星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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あと二ヶ月で今年も終わりか…

ハジメ「俺だ。前回はキルバスとエボルの戦いだったな」

シュウジ「面倒くさいからもう戦いたくない」

エボルト「そりゃ俺のセリフだ。ま、しばらくは出てこないがな。で、今回はその後の話だ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる大樹編!」」」


最後のピース

 三人称 SIDE

 

 

 

 最初の爆炎を飲み込む、巨大な炎。

 

 

 

 大空間を揺るがすそれは、あまりの広範囲に上方にいたゴキブリ軍達すら飲み込んだ。

 

 まさしく大火。

 

 目を奪われてしまうようなそれは、しばらく広がってから少しずつ黒煙に変わる。

 

 

 やがて、その黒煙さえも薄くなっていき、キルバスが入ってきたよりも数倍大きな天井の大穴が顕となった。

 

 後には大爆発の残響と、エボルとキルバスの戦闘で傷ついた焼け焦げ、よりひび割れた大樹だけ。

 

 その中心では、()()()()()()()()()()()()()()()が悠然と宙に浮いていた。

 

「あっちは終わったみたいだな……ユエ、調子はどうだ?」

「ん。もう完全にバッチリ」

 

 それを見届け、完全に魔法が解けていたハジメとユエが不敵に笑った。

 

「そろそろお前をボコるのも飽きた。とどめを刺してやる」

「「「じょうじょじょおおお!!!」」」

 

 言葉を理解するだけの知能はあるのか、見下された巨人は怒りの声をあげた。

 

 腐食の黒煙は効かず、魔法は解け、ゴキブリ軍は容赦無く殺され。

 

 あまつさえ、わざわざ繰り返し回復されながら、何度もいびられたのだ。魔物でも怒りくらいする。

 

 

 だが、その裏には圧倒的な力を持つ二人への恐怖があった。

 

 

 震える六本の腕を、何やら胸の前で両手を構えているユエへと伸ばす。

 

「おいおい、何やってんだ?」

 

 しかし、その腕全てを神速で泳ぎ回ったシュヴァルツァー達のヒレが切り裂いた。

 

 一拍遅れて、付与した〝斬羅(きら)〟が発動して細切れとなる極大の腕達。

 

 

 唸り声をあげた巨人ゴキブリは、すぐさまゴキブリ達を呼び寄せてその腕を復元しようとする。

 

 が、空中に浮いたその巨体を突如として、前面が三角の四面体──四点結界が閉じ込めた。

 

 驚いて巨人ゴキブリが結界の四隅を見ると、口を開けたシュヴァルツァー同士が光線で繋がっている。

 

 

 空間魔法を用いたゲートを応用した、あらゆるものを遮断する結界。

 

 そこには巨人一匹だけであり、結界を破ろうとゴキブリ達がいくら突撃してもビクともしない。

 

「そこで大人しくしてろ、ゴキブリ野郎」

「──」

 

 嘲笑うように告げるハジメの横で、ユエは掌の間に蒼く煌く、渦巻く小さな焔の塊を作る。

 

 

 それは一見して、炎系最上級攻撃魔法〝蒼天〟の縮小版のようだった。

 

 殲滅力に優れるこの魔法を、わざわざ小型化する意味はない。ユエほどのエキスパートなら尚更だ。

 

 それを証明するかのように、刻一刻と焔は煌きを増していき、対して炎の揺らめきは抑えられていく。

 

 さながら、星の創生の如き光景。

 

「……選定」

 

 ついに、その煌きが頂点に達した時。

 

 ユエが小さく呟くと、拳大の蒼いオーラを漂わせる宝珠は完成した。

 

 とてつもない力と、予測不可能な力が凝縮された、蒼炎の宝玉。そう形容する他にない。

 

 

 

「「「じょおおおおぉお!!!」」」

 

 

 

 巨人ゴキブリは、それが自分を──否、自分もろともこの場にいる同胞全てを殺すものであると理解した。

 

 だからこそ四点結界の中で絶叫し、それが解放される前に二人を殺そうとゴキブリ達をけしかける。

 

 通常ならば圧殺は免れない物量──だが、彼女のすることを妨げるのは、魔神が許しはしない。

 

「さあ、これが最後の光景だ。目に焼き付けろ」

 

