星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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衝撃の展開に。

楽しんでいただけると嬉しいです。


茶番 後編

 三人称 SIDE

 

 

 

「ああ、実に退屈な三文芝居だった。笑いを噛み殺しすぎて窒息死するところだったね」

「ドカスが。挽き肉にしてやろうか」

 

 心からの嘲笑を込めた乾いた拍手と、不機嫌さ全開の声。

 

 不思議とマッチしたそれらがなされるのと同時に、ハジメがまた引き金を引く。

 

 一発の発砲音で飛び出した四条の赤い閃光が、ディンリードの四肢を貫き痙攣させる。

 

 

 

 さらにハジメはボーラを取り出して投げつけ、空中に固定してから呼び出したシュヴァルツァーの口砲を向けた。

 

 それだけに終わらず、シュウジが両手を指揮のように振るい、コクレンや使徒達を宙に浮かせて。

 

 そこにハジメがオルカンを持ち出し、容赦無く引き金を引いてミサイルを発射した。

 

 

 

 ドガン、ドガンと鳴り響く轟音。後に残るのは砕けた使徒の残骸だけ。

 

 全ての使徒とコクレンが粉砕され、そしてフリードと恵里に目を向けたところで……

 

「南雲」

 

 気がつけば、光輝が剣を抜いてその刃を恵里の首筋に当てていた。

 

 自分が監視する、という無言で見つめてきた光輝の思考を察して、とりあえずハジメは狙いを変えた。

 

 それは無論のこと、今のハジメの不機嫌さの元凶たるディンリードである。

 

「は、ハジメさんっ!?」

「ハジメ!」

 

 やっと我を取り戻し、いの一番に飛び出したのはシアと美空だった。

 

 それぞれハジメの両腕に飛びつくように体を密着させ、必死の形相で呼びかける。

 

「ハハハハハ、ハジメさん!? 何してるんですかいきなりっ!」

「ユエさんの叔父さんだよ!? いきなり撃つのはどうかしてるよ! それにシュウジ、あんたもどういうこと!?」

「あっはっは、シアさん動揺しすぎて笑ってるみたいになってるよ?」

 

 美空の追求を完全に無視して、シュウジは朗らかに笑う。

 

 何をふざけてるんですか、というシアの言葉は、歩み寄っていたウサギが肩に手を置いて失わせた。

 

 

 

 シアは振り返り、ある種ユエ以上に姉同然に慕う彼女がかぶりを振ることに不思議になる。

 

 とりあえずシアが口をつぐむのを見計らい、香織達を落ち着かせていた雫がやってきた。

 

「シュウジ。茶番劇って、さっき言ってたわよね?」

「ああその通り。これは全部茶番劇、それも質の悪い、路地裏でやってる大道芸レベルの粗悪品さ」

 

 ナンセンスだぜ、と言いたげに肩を竦める恋人に()()()と確信する雫。

 

 傍観者であった彼女は、途中からあることに気がついていたのだ。

 

 それは黙考しているティオも、一番騒ぎそうなのに冷静な光輝も、そしてウサギも同じ。

 

「……ハジ、メ?」

 

 だが、渦中の人物はどうもそうはいかないようで。

 

 目の前で恋人に叔父を撃ち殺された彼女は、瞠目してその場で立ち尽くしている。

 

 

 

 ハジメがシュウジに目配せすると、「どうぞご自由に」と慇懃無礼に笑う。

 

 なのでノールックでフリードの頭をぶち抜きながら、ドン引きする鈴や美空を無視してユエに話しかけた。

 

「ユエが自分で区切りをつけられるなら、と思って黙ってた。だがどうも、お前が予想以上に動揺してあんな戯言を受け入れそうだったからな。全部知ってるらしいこいつと一緒に幕にさせてもらった」

「……戯言? どういうこと?」

 

 大切な、もはや最後と言える身内が最愛の恋人に殺されたかもしれない。

 

 そんな衝撃の事実に、ユエはまたも激しく動揺して瞳を揺らす。

 

 

 

 これほどまでに心を乱している彼女に、ハジメは深いため息を吐いた。

 

