ハジメ「俺だ。いよいよこの迷宮も終盤……だな」
シュウジ「最後は派手にいくものさ。さあ、始めよう。それじゃあせーの、」
二人「「さてさてどうなる洞窟編!」」
シュウジ SIDE
ものの数分でゴーレムを破壊した俺達に続き、雫も早々に試練を突破してきた。
残る三人は未だに雪煙の中で戦っており、白っちゃんが鍵探しの時のようにハラハラとしている。
「光輝くん達、大丈夫かな……」
「だから心配しすぎだって。みんなあれくらいは倒せるでしょ」
「勇者は知らんけどな。むしろレーザーで蜂の巣になっているのを推奨」
「もう、シューくんったら!」
怒る白っちゃんにケラケラと笑う。
いつも通りの悪態をつくことで気をそらそうと思ったのだが、すぐに不安げな顔に逆戻りしてしまう。
「ちょっと見てみるか」
「さすがハジメ、男前」
それを見かねたハジメがクロスビットを宝物庫から取り出して飛ばした。
羅針盤に従い、まずは一番不利になりそうな谷ちゃんの方へとクロスビットを向かわせた。
クロスビットの〝遠透石〟に水晶ディスプレ氏を接続し、こちらにも見えるようにする。
谷ちゃんのいる場所まで到着するも、相変わらず雪煙に包まれて何も見えなかった。
「視界は不良、か」
「もう少し高度を上げてみればどうだ?」
「そうだな」
ハジメはクロスビットを上昇。
それでようやく顕になった戦場では、谷ちゃんが結界を展開しながらレーザーを防いでいた。
結界の対象は自分と、そしてゴーレム。
ゴーレムの方には炎系魔法を聖絶と組み合わせた〝聖絶・焔〟を内側に使うことで溶かしている。
ゴーレムも逃れようとハルバードやタワーシールドを振り回しているが、昇華魔法で硬度の上がった結界は容易く壊れない。
時折ヒビが入ったりするものの、谷ちゃんがすぐに修復するため焼け石に水だ。
「はぁ、はぁ……あと、少しなんだから」
消費魔力が馬鹿にならない昇華魔法と高度な結界の維持・修復の併用。
使用中は魔力消費軽減の効果がある鉄扇があるとはいえ、谷ちゃんは疲労困憊といった様子。
「負けない……何を言われても、もう一度鈴は恵里と話すんだからぁ!」
それでも、滝のような汗に塗れながら虚ろになりかけていた目に闘志を宿し、声を張り上げた。
「お、谷ちゃんいい感じじゃん」
「谷口のやつ、なかなか頭脳派だな」
「あれなら、あっちが溶けきるまで待てば鈴さんの作戦勝ちですねぇ」
「ん、心配なさそう」
「上手い、と言わざるを得ないの」
「谷口さん、ガッツあるね」
「鈴ちゃんすごい!」
「終わるまで、時間の問題ね」
「んじゃ次行くか」
大樹の迷宮での経験が活きているのだろう、谷ちゃんもタフになってきた。
クロスビットを移動させ、今度は羅針盤の目標を坂みんにセットして探し出す。
しばらく進み、やがて羅針盤の示す位置と雪煙が激しく吹き荒れる場所が一致して、先ほどと同じように俯瞰した位置から見る。
『オラァアアアッ!』
「ゴッ、ガァッ!?」
一言で言えば、圧巻である。
グリスに変身した坂みんによって、フロストゴーレムはタコ殴りにされていたのだ。
既に武具は粉砕されて床に散り、ボロボロなフロストゴーレムを見るに、反撃も許されないのだろう。
レーザーに関してはダイヤモンドフルボトルを使ってシールドを作っている。頭いいな。
『激闘! 激動! 激情! まだまだこんなもんじゃねえぞ、コラァアアア!!』
「ガゴァッ!!?」
ブリザードナックルが叩き込まれる度に、フロストゴーレムの体に陥没が増えていく。
「あっはっは、おもしれえくらい一方的」
「坂上は一切心配いらないな」
「ん」
「ナイスパンチ」
「ですねぇ」
「戦い方は昔と変わってないけど、勢いが段違いね……」
こちらも特に手助けなどもいらず、問題なく終わりそうである。
おや? 何やらティオがフロストゴーレムを砕くナックルをティオが凝視して……
「あのご主人様の作ったアーティファクトで一回殴られてみたいのじゃ……」
「ティ、ティオさん……」
「へ、変態……」
白っちゃんと美空がドン引きするも、変態の性的嗜好への好奇心は止む気配はなかった。
クロスビットはクソ勇者の方に移動し、ティオの「ああっ!」という残念そうな声は総スルー。
坂みんから位置的にさほど離れているわけではなく、すぐに見つかってクロスビットが固定された。
