星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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二月! それは誕生日以外特に何もない月!

エボルト「さて、前回はまた状況が急変したな。チャオしてたし」

ハジメ「シュウジ……」

雫「シュー……」

二人「「はぁ……」」

光輝「す、すごい落ち込みようだな……仕方がないだろうけど。とにかく、今回は北野の行動の結末、ってところだ。それじゃあせーの、」



四人「「「「さてさてどうなる終末編!」」」」


無力

 三人称 SIDE

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 爆ぜた柱の光に、反射的に両手で顔を庇って飛び退くハジメ。

 

 一足に祭壇から階段の下まで後退した彼は、腕を下ろしてまばゆい光を放つ柱に見入る。

 

「くそっ、あれは……!」

「おお、ついに! ついにエヒト様が御降臨なされる!」

 

 後ろから聞こえた歓喜の声に振り向く。

 

 すると、美しい黒鱗を焦げさせ倒れ臥すティオの頭を踏み、アルヴが恍惚としていた。

 

 

 

 その光景にカッと怒りが湧くものの、今はそれどころではない。

 

 もしも、いいや確実にアルヴの言う通り……そしてハジメの最悪の予想通りの展開になっている。

 

 あの柱は……空高く、天から降り注ぐ光は、紛れもなく自分達が最大の障害になると予期していた──

 

「ハハハハ、よくやったぞイレギュラーども! お前達のおかげで、ついに我が主はこの世界にくんり

 

 

 

 

 

 

 

《エボルブレイク! Ciao!》

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が迸った。

 

 ハジメやアルヴだけでない、誰もが光の柱に注視していた広間に、無数の紫の閃光が。

 

 雫の飛ぶ斬撃にも似たそれは、ハジメの体のほんの数ミリ外を通過していく。

 

「!?」

 

 それを視認できたのは、既に閃光が自分の後ろを通り過ぎていった時だった。

 

 まさしく目にも留まらぬスピードで駆け抜けた無数の光に、ハジメは後ろを振り返り──

 

「は、ぇ、あ……?」

 

 彼の目の前で、呆然とした表情のアルヴに細かな切れ込みが入った。

 

 そのまま、断末魔の言葉も許されずにゆっくりとスローモーション再生のように崩れていく。

 

 一拍遅れて、サラサラとその体に巣食う薄汚い魂もろとも……アルヴは死んだ。

 

 

 

 あまりにあっけない、神の最後。さしものハジメも状況を忘れて呆けた。

 

 同じように動きを止めたシア達の前で、使徒やコクレン、魔物が砂のように肉片に変わる。

 

 逃れたのは、咄嗟に空間魔法で隠れたフリードとそれに便乗した恵里、弾き返した《傲慢の獣》。

 

「ア、ァアア………………」

 

 巨大な怪物──《怠惰の獣》と呼ばれた怪物さえも、肉のブロックとなり、次いで灰と変わった。

 

 元の人格の危険性により、エヒトに精神を狂気に固定されたが故の最期であった。

 

「っ、今のは……」

「まさか、嘘だろ……?」

 

 信じられないものを見る目で、フリードと恵里が祭壇の方へと目を向ける。

 

 皮肉にもそれで我に返って、シア達も光の弱まっていく柱の方へと目を向ける。

 

 やがて、完全に光の柱が収束するように消えた時。

 

 

 

『ハァ、ハァッ……!』

 

 

 

 そこにいたのは、ルインエボルバーを振り抜いたエボルアサシン──シュウジ。

 

 足元にはユエ……のようなものが横たわっていたが、すぐにサラサラと砂に還っていく。

 

『は、はは……作戦、だーいせーいこーう、なんつってな……』

「っ、シュウジ!」

「シュー!」

 

 やはり、裏切ってはいなかった。

 

 こうして一気に敵を殲滅する作戦だったのだと確信し、ハジメと雫が一歩踏み出して。

 

『来るなッ!』

 

 シュウジの怒声が広間を震わせ、二人の足を止めさせた。

 

 驚きに目を見開く二人の前で、紫の鎧に包まれた体をびくんと不自然に震わせるシュウジ。

 

