ハジメ「ここから怒涛の展開だな…」
エボルト「祭りの最後はいつだって騒がしいものさ。読者の皆様方には寂しさも感じてほしいところだね。さて、今回は前回の続き。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」
シュウジ SIDE
その後、リビングに戻るとちょうど部屋を出ようとしていた雫と天之河に出くわした。
「シュー!」
「おっと。すまん雫、心配させたか?」
「当たり前じゃない。だってあなたが、あんな……!」
今度は俺が雫に抱きつかれ、涙声でグリグリと胸に額を押し付けられる。
やっぱり俺の思考が色々筒抜けだったらしい。心配させちまったな。
すすり泣く雫を宥めてから、全員でリビングに入って落ち着く。
一人残らず着席したところで、おもむろにハジメが口を開いた。
「さて。色々気まずいこともあったが……帰る手段を、手に入れたぞ」
「やったぁ────!」
掲げられたクリスタルキー、文字通り飛び上がって喜ぶ谷ちゃん。
それにつられるように各々が全身で、あるいは喜びに満ちた表情で心情を表していった。
「っしゃおらぁ!」
「ようやく、か……」
「やったね美空!」
「だね。あー、お父さん一人でお店大丈夫かな……」
「ん、これでハジメ達の世界に行ける」
「そうだね。これで、ついに……」
「どんなところなんでしょうねぇ〜」
「長い旅路だったのう」
地球組は安堵と喜び、これまで溜め込んできたものもまとめて吐き出してる感じ、か。
隣の雫を見ると、俺に体を預けていた彼女は微笑みをたたえて俺を見上げる。
「これで、やっと終わるのね」
「ん……ああ」
「? どうしたの?」
「いや、面倒なエヒト殺しが残ってると思うと憂鬱でね」
「確かに。でも、きっと貴方と南雲くんなら大丈夫よ」
笑う雫に、答えを誤魔化さざるを得なかったことを内心悔やむ。
最後の計画が実行されれば、一番大切な彼女は……俺の〝愛と平和〟は……
「そういえばシュウジ」
「っ! な、なんだハジメ?」
「エヒトや、似たような存在からの干渉防止用の概念ってのは完成したか?」
「ああ。そりゃバッチリな」
異空間より、新たに作り出した〝エボルヴボトル〟を取り出しひけらかす。
不気味なレリーフのそれに、また変なものじゃないだろうなという無言の疑問が聞こえた。
「こいつは概念魔法とエボルドライバーのシステム、そしてアサシンエボルボトルのエネルギーを使って作り上げた、いわばアンチ上位存在の概念だ」
「……ふむ、詳しく説明しろ」
アサシンエボルボトルの名前を出した途端、一斉にハジメ達の表情が険しくなった。
その警戒を解くために、あえていつもより軽い口調で説明を始める。
「エヒトには〝神言〟っつー、チートもチートな力があってな。物理的、非物理的問わず、強制的に命令を下すことができる」
「つまり、奴にその〝神言〟とやらで跪けとかほざかれたら無理やり従わされるのか」
「そゆこと。まあ俺やハジメくらいの精神力、肉体的強度ならギリ耐えられるだろうけどな」
まさしく神らしい力に、理不尽に命令されるのが大嫌いなハジメは渋い顔をした。
他のメンバーもこれから帰還するにあたって最大の壁となる相手の存在に憂いた表情を浮かべていく。
「逆に言えば、奴にはそれしか武器がない。考えてもみろ、奴は何千年もこの世界を牛耳っておきながら、どうして裏でコソコソセコい真似をしてると思う?」
「っ! そうか、エヒトは直接力を振るえるような実体を持ってないんだな?」
「
無論、非実体的な存在だからといってエヒトが弱いわけではないだろう。
裏で暗躍しているのも、奴が人を操って殺し合わせるのが好きなクソ外道という側面もある。
だがしかし、それは
「このボトルには〝抹消〟のエネルギーを断片的にだが封じ込めてある。それを魂魄魔法と空間魔法、昇華魔法と変成魔法を主にした概念でコーティングして、悪意ある肉体、精神的な干渉を
ま、
「そのボトルのエネルギーを応用すれば、奴の〝神言〟も防げるって寸法だな」
「
「すごい……」
「〝抹消〟という破壊の概念を理解しているシューだからこそ、一人で作れたアーティファクトね……」
