星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ハッピーバースデートゥーミー!

皆さんには一万字越えのこの話をプレゼントだ!

ハジメ「やけにハイテンションだな」

エボルト「これ書いてた時、半分寝てたからな」

雫「ほぼ本能で指を動かしてたわね」

ハジメ「さて、前回のあらすじ。谷口がウサギを引き連れてきて、いろいろあった。今回はあのジジイの話か。それじゃあせーの、」


三人「「「さてさてどうなる終末編!」」」


それは、狂おしいほどの絶望

 三人称 SIDE

 

 

 

「話を始める前に、まずはこれを認識してくれ。俺達は互いに()()()()()()だ」

 

 

 

 始の言葉に、ハジメ達はいまいち意味がわからずに顔を渋くした。

 

 それを見て軽く笑い、始が「たとえば」と水の入った自分のグラスを持ち上げる。

 

「俺がこのグラスを手放したとする。すると当然、グラスは床に落下して割れる」

「だろうな」

「ではこのままテーブルに置いたら、グラスは割れずに元の場所に戻る」

 

 さて、とひとつ前置きを置いて。

 

「この時、俺には二つの可能性が生まれた。それは〝グラスを手放す可能性〟と、〝グラスを手放さない可能性〟だ」

「つまり、()()()()()()()()っていう仮定が立ったんだな?」

「その通り。さて、では俺はグラスを戻そう」

 

 ゆっくりとグラスをテーブルの上に置く始。

 

 表面が揺れることもなく、グラスは最初のようにそこに鎮座した。

 

「そら。ここで未来が分岐した」

「なに?」

「ど、どういうことですか?」

「……ん。今貴方はグラスを戻した。同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が並行して進んでる」

 

 いち早く理解したのは、やはりというかユエであった。

 

 魔法のエキスパートとして、物事の起こる起こらないついて深い造詣がある彼女。

 

 そして概念魔法の理解を得た一人として、始のデモンストレーションから意味を理解した。

 

「パラレルワールドという言葉を知っているか。あの時こうしていれば、この時こうしていればという、無数の選択によって分岐する未来の可能性の話だ」

「ええまあ、聞いたことはあるわ」

「パラ……パラソルワールド?」

「龍っち、それだとただのパラソル売ってるお店の名前みたいだよ」

 

 シアや龍太郎などが首を捻り、鈴に呆れられる中で難しい顔をする雫。

 

 程なくして、同じ顔をしていたハジメがハッとした。一拍遅れて雫も伏せていた瞼を上げる。

 

「つまり、貴方にとって私達は()()()()()()()()()()()で、私達にとって貴方は()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()姿()。そういうことでしょう?」

「正解だ。時間とは曖昧なものであり、また同じ過去を起点としていても未来は無数に存在する。その数だけ可能性の世界が生まれるんだ」

「で、お前はどんな未来を歩んだ〝俺〟なんだ? 何を見て、聞いて、あいつを失うなんて大失敗をやらかした」

「そうだな……」

 

 少しの間、始は逡巡した。

 

 体に()()()()()アーティファクトを使い、この場に当時の記憶を投影するか。

 

 いいや、やはり自分の口で話そう。あの時の絶望を忘れないように、思い出すために。

 

 

 

 ほんの一秒だって忘れられるはずもない、その記憶を。

 

「始まりは、魔人族の王都侵攻だった」

「王都……」

 

 本性を表した恵里のことを思い出し、表情を沈ませる鈴。

 

 素早く察知した龍太郎が肩に手を置く中、始は声量に反してよく通る声で話した。

 

「姫さんの頼みを聞いて、先生を助けるために俺達は王都に行った。勿論、あいつも一緒にな」

「そこまでは一緒みたいだな。で、その先は?」

「概ね、お前達と同じだ。お前()とウサギがフリードの軍勢を退け、ユエ達がクラスメイトを救出しに行き、あいつが先生を助けに行った」

 

 どこからか見られていたことを初めて知ったハジメ達は面食らう。

 

 だが、だからこそアベルからシュウジと愛子を逃がせたのだろうと思うとなんとも言えない。

 

 そんな一同を見回して、始はそれまでの穏やかな笑みを消し。

 

「だが、結末だけが違った」

「……というと?」

「魔人族が引き上げた直後、俺達全員を壊滅させた男がいた」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

 壊滅。

 

 そのたった四文字の発音に込められた、始が初めて露わにし凄まじいまでの怒りと屈辱。

 

 言葉の誰もが歴戦の猛者であるが故に、どれだけ貯め続けてきた感情なのかをすぐに察した。

 

「油断はしていなかった。最大限に警戒していた。だが、奴にとってはそう思った時点で十分な隙があった」

「……その、男ってのは」

「──アベル」

 

 ギュッと、始が拳を握る。

 

「エヒトに召喚された、異世界の暗殺者。全てに怒り続ける者。奴は、全てを蹂躙していった」

 

 

 

 今もなお、鮮明に脳裏に焼き付いている。

 

 

 

 気がつけば重圧で、光輝達やリリアーナ達が踊り場の床にめり込んでいた。

 