 今度はなんだと誰もが固唾を呑む前で、勢いよく膝をついたシュウジに異変が起こった。

 

『が、ぁあアアアァアアッッ!!』

「っ、あれは!」

「黄金の、人影……!」

 

 エボルアサシンの体から滲み出るように、黒く濁った黄金の人型が現れる。

 

 人間の上半身の形をしたその光は、まるで抜け出そうとするように暴れている。今にも声が聞こえてきそうだ。

 

『お、ぁ、があッ、ぁああ……! 大人、しく……しやがれっ!!』

 

 呻き声を漏らしながら、シュウジは裂帛の気合とともに剣を床に強く突き刺した。

 

 それを合図にしたかのように無理やり人型を体に戻すと、仮面をハジメ達へと向ける。

 

『迷惑、かけたな。だがお前達のおかげで、目論見通りにいった』

「お前、やっぱり最初からそうするつもりだったのか!?」

 

 あの黄金の人型がなんであるかなど、ハジメ達からすれば一目瞭然だ。

 

 エヒト。この世界を玩具にしてきた邪な神。肉の体を持たない神が、今ここに現界した。

 

 そこに先ほどの言葉を思い返せば、シュウジの魂胆など手に取るようにわかってしまう。

 

 ユエを渡すふりをして、最初からエヒトを取り込むつもりだったのだろう。シュウジにはそれができる。

 

 

 

 何故なら彼は、最初から莫大な記憶の受け皿として造られたのだから。

 

 

 

『敵を、欺くにはまず、味方から、ってね……がっ!!?』

「「「シュウジ!」」」

「「シュー(くん)!」」

「「「北野(っち、殿)」」」

「パパぁ!」

 

 弾かれたように上半身を仰け反らせるシュウジに、ハジメ達が不安と共に名前を呼ぶ。

 

 

 

 いかにその体や魂が器であるとはいえ、相手は腐っても神格。

 

 エボルアサシンに変身してエヒトの侵食を〝消して〟いるものの、長くは保たない。

 

 それを自覚しているからこそ、シュウジはなんとか体の支配権を持ち直し、前に向き直った。

 

『いいか、よく聞けハジメ……!』

「っ、なんだ!」

『俺は、このままこいつと一緒に神界に行く。そしてこっちへの侵略を止めてみるが……長く保ちやしないだろう』

「そんなもん全部蹂躙して、今そこにいるエヒトもぶっ殺してやる!」

『おーこわ。流石はハジメ……でも、それでいい』

 

 仮面の下、微笑みながら赤一色のアラームに染まった視界の中でハジメを見る。

 

 

 

 自分を……そして自分の中に居座ろうとしているエヒトを睨む、その瞳。

 

 随分と昔とは変わってしまったが、真っ直ぐな所だけは変わらなかった。

 

 だから。

 

『だから、頼む』

 

 シュウジは一拍置いてから、万感の思いと覚悟を込めて、その言葉を口にした。

 

 北野シュウジという人間にとって最も惨めで情けなく、頼りない──当たり前な、たった一言を。

 

 

 

 

 

 

 

『ハジメ。俺を助けてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、時が止まった。

 

「……………………え?」

 

 意味を理解するのにたっぷり十秒かけて、それからハジメは間抜けな声を漏らす。

 

 続けて次々とシュウジの言葉の意味を脳が解析し終わった雫達が、限界まで目を見開いた。

 

 

 

 今、なんと言ったのか。

 

 〝助けてくれ〟と、そう言ったのか? あの北野シュウジが、何もかもを一人で背負う男が? 

 

 普段口にするような冗談ではなく──本当の意味で、心から自分達の力を、当てにしたのか? 

