ハジメ「最後の章だけあって、怒涛の展開だな」
エボルト「その展開の詰め込み具合はビルド原作踏襲だな。さて、今回は……言うなれば序章、だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる終末編」」」
シュウジ SIDE
「こちらシュウジ。方舟は完成した、と」
メッセージを打ち込み、ついでにハジメ達が呆けている間に撮ったアークの写真も付ける。
それらをミレちゃんに送信すると、迷宮で隠居してるためほんの数秒で既読がついた。
二、三分ほどトータスの文字で既読がついたまま停止し、それからたった一言だけが送られてくる。
〝ありがとう、私達の最後の子供を立派にしてくれて〟……か。
その文面だけで、数千年もの時を待ち続けた彼女と、今は亡き解放者達の念が伝わってくる。
『あいつらも途方もない計画を立てたもんだ』
俺たちの計画が霞むレベルに気の長い話だよな。
「シュウジ」
「ん、ハジメか」
スマホをポイと異空間に放り込んで振り返る。
屋形船型(屋根無し)の座席の船首に座っていた俺は振り返り、そこにいるハジメを見た。
顔色は元に戻っているが、悠々と空を飛ぶアークを見て遠いところを見るような目をしている。
「気分は平気か? エチケット袋が必要ならいつでも言ってくれ」
「いや、もう必要ない。というかこいつ、本当にすげえな……どうして解放者達はこんなのを創ったんだ?」
どうやらアークについて興味があるらしい。
ま、あんな超展開見たらそうもなるか。素知らぬ顔してるけど、ユエ達も耳澄ましてるし。
別段隠すことでもないので、この胸中に秘めた
とか言って、俺もあの虹色の宝玉に触れた時に、知識を頭に入れられたんだけどネ。
くるりと体を回転させ、ステッキをカツンと軽く床に打ち付け。
意識をシリアスに切り替えてから、口を開く。
「今から数千年前、解放者達の中心にいた七人の先祖返り達。つまり大迷宮の創始者達は、エヒトを殺すにあたり三つの概念を作った」
「あー、そんなようなこと大樹の迷宮で聞いたな。その一つがこの羅針盤だろ?」
懐から返却した導越の羅針盤を取り出し、それがどうしたという顔をするハジメ。
こいつを筆頭に聞き耳を立てている紳士淑女諸君に、鷹揚に頷いてから三つ指を立てる。
「その通り。羅針盤はその一つ、エヒトの居場所を探り当てる為の概念。そして残り二つのうち片方はエヒトを殺す為の概念。では最後の一つは何でしょう?」
俺の問いに、ハジメは少しの逡巡の後に答えた。
「エヒトの元へ辿り着く為の概念、か」
「大正解! この概念はとても重要でね、こいつがなけりゃ残り二つは宝の持ち腐れだ」
住所特定しようが胸に突き立てる刃があろうが、実際会えないんじゃ意味がない。
そう説明すれば、なるほど確かにといった納得顔を見せるハジメ。
「それはつまり、最もエヒトにとっては危険視すべきものだ。自分の元へ辿り着く為の概念を付与されたアーティファクトだけは、何が何でも破壊しようとするだろう」
「だが、ああ説明してたってことは、そのアーティファクトはどこかに残ってるってことだろ?」
もう一度頷き、ステッキを軽く床に打つ。
「では如何にして、エヒトの差し向ける強力な使徒からその概念を守るか……
「っ!」
今度は隠すことなく、全員が驚愕の表情と共に息を呑んだ。
聖教教会こそ成立していなかったものの、エヒトに地上の全てが監視されている状況。
いつ誰が裏切るかわからず、使徒が襲来するかもわからない中で守りきれる確証はどこにもなかった。
だから解放者達は発想を転換したのだ。
自分達が倒れても、そのアーティファクトが自分で自分を守れるように作ろう、と。
「その理論のもと、最後の概念魔法を付与されたアーティファクトは──とある生物へと埋め込まれた」
