星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

212 / 354
ハジメ「俺だ。前回は美空が心配になる回だったな」

未来「ごめんね、迷惑かけて…」

ハジメ「気にするな。さて、今回は新しい試練が待ってるみたいだな。それじゃあせーの、」


二人「「さてさてどうなる洞窟編!」」


氷のラビリンス 5

 三人称 SIDE

 

 

 

 

 

 やがて、迷路を進むうちに一行の前に広大な空間が現れる。

 

 

 

 

 

 奥にはこのミラーハウスのような迷路の入り口であった扉に似た、美しい装飾の扉が聳えている。

 

 ハジメが羅針盤を見下ろし、それが伝えてくる感覚からゴールであることを確信した。

 

「シュウジ、見たところまた鍵みたいな仕掛けは見当たらないが……何かあるか?」

「あるといえばある。ゴール前にトラップは定番だろ?」

「チッ、この氷壁で感知系の技能も阻害されるからわからないのは厄介だな……」

「ま、この人の頭の中覗き込むやかましい覗き魔に比べりゃなんてことないさ」

 

 こめかみに指を当てるシュウジにそれもそうか、と頷いたハジメは警戒しつつ前を向いた。

 

 部屋に入り、武器を構えながら鋭い視線を飛ばす。

 

 

 

 そして中央まで進んだ時、それは始まった。

 

「あ? ……太陽?」

 

 頭上より降り注いだ光に、顔を上げハジメが呟く。

 

 雪煙に覆われた迷路の上空、そこで輝きを増す一点の光が煌いているのだ。

 

 太陽と錯覚させるほどの強いそれは、分厚い雪煙を貫いて空気中の細氷に反射し、ダイヤモンドダストを発生させる。

 

 しかし、一つだけ自然の神秘と目を奪われるにはいささか不可解な点があった。

 

「氷片に集まる光が強すぎる……」

「これじゃあまるで……」

「皆様、一歩も前へ動かぬようお願い申し上げます」

 

 心の中で鳴り響く警鐘に、シュウジがそう言った途端全員が後ろへ一歩下がった。

 

 その瞬間にシュウジがステッキの下部を床に打ち付け、エ・リヒトを展開する。

 

 

 

 次の瞬間、数百の煌く氷片は無数の閃光を解き放った。

 

 レーザー兵器のごとく部屋中を縦横無尽に駆け巡り、氷壁や地面にその痕を削ってっていく純白の細光。

 

 当然エ・リヒトにも当たり、紫の結界の表面で弾ける光に顔を引きつらせるハジメ達。

 

「さて、このままだとヴェールに包まれて終幕だ」

「なんだと?」

 

 シュウジの言葉に、反射的にハジメは顔を上げた。

 

 つられて全員が頭上を振り仰げば、なんと雪煙が降りてきているではないか。

 

「チッ、あれに巻かれると厄介そうだ! 一気に駆け抜けるぞ!」

「防御は任せろ。あ、勇者は別に出て行ってもいいぞ」

「絶対出ていかないからな!」

 

 いつものやり取りを交わし、全員扉に向けて疾走する。

 

 シュウジの膨大な魔力、そして緻密に構築された結界はそこかしこから飛んでくるレーザーを見事に逸らした。

 

 

 

 それだけではない。

 

 実はステッキには装填スロットが空間魔法で内部に入れ込まれており、ダイヤモンドフルボトルが挿入されている。

 

 それによって結界はその硬度に加え反射性を持ち、レーザーを打ち返して氷片を砕いていた。

 

 

 

 扉まで、残り約百メートル。 

 

 これならばとハジメ達が思った矢先に、ズドンッ!! と凄まじい地響きを立てて雪煙から氷塊が落下してきた。

 

 地面にクレーターを作ったそれは向こう側が透けて見えるほどの透明度で、中には──赤い魔石がある。

 

「チッ、こっちが本命か」

 

 舌打ちとともに告げられたハジメの悪態。

 

 応えるように氷塊は形を変え、ハルバードとタワーシールドを持った5メートル級巨人になった。

 

 

 

 数は十二体。ちょうどこの場にいる挑戦者全員と同じ数だ。

 

 また、氷のゴーレム達の出現によって足止めを喰らっている間に雪煙が完全に降りてきてしまった。

 

「ハジメ、あのボトル使え。俺の計算だと、こいつらの耐久力はお前の銃の威力より上だ」

「オーケー」

 

 言われた通り、ハジメは宝物庫からムーンハーゼボトルを取り出してドンナーに入れる。

 

 久方ぶりに使うそれは、昇華魔法によって改良された今のドンナーであれば運用できるはずだ。

 

「一人一体ってとこだな……蹴散らすぞ」

「優雅にいこうか」

 

 二人の号令によって、結界が解除されたのと同時にフロストゴーレム達との戦闘が始まった。

 

 

 

 ドパンッ!! 

