シュウジ「皆さんこんばんは、2020年最後の俺ちゃんだ。来年もよろしくな」
ハジメ「そろそろ着物とか引っ張り出すか」
雫「お参りとかもしなくちゃね。さて、今回は光輝の話だけど……作者が変な顔してるわね」
エボルト「そりゃ、こんだけ改造を極めたらな……とにかく年内ラスト、それじゃあせーの、」
四人「「「「さてさてどうなる洞窟編!」」」」
光輝 SIDE
『ハァッ!』
「フッ!」
灰色の髪に服の色を反転させた〝俺〟が、ロングソードを振るう。
恐ろしく鋭いそれに、なんだか自画自賛をしている気分になりながら受け止める。
そうしてもう一人の自分と戦いながら思うのだ。
思えば、俺が信じた正義は最初から誰かのものだった……と。
始まりは多分、小さい頃に祖父……
俺にとっては最大のヒーローであった祖父は、弁護士としてとても優秀な人だったという。
家族みんなで長期休暇に祖父の家に帰った時、膝の上に乗って祖父の話を聞くのが俺の楽しみだった。
当時の俺は数々の祖父の仕事の話を聞き、目を輝かせた。
多分、祖父も美談に聞こえるように脚色を加えていたのだろうと、今ならば理解できる。
仕事上の守秘義務もあっただろうし、祖父は自分の経験談を〝物語〟として俺に話したのだ。
弱きを助け、強きを挫き、困っている人には迷わず手を差し伸べ、正しいことを為し、公平であれ。
祖父の話は理想と正義、その体現のような、とてもドラマ溢れるものだった。
だから俺は思ったのだ。〝いつかお爺ちゃんのような正義のヒーローになりたい〟と。
そんな祖父は、俺が小学校に入る直前に亡くなった。急性の心筋梗塞だったという。
俺は、その喪失感と悲しみと向き合うことができずに、祖父との記憶に溺れることで自分を守った。
祖父との記憶に浸れば浸るほどその物語の内容が浮き彫りになり、思考に染み込んでいった。
俺はここで、大きな間違いを犯していた。
所詮、理想は理想。現実はもっと厳しくて、複雑で、無情だ。
正義は必ず勝つだなんて、本当に子供に聞かせるための御伽噺の中でだけ通用する理論で。
祖父が敏腕だったのは、それを知っていたから。清濁両方を熟知していたから現実でも〝優秀〟だった。
祖父はそれを俺に教えてくれる前に死んでしまい、俺の中には〝理想的な正義〟だけが残った。
悪しきは許さない。誰かを傷つけることなんて一人もしちゃいけない。みんな同じ人じゃないか。
それができるなら戦争の歴史などないし、人と人の関係は発展しない。
だが、俺はそれを知る機会をこれまで持てないでいた。
その原因は、御堂の言葉を借りるならスペックが少し高かったから。
そのおかげで失敗も挫折もしなくて、自分こそが絶対的正義だと思い込んだ。
もう死んでいる祖父を、ずっとヒーローにしたかっただけのくせに。
雫や両親はもう少し考え方を工夫するよう言ってきたが、俺は聞く耳を持たなかった。
今考えると、本当にバカだと思う。俺を否定してるんじゃなくて、心配してくれてたのに。
そのせいで、多分たくさん迷惑をかけた。俺の〝解決〟の裏には膨大な問題があったことだろう。
俺のやり方を支持してくれる人の数が多くて、その中に多数結論で両親達の声を埋もれさせたのも原因だ。
歯止めが効かないまま、自分の中の理想像に従うままに〝正義〟を実行し続けた。
俺がなんとかすればいい、俺ならなんとかできる──俺のやり方が、全部正しい。
理想に溺れ、己に酔い、祖父の背中を盲目的に美化して、〝ヒーローの自分〟を演じ続け。
増長に増長を繰り返しながら小学校を卒業し、中学も同じように過ごし。
そして高校生になった時。
『アイツが、北野シュウジが現れた』
「っ!」
〝俺〟のロングソードが黒いエネルギーを纏った。
すると、俺のものよりさらにずっとドス黒いオーラの刃が飛んできて、咄嗟に横に転がった。
俺に到達する直前、ガッパリと口を開いたオーラは氷壁に当たり、ガリガリとその歯で齧り付く。
少しして消えた後には、無残なほどに抉れた氷壁が残っていた……ゾッとするな。
冷や汗を拭い、ロングソードを握り直すと立ち上がって〝俺〟を見る。
『あいつは、
「…………」
その〝俺〟の言う通り、それまでずっとまかり通っていた俺の〝正義〟が通じない相手が現れた。
