星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ハジメ「俺だ。前回から最後の試練が始まったな」

エボルト「作者は大樹の理想世界と同じくらい楽しみにしていたらしいな」

シュウジ「悪趣味だねぇ。さて、今回はハジメの回だ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる洞窟編!」」」


当然の帰結

 ハジメ SIDE

 

 

 

「……なるほど、改めて見ると酷い厨二だな」

 

 

 

 転移されてからやってきた部屋の氷柱を前に、自分の格好を見てぼやく。

 

 眼帯に白髪、黒コートに義手……もはやここまで厨二を極めてしまっていると逆に面白い。

 

「こりゃ確かに、日本だと居場所はないかもしれないな……」

 

 最悪アキバか代々木辺りに引っ越して、日々コスプレしてますと通すことになるかも。

 

 囁きの言うことがいよいよ現実になるか、と思うとさすがの俺も複雑な気分にならざるを得ない。

 

『いや、そういう意味じゃねえよ』

「……やっぱり出たな」

 

 落としていた視線を戻す。

 

 すると、自分でもわかる憮然とした顔──ではなく、呆れた顔の〝俺〟が氷柱の中にいた。

 

『動揺はなし、か……やはりシュウジのアドバイスは便利だな?』

「まあ、頭の中に攻略本を持ってるようなもんだからな。それでいくと、どうやらお前は俺の予想通りの存在みたいだな」

()()()()()()()()

 

 肩を竦める鏡の中の俺に、やはりかと口の中で呟く。

 

 全てじゃないということは、おそらく大樹の迷宮のように大迷宮の作った偶像ということだろう。

 

 

 

 俺の表情から思考を察したか、ニヤリと面白そうに笑う鏡の中の俺。

 

 次の瞬間、赤黒い光を両目が放ち、全身が塗り変わっていく。

 

 白髪は黒髪に戻り、日に焼けた肌は浅黒く。さらに厨二感を増し、服装も白を基調としたものに反転。

 

 一歩下がり、警戒心をあらわにドンナーのグリップに手をかけた、その瞬間。

 

 

 ドパンッ!! 

 

 ドパンッ!! 

 

 

 銃撃音が、二重に響く。

 

 抜き手は見せず、殺気も込めず、修練の賜物であるノーモーションでの抜き撃ち。

 

 

 

 そのはずが、奴は全く同じ動作、無気配、同タイミングでこちらに発砲してきやがった。

 

 ヘドロのように濁った黒色のスパークを纏うそれは鏡の中から飛び出してきて、俺の弾丸と相殺する。

 

 赤の閃光と黒の閃光。それは俺と奴の中間で衝突し、互いをひしゃげさせて地面に落ちた。

 

『はは、やっぱり同じになるよな。タイミング、思考、技、殺し方……全て同じだ』

 

 ニヤついた顔のまま、鏡の世界から奴が足を踏み出す。

 

 

 

 ここで脳天を狙っても同じことになる、そう思い奴が出てくるのを見過ごした。

 

 そして、現実へ侵食してきた奴はシュラークを左手に抜き、俺と同じ我流ガン=カタの構えをとる。

 

 そこで初めて発する殺気の濃度も同じ。どうやら何から何までコピーしてるってのは本当らしい。

 

 

 

『さあ、南雲ハジメ。お前は(南雲ハジメ)に勝てるか?』

 

 

 

 それが、試合開始の合図。

 

 共に全力で踏み込み、瞬時に取り出した黒と白のクロスビットが一斉砲撃されて轟音を奏でる。

 

 掃射は囮、本命は踏み込んだ右足を靴裏に錬成したスパイクで固定して軸にした回し蹴り。

 

 

 

 それさえも奴は同じ軌道を描いて打ち合い、更にそこからドンナーを構えて銃口同士がぶつかる。

 

「『死ね』」

 

 同時発砲。映画ならどっちの銃も腕ごと暴発するだろうが、ただ弾かれただけに終わる。

 

 その勢いさえも利用して、左半身に力の向きを流すとシュラークの引き金を引いた。

 

 

 

 またも同時。弾がひしゃげて力を失い、それが落ちる前に上段蹴りを放つ。

 

 金属のような音を立てて奴と俺の足が衝突し、豪風が吹き荒れた。

 

 全く影響を受けることなく俺が奴の頭に、奴が俺の頭に照準を合わせて引き金を引いた。

 

