星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ハジメ「俺だ。前回は俺たちの持ち物を預けたな」

光輝「そして俺の決意だった。必ず恵里は、俺が……」

シュウジ「はいはい真面目な顔してないで帰れ」

光輝「酷いな!……今回はフィーラー?というあの生き物の話だ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」


神喰らう龍

 ハジメ SIDE

 

 

 

 穏やかな気分だ。

 

 

 

 文字通り、ようやく故郷に帰るための鍵を手に入れたからだろう。

 

 俺達自身の休養と、俺とユエの回復に使った魔晶石に魔力を補充しながらそんなことを考える。

 

 まるで地球の実家にいるような安心だからか、また殴られにやってきたティオの頭をナデナデさえできる。

 

「む、むう。痛めつけられるのも良いが、これはこれで……」

「ずっと、そのままならいいのに」

「本当ですよねぇ……それだけなら非の打ち所のない女性ですのに」

「やっぱり、ハジメは責任取るべき?」

「というかまずご家族に謝らなきゃでしょ」

 

 何やら恋人達から散々な言われようだが、それさえも苦笑い一つで済ませられる。

 

「まあ、今更普通になって他の男とかと同じ関わり方されても思うところはあるが……」

「っ、ご主人様よ。そ、それはつまり、妾も……」

「ほら、せっかく懐いた駄犬が急に他の奴にも同じような尻尾の振り方してたらイラっとくる的な」

「んっ!」

 

 駄竜が赤い顔で呻いた。美空の目線が冷たくなる。

 

 

 

 羞恥の赤面から発情の赤面になった駄竜をユエ達と観察していると、コンコンとノック音がする。

 

 ほぼ同時に全員で振り返ると、いつも通り面白そうな笑顔を浮かべたシュウジが立っていた。 

 

 後ろには別室で談笑していた香織と八重樫、何故か神妙な顔をしている天之河がいる。

 

「お楽しみのところ失礼。そろそろ休憩は終わったかな?」

「ああ。魔晶石のことも粗方補充できたし、俺とユエの魔力も回復した。そっちは?」

「バッチリさ。あっちもそろそろだ」

 

 あっち? と頭の中に疑問符を浮かべたのとほぼ同時に、ゲートが室内に開いた。

 

「ただいま!」

「今帰ったぜ」

「……お前の予測通りだな」

「だろ?」

 

 帰ってきた谷口達の周りには、樹海でも上位の魔物が揃っている。

 

 

 

 上手く成功したらしい谷口に、ユエとティオが簡単に従魔強化の方法をレクチャーする。

 

 強化した魔物に俺がゲートホールを付与した首輪をつけ、樹海に送り返して準備は完了した。

 

 その間に回復も魔晶石の補充も完全に完了し、いよいよ残るはシュウジの試みだけになる。

 

「それじゃ、預かったものを返却しよう」

 

 テーブルの上に一つ一つ、俺達が渡したものが置かれていく。

 

 魔眼石を手に取ると少しだけ錬成して形を変え、するりと眼窩に収めて元に戻した。

 

 ユエ達もそれぞれのモノを身につけ直して、特にその実感がないのか不思議そうにしている。

 

「これ、本当にエヒトの干渉を防げるんですか?」

「特に何も感じないけど……」

「そりゃ常にそうだったら気が気じゃないだろ? 奴の影響が強くなると起動するのさ」

「なるほどのう、要するに自動型の結界のようなものかの」

Exactly(その通り)。ま、普段は気にしないでおいてくれ」

 

 ともあれ、これでエヒトへの対策は済んだようだ。

 

 

 

 特にここに未練はないので、出発するために邸宅を出て湖の方へと行く。

 

 そうしてこちらへ泳いできたフィーラーの前に集まった時、シュウジが体ごと振り向いた。

 

「さて。ではここにて最後のショーをお見せしよう」

「まだ何かあるのか?」

「ハジメ。何か一つ、忘れてないか?」

 

 両手を広げ、不敵に笑いながら問いかけてくる。

 

 ユエ達と顔を見合わせ、何かやり残したことはないかアイコンタクトを取るも首を横に振る。

 

 

 

 もう一度シュウジの方を向いて……ふと、そのポーズに何か引っかかるものを覚えた。

 