北野シュウジ。飄々としていて掴みどころがなく、全く人間性が把握できない不気味な男。
それが最初のイメージ。そこから事あるごとにアイツは俺を上回っていき、俺は……
『アイツに密かに嫉妬していた。いつも不真面目な南雲を守っていて、それに
「……違う…………」
言葉を重ねながら、〝俺〟は上下左右から押し潰すように左手の形のオーラを放つ。
それをどうにか避け切った先には大口が待ち受けていて、なんとか斬り伏せ切り抜けた。
『いつも
「……こうじゃない…………」
『明らかに〝みんな〟から逸脱しているのに、〝みんな〟アイツを責めなかった。いつの間にかアイツは周囲を丸め込み、確かな地位を獲得していた。まるで
今度は漆黒のロングソードを左右に振り、その途端に〝俺〟が三人に分身する。
左右の真っ黒な〝俺〟は、本体の〝俺〟と同じ赤黒い目を爛々と光らせ、一人は突撃、一人は跳躍してきた。
大上段からの振り下ろしを剣で受け止め、正面からの斬り払いをわざと下がって回避。
しかし、その瞬間に足元に出来上がった影の中から本体の〝俺〟がズルリと現れた。
「っ!?」
ヒュッと息を呑み、それを吐く間も無く嗤った顔でロングソードを突き出す〝俺〟。
防衛本能でかろうじて躱し、大きな動きで黒い二人の影法師を振り払うと一度後退する。
完全に影から這い出てきた〝俺〟はロングソードの切先をこちらに向け、また口を開いた。
『アイツは狡猾だった。あらゆる手練手管に長け、純粋な力をもってしても
「……これが……いや……」
〝俺〟がくるりと回転して、下から掬い上げるようにロングソードを振るう。
明らかに届かない距離。しかしこの程度の距離ならば光刃でどうとでもなることを俺はよく知ってる。
地を這うように接近してきた黒い光刃を弾き、その間に踏み込んできた〝俺〟の一撃を受ける。
ギャリギャリと刃が擦れ合って火花を散らし、〝俺〟が顔を近づけてきた。
『この世界に来てから、その恐れはより大きくなった。魔人族を殺すというハイリヒ王国の〝正義〟に準じようとした
「くっ……!」
同じ力で押しているはずなのに、気を抜けばそのまま切り裂かれてしまいそうだ。
その上、〝俺〟はドス黒い口の集合体を肩から出して俺の頭を齧り取ろうと伸ばしてくる。
紙一重でそれらを躱しながら受けの姿勢を維持するのは、ゴリゴリと体力を持っていかれる。
『アイツが南雲と一緒に奈落に消えた時、安心したよなぁ? これで俺は元通り、みんなのヒーローでいられるって。またこの理想論を好きに振りかざせるって!』
「それは……」
『だが、アイツは戻ってきた! これ以上ないくらい強烈に、何もかも片付けていった! 無様を晒して何もできなかったお前と違ってなぁ!』
俺の頭を狙っていた口達が、突然引く。
何事かと注視すると、再び開口されたその奥には──それぞれ鋭い針が装填されていた。
凄まじい悪寒を感じ、わざと力を抜いて拮抗を崩すと自ら倒れる。
次の瞬間、俺の上半身があった場所を無数の黒針が通過して地面に突き刺さった。
『フンッ!』
「グッ!?」
容赦なく振り下ろされたロングソードの一撃が、重い。
おまけに〝俺〟の手から伝播した〝あれ〟の力が発揮され、ボコッ! と音を立てて刃が膨張する。
正確にはロングソードを覆う〝あれ〟のオーラだが、一気に分厚さが増した。
『そして全力で否定していた〝悪〟であるアイツの力に劣等感を感じて暴論を投げつけ、あまつさえ完膚なきまでに力ありきの理論と自尊心を打ち砕かれ! ああ、みっともないなぁ!』
「これ、は……!」
このままだと死ぬ。そう直感して、咄嗟に禁忌の技を出す。
右足で思い切り〝俺〟の股間を蹴り付け、流石の奴も動きを止めている間に抜け出る。
荒い息を整えていると、ゆらりとこちらを振り返る〝俺〟。
その顔は全く苦痛に歪むことなく、どこまでも歪な笑いが浮かんでいた。
『そうやって逃げて、自分を誤魔化して、妬んで、羨んで、不満を全部ご都合主義に変えて糾弾してきた』
「…………」
『本当は今だってそうしたいんだろ? お前だけがヒーローになって誰かを救った気になりたいんだろ? 俺はお前なんだ、わかってる』
だから、と口を裂いて。
