ハジメ「俺だ。前回ついに反撃の準備を開始した俺達は、動き始めた」
愛子「清水くん、あんなに立派になって……」
シア「あの人、ウルの街とはまるで別人でしたよ」
ユエ「ん、愛子の教師パワー」
愛子「ええっ、そうでしょうか?(テレテレ)」
エボルト「嬉しそうでよかったな。さて、今回はユエとハジメの話。原作じゃ作者が本当に泣いた話だ。それじゃあせーの、」
五人「「「「「さてさてどうなる終末編!」」」」」
ハジメ SIDE
「ここに来るのも、久しぶりだな……」
「ん。私達の旅は、ここから始まった」
ユエと二人、懐かしい気分で言葉を交わす。
ここはオルクス大迷宮百五十階層。
未来の俺との話し合いの後、三日後と予想されるエヒトとの決戦に備えを始めた。
その為、資源と作業場が充実しているここに帰ってきたのだ。
ゲートキーとか、もしもの時に備え雪原に埋めたアーティファクトを回収するのがちと遠回りだったが。
エボルトの予想では、シュウジの体を支配したエヒトはまず王国に攻めてくる。
聖教協会の総本山があった【神山】は、【神門】という、奴がこの世界に来る為に通る道を開きやすいらしい。
この世界の一般人に比べ、そこそこの戦力であるクラスの奴らも真っ先に始末する必要があるし、確実だろう。
そこから使徒や《獣》どもの軍勢がやってくることを前提とし、エボルトは迎撃の用意を。
兵や武器を集め、更にあちらで適当に面倒を見ると言うのでクラスメイト共は丸投げした。
また拐われでもしたら面倒なので、ミュウ達三人は一緒に。
ルイネも生命力が著しく低下しているためこちらに、まだマシな先生は安静のため王国に。
で、鉱石とか必要なものを集めがてら、手分けして迷宮の中を散策しているわけだが。
神殿のような石造りの美しい部屋は、何本もの巨柱によって支えられている。
そして俺達が雷◯虫モドキの入ったカンテラを光源に見つめているのは……もぬけの殻の祭壇。
「ここでお前と出会い、助けて、そして一緒にこの奈落を生き抜こうと約束した」
「ん。それにハジメは、私と一つ約束した」
「ああ、そうだったな」
魔力を吸い取る石の中に封印されていたユエを救い、デカいサソリモドキを殺してこの部屋を出て。
その後に奈落にやってきた経緯を話し、ユエの事情を詳しく聞いた時にある約束を交わした。
「〝俺には親友がいる。落ちていく俺を助けるために一緒に奈落にやって来たはずの、バカな最高のダチが〟……だったか」
「ん。〝これから先、奈落を、そしてそこから先の地球に帰るための旅には、お前だけじゃなくあいつが隣にいてほしい。そうじゃなきゃ、俺はこの奈落を出るつもりはない〟とも言ってた」
「あー、そうも言ってたっけ」
我ながら重い友情だなと思うが、当時も今もそれは本気の言葉だ。
いつだって、あいつが俺の隣にいた。
支えられ、到底できていたとは思えないが俺も支えて。
そうやって十七年間生きてきたから、あいつは俺の人生に必要不可欠なものだったんだ。
だからあいつなら一人で平気だと分かっていても、隣にいない旅など考えられなかったのだ。
そのことを最初に伝えた時、ユエは随分と驚いた顔をしていた。
「あの時のハジメはもっとやさぐれてた。だから、そこまで言う友達がいるなんて驚いた」
「この気持ちは誰にも劣っているつもりはない。実際それで何回か八重樫と喧嘩したし」
「そんなことしてたの?」
「そもそも俺は友情であいつは愛情なんだから、我ながらバカやってたと思う」
最初からベクトルが違うのに、何をやっていたのか中学時代の俺。
ちなみにその八重樫だが、資材調達班である香織達とは別に、下の階層で修行している。
同じく修行中の谷口も一緒だが、おそらく攻略した時にはまた一皮剥けてるだろう。
八重樫と不毛な争いをしていた時、美空や本人でさえ呆れ笑いを浮かべてた。
今思い返しても恥ずかしい。
だが……恥ずかしくはあれど、後悔はしていない。
「でも、わかる。シュウジは私にとってもハジメと同じくらい、〝大切〟で〝特別〟な人」
「そうか。それなら嬉しいわ」
俺の一番〝特別〟な友達が、誰かにとっても〝特別〟だという事実。
ましてやそれが俺にとって特別な人ということが、心の底から嬉しいと感じた。
「シアも、ウサギも、ティオも。香織や他のみんなだってそれは同じ。シュウジのことが好きだから、助けたい」
「ああ。本当に感謝してるよ」
