星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

218 / 354
シュウジ「俺だ。前回はあれだ、砂糖摂取するだけの話だったな」

雫「龍太郎、大胆じゃない」

龍太郎「おう、一世一代の大勝負だからな。これからもこの姿勢でいくぜ!」

ハジメ「谷口が羞恥で悶え死にそうだな。さて、今回はあの変態の話だ。それじゃあせーの、」


四人「「「「さてさてどうなる洞窟編!」」」


苦悩を超えて(with変態) 後編

 

 三人称 SIDE

 

 

 

 無事、最後の試練を終えた二人。

 

 

 

 鈴は己の嘘を克服し、龍太郎は溢れ出る思いを盛大に暴露した。

 

 その結果……

 

「えへへぇ〜、龍っち〜」

「ちょ、おい鈴。くっつきすぎだろ」

「だってこうしたいんだもん。誰かさんがずっともう一回告白してくれなくて、やきもきしてたんだからね」

「うっ……」

 

 盛大にイチャついていた。

 

 これまでの偶発的なものとは異なり、自ら龍太郎の大きな体に抱きついて甘える鈴。

 

 当の龍太郎は初めての彼女にどうすればいいのかわからず、抱きしめ返すことすら不可能。

 

 見事にヘタれているわけだが、すんなりできるならあそこまで告白を躊躇したりはしない。

 

「け、けどなぁ。俺にも理由があったんだよ」

「理由?」

「こう、昔から惚れたかもって思った女はだいたい彼氏がいたり、告白なんてできずにいるうちに他の男に持ってかれたり……」

「いやそれ、ただのヘタレじゃん」

「容赦ねえな!?」

 

 無論である。これからは笑顔でなんでもやり通すのはやめると誓ったのだから。

 

 あと昔他に好きな人がいたと聞いてちょっとジェラシーが混ざってたり混ざってなかったり。

 

 要するに彼氏彼女のテンプレなやりとりなのでランサーも食いません、以上。

 

「お前、なんか吹っ切れたか?」

「まあね。龍っちのおかげでもあるから、一応ありがと」

「お、おう?」

 

 訳が分からず困惑する龍太郎に、ふと鈴の頭の中に閃きが生まれた。

 

 なので、ちょっとだけ離れて、ツンツンと指を突き合わせながら龍太郎を見上げてみる。

 

「あー、でもかなり疲れちゃったから……えっと、その」

「そいつは大変だな、っと」

 

 彼女の言わんとするところを昔よりいくらか回る頭で察し、行動に移す龍太郎。

 

 鈴の背中と膝裏に手を回し、先ほどまでの戦いの疲れも見せずに軽々と彼女の体を持ち上げてみせた。

 

「わわっ……えへへ」

「これでいいか?」

「うん。やればできるじゃん、龍っち」

「ま、お前の……か、彼氏だしな」

「う、うん……」

 

 頬を若干赤くし、そっぽを向く龍太郎。つられて鈴も彼の胸に顔を埋めて隠す。

 

 

(うみゃ──っ! なにこれなにこれなにこれ! 彼氏って響きが嬉しすぎてニヤけちゃいそう! ていうか待って? 龍っちカッコいい上に可愛くない? 大丈夫鈴、これから先ちゃんとお付き合いしていける?)

 

 

 かなりテンションの上がっている鈴だった。

 

 震える鈴を、かなり試練が大変だったのだろうと勘違いした龍太郎はなにも言わなかった。

 

 

 

 少し部屋の中を見回し、出口の通路を見つけたら鈴を抱えながらそちらに歩き出す。

 

 迷宮の配慮か、あるいは偶然なのか通路の中鈴をお姫様抱っこしても十分な横幅があった。

 

「鈴はどうやって俺のとこに来たんだ? こうやって通路が開いたのか?」

「うん。その向こうから龍っちの声が聞こえてきたから、もしかしているのかなって」

「なるほどな。とすると、もしかしてこの先にも他の誰かがいるんじゃねえのか?」

「そうだと嬉しいな。鈴、魔力はともかく体力はすっからかんだから……」

「俺もゼリーがこれだし、戦いたくはねえなあ」

 

 最後の虚像の攻撃で、見事に氷の塊と化したスクラッシュゼリーを見る龍太郎。

 

 手の中にあるそれを見ていると、不意に氷塊の中で潰れて中身の出たゼリーが輝き出す。

 

「ん? なんだこ……うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 突如、内側から黄金の光が溢れて氷塊が砕ける。

 