奴は〝覇潰〟と昇華魔法を併用しており、白銀の輝きを纏いフロストゴーレムと戦闘を繰り広げている。
「ハッ!」
気迫のこもった声と共に、ロングソードの柄頭がフロストゴーレムに繰り出された。
フロストゴーレムはタワーシールドで防ぐも、接触した瞬間に表面が深く陥没する。
「うぉおおおおおっ!」
奴がさらに踏み込み、半壊したタワーシールドにロングソードを振るう。
雫の楔丸と同じく、魔力を衝撃に変換する技能を使った一振りが大盾を完全に砕いた。
仰け反るゴーレムに踏み込むクソ勇者、そこにやらせまいとレーザーが迫る。
「っ!」
瞬間、奴の左目が赤と黒に染まった。
左肩から口の集合体が溢れ出し、大きく開口するとそちらにレーザーが屈折して吸い込まれる。
「次で砕くぞ、氷像!」
難なくレーザーをやり過ごした奴は、剣を構えてフロストゴーレムにもう一度突撃する。
「どうやら二回失敗して、多少使い方を学んだみたいだな」
「……ほーん。ま、そこそこマシなんじゃねえの」
楽しげに視線を向けてきたハジメに、心底興味なさそうに爪をいじりながら答える。
いやあいつが奮闘してるところとか、豚の糞レベルにどうでもいいわ。
ともあれ、全員フロストゴーレムを十分に倒せそうだ。
そう判断してハジメはクロスビットを呼び戻し、その予想通りに数分で雪煙の向こうの戦闘音は止んだ。
雪煙のトンネルが開いて、坂みん、クソ勇者、最後に谷ちゃんの順でゴールにやってくる。
「ふぁ〜、疲れた〜……」
「クソ硬かったな、あいつ」
「どうにか勝てたけどな……」
「三人とも、お疲れ様」
腰を下ろして治癒師コンビに治療を受けている三人に、雫が歩み寄る。
自分達よりずっと余裕を保っている我が女神に、三人はなんとも言えないような苦笑を浮かべた。
「雫は元気そうだな」
「ええまあ、シューと南雲くんの改造のおかげで随分と斬り方も増えたし。パワー重視で遅かったのも相性が良かったわ」
「俺は正面から殴り合うしかできねえからなぁ」
「鈴は攻撃型じゃないし、辛かったよ……」
「俺もかなり魔力を削られたな……」
相当な硬度を持っていたフロストゴーレムに、各々それなりに苦戦したようである。
異空間から回復薬(ベストマッチ音声付き)を取り出し、谷ちゃんに放る。
クソ勇者にはまた全力投球した。
「谷ちゃんはこれ飲んどきな。魔力が回復する」
「わっ、ありがと」
「あっぶないな! せめて少しだけ労ってくれ!」
「は? いや無理。あ、それとお前のは下水味だから」
「えっ、す、鈴のは?」
「爽やかレモンティー」
「格差っ!?」
ぶちぶちと文句を言いつつも、奴はタブを曲げて開く。ライオンクリーナーの音声にビクッとした。ザマァ。
魔法による治療とジュースでの魔力回復が終わって、調子が戻ったのを確かめて三人とも立ち上がる。
「ありがとう香織。石動さんも、ゴーレムはどうしたんだ?」
「……ん、私は香織と違って回復魔法しか使えないから。少し攻撃して、あとはハジメに手伝ってもらった」
「ま、条件としちゃ厳しいが適材適所だ。気にしなさんな」
俺の励ましにこくりと頷く美空だが、その顔色は悪かった。
果たしてそれは、囁きの内容の通りになってしまっているが故のことなのか……
『次の試練、大丈夫かこれ』
まあ、一応瞬間移動の座標を美空に設定しておくか。
美空に座標をつけている間に、全員が集合したことで事態が変化を見せる。
頭上に輝いていた太陽が姿を消し、それによって氷片への光が途絶えてレーザーが止む。
雪煙も再び天へと昇っていき、視界が晴れていった。
それを見届けて扉の方に振り向けば、巨大な扉は燦然と輝きだす。
そして開門するのではなく、光の膜を形成していく。
「シュウジ、これが次の試練への入り口か?」
「
それは嫌そうな顔をする一同。あれは辛かったね。
「理想世界と同じ、ってことは……」
「……もしかして、この囁きの本番?」
「うわ……」
「もう考えるだけで嫌ですぅ」
「むしろ、迷宮で嫌ではなかったことなどあったかの?」
「なかったね……」
はぁ、と深いため息をついてしまうハジメハーレムの女性陣。
彼女達の場合、基本的に見物理的なものなら問題ないため、むしろ精神的な攻撃は堪えるのだ。
雫は割と平然としているものの、アホや坂みん、谷ちゃんはこれから待ち受ける試練に緊張した顔を見せる。
「まあ、うだうだ言っててもクリアできるわけじゃない。さっさと攻略するぞ」