 黒鮫達が、計算され尽くした動きで互いにスレスレで交差し、ゴキブリ達を轢き潰して泳ぐ。

 

 全てのシュヴァルツァーが泳ぎ終え、その瞬間ハジメが指を鳴らすと空間が滅多斬りにされた。

 

「ユエ」

「んっ」

 

 ボトボトと落ちていくゴキブリの残骸を前にして、ハジメはそっとユエを抱き寄せた。

 

 彼女自身も自ら体を寄せ、ぴったりとくっついた二人は互いに甘えるように寄り添い合う。

 

 

 その状態で、ユエはすっと天に向かって蒼炎の宝珠を掲げた。

 

 

 蒼星、そう形容しても似合いそうな光は、ユエを美しく照らし出す。

 

 

 そして、ギュッとハジメが差し出した手を握って。

 

 

 

 

 

「──神罰之焔(シンバツノホノオ)

 

 

 

 

 

 天上の美姫が、神がもたらす天罰に等しき蒼炎を解放した。

 

 

 

 ドクンッ!! 

 

 

 

 脈動と共に膨れ上がった蒼炎は、まるで先ほどの焼き直しのように空間を震わせながら膨れ上がる。

 

 

 音はない。

 

 

 ただ、凪いだ水面に落ちたたった一滴の雫が、波紋を呼び起こすように。

 

 

 されど、慈悲はなく。

 

 

 広がった光は、残っていた数万匹の残党を、結界を解除して無防備になった巨人を飲み込む。

 

 無論、発動直後にすぐさま逃げようとした彼らであったが、一瞬で抵抗すら許されず燃え尽きた。

 

 

 瞬く間も与えられず巨人が消え失せたことで、虫型や中型の怪物達が統率を失い慌て出す。

 

 しかし、数秒もしないうちに波及してきた蒼い光にシア達諸共飲み込まれて消滅した。

 

 

 一瞬で灰になっていくゴキブリ達を前にして、当然身構える光輝や龍太郎達。

 

 だが、その心配は杞憂だった。

 

 蒼炎はゴキブリ達だけを的確に灰燼に帰したのだ。彼らも、大樹の枝や幹も全て傷ひとつない。

 

 実に不思議な魔法に、光輝達勇者(笑)パーティーだけでなくシア達も驚いたように見上げる。

 

『〝神罰之焔〟。蒼天を10発分凝縮し、魂魄(こんぱく)魔法によって選定した魂の持ち主だけを殺す魔法。実に美しい』

 

 そんな彼女達も、甘ったるい雰囲気で見つめ合っているハジメとユエも上から見下ろすエボル。

 

《見とれてる暇があったら、さっさと下に降りろ。限界だろ》

『存在の一時的抹消と必殺技一回。今回は短く済んだな』

 

 仮面の中で吐血しているくせに、なんでもないことかのように言うシュウジ。

 

 

 とはいえ、エボルトの言葉通りであるので、静かに足場に降りていき、着地と同時に変身を解除する。

 

 それとコンマ数秒の差で物理的な肉体のダメージを魔法で癒し、エボルアサシンの後遺症を隠蔽した。

 

「みんな、お疲れさん」

「あ、シュウジさん。そっちこそお疲れ様です」

 

 最初に振り返ったシアは、なんだか微妙な顔をしている。

 

「どしたのその顔」

「いえ別に。上で思いっきりイチャイチャしてる人達に呆れてるとか全っっっ然ありませんので」

「拗ねてるのね」

「拗ねてませんっ」

 

 プイッとそっぽを向くシアに苦笑しながら、ハジメ達を見上げる。

 

 すると、なるほど確かに。

 

 ハジメとお姫様抱っこされたユエが、至近距離で見つめあっている。

 

 

 ちらりと目の前を見ると、恐ろしいオーラを発した美空が香織になだめられていた。

 

 流石にエボルアサシンを使った後なので、あまりからかう元気がないシュウジは電話をかける。

 

「もしもしハジメ? 美空とかシアさんとかが不機嫌だからそろそろ戻ってきてちょ」

『ん、それなら仕方がないな。すぐ戻る』

 

 二人の名前を聞いたからか、おとなしくユエを横抱きにしたまま降下し始めるハジメ。

 

