星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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キリのいい数字で完結を目指して。

雫「こんにちは。前回は私が戦ったわね。かなりの強敵だったわ」

ハジメ「その割に苦戦はしてなかったな」

雫「当然よ。私の想いはそんな簡単に曲がらないんだから」

シュウジ「嬉しいねぇ。さて、今回はウサギ、あと美空の話だな。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる洞窟編!」」」


苦悩を超えて 前編

 ウサギ SIDE

 

 

 ──いつまで目を背けるの? 

 

 

 ……わかってる、それがダメなことなんて。

 

 

 ──いずれは言わなくちゃいけない。なのに先延ばしにし続けるの? 

 

 

 ……うん、できないよね。それもわかってる。

 

 

 

 それでもやっぱり、ハジメ達にこのことを打ち明けるのは……とても、怖いよ。

 

『じゃあ、あなた(わたし)は臆病だね』

 

 真っ黒なわたしから放たれた掌底を、強く握りこんだ拳で打ち返す。

 

 その瞬間に衝撃が弾け、また部屋の壁に一つ大きな亀裂が刻まれたのが見えた。

 

「はっ!」

『ふっ!』

 

 続けて左の拳を繰り出すけど、それは同じように出された右の拳で相殺してしまう。

 

 真っ黒な服に、同じ色の髪と耳。それなのに肌と手足に纏うアーティファクトだけは底抜けの白。

 

 

 

 もう一人のわたしは、純白のガントレットに包まれた拳を胸に押し込んでくる。

 

 わたしは少し顔を歪めて、月の小函(ムーンセル)の出力を上げることで徐々に押し返す。

 

『ほら、また使った。どんどん体が弱るよ?』

「……っ!」

 

 拳を弾き、蹴りを放つ。

 

 鼻から下を吹き飛ばすつもりで放った上段蹴りは、下からすくい上げるような膝蹴りでブレた。

 

 ほんの少し動揺してしまって、その瞬間くるりと跳躍して舞った〝わたし〟の回し蹴りがお腹に入る。

 

 もろに食らって吹っ飛び、後ろの氷壁にぶつかった。肺から空気が抜けていく。

 

「かふっ……」

『遅い。もっと早く動けるはず』

「……うん、そうだね」

 

 こんなものじゃ、わたしの全力のスペックには程遠い。

 

 

 

 月の小函(ムーンセル)の魔力を流してパーカーで内臓を癒し、立ち上がって構える。

 

 すると、黒いわたしは普段全然動かない顔を哀れそうに笑わせて、くすくすと笑う。

 

『あと何回使える? その無限の力にあなた(わたし)はどこまで耐えられる?』

「……とりあえず、あなたをぶちのめすまでは」

『うん、多分それはできる。でも、()()()()()()()()

 

 また、心に波が立つ。

 

 わたしの一瞬の動揺を見逃さず、瞬きする間に目の前に黒いわたしが現れた。

 

 

 

 拳を引き絞っている彼女に、咄嗟にその場でしゃがみこんで股の間から逃れる。

 

 ズン、と遅れて地面に衝撃が伝わってきて、体勢を立て直しながらさっきまでいた場所を見る。

 

 彼女の拳が氷壁に突き刺さって、放射状に凄まじい破壊痕が残っていた。

 

『すごい力。でも、大きな力にはリスクが付きまとう』

 

 彼女はゆっくりとこちらを振り向く。

 

 そして、さっきみたいに笑って。

 

 

 

『ねえ、あなたはその自壊にどこまで耐えられる? ──短命のホムンクルスさん』

 

 

 

 そう、何度目かの嫌がらせを口にした。

 

 

 

 ……そう。

 

 わたし達ホムンクルスは人造生物。解放者であるお父さん達によって作り出された不自然な命。

 

 それぞれの神代魔法に特化した肉体構造を持ち、絶大な戦闘能力を発揮することができる。

 

 

 

 たとえばわたしは、無限に魔力を生成する神結晶である月の小函(ムーンセル)の出力に耐えれるよう調整が施されている。

 

 フィーラー(お兄ちゃん)のデータをもとに作られた強靭な肉体、優れた魔力回路、戦闘特化の体。

 

 

 

 それ故に──この体は、とても短い時間しか生きることができない、いわば消耗品。

 

 戦闘型としては最高傑作であるわたしでさえも、月の小函(ムーンセル)の力には耐えきれない。

 

 使わなければいいというものでもなくて、生命力そのものだから少しずつ体は壊れていく。

 

 何度か戦闘でも月の小函(ムーンセル)を使っているから……多分、稼働時間はあと二年くらい。

 

『オルクスや、この大迷宮を含めた他の大迷宮の中ならば、肉体が停止しても魂魄は保護される。でも、外ではそのまま霧散して終わり』

「……」

 