 思わず立ち止まった龍太郎に鈴が抱きつき、二人で恐る恐る手の中を見た。

 

 

 

 そこにあったのは、まるで氷から削り出したかのような、半透明のフルボトル。

 

「なんだこれ、ボトル?」

「龍っち、そんな力も仮面ライダーって持ってたの?」 

「いや、そんな話は聞いてねえが……」

 

 ひんやりと冷たいフルボトルに二人で首をかしげるも、答えは出ない。

 

 仕方がなしと後でシュウジに調べてもらうことにして、また通路の奥へと歩き始めた。

 

 

 

 二人が進むにつれ、前方の氷壁が溶けて道ができていく。決して熱で溶けているわけではない。

 

 できればハジメ達と合流したい、という二人の内心に答えたのか、通路が完全開通した先にいたのは……

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 部屋に入った途端、二人を衝撃と魔力の本流が襲う。

 

 咄嗟に龍太郎が体を捻って大きな体で鈴をかばい、それに鈴の胸がキュンと高鳴った。

 

 しかし、二人の体を揺らしただけでそのエネルギーは実害を及ぼすことなく、二人はもう一度部屋の中を見る。

 

 

 

 

 

 すると、先の力の発生源はそれぞれ黒と純白の閃光を放つ、二人のティオだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 互いに凄まじいブレスを放ち、黒い本来のティオと白いティオが一歩も譲らぬせめぎ合いをしている。

 

 相変わらず桁違いな力に、彼女の中身はどうあれ圧倒される龍太郎と鈴。ティオの中身はどうあれ。

 

『ふふふ、感じるのじゃ。()の憎しみと怒りを。恐れと諦めを。何百と時が過ぎようと忘れられぬあの悲劇、守っていたはずの者共からの裏切り。侮蔑、畏怖、虐殺、陵辱……皆がそれらにさらされた』

「……」

 

 虚像のティオが、悪意に満ちた顔と共に部屋の中に明瞭に響き渡る声で告げる。

 

 ユエやシアの境遇を以前に聞いていた外野の二人は、ティオもまた暗い過去を背負っていたことに驚いた。

 

 

 

 それは、今より五百年前の話。

 

 大迫害と生き残りの竜人族の間で言われるその惨劇は、誇り高き竜人族達の滅亡の歴史だ。

 

 竜人族は少数だった。故にこそ彼らの意思は統一され、誰もが崇高な道徳と善性を持ち合わせていた。

 

 

 

 無力な者を守り、弱者に手を差し伸べ、邪悪を討つ。

 

 

 おとぎ話のような理想の国だが、真実かつては存在したのだ。

 

 最強にして最高。誰かがその多種族共生国家をそう呼んだ。誰もが彼らを尊敬し、〝真の王族〟と讃え。

 

 

 

 ──しかし、邪神の仕組んだ盛者必滅には抗えなかった。

 

 その身を竜と成す力を魔物の力とされ、それは瞬く間に人々の中に浸透した。まるで病原菌の如く。

 

 過去の功績、高潔性など関係ない。一度恐怖さえ生まれてしまえば、人は最も残酷になってしまえる。

 

 吐き気を催す邪悪が絡んでいたとなると、その結果は尚更だ。

 

()よ。北野殿から《獣》との戦いで神山ごと教会が破壊されたと聞いた時、心の底で歓喜したろ?』

「……」

『爽快だったろ? 快感だったろ? あの時の大迫害も、各国を束ねていたのは教会じゃったからのう』

 

 人とは、()()()()()()()()()()()()()獣である。

 

 理屈をつけ、理由を作り、倫理を捻じ曲げ、正しいとさえ思えればなんだってする生物だ。

 

 まさしくあの時の彼らはそうであり、それを操っていた教会は……まるで、飼い主。

 

 

 

 それらが全て死んだと聞いた時──虚像の言う通りに、ティオは昏い喜びを覚えたものだった。

 

 本当は王国に行ったのも、国民を救うのではなく、教会の総本山である神山の滅亡を見たいがため。

 

 そう言外に告げる虚像に龍太郎と鈴が目を剥き……当の本人は、無言でブレスを放つ。

 

 

 

 反論しない様子に、我が意を得たりと虚像は言葉を連ねた。

 

『最初に彼らについていこうと考えたのも、使()()()からじゃったろう? それほどまでに彼らは異常なほどの力を持ち、そして神を殺すことを目的の一つと定めていた。ならばついてゆけば、結果的にあの不自然な大迫害──その黒幕たる神に弑逆できる可能性が高い。そう考えたのじゃろう』