 まるで、答えは目の前にあるとでも言うような、そのポーズ。 

 

「……あ」

「? 何か思いついたんですかハジメさん」

「……そういえば、ここにはホムンクルスがいない」

 

 シアがハッとするのが伝わってくる。ユエ達もそういえばといった雰囲気だ。

 

 シュウジを見ると、満足げに笑って態とらしく拍手をしてくる。

 

「正解だ。これまでカエルのように自主的に抜け出していたことはあれども、いないということはありえなかった。では解放者の遺産は、どこにいると思う?」

「まさか……」

 

 視線を上げていく。

 

 シュウジの後ろにそびえる、頭だけでも数十メートルの大きさを持つ大怪物。

 

 オルクスからこれまでずっと一緒に旅をして、あらゆる敵を蹂躙しきた、頼りになる仲間。

 

 ウサギの超パワーの元となった失敗作のホムンクルス──フィーラーは、二十の目で俺達を見下ろしていた。

 

「言っただろう? こいつは失敗作などではないと」

 

 目線を戻せば、シュウジの手には掌サイズの宝玉が。

 

 虹色に輝くそれを、シュウジは湖畔に設置されていた出口用の魔法陣の上に置いて魔力を流す。

 

 

 

 魔法陣から放たれた光が宝玉を通して七色に輝いて、重なるようにもう一つの魔法陣を形作った。

 

 七つの陣で円を描くその魔法陣に見惚れていると、湖全体までもが同じ色の輝きをにわかに放つ。

 

「な、なんだこれは!?」

「まさか、この湖自体が一つの……!」

「ん。巨大な、魔法陣」

 

 湖の各所に吹き出ていた噴水が形を変え、意思を持つかのように集まってくる。

 

 それはフィーラーを包み込むように収束し、第二の魔法陣と同じ形を形成した。

 

 

 

 

 

「──〝告げる。汝が名は百魔の獣王、七人の刃の祖なりて〟」

 

 

 

 

 

 シュウジが、詠唱を始めた。

 

「〝汝は哀れなる獣、醜き王。その身その魂その力、遍く滅ぼすがために形を成さん。されど、汝が心は善にあり〟」

 

 こちらの魔法陣に連動し、水の魔法陣が回転をすることで光と共にフィーラーの体を濡らす。

 

 それだけでない。腹に轟く唸りを漏らす漆黒の巨体が、少しずつ形を変えていくではないか。

 

 胸、腹、額、翼の付け根、そしてもたげた尻尾の根本と先端から結晶が盛り上がってくる。

 

「〝ならば、解放を。その尊き御霊に相応しき玉体を、七の証の下に与えよう〟」

 

 シュウジが異空間を開いて、そこから各大迷宮の攻略の証を取り出す。

 

 その一つ、オルクスの攻略の証である指輪を七つの陣の一角に設置した。

 

「〝一つ、創る者〟」

 

 生成魔法。その本質は無機物に力を与える概念。

 

「〝二つ、司る者〟」

 

 重力魔法。その真髄は星に流れるエネルギーを司る概念。

 

「〝三つ、越える者〟」

 

 空間魔法。その奥義はあらゆる境界を越えていく概念。

 

「〝四つ、流れる者〟」

 

 再生魔法。その秘奥は世界に厳然と流れる刻を操り、垣間見る概念。

 

「〝五つ、朧げなる者〟」

 

 魂魄魔法。その最たる力は、触れられぬものを操る概念。

 

「〝六つ、変えし者〟」

 

 変成魔法。その臨界は、全てを暴き、変えてしまう概念。

 

 

 

 オスカー・オルクスの指輪、ミレディ・ライセンの指輪、ナイズ・グリューエンのペンダント。

 

 メイル・メルジーネのコイン、ラウス・バーンの指輪、ヴァンドル・シュネーのペンダント。

 

 それらが魔法陣に設置され、同時にシュウジが対応した神代魔法を使っている。

 

「ハジメ、羅針盤を」

「お、おう」

 

 シュウジはこちらに振り返って開いた手を差し出す。

 

 取り出した羅針盤を渡すと、シュウジは最後の陣の上に乗せて、最後の詠唱を告げた。

 

「〝七つ、生ける者〟」

 

 昇華魔法。その本性は有機物に力を与える概念。

 

