星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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クライマックスで筆が乗るぜ!

エボルト「前回、現れた男に発破をかけられたハジメが復活! そして反撃を誓う!」

ルイネ「私や愛子殿の治療もされたな。危ないところであった…」

愛子「感謝するしかありませんね。石動さんも白崎さんも、素晴らしい力でした」

ハジメ「さすがはあいつらってとこだ。さて、今回は主にクラスメイト達がメインだな。それじゃあせーの、」


四人「「「「さてさてどうなる終末編!」」」」


ひとつまみの勇気

 三人称 SIDE

 

 

 

「ははは、いい反応だ。あいつがサプライズを好んだのもよくわかる」

 

 両目をひん剥いて自分を凝視する若者達に、落ち着きを感じさせる顔で笑う男──否。

 

 便宜上、(ハジメ)と呼ぼう。彼は帽子を被り直すと、ぽかんとしているシアに向き直った。

 

「ほ、本当に、あなたは……」

「二度は名乗らない。俺が()()だと認識する、ただそれだけで存在が揺らいでしまうからな」

 

 だから名前を口にすることさえ満足にできないのだと、始は微笑んだ。

 

 どこか、シュウジを彷彿とさせるその雰囲気にシアは口にしかけた名前を飲み込む。

 

 

 

 それでいい、と頷いてから始は後ろにいるウサギ達を見回す。

 

 一人一人、とても懐かしげな目でその顔を確かめるようにして、小さく頷いた。

 

「さて。それでは早速、今後について話し合おうか」

 

 カツンと上質な靴が床を叩くと、仄かな赤い光と共に床から美麗なテーブルと椅子がせり出す。

 

 錬成。誰よりも見慣れたその技能に一同は息を呑み、始の言葉の真実性を再認識する。

 

 

 

 始が椅子の一つに座り、指のリングを輝かせるとテーブルの上に茶器が出た。

 

 不思議なことに、すでに注がれた紅茶は湯気が立っており、彼は「さあ」と手で示す。

 

 ハジメは憮然とした顔で正面に座り、隣の席にユエが座った。

 

『俺も参加させてもらうぜ』

 

 残る二つの席のうち、一つに体力を回復したエボルトが着席。

 

 その時びくりとクラスメイト達が怯えたのは、まあ仕方がないだろう。

 

 

 

 鷹揚に頷き、始が口を開いた時──椅子を引く音がした。

 

 最後の席に視線が集まると、そこに座った〝彼女〟は刀をテーブルに立てかけ、言う。

 

「私も、聞かせてもらうわ」

「雫ちゃん……」

 

 先ほどとは異なり、力に満ちた瞳で告げる雫に香織が不安そうにした。

 

 シア達や光輝達も同じ顔をする中で、雫は自嘲気味に笑った。

 

「さっきの彼の言葉で私も目が覚めた。悲しんでる時間なんかない。座り込む暇があるなら、私はあの人を助ける手段を一つでも多く探す」

「……まあ、そういうことだ。お前らも力を貸してくれるか?」

 

 振り返り、ようやくいつも通りの口調で頼ってきたハジメにシア達が顔を見合わせる。

 

 そうしてハジメに向き直った時、そこには満面の笑みがあった。

 

「はい、勿論です!」

「どこまでも、ついてくよ」

「私も!」

「あのバカには、まだ説教が足りなかったみたいだしね」

「うむ。同じ竜人として、この手であの紅煉という獣にはルイネ殿を傷つけた報いを受けさせねばならぬしの」

「ミュウも! シュウジおじちゃん助けるの!」

「私も、パパを助けたい……!」

「あらあら。この子達がそう言うなら、私も引き下がってはいられませんわ」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるミュウと、にこにこと微笑むレミアが可愛らしい。

 

 頼もしい仲間達に、ハジメは自分の心が震えるのがわかった。

 

 

 

 奈落の底。ウサギの肉を食らい、心も身体も人をやめてから始まった。

 

 ユエに出会い、生涯の友と再会し、旅をして。

 

 

 

 

 

 気がついたら、こんなに沢山の仲間がいる。

 

 

 

 

 

 誰も彼も押しが強く、お節介焼きで……世界最高の馬鹿を取り戻す戦いに、ついきてくれる。

 

 そのありがたさと、心の底から湧き上がる愛おしさに、ハジメは微笑まずにはいられない。

 

