龍太郎「おう。前回は俺とガキどもの話だったな」
ハジメ「ミュウに触れなくてよかったな坂上。命を失わずに済んだぞ」
龍太郎「いやこえーよ!?」
ティオ「ほほ、子煩悩じゃのう。もう何があろうと娘だと言うじゃろうな」
美空「ついでにあの美人なお母さんがついてくるのは複雑だけどね」ジトー
ハジメ「うっ、と、とにかく今回はメルドの話だ! それじゃあせーの、」
四人「「「「さてさてどうなる終末編!」」」」
メルド SIDE
……沈黙が、この場を包み込んでいた。
「………………」
「………………」
顔を上げることができない。
無言でいる彼女が俺を、どういった目で見ているのかと思うと恐ろしい。
慣れ親しんだ騎士団の駐屯所の団長室、兼執務室だというのに肌寒さすら感じる。
こうして俺がここに戻っているのは、ひとえにベルナージュ王女のおかげだ。
ランデル殿下は未だ幼く、実質的に今の王国を統治するのは歴代最大の才女たるあのお方。
幼き頃より王の風格を持っておられたあのお方は、国に背信した俺を生涯の忠誠と引き換えに宥免したのだ。
「エボルトに踊らされるのにはもう慣れた」と言った時の、少々疲れた顔が記憶に新しい。
ともあれ、こうして再び賜った騎士団長の地位。
スマッシュになり、私についてきた部下達共々、この身を王国の守護に捧げるつもりだ。
既に王都の外では防衛陣地が構築されており、ファウストの戦力が集結しつつある。
各地の防衛も考え、召集されたのは七割の軍と兵器──人機合わせ、約四十一万八千余りの戦力。
そこに各国の軍と浩介達地球からの子供達も加え、エヒトの軍勢を撃退する。
……心苦しいことだが、あいつらが決意したのだ。口を出すのも野暮だろう。
ついに、聖戦の時がやってきたのだ。
エボルトに拉致され、我らが神と崇めたものの正体を知った。
伝達役として使えそうだという理由で同様に誘拐された浩介共々人体実験を受け、あいつは影に。
そして私は仮面ライダーとなり、大義をこの胸に、騎士としてあるまじき非道を行なってきた。
エボルトに命令されていたとは言え、恵里に傀儡とされた者達を見捨てたことも、その一つ。
そうして巡り巡ってたどり着いたのは、この部屋だ。
王国、ひいては世界守護という大義の裏に隠した──俺が一番守りたかった唯一の人。
セントレア。我が生涯の右腕たる騎士にして、幼き頃から心を寄せていた女性。
そんな彼女は今──私に罵倒どころか挨拶さえもしてくれなかった。
色々遠回りなことを考えていたのは、その事実から目を背ける為だ。
ははっ、年甲斐もなく泣きそう。
「……あの、セントレ」
「黙れ。まだ話したくない」
「っ……」
これは、相当嫌われてしまったな。
当たり前か。いかな彼女自身を守るとはいえ、あの夜俺はこいつに刃を向けてしまったのだ。
これまで共に積み重ねてきた絆が壊れてしまっても文句が言えないことを……俺はしてしまった。
(か っ こ い い !!!)
ああ、どうやって詫びればいいのだ……
(あの時は気が動転してよくわからなかったが、メルドのやつ一段と凛々しくなりおって! 元から精悍ではあったものの、キリッとした目元とか落ち着いた口調とか! どれだけ私を魅了すれば気がすむのだ! ああっ、恥ずかしくてまともに目を合わせられん!)
くそっ、こんなことならばもっと早く自分の心に気が付いていれば……
(いや待て、待つのだセントレアよ。せっかくベルナージュ様が気を利かせ、時間がない中こんな場を作ってくれたのだ。これはもう、いっそのこと我が想いを打ち明けてしまえというあの方の配慮であろう。うん、そうに違いない)
だが、自分のしたことに責任は持たなくてはいけない。
どうせもう嫌われているのは確かなのだ。それならばこれから全力で挽回する、道はそれのみ。
その第一歩として、少しでも彼女の信頼をここで取り戻さなければ。
「セントレア。頼む、話をさせてくれ」
「っ……」
「俺に多くの罪があることは認めよう。その上で、お前の信頼を取り戻すための努力をしたいのだ」
俺にできる全ての誠意を込めたつもりで、じっとセントレアを見つめる。
あいつは少しだけこちらを一瞥したものの、赤い顔ですぐにそっぽを向いてしまう。
顔に出るほど怒りは深い、か……
(ああ、そんな真剣な目で私を見るな。胸がドキドキするだろう! だ、だがしかし! ここで退いてしまっては天閃の白騎士の名折れ! 気張るのだセントレア!)