 それを見届けながら携帯を下ろすと、ぽすっとシュウジの背中に軽い衝撃が走った。

 

「おお、雫。魔法は解けたか?」

「……ごめんなさい。あんなおかしなことを言って、困らせて」

「いやいや、むしろ裏返せばそれだけ愛されてるんだ。嬉しいよ」

「それは、なんとも皮肉が効いたセリフね」

「だろ?」

 

 雫を驚かせないよう、そっと離れて振り返ったシュウジは、彼女の頭に手を乗せて優しく撫でる。

 

 それに雫はふわりと笑い、一瞬でこちらにも出来上がった桃色空間にジト目を送るシア達。

 

 光輝はさっきのこともあり、気まずそうに目を逸らし、龍太郎と鈴は絶賛落ち込み中だ。

 

「あっちもこっちも、って感じですぅ」

「みんな、仲良し」

「ふむ、これはこれで気持ち良いのじゃ」

「……あとでハジメに抱きしめてもらお」

「わ、私じゃダメかな?」

「駄目とは言ってないでしょ」

 

 呆れるシアや、百合百合している美空と香織。すっかりいつも通りである。

 

 

 そんな中心に降りてきた二人は、最後にさりげなくキスをして体を離す。

 

 その図太さに一同が呆れる中で、全く気にした様子がなくハジメはシア達を見た。

 

「今回も無事に乗り越えたみたいだな。まあ、ハナから信じてたが」

「私とシアは、最強のウサミミコンビ」

「はい、ウサギさんと戦ってるうちに、楽しさとか頼もしさが蘇ってきて……まあ半分は上でイチャイチャしてたお二人への嫉妬ですが」

「拗ねるなよ」

「だから拗ねてないですって」

「私は拗ねてるよ」

「痛い、痛いです美空さん爪先で足の指の付け根踏まないで」

 

 一瞬で女性陣が群がり、更にワイワイガヤガヤと騒がしげになる。

 

 そんな彼女達を適度に相手しながら、ハジメは腕を雫に抱かれたシュウジを見た。

 

「お前も……今回はアホな無茶せず勝ったな」

「おう。まー思ったより強くなかったな」

 

 

 

 それはいい笑顔で大嘘をかました。

 

 

 

「でも、あれで倒せたわけじゃない。そのうちまた湧いて出てくるぞ、あの赤蜘蛛」

「その時は一緒にぶっ飛ばしてやるよ。てか殺す」

「よろしく頼むわ」

 

 ガシッ、と前腕を交差させる二人。内容こそ物騒であるものの、友情を感じさせるやりとりだった。

 

 それから二人は、この中でクリアできたかどうか不安なメンバーへと目を向ける。

 

 

「俺は鈴になんつーことを……」

「うぅっ……ごめんなさい龍っちぃ……」

 

 まず龍太郎と鈴。

 

 最近漫画のような両片思いを繰り広げている二人は、一時とは言え互いを罵倒したことを深く恥じていた。

 

 背中を向け合い、いじけ合っているものの……結構その距離は近い。拳二つ分くらい。

 

 

 とはいえ、二人とも魔法を克服できたようなので放っておくことにした。

 

 他人の恋路にちょっかいをかける輩は馬に蹴られてなんとやら、である。

 

 そして最後に……

 

「よし勇者(笑)、そこに直立しろ。マネキンみたいに綺麗スッパリ首落としてやる」

「やめろ。なんだかんだ疲れてんだろお前」

「離せハジメ! 俺はあいつを今直ぐ消さなきゃならん!」

 

 全力で隠したものの、また何年か寿命の削れたシュウジはあっさりとハジメに取り押さえられる。

 

「は、はは……」

 

 引き攣った笑いを浮かべた光輝も、あまり思い出したくないのか複雑な目でいた。

 

 

 そんなやりとりをしていると、突然天井付近の大樹の一部が輝き始める。

 

 全員がそちらを見上げると、メキメキッと音を響かせながら大きな枝が新たに生えていた。

 

 

 みるみるうちに新たな通路となったそれは、こちらに向けて長さを増していき。

 

 足場と、これまで通ってきた四本の通路の合流地点と融合して、そこで動作を終えた。

 