 それは後悔からくるもの。こんなことならば、途中で撃ち殺しておくべきだった。

 

「ではでは、この値段もつかないショーのネタ明かしといこう」

 

 ハジメの内心を察し、シュウジが両手でクラップして意識を始める。

 

 これまで不可解な状況になるたびに、シュウジはユーモアを交えながら正解を教えてくれた。

 

 ならば今回の、この衝撃展開も紐解いてくれるのだろうと、その場の全員が聞き入る。

 

「クエスチョンワン。ディンリードはユエを殺されないために隠したと言ったが、では何故生きているのに三百年、たったの一度も会いに来なかったのか?」

 

 突然クイズ番組じみたことを始めたシュウジに困惑しつつも、皆頭を捻る。

 

 まだ頭がこんがらがっているのだろう、ウンウン唸る一堂にハジメが「あー」と切り出した。

 

「俺からはヒントを出しとくか。大迷宮にはエヒトの目を欺く力があるみたいだ」

「エヒトの目を、欺く力……」

「クエスチョンツー。なぜ戦力を整えていたと言うのに、フリードしか神代魔法の使い手がいないのか?」

 

 二つ目、三つ目。次々と質問がシュウジから投げかけられていく。

 

 

 

 例えば、地下数千メートルに魔物付きの幽閉。

 

 自分が亡き後の防衛を備えた体勢にも関わらず、ディンリードが生きている不自然さなど。

 

 その他にも、少しずつユエ達が冷静になれるよう話していくシュウジ。

 

 

 

 時折ヒントを出すハジメと共にその話を聞くと、なるほど確かに穴だらけの内容だ。

 

 極論を言ってしまえば、魔王が反逆者であり、ユエの叔父だった。

 

 その事実のインパクトだけで押し通せればいいような……そんな杜撰なものだ。

 

「……じゃあ、昔のことと話の内容が一致してたのは?」

「おいおい、氷雪洞窟での試練を忘れたかい?」

 

 虚像のことを思い出し、なるほどとユエが呟く。

 

 いつも通りの平静さを取り戻してきた彼女に、ハジメが跡を引き継いだ。

 

「だから俺は、魔眼石に付与した魂魄魔法で奴のことを探った。本当にユエの叔父なのかをな」

「……どうだった?」

「蜘蛛の巣みたいに体に巣食ってる薄汚え魂しか見えなかった。間違いなく、奴はディンリード本人ではない」

「っ……そう」

 

 落胆と安堵が入り混じった顔をするユエ。

 

 シア達も、魔王が結界の範囲から出てきた瞬間にハジメが攻撃した意味を理解してほっとする。

 

 同様の理由で、本当に機能停止したか定かでなかったからこそ使徒やコクレン、フリードを殺したのだろう。

 

「……シュウジは、全部知ってた?」

「イエス」

「じゃあ、どうして……」

 

 止めてくれなかったのかと聞くユエに、シュウジは面白そうにハジメを見て。

 

 するとハジメは、再び額に青筋を立てると……

 

「なぁにが、〝私の可愛いアレーティア〟だボケェ! こいつは〝俺の可愛いユエ〟だ! 大体、何がアレーティアだ。連呼してんじゃねぇよクソが。〝共に行こう〟だの抱き締めようだの、誰の許可得てんだ? ア゛ァ゛? 勝手に連れてかせるわけねぇだろうが。手足引き千切って肥溜めに沈めんぞ、ゴラァ!!」

「「「ただの嫉妬じゃないですかっ(じゃん)!」」」

 

 シア、美空、香織のツッコミが響いた。要するに私怨である。

 

 これが本当の叔父ならばスーツを着て、髪型を整え、しっかりとした態度でご挨拶しただろう。

 

 だが中身は別物。そんなどこぞの馬のクソがユエに触れるなど、ハジメ的に絶許案件なのだ。

 

 

 

 シュウジもハジメの鬱憤が溜まっていることは予期していたので、あえて放っておいた。

 

 ()()()()()()()()()()にせよ、親友のガス抜きも忘れない優秀な男である。

 

「……ん、わかった。もう平気」

 

 事の顛末を全て聞いて、ユエの心はぴたりと定まった。

 

