星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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一月最後の投稿。ストーリー的にも区切りが良いですね。

エボルト「さて、いよいよ面白いところに入ってきたぞ。前回はあいつが裏切ったな」

ハジメ「どうりでこの場にいないと思ったら…」

雫「また何を企んでるのかしら……気になる続きをどうぞ。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」



チャオ

 

ハジメ SIDE

 

 

 

アァアアアァァアアッ!!! 

 

 

 

 あいつが指を鳴らした瞬間、頭上から耳障りな笑い声が響いた。

 

 弾かれたように顔をあげると、赤い布で体を包んだ一つ目の化け物が、先生達のいる檻に落ちていく。

 

 それだけではない。

 

『フッ!』

 

 視界の端で天之河めがけ、どこからともなく現れた《傲慢の獣》がチェーンソーで斬りかかり。

 

「〝堕識〟ぃ」

 

 空間から滲み出るように現れた中村が、暗黒色に明滅する魔力球を発射。

 

「〝震天〟!」

 

 空間を割って現れた無傷のフリードが、ミュウ達の檻に魔法を放ち。

 

「そら、先ほどのお返しだイレギュラー」

 

 アルヴが特大の魔弾を、俺に向けて飛ばして。

 

「殺戮します」

「「「ガァアアアァアアッ!!!」」」

 

 音もなく出現した数十の使徒とコクレンが、一斉に俺達に襲いかかって。

 

 

 

「さあ、エヒト! 悲願成就の時だ!」

 

 

 

 そして、大仰に左手を振り掲げたシュウジとユエに白銀の〝光の柱〟が降り注いだ。

 

 

 

 完璧なタイミングでの、複数での同時奇襲攻撃。

 

 俺がこうして動くのも計算尽くしのそれは──他ならぬ、あいつが計画した証拠。

 

 そのことがどうしても割り切れずに、もう一度シュウジのことを見てしまう。

 

「っ……!」

 

 咄嗟に発動した〝瞬光〟で灰色になった世界の中で、ゆっくりと歩いていくあいつ。

 

 

 

 ……俺は、あいつのやり方を知っていた。

 

 その非道も悪道も外道も間近で見てきて、知らずのうちに助けられたことさえあるだろう。

 

 いつだってそうだ。あいつは俺の一歩先をいっていて、いつの間にか背中を守られている。

 

 

 

 誰より……もしかしたら、ユエや美空よりも信じている、()()()()()()()()()()()男。

 

 その刃が、選択が、俺達に向けられたことが……どんなに考えても信じられない。

 

 

 

 だが現実は無常にも動き続けている。

 

 俺の葛藤一つで先生達や、ましてやミュウ達を死なせるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 この奇襲攻撃の打開策を探し、見つけ、選び取る。

 

 それが今、なにより俺がすること。

 

 思考を投げ出しそうになるくらい動揺してるが、今はとりあえず現状の打開が最優先だ。

 

 奥歯を強く噛み締めて気持ちを抑え込み、とにかく一つでもできる多くのことを見て聞いて感じ取る! 

 

 

 

 葛藤を無理矢理に飲み下し、そう決断を下すまでコンマ一秒以下。

 

 未だスローモーションの世界の中で、まずあいつとユエの次に優先すべきものへと視線を移す。

 

 何故か無傷のフリードの〝震天〟と、肩に生やした鋭い触手みたいなので狙いを定める怪物。

 

 

 

 一瞬床に転がってた方のフリードを見ると、中村共々ゆっくりと崩壊していく。

 

 アーティファクトの類か。俺の魔眼石でさえ見抜けないとは、相当な身代わりの術だな。

 

 

 

 まあ、それはどうでもいい。

 

 とにかくミュウ達と先生を……

 

「…………」

「っ!」

 

 先生の目が、俺を捉えている。

 

 見間違いではない。この知覚速度が遥かに上昇した世界の中で、あの人は最初から俺を見ていた。

 

 その瞳にあるのは強い光……まるでこちらは心配ないと、そう告げるようなもの。

 

 ……さすが、あのマリスの記憶を引き継いでいるだけはある。予期していたのか、この状況を。

 

 

 

 見えているか分からないが、とりあえず先生に頷いてミュウ達の檻に視線を移した。

 

 リベルが重力魔法でも発動しようとしているのか両手を掲げているが、いささか不安だ。

 

 使徒やあの化け物どもは、シア達でもどうにか対応できるだろう。向かうならあっちか。

 

 本当は、あいつを追いかけたい……が。

 

