星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今日から十一月。早いですね。

ハジメ「俺だ。前回は奴らとの戦いが始まったが…うん、気持ち悪い」

シュウジ「最初にゴキブリを調べていろいろ解析した人、サイコパスだったんじゃねえかな……」

ハジメ「言いたいことはわかるがな…で、今回は続きだ。俺たちの様子がおかしいな。それじゃあせーの、」


二人「「さてさてどうなる大樹編!」」


反転。ちなみに作者はリバーシ超弱い

 三人称 SIDE

 

 

 

 ドパンッ! 

 

 

 

 ノーモーション、なんの躊躇もない発砲。

 

 オルカンを〝宝物庫〟の中に投げ捨てるように入れ、ハジメがシュウジに神速の早撃ちをする。

 

 シュウジは当然のように首を捻って躱し、二発目を打とうとしたハジメにドンナーを掴んで抑えた。

 

 

「はっはっはっ、相変わらず速いじゃないのハジメ」

「黙れ。一言も喋るな、今すぐこの世から消えろ」

 

 いつものようににこやかに笑うシュウジ。その笑顔は、先ほどまでの恐怖はどこへやら。

 

 対して、いかな幼い頃から気心が知れているはいえ、決して言わないような暴言を吐くハジメ。

 

 

 その瞳は憎悪一色で染まり、言葉通りにシュウジを心の底から抹殺しようとしていた。

 

 あまりに急な展開。とりあえずシュウジは次の言葉を言おうと口を開いて──

 

「シッ!」

「おっと、怖い怖い」

 

 後ろから的確に首筋を狙った居合を、人差し指と親指で止めた。

 

 それを行ったのは……普段の慈愛の微笑みを捨て、どこまでも冷徹な瞳の雫。

 

 万力に固定されたように動かない楔丸を持った彼女は、にこりと冷ややかな笑顔を作る。

 

「ねえシュウジ。私、あなたを愛してるわ」

「おう、そりゃ痛いほど知ってるが?」

「だからね──死んで、永遠に私のものになって?」

「ううん、さすがにそのルートはちょっと。雫ならヤンデレでもいいけど、悲しみの向こうエンドは勘弁」

 

 片や親友、片や彼女。

 

 誰よりも大切だろう二人に殺されかけたにも関わらず、シュウジはニコニコしていた。

 

 そう、まるで──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「二人とも、何してるの?」

 

 そこへ声をかけたのは、香織。

 

 刺すような殺気に満ちた三人に歩み寄っていき、ハジメと雫はそんな彼女を澱んだ目で見る。

 

 嫌悪、軽蔑、憎しみ──そんなものが入り混じる二人の視線を平然と受け止め、香織は……

 

「私が二人を殺すんだから、シューくんにばかり構わないでよ」

 

 同じ目で双大剣の切っ先を、それぞれ二人の頭へと向けた。

 

 ストレートに害意を向け、三竦みの状況がさらに悪化する。絶対にありえるはずのない光景だ。

 

 

 そんな香織の視界に、ふっと真正面から美空が入り込んできた。

 

 彼女は何も言うことなく、無言で香織に歩み寄っていくと……その首筋に護身用のナイフを突きつける。

 

「あんたを殺す。その後にハジメもシュウジも殺す」

「ふふ、何言ってるの? 美空なんかにそんなことできるわけないじゃん」

「は? 私のこと分かったようなこと言わないでくれる?」

 

 なんだかんだで仲の良い……いっそ良すぎるはずの二人は、刺しかない言葉で殴り合う。

 

 しかし、その険悪すぎる雰囲気はシュウジ達五人だけではなかった。

 

「……あなたが憎い」

「……残念だけど、私も……ううん、全然残念じゃない」

 

 ユエが蒼炎をくゆらせる両手を見せつけるようにして、ウサギのことを睨みつける。

 

 対するウサギも、普段と全く違うタイプの無表情でゴキリと指の骨や首を鳴らしていた。

 

「ちょっとちょっと、何してるんですか二人とも。二人をぶっ殺すのは私なんですけど?」

 

 そこにドリュッケンどころかディオステイルまで持ち出したシアが加わり、更に空気が凍てつく。

 

 果てには「ああ?」「お?」「ん?」などと、ヤのつく人も涙目なメンチの切り合いを始めた。

 

 結界の外では次々と化け物が魔法陣から生み出されており、ユエがまだ維持していて幸いだったろう。

 