『全部、奪っちまえよ』
〝俺〟の顔の半分が、バラリと
そのまま五つに分かれ、まるで手のように開いていく。自分の顔が壊れていく様は吐き気を催した。
顔だけじゃない。肩の口から漏れ出している笑い声が強まる度に、体のどこかが開いて手になっていく。
『ほら、これがお前の本性だ。あれもこれもそれもと、全部全部自分のものにしたい。お前の力でなんでも解決して、従わせて、思う通りにしたいんだ』
両腕を広げ、俺にその姿を見せつけてくる〝俺〟。
……なんておぞましい姿だろう。
体の半分以上が手に変じ、もう俺の原型は顔の半分しか残ってない。
あれが天之河光輝の本性。地球でも、この世界でも自分の勇姿を求め続けた、醜い心の体現。
『北野も南雲も殺して、何もかも盗ってしまえ。そうすれば雫もユエ達も、
「…………」
『大丈夫、何も心配することはない。全部上手くいく。だって──』
「……………………か」
『……何?』
部屋の中に響いたその声に、俺は顔を上げて。
「言いたいことはそれだけか、〝俺〟」
鋭く細めた目で、あいつのムカつく微笑を断ち切った。
目を見開き、〝俺〟が動きを止める。
俺は立ち上がり、ロングソードの持ち手を両手で握った。
「ふぅううぅぅう…………」
深く息を吸い、吐く。
「……よし、もういい」
『
「お前の言う事は全て本当だよ、〝俺〟。この期に及んで俺は、まだそんな腐った妄執を抱いてしまっている」
静かに、一つ一つ確かに言葉を紡いでいく。
大人しく聞いていたが、本当に自分で自分のことを殺したくなるくらい悪辣だ。
こんな俺を見たら、きっと祖父は……完治爺ちゃんは、あの逞しい拳で思い切りぶん殴ってきただろう。
心底恥ずかしい。正義だの悪だの以前に、人間として失格だ。
「本当の外道はこの俺。何もできないくせに何でもかんでも欲しいなんて、どうかしてる」
『っ、お前……!』
「そんな外道には……こんな姿がお似合いだっ!」
〝力〟を解放する。
これまでの一部分だけじゃない、全力で頭の中の囁きを抑え込み、その能力だけを絞り出す。
〝あれ〟は怒ることなく、むしろ面白がるように力をどんどん流してきた。
「う、ぉおおおおおおおおオォオオオオオッ!!!」
なんとか耐え切り、叫びと共に力を顕現させる。
肩から飛び出した口が次々とムカデのような虫に変わって、皮膚を突き破って腕の中に食い込んできた。
「ぐ、ぁ……!」
『自ら体を食わせるなんて、正気か!?』
「ぁ、当たり前、だ……! これは、罰、だからな……!」
『罰……?』
肌を破り、肉を食い、骨を齧る虫達に耐えながら、〝俺〟を強く睨みつける。
「俺は、罪深すぎる……! 罪を犯したものには、罰が必要だッ……!」
『っ、俺の力が弱まっているだと!?』
「だからっ、まずはこれが、俺自身で課す罰……残りは、お前を乗り越えてから北野達にやってもらうことにする!」
『まさか、これまでずっと呟いていたのは俺の言葉への否定ではなく……!』
〝俺〟を見て学んだ力の使い方を必死になぞり、制御する。
果たしてそれは成功して、ギョロギョロと蠢く黒と赤の瞳が浮き出た鎧に包まれた左手を、しっかりと握りしめた。
「……決着をつけよう。お前と共に、この妄想を断ち切ってやる!」
『っ、それを受け入れたとしてお前の醜さが助長されるだけだ!』
半分しかない口で叫んで、〝俺〟は接近してくる。
振り上げられたロングソードを、肩の口から黒針を掃射して弾き飛ばした。
構わず〝俺〟は〝それ〟のオーラで剣を作り上げ、突き出された黒刃を受け止める。
『お前は善人などではない、悪人だ! 今更そこから変わりたいだと!? それよりも堕ちる方がずっと楽だぞ!』
「そんなこと分かってるさ! だからこそ屈しない! 欲望に塗れたこの心の、その堕落にだけは負けてたまるか!」
至近距離で〝天翔剣・嵐〟を発動し、ロングソードから風と光の複合斬撃を放つ。
そこに左腕の〝力〟も込め、本来の出力の数十倍に高めた刃の嵐が〝俺〟を襲った。
『ぐっ、これは……!』
「どうした、反応が鈍いぞ!」
『なっ!?』
かろうじて羽赫で防ぎ、後退しようとした〝俺〟の足を払う。
防御で手一杯だった〝俺〟はあっさり宙に浮いて、即座に顔面に思い切り左の拳を叩き込んだ。
