星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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さあ、この章最大のオリジナル展開を始めよう。

エボルト「俺だ。前回は叔父を名乗る不審者が現れたな」

ハジメ「某姉を名乗る不審者みたいな……ま、どっちにしろふざけた野郎だな」

雫「ユエさんが心配ね……さあ、今回はその叔父さんとやらの話よ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」


茶番 前編

 三人称 SIDE

 

 

 

「叔父……さま……」

 

 謁見の間に、掠れた声が響く。

 

 ユエの瞳はいつになく大きく見開かれ、小さな体は小刻みに震えている。

 

 感情が反転してすらハジメの言葉を聞いていた彼女が、その呼びかけに気がつかない。

 

 それが端的に彼女の動揺の強さを表していた。

 

「そうだ、私だよアレーティア。驚いているようだね……無理もない。しかしそんな姿さえも懐かしく、そして愛らしいよ。三百年前を思い出す」

 

 驚くハジメ達の前で、魔王アルヴが言葉を重ねる。

 

 その微笑み、その言葉に叔父を感じ取ったか、一歩後ずさるユエ。

 

 

 

 そして、震える唇で言葉を発そうとして……それを使徒の一人が機先を制した。

 

「アルヴ様?」

 

 表情は無。されど言葉に乗るは疑問。

 

 まるでユエに対しての魔王の呼びかけが予想外とでも言うようで、フリードも訝しんでいる。

 

 そんな呼びかけに魔王アルヴはうっすらと微笑み──おもむろに使徒へと手をかざした。

 

 

 

 次の瞬間、その手の中から放たれる黄金の閃光。

 

 魔力の光が激しく爆ぜ、一瞬で謁見の間を塗り潰した。

 

「シッ!」

「ぬゥ!?」

 

 刹那、シュウジは最高速度で両腕を振るい、光に呑まれた広間に魔力を纏う糸を走らせる。

 

 それはほんの一瞬だが目をくらませた紅煉の全身に絡みつき、漆黒の巨躯を僅かに封じた。

 

「しゃらくせェ!」

 

 紅煉はすぐさま神刀を伸ばし、ブラックホールフォームの装甲から作られた糸をたやすく切り裂く。

 

「それを待ってたぜ、子猫ちゃん」

「グガッ!?」

 

 糸の除去に気を取られた、コンマ数秒。

 

 それにて宙に浮く紅煉に気配のみで肉薄し、カーネイジの鎌でその両腕を切り落とした。

 

 駄目押しに腹に蹴りを叩き込み、衝撃を貫通させる技を入れて遠くまで吹き飛ばす。

 

 

 

 そして、紅煉の両腕と共に落下を始めたルイネを両手で抱えながら着地した。

 

 ほぼ同時にアルヴの手の中に光が収まり、使徒やフリード、恵里が倒れ伏す光景が露わになる。

 

 誰もが驚愕、あるいは警戒する中でアルヴとシュウジの「ふぅ」という嘆息が重なった。

 

「すまんなルイネ、助けるのが遅れた。獣臭がしそうな腕の中にゃ、お前は似合わないからな」

「…………」

 

 浅く息をするルイネは答えない。

 

 それをわかっていたシュウジは優しく床に彼女を寝かせ、体内に巣食う分解の力を調べた。

 

 

(解毒はできる……が、時間がかかるか。人質になるまでは想定通りだが、些か傷つけさせすぎたな)

 

 

 シュウジとしても、これは断腸の思いであった。

 

 しかし半身に預けていた記憶の中で、それでも自分は彼女の人身御供を選択した。

 

 獣にも劣る外道だ。救いようがないとはこのことだろう。

 

 

 

 そんな自分を嘲笑いながら、とりあえず回復薬を飲ませて立ち上がる。

 

 振り返ると、黄金のドームを張ったアルヴがこちらをニコニコと見ていた。

 

「さしずめ中の現実と、偽の情報をすり替える結界、ってとこか?」

「ご明察だ。北野シュウジくん、といったね。これで外の使徒は何も気が付かないだろう」

「ああ、ちょうど一番厄介なのもご退場願ったしな」

 

 先の一撃で城の外に投げ出された紅煉が開けた穴を親指で示す。

 

 アルヴは「確かに」と笑うが、ハジメ達は依然として警戒の姿勢を解くはずもなく。

 

「……どういうつもりだ?」

「南雲ハジメくん。君の警戒はもっともだ。だから単刀直入に言おう」

 

