星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ハジメ「俺だ。前回はようやく大迷宮の攻略が終わったな」

シュウジ「ようやく見つけたな、手がかりを」

ハジメ「ああ、やっとだ。で、今回はエピローグの一部ってとこだな。それじゃあせーの、」


二人「「さてさてどうなる大樹編!」」


朝靄の中で

 三人称 SIDE

 

 

 

 早朝、フェアベルゲンの外れ。

 

 

 

 常に濃霧に包まれたこの国の中において、朝靄に包まれた時刻。

 

 一つの影が、森の中の天然の広場を舞っていた。

 

「ふっ……はっ……」

 

 小さく出る声。合わせて鋭い呼吸が口から漏れる。

 

 合わせて躍動する体はしなやかで、かつふるわれる黒塗りの打刀は一切の無駄がない軌道を描く。

 

 

 そればかりではない。

 

 時折長い足から繰り出される蹴撃は鮮やかで、並の戦士とは思えない。

 

 

 一つ一つが、芸術品の如き完成度。

 

 

 されど彼女は満足を瞳に浮かべることはなく、ひたすらにポニーテールを振り乱して動き続ける。

 

 神楽舞とさえ見紛うその演舞は、一刻が経過し、されど何刻過ぎようとも終わらない。

 

 

 それを為しているのは、果たして()()()()()()()()()()()()()()()が原因か。

 

 彼女が動くのに合わせ、残像のように揺らめくそれはとある魔法の効果によるものだ。

 

 

 そんな彼女へ称賛するように、縁を描いて木の葉が舞い落ち……そして黒閃に切り裂かれた。

 

 はらりと両断された木の葉は、数時間も同じことを繰り返す彼女によって作られた同胞の仲間となる。

 

 それが覆い隠したすり足による無数の円は、まるで一つの魔法陣のようだった。

 

 

「セァッ────!」

 

 

 くるりと舞い踊り、最後の一閃。

 

 八重樫流亜流奥義〝音断(オトタチ)〟と名付けたそれは、空気ごと木の葉を円形に断ち切る。

 

 

 シン、と空気が静まる。

 

 

 鞘に仕込まれたトリガーから彼女が手を離せば、小さな音がして排熱機構が働いた。

 

 鞘口から煙が噴き出す中で、姿勢を正した彼女は刀を一振りして納刀する。

 

 同時に、紫色のオーラが収束していき……

 

「……ふっ」

 

 キン、と刀が納められるのと同時に霧散した。

 

「ふぅ……随分と疲れるわね、これ」

 

 明鏡止水、幼い頃から修練し続けてきた無我の境地から返った彼女は苦笑を零す。

 

 また、そうすることによって肉体の疲労が一気に押し寄せ、彼女は近くの切り株に腰掛けた。

 

 

 かつての愛刀のように恋人が改造してくれた刀を太ももに乗せ、一息つく。

 

 置いていた手拭いで滝のように流れる汗を拭い、それからおもむろに懐よりステータスプレートを取り出した。 

 

 

 

====================================

 八重樫雫 17歳 女 レベル:78

 ハザードレベル:4.2

 天職:剣士・抑止力の寵愛を受けし者

 筋力:4600

 体力:6200

 耐性:4700

 敏捷:6500

 魔力:2400

 魔耐:3500

 技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃][+暗撃]・言語理解・昇華魔法・因果

====================================

 

 

 

「……まだまだ、ね」

 

 ハザードレベルの恩恵を受け、爆発的に強化された身体能力。

 

 この世界において規格外とも言えるそれに、けれど雫は全く満足げな顔ではない。

 

「昇華魔法を使っても、せいぜこの倍程度……私の魔力が少ないのを差し引いても、全然足りない」

 

 大樹の大迷宮を攻略してから幾ばくも経たず、彼女は修練に励んでいる。

 

 

 神代魔法。

 

 

 この世界の支配者とも言える神エヒトに対抗した人間たちが後の世に託した希望、遺産。

 