「……ご主人様。いや、南雲ハジメ。お主を殺したくて殺したくてたまらない」

「こっち見ないでよ、ゴリラ」

「あ? テメェこそこっち見んなチビッコ」

「「ケッ!」」

 

 ティオも、龍太郎も、鈴も。

 

 皆が皆、親愛を向けていたはずの相手に心底からの悪感情を向け、殺伐としている。

 

「エボルト、お前最高にバットタイミングだよ。だが、同時にグッドタイミングだ」

 

 その全てを見て、シュウジは笑う。

 

 恐ろしいまでに普段通りなそれに、とりあえずドンナーと楔丸を引いたハジメと雫が口を開く。

 

「……どうやら、さっきの光で感情が反転したみたいね」

「ああ。お前と意見が同意するのはひどく不愉快だが、おそらく元の感情の強さに比例して効果は高まるんだろう」

Exactly(その通り)。これは絆を試すこの大迷宮、最高にして最恐の試練さ」

 

 今にも取っ組み合いを始めそうな睨み合いをする二人に、ステッキを回収しながら告げるシュウジ。

 

 振り向いた二人は、やはり今にもその首を取りたいという目つきのままに質問をした。

 

「お前は変わらないみたいだな?」

「いや? 変わってるさ。ただ魔法で感情を〝消した〟だけだよ」

 

 トントン、とステッキで肩を叩きながら答えるシュウジ。

 

 そのまま器用にクルクルとステッキを回転させ、最終的に先端で自分を指した。

 

「〝凍結(フリーズ)〟。精神的拷問用の対魔法だ。一時的にありとあらゆる感情を凍結する」

「じゃあその表情は、全部演技ってことか」

「いつもの俺とクリソツだろ?」

 

 両手の人差し指で口の両端を持ち上げ、ニッと笑うシュウジ。

 

 良い感情であれ悪い感情であれ、全ての心を封じる魔法を使ってなお、表面は変わりなく見える。

 

 やはり一千年も暗殺者をやっていたカインのスキルがあれば、その程度お手の物なのだろう。

 

「で、この試練の概要は簡単。これまで紡いできた仲間との絆、記憶、思い出。そこから生まれる感情全てが裏返ってなお、手を取り合い困難を乗り越え、元に戻れるか」

「なるほど……心底不愉快だが、納得した」

「吐き気がするけど、私もよ」

 

 魔法が発動しても、これまでの記憶が消えたわけでは決してない。

 

 

 

 誇り高き友情は、底の無い憎しみに。

 

 

 

 尽きることのない愛は、果てしなき愛憎に。

 

 

 

 ハジメは共に全てを背負う親友として。雫はこれから先、生まれ変わった人生の全てに寄り添う女として。

 

 自らのシュウジに対する感情の強さを誰より知っている彼らは、この試練の本質をすぐに理解できた。

 

 

 嫌そうな顔をしながらも、他のメンバーが反論することはない。

 

 それを見たシュウジは、無になった感情でもその判断力と結束力を称えたい()()()()()()()

 

「さて、そんなわけだが……」

 

 最後にシュウジは、これまで視界どころか存在や記憶からすら抹消していた人物を見る。

 

「勇者(笑)。お前も感情がリバースしてるだろうが、間違っても俺に近づいてきたら……」

「──北野」

 

 殺す、と告げようとしたシュウジに、ずっと俯いていた光輝は。

 

 

 

「──俺は今、お前をこの手で殺したい」

 

 

 

 そう、修羅のような顔で告げた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「…………………………は?」

 

 感情が消えているはずなのに、シュウジは心の底から唖然とした。

 

 

 そんなシュウジを、やはり気持ち悪そうに顔を歪めて光輝が見ている。

 

 まるで先ほど龍太郎や香織達に向けていたのと同じ……()()()()()()()()()()()()()()()()()で、だ。

 

「………………えっと、殺していい?」

 

 その先を考えたくないシュウジは、とりあえずサクッと殺ろうとした。

 

 あらゆる情動が0になっているはずなのに、目の前にいる男を本気で消したくてたまらない。

 

 黒ナイフとカーネイジナイフを取り出すシュウジに、光輝は自分の手を見下ろしながらグッと握る。

 

「……自分でも不思議だが、どうやら俺はお前を尊敬していたみたいだ」

「はあ?」

「確かにお前のやり方は認めたくないし、お前自身かなり苦手だけど……でも、その信念と力を、俺は本気で敬ってたらしい」

 

 光輝自身、なんだかんだでずっと認めたくなかったその事実。

 

 それがこんな場面で確信できるなんて、と実に苦しげ、というか気分悪そうにした。

 