 ユエがライオットに全身を貫かれ、剣の一振りでシアが切り裂かれ、拳の一撃でウサギが再起不能に。

 

 美空と香織が紙屑のように吹き飛ばされ、ティオが全身を砕かれ、フィーラーは達磨にされた。

 

 雫が四肢を貫かれて磔にされ、愛子が気付かぬ内に背後から肺を貫かれ。

 

「そして、あらゆる装備も体も粉々に砕かれた俺は。奴に拘束され、瀕死の重傷を負ったあいつをただ見上げていた」

 

 始は、無様に地面を転がっていた。

 

 シュウジの次に危険だと判断されたのだろう、ユエ達以上に徹底的に肉体を破壊され。

 

 本当にただ、首を掴まれ、宙に浮いたシュウジを阿呆のように見上げていたのだ。

 

「圧倒的だった。この俺を含め、誰も真正面から太刀打ちできなかった。最初から負けてたとすら思える」

「……自分のことながら、似合わなすぎて腹が立つセリフだな」

「……全身を、串刺し」

「そんな……」

「磔、ね……」

 

 顔を青く、あるいは不快げに眉を顰めるハジメ達。

 

 毒を受け、ボロボロになって帰ってきたシュウジからアベルの力の程は理解している。

 

 だが、実際に相対した訳ではないハジメ達はその実力を真に理解はできていないのだ。

 

「まあ、()()は片腕をもいでやったがな。それでひとまずリベンジは果たしたさ……俺達を動けなくした奴は、次にあることをした」

「それは、シュウジに対してってことだな?」

「ああ……もういくつか、お前達と俺の歴史では違うことがある。その一つはあいつが、あの時点でまだ()()()()()()()()()()()()ことだ」

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「それは……」

 

 幸せなのか、それとも不幸なのか。

 

 あの事件がなければシュウジはエボルアサシンを覚醒させなかったろうが、しかし前を向けなかった。

 

 

 

 物事には良い面と、悪い面がある。

 

 あれはいささか悪い面が目立つが、しかし不幸ばかりでもなかった。

 

「第三の相違点。アベルの他にエヒトの眷属がいなかった。この理由は後で説明するが、シュウジは王都の時まで何も知らずに、その時初めて自分の正体を知った。アベルの権能、〝裁定〟によって」

 

 裁きを下すと定めた対象の全てを明らかにする冒涜的な権能、〝裁定〟。

 

 それは相手の情報の全てを暴くだけではなく、他にも使い道があった。

 

「シュウジの体には刻印が残ってた。いわゆる()()()()()()、カインの世界で人造生物の類につける〝完成品〟を意味する文字だ」

「アベルが、それをあいつに見せたのか」

「あいつは、激しく混乱していたよ。同時に自分が作られた過程の記憶が蘇ったんだろう──その場で精神を崩壊させた」

 

 口にしながら、こればかりは自分の言葉だけでは伝えきれないと始は思った。

 

 呆気なかった。たかが刻印ひとつで何もかもを知ってしまった親友は壊れたのだ。

 

「驚き、恐れ、疑い、怯え、そして壊れた。奴はそれを見て満足したように、笑って消えたよ。腹立たしいことにな」

「っ……!」

「シュー……ッ!」

 

 ギリギリと、音が聞こえるほどにハジメと雫が歯を食いしばる。

 

 何故、自分達は何もできなかったのだ。どうして好き勝手にやらせてしまったのだ。

 

 自分達とは違う可能性の未来だとわかっていても、そう傲慢に怒ってしまう。

 

 そして、その場にいたはずの始に自然と鋭い目を向けた。

 

「おいおい、銃と刀は抜かないでくれよ。お前達なんかより、俺達の方がずっと悔しかったさ」

「……そう、だろうな」

「……そうよね」

 

 勘違いするところだった。

 

 今目の前にいるこの男は、それを目の前で行われたのだ。屈辱の程は計り知れない。

 

 自然と手をかけていた得物から手を離し、ふぅと深呼吸して心の調子を整える。

 

「……で? 壊れたあいつは、どうなった?」

「シューは、立ち直れたの?」

 

 それから、未だ興奮冷めやらぬ表情の二人は始に話の続きを促した。

 

「人間の心は、自分が〝他の誰かである〟という事実に耐えられるよう出来てはいない。特にそれを実感できるあいつは、本当に壊れきってしまった。もう治せないくらいに」

「じゃあテメェは、何もせずあいつが壊れてくのを見てたってのか! アァッ!?」

「は、ハジメくん! 落ち着いて!」

「今ここで始さんに怒ったって仕方がないですからっ!」

 

 思わず立ち上がったハジメを、シアと香織がどうにか抑える。

 

 雫も同じ気持ちだったが。そんなハジメを見て、どうにか、かろうじてこらえた。

 

 

 

 二人の気持ちをお釣りで山ができるほど理解している始は、静かに待つ。

 

 そうしてハジメが落ち着いて座り直したところで、重々しげな口調で答える。

 

「したさ。できることは全部。穴という穴から血が出るくらいみんなで頭を悩ませて、壊れちまったあいつをなんとか治そうとした。でも……手遅れだった」

「手遅れ……?」

「……どういうこと?」

 

