シュウジ「はろはろー、みなさんおなじみシュウジさんだ。ようやくハジメグレたことのショックが抜けたから復帰だぜい。んで……」
ハジメ「前回から引き続き、ハジメだ。よろしく」モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
ウサギ「キュゥ……(はふぅ……)」
エボルト「すげえ勢いでウサギの頭撫でてんな……まあ当たり前か。んで、前回はハジメがあの熊野郎を倒したな。変な現象が起こってたが、あれは果たして……」
シュウジ「ていうか今思ったけど、そいつオスなの?メスなの?」
ウサギ「キュキュキュッ!キューキュキュキュ……(メスだよ。ちなみにあの時鼻を舐めたのは、私たち蹴りウサギの間では……)」
シュウジ「えっなになに、なんか意味あるの?」
ハジメ「これ以上はノーコメント、ってカンペにあるぞ。って事でスルーだ。んで、今回は美空たちの話だな。それじゃあせーの……」
二人&一匹「さてさてどうなる迷宮編!(キュキュッ!)」
シュウジ「続き気になるぅ〜!あ、今回長いです」
白崎香織 side
時間は遡る。
私は今、ハイリヒ王国の王宮にある、地球から来た私たち召喚者に与えられた部屋の一室にいた。そしてそこで、看病をしている。
相手は当然、あの時からいまだに目覚めない雫ちゃんと美空。沈鬱な気持ちで、眠る二人の姿を見つめる。
あの時からもう、三日は経過している。その間、私はたまに休憩しながら寝る間も惜しんで二人の看病につききっきりなっていた。
文官の人がお手を煩わせるわけには、といって代わってくれようとしたけど、こればかりは譲れないのでやんわりと断った。
あの後ホルアドで一泊すると、次の日の早朝には高速馬車に乗って私たちは王都に戻った。とても実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったのだ。
それに、皆の前では見せなかったけど明らかに光輝くん以上の実力だった南雲くんとシューくんが死んだ以上、国王様にも教会の人にも報告する必要があったみたい。
でも、私は王宮に帰って来たらすぐにこの部屋にこもるようになったから、謁見した時のことは知らなかった。
「白崎さん、入るわよ」
じっと二人を見つめていると、コンコンとノックした後、ガチャリとドアが開いて人が入ってきた。
振り返ると、入ってきたのはあの時メルドさんと一緒に指揮を取っていたクラスメイトの、御堂さんだった。
突然やってきた御堂さんは手にトレーを持っていて、その上には湯気の立つ食事が乗せられている。
御堂さんはこうやって、一、二回ほど食事を運んでくれていた。御堂さんが持ってきてくれなければ、食事という行為も忘れていただろう。
「白崎さん、あなたあまり食べていないでしょう。食事はとても大切な行為よ。食べれる時にしっかりと食べておきなさい」
「……うん、ありがとう御堂さん」
「別に当然のことしただけよ」と肩をすくめた御堂さんは、近くのテーブルにトレーを置いた。そちらに移動して、昨日ぶりの食事にありつく。
「わっ、美味しい……これ、御堂さんが作ったの?」
「あら、わかるの?」
「うん、なんとなくね。王宮の料理人さんが作るのとは、なんか違う気がして」
「それは良かったわ……存外、私の腕は鈍ってないみたいね」
クスクスと口を手で隠して笑う御堂さん。前髪の隙間から、嬉しそうに細められた柔らかい光を宿す目がのぞいている。
そこからは全く、あの時の冷たい雰囲気は感じられなかった。むしろどこか、何度か見かけた貴族の人みたいな上品さを感じる。
でも、それもやっぱり私の知る元々の御堂さんじゃなかった。こう、もっとほんわかした感じだった気がするんだけど。
それはともかく、しばらくの間食事に手を動かした私は、食べ終えるとホッと息を吐いた。なんだか元の世界のお家のご飯を思い出した。
「それで、二人の容体は?」
すると、タイミングを見計らって御堂さんがそう問いかけてくる。それにまた、少し軽くなった気持ちが淀んでしまった。
二人の容体は、はっきりいって良くはない。今すぐどうこうなるわけじゃないけど、芳しくなかった。
美空はずっと悪夢にうなされてるみたいで、時々南雲くんの名前を叫びながら起きて、また気絶したように眠る。雫ちゃんは逆に、エボルトが何かしたのか不気味なくらい静かに眠っていた。
それを淡々と伝えると、御堂さんは「……そう」とだけ返す。そんな彼女に、ふと外の様子がどうなってるのか気になった。
「あの……あの日のことに、王様とか国の人はなんて?」
