星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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エボルト「俺だ。前回は雲行きが怪しくなってきたな」

ルイネ「我ながら、ひどいなこれは…」

シュウジ「あのアホが出てこなきゃうまくいったものを。ま、今回は続きだ。不穏な展開は継続、それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」


無粋な招待

 

三人称 SIDE

 

 

 

 無造作に片腕を掴まれ、宙吊りのルイネ。

 

 

 

 身体中から鮮血を流し、服はボロ布のよう。

 

 美しい赤髪はまばらに切り裂かれ、浅い呼吸で今にも事切れてしまいそうだ。

 

「ルイネさん!?」

「嘘……」

 

 死に体の彼女を見て声を上げたのは、シアと雫。

 

 その驚きと怒りは共に旅をしたハジメ達とて同じことであり、言葉に表さずとも息を呑む。

 

 光輝達も、一度会っただけであるものの悲惨な有り様に顔を険しくした。

 

 

 

 だが、それ以上に。

 

 シュウジからドクドクと空間に充満していく絶大な殺気に、息が止まりかけた。

 

 

 

 生物の出していい殺気ではない。

 

 現にそれだけで灰竜の半分以上が一瞬で絶命した。

 

 彼や恵里も、一瞬にて駆け巡った走馬灯に怯むも、人質の存在でどうにか心を保つ。

 

「い〜ィ表情になったじゃねェか、人形。ランダの野郎もくたばったみたいだしよォ、あン時とは比べ物にならねェぜ?」

「……おかげさんでな」

 

 平然と口を開いた紅煉の言葉に、吐き捨てるように返した。

 

 あらん限りの憤怒に溢れたその声に、紅煉はそれは愉しそうに笑うではないか。

 

「この女、さァすがはテメェの女だ。不意打ちしたのに中々粘りやがって、エヒトの野郎にもらったこの新しィ神刀がなけりゃァ危なかったぜィ」

 

 陽光に反射し、紅煉の顔に刺さった三本の銀刀が輝く。

 

 ノイントや、肉体を変質した恵里に与えられた〝分解〟の能力を持つ、邪神の与えた刀だ。

 

 それによって身体中を切り刻まれたルイネは、龍人の高い治癒力がなければ既に死んでいる。

 

 

 

 シュウジはそれを理解していた。

 

 エボルトの毒を生み出す能力が、その刀の力を教えてくれたのだ。

 

 だからこそ恵里やフリードの意識を自分に集め、悪意で思考力を狭めて隙を作っていた。

 

 しかし、光輝の登場によってせっかく作った奪還のチャンスは泡沫の夢となったのだ。

 

 

 

 愚者は、そのことを今更ながらに理解した。

 

「お前は本当に余計なことしかしねえな、天之河」

「っ、すまない……」

「まあお前が救いようのないクソだってのは今更だからどうでもいいが……それで?」

 

 ギロ、と擬音がつきそうな冷徹な目つきで恵里を睨むシュウジ。

 

 いかに複雑な事情があれ、手酷く拒絶されたとて、彼女はシュウジの〝特別〟だ。

 

 それをああも傷つけられたとあっては、感情がより強くなった今抑えが効かない。

 

「お綺麗な羽をつけた主の使い(笑)さんと、エヒトの眷属にいいように使われてる忠犬さんよ。お前らに俺達を招待させたのはどこのどいつだ?」

「っ、あ、あははぁ、やっぱり君は察しがいいねぇ。うんそう、君らを呼んでるのは僕らじゃない。わかりやすく言うと……()()、ってところかな?」

「アルヴ様は、下劣な貴様らを城へとご招待なされたのだ。我らはその迎え。その女の首を刎ねられたくなくば付いてくるがいい」

「ああ! それとこの女だけじゃないから、よぉく考えた方がいいよ?」

 

 言葉を連ね、嗤う恵里とフリード。

 

 ルイネだけではない。その言葉の意味を理解した一同はその場で凍りつく。

 

 

 

 予想できたことだ。

 

 ルイネは決別してエリセンに残ったが、それとは別にミュウやレミアの護衛役でもあった。

 

 そんな彼女が敗れ、この場にいる……それはつまり、あの三人もが捕らえられているということ。

 

 

 

 もしやと思い、ハジメは導越の羅針盤を密かに取り出し、ミュウ達と同時にあるものを探る。

 

 そして羅針盤が伝えてきた回答に、盛大に顔を不機嫌そうに顰めた。

 