『ハジメ。聞こえる?』

『っ、ウサギ?』

 

 突然の念話に驚きながら、右後ろにいたウサギに目線だけで振り向く。

 

 月の小函(ムーンセル)を発動したのか、桃色の雷を纏った彼女は俺と同じ知覚速度を得ているらしい。

 

『ミュウ達のところには、わたしが向かう。ハジメはシュウジと、ユエを』

『……わかった。すまんが任せる』

『すまん、はいらないよ』

『そうだな』

 

 本来の時間に換算すれば刹那の瞬間、二人で笑みを交わす。

 

 頼んだぞ、ともう一度目で告げるとウサギははっきりと頷いて、視線を動かし始めた。

 

 

 

 

 俺も、もう迷わない。

 

 そう思った瞬間に〝瞬光〟を解除し、瞬く間に全方位からの奇襲がすぐそこまで迫ってくる。

 

 同時に、ウサギが文字通りの雷速で動き始め、俺も残るシア達に大声を張り上げた。

 

「お前ら、頼んだ!」

「っ、はい!」

「っ、ええ!」

 

 シアと八重樫、動揺が見えるがはっきりとした声で答えた二人。

 

 俺は意識を前だけに向け、義手の肘から空砲のショットガンを撃ち放って衝撃を自ら受ける。

 

 その反動を利用し、全力の踏み込みでシュウジとユエの元へと駆け出した。

 

「ハァッ!!!」

 

 アルヴの魔弾の核を見切って義手の拳を叩き込み、衝撃波で粉砕。

 

 霧散した魔弾の粒子をかき分けて、天井をすり抜け落ちる光の柱を見上げるあいつに迫る。

 

「ヴェノムさんッ!!」

『ワカッテイル!!』

「守る……ッ!」

「させません!」

「斬る──!」

 

 極限まで研ぎ澄ませた意識の中、仲間達の戦う声や姿を捉える。

 

 

 

 視界の端に、ミュウ達に駆けるウサギがいる。別の方向では先生が黒い巨体で檻を支えている。

 

 天之河はいつかの夜とは裏腹に《獣》の一撃を受け止め、背後からはシアの砲撃音や八重樫の剣戟の音が。

 

 

 

 その全てを置き去りにして、ただただ走った。

 

「シュウジィイイイイッ!!!」

 

 手を伸ばす。俺の大事な〝相棒〟と、〝特別〟に。

 

「させるわけがないだろう?」

 

 そこへアルヴが、パチンとまた指を鳴らしやがった。

 

 その瞬間、空間の隙間に隠れていたのだろう夥しい数の魔物や使徒が進行方向に現れる。

 

 それだけではない。恐らく中村の傀儡と思われる人間族や魔人族の兵士……しかもかなり強化されてるな。

 

 そいつらが一斉に襲いかかってきて── 

 

「邪魔だ、クズ共が」

 

 

 ドパンッ!! 

 

 

 先ほどの刹那にムーンハーゼボトルを装填したドンナーを、自分の首筋めがけて引き金を引いた。

 

 弾は空砲。だから純粋にボトルから抽出されたエネルギーが体に入り込み、力が沸き起こる。

 

「ぐ、おおォォオオオオッ!!!」

 

 全身を内側から破裂させるような膨大な力。

 

 〝限界突破〟と昇華魔法の組み合わせで無理やり御する。八重樫の〝壊天〟の改良版だ。

 

 そうして手に入れた一時の力を以ってして、津波のように視界に溢れる障害物を睨め付け。

 

 

 

「死ね」

『──ッ!?』

 

 

 

 1秒。まず魔物共をまとめて蹴り殺す。

 

 

 

 2秒。驚いて動きを止めた、ご丁寧に綺麗な配置の魔人族共の心臓を全員ドンナーとシュラークでぶち抜く。

 

 

 

 3秒。流石に冷静に双剣やら分解砲やら撃ってきた使徒共は〝金剛〟をかけて体当たりで突破。

 

 

 

 4秒。もはや感情のない木偶人形共を総魔力の一割程度を込めた衝撃波にて粉砕。

 

 

 

 

 そして5秒。有象無象が消え、ついに光の柱に飲み込まれかけたあいつらの姿が──

 

 

 

「クハハハハァ! 俺とも遊ぼうぜ人間!」

「チッ、獣畜生が!」

 

 割り込んできたのは、さっきシュウジが吹っ飛ばした紅煉。

 

 両腕は落とされたはずだが、普通にくっついてるあたり、最初から攻撃したのかすら怪しい。

 