 

 その事実に誰もが驚嘆を露わにし、衝撃を受け、そして堪らないほどの喜びを覚えて。

 

「……か……ろう」

 

 だが、同時に。

 

 

 

 

 

「この、馬っ鹿野郎ぉおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 沸き起こる怒りのままに、ハジメは叫んだ。

 

「なんでよりによってこんな時に、こんな場所で頼ってくるんだよ! なんでもっと、もっと早く……!」

『こんな状況だからこそ、だ。情けねえことだが、こいつはお前らがいなきゃどうにもならない事なんでな。だから、ちょいと力貸してくれ』

「そんなの、そんなの俺は……(ぼく)はいつだって!」

『ならよし。俺も安心してこの不燃ゴミ野郎と一緒にランデブーと洒落込める』

 

 何故か、ボロボロと溢れる涙を止められないハジメに笑うシュウジ。

 

 本当にいつものようにジョークを飛ばす姿がおかしくて……だが、なによりも危うくて。

 

 二の句が告げないハジメ達に、シュウジは片手をあげる。

 

 

 

 すると頭上にブラックホール型のワームホール……それも特大のものが出現した。

 

 神域という特殊な空間に行く為なのか、周囲の壁や天井を引き剥がして飲み込んでいる。

 

 服や髪も激しく揺れ、不安に駆られたミュウがレミアにひしっと抱きついた。

 

 

 

 そんな中で、あくまでいつも通りの軽い声でシュウジが最後の言葉を向ける。

 

『準備は既に整えた。計画の大詰めを始める。ハジメ……待ってるぜ』

「まっ!」

『チャオ』

 

 手を伸ばすも、届かずに。

 

 

 

 

 

 ブラックホールに吸い込まれるように、シュウジの姿は消えた。

 

 

 

 

 

 程なくしてブラックホールが消滅し、宙に浮いていた瓦礫が床に落ちていく。

 

 手を伸ばしたままのハジメの前に残っていたのは──抉れた玉座の前に突き刺さった、ルインエボルバーだけ。

 

「クソ……」

 

 だらんと力なく腕を落とし、その場で崩れ落ちるハジメ。

 

 なんとも言えぬ雰囲気が半壊した広間を包み、再び静寂が到来したかと思われた。

 

 

 

 が、次の瞬間激しい音を立ててティオのすぐ側に巨大なものが落下する。

 

『ぐ、ァ…………』

「あー面倒くせェ、手間かけさせやがって!」

「ルイネさん!」

 

 堕ちたのは、さらに傷を増やしたルイネ。

 

 額に屹立していた黄金の角は折れ、三対の皮膜は切り裂かれてズタズタ。左前脚も千切れかけている。

 

 それをしたのだろう紅煉が音もなく降りてきて、誰もいない玉座を見下ろして鼻を鳴らす。

 

「ハッ、遊ぶのもここまでか。つまらねえ、帰るとするかァ。テメェらもついて来い」

「チッ。今度こそ光輝くんを連れ帰りたいところだけど……今は退いた方がいいよねぇ」

「……無念」

 

 無造作に拳を振るい、割れた空間の向こうに紅煉が消えていく。

 

 光輝にねっとりとした視線を投げた恵里と、険しい表情のフリードがそれを追いかけて割れ目の向こうに去った。

 

 先の奇襲で壊滅した使徒やコクレンの残党も、次々とそちらに飛び去る。

 

 

 

 そんな中、《傲慢の獣》はルインエボルバーを注視していた。

 

『……素晴らしい。やはり同じ道を辿るのですね、我が師の写し身よ』

「…………」

 

 チェーンソーも下ろし、一見無防備に見える《傲慢の獣》に光輝は油断しない。

 

 隙もなく剣を構える彼に、不意にゆるりと振り返った《獣》は……腰のバックルに手を伸ばした。

 

 

 

 何か来る、と身構えた光輝の目の前で、《傲慢の獣》は……バックルの注射器の尻を押した。

 

 するとチェーンソーが高音と共に赤熱、みるみるうちに溶けていき、不可解な行動に光輝は眉を潜める。

 

「なんのつもりだ」

『満足した。今日は帰る』

「なっ!?」

『貴様の剣、以前よりはマシになった。せいぜい磨け、我が心の臓を穿つその刃を』

 

 紅煉と同じように拳を振るい、空間を割る《傲慢の獣》。

 

 殺意が消えたままに踵を返す《獣》に、呆けていた光輝は慌てて叫んだ。

 

「必ず! 必ず君の前にもう一度立つ! そして俺は、君とこの手を……!」

 

 何かを告げようとする光輝にゆるりと振り返り、《傲慢の獣》は。

 