「……チッ。王都のやつらも人質になってるな」

「なっ、それは本当か南雲!」

「ああ、ミュウ達と同じ場所に反応がある。今の先生がそうそうやられるとは考えにくいが……」

 

 ランダと、少し前に敗れたばかりのキルバス。

 

 この二人と眼前にいる紅煉を除いたとしても、《七罪の獣》はあと四人いる。

 

 そのうちの誰かに敗れ、生徒達諸共拐われたのだろう……そこまで推測したハジメ。

 

 

 

 正直に言ってしまえば、戦力的には恵里やフリード、天使軍団など敵ではない。

 

 真正面からやって負けるつもりは毛頭なく、アークもいる以上は紅煉も無傷では済まないだろう。

 

 この場を切り抜けて、囚われのミュウ達は……救える。

 

 

 

 だがそれは、今にも目の前で死んでしまいそうなルイネを見捨てる上での結論。

 

 それを何より理解しているだろう親友の恐ろしい横顔を、ハジメは見た。

 

「どうする? 頷かないなら、この女の首から下が落ちてくけど?」

「答えを出せ、異端者達よ」

「……チッ。俺としたことが、ここまできて失敗するたぁ笑えねえな」

 

 脅迫する二人に、乱暴にステッキで肩を叩いたシュウジが嘆息した。

 

 

 

 無論、エヒトの狡猾さを知っていたシュウジが対策を怠ったわけではない。

 

 《獣》がルイネ達を襲う予想はしていたし、愛子達が連れ去られる可能性も危惧していた。

 

 だからそうなる前に、計画を大幅に早めて戦力を整え、氷雪洞窟の攻略に合わせていたのだ。

 

 

 

 だが、その対応策の要たる()()()()()()()()()との繋がりが切れた。

 

 おまけに大迷宮とパンドラタワーを除き、エヒトはこのトータス全土を神域から監視している。

 

 今あちらは、魔人領に隔絶され、エヒトが光らせる目に身動きが取れない状態。

 

 

 

 あちらに一つの戦力もないわけではない。

 

 が、人質を無防備に放置しているとも考え難い。使徒の数人くらいは監視に置かれているだろう。

 

 もしかしたら《獣》も配置されているかもしれない。エボルドライバーもない、あちらのエボルトでは勝ち目は低い。

 

 

 

 ではこの場でルイネを助け出せるか。答えはイエス。

 

 多大な精神的動揺はあるものの、魔法で感情を凍結させてしまえば問題ない。

 

 しかし、ルイネを救った途端にそれを見たエヒトがアルヴにそれを告げ、リベル達を殺されたら。

 

 そこでこちらはゲームオーバーだ。

 

 

 

 そんな無数の憶測と確実に近い予測がシュウジの脳内に乱立し、一つつの答えを出す。

 

 いわゆる詰み。八方塞がり。先に手足たるファウストの動きを抑えられた時点で負けた。

 

 

 

 故の降伏。

 

 その意を悟ったハジメ達は、苦々しいながらも受け入れるしかない。

 

「はいはい参った参った、コーサンだ。だからルイネを──」

「…………ま、て」

 

 ピタリと、シュウジの言葉が止まった。

 

 誰もが驚いて視線を集め、注目の的となったルイネは僅かに目を開く。

 

 光輝達が唖然とする中で、紅煉だけは大口を開けて口の端を釣り上げた。

 

「ハハハハァ! やァっぱり面白ェ女だ! その状態でまーだ話せるとはなァ!」

 

 意識を取り戻したルイネ。

 

 待ったをかけた彼女を、固唾を飲んで見るシュウジ達。

 

「……私は……捨て、置いて……リベル達の、元へ……ゆけ…………」

「っ……」

「あなた達と……その生まれ変わったフィーラーならば、できるはず…………私一人の命より、彼女達の命の方に……天秤は傾く……」

 

 弱々しく、されど覚悟を滲ませた声でルイネは最後の独白を紡ぐ。

 

 多数の幸の優先。

 

 誰よりその論理を知るシュウジは、初めて顔を歪ませた。

 

「これで、いいんだ…………姉の甘言に惑わされ、故郷の世界を滅ぼす助力をして……必死に……懸命に生きようとするあなたの心を……エゴで切り裂いた、醜女には……お似合いの、結末だ……」

「……ルイネ」

「私は……私の想いを……否定しない…………それでも」

 

 残る力を振り絞り、鉛のように重たい瞼を開ける。

 

 そうして真っ直ぐに見つめるのは……自分を見上げる、紫色の優しい瞳。

 