「……正直言って、あまり気持ちの良い話ではないわ。それでもいいかしら?」
こくん、と頷くと、御堂さんはそれじゃあと話を始める。それから聞いた話は、御堂さんの言った通りとても嫌なものだった。
二人の死亡を聞いた時、王様や他の貴族の人たちは愕然としたけど、それが南雲くんたちだってわかると、ホッと安堵したそうだ。
さっきも思った通り、私たちハザードレベルの恩恵を持つ人たちはシューくんの方針で必要以上に力を見せることはしなかった。そして、それが仇になった。
〝無能〟と思われていた南雲くんと、謎の実力を持つ〝不明〟のシューくん。勇者という〝無敵の力〟を世間に証明するために、消えても問題がないと思われたのだ。
この時点で、私の心境は最悪だった。シューくんは大事な友達で雫ちゃんの彼氏だったし、南雲くんは……まだちょっとわかりきってないけど、大切な人だったから。
「それでも、国王とかあの老害はまだ分別があった方ね。一番ひどかったのは貴族よ」
「どういうこと?」
聞けば、悪し様に二人を貶めるような発言をした貴族の人がかなりいたらしい。それもコソコソと、貴族同士の陰口みたいな感じで。
やれ死んだのが役立たずで良かっただの、神の使徒のくせに死んだなんて使えないクズだの、それはもう言いたい放題好き放題だったみたい。まさに、死人に鞭打つ行為だ。
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。二人がいなかったら、私たちは全員死んでいた。それを知りもしないで、二人のことをバカにする権利なんてない。
「御堂さん」
「……言いたいことはわかるけど、その心配はないわ。はいこれ」
そう言って、御堂さんはスマホを操作して私に画面を見せてくる。あれ、どうして私たちのシューくん製携帯でもないのにまだ動いてるんだろう。
それはともかく、そこには貴族と思しき、小太りで無駄にキラキラした服を着た男の人を龍太郎くんが殴り飛ばしてる動画があった。
殴られた人は文字通り、ぶっ飛んで壁にめり込み、おかしなオブジェとなっている。その様子が無駄に綺麗に撮れていて。
『テメェら、何も知らないくせにあいつらのことバカにしてんじゃねえぇええええええええええええええっっ!!!!!』
「こんな風に、坂上くんが陰口を言った貴族全員ぶっ飛ばしたわ。一緒に止めようとしたあのクソ勇者(笑)も殴られてたのは清々したわね」
あ、やっぱり御堂さん光輝くんのこと嫌いなんだ。
その後も動画を見ていると、全部で殴り飛ばされたのは七人ほど。そこで龍太郎くんはようやく落ち着いて、王様たちの方を睨む。
オロオロとする王様たちに、復活した光輝くんも怒りの声をあげた。あっ今御堂さんがチッて舌打ちするの聞こえた。
すると慌てて、王様が二人をバカにした貴族を運び出すように言って、厳重に処分することを約束。そこで動画は終わった。
「もしその場限りで寛大な処置でも取られたらかなわないから、こうして証拠を取っておいたわ」
「……御堂さん、抜け目ないね」
「まあ、これくらいわね。実際にこの後、かなりキツイ処罰をくらったそうよ。まったく、人間の醜さにはほとほとあきれ返るわ」
「同じ元貴族として恥ずかしいわ……」と、何事かブツブツと呟きながら溜息を吐く御堂さん。それがやけに様になってて、少し面白かった。
結局これが効いて、二人をへんにいう人はいなくなったらしい。あと光輝くんと龍太郎くんが、あんな二人でも心を痛めるなんて、と評価が上がったとか。
「忌々しい。所詮顔と他者に与えられただけの称号に甘んじてる男のくせに。まあ、坂上くんはまだ評価できるけれど」
「皆は、なんて言ってるの?」
「いっそ面白いくらいにあの時の話をしないわ。きっと自分が犯人だったらとか思ってるんでしょう」
彼女の話によれば皆、結局あれは
自分の魔法を把握してはいたが、もし自分だったらと恐れて、皆一様にあの時の話をしないようにしているらしい。
中には、あれは南雲くんが何かドジったせいで、シューくんはそれを愚かにも追いかけたから自業自得だと思うようにしてる人もいるとか。
まさに人に口なし。無闇に犯人探しをするより、
「メルド騎士団長もなんとか話を聞こうとしたみたいだけれど、その前に止められたようね……で、これで近況報告は終わりだけど。感想は?」
「……皆、ひどいね」
二人は、あんなに頑張ったのに。それなのに自分勝手だ。でもそれは、私も同じなんだろう。勝手に閉じこもって、何も知ろうとしなかった。
「それが人間というものよ。弱くて、自分勝手で現実逃避したがる生き物。それは皆変わらない。誰もが自分の都合の良いように現実を捉える。この世界の人間も、クラスメイトたちも……………そして私も」