 もしも外界で停止したら、いくらハジメ達でも数ヶ月程度の修練では、わたしの魂を保護できない。

 

 つまり、ハッターお姉ちゃんやその能力を今は抑えているカエルは、それを承知で外に出たのだ。

 

 わたしだって同じ覚悟を持っているつもりだったけど。

 

 

 ……こうして目の前に生まれてしまっているんだから、認めないといけないよね。

 

あなた(わたし)は、心の底では消えてしまうことを恐れてる。だって、ハジメに出会ってから全てが楽しすぎたから』

「……そう、だね。あの時ハジメに出会わなかったら、きっとこうは思わなかった」

 

 肉体が安置されていたオルクスなら自由に魂だけで移動できるから、魔物の体で迷宮の中を彷徨い歩き。

 

 そして、たった一人ぼっちでいたハジメに出会って……わたしの退屈な悠久は終わりを告げた。

 

 

 

 目覚め、ハジメ達と旅をして、わたしの中には掛け替えのない記憶(メモリー)が蓄積されていった。

 

 色々なものを見て、聞いて、感じて、味わって……奈落の底にない彩りを知ってしまった。

 

 わたしは、素晴らしいこの彩りを永遠に消してしまうことが、とても怖い。

 

 

 

 そして、ハジメ達と一緒に地球に行くということはそれを意味している。

 

 それこそ本物の人体でも錬成できない限り、わたしの魂はいずれ必ず消滅するだろう。

 

『だからハジメ達に黙っていた。旅の中で大迷宮を攻略するなら安心と自分を誤魔化して、停止する恐怖に怯えていた。だからこそシュウジにはあの力を使っても強くは言わないよね?』

 

 ……結構、心が痛いなぁ。

 

 

 

 確かに、迷宮という安全策があるとはいえ同じ境遇であるわたしは罪悪感を感じていた。

 

 このことを言っていないわたしには、シュウジのことを責めるのはお門違いだと思ってるから。

 

 きっと、なんでも知っているシュウジはわたしの秘密も解っていて……でも、優しいから言わないでいてくれる。

 

『シュウジの好意に甘えて、ハジメ達といる心地よさで自分を紛らわせて。とっても臆病だ』

「……うん」

 

 これが、私の恐怖。

 

 臆病者の自分を嫌だなって思う、そんな心が……この試練をわたしに用意した。

 

「でも……わたしはこうも思ってるんだ」

『なに?』

「ハジメに、魔物の体を食べさせたあの時から──きっとわたしは、わたしの時間の全てを捧げたんだって」

 

 まだワイルドじゃなかった時のハジメは、迫る死の恐怖に怯えていた。

 

 そんな彼に生きる希望を与えるために、仮初の体を捨てて……あの時、わたしは決心した。

 

「本当のわたしの体で目覚めて、それからもしも外で停まって消えた時は──その時は、笑ってさよならって言えるように生きようって」

『……ハジメ達を悲しませることになっても?』

「それでも、わたしは一緒に生きたいと願ったから。そのくらいの覚悟、どんとこい」

 

 どん、と自分の胸を叩く。

 

 

 

 この記憶が消えてしまうことは怖いし、悲しいけど……本当に大切なら、ハジメ達も覚えていてくれるはずだから。

 

 だからそれを信じて、わたしは生きていく。このエヒトのせいで窮屈だけど、愛おしい世界で。

 

 その覚悟と一緒に黒いわたしを見ると、とても優しく微笑んでいた。

 

「今はまだ、怖いけど。いつかこのことをハジメ達にも伝えるよ」

『きっと、お父さん達が生きてたらこう言うよ。〝成長したね〟って』

「そのうち、聞くよ」

 

 いつか、お父さん達のところに行ったときに。

 

 

 

 体を構えて、右の拳を引き絞る。

 

 今日は最後の月の小函(ムーンセル)を起動し、桃色の魔力を雷として纏った。

 

 黒いわたしも同じ構えをして、赤黒い雷を右手に纏う。

 

『あなたは怯えを克服した。これでこの試練は終わり』

「ん。全力でいく」

 

 最後の言葉と一緒に、わたし達は駆け出した。

 

 

 

「『出力100%──兎破(とうは)』」

 

 

 

 最大出力、手加減なしの一撃。

 

 それを確実に当てるため、瞬きもせずに二つの雷が衝突し合うのを目を見開いて注視した。

 

 莫大なエネルギーと暴風が吹き荒れる中、弱くなった黒いわたしの腕を破壊し、わたしの拳は突き進む。

 

 

 

 そして、黒いわたしの胸を拳が貫いた。

 

 妙にリアルな破壊の感触を感じた直後に、黒いわたしの輪郭がぼやけ始める。

 

『……これからのあなたの旅に、幸福があらんことを』

「……ありがとう」

 