「……あーもういいや。お前もういい、うん。俺の視界からっていうか存在の根底から消えてお前マジでほんとマジで」

「酷いな」

 

 本当の本当に感情がないはずなのに、湧き上がる悍ましさと嫌悪感。

 

 それに耐えきれなくなったシュウジは、とりあえず光輝の存在を絶無の彼方に遠ざけて現状確認に戻った。

 

 

「さて。お前らには今、あのゴギブリどもが愛らしく見えている筈だが」

 

 シュウジの問いかけに、全員が頷く。

 

 それから結界の外でまだ這い回っている連中を見て、ほうとため息を吐いて頬を赤くした。

 

 

 そう。感情が反転しているということは、元は忌み嫌っていたものに対して好意を抱くことにもなる。

 

 

 この中で誰一人として、元から黒い悪魔達が好きだったものなどおらず……故に、全員が愛おしさを感じていた。

 

 またそれは、シュウジが女神より与えられた情報が正確であることを示している。

 

「味方同士は憎み合い、敵には刃が鈍る……それがこの試練の狙いか」

「きっとゴキブリなのは、みんな嫌いだからなのね……」

「さてさて、理解もできたところで。諸君? この絶体絶命の状況の中、これから殺し合いでもするか?」

 

 両手を広げ、どうする? とガラス玉のように無機質な目で笑いかけるシュウジ。

 

 彼の言う通り、これは絶望的な状況だ。

 

 憎み合う今ではろくに連携も取れず、あの化け物に叩き潰されるか、ゴキブリの波に呑まれるか。

 

 

 

 そう、()()()()()

 

 

 

「ピエロ野郎。お前を蜂の巣にしてやりたいのは山々だ。そこのチビやクソアマもな」

「おっと、怖い怖い」

「……私もお前を殺したくてたまらない。厨二野郎」

「話しかけないでくれる? 虫唾が走るから」

 

 それぞれ睨み合っていた面々は、それを聞いて……スッと互いに背を向けて武器を構え始めた。

 

 その目は七つの障壁を越え、この事態を引き起こす要因となった化け物を見ており。

 

 愛するものを殺すしかない、普通に塗れた顔──ではなく。

 

「それ以上に……今はあいつらを愛でたくてたまらない(殺し尽くしてやりたい)!」

 

 激憤に塗れた、餓狼の如き目でハジメが吠える。

 

 

 それは他の皆も同じことであった。

 

 

 ユエも、美空も、シアも、ウサギも、ティオも、香織も、雫も、光輝も、龍太郎も、鈴も、同じ顔で外を睨む。

 

 彼らの心にあるのは、これまでの人生で一度も感じたことのないような絶大な怒り。

 

 記憶があるからこそ、自分達が互いにどれだけの親愛や友愛……恋愛を向けていたのかよくわかる。

 

 

 それを利用され、歪められたことが許せない。憎くて仕方がない! 

 

 その激しい思いが、ゴキブリ達への深い愛情を、サディスティックな加虐性質へと変貌させていた。

 

 雫の、シュウジへの底抜けの愛が反転し、殺して永遠に自分のものにしてしまいたい、へ変化したのと同じだ。

 

 そこにこれまで溜まっていた大迷宮への鬱憤が重なり、互いへの嫌悪を怒りが上回った。

 

「そう、それでこそだ。エボルト、使わせてもらうぜ」

 

 

《エボルドライバー!》

 

 

 心理的に影響しているため、深層意識まで逃げたエボルトに、凍った感情のまま告げる。

 

 

 

 ちなみに、エボルトが無理やり変わったのは、彼では〝凍結(フリーズ)〟の魔法を使えないから。

 

 

 

 シュウジがエボルトの能力を受け継いだのに対し、エボルトはシュウジの力を扱えはしないのである。

 

 まあそんなことであればすぐに〝抹消〟を封印しているので、当然と言えば当然だ。

 

 また、もしもエボルトが反転した場合……容赦なくこの大迷宮ごと全員を滅ぼすだろう、という確信があった。

 

 

コブラ!  ライダーシステム! 》

 

 

《レボリューション!》

 

 

 ドライバーのレバーを回し始めたシュウジの両隣に、ハジメ達が並ぶ。

 

 皆が皆、これでもかと怒りを滾らせて武器を握りしめる中、シュウジは両手を胸の前で交差させ。

 

「変身」

 

 

《ブラックホール! ブラックホール!! ブラックホール!!! レボリューション!》

 

 

《フッハハハハハ……》

 

 

 星狩り……否、この場に限っては憎き害虫を滅ぼし尽くす化身へと姿を変えた。

 

『さあ、終末を始めよう。あのクソッタレな害虫共に終わりをくれてやる』

 

 シュウジがそう告げた瞬間、ユエが結界を全て消し。

 

 

 

 ドンッ!!! 