「え?」
それまで壁に背を預けていた御堂さんは、スタスタと部屋の中を移動していく。そして雫ちゃんの枕元に立って、体を曲げて顔を近づけた。
そして、何か話しかけるつもりなのか垂れた髪を耳にかける。その時初めて露わになった美しい横顔に、思わず息を飲んだ。
「……八重樫雫、早く起きなさい。あなたは彼の方に選ばれた。だから折れることは、この私が許さない。だから、待っているわ」
それだけいうと、御堂さんは体制を戻してこちらに歩いてくる。そして無意識に身構える私の横を素通りして、扉を開けた。
「待って」
そんな彼女を、私は振り返って呼び止めた。空いた扉のドアノブに手をかけながら、顔だけ振り返る御堂さん。
「……何かしら、白崎さん」
「…あなたは本当に、御堂英子さんなの?」
「……そうね、そうだとも言えるし、そうだとも言えないわ。もし気が向けば、いつか話すかもね。それじゃあ」
最後の最後まで謎めいた雰囲気で、御堂さんは部屋を出ていった。扉が閉まる音が、やけに重々しく聞こえる。完全に閉まると、ふっと息を吐いた。
「……これから、どうすればいいのかな」
今の私には、何もわからない。この世界のこと、クラスメイトたちのこと、美空たちのこと……そして、南雲くんのこと。
いくら考えても答えは出ずに、結局私はまた考えるのから逃げるように、二人を見つめ続けるのだった……
●◯●
御堂英子 side
白崎香織と話してから、少し時間は経過する。
ちなみになにも正体を隠すようなものは着ていない。この世界にきてから極限まで気配を殺してきたから、城下の人々は私のことなど知りもしない。
歩きながら、頭の中ではいくつもの思考を展開する。といっても、同時に考えられる物事は三つだけ。あの人には及ばない。
昔だったらあともう一つくらいは同時に考えられたのだけれど、
「……まったく、うまくいかないものね」
この世界に来てから……いや生まれ変わってからこれまで、何一つ思い通りには進まない。今の私には、ほとんど力がないのだから。
長年付き合ってきた異常性も、彼の方から賜った技術もほとんどなくなってしまった。あと我が至高の美貌も。
その中でも幸いだったのは、この世界のどこかにあるだろう私の〝力〟に反応して、記憶の一部を回収できたことだろうか。
けど、それも微々たるものだ。思い出したのは自分の名前と指揮ならびに戦闘技術の一部、近しい二人の人物のこと、そして少しのあの方との記憶だけ。
それによって生じるもどかしい気持ちを考えると、むしろ不幸だったかもしれない。最後の最後で悪い仮定を引き当てた自分を呪ってやりたい気分だ。
「よお嬢ちゃん、一人かい?」
ヤケ食いでもしたい気持ちになっていると、いきなり話しかけられた。顔を上げて、体にかかった影の主を見る。
するとそこにいたのは、いかにも悪党ですといった面の禿頭の男だった。今世のあの方を越す2mほどの慎重に、筋肉の鎧を纏っている。
服装は、はっきり言ってみすぼらしい。臭いも鼻が曲がりそうなくらい臭い。というかイカ臭い。一言で総じれば、気持ち悪い人間の形をした生命体といったところか。
「……何かご用で?」
「いや、別によぉ。いい店知ってるから、暇ならちょっと付き合ってくれねえか?もちろん奢るぜ」
別にというなら話しかけるなよ、と口の中でこぼす。というかそんな誘い方今時ヤンキーでもしないわ。ナニがしたいのか丸わかりにもほどがある。
前髪を伸ばしておいてよかったかもしれないと初めて思った。おかげでこの気持ち悪い何かの面をあまり見なくて済むから。よくやった私。
いや、むしろこのような暗そうな見た目だから押しに弱そうと思ってこんなカスに捕まったのかもしれない。前の私の美貌なら格が違うことを思い知らせてやれたのに。
……まあいい。ちょうどヤケ食いしたかったところだ。気持ち悪いが、良いタイミング〝食料〟が来てくれた。
「……ええ、暇です。お腹も減っていますし、ご一緒しましょう」
「おっそうか。へへ、悪いなぁ嬢ちゃん」
下卑た笑みと目で言った男は、私を促して歩き始めた。もう少し隠せよと思いながら、その後をついていく。
ついていくと、男はどんどん賑やかなメインストリートの方ではなく、薄暗い裏路地の方へと入っていった。予想通りだ。
この世界に来てからすぐ、私は城下町を歩き回ってどこにどのような店があるのか知っている。この裏路地に、良い料理のある店などない。
つまり、これから私が何をされるかなど目に見えているということだ。私が何も反抗しなければ、だが。