 

 悪意を塗りたくり、善意を塗りつぶす黒い言葉の数々。

 

 あまりに普段の姿からかけ離れた言葉に何度目とも取れぬ驚愕を龍太郎達は禁じ得ない。

 

 

 

 だが、それが嘘ではないことを彼ら自身何より体感している。

 

 ほんのひとつまみでいいのだ。自覚すらままならないほどの悪意さえあれば、それは深層にある本意となる。 

 

 被虐趣味の変態、されど理知的で優しいティオとはあまりに乖離した悪意ではある、が。

 

「ティオさん……」

「そんなことが、あったのかよ……」

「…………」

 

 思わず言葉を発した二人にティオが気が付き、振り向く。

 

 その表情は無。喜色も包容力も知性もなく、ただひたすらに、無。

 

 二人の体に、悪寒が走った。

 

『人、亜人、魔人、神。何もかもを簒奪した彼らが心底憎い。それは正当なもの。正当な()の権利──ならば委ねてしまえ!』

 

 白の閃光が、僅かに黒を押した。

 

 均衡が一方に傾いたということは、虚像の言葉がティオに作用しているということ。

 

 

 

 ティオは覚えている。

 

 両親の誇り高く高潔であれという言葉を。

 

 あの最後の日でさえも、一族の生き残りを逃がすために戦い、最後まで己の誇りを証明した。

 

 ならば己の心を復讐の炎に抛つこと、それすなわち──あの最後の日、己を抱きしめた父への背信である。

 

 

 

 その罪悪感に駆られたか、弱まったティオの力に嗤う虚像がもう一方の手を差し出す。

 

『この手を取れよ。さすらば妾がその復讐を果たさせてやる。なあに、もうその業火を沈める必要はない。復讐の牙を剥け、南雲ハジメをうまく誘導しろ。なに、一度懐にさえ入れれば甘い男。少なからず想われている今ならば──』

「ダメだティオさん! 耳を傾けるな!」

「しっかりしてティオさん! 負けちゃダメぇ!」

 

 叫ぶ二人の声は無力に、白いブレスはいよいよ勢いを増していく。

 

 ティオの心を折り、その在り方を変えさせようとする虚像の言葉はなおも効力を発揮する。

 

 

 

 いざとなれば、龍太郎はブリザードナックルを片手にあの場に突っ込もうとすら考え始めた。

 

 それは鈴も同じこと。たとえ普段は変態だろうが、それでも彼女にそんな風に変わってはほしくない。

 

 

 そんな、二人の想いに応えるように。

 

 

 

 

 

「──我等、己の存する意味を知らず」

 

 

 

 

 

 透き通るようでいて、とても静かな声がティオの口から響いた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「この身は獣か、あるいは人か。世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは何処に」

『その、言葉は……!』

 

 それまで狂笑を浮かべていた虚像が、何かに気が付いたようにハッとする。

 

 同時にそのブレスの侵攻が止まっており、外から見ていた二人が反応する。

 

「答えなく、幾星霜。なればこそ、人か獣か、我等は決意もて魂を掲げる」

『っ、これは、力が……何がきっかけで、ありえぬ……!』

 

 白が、押された。

 

 黒のブレスがグンとその勢いを増して、詰められた距離を戻すにとどまらず、押し返す。

 

 虚像はそれが、まるで今この瞬間衰えている自分の力のメーターのようにすら思えた。

 

 

 

 だが、不可解だ。

 

 これまで何の反論もせずに粛々と己の言葉を受け止め、心に黒い穴を徐々に広げていたのに。

 

 なのに、これといって何のきっかけもなく……あの言葉とともに、一気にその心を強めていったのだ。

 

 

 

「竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る」

 

 

 

 我が黄金の瞳は人に非ず、されど獣に非ず。

 

 恐怖するものいるならば、同じほどに誠を以って真を見抜かん。

 

 

 

「竜の牙は己の弱さを噛み砕き、憎悪と憤怒を押し流す」

 

 

 

 強き力は破壊に非ず、獣の体は刃に非ず。

 

 憎しみを恐れよ、怒りを恐れよ。

 

 恐れて、喰らえ。

 

 

 

「仁失いし時、我等はただの獣なり」

 

 

 

 心を律せよ。無辜の民を守れ。

 

 それすらできぬ者、汝の全ては獣と在ると知れ。

 

 

 

「されど、理性の剣を振るい続ける限り──我等は竜人である!」

 

 

 

 ティオは吠えた。

 