 笑みを収め、真剣な表情をもって。

 

 

 

 

 

「私、ガーランド魔王国の現魔王にして、吸血鬼の国アヴァタール王国の元宰相──ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは、神に反逆する者だ」

 

 

 

 

 

 その場の誰もが本気であるとわかる威厳を持った声で、そう告げた。

 

 ハジメ達や愛子、恵里の一件がある光輝達を除いたクラスメイト達が、何度目かの驚愕に息を呑む。

 

 これまでずっと敵対してきた魔人族の長が、神の敵対者……俄には信じ難い話だ。

 

「恵里っ!」

「鈴っ!」

 

 とりあえず、倒れた恵里に走り寄ろうとした鈴を龍太郎が止める。

 

 大きな手で行く手を阻んだ龍太郎を鈴が見上げ、強い視線を送る。

 

 彼女の想いの強さを知っているが故に苦い顔になりながらも、龍太郎は光輝に頷いた。

 

 

 

 首肯を返した光輝は、俯せに倒れている恵里の首に手を添える。

 

 脈はある。だが、そのことにホッとしたのは束の間だった。

 

 自分の体に巣食う〝それ〟が、左目を乗っ取り、()()を見せたのだ。

 

 

 

 

 

── カラッポ

 

 

 

 

 

「っ……」

 

 その意味を察した光輝が、目線だけシュウジにやると……すぐに気がついて、アルヴに見えないようハンドサインをした。

 

 握った拳。そのまま黙っておけということだろう。

 

 光輝はそれに従い、顔を上げると微笑んだ。

 

「大丈夫だ、気絶しているだけだよ」

「よ、よかった……」

「不安にさせてすまない。彼女は意識を昏倒させただけだ。もっとも使徒やは機能を停止し、コクレンとフリードは仮死状態にしたがね」

 

 シュウジが退けた以外の戦力を停止させたと述べるディンリードに、誰もが絶句する。

 

 だがそれはクラスメイト達だけであり、ハジメが周囲に警戒を巡らせつつディンリードを追求しようとした。

 

「うそ……嘘っ! そんなはずはないっ!」

 

 その前に、ユエがディンリードに向かって叫ぶ。

 

 滅多に聞かない大声で、必死に何かを否定しようとする彼女は言葉を連ねた。

 

「ディン叔父様は普通の吸血鬼だった! 突出した強さを持ってはいたけど、それだけっ! 私のような先祖返りじゃない! 叔父様が、ディンリードが生きているはずがない!」

「アレーティア……かわいそうな姪よ、動揺しているのだね。だが、それも当然か……必要なことだったとはいえ、君には酷い仕打ちをした。そんな相手が現れたら狼狽えもする」

「私をアレーティアと呼ぶな! 叔父様の振りなどするなッ!」

 

 誰も見たことがないほど興奮したユエと、悲しげに微笑むディンリード。

 

 それが余計に気に障ったのだろう。殺意をたぎらせて手を突き出し、魔力をうねらせた。

 

 

 

 ユエは【氷雪洞窟】の試練において、記憶の自己改竄の可能性を受け入れた。

 

 それでも、あの暗闇が、孤独を忘れたわけではない。

 

 心から信じていたからこそ、その恨みは到底あっさりと割り切れないほどに深いのだ。

 

 しかも、とっくに死んでいるはずの当の本人がこんな風に接してきたのだ。冷静でいられるはずがなかった。

 

「化けの皮を、剥いでやる!」

 

 自分でも背魚も理解もできない激情のままに、雷龍を放とうとするユエ。

 

 緊張が走る中で……そっとユエの手首を抑え、魔法陣を解析・解除した人物がいた。

 

「あ……」

「落ち着けよユエさん。クールな美少女吸血鬼が君のキャラだろ?」

「シュウ、ジ……」

「それに、あの祭壇の近くは結界が発動する。かなり強固だ、簡単には届かない」

 

 だろ? と問いかけるシュウジにディンリードは頷く。

 

 それから、ユエに優しげな顔で語りかけた。

 

「アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。吸血鬼の国の歴史上、もっとも美しく聡明な女王。我が最愛の姪よ。私は確かに君の叔父だよ」

「なにを……!」

「覚えているかな、私が強力な魔物使いだったことを。当時の私がどうしてあそこまでの力を使えたか、今ならわかるはずだ」

「っ……神代魔法の……変成魔法」

「よく出来ました」

 