「すまな、かった……あなたは、立派な一人の人間だったのに……」

「ッ!」

「私は、あの人を愛してる……ずっと、ずっと、これからも……でも、それは…………あなたを否定していい理由には…………ならない」

「ルイネ! 違う、俺は!」

「私は、あの人のもとへ……あなたは、あなたの望むままに……それであなたの楔を断ち切ろう……」

 

 だから、と血塊と共に掠れ声を吐いて。

 

「どうか.……あの人を辿らず、()()()()生きてほしい……」

 

 

 

 

 

 それが、ルイネ・ブラディアの出した答え。

 

 

 

 

 

 自分という、北野シュウジが生きる限り永劫に罪を背負わせるだろう存在の終焉。

 

 傲慢に死者を求め、こんな世界までやってきて、結局また騙されたと知った。

 

 いつまでも断ち切れないこの未練は、転じてシュウジの罪悪感となり続ける。

 

 

 

 だったら、もう終わらせてしまおう。

 

 〝彼〟はそれを望んだ。自身の存在の存続ではなく、レプリカを北野シュウジという人に成らせた。

 

 自分も絶えず胸の中に燻り続ける渇望の灯火を消し、満足する頃合いだ。

 

 

 迷いに迷い、苦しみ、喘いで、そしてみっともなく死ぬ。

 

 ああなんて最低で陰湿で最悪な……こんなに我儘な自分に相応しい、死だろうか。

 

 

 

 それに、今更こんなこと烏滸がましくて口にできないが。

 

 きっと〝彼〟への想いや、自分の想いの清算の他に、自分の心には彼への………

 

「だってさ。どうする?」

 

 珍しく感情的に叫び、されど遮られたままに止まったシュウジに恵里が問う。

 

 

 

 

 

(どうして、こうなった?)

 

 

 

 

 

 何故、とシュウジは考えた。

 

 自分が悪いはずだ。自分だけが許されざる悪であればいいはずだ。

 

 なのに、なんで謝る? なんで諦める? 

 

 なにも背負わなくていいのに、どうして清算しようとする? 

 

 

 

 

 何を間違えた。どこから見落とした。どうやって補えばいい。

 

 疑問と悔恨と怒りでごちゃごちゃになった頭で、シュウジはいつも通りに打開策を考える。

 

 考えろ、考え出せ。お前はそれができるだけの記憶と知識をあの男から奪ったはずだ。

 

 そのはずなのに、なんで感情ばかりが加算され、思考は鈍る? 

 

 

『最適解を教えてやろうか?』

 

 

 自問自答と自戒を繰り返すシュウジの脳裏に、いつもの声が響いた。

 

 エボルト。

 

 そうだ、こいつならばとシュウジは希望を見出した。

 

 いつも自分と共にあり、全ての理不尽を上回ってきた相棒ならば……そう考えた、が。

 

 

『あいつを見捨てろ。それで全て解決する』

 

 

 この生命体が、本来カイン以上の残虐の徒であることを失念していた。

 

『お前の計画に支障はない。あいつ諸共この場の全員をアークの力で破壊し、リベル達を救え。それが一番効率的だ』

「っ、だけど……!」

 

 そう、それが最高の解。

 

 

 

 全て揃えば何もかもが終わる。

 

 この場で彼女が息絶えようが、後で取り返せる()()だ。

 

 かろうじて残っていた思考も、その回答を弾き出した。

 

「さ、どうする? 正直さっさと連れてって、あとは僕と光輝くんだけで楽しみたいんだよね。てことであと三十秒ね」

 

 いーち、にーぃとカウントダウンを始める恵里。

 

 フリードが片手を上げると灰竜達が一斉に頭をもたげ、口をルイネに向ける。

 

 

 

 このままでは消し炭にされる。

 

 いよいよ決断の時を迫られたシュウジは、歯を食いしばった。

 

「……何を、迷ってるんだ……早く、リベル達を…………」

「ッ、ルイネ……!」

 

 既に諦めているルイネに、シュウジはこれ以上ないほどに情けない顔を見せる。

 

 そうしている間にもカウントは半分を切り、シュウジの思考から余裕が消えていく。

 

 

 

 こうなればエボルアサシンでどうにか、と異空間からドライバーとボトルを取り出して。

 

 腹部に押し当てようとしたその手を、漆黒の義手が掴んで止めた。

 

「早まんな」

「ハジ、メ……」

「ったく、いつも一人で全部抱え込みやがって。ワンマンプレイもいい加減にしろよこのアホ」

「あだっ」

 