「……事情は、部下達から聞いている」
「っ!」
初めて、あちらから話しかけられた。
未だ声は硬く、顔は彼方を向いたままであるものの、俺へ言葉を向けてくれたのだ。
それだけで歓喜する自分に呆れながらも、彼女の言葉を一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。
「騎士団の中でも、お前直属の騎士。そしてあまり戦闘に秀でていなかった者達や、魔人族との戦争を前に心折れていた者達をあの怪物へと変え、密かに率いていたそうだな」
「あ、ああ。一時的にスマッシュと化すが、後で必ず元に戻せるとエボルトは確約した。それに、あいつらを死なせたくはなかったのだ」
これは、言い訳ではなく本心だ。
副団長を第一の協力者に、おそらく戦争で死ぬだろうと言われていた者達に力を与えたかった。
そして彼らが力に溺れないよう、私は業腹なことに恵里に軽くその心を操ってもらい、率いた。
「エボルトの用意した人形によって、オルクス大迷宮で兵士が殺された偽装もしたと聞いた」
「……そうだ。あの件も私が命じられて実行した」
魔人族の女が光輝達の前に現れた時、エボルトが用意していたものを使い兵の死を装った。
なんでも反逆者──否、解放者達が神との戦いに備えて作ったアーティファクトの素体らしい。
今でこそ本人は家へ帰っているものの……偽の死を伝えた時の妻子の顔は、忘れていない。
あれもまた、数ある俺の罪の一つ。これから先死ぬまで背負うべき業だ。
「全て、俺の責任だ。恵里に傀儡にされた者達のことも含め、一生を以って償いをしていく」
「そうか、ならば勝手にしろ。少なくとも、ベルナージュ様はそれを条件にお前を許したのだからな」
「……お前は、許していないようだな」
その質問には答えこそ返ってこなかったが、沈黙が肯定となった。
たとえ他の何を償おうとも、俺がこいつに秘め事をし、傷つけたことは取り消せない。
副団長よりも信頼を置く、昔からいつも隣にいてくれたこいつを、突き放してしまったのだ。
「何故だ」
「っ」
「何故、私を置いていった。どうして一人で背負ったのだ」
「……それは」
お前を愛していたからこそ危険に晒したくなかった、などと。
数多の罪を重ねてきた今の俺には、その言葉だけは口にすることができない。
「……お前は騎士団の中でも人気がある。だから俺がいなくなった後も、お前ならば騎士団を任せられると思った」
「あいにくと私は女だ。いくら実力があろうとも、お前のように全員従うわけではない」
「……それに、責任感の強いお前ならば光輝達を見守ってくれると確信した」
「つまり、とことんまで私を利用するつもりだったのだな」
駄目だ。何を言おうとも印象が悪くなるばかりで状況が好転しない。
我ながら何という口下手。
以前女騎士達に女との話し方を教えられた時、もっと真面目に生きておくべきだった。
「まあ、それもよかろう。お前は長、この国を守護する騎士達の旗印。私もそれに属する以上、文句は言えまい」
「……すまない。そんな気持ちでお前に隠してきたわけではなかったんだが」
「では先ほどの言葉は、全て偽りだったと?」
そういうわけでもないことが、自分でした言い訳ながら辛いことだ。
あの夜、そして雪原での龍太郎との戦いでもしも命を落としたら、騎士達を任せられるのはこいつだけだと思った。
カリスマも実力も、ついでに言えば俺より事務能力がある。
故に、騎士団の要となりうる。
俺も精一杯やってきたつもりだが、こいつがいなければここまで騎士団をまとめ上げられなかった。
そういった様々な理由があり……しかしその中心にあるのは、俺個人の我儘だった。
「……すまん」
「何に対して謝っている。己を偽っていたことか? それとも私を利用したことか?」
「……全てだ」
ファウストにいながらのうのうと騎士団長をしていたこと。打算を押し付けてしまったこと。
そして何よりも──この心にある気持ちを、お前に伝えられないことに。
「ベルナージュ様、ひいては王国にそうしたように、俺のできる全てで償おう。なんなりと命じるといい」
ベルナージュ様に赦しをいただいた際、ある一つのことをお頼みした。
それは、彼女に俺と同じ権限を与えること。
つまり今のこいつならば──この場で俺の首を撥ねたとて、咎められはしない。
何故なら俺は裏切り者、反逆者なのだから。
仮にも仮面ライダーとしては、来たる聖戦に向けて戦力の大幅な低下になるだろう、が。
「それでお前の気が済むのなら、どんな報いをも受け入れよう」
「……そうか」
低い声で答えたセントレアは、少しの間瞑目する。
やがて、小さな深呼吸と共に見開いた青の瞳を、俺へと向けてきた。
ああ……この真剣な目は。やはりこの命で償うしかないのか。
いいだろう、甘んじて受け入れる。
だが。
自ら封じておきながら烏滸がましいことだが、せめてこの気持ちを一言でも伝えたかっ──
「告白しろ」
「…………………………なんだと?」
今こいつ、なんて言った?