 我は人に非ず、されど獣に非ず──その両方にして、それ以上であると。

 

 共に燦然と金の瞳は輝き、尋ねられれば覇気と呼応すべき大瀑布のような圧力が溢れ出す。

 

『──まさか。主、制御しておったのか? その心を?』

「──然り。我が心は我がもの。操れずして何とする」

 

 ありえない、という顔をする虚像。

 

 自分がわざわざ弱らせて力を削っていた心を、最初からコントロールしていたのだ。

 

 自らの負と向き合うこの試練を凌駕するほどの精神力など、それこそ本当に反則(チート)ではないか。

 

「大迷宮の意思よ、感謝する、中々己の心を客観視はできぬのでな。心とは海のようなものであるからして、妾自身気づかないものがあると思っておったが……物の見事に収穫があったの」

『っ、じゃが悪意が消えたわけではない! 負の感情も消えておらぬ! だというのに、どうして……!』

「──舐めるな、影法師」

 

 目を細めたティオは、己の精神力をさらに強めた。

 

 黒い着物、艶やかな黒髪を漆黒の魔力の奔流にはためかせ、威風堂々と真っ直ぐに手を伸ばす。

 

 王。そう脳裏に強く一文字が浮かび、龍太郎と鈴は心の底から彼女に見惚れた。

 

「妾を誰と心得る」

 

 人は、善性と悪性の両方を併せ持つもの。そうでなくてはただの概念の集合でしかない。

 

 打算も復讐心も認めよう。だからティオはあの竜人族の魂の宣言で返答したのだ。

 

 

 

 そんなもの根こそぎ食ろうてくれるわ、と。

 

 

 

「誇り高き竜人──クラルス族が末裔、ティオ・クラルスなるぞ!」

 

 (ハルガ)の黒鱗、(オルナ)の風、祖父(アドゥル)の炎に誓って。

 

 それらを受け継ぎ、胸の内に宿る炎を信じ、竜人ティオ・クラルスとして、決して折れない。

 

 

 

 それを聞いた虚像は、何もいうことは無く。

 

 ただその表情にはどこか納得したような、参った、降参だとでも言いたげな微笑みがあった。

 

「復讐の牙など、脆弱なり。真に強靭なるは竜の牙……その身を以って味わうがよい」

 

 直後、強く脈動したティオのブレスは倍以上に太くなり、抵抗する余地も与えず白を飲み込んだ。

 

 

 

 そのまま部屋の壁を貫き、霧散した後には何も残っておらず。

 

 修復されていく氷壁と現れた通路を一瞥し、着物の裾をなびかせてティオは踵を返した。

 

 まったくの無傷、状況的にも完全なる勝利。優雅に垂れた髪を振り払う所作はまさに絶世の美女だ。

 

「やっばいよ龍っち、お姉様って呼んじゃいそうかも……」

「惚れるのだけはやめろよ……」

「そ、それはもちろん龍っちだけだけど」

 

 そんな感嘆だか惚気だかわからない会話をする二人に、ふわりとティオは微笑む。

 

 その表情にドキッとした二人の前にやってきて、今度はニヤリと意地悪く笑った。

 

「何じゃ、観戦しておったと思えば随分面白い姿勢じゃの?」

「「えっ、あっ!?」」

 

 今更ながら、自分達がお姫様抱っこをしていたことを思い出す二人。

 

 慌てて離れようとする龍太郎、しかし鈴がもう構うものかと引っ付いて顔を赤くする。

 

「おい鈴!」

「だ、だってもう言い訳しても遅いじゃん!」

「ふふ、どうやらついに想いを結んだようじゃの。良きかな良きかな」

 

 うっ、と二人揃って同じ反応をする。着物の裾で口元を隠してほほほ、とティオが笑った。

 

「合流したのはお主ら二人だけかの?」

「えっと、今んところはな」

「多分、そのうち会えると思うけど……」

「そうか……」

 

 少ししょんぼりとするティオに龍太郎と鈴は顔を見合わせ、考える。

 

 もしや、普段の言動はともかく好意を寄せているハジメに最初に勝利を伝えたかったのでは……

 

「ご主人様がおれば、虚像とのやりとりのことでとびっきりのお仕置きをしてもらえたじゃろうに。残念じゃ」

「「残念なのはあんただよ!」」

 

 やっぱり変態は変態だった。

 

 

 

 

 

 けれど、それにちょっと安心したことは心のうちに隠しておく二人だった。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回は勇者……いや、愚者の話。

お楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。