ハジメの号令に覚悟を決め、全員が光の門へと飛び込んでいった。
大樹の時の転移の感覚に似たものが、体を包み込む。
その間に先に知ってるここからの試練に決心を固め。
そして感覚が正常に戻った瞬間に目を開いた。
「ん……到着、か」
周囲は二メートル四方のミラーハウス。そこかしこに俺の格好いい顔が映っている。
周りには誰の気配もない。当然だ、これはあの理想世界のように個別型の試練なのだから。
ま、俺ちゃんなら楽勝だけどね。
『いつも通りにふざけて気分を落ち着けるのは、もう十分か?』
「……ああ」
あえて声を出し、肯定して歩き出す。
別れ道はなく、〝その場所〟へは一本道。
それも、ほんの十分ほどであっさりと終着点へと辿り着いてしまった。
これまでの迷路よりずっと簡潔だったり道筋を踏破し、通路の終わりで足を止めて。
「……ふぅ。よし、いつも通り軽いテンションでいこうじゃないか」
ハジメ達がいるならば、決して口に出さないだろう弱々しい声。
我ながら笑えるほど情けねえと思いながら、部屋の中に一歩踏み出した。
大きな部屋だ。
あるのは地面から天井まで一直線に結ぶ、円筒形の氷柱が一本。
通路と同じく鏡のように磨き抜かれたそれに近寄るにつれ、俺の全身像が写り込む。
「ふむ、そろそろジャケットを新調するか?」
大鏡の前に立った気分で、ステッキでジャケットの裾を捲り上げてぼやいた。
それから、頑なに目を合わせないようにしていた鏡の中の自分を見て。
「なあ、
『──そうだな。替え時じゃないか?』
そう、
腰に手を当てている、氷柱の中の俺。
そいつの目は……いつか見た時と同じ、ステンドグラスのように六色にひび割れている。
おまけに首や腰に当てた右手の手首には継ぎ接ぎがあって、俺自身その姿にゾッとする。
『驚いたか?』
「まさか。いいメイクだな?」
『そりゃどうも』
パキン、と。
氷柱の中の俺が、割れた。
いいや違う。
その証拠に、真ん中の〝俺〟の
『さて。
「ああ。自分にとって不都合な感情、記憶、思想、悪意、矛盾、虚偽……そういったものを乗り越える試練だ」
パキン。また割れる。
今度はステンドグラスから黄金が消え、倍の背丈はある、長髪で虎のような化け物が生まれた。
『ははっ、だとしたらハジメ達以上にこの試練は大変だなあ?』
「ああ、そうだろうな」
割れる。
『いやはや、この迷宮に挑んだものの中でこれほど
割れる。
『むしろ、この迷宮はお前を待ち侘びていた。そうは思わないか、俺?』
割れる。
『だって、お前は──』
そして、最後に割れて。
『『『『『『何もかも、偽物だろう?』』』』』』
鏡の中から、〝俺〟が消えた。
「っ!」
カーネイジを両腕に展開し、大鎌を形成して氷柱を両断する。
だが、それは氷柱の中の〝彼ら〟の繰り出した攻撃によって弾かれてしまった。
鋭いナイフの一閃が、化け物の額から放たれた雷が、赤い弓兵の双剣が、ドリルのような剣が、漆黒の炎が、百足のような尾が。
「チッ!」
それら全てによって二本の大鎌は破壊され、俺は舌打ちしながら飛び退く。
部屋の入り口近くに着地して氷柱を睨むと、波紋を広げながら一人ずつこちらに
まず、黒いローブの男が髪から服まで全てを純白に身を染め、反してその手に持つナイフを漆黒に塗り潰した。
黄金の化け物がその体を黒くし、体に走る黒いアザとその色をまるっきり入れ替える。
弓兵の肌が赤い外套を消失し、白地に黒縁の戦装束を纏い漆黒の髪を揺らす。
赤と青の装甲に身を包んだ戦士が、その両の瞳を残して体を刺々しい黒へと変貌させ。
復讐の魔女が、黒い鎧を本来の彼女の原典のように白一色へと歪ませて、黒旗を白く翻し。
最後に出てきた青年が、中途半端に黒い白髪を黒一色に仕立て、トレンチコートから黄色の尾を伸ばして。
『『『『『『さあ、お前の存在を証明してみせろ』』』』』』
「──上等だ、解放者のクソッタレめ」
黒ナイフとカーネイジナイフを構え、異空間から百鬼夜行とカマキリを開放する。
エボルは使わない。これは、この試練は俺の──北野シュウジの実在を賭けた戦いだ。
『そうか。じゃ、死ぬ直前まで勝手にやれ』
ああ、そうさせてもらうよ。
「さあ、終末を始めようか」
シュネーの迷宮に用意された試練、その最後の──あるいは俺自身の、な。
紫の反対色って黄色らしいですね。
次回は他のメンバー。主役は焦らすのさ。