 

 

 頭をひねって躱し、また奴も同じ動きで回避して次の発砲を狙う。

 

 咄嗟に義手に錬成を発動し、手首からアザンチウム製のブレードを出して銃身をぶん殴った。

 

 叩き斬るつもりだったが、ドンナーの硬度は俺が一番よく知っている。故に、弾かれたコンマ1秒後にシュラークを撃つことも。

 

 

 

 それからも足技と銃撃をたくみ織り交ぜた攻防が続き、一歩も引かずに至近距離で撃ち合う。

 

 チッ、自分の力を知ってるからこそこんなに厄介な相手はいねえな。

 

『強ぇなぁ、本当に強い。とても人間とは思えないよなぁ、俺?』

「あぁ?」

 

 こいつ、何を殺し合いの最中にくっちゃべりやがる? 

 

 義手の手の平からニードルを射出し、俺とあいつの頬が裂けたところで奴のニヤけ面を見る。

 

『人を外れた力、血に塗れた両手、平気で人殺しができる心……(お前)の親や、美空の親父はなんて言うと思う?』

「……何を言いたい」

 

 ガンスピンでリロード。今度は貫通力に優れた弾。

 

 それで奴の義手の駆動系を打ち抜こうとするが、瞬時に錬成された床がせり上がって速度が落ちた。

 

 肘で弾丸が叩き落とされ、お返しに飛んできたニードルにコートの裾を翻して弾く。

 

『故郷に帰りたい、それがお前の根幹にある願い。だが、それが叶うと本気で信じているのか?』

「…………」

『日本は平和ボケの象徴みたいな国だ。人殺しには特に厳しい。言葉や精神的圧力で人を平気で殺すくせにな。いいや、だからこそ実在する力を持つものが恐ろしいんだろう。なのに、(お前)のような化け物……いいや、疫病神か。それを誰が受け入れる? 両親? 惣一さん?』

 

 奴の言葉に応答することなく、シュヴァルツァーを召喚して俺ごと上から爆撃させる。

 

 おまけに宝物庫から大量の手榴弾をばら撒いたが、嗤ったままの奴は俺と同時に〝金剛〟を発動して耐えた。

 

『誰も受け入れない。(お前)のような身も心も怪物に成り果てた者は、恐れられるだけだ!』

「よく回る口だな」

『故郷に、家族に、居場所に拒まれることが怖いんだろう!?』

 

 お前は舞台役者か、とツッコみたくなるような大仰なポーズで奴が叫ぶ。

 

 シュヴァルツァーを複数出して二つずつ接続し、同じようにペアになったものを奴の周囲に幾つも飛ばす。

 

 ゲートを開いてあちらに発砲するも、奴は至近距離で白いシュヴァルツァーを出して同じ手法で相殺した。

 

『だから畑山愛子の言葉に心打たれた。彼女の言う〝寂しい生き方〟であることを肯定し、心の奥底にあった疑念を解消して安心した!』

「…………」

『だが、それがどうした! それで(お前)の行いが清算されるとでも!? されない、されないぞ! だってお前は、殺人(それ)をわずかにでも恐れてるんだからな!』

 

 眉根が寄ったことを実感した。

 

 ただその実感を認識した一瞬、それで奴はゲート越しに蜘蛛ゴーレムを飛ばし、爆発させてくる。

 

 そんなものは躱せるが、その爆炎を隠れ蓑に飛んできた黒い閃光は俺の左脇を掠め取っていった。

 

 

 

 僅かな痛み。されど、確かな負傷。()()()()()()()()()()()()

 

 奴は笑みを深め、攻撃を激しくしながらさらに言葉で畳み掛けてくる。

 

『ユエがいて良かったよなぁ。だって、もしも変わったお前を見て美空が拒絶した時……あいつさえいれば縋れるものな?』

 

 脇の傷は、ウサギのパーカーにも仕込んだ裏地に刻んだものと同じ回復魔法の陣を使えば治る。

 

 奴はそれを知っている。だからこそ至近距離に踏み込んできて、また至近距離での攻防を余儀無くされる。

 

『ウサギだってそうだ。お前のせいであいつは自分で死んだ、そうしてまで自分に尽くしてくれるあいつなら受け入れてくれる……結局のところ、お前のあの二人への想いは、ただの依存──』

「──本当に、よく回る口だ」

 

 

 