 その一つを見事に勝ち取った彼女は、自らの得意分野たる白兵戦の力をより伸ばそうとしていた。

 

 

 早朝、というか深夜に等しい時間から昇華魔法を用いて肉体を強化しては演舞し、休んで、また……の繰り返し。

 

 その剣筋は、17の娘にしてはあまりに完成されすぎたと言っても過言ではない。

 

 だが、足りない。

 

「もっとやれるはず……もっと強く、もっと鋭く、もっと疾く──」

 

 

 

 例えるならば、この身を一振りの剣にさえも。

 

 

 

 愛する男から与えられた己が愛刀のように、万敵を切り裂くことのできる刃に。

 

 

 

 全ての理不尽、全ての悲運、全ての宿業──遍く、一刀両断する力を。

 

 

 

 そうでなくては、自分の手は彼には──

 

 

 

「随分と熱心だな、八重樫」

「っ」

 

 後ろから声をかけられ、トレードマークのポニーテールを宙に泳がせて振り返る。

 

 すると円筒形のものが飛んできて、優れた反射神経で危なげなく受け取った。

 

 

 見ると、それは金属製の水筒らしきもの。

 

 あまりに綺麗な形の水筒に、彼女は疑うことなく蓋を回して開けると中を煽る。

 

「んっ、んっ……ぷは。いつから見てたの?」

「ちょうど二、三分くらい前にな。綺麗だったぞ、お前の剣筋」

「あらありがとう。けど、その言葉は香織にあげてくれる?」

「んー、まあそうだな。あいつも最近頑張ってるし」

 

 ぶっきらぼうに答えながら、黒衣の少年がやや雫と距離を開けて切り株に座る。

 

 それが汗だくの自分を気遣ったものだと悟って、雫はなんだかんだと優しいことに微笑んだ。

 

 夜明け前からの鍛錬で失った水分を十分に補給して、ハジメに水筒を返した雫は刀を撫でる。

 

「私の昇華魔法の使い方、どうだったかしら」

「魔力が少ない割には効率良く使えてた。いや、だからこそか。極限の集中力の賜物……無我の境地って言うのか?」

「そうね。使い方は重い刀を振るのと同じよ」

 

 重さを御するのではなく、流れる水のように自在に扱う。

 

 刀ではなく、腕の延長。

 

 真にそう思えた時、それすなわち明鏡止水の極意。

 

「伊達に子供の頃からやってないわ」

「ああ、シュウジから耳にタコが生まれるほど聞いた。おかげで週末の泊まり明けは朝から糖尿病コースまっしぐらだ」

「ちょっと恥ずかしいわ」

「そこは普通に恥ずかしがるんじゃないのか?」

「うーん、だって同じこと香織にしちゃってたし……」

「このバカップルが……」

 

 しれっと悪びれてなさそうな顔で言うあたり、雫も芯からシュウジに毒されている。

 

 ハジメが親友の惚気を聞いてパンが砂糖の塊に感じていた時、香織もまた同じ状況だったのである。

 

 呆れるハジメに「あなたに言われたくないわ」と返し、雫は話の向きを変える。

 

「南雲くんは? 貴方も鍛錬?」

「ま、そんなことだ」

「貴方ならとっくにマスターしてそうね」

「いや、そうでもない。流石に半日じゃあな……それこそ概念魔法なんて、夢のまた夢だ」

 

 少し、ハジメの表情に影が差す。

 

 普段ならば珍しい沈鬱そうな表情に、雫は大迷宮でのことを思い出す。

 

 

 

 彼らは大樹の大迷宮にて、地球に帰る足掛かりを手にした。

 

 名を〝導越の羅針盤〟。望んだものを指し示す概念魔法が込められた、地球帰還への道標。

 

 

 

 それはたとえ時空を超えても──別の世界さえも指し示す。

 

 

 

 おそらくは、解放者達がエヒトのいる世界に行くための物なのだろうが……ハジメ達には違う。

 