料理人として食事を建前にされたことに怒りを感じていると、不意に気配が増えた。後ろをコソコソと尾行している。
まったくなっていない尾行にげんなりしながら進めば、どんどん気配が増えていく。最後には八人にもなった。
こんな人数でやったら女の方が壊れるわと思っていると、男が立ち止まる。そしてゆっくりとこちらを振り返った。
「……ここは行き止まりのようですが、店はどこに?」
「へへ、悪いな嬢ちゃん」
わかっていながらあえて聞けば、心の底から吐き気を催す表情に顔を歪める男。隠れていた(つもり)の男どもがぞろぞろとでてくる。
「店ってのは嘘だ。俺たちがお前を食うんだよ」
「……はぁ。愚か
「なんだと?」
首をかしげる大男に、口調を変えた私は小馬鹿にしたように鼻で笑いながら言葉を続ける。
「愚かだといったんです。あまりにも愚かすぎて、猿と話しているのかと思いましたわ。ああ、猿だから愚かという言葉すら理解できないからこのような行動に出るのですわね」
「テメェ……調子乗ってんじゃねえぞ」
「三つ」
「あん?」
今にも襲いかかって来そうな男に、指を三本立てる。
「三つ、貴方たちの間違いを指摘してあげますわ。一つ、こういうことをするのなら誘う人間はもう少し良い外見のものを選びなさい。あなたのようなブ男ではついてくるものも付いて来ませんわ」
「んなっ……」
「二つ、女を襲うのなら相手を調べてからにしなさい。手を出してはいけない相手というのがいるでしょう?地位的にも外見的にも」
例えば私とか私とか私とか。癪だが今の私は勇者の仲間であるし、本来の私より劣るものの、このような下賎な輩にはもったいない容姿を持っている。
「……口の達者な女だ。だが、すぐに喘がせて」
ズパンッ。
「………あ?」
裏路地に響く乾いた音に、男は間抜けな声を上げる。そして、私に伸ばしていた自分の手を見た。
すると、男の右手は二の腕の半ばから無くなっていた。いや、引き千切れていると形容すべきか。大量に血が吹き出し、神経がだらんと垂れている。
そして無くなった腕は……私の手の中にあった。
「ぐ、ぐぎゃぁああああぁあああああっ!?」
「リーダー!」
「んぐ、はぐ……」
自分の腕を見て悲鳴をあげ、尻餅をつく男と、それに近づく他の男達の前で、私は不衛生極まりない皮膚を剥いで男の腕を食う。
前世から唯一健在の頑強な歯と顎の力で、肉を食い千切り骨を噛み砕く。そしてよく咀嚼し、飲み込んだ。
「んー、筋っぽいですわね。もう少し脂肪をとったらいかがかしら。まあ、次などないですが」
「ひぃっ、バ、バケモノ!」
怯えた声をあげて後ずさる男に、私はニィと笑い顔を近づける。そうするとピンっと指を立てた。
「三つ目、貴方がたが間違っていたこと。食料になるのは、貴方達のほうですわ」
「う、うわぁあああああぁあああああっあぁあああああっ!!?」
半狂乱になりながら、男は大声を上げる。うるさかったので口に自分の手を突っ込んで、そのまま後頭部まで貫通させて黙らせて差し上げた。
「ひぃっ!」
「に、逃げろぉっ!」
「あらあら、逃がしませんわよ」
今の私は、とってもお腹が空いているのだから。わざわざ食べても誰も困らなさそうな相手を逃がす道理はない。
我先にと逃げ出す男達を、一人一人殺していく。あるものは後ろから忍び寄って頭を180度回転させ、あるものは指を耳に入れてそこから衝撃波で脳を破壊する。
ものの数分で、八人全員殺し終えた。服の裾を掴んでズルズルと引きずっていき、男の死体のそばに転がしておく。
「では、いただきますわ」
そして、手を合わせて食事を始めた。まず一番最初に食べ始めた男を皮を剥いで食っていく。筋の多い肉は、そのうち慣れて美味しく感じてきた。
その味に飽きると、他の死体から四肢を引き抜いて食う。たまに口直しにまた他の死体の肉を食う。まさに手当たり次第、ヤケ食いだ。
ピチャ……グチャ……バキッ…ゴクン………グチュ……グチュ……
そうして、裏路地に私の食事をする音が静かに響いたのだった……
●◯●
白崎香織 side
御堂さんが出ていってから、しばらくした後。
「ん………はれ?」
目を覚ました私は、起き上がって目をこすった。そしてキョロキョロと周りを見渡して、自分がうたた寝していたことを理解する。
そうだ。看病してたんだけど、久しぶりにご飯を食べたからか眠くなっちゃって寝ちゃったんだ。口の端から涎が垂れてたので慌てて拭う。
とりあえず一旦落ち着くと、自分が上半身を埋めていた布団を見る。すると、そこにいたはずの美空がおらず、もぬけの殻だった。
一体どこに……まさか、私が寝てる間に目を覚まして外にーー!?
