星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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雫「こんばんは。前回から本格的に迷宮の攻略が始まったわね」

エボルト「今回の章も、割とあの勇者の魔改造が進むんだよなぁ」

ハジメ「もう物語も終盤だしな、迷走は……最初からしてるか。ま、とにかく楽しんでくれ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる洞窟編!」」」


氷のラビリンス 1

 シュウジ SIDE

 

 俺もパン、と手を合わせてブラックホールを消し、変身を解除してハジメに歩み寄る。

 

「ナイスショットハジメ。今ならFPSゲーやっても無双できるんじゃね?」

「ん、まあまず普通のプレイヤーには負けないだろうな。お前こそあのブラックホールは助かったよ、煩わしい横槍を入れられずに済んだ」

「こういう時の範囲攻撃だからな」

 

 

『人の力をゲームの技みたいに……』

 

 

 お前は人じゃないからノーカン。

 

 

『俺は人間をやめるぞ、シュウジィイ────ッ!』

 

 

 おっと石の仮面は被るなよ。

 

「つ、疲れた……」

「千体以上は相手したものね……」

「二人ともお疲れさん。はい体力の回復する不思議なジュース」

「ありがとシューくん」

「ありがとう」

 

 しょっぱなから結構な物量戦だったので、女性陣も軒並みお疲れのようである。

 

 

 しかし、みんなよく戦っていた。

 

 

 ユエ達は言わずもがな、雫も存分に新・楔丸を使いこなし、白っちゃんの剣技もかなり様になってきた。

 

 谷ちゃんの結界の技術は卓越している、と言えるだろう。坂みんはハザードレベルの上昇が心配なくらいだ。

 

 

 ただ、一人だけ底抜けの阿呆がいる。

 

 

 だが、だからと言ってその阿呆さ加減を指摘してやったりはしない。俺あいつ嫌いだし。

 

 しかし……

 

「おい、ナルシスト」

「……なんだ」

「そいっ!」

「へぶらっ!?」

 

 球速190キロを超えるフルスピードでぶん投げた空き缶が、奴の額にクリーンヒットする。

 

 無様にひっくり返ってケツを晒した阿呆は、額を押さえながら恨めしげに俺のことを見てきた。

 

「突然何するんだ」

「いや、なんか唐突に痛めつけたくなって」

「いつもながら理不尽極まりないな……」

「お前が相手の時に限ってどんな行為も理不尽には適応されませーん」

「まったく……あれ?」

 

 何やら奴が声を上げるが、知ったこっちゃない。

 

 さっさと踵を返そうとしたところで、後ろから奴の声がかかった。

 

「おい北野、これ……」

「あ? なんだ自惚れ屋、いよいよ空き缶すら認識できなくなったか」

「……ああ。そうだな。確かにこれは()()()だ」

「だからそう言ってんだろ」

 

 ハッ、どうやらユウシャクンは中身があるかないかも口に出して確かめなきゃいけないらしい。

 

 

 子供のような野郎にハッと鼻で笑いながら、俺は何故かキョトンとしている雫のところにいった。

 

「どした雫? そんな鳩が大砲喰らったような顔して」

「……それだと鳩は木っ端微塵ね。それにしても貴方、さっきのは」

「ちょうど生ゴミが落っこちてたから同じとこにゴミを投げただけだが?」

「……生ゴミ、ね」

「そうそう生ゴミ」

 

 理由はわからないが、微笑ましいものを見るような顔の雫に頷く。

 

 いやはや全くもって、それ以外の理由など皆目検討もつかないものだ。

 

 ……あそこまで啖呵を切り、この俺と殴り合ってまであいつを救うと宣言した奴の末路が、どんなに悲惨か。

 

 

 

 本当に、ただそれを見たいだけなのだから。

 

 

 

「さて。とりあえずここまではただの腕試しみたいなもんだろうが……」

「オルクスと内容被ってるもんな。ここから先が本番だよワトソンくん」

「俺、医者じゃないけどな」

 

 俺とハジメの視線が捉えるのは、先程大亀が出てきた氷壁。

 

 アーチ状の出口がいつのまにか現れており、それは次の試練への入り口だ。

 

 

 皆が十分に休憩できたところで(勇者は知らない)、新たにできた道の先へ行く。

 

 30分ほどまた氷の通路を歩き続け、そろそろ勇者の防寒アーティファクト外してみようかと思っていた頃。

 

「これは……」

「なんだこれ、迷路か?」

 

 通路の終局にあったのは、冗談のような大きさの大迷路。

 

 

 上が吹き抜けになっており、壁で区切られたスタンダードなタイプの迷路。

 

 しかしその規模はとても地球のアスレチックの比ではなく、確実に縦横10キロはあるだろう。

 