 まるで、昔ユエの勉強を見ていた時のように微笑む。既視感が襲い、ユエは顔を歪める。

 

「さらに言うならば、生成魔法も取得していたが……こちらは才能がなくてね。代わりに変成魔法についてはすこぶる才能があったと自負しているよ」

「で、あんたは相当な努力の結果自分の肉体をも強化できるようになり、寿命を延ばしたって寸法だ」

「おや、セリフが取られてしまったな」

「余計なお節介だったかな?」

 

 いいや、とシュウジに頭を振るディンリード。

 

 シュウジのいつも通りの様子を見て、自然とユエも感化され少しだけ冷静さを取り戻す。

 

 だが胸中に渦巻くものは解消されず、自然語気が強くなりながら追求を続けた。

 

「……あの白竜使いの魔人族は、お前をアルヴという名の神だって。何百年も魔人族を率いてきたって!」

 

 少なくとも、ユエが幽閉されるまでの二十数年、アヴァタールの宰相はディンリードだった。

 

 その間にも当然魔人国ガーランドは存在し、その主張の矛盾性を突きつける。

 

「フリードの言葉は間違いではない。アルヴとは確かに私であり、しかし私ではないとも言える」

「っ、どういう……」

「言っただろ、アルヴはエヒトの眷属だって。そしてエヒトに忠誠を誓っていた」

「そう。だがある日、疑問を抱いたんだよ。エヒト神の行う非道をこのまま見過ごすことは正しいのかと。その疑問は数百、数千の年月を過ごすうちに膨れ上がり、やがて反逆の意思と実った」

 

 女神から与えられた知識によって補足するシュウジに乗っかり、ディンリードはそう説明する。

 

 またユエが暴れ出した時のためだろうか、玉座の側からは離れず、不思議とよく通る声で話す。

 

「だが、主神たるエヒトに自分一人では敵わない。だからエヒトの駒として地上に降り、人々の戦争を激化させ、混乱に陥れる魔王役を担い──その裏で、対抗できる手段と戦力を探した」

「しかし、神は概念的な存在だ。だから人の体を借り、受け入れさせて器として活動したのさ。神といえば、拒絶するのはごく少数だからな」

「……そうして、ディンリードもアルヴに選ばれた?」

「アルヴは歓喜したようだよ。ただの適正者ならばエヒトの眷属神と伝えるだけ……だが私は、反逆の意思を持っていた。本当の意味で同志になり得たのだよ」

 

 そして器としてアルヴからエヒトの正体を聞き、手助けを受けながら今に至る。

 

 

 

 最後にそう締めくくったアルヴは、沈黙しているユエに理解する時間を与える。

 

 ほどなくして、ユエは難しい顔のままに訪ねた。

 

「……いつから」

「君が王位につく少し前だ。同時に真実を知って、しかしどうにも出来ない私にもできることがあるのだと、使命だと悟った」

「……使命」

「神を打倒する。そのためにエヒト神や使徒の目を掻い潜るのは苦労したがね。本意でないことも幾度もやらされた」

 

 他に質問は? と目線を投げかけるディンリード。

 

 その姿はまるで本当に教師役の時の叔父のようで、ユエはもしかしたら本当に……? と揺らぐ。

 

 話し方、雰囲気、自分の記憶の中のものと同じそれ。

 

 だったら……いいや、だからこそ聞かねばならぬことがある。

 

「……どうして、祖国を裏切ったの。どうして私を、あんなところに……」

「すまなかった」

「っ、謝罪を聞きたいわけじゃない! 理由を知りたい!」

 

 沈鬱な表情で謝るディンリードを切り捨て、ユエは叫んだ。

 

 ハジメが肩に手を置いて落ち着かせ、残りのメンバーも尋常でない事情に黙して耳を澄ませる。

 

「アレーティア。最強の女王よ、君は天才だった。魔法の分野において、神代魔法の使い手である私ですら敵わないほどに。だから目をつけられたのだ、君の傍らにいる、南雲ハジメのように」

「……イレギュラー」

「そうだ。君は覚えているのではないかな? 当時、既にアヴァタールの上層部はエヒト神の信仰者に染められつつあった。それは君の両親もだ」

「……それは、覚えてる。確かに叔父様と父上は、よく私の教育方針で口論してた。私の教育は叔父様が担っていて、私は信仰とはほぼ関わらずに育った」

 

 肯定するユエに、ディンリードが続ける。

 