『足掻け。もがけ。そして泥に塗れろ。そうすれば──貴方のどうしようもない愚かさも、変わるかもしれませんわね?』

「ッ! 御堂ぉッ!」

 

 一歩踏み出した光輝を揶揄うように、同時に後ろに飛ぶ《傲慢の獣》。

 

 シュウジ達の焼き直しのように目の前で空間の割れ目が閉じ、光輝の手は行き場を失った。

 

 

 

 三度目の静寂。

 

 両膝をついて項垂れるハジメ、呆然とするクラスメイト達、そして動けないシア達。

 

「そんな…嘘よ……」

 

 同じように崩れ落ち、茫然自失となる雫を、誰か慰めることもできない。

 

 今度ばかりは長く、長く沈黙が続いて。

 

 

 

 やがて、止まってしまった広間の時間が動き出したのは五分も後のことだった。

 

 ハジメの目の前に、不意に莫大な魔力と共に空間が割れる気配を見せたのだ。

 

「っ、ハジメさん!」

「……シア、待って」

「でもっ!」

 

 思わずシアが飛び出そうとするのを、戻ってきていたウサギが制する。

 

 何故と目で問いかける彼女に、ウサギはじっと険しい目つきで空間の揺らぎを睨んでいた。

 

 

 

 困惑しつつも、美空達も頷きあって動き出す。

 

 精神的ダメージの大きい雫を守る為に、香織と龍太郎、鈴が疲労で重い体を引きずり前に立つ。

 

 いくらか回復したティオが、竜化を解除せずに虫の息であるルイネを庇い、光輝は剣を構え。

 

 そして、出血多量で事切れそうな体をヴェノムで支え、愛子が生徒達を守ろうとする中で。

 

 

 

 

 ついに空間の揺らぎは明確な裂け目となり、()()()()()()()()

 

 見覚えのある色だ。シア達が武器を構えつつもそう感じていると、裂け目は広がる。

 

 

 

 

 

 そして、新たに姿を表したのは──

 

 

 

 

 

「……ハジメ」

「「「「「ユエさん!?」」」」」

『ユエ!』

 

 他でもない、ユエだった。

 

 先ほど砂になったのは本人ではないとシア達も分かっていたが、予想外の登場に驚きを隠せない。

 

 そんなシア達にユエはこくりと頷き、それから視線を落とす。

 

「ハジメ、しっかりして」

「………………ユエ?」

 

 緩慢に顔を上げるハジメ。

 

 ユエは頷いて、そっと跪くと両手でハジメの顔を包み込んだ。

 

「お前、どうして……」

「ん。シュウジが助けてくれた。さっきまで一緒にいたのは、解放者の隠れ家に保管されてたホムンクルスの試作品をシュウジが改造したもの。魂魄魔法で意識だけを移してた」

「っ、そうか。あいつが……」

 

 驚きもせず、視線を落とすハジメとは裏腹にシア達は開いた口が塞がらない。

 

 

 

 いわばユエは、遠隔操作のラジコンのようなことをしていたのだ。そしてあの光が現れた瞬間に元の体に戻った。

 

 ユエの魔法行使に耐えられるような人形を作るなど、シュウジの技術には脱帽せざるをえない。

 

 一体いつから、この事態を予期してそれを用意していたのか……

 

「……入れ替わったのは、いつからだ?」

「変成魔法を手に入れて、概念魔法の知識の負荷で気絶してた時。私自身も本来の体に戻った時に初めて気がついた」

「あの時、か……」

 

 シュウジならばその程度のこと、容易くできてしまうのだろう。

 

 目の前で自らエヒトと共に去った親友の姿を思い返し、ハジメは奥歯を噛み締めた。

 

「……また、あいつに一人で戦わせた」

「ん。気がつかないうちに、いつもシュウジは戦ってる」

「また、助けられた」

「それは私も同じ。シュウジがああしてなければ、エヒトに体を乗っ取られてた」

「何も、できなかった……!」

「……ん」

「クソ……クソ、クソッ、クソぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 掌が指圧でひび割れるほど硬く握った義手を、床に叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 共に全身を使い吐き出した絶叫は、なによりもハジメの……その場にいる全員の心情を、表していた。

 

 

 




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