星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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もう一月すら後一週間か…

エボルト「俺だ。前回は珍しくシュウジが弱ってたな」

ルイネ「私が負担になってしまった。ふがいない…」

ハジメ「全ては作者が悪いから気にするな。さて、今回はあっちにいってからの話だ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」


最悪よりなお最悪

 三人称 SIDE

 

 

 

 珍しくもシュウジが無力感に打ちひしがれている間に、ゲートが開く。

 

 

 

 厚みのない扉の先に見えるは、大きなテラスとそれなりの街並み。

 

 王城のどこかに繋がったゲートに頷き、振り返ったフリードは何かを言おうと口を開く。

 

「ああ、武装の解除やら魔力封じの拘束やらは断る。敵地のど真ん中に飛び込むのにそんな無防備晒せるか」

 

 が、それを先んじてハジメが封じた。

 

 フリードは鼻白んだような顔となり、意向に従わないハジメに忌々しげな目を向ける。

 

 それを真正面から睨み返して、ハジメは不敵に笑うのだ。

 

「さもなけりゃ、イチかバチかこいつごと突っ込んで暴れるが? いったい何千人死ぬだろうな」

「……狂人めが」

「その狂人が女子供の肉塊を並べる前に、さっさと案内したほうがいいと思うがな」

 

 低く、唸るように言うフリードと、あくまで余裕を崩さないハジメ

 

 

 

 ハジメとしては当然のことを言ったまでだが、はったりも一部含まれている。

 

 〝追い詰められたら何をするかわからない〟と思わせておいたほうが、後々良いのだ。

 

 

(クソ、こういうのは俺の役目だろ。肝心な時になっさけねえ……)

 

 

 いざという時のための布石を打っておくハジメに、シュウジは顔を歪ませる。

 

 それは情けなさやら、申し訳なさからくる感情の具現。

 

 ずっと守ってきたハジメ達に、たった一つのことで感情を乱され、負担を負わせてしまった。

 

 シュウジにとってはそれが、何よりも辛いことなのだ。

 

 なんとなくそれを感じ取りながらも、ハジメは悩むようなポーズを取るフリードを睨みつける。

 

 

 

 常識的に、自分の敬虔に敬愛する神の御前に立つならば武装など解除させたいに決まっている。

 

 だが、目の前にいるのは普通の相手ではなく、軒並み桁外れた化け物ばかり。

 

 おまけに武装解除はフリードの独断であり、アルヴからは特に指示がない。

 

「不毛なことはやめなさい、フリード」

 

 そこへ口を出したのは、使徒の一人。

 

 全てがノイントと同じ端正な顔をした人形は、無機質な声でフリードに語りかける。

 

「あの御方はそのような些事は気にしません。むしろ良い余興と言うでしょう。それにイレギュラー達の拘束は我々と、紅煉様を含めあちらに控える三人の《獣》で事足ります」

 

 やはりいるのか、とハジメは内心舌打ちする。

 

 これまで出会った《獣》か、あるいは未だ相見えぬ七人目の《獣》か。

 

 どちらにせよ、使徒の言葉通りにミュウ達がなすすべなく殺される可能性は跳ね上がった。

 

「ただ……」

 

 使徒が一斉に、ハジメ達の方を向く。

 

 その視線の先は……静かに虹色の光を輝かせるアーク。

 

「その魔物だけはここに置いていっていただきましょう。我々使徒の総力をかけても、殺せる確率が低すぎる」

「むっ、それほどとは……」

 

 ここにいる使徒は総勢五百体。一人一人があのノイントと同等の性能を持つ。

 

 それでもなお、敗北が濃厚な力。文字通りの災害を連れてきたハジメ達にフリードが目を鋭くする。

 

「この要求を飲めないのであれば、人質はすぐに虐殺されることになるでしょう」

「……流石に仕方がねえか」

 

 元よりアークをあちらに持ち込めるとは、ハジメも思っていなかった。

 

 なのでわかったからさっさと案内しろと言わんばかりに、フリードに顎でしゃくる。

 

 

 

 不機嫌な顔になりながらも、フリードは空中に開いたゲートを潜っていった。

 

 ハジメはシュウジの肩を叩いてから、アークの頭の上を歩いて行っていく。

 

『そら、いつまでも真面目に落ち込んでるなんてお前らしくもないぞ?』

「……だな」

 

 

(そうだ、こんなところでしょげるなんざ俺のキャラじゃねえ。あっちに行けば繋がりを復活できる可能性は高い、計画的に行動しろ)

 

 

 エボルトの安い挑発に気を取り直し、シュウジは石柱のように動かなかった足を動かす。

 

 そしてハジメの隣に並び、こちらを見上げたハジメにニヒルに笑った。

 

「サンキューなハジメ。ガラにもないツラ見せた」

「ああ、珍しく心配なんてしちまったぞ」

「だったら心配させた分、挽回しないとな」

「期待しとく」

 

 同じように笑いあって、二人は並んでゲートの先へと踏み出した。

 

 

 