 

 

 

 まず最初に向かってきたフロストゴーレムに、ハジメの音速の弾が牙を剥く。

 

 どうやらこれまでの氷像達よりスペックが良いようで、すぐさま反応して大盾を構える。

 

 

 

 パキャァンッ────! 

 

 

 

 が、それは桃色の雷光を纏う凶弾によってけたたましい音と共に粉砕された。

 

 速度を落とすことなく突き進んだ弾は盾を持つゴーレムの腕を砕き、更に胸ごと魔石を貫通する。

 

 フロストゴーレムは呻き声を上げた後、ゆっくりと倒れて崩れ、氷の小山となった。

 

「まずは一体。次は美空の分を倒しにいくか」

 

 ドンナーを構え直し、ハジメは二体目の殲滅に向かう。

 

 

 

「ぶちかましますよぉ!」

「ん……!」

 

 ゴーレムの耐久性を踏まえ、爆破できるディオステイルを持ったシアと覇拳をつけたウサギも前に出る。

 

 ティオは黒ブレスで、既にあの〝力〟は二度失敗しているため、光輝は〝天翔剣〟を、香織は〝分解砲〟を。

 

 非戦闘員である美空を守るため、防御に徹している鈴以外の全員がゴーレムに向かって技を放った。

 

 

 

 

 ゴバッ! 

 

 

 

 

 ──光輝だけは、シュウジに向かって。

 

 

 

「なっ!?」

「はぁっ!?」

「えっ!?」

 

 フロストゴーレムとは全くの反対方向に放たれた純白の剣光に、雫達が目を丸くする。

 

「っ!?」

 

 光輝自身、目の前のフロストゴーレムではなくそちらに放ったことに鋭く息を呑む。

 

 

 あわや切り裂かれるか──などとは、誰も思わず。

 

 

 シュウジは軽やかな動きで跳躍し、光輝の天翔剣をあっさりと躱してみせた。

 

 それどころか同時に振り下ろされたハルバードをも紙一重で回避し、黒ナイフとカーネイジナイフで足を切り崩す。

 

 ズシン、とうつ伏せに倒れたフロストゴーレムの上に着地し、光輝のことを無機質な目で見た。

 

「っと……またかこのクソ野郎。いい加減殺すぞ」

「す、すまない! 技を出した瞬間囁きが強くなって、つい誘導されて!」

 

 光輝は〝それ〟によって、精神の侵食にはある程度耐性がついている。

 

 

 

 

 普通に耐えられる、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 突然頭を支配した囁きに驚き、その隙に体を乗っ取られたのだ。

 

 それがこの空間最大のトラップであり、勿論シュウジは最初からそんなことはわかっている。

 

「ハッ、まんまとこの部屋のトラップに引っかかってやんの。そんなことだから貴様は間抜けなんだ、ジョジョォ!」

「いやジョジョじゃないだろ」

 

 無駄に良い声で言うシュウジに、ハジメの冷静なツッコミが入った。

 

 要するにこのセリフを言いたかっただけである。緊張していた光輝はずっこけそうになった。

 

 一方、フロストゴーレムをブレスで牽制しながら話を聞いていたティオがハジメに向けて言う。

 

「ご主人様。あのゴーレムに攻撃する瞬間、囁き声のようなものが聞こえたのは確かじゃ」

「チッ、無意識領域への干渉ってとこか。天之河以外は平気か?」

 

 ハジメに返事をする一同。

 

 どうやら慣れすぎて警戒が緩んでいた光輝以外は、特にその影響を受けてはいないようだ。

 

 この場にいるほとんどの全員が、囁きの内容が自分への疑念というのも幸いだっただろう。

 

 

 

 ある種最初からこの試練を克服している、とも言える。

 

「天之河、次は気をつけろ。億が一にもありえないだろうが、もしシュウジに怪我させたらお前の頭をぶち抜く」

「わ、わかった。南雲も大概北野のことになると物騒だな……」

 

 本気の声音で脅しをかけられ、光輝は気を引き締め直した。

 

「ハッ、せいぜい無駄に頑張れ。ちなみに不意打ち騙し討ち狙い撃ちしても文句言うなよ、先にやったのお前だから」

「最後のは明らかにわざとじゃないか!?」

「俺の耳って勇者の声は聞こえない構造なんだ☆」

 