 奴のドンナーとシュラークを、膝で蹴り上げた。

 

 

 

 一瞬のみの身体強化でのスペック向上。それで虚を突かれ、瞠目する奴の動きは止まる。

 

 だから俺は、なんの捻りもない左ストレートを奴の顔面にぶち込んだ。

 

『ごぁっ!?』

「ふっ!」

 

 そのまま腕を振り抜き、奴が何か対応をする前に肘を流れるような動きでたたき込み。

 

 駄目押しに炸裂スラッグ弾と衝撃を重ね合わせ、奴を元の住処である氷柱にぶつけてやった。

 

「ふぅ……気をつけなくちゃな」

 

 これは何かと負担の多い連続技だ、関節にガタがくる可能性が高い。

 

 後で点検することを決心しながら、顔を抑えて混乱している奴を睨みつける。

 

 

 

「さて。試練の性質上そうならざるを得ないんだろうが、口上に酔いすぎだ。そんな暇があったら、一回でも多く相手の隙を作り、殺せ。俺らしくもねぇ」

 

 所詮、迷宮がコピーして用意しただけの偽物、進歩というものがない。

 

 俺の心を抉ることばかりで、物理的、戦略的に勝とうという意思が全く感じられなかった。

 

『動揺、していたはずだ。今度こそ……俺の言葉は、お前の側面そのものなのだから』

「そうだな、確かに耳が痛いよ。まるでシュウジに大声で黒歴史ノートを読み上げられた時くらいの苦しみだった」

 

 今でもあの屈辱は忘れねえ。思い返してみれば、あの事件が初めてあいつを一本背負いした瞬間だった。

 

 どうでもいいことを思い出していると、立ち上がった奴は俺への精神攻撃が効いていないことを理解した顔だった。

 

『じゃあなんで……』

「その一。言われるまでもなく、そんなことは俺がよく自覚してんだ」

『自覚?』

「帰還への渇望に恐怖の一面があることも事実。先生の言葉に救われたのも事実。美空に切って捨てられてもユエがいる、そう思ったのも事実。命を捧げてくれたウサギがいる、それもまた事実」

『なら、なぜ怯えない? なぜ揺るがない? 人間は自分の醜さを受け入れられない生き物だ。それに直面した時、目を閉じ、耳を塞ぎ、蹲って喚き散らす。無理やり向き合わせれば、それこそ壊れるほどに脆い生物だ』

「その二。お前、墓穴掘ってるぞ。〝全てじゃない〟と言っていたが、俺じゃない()()()()の部分が強くなってきてるな」

『…………』

 

 ペラペラと大真面目な顔で説教していた奴は、口をつぐむ。

 

 それが何よりの肯定の証だ。

 

「その三。これまでのお前の言葉への答えだが──だからどうした」

『っ!』

「んなことを今考えて、なんになる? 今すぐ親父とお袋や、惣一さんに〝今の俺はどうですか? 〟なんて聞けんのか? 無理だろ?」

『それは……』

「俺は進む。どんな未来が待っていようと、絶対にぶつかって乗り越える。俺の恐怖、誰かの恐怖。それさえも些事として、構わず故郷に帰る。それだけのことだ」

 

 現状、どうやったって不可能なことなんて考えるだけで時間の浪費だ。

 

 俺には時間がない。少ない時間を有効活用し、無駄な思考は切り捨ててやるべきことをやる。

 

 そのうち直接手を出してくるエヒトの相手をしなきゃいけないし……あのジジイとの約束がある。

 

 それに……

 

「そして四。俺にはそんな遠い未来の話より、ずっと差し迫った問題があるんだ」

『差し迫った問題?』

「お前の言う、この疫病神みたいな力でエヒトとあいつの操る《獣》をぶっ殺す。そんで概念魔法であいつから──シュウジから抹消をひっぺがして、あいつを解放する」

 

 それが、今の俺にとって何より優先すべき〝目標〟だ。

 

『っ、それはお前が受け入れられるよりもっと……!』

「言っただろ、()()()()()。最終的には地球に引きずっていった後に八重樫と子供でも作らせて、普通に幸せな人生を送らせるとこまで持っていきたいな」

 

 そのためにはもっと力がいる。

 

 結果的に大変なことが将来に山程あろうが、そんなのはそん時の俺に丸投げだ。

 

 俺は、今の俺にできることを一つ一つ、全力でやり遂げていく。

 

 

 

 確定しない不安要素を気にして、できたことをできないまま今を失う、そんなのは御免被る。

 

『……要するに、全部ぶん投げて開き直っただけか』

「そういうことだ。ああ、あと一つ訂正しろ。ユエ達へのことは確かにないとは言わないが、せいぜい一厘程度だ」

 

 あいつらをそういう風に思ってるのなんて、俺が一番わかっている。

 

 だがどうした。それで俺がユエやウサギと……何より美空と向き合うことを恐れて逃げると? 