 まるで、天へと伸びる階段のように落ち着いたそれに……

 

「これ、クリアってことでいいのか?」

「また登り切った時に出てくるんじゃないの?」

「その場合、俺は躊躇なくリバースする。我慢する気力はない」

 

 全力で疑うシュウジ達であった。

 

 

 

 

 シュウジの知識にもこれ以上の試練はなかったので、休憩もそこそこに先へ進んだ。

 

 ただ、道中シュウジに雫が。ハジメにはユエがべったりと張り付いていた。

 

 片やまた大乱闘を繰り広げたことを心配して、片や魔法行使による疲労を建前にイチャイチャ。

 

 

 ハジメにはウサギやらシアやら美空やらがまとわりつく中で、光輝達がなんとも言えない顔で歩く。

 

 

 そんな緊張感をゴミ箱にダンクした雰囲気の中、最後まで新たな通路を登りきる。

 

 その先にあった、もはやお馴染みの洞に設置された魔法陣に乗って転移。

 

 

 そして光が収まった時──一行の前には、庭園が広がっていた。

 

「これは……綺麗だな」

「ちょっとお茶会していきたい雰囲気だな」

 

 大きさは学校の体育館程度だろうか。

 

 空が非常に高く感じるそこは、芝生のような地面にあちこちに屹立した樹々、幾つもの水路……

 

 そして、その中心に立つ白亜の建物があった。

 

「ご主人様よ。ここはどうやら、大樹の天辺付近のようじゃぞ?」

 

 二人がもう一回休憩するか、と相談していると、庭園の縁に行っていたティオが声を上げる。

 

 その発言に眉をひそめ、他のメンバーも彼女のところに行って下を見下ろしてみた。

 

「本当だ……すごく高いわね」

「ふわぁ、見て見て龍っち、霧の海だよ!」

「こら、あぶねえから乗り出すな」

 

 雫達が感想を言い合う中、ハジメ達は訝しげな表情を崩さないまま考えを巡らせる。

 

「おかしいだろ。俺達がフェアベルゲンに来た時は、フェルニルから大樹はなかった。下からの高さは、どう見積もっても二百メートルは……」

「そ、あるのに見えない。上を通過しても認識すらしない。おかしいなぁ」

 

 まるでヒントを与えるような言葉。

 

 ハジメはハッとして、それから納得したように頷く。

 

「なるほど、そういう類の魔法か」

「ん、闇系統にそういう魔法がある。空間をずらしてる、というのも考えられるし……」

「あるいは、魂魄魔法で根源的に意識がズレるようになってるのかもな」

「お二人さん、考察もいいがそろそろクリアしようぜ?」

 

 推論を立て始めた二人をシュウジが呼び、一旦探求を中断した二人は意識を現実に引き戻した。

 

「なんにせよ、これほどの隠蔽の仕方だ。やっぱりここがゴールか」

「ここが、大迷宮の……」

 

 ハジメの言葉に光輝がハッとして、その顔に連鎖的に雫、龍太郎、鈴の三人も同じ顔になる。

 

 数々の最低最悪な嫌らしい試練を、彼らは色々ありながらも、結局最後まで突破しきった。

 

 

 その実感が今ここに来て、ようやく湧いてきた。

 

 初めての大迷宮攻略に、あるいは愛する相手と一歩並び立てたことに、四人は表情に嬉しさを滲ませる。

 

 そんな彼らを、流石にここまできて邪険にすることもできず、シュウジ達は素直に賞賛の拍手を送った。

 

「さて。お前のいう通り、さっさと神代魔法を手に入れるとするか」

「だな」

 

 ハジメとシュウジを先頭に、水路で囲まれた円状の小さな島に向かう。

 

 ここにきた時から見えていた白亜の建物、吹き抜けになった入り口から石版が見えている。

 

 

 それを目指し、シュウジ達小島に足を踏み入れた瞬間──水路に若草色の魔力が流れ込む。

 

 光輝達が驚く中で、瞬く間に広がった魔力によって水路が輝き始める。これ自体が魔法陣なのだ。

 

 蛍のような燐光が漂う中で、いつも通りに記憶の精査と知識の刷り込み、魔法の習得が始まる。

 

「うっ!?」

「ぐぉっ!?」

「うぁ……!」

「っ……!」

 