 一度瞑目し、次に開いたときにその瞳に揺らぎはなく、ハジメに歩み寄るとぴったりとくっつく。

 

 そうしてハジメを見上げる顔は薔薇色に染まっていき、瞳には熱い潤みが満ちていった。

 

「……ハジメが嫉妬。私に嫉妬。嬉しい」

「あー、まあこればっかりは感情を抑えられなくて……ユエの暗闇での苦しみを知ってたから余計に、な」

「ん。私こそごめんなさい。無様を見せた」

 

 思えばあまりにできすぎていたし、怪しすぎた。

 

 だというのに過去の記憶に囚われ、危うくとんでもない判断をするところだったのだ。

 

 

 

 神を打倒することは、たしかに旅の当初から定めた目的ではある。

 

 だがそれを成すのは叔父とではない。

 

 たくさんの幸せな思い出を培ってきたハジメや、仲間達とだ。

 

「もう二度と迷ったりしない。心配はいらない」

「ああ、信じてる」

「ん……シュウジ、あともう一つだけ。本物のディン叔父様は……」

 

 残るただ一つの疑問を解消するため、ユエはシュウジを見る。

 

 女神から与えられたトータスの歴史の知識。それを知る彼ならば、本当はどうなったか知っているはず。

 

 そう望みをかけて瞳を揺らすユエに……シュウジは両腕を大形に広げて叫んだ。

 

「ファイナルクエスチョン! では吸血鬼ディンリードの肉体を使っていた何者かは、何故ユエを奪いに行こうとしなかったのか!」

「っ……」

 

 いよいよ告げられる真相に、ユエが固唾を飲んで身構える。

 

 その手をハジメが握って安心させて、少し驚いた後に淡く微笑んだ彼女は顔を引き締めた。

 

「その答えは──ディンリード本人が死ぬ直前、ユエにまつわる記憶全てを神代魔法の知識諸共自ら消したから……そうだろう、()()()?」

「……え?」

 

 パチパチ、と。

 

 唖然とした顔をするユエ達の代わりに、拍手が答える。

 

 

 

 全員が振り返った先には、無感情に両手を叩くディンリードがいた。

 

 ハジメの撃ち込んだ弾痕は跡形もなく消えて、侮蔑と嘲笑の籠った笑みを浮かべている。

 

 先ほどとはまるで正反対……これが正体、ということか。

 

「見事だ。いやはやまったく、恋人の叔父ともなれば多少は遠慮するかと思ったが……()()()()()()()()()()()

「ああ、そうだろう?」

 

 その時、驚くべき事が起こった。

 

 

 

 

 

 アルヴに答えたシュウジが()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

『ッ!?』

「おいシュウジ、お前何を!?」

 

 突然の行動に動揺する一同。

 

 思わず叫び、だがシュウジに銃口は向けられなかったハジメに、彼は悪どく笑う。

 

「許せハジメ、ユエ。ここまでがこの三文芝居の筋書きなんだ」

「何を、言って……」

「その男は裏切っていた、ということだよ。まったく腹立たしいが、そいつの言う通り、貴様がこちら側に傾きかけた精神まですぐに立て直してしまった。おかげで要らぬ屈辱を味わったぞ」

「あの程度じゃ死なないだろう? それに我が親友は獰猛でね、あれくらいしないと収まらないのさ」

 

 

 

 意味が、わからなかった。

 

 

 

 淡々と話すアルヴが、それに親しげな口調で受け答えをする親友のことが、理解できない。

 

 これまで幾度となくその在り方を見て、受け入れてきたハジメも。

 

 そのやり方を受け入れられずとも憧れ、ついには己の悪意をも力に変えた光輝も。

 

 そんな悪道すらも、彼の一部として愛してきた雫でさえも。

 

 

 

 突然豹変したように、ユエを宙に浮かせたまま話すその姿を、呆然と見た。

 

「シュウ、ジ……!」

「おっと、無理に動かない方がいいぜユエ。お前がいくら肉体を再生できると言っても、魔力の流れを乱せばそうはいかない。俺はその技術を持ってる」

「……おい、説明しろ。それは一体何の真似だ? また何かの作戦なのか?」

 