「白っちゃんに雫も良いリアクションをありがとう」
これこそが、最初から女神ペディアでエヒトの力を知っている俺が追い求めてきた力だ。
おかげでハジメ達をエヒトから守る手段は手に入った。
殺す手段は……あっちとの繋がりが絶たれている以上不確定になってしまった。
最悪、俺の体を使って残りの二本を精製し、ブラックパネルを完成させよう。
「というわけで、だ。みんなには何か一つ、常に身につけているものを貰いたい。このボトルを使ってアンチエネルギーを付与する」
「ん、じゃあ俺は魔眼石が良さそうだな。一番肌身離さず付けてるし」
「ん、じゃあ私はこの指輪。ハジメから最初にプレゼントされたものだから」
「私はこのチョーカーですかね〜」
次々と手渡されていくそれぞれの持ち物。
ハジメは魔眼石、ユエが指輪、シアさんのチョーカーにウサギのパーカー。
ティオは簪、雫はお馴染みのブローチ、白っちゃんと美空はお揃いのイヤリング。
坂みんはドッグタグ、谷ちゃんからは鉄扇を渡された。
あとは……
「なあ北野、もしかして俺の剣って……」
「あーさっきパクったわ。お前はあれでいいな。というかお前は別にいらないか」
「いや、流石にこんな時くらい嫌がらせはやめてくれ!」
「
「……え?」
「ま、黙って待ってろや。そんじゃハジメ、俺は作業に入るけど」
「俺は休憩もしがてら、エリセンにミュウ達を迎えにいく準備でもしとく。覚悟しとけよ」
「……おう」
何の、などとわざわざ聞かずとも、親友が誰との対面を指摘しているのかくらい解る。
なんだかんだとここまで引っ張ってきたが、そろそろ潮時だろう……ちゃんと向き合って、謝らないと。
あとそろそろリベルに会いたい。可愛いマイラブリーエンジェル成分が足りない。死ぬ。
『台無しだよ馬鹿野郎』
ドーモ=シリアスを壊すことに定評のある男、北野シュウジでーす。
●◯●
光輝 SIDE
「……いよいよこの時が来たな」
もうすぐ、魔人領に行って恵里と会う。
一緒に行くのは龍太郎と香織、雫、そして誰より彼女と対話することを望んでいるだろう鈴。
鈴への心配が主だろうが、北野達といたいだろうに付いてきてくれる二人には感謝している。
オォオオオオオ…………
その北野達は、あの巨大生物で俺達を魔人領に落とした後はエリセンという街に行ってしまう。
魔人領に行った後は、完全に俺達だけで道を切り開かなければならない。
「俺にできるか……いや、必ずやるんだ」
そのために甘い理想を貫くと〝彼女〟に誓い、自分の罪を受け入れた。
必ずやり遂げてみせる。何故なら恵里の凶行の根幹は……多分、かつての俺の行いだから。
これは、何者でもなくなった俺の
今から憂鬱になるが、生憎と剣を取られたので不安を紛らわすために素振りはできない。
だが、あれは決して無意味な嫌がらせでないことを確信していた。
力を受け入れてから全て塗り変わった技能の一つ、[+悪意感知]が反応しなかったし、目が違った。
俺の戦いは、どう転ぶかわからない恵里との対面だけではない。
北野と約定を交わした……そしてあの幻の中で、俺が勝手に結んだ誓いを果たさなければ。
北野はその約定を、今こそ実行させようとしているのだろう。
「……やってやる。絶対に」
もう一度、言葉にして決意を固めた。
「そのためにも恵里と対面したときに何を話すのか、今からちゃんと考えとかないとな」
鈴は南雲のゲートキーで、樹海の魔物を変成魔法で従えに行った。
そんな彼女を龍太郎は守るためについて行き、香織と雫も心を固めてくれている。
俺だけ馬鹿みたいに、直感と感情だけで突撃するわけにはいかない。
前は漠然としていたが、〝あれ〟を受け入れてから記憶も明瞭になった。
というより、俺を苦しめるためなのか好き勝手やってた頃の記憶がよくフラッシュバックするのだ。
その中には……やはりと言わざるを得ないが、恵里と出会った記憶もあった。
あれは、小学生の頃。
たまたまランニングコースで通りがかった河川敷、その鉄橋の上に女の子がいた。
欄干から大きく身を乗り出していた女の子に俺は尋ねた、〝何をしてるの? 〟と。
振り返った彼女の暗い顔に、何か理由があると思った俺は無理矢理橋の上に戻した。