 

 

 

 激しい音を立てて、ハジメが弾丸のように飛び出した。

 

 〝縮地〟〝豪脚〟〝衝撃変換〟、純粋な魔力での身体強化と〝金剛〟、極め付けに〝纒雷〟。

 

 数々の技能で文字通りの赤雷と化したハジメは、一直線に最初に生まれた化け物へと飛んでいく。

 

 

 ライフル弾のような速度で飛び出した大砲の弾、とでも言えばその恐ろしさがわかるだろう。

 

 そんなハジメは、身に纏う衝撃と雷で邪魔しようとしてくる人型、虫型のゴキブリの包囲をブチ破っていく。

 

 そのゴキブリの大群がいるためか、それとも試練で自分への攻撃はできないと侮っているのか。

 

 それは両方正解であり──なにより、あの化け物程度ではハジメのスペックに視認が追いつかず。

 

 

 

「死ぬまで愛でてやるよ」

 

 

 

 ゴギィッ!!! という鈍い音と共に、その巨大な顔面に全力の膝蹴りが叩き込まれ。

 

 

 

 

 

 そして、蹂躙(戦い)が始まった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「「「じょおおおおお!?」」」

 

 知覚不可能な速度で膝を入れられたゴキブリ巨人は、白い液体を撒き散らしながら体を倒す。

 

 発動時点での速度を十倍化する〝超加速〟、魔力の破壊的側面を促進する〝鬼術〟、そして〝死脚〟。

 

 

 それら全てをかけられた渾身の膝蹴りは、吹き飛ばすとまではいかず。

 

 しかし、その超威力によって腹部から上下に巨人の体を割った。断面から夥しい量の体液が出ている。

 

 銃火器を使わず、代わりに怒りをたっぷりと込めたのだ。これくらいでなくてはおかしい。

 

「チッ、案外硬いな」

 

 舌打ちをし、〝空力〟で空中にとどまるハジメ。

 

 そんな彼の前で、ゴキブリ達が傷の断面に集まり、半ばほどまで千切れた体が修復されていく。

 

 時間を巻き戻すようにハジメの眼前に戻ってきたゴキブリ巨人は、殺意のこもった目で挑戦者を見た。

 

「「「じょじょうううじょじょ!!!」」」

「はっ、存分に愛してやるよ!」

 

 劇場をたぎらせ、狼を彷彿とさせるどう猛な笑みを浮かべたハジメは巨人に再度攻撃を仕掛けた。

 

 

 

『ハァッ!』

 

 一方、ハジメのいなくなった足場でも戦闘が開始されていた。

 

 と言っても、既に変身した事で自在に使えるブラックホールを複数展開し、相当数のゴキブリが処理されている。

 

 しかし、それでもなお勢いも量も衰えずに襲いかかってくる、無数の虫型の大群や人型達。

 

「〝震天〟」

「やぁあああああっ!」

「ッ──!」

 

 それらをユエの神代魔法や五天龍、縦横無尽に飛び回るウサギコンビ。分解砲撃を打ちまくる香織が駆除していく。

 

 グリスに変身した龍太郎や、この中では弱い部類に入る鈴、光輝なども善戦していた。

 

『さて。この調子なら問題なさそうだが……』

 

 向かってきた人型を殴り殺したシュウジは、隣にいる雫に問いかけた。

 

「この魔法は、どうすれば効力が失われるのかしら」

『スライムの時と同じさ。この魔法に抗う心を強く持っていれば、そのうち時間経過で消える』

「あらそう……なら、私は問題ないわ」

 

 平然と飛びかかってきた人型達を撫で斬りにして、楔丸を血振りする雫。

 

 それからシュウジの方を振り返って……天上の女神のような笑顔を振りまきながら。

 

「だって、あなたが私の剣で死ぬはずがないものね?」

『お、おう』

 

 絶対の確信を持って愛憎を向けてくる雫に、又しても無感情の状態で若干うろたえるシュウジ。

 

 真実、八重樫雫にとってこの反転の魔法はさして絶体絶命でもないのだろう。

 

 たとえ反転しても、その愛の方向性が変わっただけの彼女にとって、これはなんて事ない試練だ。

 

 