 ようやく手に入った故郷への鍵。あの瞬間地球出身の誰もが歓喜し、喜びを露わにした。

 

 

 だが事はそう簡単にはいかない。

 

 たとえ昇華魔法で空間魔法を強化しようとも、それだけでは別世界へは行けないのだ。

 

 解放者達だって、それができれば苦労はしなかったはずだ。だからこその概念魔法なのだろう。

 

 

 故に、ハジメ達は決めた。

 

 解放者達が作りあげた残り二つの概念魔法のうち一つ……恐らくは、神エヒトの元へ行くための概念。

 

 それを手に入れ、応用して、地球へと帰る。

 

 

 そのためのアーティファクトの作成は任せろと、目の前の男は不適に笑いながら宣言した。

 

 ついでにまだ王都にいるクラスメイトも帰してくれるというので、光輝達は一安心していたが。

 

 無論のこと雫も香織と手を取り合って喜び、引き続き旅に同行することにした。

 

 ただ少し気になったのは、シュウジは一度羅針盤を手にし、少しの後に興味を失ったことだが……

 

 ちなみに、大樹の大迷宮のホムンクルスはずっと旅を共にしたカエルであった。

 

「南雲くんならきっとできるわ。神エヒトだって、きっとあの人と一緒に倒せる」

「ああ、どう考えても邪魔してくるだろうからな。その時は完全に殺す」

「その時は私も、微力ながら戦うわ」

「シュウジを心配させない範囲で頼むわ」

 

 いつもの表情に戻ったハジメに、雫も同じく怖いものなしという笑みを浮かべた。

 

 それからふと、ハジメは雫が大事そうに柄に手を添えた楔丸を見やる。

 

「そういえばこれ、あんまり改造されてないな。あいつがショットシェルの機構を付け足したくらいか?」

「ええ。俺もできるけど、そう言う作業ならハジメの方が得意だって。そのうち頼もうと思ってたんだけど……」

「それならここでやってやるよ」

「助かるわ」

 

 はい、と雫が差し出した刀をハジメが受け取り、早速魔改造を始める。割と阿吽の呼吸だった。

 

 

 実のところ、この二人は地球にいた時から結構仲が良い。

 

 シュウジと美空以外友達のいなかったハジメだが、なにかと気苦労の多い彼を雫は気にかけた。

 

 そうして四人で行動するうち、二人で時折会話をすることもあって、幼馴染み以外で唯一友情を保っている。

 

「ん、全体的な構成密度と硬度は昇華魔法で上げてあるのか。しかもとんでもないレベルだな……」

「南雲くんから見てもそうなの?」

「ったく、何が俺の方が得意だか。あの出木杉くんめ」

「ぷっ、出木杉くんって」

「まあ、これなら問題なく改造できそうだ」

 

 文句を言いながらも、早速解体していじり始めるハジメ。

 

 柄から刀身を引き抜き、ジッと真剣な目でハバキに刻まれた魔法陣を見つめる様は職人のようだ。

 

 雫も自分の武器のことであるので、隣から少し体を傾けて作業の様子を見た。

 

「……そういえば、シューのことだけど」

「んー?」

()()()()()()()()使()()()()()()()()

 

 ゴツンッ! と鈍い音を立て、ハジメが刀身を支えていた義手に額をぶつけた。

 

「っ……!」

「大丈夫?」

「い、今のはどういうことだ? あいつがまた……って、いつのことだ」

 

 一度作業を中断し、詰問するような目で問いかけるハジメ。

 

 雫は予想通りに動揺しているハジメに、やけに落ち着いた様子で続けた。

 

「昨日、また一緒に森人族の人達の温泉に入らせてもらったんだけどね」

「ああ」

「ほら、あの人の体にアザがあるじゃない。亀裂みたいなの。それが全体的にまた少し伸びてたのよ。全部で2センチくらい」

「なるほ……ん?」

「それに背中を流した時に右腕に繋がった筋肉の動かし方がおかしかったし、握った時に右手の力が0.数キロくらい弱ってたし、夜ご飯の時に若干箸が震えてたし……」

「オーケーもうわかった、そこまででいい」

「え、いいの? あといくつかあるけど……」

「ああ、十分だ」

 