 赤黒い雷を迸らせ、拳を繰り出してくる紅煉に義手を握りしめ。

 

「ギュアアアァアアアアアア!!!!」

「!?」

「グォッ!?」

 

 その時、後ろのクズ共の残りを吹っ飛ばして何かが飛んできた。 

 

 俺の横をすり抜け、紅煉に突撃したまま天上へと昇っていったのは──真紅の巨竜。

 

 

 

 思わず目で追うと、その竜は全身から夥しい量の血を落としている。

 

 にも関わらず、六枚の翼で力強く飛翔していく様は圧巻の一言。

 

「テメェ、死にかけの分際でまァだ動けたのかァアア!!」

『南雲殿の邪魔をするなァアアアッ!!!!!』

「あの声……まさかルイネか!?」

 

 あの傷で意識を取り戻したってのか!? というかティオみたいに竜になれたのかよ! 

 

『行けぇええええッ!!』

「っ、恩に着る!」

「ええい鬱陶しい! 今度こそバラバラにしてやらァ!!」

「ガアアアァアアアアアア!!!」

 

 ルイネの好意に甘えて、そのまま足を止めずに突き進む。

 

「ぬぅ、イレギュラーめが!」

 

 チッ、アルヴがこっちに意識を持ってきやがった! 

 

 顔とドンナーを持った右腕だけをそちらに向けた時、手を突き出していたアルヴが消えた。

 

 いや、正確には間に割り込んだ巨大な黒い壁……竜化したティオによって視界を遮られたのだ。

 

『させんぞ!』

「チッ、獣風情が我の前に立つな!」

『ぐぅ、うう……!』

 

 変成魔法を使ったのか、いつもより黒く大きいティオの体が揺れる。

 

 あっち側から衝撃を受けたように揺れている。アルヴが攻撃をしているのだろう。

 

「ティオっ、無茶をするな!」

『ルイネ殿が風前の灯の如し命を張っておるのじゃ、妾も無茶をせんでどうする!』

「っ」

『さっさと行かんか! シュウジ殿の思惑が何であれ、ユエを取り戻してくるのじゃ!』

「……ったく。ありがとよ」

『うむ。安心せい、ご主人様に抱いてもらえるまで、妾は死なんよ』

「ああ、頑丈さがお前の取り柄だもんな」

 

 早口に冗談を飛ばして、壁になってくれたティオから踵を返す。

 

 

 

 そうして、ようやく辿り着いた。

 

 

 

 その時には──既に、ユエ諸共シュウジは光の柱に飲み込まれていた。

 

 ユエはシュウジの手の中でぐったりとしており、頭を俯かせて意識があるのかわからない。

 

〝ようハジメ。お前なら到達できると思ってたぜ〟

「なんでこんなことをした! ユエには一体何があるんだ! 何故エヒトは拘る!?」

〝おおう、怖い顔。そんなに殴っても、こいつは壊れないぞ〟

 

 言葉と共に言葉を叩きつけるが、腹の立つことに言われた通り突破できない。

 

 衝撃波やショットシェル、掌に内蔵した小型パイルバンカーなど様々試すが、強固に破れない。

 

 ならばと〝豪腕〟を付与してさらに力を高め、拳を振おうとして……

 

〝ハジメ。後ろを見ろ〟

「何を……っ」

 

 さっきから念話で話しかけてくるシュウジ。

 

 パクパクと口を動かすのは、柱の中では音が届けられないというジェスチャーか。

 

 

 

 だが、打開策がない以上言われた通りに後ろを見ると……

 

 

 

「くぅ、負けません!」

「ハッ! 南雲くん、早く二人を!」

「か、数が多いよ!?」

「弱音吐いてる暇あったら一人でも多く倒して!」

『おらぁあ!』

「ぐっ、恵里ぃ!」

 

 シアと八重樫が先頭に立ち、香織達が戦っている。

 

 俺を諦めたさっきの残党も加わり、絶え間ない波状攻撃に表情を歪ませながら武器を振るっていた。

 

 

 

『ほう、その力を扱えるようになったか。面白い』

「っ、俺は! 俺がここに来たのは、君ともう一度話を……!」

『今はその時ではない。ただ生き残ってみせよ!』

 

 グロテスクな鎧を纏った天之河が、《傲慢の獣》と激しい剣戟を繰り広げている。

 

 本当に独善を喚き散らすばかりの馬鹿はどこへいったのか、互角に渡り合っているではないか。

 

 

 

「おのれ、薄汚い獣が獣を守るか!」

「あなたには、負けない……!」

 