「この場で全て、包み隠さず心の内を暴くのだ。一つの嘘も許さん。そして何もかも曝け出したと私が判断した時は──許すとはいかずとも、挽回の機会をやる」
「あ、ああ。そういうことか」
なんだ、ほんの少しだけ
今更そんな勘違いをした自分を恥じつつも、言われた通りに一つずつ秘密を明かす。
これまでエボルトに言われるがままにしてきたこと、抱えてきた苦悩や痛み、そして後悔。
思いつく限り、俺の中にある者をことごとく吐き出した。
だが。
「これで全てだ。もうこれ以上後ろめたいことは残っていない」
「……むう」
どういうわけか、セントレアの機嫌は一向に治らない。
それどころか、先ほどまでの鉄面皮とは裏腹に頬を膨らませ、睨んでくるではないか。
久しぶりに見たその顔に愛らしいと思いつつも、何故そんな顔をするのか理由が検討もつかない。
「な、なんだ。もう本当にないぞ?」
「……まだあるだろう」
「いや本当にない。なんならエボルトから預かった、嘘を見通すアーティファクトを使っても──」
「あるだろ! 他にも!」
俺にどうしろと?
「今更何を隠すというのだ! せっかく機会をやったのだから堂々と言え!」
「何の話をしている? 俺が仮面ライダーとして積み重ねてきた所業は何もかも──」
「そうじゃない! そうじゃなくて、もっとこう、私に対して──」
「……………お前に対して?」
そこでセントレアはハッとした。
そうするとゆっくり対面のソファへ腰を下ろして、豊かな胸の下で腕を組む。
再び顔をあちらへやって、いかにも怒ってますという顔でツンとするが。
「……もしかしてお前、わかってやってないか?」
ビクゥ! とセントレアの肩が跳ねた。それはもうわかりやすいくらいに。
それで確信が持てた。こいつ俺の気持ちにとっくに気がついてたな?
完全な理解を得た瞬間、どっと力が抜けるような気がした。
こう、なんというか。ひどく空回りしたような、見当違いな方法で剣の素振りをしたような……
「お前……」
「にゃ、にゃんのことだ? 私はただ、お前がこれまで腹の中に隠してきた謀を暴こうと……」
「お前、昔から動揺すると眉が上がる癖が治ってないぞ」
「なんだと!?」
慌てて自分の眉を触り、「はぅあっ!?」と声を出すセントレア。
孤児院にいた頃、俺の分の菓子を盗み食いしたことを問い詰めた時とそっくりだ。
「ああもう、なんというか色々とバカらしくなってきた。何を深く考え込んでいたのだ俺は……」
「し、失礼だぞメルド! まるで私が怒っているふりをして、お前に愛の告白でもさせようとするズル賢い女みたいじゃないか!」
いやまったくその通りだが?