「私は真実を知っていたからね。解放者の言葉が真実かどうかは懐疑的だったが、幼く、正直な君を無条件に信仰させるのは危険だと考えた。

 そしてアルヴを体に宿して使命に目覚めた私は、君という切り札を失うわけにはいかなかったんだ。

 だから暗殺される前に、死んだと偽装して存在を隠した。いつか反逆の狼煙をあげるその時まで」

「……」

 

 

 

 叔父は、裏切っていはいなかった。

 

 

 

 むしろエヒトの魔の手から自分を守ろうとしていたというその言葉は、確かに記憶の断片と一致する。

 

 途端にユエの表情は迷子のそれへと変わった。感情の行き場を失い、不安定な心境だ。

 

 それを隠すためか、あるいは少しでも頭を働かせるためか、ユエは問い続ける。

 

「……人質のことは? 裏切っていないのなら、どうして」

「ああ、そうだった」

 

 苦笑し、指を鳴らすディンリード。

 

 すると、檻を囲っていた光が解けるように消え、檻自体の鍵も音を立てて開いた。

 

 クラスメイト達もミュウ達もきょとんとして、鍵の外れた扉を見る。

 

 

 

 静かにディンリードを見る、愛子とリベル以外は。

 

 

 

「こうでもしないと、会うことすらしてもらえないと思ってね。それに保護する目的もあった。怪我に関しては……使徒に迎えにいかせたから、手荒なことになってしまった。彼女達の手前、傷を治すこともできなくてね。それにそこの彼女も……」

「ん、ああ。こっちのことは気にしなさんな。後で始末はつける」

 

()()()()、と口の中で呟くシュウジに頷いて、ディンリードはもう一度ユエを見た。

 

 

 

 あまりに重大な事実の発覚に、どうしていいものかわからずにユエは立ち尽くしている。

 

 彼女を見守っていたシア達も困惑し、人質だった者達も場の空気に動けない。

 

 その全てを見透かしたような瞳で、ディンリードは微笑みながら初めて祭壇を降りてきた。

 

「アレーティア、どうか信じて欲しい。私は昔と変わらず、君を愛している。この日をどれだけ待ち侘びたか。この三百年、君を忘れた日は一度もなかった」

「……おじ、さま……」

「そうだ。君のディン叔父様だよ。私の可愛いアレーティア。時は来た。どうか、君の力を貸しておくれ。全てを終わらせるために」

「……力を、貸す?」

「共に神を打倒しよう。かつて外敵と、背中合わせで戦ったように。エヒト神は既にこの時代を終わらせようとしている。

 本当に戦わねばならないときまで君を隠しているつもりだったが……僥倖だ。君は昔より遥かに強くなり、そしてこれだけの神代魔法の使い手も揃っている。きっとエヒト神にも届くはずだ」

「……わ、私は……」

 

 動揺を強め、心の波を大きく荒ぶらせるユエに歩み寄っていくディンリード。

 

 

 

 抱擁でもしようというのか、大きく両手を広げるその姿がかつてと重なった。

 

 幼い頃、ユエが何かしらの結果を残した時、〝ディン叔父様〟は我が事のように喜んでくれた。

 

 そして、こうして両腕を広げて迎えてくれ、抱きつくと頭を撫でてくれた。

 

 

 

 生きていた、裏切ってもいなかった、唯一の身内の抱擁。

 

 思い起こせば狂信者そのもであった父より父と慕った男に、ユエの瞳が揺れる。

 

 それを見たディンリードは笑みを深めて、最後の一言を──

 

 

 

 

 

「ブラボー! とても素晴らしい()()()だった! ──ハジメ、もういいぞ」

 

 

 

 

 

 ドパン、と。

 

 拍手とともに聞き慣れた乾いた音が、謁見の間に木霊した。

 

 同時に、弾かれたように仰け反ったディンリードが後ろに倒れる。

 

 

 

 誰も、現状を理解できない。

 

 クラスメイト達が、シア達が目を点にして微動だにしない彼を見下ろして。

 

 広々とした部屋に静寂が満ち──それを軽快な拍手と、撃鉄を起こす音が破った。

 

 一瞬体を跳ねさせた一同が、一斉に視線を投じると──

 

「ああ、実に退屈な三文芝居だった。笑いを噛み殺しすぎて窒息死するところだったね」

「ドカスが。挽き肉にしてやろうか」

 

 冷笑しながら拍手するシュウジと、額に青筋を浮かべ、白煙を銃口から吹くドンナーを構えたハジメがいた。




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