「まず一つ! 己を正義そのものだと騙る傲慢さ!」
『がはっ!?』
吹っ飛ばされていく〝俺〟に追いすがり、鳩尾に前蹴りを叩き込む。
「二つ! 正しいから何をしてもいいのだという強欲さ!」
『ごぁっ……!?』
腹を抱えて蹲る〝俺〟の頭を両側から掴み、鼻っ面に膝を叩き込む。
「三つ! 信念のもとに力を振るう北野達へのくだらない嫉妬心!」
『げぶっ!?』
後ろに倒れる〝俺〟。羽赫を巨大な拳に変えて足を引っ掴み、思いっきり壁にフルスイングする。
「四つ! 人の彼女にあんなことを思ってる最低な色欲!」
『あ、がぁ!』
氷壁が砕け散り、だいぶ〝俺〟がボロくなってきた。もちろん手加減なんてしない。
「五つ! そういった諸々自分勝手すぎる理由から生まれた憤怒!」
『ぎゃっ!?』
羽赫を引き千切り、自分の頭を兜代わりにオーラで固めると頭突きをお見舞いした。
「六つ! 自分を変えようとしない怠惰!」
『ぅ、おおおおっ!?』
もはや反撃する力もない俺を天井に向かって投げ、ロングソードを構える。
「そして七つ! 人のものを奪おうとする暴食じみた狭量さ! それが俺の罪だ!!」
『ぎゃぁあああああああっ!!!』
悪業両断。
赤黒いオーラを纏った斬撃を7つ飛ばし、全身をバラバラに切り裂いた。
次々と体のパーツが落ちてくる中、鞘にロングソードを収める。
そして、近くに落ちてきた頭を見下ろした。
『この、人殺し、めが……』
「ああ、多分これまで色んな人の心を踏みにじって殺してきただろうな。その分も罰に追加だ」
『は、はははは……お前は、二度とヒーローには、なれないぞ……』
「それでいい。子供の理想はもう終わった。俺は俺の悪を裁くためだけに正義を執行する。それでも甘い理想を貫くかは、全部終わってから決めるさ」
正義の味方ごっこはやめにしよう。誰かの為と嘯いて満足する寒い茶番も。
もう何かを傲慢に欲しはしない。何かを求める権利などとっくにない。
世界を救うなんて俺には荷が重すぎる。というか俺がやらなくても、北野と南雲が全部済ませる。
でも、一つだけ。
願わくば、俺に後悔と反省、贖罪の機会を与えてくれた〝彼女〟にもう一度会う権利を。
それが俺の最大にして、おそらく最後の傲慢だ。
『……そうか。ならばやってみるといい。お前の中に善意があるのなら、その悪意にも負けないだろう』
「
『……少しは人の話を聞け、ナルシスト野郎』
最後に自虐を呟いて、〝俺〟は蜃気楼のように消えていった。
立て続けに他の体の部分も霞のように消えていって、すぐ目の前の壁が溶けて出口が現れる。
「これでクリアか。中々自分を見つめ直すのにいい試練だったが……」
ちょっとだけでも、どうしようもない性根がマシになってるといいんだけどな。
それと最近ティオさんが俺のことをやけに仲間を見る目で見てくるんだが、あれだけは理解したくない。
「さて……とりあえず、北野達にも話すべきかな?」
震える心を押さえつけ、通路に向けて歩き出した。
【挿絵表示】
さあ光輝くん、厨二改造の時間だよ(ニッコリ)
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天之河光輝 17歳 男 レベル:???
天職:愚者・憑き人
筋力:1020[+9413]
体力:1020[+9413]
耐性:1020[+9413]
敏捷:1020[+9413]
魔力:1020[+9413]
魔耐:1020[+9413]
技能:変生[+支配][+顕現][+蒐集]・狂気適正[+闇属性効果上昇][+発動速度上昇]・狂乱耐性[+対狂気]・[+対錯乱]・侵食[+侵食再生][+痛覚激化]・剣術:穢[+邪念吸収] [+悪以悪断]・怪力・影食み[+影移動] [+影分身]・先読:妄[+悪路看破] [+死幻]・汚染[+代償回復][+魔力][+生命力]・七罪[+悪意感知][+吸収回復]・限界突破[+覇潰]・超越理解[+狂気][+言語解析]
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読んでいただき、ありがとうございます。
あと少しでこの章は終わります。
みなさん、良いお年を!