 

 

 全てが揃った瞬間、カッ!! と一際強く魔法陣が輝きを増した。

 

 攻略の証を貫いて七つの光線が伸び、水の魔法陣と接続して宙に解放者達の紋章を投影する。

 

 それらがフィーラーの体に出現したクリスタルの中へと吸い込まれていき……

 

「〝これにて七つ。我は全ての試練を踏破せし者。故に望む、悪辣なる神への架け橋を〟」

 

 クリスタルに紋章が浮かび、少しずつそれ自体が輝きを生み始めた。

 

 それと同時に隠れ家全体が激しく震え、湖が荒立ち、俺達の立っている湖畔も激しく揺れる。

 

「うおぉっ!?」

「すごい揺れですよぉ!?」

「これは……!」

「魔法が、完成する……!」

「な、なんという大規模な魔法じゃ!」

「きゃっ!」

「美空、私に捕まって!」

「これ、本当に大丈夫なの!?」

「鈴、俺の後ろにいろ!」

「う、うん!?」

「っ……!」 

 

 持ち前のスペックでなんとか姿勢を保ちながら、微動だにせず魔法陣を操っているシュウジを見る。

 

 もはや目で追えないほどのスピードで高速回転する魔法陣を前にして、あいつの顔は……どこまでも真剣だった。

 

 

 

 

 

 

 

「〝満たせその器、壊せその麻繭。神屠らんが為、黒き檻を今こそ破り、飛び立て──天砕き神食らう黄金の龍よ〟」

 

 

 

 

 

 

 

 詠唱が、終わった。

 

 

 

 その瞬間、これまでの儀式で最大の光がフィーラーのクリスタルから放たれた。

 

 思わず両手で顔を庇い、光で左目が焼けるのを阻止する。

 

 10秒待って、20秒待っても激しい揺れは続き、どこかあの奈落に落ちた日を思い出した。

 

 

 

 しかし、それも体感時間にして1分に達しようかというところでようやく弱まっていく。

 

 完全とはいえずとも、腕を退かせるくらいに瞼の向こうの光と足元の揺れが収まった。

 

「どうなったんだ……?」

 

 ゆっくりと目を開き──目の前の光景に瞠目する。

 

 

 フィーラーが、漆黒の体を灰色に染めていたのだ。

 

 二十の目にも瞳はなく、唯一の名残のように真っ黒に染まっている。

 

「もしかして、失敗したのか……?」

「嘘……!」

「そんな、お兄ちゃん……!」

 

 俺と、シア、そして初めて聞く悲痛な声で叫ぶウサギ。

 

 そんな俺達に、先ほどの焼き直しのようにゆるりと振り返ったシュウジはニヒルに笑っていた。

 

「いや、成功だ。ついに失敗作(フィーラー)はその汚名から解き放たれた」

「ん……あれはただの抜け殻。中身は空っぽ」

「は?」

 

 落ち着いたユエの言葉にもう一度よく見てみる。

 

 すると確かに、フィーラーの体は上の部分が真っ二つに裂けているではないか。怒涛の展開で視野が狭まっていたらしい。

 

 では本体はどこかと視線を巡らせるが、影も形も見当たらな……

 

 

 

 

 

『──我を見よ』

 

 

 

 

 

 その声を聞いた瞬間。凄まじい重圧がのしかかるのを感じた。

 

 脳裏に響く、荘厳にして重厚な声音。聞いているだけで膝をつきそうな覇気に溢れている。

 

 そして、見下ろされている感覚に天井を見上げ──ここ数十分で何度目かの絶句をした。

 

 

 

 

 

 龍だ。

 

 

 

 

 

 東洋龍に酷似した、美しい黄金と白のグラデーションがかかった鱗を纏う龍がそこにはいた。

 

 虹色の両目の上、雄々しい角の生えた額には解放者の紋章を収めた結晶が七つ埋め込まれている。

 

 体長二百メートルはありそうな長い体の鱗は全てが美しく、元の不揃いな醜さはまるでない。

 

 4本の腕に揃う鉤爪は黒く輝き、口から覗く牙は真珠よりも純白の白さを持っている。

 