「お前は、本当に変わらんなあ……まっすぐで頑固なくせ、実はわりと強かなところが子供の頃から一片もなくなっとらん」
「それは成長していないと言いたいのか!?」
「むしろ、そのまま成長したことに感嘆すらしてるが……」
しかし、うん、まあ。
必死に自分の気持ちを抑え込もうとしていたことが、途端にアホらしくなった。
というか何をやっていたのだ昔の俺。歳を気にして、こんなわかりやすい態度を見逃していたのか。
こいつもこいつだが、俺も大概らしい。たとえ力を手に入れても、あんがい変わらんな。
「ははは。お前がそのままでいてくれて、安心した。俺はまだ懐かしめるような居場所があったのだな」
「む、むう。これは褒められているのか、貶されているのか。どっちなのだ……?」
何やら一人つぶやいているセントレアを見て、俺は決意する。
やはり、この気持ちは口にはできない。
俺の行い全てを贖罪したその時、初めて言葉にすることが許されるだろう。
だから……と考えながら、俺は外套のポケットからあるものを取り出した。
「セントレア」
「む、なんだメルド。今ちょっと考え事をして……」
「これを受け取ってくれ」
テーブルの上に、取り出した小箱を置く。
そのまま片手で蓋を開けて見せると、セントレアは……硬直した。
「不思議なことだが、ファウストは給料が出てな。しかも騎士団の給与よりも若干多いのが何とも言い難い」
「お、お前、これ……」
「覚えているか。子供の頃、最初に二人で街に出た時。お前はアクセサリーショップの前で立ち止まり、熱心に見ていたな」
今でもあれは鮮明に覚えている。
店に並ぶ、宝石をあしらわれた見事な細工の数々に目を輝かせていた彼女を。
そして幼いながらに思ったものだ。
いつかこいつに、とびきり綺麗なアクセサリーを贈ろう、と。
「特にお前はグランツ鉱石で作られたものが好きだったな。求婚の際に贈るという話も楽しそうに聞いていた」
「め、メルド……」
「だからまあ、貴族様がつけているような最上級のものでもないんだが……これを、お前に贈りたい」
エボルトから給料が出ると聞いた時、真っ先にこれを買おうと思った。
幸いにも、こいつとの思い出の中にあった店はまだあった。
そして俺は、こいつがあの時見つめていたものによく似た──この婚約指輪を、買った。
「俺には果たさなければいけない大義がある。そのために犠牲にしたものを補う責務も。だからそういうことを言えはしないが……」
「…………」
「これが、俺の気持ちだ。お前だけ、生涯ただ一人に捧げる心の証だ」
「──っ!」
「受け取って、くれるか?」
セントレアは、目を見開いた。
両手で口元を覆い、顔も耳も真っ赤に染めて、宝石のような目は潤んでいる。
しかしそれを隠すためか、すぐに俯いて見えなくなってしまった。
その表情の意味が、嬉しさであることを祈りながら俺はじっと答えを待つ。
「……ん」
やがて、か細い言葉とも言えない言葉と共に。
こちらに向かって、白い左手が突き出された。
「セントレア……」
「ん!」
また可愛らしい唸り声をあげて、さっさとしろと左手を主張するセントレア。
あいも変わらず顔はこちらを向いていないが……少なくとも、その望みは理解できた。
俺は小箱を手に取り、指輪を慎重に取り出す。
細々しく、ネビュラガスで強化された指の力なら簡単に砕けそうな指輪。
そんな指輪以上に繊細で美しい、セントレアの左手をそっと取る。
「んっ……」
セントレアは、一瞬震えて。
しかし手を引くことはなく、俺は安堵ともに指輪を薬指に通した。
指の根本までしっかりと通した瞬間、セントレアは驚くほどの速さで手を引く。
「──メルド。お前が言えなくても、私は言うぞ」
そうすると右手で包み込み、胸に押しつけるように抱いて。
「お前が好きだ。大好きだ。これから先ずっと、お前だけが私の唯一だ」
「っ!」
「愛してるぞ、メルド!」
華が咲くような笑顔で、彼女の想いを聞いた。
駆け巡る幸福感。堪えきれない喜びと安堵。
それに任せるままに、俺はセントレアへ手を伸ばし──
「セント──」
「「「「「よっしゃぁあああああああああ!!!」」」」」
触れようとした瞬間、重なる大声と共に部屋の扉が破壊された。
反射的にそちらを振り返ると、扉を下敷きに部下達が折り重なるようにして倒れている。
中にはスマッシュに変わっている者もおり、その優れた聴覚で何をしていたのかすぐにわかる。
「お前ら、人の大事な話を盗み聞きとはいい度胸だな……」
「いやいやいや、こんなの見逃せないでしょ団長!」
『そうっすよ団長! 俺たちが何年あんた達のこと見守ってたと思うんですか!』
『セントレア様、ついにやったんですね! おめでとうございます!』
「今夜は宴だぞ! 全員集めて酒盛りだぁ!」
男も女も、仲良く小山になりながらギャーギャーと騒ぎ立てる。
騎士として呆れたらいいのか、それとも好かれていることに感謝すればいいのか……
「お、おみゃえたち、しょんな、しょんなに喜ぶにゃぁ! はじゅかしいだろ!」
とりあえず、混乱しているセントレアの為にも。
「お前ら全員訓練場に出ろ! まとめて扱いてやる!」
全員、きっちり鍛え直してやるとしよう。
読んでいただき、ありがとうございます。
さて、これでメインメンバーの恋愛事情は網羅。
あとは光輝くらいか……