そして人と関わるのも嫌そうな顔の彼女に、呆れるくらいしつこく事情を聞こうとした。
早く解放されたかったのだろう、彼女は端折りに端折って説明をしてくれた。
学校で孤立している彼女は、そのことで父親に厳しい躾を受けた。
母親に助けを求めたら彼女にも叱られ、味方が一人もおらず、悲しみに暮れ自殺しようとした。
まばらすぎる情報を繋ぎ合わせ、こうして都合の良い解釈をした俺はこう告げた。
確か……〝もう一人じゃない、俺が恵里を守ってやる〟だったか。
馬鹿すぎる。
我ながら自分の思考力を過大評価しすぎだし、妄想力を過小評価しすぎだ。
その後は同じ学校だった恵里に、クラスの女の子達に頼んで話しかけてもらったりした。
両親や教師に頼み、児童相談所などにも行ったか……それで全部終わった気になった。
これが、俺の悪癖。
相手に一方的に接し、ちゃんと事態を仔細まで把握しない。
自分だけの思考で身勝手な解決を施し、後々の影響も考えず満足する。
思考は浅く、観察眼も無く、理論証明の達成点は中途半端そのもの。
だから散々好き勝手した後に、恵里がどうなったか知らない。
曲解した妄想に当てはめた彼女の両親が、本当はどんな人間だったかも知らない。
だけど転校や退学などをしたという話を聞いた記憶はないし、多分恵里自身で何かやったのだろう。
極め付けに、以前の王都侵攻の際に彼女から言われた言葉を思い返してみる。
〝他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ言葉をくれる、僕だけの光輝くん〟。
独占欲と、歪んだ愛と、その他の壊れた感情全てが込められたあの言葉。
理解できる。多少マトモになったと自負できる、今の自分なら。
あの最初の邂逅──その時点で壊れかかっていたのだろう、恵里の心。
「それを
これも手前勝手な妄想だが、恵里は誰かからの愛を求めていた。
俺はそんな脆さにつけ込んでおきながら、彼女のことを忘れて。
こうして、狂わせてしまったんだ。
その罪に贖う方法は?
決まっている。もう目を逸らさないことだ。
結果、俺の一生を使い果たすことになったとしても妥当だろう。
言うなれば……
それで何を証明できるわけでもなく、完全なる俺の独りよがり。
元から俺はそういう人間。全て自分の中で完結させるなら、最後まで甘んじる。
せめて醜いなりにそれくらいの自己肯定はしないと、彼女の前には──っ。
「……はは。やっぱり俺って馬鹿だ」
最後まで自分でやって、勝手に自分で満足すればいいだなんて思ったばかりなのに。
それでも心の奥底で、無意識にこんなことを口走ってしまうほど望んでいるなんて。
誰しもが言う通り、俺は傲慢な愚か者だ。
「ここにいやがったか、アホ勇者」
「っ!?」
突然後ろからやってきた言葉と殺気に、反射的に上半身を捻る。
そうして頭めがけて飛んできたものを掴むと、よく手に馴染んだ感触だった。
「っ、これは……俺の剣?」
「チッ、避けやがったか。湖の畔で黄昏れてる(笑)からイケると思ったんだが」
抜き身の愛剣を投げてきた下手人は、何とも蔑んだ口調でそう言った。
今更驚くこともなく……そもそもその気になれば死んだことすら気づかずに殺されてる……、いつの間にかそこにいる北野を見る。
「俺の剣、形が変わってるけど何かしたのか?」
鍔の形がかなり変わって、何かを差し込むような丸い穴が空いている。
試しに振ってみるが、重心や強度は変わってなさそうだ。凄いなこれ。
「ほれキラーパス」
「うおっ……ッ!? おい北野、これは!」
続けて投げ渡されたものは、北野が作った概念魔法のアーティファクト。
意味がわからず、聞こうと顔を上げた瞬間に踵を返される。
「それを剣に挿して使え。あいつの呪縛を断ち切れる。もしかしたら人喰いの性質ものものが斬れるかもな」
「……俺の腕次第、ってことかよ」
「さてな。お前にだけは何があっても期待しない。あ、借りパクしたら殺すから」
物騒な脅しを残して、北野は行ってしまった。
その後ろ姿から手の中のアーティファクトに目線を落とし、しかと握りしめる。
……最後の戦いが、もうすぐやってくる確信がした。
読んでいただき、ありがとうございます。