 すぐ目の前に、入り口に直接繋がっている階段が用意されている。

 

「これを踏破しろってのか? また時間がかかりそうだな」

「ダメよ龍太郎、上から通っていこうなんて考えちゃ」

「なあ雫、お前俺のことまだ脳筋とか思ってねぇか?」

「少しだけ」

「ひでぇ! ……どうせそういう不正はできねえんだろ、北野?」

Exactly(その通り)! 氷漬けの標本になってピン留めされたくなきゃ、おとなしく()()()するんだな」

「宝探し?」

 

 ペナルティに顔を青ざめさせる坂みんや谷ちゃんとは対照的に、雫が良いポイントを復唱する。

 

「そ。この試練は広大かつトラップだらけの迷路の中で〝鍵〟を探すこと。それが次の試練への扉を開くのに必要だ」

「また面倒な……」

「ショートカットすると天井の飾りになるよ?」

 

 ほれ、と試しにカマキリを一匹飛ばしてみる。

 

 結構な速さで突き進んだカマキリは、迷路の上に入った瞬間周囲の空間ごと歪んで消えた。

 

 

 目を剥いた勇者や坂みんが天井を見上げると、結構な高さにあるそこに六角柱型の水晶が追加されている。

 

 

 非常に見えづらいが、その中には先ほど必要な犠牲となったカマキリが冷凍保存されていた。

 

「さて実演を見てもらったところで。ああハジメ、壁ぶち抜くのも通るより治る方が早いぞ」

「チッ」

 

 イェーガーを迷路の氷壁に定めていたハジメが舌打ちしてライフルを下ろす。

 

 仕方がなし、という雰囲気になり、ハジメを先頭にして階段を下り、門をくぐって中に入る。

 

 

 中は早速、正面と左右に道が分岐していた。

 

 そこでハジメが立ち止まり、宝物庫から例の羅針盤を取り出すと通路に向ける。

 

「……ふむ、右か。どうやらこいつは問題なく使えそうだ」

「お、ハジメよく気がついたな」

「お前が迷路を攻略することに関しては、これといった制限を言わなかったからな」

「さすがハジメ、俺の言葉の意図がわかると思ったよ」

 

 そう。実はこの迷路、先に羅針盤を手に入れておけばそう難しい試練ではないのだ。

 

 ただ、羅針盤が4つの攻略の証と亜人族の助力、再生魔法のいる大樹の大迷宮にあるから非常に入手が難しい。

 

 逆に言えば、それさえ手に入れてしまえばこの迷路は単なるクソ長い入り組んだ通路でしかない。

 

「ミレディの時、これさえあれば……」

「ま、そう簡単に攻略できたら形無しだからな」

「うう、今思い出しても嫌な記憶ですぅ」

 

 当時も相当だったが、どうやらミレちゃんの迷宮は未だ根に持たれているらしい。

 

 とにかく、確実に限りなく近い案内標識である羅針盤を頼りに、迷路の中を粛々と進んでいく。

 

「これ、普通なら極寒の中でこんなに大きな迷路の中を彷徨うのよね。考えただけで恐ろしいわ……」

「準備が揃ってないとそのうち発狂するだろうな」

「しかも、さっきまでよりもっと壁が綺麗で、本当に鏡みたいだね」

「おお、ほんとだな。そういや鏡って本当の姿を映し出すって……ブフッ!」

「? どしたの龍っち?」

「い、いや、なんでもねえ……」

 

 なんか坂みんが噴き出している。シアさんの真のマッスルフォームでも見ちゃったかね? 

 

「これ、さっきのゾンビみたいに敵が埋まってたりするんじゃない?」

「大丈夫ですよ美空さん、ハジメさんの魔眼石や感知能力もありますし、そこの人がそういうの敏感ですし、私のウサミミがどんな異変も聞き逃しません!」

 

 そこの人扱いされたのはともあれ、ドンと胸を叩くシアさんは非常に柔らかそうだった。

 

「シュー?」

「おっと、何も見てないぞ」

 

 間違えた、非常に頼り甲斐がありそうだ(汗)

 

 震えたダブルメロンに一瞬目線を持って行かれた中、ハジメは遠慮することなくガン見していた。

 

 恋人関係になってからというもの、まったくそういう反応を隠すことがなくなったハジメである。

 

「ハジメ?」

「ごほん、さて次は左か」

「も、もぉハジメさんったら。また私の胸を弄ぶ気なんですね!」

 

 修羅のスタンドを出現させた美空に態とらしく誤魔化すも、シアさんが嬉しそうに体をくねらせる。

 