 

 

 

 ありえない。

 

 そんなことをするくらいなら、むしろ俺はダメ男だから支えてくれと恥も外聞もなく言ってやろう。

 

 だから、一厘。

 

 残りの九割九部九厘は愛情である。たとえこいつが俺のコピーだろうとそこは譲らない。

 

『……せめて一割にしとけ』

「無理だ。さて、実の所こうして目を離している隙にまたあの大馬鹿野郎がクソみたいな力を使ってないか心配なんだ。さっさと死ね」

 

 呆れる奴に、俺は()()()()()()()()()()をさらに一段階上げて襲いかかる。

 

 奴も当然応戦し、また攻防が繰り広げられるが、すぐに俺の優勢になっていった。

 

『くっ、何故! 俺が弱体化したわけでもないのに!?』

「ああ、やっぱそういう仕様か。ま、ただ暴論で問題を塗り潰しただけだしな」

 

 おそらく負の感情を克服すればこいつが弱くなるのだろうが、多分そんなことはない。

 

 俺の場合、ただとりあえず目先の問題から潰すという非効率的なやり方を選んだだけなのだから。

 

 理論も何もない、ゴリ押しの力押し。古今東西物事を最終的に進めるときはそれが一番なのだ。

 

『こんな、メチャクチャな試練の攻略法があったものか!?』

「実際目の前にあるだろ。それにな、多分お前はこの部屋に来るまでの俺だろう? なら、これまでの攻防でスペックの破れたお前程度、()()()()なら簡単に上回れる」

 

 いつだってそうしてきた。

 

 

 

 爪熊の時も、銀のリザードマンも、ミレディの時やその他だって全て。

 

 

 

 理不尽極まる全てに食らい付き、理解して解析して、成長してきた。

 

 

 

 ひとえに、願いを果たすために。

 

 

 

「〝腹を満たすには理想が必要だ。手足を動かすには願望が必要だ。走り抜くためには、溢れかえるほどの覚悟が必要だ〟」

『っ、それはっ!』

「知ってるだろ? 何十年も前の失敗で耄碌したらしいジジイからの受け売りだ。俺にもそれと同じ意地がある」

 

 この飢え続ける腹を、目の前にある手段、思想、全てを使って満たせ。

 

 拳を振るうため、走り続けるため、この理想が遂げられることを願って願って願い続けろ。

 

 最後まで走り切り、思いを貫くために何もかもを奪い取り、失わない覚悟をしてみせろ。

 

 だから、そう。

 

 

 

 

 

 この意地っ張りだけは、他の誰にだって負けるものか。

 

 

 

 

 

『ハッ、その我の強さを見誤ったのが敗因か……それさえ分かっていれば、俺も動揺させる手段をもっとうまく考えたのにな』

「最初からねえよ。これで最後だ、死ね」

 

 奴に向けて、全力の攻撃を見舞う。

 

 最初の一撃に似た、凄まじい轟音。

 

 後に残ったのは無傷で立つ俺と、下半身や武器、義手などが吹っ飛んで地面に転がった奴。

 

 

 

 奴は何やら、とても満足そうな顔で──それが無性にムカついたので弾丸を入れた。

 

 三発ほど撃つと、ビクンビクンッと震えた奴は俺を不満げに睨みあげ、陽炎のように揺らめいて消えた。

 

『最後くらい空気を読みやがれ……』

「誰が読むか」

 

 最後の苦情に応え、ドンナーをホルスターに収める。

 

 その瞬間、正面の氷壁がにわかに溶け出して新しい通路ができた。

 

「さて。いよいよゴール……いや、その前にシュウジだけ探しておくか?」

 

 何をするかわからん親友を探そうか、などと思いながら俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 試練の難易度はまあ……当然の帰結、ってところだったな。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

ぶっちゃけハジメと他数名は読者様の誰も心配してないと思う()
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