「御照覧あれ。

 あれこそは解放者達最大の遺産にして、彼らの神を討ち亡ぼすという悲願を収めた箱舟。

 七つの迷宮の踏破者がいて、初めてその殻を破ることを許された神獣。

 その名も神喰らう龍──《天壊龍アーク》にございます」

 

 芝居掛かったシュウジの説明すらも、その威容の前には陳腐にさえ聞こえてしまう。

 

 生まれ変わったフィーラーは、これまで見たどんな生物よりも美しい……ユエ達を差し置いて、そんな感想さえ浮かんだ。

 

「ん……とても、綺麗」

「これが、あのフィーラーさん……?」

「お兄ちゃんの、真の姿……」

「……同じ竜の姿を持つ妾でも、あのような美しき龍には終ぞ成れぬじゃろう」

「ていうか、でっっっか……」

「こんなに大きな生き物、見たことないよ……」

「あまりすごくて、感動しちゃいそうよ……」

「……あいつと同じくらい綺麗だ」

「すげぇ……もう、何がすごいのかわからないくらいすげぇ……」

「ほわぁ……」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことか。

 

 満足感と陶酔感に浸るほどに見惚れる俺達の横で、シュウジがクスクスと笑っている。

 

「良いリアクションだ。最後の大トリに回した甲斐があったよな、アーク?」

『是である』

「喋り方もすげー丁寧。さてハジメ、これ以上ないサプライズも済んだことだし出発するか」

「……あ、ああ」

 

 アークに見惚れ、反応が遅れてしまった。

 

 しかしそれでようやく現実に戻り、ここを出発することを思い出す。

 

 

 

 とりあえず、良い素材になるだろうフィーラーの抜け殻を回収する。

 

 シュウジが降りてきたアークの鬣の後ろに全員が乗り込める座席を設置し、そこに乗り込んだ。

 

「うわ、たっけえ!?」

「わわっ、ちょっとした高層ビルだよ!」

 

 坂上と谷口の感想にはまったくもって同意見だ。

 

 その大きさもさることながら、体の太さもフィーラーの体から受け継いでいるようだった。

 

「よし、全員シートベルトは閉めたな? では空の旅へと出発しよう」

『参る』

 

 ただ上を向くだけで、アークの体から重厚な音がする。

 

 膨大すぎる魔力で翼のない体を飛ばし、アークが天井に開いた巨大な穴に頭を入れた。

 

 かと思えばグン! と一気に速度を増し、思わず変な声を上げながら目の前に設置されたハンドルを握る。

 

「はっはっは、潰れたカエルみたいな声が出てたぞ?」

「むしろ、なんで、お前は、平気、なんだよ!?」

「そりゃ重力魔法でGを制御してるからな」

「先に、それを、教えろっ! ユエ!」

「っ、んん〜っ!」

 

 隣に座っていたユエが、どうにかこうにか手を伸ばして座席全体に重力魔法をかけた。

 

 すると、その剛体に見合わないスピードで飛翔するアークの圧からようやく解放される。

 

 死ぬかと思った、と口にする気力もなく、ぐったりとしているユエ達と同じく座席に体を預ける。

 

 

 

 その間にアークはトンネルを抜け、ついに大迷宮の外へと飛び出した。

 

 外は相変わらずの大吹雪だが、アークはそれを物ともせずに上空の曇天へと突き進む。

 

 そして、一瞬で曇天を抜けると太陽の燦々と降り注ぐ雲海の上に到着した。

 

「よーしアーク、このまま北西の境界まで運んでくれ。そこで天之河達を下ろす」

『御意』

 

 それから、迷宮からの出発とは比べ物にならない緩やかさでアークの飛行が始まった。

 

 少しの揺れもないゆったりとした速度に、少しずつ気力が戻ってきて体の緊張もほぐれる。

 

「ったく、なんつー出発だ……」

「これ、お別れの挨拶に周りに行く人達全員ショック死するんじゃないですかね……」

「シアに、同意」

 

 まったくだ。

 

 一応フューレンとかにも行こうと思ってたんだが、こりゃ町の遥か遠くで降りないと無理だな。

 

 その反面、生まれ変わったこのアークならフェルニルよりずっと早く各地を回れそうでもある。

 

 

 

 

 そんなことを考えながら、見渡す限りの雲海をぼんやりと眺めた。

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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