 キン、といささか硬質な音を立てて義手でデコピンを喰らわせた。

 

 額を抑えてしどろもどろとしているシュウジに、ハジメは優しく笑った。

 

「何度言ってもわからないなら、何度だって言ってやる。お前は一人じゃねえ。俺らがいることを忘れんな」

「っ!」

「あいつは必ず取り戻す。ミュウ達も、必ずみんなで力を合わせて。だから今は……抑えろ」

 

 その言葉と、力強い瞳にシュウジは何も言えなくなった。

 

 ユエ達を見ると、同じ表情でいる。犬猿の仲たる光輝でさえも力強く頷いた。

 

 

 

 もはや何も言えず、返答さえできないシュウジにハジメは真剣な表情を作り、恵里を見上げる。

 

「おい中村、お前らの招待を受けてやる。だからその耳障りなカウントはやめろ」

「あ、そう? それなら良かった、そのおっかないドラゴンに暴れられでもしたら面倒だからね〜」

 

 ニヤニヤと嫌らしく笑う彼女に、ハジメはスッと目を細めて。

 

「一つだけ覚えておけ、中村」

「なにかな、もう話すことはなっ──」

 

 

 

 

 

 音が、消えた。

 

 

 

 

 

 最初のシュウジの殺意に匹敵するハジメの覇気──いいや? 

 

 そんな生優しくて甘いものではない。

 

 

 

 鬼気が、その場を包み込んだ。

 

 

 

 膨大なそれと、無意識に昂った魔力の奔流に使徒までもが数人は核を破壊され、墜ちていく。

 

 死ねたのなら幸いだろう。それで終わり、あとは骸と果て何も感じなくていい。

 

 

 

 だが、生きながらにそれを受けた者は? 

 

 恐怖。その二文字が、ハジメの隻眼と真っ向から対した恵里とフリードの心に刻まれた。

 

 死を幻視した二人は、ぬるりと意識の最奥に差し込まれるような気の刃に呼吸を乱す。

 

 体感温度が下がっていく。多数の人質を持った自分達は圧倒的有利なのに……まるで勝てるビジョンが浮かばない。

 

 

 

 魔神。そんな表現が心をよぎった。

 

 

 

「もしルイネや、ミュウ達に何かしてみろ。この場で全員殺す。手土産にお前らの首だけは持っていってやる」

 

 

 

 ハジメとて、怒りに震えているのだ。

 

 

 

 ルイネの存在以前に、ハジメは三人に何かあればすぐに気がつけるよう備えていた。

 

 数々のアーティファクトで家を要塞化し、それを感知できる仕掛けも施した。

 

 

 

 だがその一切に引っかからずに、あそこでふんぞり返っている獣畜生はルイネを嬲り、三人を拐った。

 

 対応できなかった自分への怒りと、目の前の外道への到底抑えることのできない憎悪。

 

 その全てを叩きつけ、後ろにいる美空や鈴にまで影響を与えながら、二人を目線で射抜く。

 

「忘れるな、ルイネやあいつらがいるからまだその命が続いていることを。もし傷の一つでもつけようものなら、女子供、老人や病人……そんなもの関係なく、一人残らず魔人族全てを絶滅させてやる」

「っ、へ、減らず口を……!」

 

 口ではそう途切れ途切れに言いながらも、フリードも彼が乗る白竜ウラノスも、明らかに恐怖していた。

 

 自分達が今もなお生きているのは、ルイネ達があってこそ。

 

 そのことを強制的に理解させられたのだ。

 

「おら、さっさとゲートを開け。今度はこっちがカウントダウンしてやろうか?」

「っ、貴様は必ず後で殺す……!」

 

 徐々に鬼気を収めて揶揄うハジメに、解放されたフリードは悪態をつく。

 

 最初に邂逅した時のカリスマはどこへやら、すっかり矮小な小物じみた言動が板についた。

 

 だが、自分達を見つめる赤い瞳と、その下の怪物の虹色の瞳に慄くように詠唱を始めた。

 

「…………」

 

 何もできなかった。

 

 

 

 その光景を見たシュウジの心に浮かんだのは、その一言だけで。

 

 

 

 

 

『最適解が最善とは限らない。だが愚かな選択こそが、人間の脆い心を救うこともある。ハジメに助けられたな、シュウジ』

 

 

 

 

 

 エボルトの指摘が、心に深く突き刺さった。

 

 




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