 ようやく我に帰ったハジメが、低い声でシュウジに言う。

 

 そうだ、これまでどんなに非道な行いをしたとしても、それは全て自分達を守るためだった。

 

 何を傷つけ、犠牲にしたとしても、それでも自分達を……仲間を傷つけることはしなかった。

 

 

 

 ならば今回もそうなのだろう。

 

 いいや、そうであってほしいと願うハジメは、問いかけた。

 

 そんなハジメに、シュウジは酷薄な笑みを浮かべた。

 

「俺はな、ハジメ。自分という存在に絶望したんだ」

「なに……?」

 

 ユエを離さぬまま、心の底から失望したといった顔で語り出すシュウジ。

 

 普段の冗談でもなく、本当にその通りの感情を露わにしているかのようだ。

 

「あの日、俺はお前のおかげで自暴自棄のままに死ぬ事を免れた。そして自分を見つけようと生きてきたが……理解できたのは、結局俺は操り人形ということ。たとえ女神が俺を捨てようと、俺の中にあるカインの記憶や思想が内側から俺を縛り続ける。ランダを殺したその時に、俺はやっぱりただの殺戮人形だって、そう思ったよ」

「……まるで自分のしてきたことを、嫌々やったような言い草だな」

「間違っちゃいない。俺は心底俺を嫌悪し、侮蔑し、それでも悔いを飲み込んで生きてきたが……氷雪洞窟での試練。あれで完全に悟った」

 

 何故なら、と一つ前置きを置いて。

 

「俺は、いなかった。現れたのはカインと、彼が下手に目覚めないよう、蓋として塗り固めた記憶のない者達の影法師だけ。そこに俺は存在しなかったのさ」

「っ……」

「どこまでいっても、俺の本質はそれだ。だったらもう、操り人形のままでもいいかと思っちまったのさ」

「だからエヒトの側についたってのか、あぁ?」

「膨大な時間と労力をかけてエヒトを殺すより、ずっと良い交渉だったよ」

 

 唸るハジメと、恐ろしいほどにこやかに笑うシュウジ。

 

 対極的な様相を見せる中で、シュウジはいつも種明かしをするのと同じように声を大きくした。

 

「俺はユエを渡す代わりにお前達を地球に帰し、そしてエヒトの眷属となって地球を管理する。この世界はエヒトの思うままに破壊されるだろうが……悪くない条件だろう?」

「な……」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことか。

 

 確かにそれならばハジメ達は助かるだろう。誰もが渇望してきた通り、地球にも帰れる。

 

 だがそれは、何故かエヒト側が固執するユエを生贄にし、世界一つを殺す選択。

 

 

 

 何かを手にするには、何かを壊す必要がある。

 

 以前シュウジ本人から聞いた世界の真理の一側面であり、決して間違いではない事実。

 

 だがこれは、あまりにも……

 

「ハジメ。俺はお前達のことが他のなにより大切なんだ。だからこそこの選択をした。俺を支えてくれると言ったお前なら、わかってくれるな?」

「…………」

 

 あまりにも、非道極まる。

 

 

 

 誰も何も言えない。

 

 雫も、シアも、ウサギも、美空も、香織も、ティオも、光輝も龍太郎も鈴も愛子もリベル達も。

 

 普段ならば話など聞く間も無く、すぐに攻撃するハジメでさえも。

 

 

 

 こいつだけは裏切らない。何があろうとも自分の背中を預けられる、心の底から安心できる相棒。

 

 奈落で散々な目に合い、変容してもなお、ハジメの中でシュウジへの絶対的信頼は揺るがなかった。

 

 だからこそ、目の前で最悪の敵となった現実を、すぐには受け入れられない。

 

「では早速、契約の履行をしよう」

「っ、待て!」

 

 アルヴの方へ一歩踏み出したシュウジに、反射的にハジメが動き出そうとする。

 

 振り返ることもなく、シュウジは空いていた方の手を頭上へ掲げると。

 

 

 

 

 

「イッツ、ショウタイム」

 

 

 

 

 

 パチンと、指を鳴らした。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

裏切ったシュウジ。この先に待つ結末とは?
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