シアはプレデター共の招集と、ライセン大迷宮でミレディから情報を絞ってもらいに。
ウサギは各地にいるホムンクルスの招集を。
竜人族を連れてきてもらうため、ティオは故郷へ。
今も仲間達が、世界各地でそれぞれ準備を進めている。
あいつのために、みんな死ぬかもしれない戦いに身を投じてくれるのだ。
「みんなで力を合わせれば、必ず助けられる。そう
「……ああ」
ユエの言葉に頷き、目を瞑る。
この始まりの場所で、最愛の人の一人が隣にいる中で。
俺はあいつの格好つけた、妙に様になっている笑顔を思い浮かべ。
ゆっくりと開眼して、ユエと顔を見合わせて。
「あいつを助けるぞ。絶対に」
「ん。それで、みんなで一緒に地球に帰る」
力を貸してくれるかなどと、そんなチンケな質問はしない。
俺の胸にある想いと同じものを目に宿したこいつには、今更そんな確認なんていらない。
それはきっと、シア達だって。
「じゃあ、さっさとこいつを回収するか」
「ん」
話がひと段落ついたところで、この場所にやってきた残り
祭壇の上に転がっている、かつてユエを封じていた鉱石。
言うなれば〝封魔石〟か。跪いて錬成を行い、一つに纏めてブロック状に成形する。
「あの時は〝宝物庫〟に入れると指輪が壊れるかもしれなかったから回収できなかったが、今だったらうまく利用できるはずだ」
「きっといい武器になる」
そんなことを話しつつ、細かく分けた封魔石を〝宝物庫〟に入れていく。
そうして最後のブロックを収納した時……封魔石のあった場所に、一つの紋章が現れた。
「……あった。これが、
「ああ、マジであるとはな……」
ここに来た最後の目的。それがこの紋章。
同時に、〝俺に依存するのではなくユエ自身が向き合うべきものである〟とも。
ヴァンドル・シュネーのものであるそれに、〝宝物庫〟から【氷雪洞窟】の攻略の証を取り出す。
水滴型のペンダントを近づけると……甲高い音を立てて震え、共鳴した。
ユエと顔を見合わせ、頷き合うと紋章を見る。
目を凝らせば紋章の中央には窪みがあり、そこにペンダントを嵌め込む。
カチリとフィットした瞬間、紋章が輝くと金属同士が擦れ合うような音を発した。
程なくして、紋章を中心に床が円柱型にせり出してくる。
三十センチほど伸びたところで止まり、パカリと俺から見た正面が開いた。
「これか」
中に手を伸ばし、入っていたピンボールくらいの結晶を取り出す。
ダイヤモンドとも見間違いそうなそれは、魔眼石で解析するとアーティファクトだった。
「記録映像用のアーティファクト……だな。構造的にはオスカー達が使ってたのと同じものだ」
「……こんな場所に、そんなものを残すのは」
一体、誰なのか。
立ち上がり、名前をあえて口にせず俯いてしまったユエの手を取る。
顔を上げる彼女の手に、自分の手で包み込むようにそっとアーティファクトを乗せた。
「大丈夫だ。この中にどんな事実があって、ユエが何を思おうとも俺は受け入れる。だからあいつの言葉を借りるのは癪だが……ちゃんと、向き合ってくれ」
「……ん!」
強く頷くユエの目には、もう迷いがない。
俺も覚悟を決めて、アーティファクトに魔力を流し込んだ。
すると、アーティファクトから黄金の光が溢れ出し──収束した時。
目の前には、一人の男がいた。
「叔父、様……」
『……久しぶり、と言うのも少し違うのかな。アレーティア、私の最愛の姪よ』
ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタール。
シュウジにあっさり殺された眷属神アルヴに肉体を乗っ取られた、ユエを封印しやがった男。
そいつは困ったように、だが愛しげな笑みを浮かべこちらを見る。
視線は、少し下。そのくらいの背丈の相手に対して残したものなのだろうと察する。
そしてそれは──間違いなく、ディンリードの映像に目が釘付けになっているユエだ。
『君は、きっと私を恨んでいる。だからこんなことを言っても仕方が……いや、違う、違う。こんなことを言いたいわけじゃない』
色々考えてきたのにね、なんて自嘲げに笑う顔はアルヴとはまるで違う。
それは何よりユエがわかっているのだろう。懐かしいように、でも苦しげに笑う。
『遺言というのは、存外に難しい。ああ、そうだ。まずは礼を言おう』
「礼……?」
ディンリードは、視線の高さを変える。
今度は先ほどまでの視点の隣──寸分違わず、俺の目を見て。
『
「「ッ!!?」」
なん、だとッ!?