「勿論、私も。ハジメの隣が私の居場所」

「……ああ、ありがとうユエ」

 

 手を重ね、微笑み合うハジメとユエ。美空や香織がムッとした顔をしたりする。

 

 少し前まで最悪の雰囲気だったというのに、すっかりいつものやり取りだ。

 

「俺達も当然、戦わせてもらうぜ。あいつには借りがありすぎるしな」

「鈴も。それに……まだ、恵里と話せてないから」

 

 それに苦情をこぼしつつも、龍太郎達が一歩踏み出す。

 

 時間は短いとはいえ、ここまで共に旅をしたのだ。二人はシュウジ奪還にやる気を見せていた。

 

 ハジメは頷くと、最後に光輝を見た。

 

「で、お前はどうする天之河? そこで狼狽えてる奴らのお守りをしててもいいぞ」

 

 苦い顔をする地球組の一同。

 

 大半がオルクスの件からすっかり戦意を無くし、こうしてあっさり人質にされていた。

 

 そんな彼らを気遣うように一瞥した光輝は、ほんの一時迷いを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──だれか、わたしをたすけて。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、脳裏にちらつく〝彼女〟の言葉。

 

 光輝は固く目を瞑り、迷いを振り払うために頭を振ってから答えた。

 

「……いや、俺も行く。果たさなきゃいけない約束がある。負わなければいけない責任がある──助けたい、女の子がいるんだ」

「助けたいやつ、か」

「ああ。だから一緒に戦わせてくれ」

 

 完全に覚悟を決めた表情の光輝は、まっすぐハジメの目を見た。

 

 

 

 光輝が何を背負うと覚悟し、そして欲しているのか。

 

 それは意識の隅で聞いていた《傲慢の獣》との会話を踏まえれば容易くわかる。

 

 

 

 彼の目的の達成は、転じてエヒトの戦力を削ることにも繋がるだろう。

 

 たった一人でクラスメイト全員を守るなどという無謀を口にされるより、ハジメとしては都合がいい。

 

 色々と成長した今の光輝ならばそのこともわかっているのだろうと、その目からハジメは悟った。

 

「お前、マジで変わったな」

「自分でもそう思う。だがこれが俺の譲れない、俺だけの信念──一生に一度きりの我儘だ」

「そうか。まあ、我が強いのは俺達も同じだ。好きにやれ」

「ああ、そうする」

 

 頷く光輝に、ハジメは少しだけ笑った。

 

 過去のあれやこれやがある為に仲間、ましてや友人などとは絶対に思わない。

 

 が、体が大きいだけのクソガキから顔見知りくらいにはランクアップした。かもしれない。

 

 

 

 そんな光輝にざわめくのは、クラスメイト達。

 

 今までおんぶに抱っこだった王国は安全ではなく、最後の頼りである光輝は守ってくれないという。

 

 なんとも他力本願で呆れることだが、本質はまだ親の脛を齧って生きている高校生なのだから仕方がない。

 

「そんな、天之河も南雲達といっちまうのかよ……」

「私達はどうすれば……」

『何か勘違いしてるみたいだから言っておいてやるが、お前らはどっちにしろ戦うことになるぞ?』

 

 冷や水を浴びせかけたのは、エボルトの一言。

 

 一気にシンとする彼らを嘲笑うように、顔だけ振り返ったエボルトは淡々と告げる。

 

『奴がシュウジの体を完全に乗っ取れば、ユエの体を手に入れるために軍勢を差し向け、地上の全てを滅ぼすだろう。これは予測ではなく確実にくる未来だ。その時は勿論、お前らも皆殺しになる』

「嘘だろ!?」

「また戦わなくちゃいけないの!?」

「嫌だ、嫌だ……!」

 

 一気に混乱が広がり、俄かに広間が騒がしくなる。

 

 これが数ヶ月前まで、救世主と崇められて調子こいていた連中だとは誰も思うまい。

 

『はは、おもしろ』

「お前な……」

『生憎と俺は、何もせず殺されるのを待つ弱者を守る気はない』

 

 半目で見るハジメにエボルトは肩をすくめ、冷めた視線で彼らを見る。

 

『そもそもな、俺の計算にあいつらのお守りは入ってねえんだよ。この最後の戦いのために用意した戦力は、足りないことはあっても余ることはない』

 