(……雫が面倒見の良い、ちゃんとした性格でよかった)

 

 

 危うくヤンデレの可能性すらある想い人に、さしものこの男も仮面の下で冷や汗をかく。

 

「とりあえず南雲くんがあれを倒すまで、彼らを全て相手しましょう」

『だな。あっちも……問題はなさそうか』

 

 奮闘するシア達を見やるシュウジ。

 

「一匹残らず、殲滅ですぅ!」

 

 もはやバグ化してきた効率で脚力を強化し、淡青色の魔力の波紋を残しながら円盤で暴れまわるシア。

 

「出力60%──ラビットストーム!」

 

 自分を目として、月の小函(ムーンセル)から抽出した魔力を嵐の形状に開放して殲滅するウサギ。

 

「フッ!」

「ハァッ!」

 

 ティオが竜の翼を、香織が銀翼を展開して、それぞれの魔法や武器で中型の化け物を次々と殺し。

 

「〝回天〟!」

 

 治す傷のないゴキブリ達に無理やり回復魔法を注ぎ込み、その体を壊死させる美空。

 

 

 皆が皆、自分の感情を弄ばれたことへの激情を糧に、次々とゴキブリどもの数を減らしていた。

 

『いくらでもかかってこい! まとめて受け止めてやる!』

 

 ガンモードのツインツインブレイカーを巧みに操り、ゴキブリを一度に数百匹殺すグリス。

 

「さあ、みーんな鈴の所に来てっ!」

 

 あえてギリギリまで引きつけ、二枚の障壁で無理やり押しつぶして圧死させる鈴。

 

 

 彼女らが戦いやすいよう、いくつかブラックホールを消滅させ、最後にユエを見るシュウジ。

 

 すると彼女は、重力魔法で自らを浮かし、五天龍を従えてハジメのところへと飛んで行った。

 

『まあ記憶はあるし、敵の真ん前で殺し合いなんかしな……』

 

 次の瞬間、腐食性の黒煙を出していたゴギブリ巨人と虫型の大群が、巨人をタコ殴りにしていたハジメと一緒に大炎上した。

 

 それをやったのはもちろん、雷龍と蒼龍でゴキブリを……いや、ハジメごとゴキブリを殺そうとしたユエ。

 

『えぇ……って、やべぇ!』

 

 どうにか掻い潜ったのか、蒼炎の中から出てきたハジメの反対方向から黒影が迫る。

 

 それはハジメに殴り飛ばされてきた、顔面が潰れたゴキブリ巨人だった。もちろん故意である。

 

『よいしょっとぉ!』

 

 その場でブリッジの体制になり、下半身だけ上げてゴキブリ巨人を両足で蹴っ飛ばすシュウジ。

 

 またしても宙を舞うゴキブリ巨人は、大樹の幹に体をめり込ませ、白い体液を撒き散らした。

 

「「「じょじょじょぉっ!?」」」

『うーわっ、感情なくてもSAN値直葬案件だわあれ。魔法かけてなかったら気絶してたな』

 

 自分の生粋のゴキブリ嫌いに、今ばかりは無情であることを誇った。

 

「……むぅ、外した」

「それは、俺のことか? それともあの愛しいゴキブリ君のことか?」

「……もちろん……ハジブリ」

「おい、なんだそりゃ。なんか色々混じってるぞ。まるで新種のゴキブリみたいじゃねぇか」

 

 上ではメンチ切りをしながら、ハジメとユエが何やら睨み合っている。

 

「あわよくば殺るつもりだったな、コイツ」

「……まさか。お前をあの程度で殺れるわけが無い」

「まぁ、確かに……お前なら、もっと苛烈な攻撃も出来るしな」

 

 かと思えば、本当に魔法が効いているのか疑わしい、信頼のこもった会話をする二人。

 

 オルクスから旅を始め、長々と二人の関係を見てきたシュウジはやれやれとかぶりを振った。

 

『ま、この調子なら案外すぐに終わりそ──』

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうなことをしているじゃないか、エボルトぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そう簡単にいかないのがここ最近の展開。

 

 ねっとりとした、聞いているだけで怖気が走るような男の声。

 

 その声にピタリと動きを止めたシュウジ……否、エボルは上を見上げ。

 

 

 

『《──ハッ! よりによって次の《獣》がテメェかよ、キルバス!》』

「久しぶりだなァ、我が弟よ!」

 

 

 

 枝の通路に立つ、目の痛くなるような赤い衣装の男に、仮面の瞳を赤く輝かせた。

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回はキルバス戦。

感想カモン!
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