こいつ、今俺の名前を!?
『私の可愛いアレーティアに寄り添う君。すまないが、私は君のことをその名と姪の恋人であることしか知らない。魂魄魔法でアレーティアの記憶を辿り、再生魔法の時に干渉する概念を応用し、遥か先の未来から語りかけているという〝誰か〟に教えてもらったんだ』
「はっ、えっ、はぁっ!?」
「ど、どういうこと!? なんでディン叔父様がハジメのこと……!」
穏やかな顔でディンリードがベラベラ喋る内容に、頭の中が一瞬でごちゃごちゃになった。
魂魄魔法と再生魔法を使える誰かが、三百年も前のこいつに俺のことを教えたってのか!?
そんなぶっ飛んだことを、いらねえお節介をする野郎なんて………………
『随分と仲睦まじいようだね。あの声から聞いたところによると、いつもイチャイチャしているとか。ははは、会えないことが本当に、本当に残念だよ。本当に』
「………………………………あっ」
「シュウジぃいぃいいいいいいいいいいっ!!!」
あんの野郎ッ! 俺が知らねえ間に何やってやがったぁあああああああああッ!!?
『まあ、それはいい。私の姪が本気で選んだと言うのだ。直接会って色々と話したかったところだが、この場では礼だけ言っておこう』
「あいつ殴る、ぜってえ殴る」
「……知らないうちに、紹介されてたなんて」
ディンリードの妙に迫力のある笑顔に、親友を取り戻したらまず半殺しにすることを心に決めた。
そんな俺の心境とは裏腹に、最初の柔和な笑顔に戻ったディンリードは穏やかに話を続ける。
『ありがとう、その子を救ってくれて。愛してくれて。私の生涯で最大の感謝を述べよう』
「……なんか、遥か昔の人間に礼を言われるってのもすごい妙な気分だな」
大概あいつの奇行にも驚き慣れたが、これだけはマジでぶっ飛びすぎてる。
思わず現実逃避しかけていると、ユエに視線の高さを戻したディンリードは真剣な顔になった。
『さて。アレーティア、君がいつ、どのようにこれを見ているのかは分からない。もしかしたらもう知っているかもしれない。どうして私が、君を裏切ったのか。あの暗闇の中に閉じ込めたのか』
「っ……」
『だが今一度、あまり時間がないから簡潔になるが説明しよう──アレーティア。君は生まれながらにエヒトの器だったんだ』
「……え?」
「やっぱり、か」
呆然とするユエの隣で一人納得しつつ、ディンリードの言葉に耳を傾ける。
『エヒトは魂だけの存在。上位存在である自分を受け止められる〝器〟を欲していた。そしてユエ、君はその器たりうる数百年、いや数千年に一度の存在だったのだよ』
「私が……エヒトの器たりうる存在……」
それが、シュウジが裏切りを演じてまでユエを守ろうとしていた理由。
その肉体の簒奪を阻止し、エヒトによって塗り潰されるだろうユエの魂を守る為に。
ユエが天然物とすれば、あいつは人工の……いいや、
自分が〝受け入れられる〟ことを利用して、あいつは自分を身代わりにユエを庇ったのだ。
『エヒトに君が狙われていることを知った私は、クーデターを起こしたふりをして君を殺したと見せかけ、封印した。この空間を完全に隠蔽して、エヒトですら見抜けないようにして』
「私を守るためというのは、本当だった……?」
『苦渋の決断だった。こんなことを口にしても信じられるかは怪しいが、それでも君に話すわけにはいかなかった』
「どうしてっ……!」
『君自身がそれを知ってしまえば、エヒトと戦おうとしただろう。残念だがそれは悪手だった』
当時からユエは強かったのだろうが、しかしエヒトに対抗できるほどではなかったのだろう。
『それに、私を恨むことで生きる活力になると思ったんだ。案の定、それを聞いたら〝彼〟は濁しながらも教えてくれたね』
「っ……」
苦笑いするディンリードに、俺も同じ顔にならざるをえない。
恨みというのは強い感情だ。月日が積もれば積もるほど強くなり、大きくなっていく。
自ら愛するものに恨まれるというのは、どれだけの辛さなのか。
それはディンリードの幻影が固く握り締めた拳から、ある程度推し量れた。
『必要だったことは事実だが、君を傷つけた。そのことを今更謝ることはしない。そんな権利はないだろうしね──でも、〝これ〟だけは知っておいてほしい。信じてほしい』
「っ、叔父様……」
僅かに首を振ったディンリードは、眉間に寄った皺を消してこちらに向き直る。
そうすると今度は、とても辛そうな……でも、優しく、慈しむような。