 シュウジと共に策謀を巡らせ、ファウストを打ち立ててこの世界の裏で暗躍してきた。

 

 人材を調達し、資源を貯め、兵器を作って力を蓄え……全てはこのエヒトとの最終決戦の為のもの。

 

 正確なエヒト側の総戦力はエボルトですら予測できず、常に急いで準備を進めてきた。

 

 そんな状況の中で、守ってもらえるのが前提と思い込んだ羊達を世話するほど、この残虐な怪物は優しくない。

 

 

 

 なお、ゲートキーの存在は教えない。

 

 地球に逃げさせろなどと言い出すだろう。そんな逃げは許さないのがエボルトクオリティ。

 

 そもそも、この世界で負ければ次に興味を持たれるのは間違いなく地球だ。どちらにしろ退路はない。

 

 

 

 さてどうすると、エボルトを筆頭に混乱の極みに達している彼らを見るハジメ達。

 

 

 

「お、俺は!」

 

 

 

 やがて阿鼻叫喚を引き裂いたのは、一人の裏返った大声だった。

 

 一気に視線がそちらに集まり、声の主──清水幸利は少し怯むも、気丈に声を張り上げた。

 

「俺は、戦う!」

「清水!?」

「お前何言ってんだよ! 死ぬかもしれねえんだぞ! 神だかなんだか知らないけど、そんなやつのせいで、こんな世界で……!」

「俺はもう、一回死んだ! 死んでるはずだった!」

 

 自棄になって騒ぎ立てるクラスメイトに噛み付くように、清水は叫ぶ。

 

 声も体も震え、しかし妙に迫力のある目に喚いていた男子が思わず閉口した。

 

「でも、先生に助けられた! 魔人族に乗せられて調子乗って、何百人も殺そうとした俺をあの人は受け入れてくれた! お前らだってそうだろ!?」

 

 一同の脳裏に、化け物から自分達を守る愛子の顔がよぎる。

 

 ヴェノムの大半を鎧ではなく壁として使い、自分の体が貫かれることも厭わずに耐えていた。

 

 絶対に守ると、血反吐を吐きながらそう言った彼女は今、近くの柱に背中を預けてぐったりとしている。

 

「もしこんなことにならなくても、魔人族と戦争してたらどっちにしろ俺達は人殺しになってた! それでもあの人は側にいてくれてただろ! ああやって守ってくれただろ! だったら次は俺達の番じゃないのかよ!」

「で、でも……」

 

 必死に訴える清水に、しかし一度死の恐怖を味わった少年少女達の心は踏み出せない。

 

 それはまるで、他人を恐れ、現実から目を逸らしていたかつての自分のようで。

 

 かつてはどこぞの男のように愚かだった清水は奥歯を噛み締めて、あらんかぎりの声で激白した。

 

 

 

「俺はやるぞ、先生と自分を守るために戦う! 臆病で卑怯者のまま終わってたまるか! そうじゃなきゃ、あの時先生に助けられた意味がねえっ!」

 

 

 

 ふぅ、ふぅ、と鼻息を荒く、両手を握りしめてクラスメイト達を睨みつける。

 

 そんな清水の姿は到底かっこいいなどとは呼べない代物だ。

 

 

 

 だが。

 

 少なくとも、彼らは劣等感を覚えた。

 

「あー、これもう出なきゃ一生チキン野郎だよなぁ。影が薄い上にビビリとか、いくら俺でも嫌だっつうの」

 

 そして一人、踏み出す男がいた。

 

「よっ、清水。かっこいいじゃんお前」

「……遠藤? お前いたの?」

「いたよ!? 最初からずっといたよ!?」

 

 影の薄さはワールドクラス、遠藤浩介は相変わらずの扱いにがっくりと頭を落とす。

 

 だがそれも一瞬のことで、ズカズカと強めの足取りでクラスメイト達を押しのけて、清水の隣に立つ。 

 

「俺もやるぞ」

「遠藤、お前まで……」

「街一つ滅ぼそうとしたこいつがここまで言ってんのに、心が動かないのかよ。だったらおめーら、マジでチキンだな」

 

 挑発する遠藤にぐ、と息を詰まらせる。

 

「それにほら、俺も一応ファウストのメンバーだしさ。使いっ走りだけど。だからどっちにしろ戦うし……」

「え、マジで!?」

「おう。じ、実は迷宮とかでみんなのこと、裏で強い魔物から守ってたりしたんだぜ?」

 