「……その、生物ってのは」
「ヴァンドル・シュネーが厳選に厳選を重ね、品種改良を極限まで施し、変成魔法にて出来うる限りの強化を施した、何千年も成長し続ける究極の生命体だ。それこそ、いつか神を喰らい殺せる程に」
その魔物は、食らえば食らうほどに力を蓄え、知性を増し、肉体を強靭とする特性を持っていた。
それは無限の成長性を意味し、いずれあらゆる魔物を従える王にすらなるだろうと予言された。
エヒトの住まう【神域】とこの地上を隔てる壁を破壊する力を秘めた、アーティファクトのエネルギー。
全てに勝る強大なその力にさえ、平気で耐えられるほどの大怪物に。
「だがそいつの成熟を待つには、圧倒的に時間が足りなかった。仲間は一人、また一人とエヒトの使徒に殺され、人々は神に扇動されて傀儡となっていった」
「……だから、いずれその魔物が十分に成長する時まで、地下深くに封印することにしたのか」
「
異空間からあの宝玉を取り出す。
太陽にかざしてみれば、中には何万という式で構成された魔法陣が刻み込まれている。
こいつは氷雪洞窟の隠れ家の地下深くで厳重に保管されていた。
最大最強のアーティファクトを作る為の、最後の鍵だ。
「途方も無い計画だ。しかもこの最後の強化には魔物自体の肉体と魂の相応な強度だけじゃなく、攻略の証の中に刻まれた七つの魔法陣、予測でも数千年分かけてそのアーティファクトが溜め込むだろう膨大な魔力、そして一人で全ての神代魔法、七つの概念を理解できる人間が必要だった」
「……もはや無謀の領域だな」
まったくハジメの言う通りだ。
そんな人間が現れる可能性は恐ろしく低く、またそれまで大迷宮が残っている保証もない。
育ちきる前に魔物が殺されるかもしれないし、自分達も育つ前に老衰か、民衆や使徒に殺されるだろう。
それでも希望を抱いたのだ。
この時代じゃなくてもいい、自分達と同じ志を持っていなくてもいいからと。
いつか、いつかと。
来るかもわからない、いつかずっと先に来る明日。
それでも、どうか。
この子が人々の自由を切り拓く──支配の天蓋を打ち砕く極星になりますように、と。
「また、その魔物と融合して変質したアーティファクトを解析して得られたデータで、スペックを縮小、人間や普通の魔物サイズまで規格を下げた六体の人工生物も作られた」
「……それが私達、ホムンクルス」
「大正解」
ついでに言えば、魔物の成長に伴って肥大化したアーティファクトから溢れた小さな欠片。
それを再利用、かつ天文学的確率で自然的な変異をしたものが、ウサギの動力源である
それら全てを説明しきると、俺と同じく概念魔法を習得したハジメとユエは呆れた顔を。
ウサギは自分の胸に手を当てて微笑み、残りのメンバーは理解が追いつかずにポカンとしてる。
「なんて無茶苦茶で確実性のねえ計画だ」
「……ん。その前に、フィーラーが普通に死んでたらどうするつもりだったの?」
「解放者達も本当に賭けだったのさ。実際、一応予備でエヒトのいる神界に行く為の概念は残してあるみたいだしな」
「備えあれば憂いなし、ってか」
「……成功するとは、最初から思ってなかった?」
「だが結果的に、概念について深い智慧と理解を持つ俺ちゃんがこの世界に来た」
俺が来てなかったら、こいつマジでこの星が滅ぶまで奈落の底で置物だったと思う。
……同時にあることも理解した。
何故、女神から与えられた知識にホムンクルス……ひいてはフィーラーに関する情報が一切ないのか。
女神マリスは恐れたのだ。次元の壁を壊すその力で、自分の存在をも脅かされることを。
だから俺に知識を与えず、代わりにフィーラーを手に負えず封印した失敗作という情報を与えた。