今にも泣きそうな、そんな顔をしながら。
『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない──娘のように思っていたんだ』
それでも、確固たる口調で告白した。
「う、そ…………っ」
『守れなくてすまない。誰かに託すことしかできなくてすまない。こんな不甲斐ない父親役で、ごめんね』
「叔父様っ、ディン叔父様っ! 私も、私だってっ!」
ユエが叫ぶのを、俺は止めない。
絶対に流させないと自分に誓っていた涙が、彼女の頬をホロホロと流れ落ちている。
だが、同じものを目尻に光らせながらも決して零さないディンリードの手前、グッと我慢して見守った。
『傍にいたかった。君が幸せになるのを見るのが夢だった。君を知ったのこそ半日ほど前だが、アレーティアの隣にいる君を一発殴ってから一緒に酒を酌み交わしたかったよ、ハジメくん』
ユエに、そして俺に。
静かに、心に染み込んでいくような優しい声でディンリードは告げながら。
ゆっくりと幻影がこちらにやってきて……俺の胸のあたりに、軽く握った拳を押し付けた。
『そしてこう言うんだ──〝私の娘を、どうかよろしくお願いします〟と』
「おじさ……〝お父さん〟っ!」
ユエが叫ぶ。
今すぐ抱きしめたいと思う自分の心を押さえ付け、人生で一番の思いで顔を引き締める。
それから一歩二歩下がって……ゆっくりと、
「必ず、幸せにします」
「っ、ハジメぇ……!」
……わかってる。これは意味のない行為だ。
どういうわけかあいつが関わってたらしいが、所詮これは過去の残像。
三百年前のディンリードに届くはずもない。
『うん。男と男の約束だ、世界で一番幸せにしてやってくれ』
だから、きっと。
すぐにそんな言葉が返ってきたのも、偶然なんだろう。
『そろそろ時間が来る。私の生成魔法では、このあたりで限界だ』
「やっ、嫌っ! こんな、これだけなんて……っ!」
顔をあげると、ディンリードの幻影が薄れている。
おそらくアーティファクトの記録時間が限界なのだろう、それなのに目は穏やかで。
『もっと色々と話したいし、伝えたいこともあるのだが……まあ、
「…………?」
「っ……おとう、さんっ……!」
泣きじゃくるユエが、両手を伸ばす。
抱き着こうとしたのだろう。深い愛情と、凄まじい覚悟で自分を愛してくれた〝父親〟に。
だがその手は虚空を切り、まるでそうすることが分かっていたようにディンリードが笑って。
『アレーティア。私の一番大事な宝物。もう君の傍にはいられないが、永遠に祈り続けよう。君に無限の幸福が降り注ぐことを。太陽が照らすより暖かく、そして月より優しい光に包まれた、そんな人生でありますように』
「いや、いやぁっ、おとうさぁんっ!」
『──さようなら、アレーティア。君の世界に、幸せが満ち溢れんことを』
最後まで、優しいままに。
静かに、音もなく。
ディンリードの幻影が、消えた。
「うぁ、あぁああ、あああぁあ…………!」
「……ユエ」
「私……私ずっと、お父さんのこと、勘違いして……!」
まるで、迷子の子供みたいだった。
涙を流し、言葉は弱々しく、眉は下がって、目元は後悔に歪んでいる。
流石に見かねて、両手を広げた。
「来い」
「っ、あぁああああああっ!!!」
飛び込んでくるユエは俺の胸に顔を埋めて、あらんかぎりの声で泣き叫ぶ。
後悔と、悲しみと、そして嬉しさの入り混じった慟哭。
それはきっと、俺という存在で自分の中の矛盾を誤魔化して。
そして目を逸らしたままじゃ、流せもしなかったもので。
……ああ、なるほど。
「あのクソジジイ、こうなることまで予期してやがったな」
「私、ずっとお父さんを恨んでっ! あんなに、あんなに愛してくれてたのに! 大好きだったのに!」
「全部吐き出せ。言っただろ、受け止めてやる。気が済むまで、全部言っちまえ」
「お父さんっ! お父さん、ごめんなさいっ! ありがとうっ、ありが、とぉ…………!」
聞いたこともないような弱々しい声で、濁流のように言葉を吐き出すユエ。
愛情を込めてその頭を右手で撫でながら、小さな体を左手でしっかりと抱きしめて。
ただ、同時に。
──もしかしたら、また会えるかもしれないからね。
あのディンリードの言葉が、やけに耳に残っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
ユエがこちらに残っているので、このエピソードが早まりました。