 遥か先の魔王城へと繋がった扉を潜った先は、学校の屋上程度のテラス。

 

 二人に続いて、アークを橋にユエ達がやってきてもなお余裕がある。 

 

 

 

 二人の殺気を受けて生き残った灰竜達はそのままどこかに飛び立ち、コクレンと使徒も大半が離れていく。

 

 残ったのは十体ほどの使徒と数体のコクレン、そして再び気を失ったルイネを受け取った紅煉。

 

 もっとも油断ならない獣の手に身柄が渡ったことに警戒しながら、シュウジは接続を試みた。

 

 

 

 エボルトの感覚は……ある。確実にこの魔人領の地下施設にいる。

 

 しめた。そう思いながら、気取られないように平然とした顔で体内のエボルトとの再接続を

 

 

 

 

 

 

 

やっときたか。待ちくたびれたぜ、シュウジ? 

 

 

 

 

 

 

 

 した、その瞬間。

 

 

 

 パキンと何かが壊れる音がして、シュウジの中に濁流のごとく記憶が流れ込んだ。

 

 

 

 それは自分の知らない自分の記憶。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()、最後の秘策。

 

 

 

「──ッ!」

 

 そして理解する。

 

 この場所、この時、この状況。

 

 

 

 

 

 ああ、すべて──計画通りだ。

 

 

 

 

 

「……ふはっ」

「貴様、何を笑っている」

「いや、この城の景観が悪趣味なもんでね。もうちょい明るくしたらどうだ?」

「……よく回る口だ」

 

 ウラノスから降りたフリードは鼻を鳴らし、顎をしゃくってついてくるよう促す。

 

 シュウジはニコリと笑い、密かに手の中で光らせたものをハジメは仕舞ってついていった。

 

「光輝く〜ん、あの化物達怖かったよぉ〜」

「え、恵里……」

 

 全員がこちらにやってきて、ゲートが閉じた瞬間光輝に擦り寄る恵里。

 

 人質、脅迫、殺人。あらゆる非道を行ってきた癖に、まるで甘えるようなおぞましい声音と笑み。

 

 下手に動けない雫達や鈴さえも完全に無視し、腕に抱きつく彼女に光輝はたじろぐ。

 

 

 

 だが、ここで突っぱねてもいいことにはならない。

 

 クラスメイト達のため、そして自分が歪ませてしまった彼女のため、甘んじて受け入れなくては。

 

 そう思う光輝に密着した恵里は──酷く臭いものを嗅いだような顔をしていた。

 

「……何これ。なんで光輝くんの魂からこんな変な気配がするの?」

「……何を言ってるんだ」

 

 ひどく冷めた声で言う恵里の言葉は、光輝には要領を得ないもの。

 

 だがしかし、自分を見下ろす彼の左目が一瞬赤と黒に染まった瞬間──恵里は目から光を失わせた。

 

「……ふぅん、そう、そういうことなんだ。へぇ、僕だけの光輝くんに、あいつは……」

「…………?」

「あのクソ女、あの顔をぐちゃぐちゃに引き裂いてから絶対に殺してやる……」

 

 何やら怨嗟にまみれた声で呟く恵里。

 

 まるで意味がわからないが、とにかく彼女が自分から離れたことにある種の安堵を感じた。

 

 

 

 そうしている間にも、一同は石造りの長い廊下を進んでいく。

 

 幾度かの曲がり角と渡し廊下を通って、やがてたどり着いたのは謁見の間を閉ざす巨大な扉。

 

 太陽を見立てた球体と、そこから光の柱が降り注ぐ意匠は、この絶大な威容を誇る扉に相応しい。

 

 

 

 扉の前にいた魔人族にフリードが目配せをして、門番は扉に手をかざす。

 

 その直後に重厚そうな音を響かせ、両開きの扉が左右へと開いていった。

 

 露わになるは、真紅のレッドカーペットと祭壇のような舞台と豪奢な玉座。

 

「…………」

 

 ハジメが魔眼石に〝気配感知〟を発動させると、玉座の脇にそびえる巨柱の後ろに大量の気配が。

 

 羅針盤で探った時の大まかな位置と合致する。ハジメはシュウジに目配せし、親友は頷いた。

 

 

 

 謁見の間に入っていくと、その場所の様子がよく見える。

 

 魔法だろうか、赤黒い檻に入れられていたクラスメイト達は大勢の足音になんだと顔を上げ、驚いた。

 

「せ、先生! あいつらが!」

「ええ、わかっています清水くん……来てしまったのですね」

 

 これまで彼らに語りかけ、落ち着かせていた愛子も静かに目を開いた。

 

 そのすぐ側には、ついでのように連れ去られたリリアーナが驚いた顔をしている。

 

 

 

 彼らの表情はもちろんシュウジ達からも見えていた。

 

 あえていつものように片手を上げて「よっ」と陽気に笑うシュウジに、愛子が口を開き──

 

「パパぁ!」

「……? っ、パパ!」

「あなた!!」

 

 別の檻に囚われていたミュウ達の声にぶった切られた。

 