まあ、あの設計図に同封されてた魔法で知っちまったけど。
だが、今更どうこうするつもりもない。
今の俺の目的はエヒト殺しただ一点。こいつはその為だけに活用する。
そもそも座標を知っている以上、
『それ以上は言うな、解放者とこいつが泣くぞ』
おっと、こりゃ失敬。
その上で、こいつにあえて最後の強化……否、進化をさせた理由は二つ。
エヒトを殺そうとする際、奴が抵抗して送り込んでくるだろう軍勢への対抗策。
それと付与したアンチエネルギーが効かなかった場合、ハジメ達を守る剣にする為。
あとはまあ、解放者達の切実な願いを叶えてやろうかという同情もちょいと。
「ま、せいぜい今はこの空の海を楽しもうや」
「そうだな。今更お前の行動の結果が規格外なのも慣れてるし」
軽口を叩くくらいには、ハジメも余裕を取り戻したようだ。
それにニヒルな笑みを返し、ユエ達のところに戻った親友を見送り前に向き直る。
「さて、境界まであと少し。何も起こらなきゃいいがね」
などとボヤいてみるものの、全くそんな気がしない。
俺のフラグ探知能力と暗殺者としての勘、そして最近薄れてきているギャグキャラの性分が言っている。
この先絶対に面倒な展開になる、ってな。
「……っ」
そんな俺の内心は、ほんの数分後に実現することになってしまった。
あと少しで雪原と魔人領の境界に差し掛かろうかと言うところで、下から大量の殺意を感じた。
ほぼ反射的に感知魔法を発動し、その結果に我ながら実にうんざりとした顔になる。
そのまま素通りしたいところだが……一つ、どうしても見過ごせない反応が魔法で示された。
「アーク、降りろ」
『御意』
ゆっくりと、アークの巨体が頭から雲海に入っていく。
チラリと後ろを見ると、のんびりしていたハジメ達が訝しげにしていた。
「シュウジ、どうした?」
「全員戦闘準備をしてくれ。厄介なのが待ち構えてる」
その一言で全員が俺の意思を察して、真剣な表情で立ち上がり、各々武器を取り出す。
程なくしてアークが雲海を抜けた時、そこには……
「やはりここに来たk……なんだこの怪物は!?」
ふた回りくらいでかくなった白竜に乗った、間抜け面のイケメン(笑)がいた。
それだけでなく、フリスクの隣には灰色の翼を広げ、アークを非常に警戒した目で睨み上げる中村。
そして……不敵に腕を組む赤髪の黒獣、【暴食の獣】紅煉が待ち構えていた。
奴らの背後には灰竜の軍団、紅煉の従僕だろうバイザー野郎共、そして全員同じ顔の天使の軍隊。
灰竜から順にざっと見て三百体、バイザーが四百体、そして神の使徒が五百体。
なんともご大層な戦力だ。
「よう、お出迎えご苦労さんイケメン君。で、そこ通してくれる?」
「なんだお前か。今度こそどタマぶち抜かれに来たか?」
「っ、貴様……!」
アークの威容にたじろいでいたフリ……フリ……フリーターが隣に来たハジメを睨む。
よく見ると、割と整った顔には結構なアザが残っている。思い切り殴られたような感じの。
「あーそういや、お前王都でハジメにボッコボコにされたんだっけ? ご苦労様w」
「ッ、挑発には乗らんぞ……」
そんなこと言いつつもキレそうである。こいつ情緒不安定かよ。
睨めあげるフリードとハジメの間で殺気が高まり、常人ならば失禁する修羅場が出来上がる。
「あははぁ、そんな顔して何言ってんの。もういいから下がっててよ」
沸点低めのフリッピーを押しのけ、中村が前に出た。
その目には狂気と、怒りと、蔑み……あの阿呆を変えた(意味不明)俺への憎悪で満ちていた。
「かなりイメチェンしたな。その曲がりまくった性根にお似合いだぜ?」
「やあ北野。君のことは前から大っ嫌いだったけど、さすがに嫌悪を通り越して驚いたよ。こんなのどこから連れてきたの?」
