海を、楽しそうに眺めるハジメとシュウジ。

 

「なあ龍太郎、俺本当にここにいて平気か? なんかもう、いろいろ諦めそうなんだが……」

「気をしっかり持て光輝!」

 

 平然と笑顔で被害を拡大させたシュウジに、光輝はハイライトを失いかけていた。

 

 あれと並び立つほどの力や信念を持った時には、もしや同類となるのではと思った光輝だった。

 

「悪魔だ、悪魔が二人いるよぉ! シズシズ、あれとめてぇ!」

「炎を背にニヒルに笑う……いいわねっ」

「シズシズぅ!?」

 

 いい感じに背景が出来上がったシュウジを激写している雫だった。手遅れである。

 

「あぁ……ハジメ、素敵」

「胸が、キュンキュン」

「ですねぇ〜、あの顔かっこいいですぅ」

「ご主人様ぁ……ハァハァ、一目でいいからその目で妾を見て欲しいのじゃ……」

「……ゴクリ」

「はぁ……私の彼氏、いつからあんな風になったんだろ」

 

 ユエ達も同様の状態。恋は盲目とはこのことか。

 

 呆れている美空でさえ目を奪われているのだから、もうストッパーなどいないに等しく。

 

 

 

 

 しばし、摂氏三千度の獄炎の海が轟轟と燃え盛っていた。

 




読んでいただき、ありがとうございます。

さて、あと少しでこの迷宮も終わりだ。

感想をいただけると…頑張ります(普通に頑張れ
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