 シュウジ達は慣れたものであるが、初めての経験である四人が声を漏らす。

 

 それはまた、確実に攻略が証明されたことをも意味していた。

 

 

 やがて、魔力が収まって魔法の習得が終了する。

 

 流れ込んできた知識を確認し、ハジメが新たな神代魔法の名前を口にしようとした時、石版が変異する。

 

 絡みついていた樹がうねり、燐光に照らされながら変形して……椅子に座った女性の姿を象った。

 

 完全に人型が出来上がると、女性はゆっくりと開眼して口を開く。

 

「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく数々の大迷宮、そして私。このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大の敬意を評し、ひどく辛い試練を課したことを深くお詫びします」

 

 どうやら、この樹を媒介に記録された映像のようだ。オスカーで見慣れたものである。

 

 どこか人の上に立つ者特有の気品と威厳を兼ね備えた彼女は、よく見ると美人に見える。

 

「ねえどうする? まずは落書きしちゃう?」

「そうだな。ちょうど女みたいだし、めいいっぱいコーディネートしてやろう」

 

 この二人に情緒などというものは存在しなかった。

 

「はい油性マッキー」

「サンキュー。じゃあこのゴキブリ型……はお前が吐きそうだから虫型の飾りやる」

「オッケー、鼻とか眉毛とかにつけよう」

『うわぁ……』

「しかし、これもまた必要なこと。他の大迷宮を乗り越えてきたあなた方ならば──」

 

 真剣な表情で説明しながら、魔改造を施されていくリューティリスがなんとも哀れだった。

 

 

 とりあえず、これまでの大迷宮で耳からタコが這い出てきそうな程聞いた説明は無視した。

 

 その間、これまでの試練の腹いせに男子二人が存分にいたずらをし、全て写真に収めておく。

 

 詳しく明記はしないが、数千年前の本人は泣いていいと思う所業とだけ言っておく。

 

「──私の魔法、〝昇華魔法〟をどうして得ようとしたのかは分からない。どう使おうともあなた方の自由……けれど、決して力には溺れないで」

「ここら辺で満足しといてやるか」

「そうだな。あ、これ全部ミレちゃんに送っとこ」

 

 ガン無視である。雫達がリューティリスの記録に哀れな目を送った。

 

「昇華魔法は、文字通り全ての〝力〟を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。

 生成、重力、魂魄、変成、空間、再生……これらは理の根幹に作用する強大な力。

 その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。

 神の御業とも言うべき魔法──〝概念魔法〟に」

 

 だが、次の説明には自然と意識を傾けざるを得なかった。

 

「ミレちゃんが言ってたのはこれの事だねぇ」

「望みを叶えたいのなら、全ての神代魔法を集めろ、か……」

 

 シュウジの手の中のスマホに、『ちょwww 腹筋痛いwww』というメッセージが表示された。

 

「概念魔法──そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。

 ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得することは出来ないわ。

 なぜなら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから」

 

 それは、何故この迷宮に至るまで概念魔法の存在が知識として与えられなかったのかの答えだった。 

 

 なんとも抽象的、具体的でない回答に顔をしかめるハジメの横で、シュウジは目を鋭くしている。

 

「わたくし達、解放者のメンバーでも数十年の時を費やし、七人がかりでたった三つの概念魔法しか生み出すことが出来なかったわ。もっとも、私達にはそれで十分ではあったのだけれど……その内の一つを、あなた達に」

 

 その言葉の直後、石版の中央がスライドして奥から懐中時計のようなものが現れた。

 

 ハジメがそれを手に取り見てみると、それはコンパスのようなアーティファクトだ。

 

 表には半透明の蓋の中に同じ長さの針が一本中央に固定されており、裏側には紋章が彫刻されている。

 

 リューティリスのものだろう。攻略の証も兼ねたそれを繁々と眺めるハジメ。

 

 そんなハジメに、リューティリスがまた口を開いて。

 

 

 

「名を〝導越の羅針盤〟──込められた概念は〝望んだ場所を指し示す〟よ」

 

 

 

 その言葉に、ハジメ達が目を剥いて。

 

 

 

(最後のピース、見つけたぞ)

 

 

 

 シュウジが邪悪に嗤った。

 




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