 ロングソードを構える光輝をシュウジは鼻で笑い、右足を上げると振り下ろす。

 

 衝撃を貫通させる技によってフロストゴーレムの魔石のみが砕け、バラバラと崩れた。

 

 

 

 

 

 それを再開の合図として、再びフロストゴーレム達との戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

「断ち斬れ、〝閃華〟」

 

 雫の一閃が、フロストゴーレムの盾に大きな亀裂を入れる。

 

 刀身の二倍はあるその傷は、空間魔法を付与されたことで、斬撃と同時に空間を斬ることが可能となったからだ。

 

「さあ番人さん、踊りましょう」

 

 雫は楔丸を鞘に収め直すと、フロストゴーレムを下から睨み上げた。

 

 

 

 上等、とでも言うようにフロストゴーレムがハルバードを振り上げる。

 

 風を切る、というよりも叩き潰すような音を出して大質量の凶器が炸裂した。

 

「シッ!」

 

 楔丸に付与された神代魔法を用いることなく、今度は純粋な抜刀で対抗する。

 

 同時に鞘のトリガーを押し込み、内部に仕込まれた空圧式ショットシェルで刀を中から弾き出す。

 

 それを易々と掴み取った雫は、流れる力を意のままに刀を振るった。

 

 

 

 後の閃、しかしてそれは威力を重視した鈍重なハルバードよりも速く。

 

「集え、〝引天〟」

 

 その瞬間、神代魔法を発動させる。

 

 刀身の発する引力によってハルバードが吸い寄せられ、雫は柄と刃のついた先端の間を狙う。

 

 

 

 その狙いは誤ることなく、重量武器であるハルバードから肝心の先端部分が断ち切られた。

 

 思わずバランスを崩すフロストゴーレム、地面に落下する刃。

 

 そこで氷片から雪煙を貫いてビームが飛んでくる。

 

 

 

 しかし、刀を振り切った雫の体には一本も当たることはなかった。

 

 ビームの飛んでくる音、全方位を見渡せる動き方、踏み込む位置から刀を振り切るタイミングまで。

 

 それら全てを計算し尽くした上での動きである。

 

 

(シューの彼女としては、これくらいの芸当はできなきゃね)

 

 

 雫は未だ引力を持つ刀身を、速度を保ったままに一回転して落ちる刃に向ける。

 

 刀身に吸い寄せられ、急激に落下の軌道を変えた刃がくっ付いた。

 

「ハァッ!」

 

 雫はそれを、遠心力を込めて巨兵の腕めがけ振り切る。

 

 右半身が前傾姿勢であったフロストゴーレムの、右手首から先が砕け散った。

 

「飛べ、〝離天〟」

 

 目的を達成した雫はすぐさま斥力に切り替え、用済みになった刃を刀身から引き剥がす。

 

 そうしてまた楔丸を鞘に収めて、フロストゴーレムに挑発的な目線を送った。

 

 一方の腕を失ったフロストゴーレムは、ならばと盾で殴りかかってくる。

 

 

 

 織り込み済みである雫は、昇華魔法で上がった知覚能力でビームの軌道を把握し、それから動き出した。

 

 僅かにタイミングを遅らせ、疾走する。すると雫の脇や足の間をビームが貫き、地面を砕いた。

 

 

 

 一難去ってまた一難、真正面から大質量を誇るタワーシールドが迫っていた。

 

「断ち斬れ、〝閃華〟」

 

 短い詠唱とともに、タワーシールドに向けて抜刀する。

 

 物理的な距離を無視した斬撃は前方の空間を削り、一瞬空白になった空間にタワーシールドが当たって下に傾く。

 

 その下へ素早く雫が潜り込んだ瞬間、ビームが飛来して傾いた盾の裏側に当たった。

 

 

 

 それだけではない。高い反射性を持つシールドは鏡となってビームを屈折させ、ゴーレムの左肩を砕く。

 

 たたらを踏み、動きが鈍るフロストゴーレム。ぐらつく盾が手放される前に雫は飛び出した。

 

「ふっ、はっ!」

 

 待ちわびていたように無数の熱戦が降り注ぎ、雫はその全てを先読みと曲芸じみた動きで回避。

 

 

 

 ──その剣で目の前の敵を倒せても、彼の未来は切り開けない

 

 

 

 阻害したいのか、囁きが脳内に響く。

 

「だから、どうしたというの」

 

 雫は眉ひとつ動かさなかった。

 

 意識することすらなく、極限の集中状態を以ってして全ての思考を戦闘に注ぎ込む。

 