 白竜と魔物を操るフリードと縦横無尽に動き回るウサギが激しい攻防を繰り広げている。

 

 執拗にミュウ達を狙っているのだろう、檻を背にウサギは数の暴力に一人立ち向かっていた。

 

 

 

「アハハハハハハッ!」

『ぎぃっ、ぇあ"っ、おぐっ、ぁが……っ!』

「せ、先生!」

「もうやめて、先生が死んじゃうよぉ!」

『あぁ……だ、だい、じょうぶ……みんなは、先生が……絶対に、絶対に守る……からっ!』

 

 檻に乗り、クラスメイト共を貫こうとする怪物の槍のような触腕を一人で防ぐ先生。

 

 ヴェノムを纏っているにも関わらず、その背中は真っ赤で、今にも死んでしまいそうな……

 

 

 

〝皆もが戦い、傷つく〟

「っ!」

〝己のため、誰かのためと力を振るい、誰かのために誰かを殺して奪う。もうこんな光景は、やり方はたくさんだ。そう思わないか? 〟

「だから妥協するのかよ! 諦めるのかよ! 俺達は絶対に負けないって、死ぬまで一緒だって、そう誓っただろ!?」

 

 自分でも無意識に本音を叫び、光の柱の向こうにいるあいつの胸あたりに拳を叩きつける。

 

 

 

 シュウジはふっと、いつものようにニヒルに……だがどこか、優しく笑って。

 

〝ハジメ。ありがとう、俺を支えてくれて。お前からはいろんなものをもらった。それは本質を変えられなくても、たしかに俺という人間を形作った〟

「今更何を言ってやがる……!」

〝なにって、そうさな。最後の言葉ってやつだよ。何もかもをフィナーレにする前の、最後のエンドロールさ〟

「エンドロールだと!?」

 

 こいつは本当にユエを生贄に、俺達を……! 

 

〝もう一度言う。ありがとうハジメ。お前達がいたから俺は少しだけ人間のふりができた。でもこれで、もうおしまいだ〟

「………………?」 

 

 その言葉に、スゥッと思考が冷めていく感覚がした。

 

 

 

 ……待て。何か、何かがおかしい。

 

 

 

「おいシュウジ、ちょっと待て。お前……」

 

 自分でも何を言ったらいいのかわからないままに顔を上げ、シュウジを見──

 

 

 

 

 

 

 

 

「────。」

 

 

 

 

 

 

 

 思考が、止まった。

 

 

 

 もうすぐ何かが終わろうとしているかのように、光を増していくその柱の中。

 

 垂れた金糸の髪から覗くユエの目に光はなく……まるで事切れたように見えるが。

 

 

 

 違う──これはユエじゃない! 

 

 

 

「っ……!」

 

 まさか。

 

 それを見た瞬間に、俺はシュウジの言葉の意味の全てを理解した。

 

 理解して、俺の中には疑念と困惑の代わりに暴流のように恐怖が這い回る。

 

「シュウジ、お前ッ──!」

〝おいおいハジメ、せっかくのワイルドなイケメンが台無しだぜ? 〟

 

 よく見たら。

 

 余裕そうに見えたシュウジの顔には、大量の冷や汗が浮かんでいるではないか。

 

 眉根を寄せ、歯を食いしばり、瞳を揺らして……何かに耐えている。

 

 何かを無理矢理受け入れているようにも見えるシュウジは、俺にぎこちなく笑って。

 

〝言っただろ、三文芝居だって〟

「っ!」

 

 

 その言葉が、俺の予想を肯定した。

 

 

 

〝俺が全部終わらせる。俺の体を器に、奴を殺す。俺という極悪と共に、永久に葬ってやる〟

「やめろ! そんなことをすればお前は!」

 

 言い募る言葉は、こんなチンケな光に阻まれて直接は届かない。

 

 だがシュウジの言葉を一つ聞くたびに払拭されていく疑念と後悔に、叫ばずにはいられない。

 

「今すぐそこから出ろ! でないと()()()()()……!」

〝ハジメ〟

 

 名前を呼ばれ、言葉が止まる。

 

 

 

〝フィナーレの舞台はこの場所じゃない。俺の明日を、()()()()()

 

 

 

 そんな俺に、シュウジは魔力を通してそう言った。

 

 

 

 同時に柱の光量が最大に達し、一瞬収縮すると共に──周囲の音が掻き消えて。

 

 

 

 釘付けになった視線の中で、シュウジは中指を曲げた左手を上げると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ──チャオ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、光が、爆発した。

 

 

 




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