「美空っ「あ、香織起きた?」……へ?」
聞きなれた声に、後ろを振り返る。するとそこには、紅茶と思しきものを沸かしている美空の姿があった。
穏やかに笑う美空からは、寝ていた間の辛そうな様子も、叫んで飛び起きた時の狂気も感じない、いつも通りの雰囲気を感じる。
訳が変わらず呆然としているうちに、紅茶を淹れたカップを二つ持った美空は部屋に添えつけてある机にそれをおいて、「ほら香織、こっち来て」と私を呼ぶ。
困惑しながらも席につくと、紅茶が差し出される。お礼を言ってカップを持ち上げ、一口飲むとほんのりとした甘みが口に広がった。
「おいしい……」
「よかった。私、お父さんがカフェをやってるからこういうのは得意なんだ」
ニコニコと笑う美空に、さらに困惑する。どうしてこんなに普段どおりなのだろう。
「そ、そうだったんだ……それで、その…大丈夫、なの?」
「……ハジメのことなら、大丈夫じゃないよ。納得だってしてないし、今だって苦しくてたまらない」
やっぱり、美空は無理して笑って……
「でもね……信じることにしたんだ」
「信じる?」
「そう。ハジメが生きてることを、帰ってきてくれることを信じる。それが、私にできることだから」
胸に手を当てて、強い口調と確固たる意志を秘めた瞳でそう言う美空。そこからは彼女の、南雲くんへの絶対的な信頼と愛を感じた。
「……ねえ、美空はどうして南雲くんを好きになったの?」
それに気がつけば、私の口からはそんな質問が零れ落ちていた。言ってから自分が何を聞いたのか理解して、パシッと口を手で塞ぐ。
私の問いかけに驚いた顔をした美空は、苦笑して「うーん」という。そして少し逡巡したあと、話し始めた。
「私とハジメとシュウジが幼馴染なのは知ってるよね?」
「う、うん」
「私ね、昔はシュウジが好きだったの。ていっても、保育園とかそれくらいの年齢の話だけど」
「……へ?えぇええええええええええええっ!?」
まだ雫ちゃんが寝ているのに、両手で机を叩いて立ち上がる。あまりに衝撃の事実に、普段ならあげないくらい大きな声が口から飛び出た。
美空が、小さい頃シューくんを好きだった。そんなことは今まで一度だって聞いたことない。雫ちゃんは知ってたのかな。
「そんなに驚く?」
「お、驚くよ!だって美空は、南雲くんと付き合ってて……」
「あ、好きっていってもどっちかっていうと憧れに近い感じだからね?ほら、シュウジってなんでもできるから」
「あ、そうなんだ……」
思わずホッとする。なんで私が安心してるのだろう。
「シュウジは、小さい頃から今みたいに万能だった。本当に人間なのかってくらい。そんなシュウジを見てるとワクワクして、自然と笑えた」
「……確かに」
シューくんはいつも破茶滅茶で奇想天外で、まさに我が道を往くって感じだ。それなのに必ず何事も成功に終わらせる。
それを近くで見ていて、よく雫ちゃんはそんなシューくんをコントロールできてるなぁとか思っていたものだ。
前の世界でのことを思い出していると、クスリと笑った美空は少し真剣な表情をした。
「でもね、ある時気づいたの……確かにシュウジは〝明るい〟けれど、それは作り物みたいだってことに」
その美空の言葉は、なぜかストンと私の胸に入ってきた。腑に落ちたとはこのことか、彼女のいう通りだと思ってしまったのだ。
以前に一度、シューくんが一人でいる時を見たことがある。その時のシューくんは、いつも明るくふざけてばかりの彼とは思えないほど雰囲気が違った。
ひどく落ち着いていて、全くの別人かと思ったくらい静かに一人で話していたのだ。今思えばエボルトと会話してたんだろうけど。