 クラスメイト達が唖然とし、中途半端に開口していた愛子が表情を苦笑に変える。

 

 そんな締まらない空気の中で、シュウジは檻のなかでこちらに身を出したリベルを見る。

 

「やあ、我が愛しの娘よ。ごめんな、お前をそんな薄汚い場所に捕らえさせて。不甲斐ない父を罵ってもいいぜ」

「っ、ぱ、パパ!」

 

 巻き込んだことを謝るシュウジに、みるみるうちに顔を歪ませていくリベル。

 

「あのっ、あのねっ、わた、私こそ、ごめんなさい!」

「おいおい、何を謝るってんだ。お前は何も悪いことなんて……」

「わたし、ママを守れなかった!!」

 

 シュウジは、思考を止めた。

 

「強いかいぶつが来て、ママをいじめて、なのに、なのにわたしは何もできなくてっ! ずっと守られてばっかりでっ!」

「……リ、ベル」

「ごめんなさい、パパ……わたし、エヒトとその眷属と戦うために生まれたのに…………ママを守れなくて……ほんとうに、ごめんなさい……」

 

 ポロポロと、エメラルドのような瞳から雫が溢れる。

 

 見れば、綺麗な髪も、服も煤けてボロボロだ。

 

 何もできなかったなんてことはなかったのだろう。必死に母を守ったのだろう。

 

 

 

 リベルは理解している。自分の生まれた理由も、シュウジとルイネが本当の親でないことも。

 

 それでも、幼い子供として創られた彼女はたった一人の愛する母を守ろうとしたのだ。

 

 だって大好きだから。家族だから。でも力不足だった。ただそれだけの話だ。

 

「……おいおい、ジョークもそこまでだぜリベル? お前は十分戦ったよ」

「……え?」

「ママが目の前でひどいことされて怖かっただろう。こんなしみったれた場所で震え続けて、不安で寂しかっただろう。なんでこんな時にいないんだって、俺のことを恨んだだろう」

「っ、そんなこと……!」

「でも、ごめんなさいって言ったよな。一番最初に。お前は全然悪くないのに」

 

 シュウジは優しく、とても柔らかい笑顔でリベルに語りかける。

 

 彼とて、たった一人でこんなに頑張った娘を怒れるほど、外道に落ちてなどいやしない。

 

 

 

 

 

 たとえこのやり取りも、再会も全て……筋書き通りだったとしても。

 

 

 

 

 

「パパはお前を誇りに思うよ。まあ、俺は人間未満の出来損ないな人形だが、それでもお前は確かに──俺の最高の娘だ」

「っ、ぅ、ぁ、ぁああ、うわあぁああああん!」

「リベルちゃん……」

「大丈夫、大丈夫だからね……」

 

 これまで堪えてきたものを決壊させたのだろう、声を上げて泣くリベルをミュウとレミアが抱きしめる。

 

 レミアのあなた発言はどういうことだコラァ、と思っていたクラスメイト達も、口を閉ざした。

 

「やれやれ、娘を泣かせるたぁ最低最悪の父親だぜ」

「貴様、勝手に騒ぐとはいいどきょ──」

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というのは」

 

 忠告しようとしたフリードの言葉を遮る、男の声。

 

 

 

 玉座の背後から響いたそれにシュウジ達が鋭い目線を送る中、壁がスライドして開いていく。

 

 歩み出てきたるは、金髪に紅眼の美丈夫。

 

 漆黒に金の刺繍があしらわれた衣服とマントを纏った初老の男は、にこやかに笑っていた。

 

 若々しい強さと老練した重みを持ち合わせたその男こそ、魔人族の頂点──魔王アルヴ。

 

「ようやくご登場だ、神の犬がな」

 

 開口一番に皮肉を飛ばしたシュウジに続き、ハジメも口を開きかけ……止まった。

 

 それは目の前のアルヴが何かを言ったからではなく、隣から聞こえてきた声故に。

 

「う、そ……どう、して……」

「ユエ?」

 

 ハジメの声に気付くこともなく、呆然とするユエ。

 

 あり得ないものを見たかのような、ひどく動揺した様子で掠れた声を漏らして立ち尽くす。

 

 

 

 明らかに尋常ではない。

 

 ユエの様子からそう判断したハジメの後ろで、シュウジが寄った眉間を帽子で隠す。

 

 

(……本当にすまないユエ。これは必要なプロセスなんだ)

 

 

 知っていた彼は、今この場に至るまで仲間である彼女に告げなかったことを悔いた。

 

 そしてこれから先に起こるであろう展開についても、心の中で。

 

「やぁ、()()()()()()。久しぶりだね。相変わらず君は、小さくて愛らしい」

 

 そんな三人の前で、アルヴが語る。

 

 それはハジメがユエと、アルヴに……その金髪と紅眼に既視感を覚えた時だった。

 

 初対面とは思えないほど慈愛に満ちたその言葉に、まさかとハジメが呟いて。

 

 

 

「……叔父、さま……」

 

 

 

 ユエの一言が、最悪よりなお最悪たるその事実を肯定した。

 

 

 




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