 消えた。

 

 

 

 拳を形作っていた指を解き、月の小函(ムーンセル)を停止させてゆっくり降ろす。

 

 体に違和感はほとんどない……多分、乱発しなければそんなに傷まないはず。

 

「ん、出口はあっち。ハジメ達はいるかな」

 

 一応、詳しくは教えられてないけど感覚で大迷宮のことはわかる。

 

 迷いなく後ろを振り向いて、そこにできていた出口を使って試練の部屋を後にした。

 

 

 

 しばらく通路を歩いていると、前の方に出口が見えてくる。

 

「ん、別の部屋……?」

 

 出た先はゴールじゃなくて、わたしがいたのとほとんど同じ形の部屋だった。

 

 わたしの所と違って傷一つない部屋の中には、わたしの姿が映り込んでいる。

 

 

 

 誰の試練だろうと見渡していると、ぽつんと部屋の隅っこに蹲っていた。

 

 膝に顔を埋めているその子に歩み寄って、様子を見てみる。

 

 とりあえず怪我とかはしてないみたい。ちょっと安心。

 

「美空」

「……ウサギさん?」

「ん。試練は終わったの?」

 

 美空は、とても複雑そうな顔をした。

 

 ……そっか。迷路の時からもしかしてって思ってたけど、ハマっちゃったんだね。

 

「大変だったんだ」

「……まだ何も言ってないし」

「でも、そんな顔してる」

「…………」

 

 美空は黙って顔を戻して、わたしは隣に座る。

 

 しばらくボーッと天井を見上げて待つ。あ、前髪にゴミがついてる。

 

「……私の偽物にさ。言われちゃったんだ」

 

 ん、話してもいい気になったみたい。

 

「なんて言われたの?」

「〝私がいる価値ってあるのかな? 〟ってさ。ユエさん達みたいに強いわけでも、香織みたいに新しい力もない私は、ただずっと一緒だったってだけで、こんなとこまでついてきて良かったのかなって……」

「……そうなんだ」

 

 確かに、わたし達に比べて美空は弱い。

 

 回復魔法の応用技も開発していたけど、それでも戦えるかと言われると、たぶん違う。

 

 そのことは多分、美空が一番わかってる。

 

「私の偽物、すごく弱かった。私が目を逸らすほどに強くなるって言ってたのに、簡単に殺せて……私は……」

「……頑張ったんだね」

 

 よしよし、と頭を撫でてみる。ハジメにこれをされるとふわふわした気持ちになる。

 

 美空はちょっと驚いたみたいだけど、目尻に浮かんだ涙を見せないためにまた顔を隠した。

 

「……もう、わかんないよ。私はただ、前みたいにハジメの側にいられたらそれでよかったのに」

「それの何がいけないの?」

「え?」

 

 美空が顔をあげる。やっぱり泣いてる。

 

「美空。あなたは、なんであの時ハジメと一緒に行くことにしたの?」

「なんで、って……それは、ユエ達にどんどん持ってかれそうだし。それにハジメは、私がいなきゃダメなとことか……」

「そう。戦うためじゃないよね?」

 

 美空がハッとした。

 

 

 

 この子は今、とてもへこんでいる。もしかしたら心がぽっきりいってるかも。

 

 それは最初から強い力を持って生まれてきたわたしには分からないことで、慰めるのは無理。

 

 でも、その考え方が迷宮の試練で変な方に偏っちゃってるのだけはわかる。

 

「あなたは戦うためにハジメの隣にいるんじゃない。隣にいたいからここまで来た。同じ魔法を使える香織が強くなっても、面白いって笑ってた。忘れちゃった?」

「…………」

「思い出して、自分の歩く理由を。たとえどんなおかしな言い方をされても、大事な理由を見失わないで」

 

 それが目的なんだろうけど、美空はハマっちゃった。ホールインワン。

 

 嫌なところだけを並べて、それだけが正論みたいな言い方をして、心を曲げさせてしまうこの試練。

 

 それは確かにわたし達が思っていることだけど、それだけを考えるのに頭を使うのはもったいない。

 

「美空。あなたは何のために、ハジメといたいの? 一緒に敵を倒すため? それとも支えたいから?」

「……そんなの決まってるじゃん。私がずっと、ハジメの〝特別〟でいたいからだし」

「ん、よかった。いつもの笑い方」

 

 これでハジメに合わせても安心。多分すごくオロオロすると思うから。

 

 また頭を撫でてくれるかなって考えてたら、美空が寄りかかってきた。

 

「ね。もうちょっと休んでいいかな」

「……わたし、香織じゃないよ?」

「うん、私達のことをどう思ってるのか問いただしたいけどその通りだからツッコめない」

 

 

 

 

 

 もうちょっと美空が元気になったら、行こうかな。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回、いよいよあの二人が……
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