もしかしたらあれは、いつものシューくんが皆の知っている〝北野シュウジ〟というキャラクターなら、それを演じている本当のシューくんだったのかもしれない。
「それがわかったら急に、シュウジに憧れなくなった。今も友達としては好きだけど、なんだかちょっと怖くて。だからあんなにシュウジのことが大好きで、愛されてる八重樫さんはすごいなって思ったな〜」
「それには心の底から同意するよ」
雫ちゃんのシューくん好きは時々引くくらいすごい。中学生の時とか偶然街中でシューくんを見かけたと思ったら、次の瞬間には雫ちゃんが抱きついてた。
他にも休み時間中ひたすらスリスリ体を擦り付けてたり、体育で合同になるとひたすらシューくんの近くにいたり、スマホに三千枚を超える「シュウジフォルダ」なる写真フォルダがあったり……
言い出すと色々数え切れないくらいあるが、とにかく雫ちゃんはものすごくシューくんのことが好きだ。ちなみに南雲くんに聞いたらシューくんの携帯にも同じようなものがあったらしいです。
「でも、まだワクワクした気持ちは残ってて、なんでかなって思ったら……ハジメがいたからだってわかった」
「南雲くんが?」
「うん。確かにシュウジは明るくて、なんでもできるけれど……私の手を取って笑いかけてくれたのは、ハジメだった」
「……そうだったんだ」
「暖かかったんだぁ、ハジメの手」
胸に手を当てて、とても嬉しそうにいう美空は、本当に幸せそうで。それだけで、どれだけ南雲くんが好きなのかわかってしまった。
「それでずっと一緒にいるようになったんだけど、中学になったら私はいじめられるようになって……」
「えっ、なんで!?」
「だってほら、私可愛いじゃん」
ふふん、と胸を張る美空。
確かに美空はすごく可愛い。ネットアイドルもやってるみたいだし……あ、龍太郎くんに顔が引きつるまで力説されたの思い出しちゃった。
前にどこかで聞いたけど、特別何かが優れている人は孤立するらしい。美空くらいの可愛さだと、女子中学生ともなれば嫉妬する人もたくさんいたんだろう。
「その時もハジメはそばにいてくれた。今も辛い時は必ず手を握って、私を抱きしめてくれる。あの時だな、明確にハジメが好きだなって思ったのは」
ちなみにそのいじめの主犯格は、南雲くんがシューくんに話したらしく、次の週には別の学校に転向していったとか。方法は聞かないほうがいいらしい。
「だから、私はハジメを信じる。この手の中に、あの暖かさが残ってる。ハジメは絶対また私のそばに戻ってきてくれるって、そう思うから」
「……そっか」
強い、そう思った。
もし私が同じ立場なら、どうだっただろう。きっと現実から目を背けて、自暴自棄になって誰かに迷惑をかけていた気がする。
でも、お陰で私も信じることができた。本当はずっと不安だったのだ、もしかしたらもう二人は……って。
でも、美空を見てその考えは変わった。たとえどんなに低い確率でも、他の誰が正そうとしてきても、私も南雲くんたちが生きているのを信じる。
「……ありがと、美空」
「え?」
「私も、信じることにしたよ」
「……そっか。なら二人で信じようね。あ、でもハジメは渡さないよ」
「んなっ!?」
「当たり前でしょ?ていうかそろそろ天然キャラやめてハジメのこと好きなの認めたら?」
「にゃにゃにゃにを!ていうかキャラじゃないよ!?」
「ていうかあの時ハジメに魔法当てようとしたやつ刻む。絶対刻む」
フフフフフ……と不気味な笑いをあげる美空に「ちょっと美空〜!」と肩をゆすりながら、私はこれから頑張っていこうと、そう思うのだった。
次回からはシュウジサイドです。そしてついに……
ARE YOU READY?
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