 どう? ちょっとは影が濃くなった? と言う遠藤になんとも言えない顔をする清水。

 

 スベったことを察し、「うぉっほん!」と態とらしく咳をかました遠藤はもう一度クラスメイト達を見る。

 

「元からそうとはいえ、清水の言葉に感動したのは本当だ。俺も一緒に戦う。神の軍勢なんかみんな暗殺してやる」

「遠藤……」

「それに北野は、クラスで一番最初に俺の存在に気がついて友達になってくれたし……」

「え、遠藤……」

 

 ちょくちょく挟まれる自虐ネタ。マジで自分の影の薄さに焦っている遠藤だった。

 

 感激しきれずに微妙な顔をする清水にハッとして、遠藤は慌ててクラスメイト達の方を向いた。

 

「と、とにかく! どうすんだよお前ら! つーか戦わないとマジで死ぬぞ! 俺も自分を守るので精一杯だろうし!」

「……だぁ! それもうやるしかねえじゃねえか!」

「永山!?」

「わ、私達だって!」

「清水にばっかでかい顔させるもんですか!」

 

 最初に声を上げたのは、迷宮攻略に参加していた永山パーティーと愛子ちゃん親衛隊。

 

 後者の女子達の「あの時のことは忘れてねぇぞコラァ」という眼光に、清水が「ひっ!」とビビった。

 

「……じゃ、じゃあ俺も」

「何もしないで死ぬくらいなら、せめてちょっとくらい……」

「や、やってやる」

 

 そのうち、一人また一人と声を上げていく。

 

 やがて戦意を喪失していた者達も、半ばヤケクソに賛同し、戦う意思が固まっていき。

 

 クラス全員が愛子のため、そして自分の命の為に戦うという方向に意思が統一されていった。

 

「て、ことなんだけど……」

『……まあ、合格にしといてやる。あとでそいつらの装備は支給してやるから、お前がまとめとけ』

「う、うっす」

 

 恐る恐る聞いた遠藤は、ぶっきらぼうながらも確かな返答にホッと安堵した。

 

 クラスメイト達が意気込んでいく中、パチパチと大きな拍手が響く。

 

 

 

 それは、一部始終をずっと見守っていた始のものだった。

 

「そうだ。力を合わせろ。ひとつまみの勇気を奮い立たせ、手を取り合い、共に理不尽に抗え。それが人の力だ」

 

 静かな声音。されど、どこか自然と聞き入ってしまう深みのある声。

 

 気がつけば意識が吸い寄せられるように、皆が始の言葉を聞いていた。

 

「大層な理由はいらない。くだらない夢でも、意地でもいい。だが、たった一つのそれがあれば、神程度簡単に超えられる。事実、お前達は目の前で見たはずだ。神をも押さえつけ、仲間達のためという理由一つで全てを背負った男の姿を」

 

 

 

 

 誰もの頭に、シュウジの姿が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 悪を誇り、大切な仲間達に裏切ったふりさえしてまでエヒトとその眷属達を退けた。

 

 その姿に皆が力より悪意より──絶大にして確固たる、信念を見た。

 

「お前達も、同じ人だ。それなら一生に一度くらい、大きくても小さくても命をかけてその望みを全うして見せろ。必死にあがいてもがいて、傷に塗れ、膝をつきそうになるほど疲れ果てるくらいに奮起してみせろ」

 

 一拍置いて、始はゆっくりとした口調で。

 

 

 

 

 

「そうすれば、どんな不可能も可能になる」

 

 

 

 

 

 そう、強い口調で言った。

 

 

 

 それは、始が南雲ハジメだからこそ重みを生む言葉。

 

 未来からやってきたという摩訶不思議な彼は、その名前さえ自ら封じたとしても。

 

 それでも、傷に塗れ、己を変え、あらゆる敵を理不尽と共に喰らい糧としてきた──南雲ハジメなのだ。

 

 そこに彼の纏う異様な〝圧〟が加わり、クラスメイト達は心身を奮い立たせた。

 

「足掻いてもがいて、か……」

 

 《傲慢の獣》……彼女が遺した言葉に似たそれに、光輝は誰に聞かせるでもなく一人呟く。

 

「未来から来たお前が言うと、なんか説得力あるな?」

「だろう?」

 