 主にお腹いっぱいという意味で。

 

 深い、それはもう深いため息を吐いたハジメは、楔丸の強化を再開する。

 

「でも、どうやったのかしら。腕輪で使ったかどうかもわかるんでしょ?」

「〝抹消〟が活性化したら、魂魄魔法でわかるようにしてたんだが……まあ、多分〝抹消〟で消してたんだろうな」

「ああ、なるほど……まあ、今朝にはいつも通りだったし。そんなに長く使ったわけじゃなさそうね」

「使ったことそれ自体が問題だけどな……よし、終わった」

 

 会話を交わすうちに一通りの改造を終えたハジメは、テキパキと楔丸を元に戻していく。

 

 最後にチン、と鞘に収めて差し出された刀を雫は受け取った。

 

「ありがとう。それで、何をどういう風にしたの?」

「ああ、とりあえず重力、空間、再生、魂魄の神代魔法を付与した」

「それだけでもうすごいわね……よくできたわね?」

「元から純度100%のアザンチウム製で質の良い鉱石だったが、昇華魔法のおかげで錬成魔法陣と生成魔法がレベルアップしてできるようになった。で、詳細だが……」

 

 重さを変えたり、刀身が引力や斥力を発したり、はたまた重力や空間、魂魄そのものを斬れたり。

 

 他にも刀身が欠けても再生したり、使用者自身も回復したり、etcetc……

 

「こんなとこだ」

「聞いてるだけでとんでもない代物ね。世が世なら妖刀どころか天災よ」

「ま、お前ならその程度扱い切れるだろ?」

「当然」

 

 下手をしたら戦争が起きそうな一振りに、しかし雫は至極平然とした顔で頷いた。

 

 なにせ彼氏は世界の破壊の概念そのもの、なんて厄介極まりないものを抱え込んでいるのだ。

 

 これくらい当たり前に使いこなせなければ、到底相応しいとは雫自身が認めない。

 

「天之河達も無事習得したし、これでクラスメイトどもの方にエヒトの尖兵が押し寄せても受け止められるにくか……戦力になったな」

「肉壁って言おうとしたのは聞き流すわ……でも、私もこれで安心してシューについていけそう」

「ぶっちゃけ、絶対クリアできないと思ってたんだがなぁ。あいつ、どっかで中身入れ替わったのか?」

「南雲くんまでそんなこと言わないでちょうだい」

 

 とはいえ、ここ最近の光輝の精神的成長は雫も驚いていた。

 

 子供のように力を振りかざし、頭が沸いた理想論を並べ立てていた天之河光輝はもういない。

 

 

 大迷宮攻略中、ともすればオルクスの奥底で変貌した時の自分にすら迫る気迫を瞳に宿していた。

 

 他ならぬハジメ自身がそう思うほどに、天之河光輝という愚者は予想を遥かに上回ったのだ。

 

「唯一心配なことは、あのおかしな力のことだけど……」

「それについて知ってるっぽい奴には、一人心当たりがあるな」

「偶然ね、私もよ」

 

 顔を見合わせ、ニッコリと笑い合う二人。

 

 もしここに誰かがいたとしたら、それを見てきっとこう言ったことだろう。

 

 

 

 ──悪鬼羅刹が二人激怒している、と。

 

 

 

「じゃ、行くか。タコ殴りにして説教しに(話を聞きに)

「ええ、行きましょうか。丸一日動けないくらいドロドロに溶かしに(色々とお話しするために)

 

 その表情のまま立ち上がったハジメと雫は、そのままフェアベルゲンの方に森に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、フェアベルゲンの一角から悲鳴が轟いた。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

この章もあと三話か…

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