「許してと懇願する私に意地悪な笑みを浮かべながらものすごいことをやる気なんですね? で、でも今はダメですよ! でも、今やられたら攻略どころでは無くなってしまうので、後でお願いしますぅ!」

「ハジメ?」

「…………」

 

 詰め寄る美空、滝のように汗を流しながら前を見続けるハジメ。

 

 未経験組も戦慄やら羞恥やらの入り混じった視線を向け、美空やユエに見られるハジメはシカトをした。

 

「はぁ。あれはかなり激しいから最初はダメでしょ」

「ん。耐えられるのは私と美空くらい。ウサギでもまだ無理」

「……不覚」

 

 だからあれってなんだ! という白っちゃんや勇者(笑)の声が聞こえたような気がした。

 

 なお、やはり思春期男子として反応してしまっている坂みんを見て、谷ちゃんは自分の体を見下ろしてしょぼんとしている。

 

「谷ちゃん、心配しなくてもいいと思うよ」

「ふひぇっ!? な、何も心配してないよ!? 何いってるの北野っち!」

「いやなんでも。ところで坂みん、ちょっと異性に対する嗜好的質問を……」

「北野っちぃ!!」

 

 うがー! と怒りをあらわにした谷ちゃんが両手を振り上げ、こちらに向かってくる。

 

 

 次の瞬間、谷ちゃんがいた場所……頭部の高さを、壁から音もなく生えてきた氷の腕が通過した。

 

 鋭い爪を持つその腕は、空ぶったことで壁に当たり、ギャリギャリと甲高い音を立てる。

 

 それによって敵の存在に気がついた全員が後ろを振り返り、腕は壁の中へと引っ込んでいった。

 

「な、なに今の!?」

「いやはや、谷ちゃんが煽りに乗ってくれて良かったよ」

「あなた、分かっていて鈴をからかったのね」

「そういうのに敏感な人だからな、俺は」

 

 冗談を飛ばすのもほどほどに、黒ナイフとカーネイジナイフを取り出し構える。

 

 皆も武器を取り出す中で、壁から先ほどの亀のように氷像が生まれてきた。

 

 

 鋭い鉤爪と一本角、筋骨隆々の見た目。一言で表すならば鬼そのもの。

 

「「「「「グォオオオオッ!!」」」」」

 

 左右の壁から合計10体。咆哮を上げ、襲いかかってくる氷鬼達。

 

「半分はお前らの受け持ちだ、天之河」

「わかった!」

「この程度なら変身するまでもねぇ!」

 

 五体を勇者達に任せ、残りの五体を俺達が相手する。

 

 といっても、急襲を警戒して武器を構えているだけで、戦うのはたった二人だけだ。

 

「ほいウサギ、タコ殴りにしてどうぞ」

「ありがと、シュウジ」

「「「「「ガ、がァアア!?」」」」」

 

 俺が鋼糸で縛り、動きを止めた鬼達を、ウサギがその剛拳で一匹ずつ手足を砕いていく。

 

 達磨状態になって、床に転がって喚く鬼の一匹をウサギは持ち上げ、くるりとこちらを向いた。

 

「シア、行くよ」

「バッチコイですウサギさぁん!」

「ぐ、グォオオ!?」

「せぇ、の!」

 

 ウサギ選手、渾身の一投。

 

 それを迎え撃つは、バッターボックスにてドリュッケンを構えるシア選手。

 

「グ、グワァアアアア!?」

「よいしょっとぉ!」

 

 なんだか悲鳴を上げているようにも聞こえた球(氷鬼)は、ドリュッケンのフルスイングで粉々になった。

 

 先ほどの部屋までと違い、半透明の体内に見えていた魔石ごと砕けた為、生き返ることはない。

 

「二投目、いくよ」

「目指せフルホームラン、ですぅ!」

 

 それからは流れ作業で、ウサギが投げた残りの四体も見事に打ち砕かれた。

 

「ふぅ、すっきりしました!」

「シアさん、ナイスピッチ!」

「美空も結構毒されてきたよね……」

 

 さて、こちらは何事もなく終わったわけだが。

 

 一応勇者の方を見てみると、結構善戦しているようだ。

 

 谷ちゃんが結界を爆発させて四肢を砕き、ブリザードナックルで坂みんが胸板ごと魔石を殴り壊す。

 

 雫の舞うような剣閃が氷鬼を細切れとし、勇者も今度は学習して普通に切り捨てていた。

 

 

 さほどの数、強さでもないためにすぐに戦闘は終わり、ハジメ達も各々の武器をしまう。

 

「増援はなし、か……奇襲に気をつけて先に進むぞ」

 

 

 

 ハジメの言葉に頷き、俺達は氷のラビリンスの探索を続行した。




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