 それだけで全て跳ね除けられるわけではないが、簡単に揺らぐほど雫の精神は柔ではない。

 

「砕け、〝焦波〟」

 

 フロストゴーレムの股下に潜り込み、左足の関節部に濃紺色の波紋とともに衝撃を叩き込む。

 

 左肩が砕けたことで不安定になっていたフロストゴーレムは、簡単にバランスを崩した。

 

「砕け、〝焦波〟」

 

 背中の方に抜けた後に左側に回り込み、同じ技を左手首に入れる。

 

 衝撃が走り、ピシッ! と関節にヒビが入った。雫はそこに柄頭を叩き込む。

 

 特別硬いアザンチウムでできたそれは、フロストゴーレムの手首を砕くには十分だった。

 

 

 

 両手を失い、左足は機動力が激減。戦闘用ゴーレムとして致命的なダメージを負っている。

 

 ほぼ勝敗は決したと言っても良いだろう。

 

「っと。厄介ね」

 

 そこへ、間髪入れず飛んできたビームを磨き抜かれた刀身の腹で弾く。

 

「……!」

 

 一瞬、雫の意識が半分のみとはいえ外れた瞬間。

 

 ゴーレムは赤く目を輝かせ、壊れたままの両腕を振り回して雫を横殴りしようとした。

 

 

 

 しかし、そんな不意打ちは通じない。

 

 

 

 雫はビームを弾くために捻った体をそのまま倒し、まず左の横薙ぎを回避。

 

 続けてやってきた右の腕の断面、そこに正確に狙いを定めて切っ先を突き刺し、力を抜く。

 

 

 

 あえて振り回された雫は、腕が振り上げられた瞬間切っ先を抜いた。

 

 自ら空高く飛び上がり、こちらを見上げるフロストゴーレムを見下ろす。

 

「昇り纏え、〝崩天〟」

 

 ピタリと両手で柄を握り締め、最後の詠唱を呟く。

 

 その瞬間、雫の体と刀が鮮やかな紫色の魔力に覆われ──

 

 

 

「さようなら。結構強かったわよ、あなた」

 

 

 

 そのまま、落下。

 

 フロストゴーレムが半壊した腕を引き戻すよりも速く、雫がポニーテールを靡かせ落ちる。

 

 まるで天女の天下りの如き美麗さで、フロストゴーレムの頭部目掛けて突きが繰り出された。

 

 咄嗟に間に差し込まれた両腕を掻い潜り、頭頂に切っ先がスッと入る。

 

 

 

 ズンッ!!! 

 

 

 

 その瞬間、フロストゴーレムの頭から股下まで凄まじい重圧が駆け抜ける。

 

 全身にヒビが入り、最後に胸の中で魔石が真っ二つに砕けた。

 

 

 

 雫が刀を引き抜き、跳躍して地面に着地する。

 

 心臓部を破壊されたフロストゴーレムは、彼女の目の前でゆっくりと倒れた。

 

 それを見届けた雫はゆっくりと納刀し、刃を鞘に収める。

「ふぅ……」

 

 少々乱れた息を整えるため、短く息を吐く。

 

 またそれは、極限の集中によって維持していた昇華魔法の使用をやめる合図でもあった。

 

 

 

 紫色の光が消え、雫は少し名残惜しそうにする。恋人と似たこの光は雫のお気に入りだ。

 

 それから楔丸の柄を撫で、ふっと満足げに微笑んだ。

 

「実戦でも問題なし、と。南雲くん様々ね」

 

 

 

 〝崩天〟。

 

 

 

 それが雫の新たな技。

 

 〝落ちる〟という重力の基本的な概念を昇華魔法によって強め、同時に雫の肉体をそれに耐えられるよう強くする。

 

 結果として、雫もろとも凄まじい重さで落下してくる重力の塊が完成するのだ。

 

「さて、これで終わりのはずだけど……」

 

 ビームもいつの間にか収まり、雫は周囲を見渡す。

 

「ん?」

 

 ふと、周囲を覆っていた雪煙の一角が形を変えていくのを見つける。

 

 渦を巻いた雪煙は台風のように螺旋を描き、そのまま一直線に他の雪煙をおしのける。

 

 最終的に薄れて消えていったその渦の先には、最初に見えていたゴールの扉が見えていた。

 

 そこには当然、恋人とハジメ達が出揃っている。

 

「おーい、雫ー」

「今行くわー! ……光輝達も無事に終われるかしら」

 

 こちらを呼ぶシュウジに答え、雫はフロストゴーレムを一瞥した後に歩き始めた。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。