「そうさな、同じ人間すら信用できんチミには手に入れられないとだけ言っておこう」
「っ、相変わらず腹の立つ態度だなぁ……!」
「人をおちょくるのは得意なもんでね」
おお憎しみに満ちた怖い顔、くわばらくわばら。
……さて。
このまま奴らが精神的に余裕がなくなれば、
目の前にいる中村達から目線を外さないまま、意識をバイザー野郎の一匹が抱えてるそいつに向け……
「……恵里」
「恵里!」
そんな俺の思惑は、前に出てきた天之河と谷ちゃんのせいで台無しになった。
メガネからビームでも発射しそうな眼光でいた中村は、天之河の顔を見た途端にハッとする。
そうすると胸に手を当てて深呼吸し、ニコリと笑った。
チッ、感情がリセットされた。
「やあ光輝くん。それに鈴も。二人とも迷宮は攻略できたのかな?」
「恵里、鈴は! 鈴は恵里と……」
「話でもしにきた? どうやら能天気さはなくなったみたいだけど……恨みつらみでも吐く? まあ、好きに喚けば? 今更どうでもいいし」
「違う! そんなことじゃなくて鈴は……!」
「鈴」
思いの丈をこの場でぶちまけようとした谷ちゃんを、天之河が諫める。
奴が首でも横に振ったか、躊躇うような雰囲気の後に谷ちゃんの足音が数歩後ろに下がった。
それから奴がハジメとは反対、俺の左隣から前に出て中村を見下ろす。感動の対面だ。
「恵里。俺は……君に対して酷いことをした」
「ん? なんのことかなぁ? 光輝くんが僕にしてくれたことで酷いことなんて一つも……」
「俺は君を忘れていた」
ピタリ、と中村が動きを止める。
「無責任に恵里の問題に手を出しておきながら、最後まで向き合うこともせず放棄した。そして君を一人にして……そんな姿にまでさせてしまった」
「…………」
中村は、俯いて答えない。
「恵里。俺がこれから先、君にできることなんて少ないと思う。君が望んだ形でもないだろう。それでも俺の一生をかけて君にしたことの責任を取る。だから……俺に最後のチャンスをくれないか」
真面目一本といった顔で、心の底からという目で訴えかける天之河。
後ろに下がった谷ちゃんも、雫や白っちゃん達も後ろから固唾を呑んで見守っている。
……なるほど。自分のしたことのケツ持ちくらいは考えられるようになったようだ。憎たらしい。
『感動的だな。だが』
無意味だ。
「……く、ふ、ひひひひひひひヒヒヒヒ」
「…………」
「あ〜あ、可哀想な光輝くん。やっぱり北野に洗脳されちゃったんだねぇ。そんな光輝くんらしくないこと言っちゃってさぁ」
「っ」
顔を上げた中村の顔に浮かぶは、狂気。
どこまでも純粋な、狂愛それ一つで満たされた顔で天之河を見上げていた。
「でも大丈夫! 僕がすぐに元どおりにしてあげるよ。僕だけが理解してる、僕だけの最高のヒーローの光輝くんに!」
「っ、恵里……!」
「だから言ったろ、お前の行為は無駄だと」
悔やむような横顔をする奴に、冷酷に告げてやる。
中村の行動倫理は、中村の世界の中で全ての結論が出てしまている。
この正義バカが何を訴えようが関係ない。最初から無駄な望みだ。
「しかもテメェのせいで俺の思惑も台無しだ、このクソッタレ」
「……え?」
「ああ、そうだ! 本題を忘れるところだったよ!」
突如、中村が声を上げる。
それは俺にとって……最悪の事態の到来を告げる鐘だった。
「北野。君達には私達に黙って、抵抗せずついてきてもらうよ?」
じゃないと、と中村が言葉を止めて。
数秒もしないうちに中村の隣に、バイザー野郎の一体が音もなく飛んでくる。
そのバイザー野郎は、俺がこの場に来たその瞬間からずっと目をつけていた個体であり。
「この女、殺すよ?」
「………………」
薄汚れたソイツの腕の中には……死にかけのルイネがいた。
読んでいただき、ありがとうございます。