 不敵に笑う揶揄うハジメに、全く同じように笑う始。

 

 文字通り瓜二つのWハジメの笑みに、ユエ達がちょっとドキッとしたりした。

 

「ですが、地上への侵攻はエボルトさんのファウスト? と、この場にいる皆様だけで抑えられるのでしょうか……?」

 

 ずっと話す機会を窺っていたリリアーナが、不安げに問う。

 

 世界、ひいては王国の安否を案ずるのは王女として当然だろう。

 

『ははは、姫さんはどうやらさっきので勘違いしてるみたいだな』

「勘違い、ですか?」

『いいか、ファウストの総戦力は数百や数千じゃない。少なくともこれくらいはいる』

 

 エボルトが指で示したのは……六。

 

 それが軍勢の桁を表していると理解した瞬間、リリアーナは大きく目を見開いた。

 

『俺とシュウジの持ち込んだ技術で作り上げた数々の兵器に加えて、主要な国は軒並み一つ返事で従う。他にも色々なとこから兵力は集められるだろつ。なにせ俺とあいつの全能力で、裏からこの世界を支配したんだからな』

「な、なんという……」

 

 それを聞いていた者達のエボルトを見る目が、「あれ? こいつもある意味エヒトじゃないか?」というものに変わる。

 

 その反応に楽しそうに笑って、エボルトは両手を大袈裟に広げた。

 

『全ては計画通りだ。奴が差し向けるあらゆるものを叩き潰し、破壊して、シュウジを取り戻した暁には高笑いしながら究極の絶望に落とし、そして殺してやる』

 

 その言葉で疑惑の目線は完全に恐怖に戻った。

 

 こいつ敵に回したら死ぬ、とその瞬間誰もが思った。もしこれで逃げたら同じ目に合わされるのでは? とすら思う者もいた。

 

 ビビるクラスメイト達にやれやれと嘆息し、ハジメは軽くテーブルを叩いて注目を集めた。

 

「ともあれ、これで方針は決まった。俺達はシュウジを取り戻しに神域にカチコミ。地上に向けられる可能性の高い軍勢は、ファウストを旗印にして、お前らとこの世界の総力をもって撃退する。いいな?」

『応っ!』

 

 何十もの返答が重なり、広間を揺らすのではないかという音になる。

 

 ハジメは満足げに笑って、これも計画通りなんだろうなーと思いながらエボルトを見た。

 

「エボルト、あいつがエヒトに完全に乗っ取られるまでの猶予は?」

『五日……いや、三日ってとこか。エボルアサシンの使用で魂が弱ってるからな』

「それだけの時間があれば準備は十分できるな。俺達も出来うる最大の努力をするぞ」

 

 ハジメの宣言に頷くユエ達。始はその一体感に目を弓形にした。

 

「いい団結だ。ならば俺も力を貸そう。あいつを助けるのが、こんな五十年前くんだりまでやって来た目的だからな」

「あ? ならお前の持ってるアーティファクト全部寄越せ。五十年もあったんだ、たんまり溜め込んでんだろ?」

「ははは、誰がやるかクソガキ。お前もユエ達もまとめて三日で訓練してやるから、目で見て盗め」

 

 始の挑発的な言葉に、ハジメ達の何かがプチッと切れる音がした。

 

「……俺たち全員に訓練をつけるだと? 随分でかい口を叩いたな、あ"?」

「自信たっぷりなのはいいがな。老人の言葉には少なからず、積み重ねた経験に基づく意味があるってのを覚えとけ」

「何を──ッ!?」

 

 ハジメが驚いて自分の左腕を見る。

 

 目を見開いているハジメを訝しみ、ユエ達がそちらを見ると──義手がなかった。

 

 始は丸ごと取り外した義手をテーブルの上に置き、余裕のある態度で紅茶を啜る。

 

「無駄に歳食ってるわけじゃあないんだ。次は気をつけろ」

「っ、上等だ。せいぜい舐めてかかって死なねえように気をつけろよ、ボケ老人」

「どっちのセリフだか」

 

 歯を剥き出しにして好戦的に笑うハジメと、瞳に戦意を宿す始。

 

 やっぱり同一人物なんだなー、とユエ達が和む中で、清水達は二人から溢れ出る覇気にガクブルしていた。

 

 

 

 

 

 そうして、ハジメ達の最も濃密な三日間が始まった。

 

 

 

 

 




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