 恐る恐る問いかけた鈴に、始は。

 

「アベルの襲来から五日後。あいつは完全に壊れた。療養の為に留まっていた王城にいた全員を、一人残らず切り裂いて回った」

「なっ!?」

「嗤ってたよ。城中に響くくらいの声で。俺が追いついた時には、ユエ達も血の海に沈んでた」

 

 幸い、道中倒れていた者達は身体中刺し傷だらけだったものの、瀕死に止まっていた。

 

 

 

 無意識に加減したのか。あるいはその方が長く苦しむと思い、あえてそうしたのか。

 

 

 

 本当はどちらだったのか、未だに始に当時のシュウジの思考は理解できていない。

 

 だがとにかく、止めなければと追いかけて……辿り着いたのは、アベルが降り立ったあの踊り場。

 

 五日前惨敗を喫したその場で、血に濡れそぼったシュウジはぼんやりと月を見上げていた。

 

「話しかけると、あいつは振り返ってこう言った──〝もう全部、壊しちゃえばいいや〟ってな」

「う、ぁ……」

「鈴、しっかりしろ!」

 

 始の言葉が醸し出す迫真の狂気に、鈴が当てられて椅子から落ちた。

 

 咄嗟に受け止めた龍太郎をゆっくりと見て、始は儚げに笑う。

 

「聞くのが辛いのなら、別の部屋に行っているといい。どうせ老人の昔語りだ、咎めはしない」

「っ、すまねえ。そうさせてもらう」

「うぅ……」

 

 鈴を抱えあげて二階に行く龍太郎。

 

 残っているハジメ達も、実を言うと先程の一言にほんの少し体が震えていた。

 

 だが。この場の誰一人として、その程度で退くほど柔な覚悟は持っていない。

 

「問題ないようだから続けよう……帰ろう、と俺は言った。全部忘れて、地球に帰ろうと」

「……あいつは、なんて言った」

「何も。気がつけば全身がまた砕かれて、心臓を刺されてた。ああ、ただ……気絶する直前、一言だけ聞いたな」

 

 

 

 

 

 

 

 ──〝ごめん、ハジメ〟

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を最後に、始は意識を落としたという。

 

「目覚めたのは一週間後──その時には何もかも終わってたよ」

「終わってたって……」

「っ、まさか!」

 

 声を上げた雫に、始はまた頷いて。

 

「あいつは一人でエヒトを殺しに行き、死んだ。本当にたった一人で終わらせたんだ。神も──自分の命も」

 

 

 

 ──それは、始が目覚めた直後のこと。

 

 

 

 狂っていた中でも知性が残っていたのか、比較的軽症だった香織と美空によって全員助かっていた。

 

 だがそんなことよりもと、シュウジはどうしたのかと問い詰める始に皆がかぶりをふった。

 

 

 

 苛立つ時間も惜しいと、ボロボロの体を引きずって最後にあったあの場所に行った。

 

 止めるユエ達を振り払い、血の雫を汗とともに滴らせながら必死に足を動かして。

 

 

 

 

 

 そしてあの場所に辿り着いた瞬間──空で、赤が弾けた。

 

 

 

 

 

「それは血飛沫のようだった。あいつのものなのかエヒトのものなのか……俺にはわからなかった」

 

 そんな始の元に、大空を埋め尽くすほどの〝赤〟から一点の黒が落ちてきた。

 

 ゆらり、ゆらりと。まるで海を揺蕩うようにゆっくりとハジメの目の前に落ちてきたのは。

 

「濃い血の匂いがする、黒焦げた帽子。あいつの存在を実証するただ一つの形見が、何の悪戯か俺の手元にやってきたのさ」

 

 黒く、少しざらつく帽子の縁を撫でて、寂しさを笑みで紛らわせる始。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、ぁああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁあああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああああああああぁああああああああああぁああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああぁああああああぁああああぁあぁあぁああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああぁああああぁあぁあぁああああああああああああああああああああああぁああああぁあぁあぁあああああああああああぁあぁああああああああああァアアアァアアアァァアアアアァァァァアアアアァァアァァアアアアァァアアアアアアアァアアアア────────────────────ッッッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてのあの日、これを胸に抱いて泣いた。

 

 泣いて泣いて泣いて、声が枯れ、喉が裂けて血を吐いてもなお泣き続けた。

 

 体が傷つき、肺が破れ、声が出なくなっても。

 

 ユエ達がそれ以上泣くのはやめてと、そう涙ながらに懇願しても。

 

 ただただ、ひたすらに。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 嘆き、続けた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「泣き過ぎてまた気絶したよ。一生分の涙の代わりに、今度は三日も眠りこけた。我ながら情けない限りだった」

「そん、なっ……!」

「あんのっ……ばか、やろぉ……っ!」

「嘘…………嫌……そんなの、酷い」

「シュウジ、さん……!」

「馬鹿っ、シューぐんのっ、ばがぁ"……!」

 

 誰一人、涙を流さない者はいなかった。

 

 その言葉の荒さや声の大きさに大小はあれど、皆が溢れ出る涙を堪えられずに。

 

 誰も、止めようとは絶対に思わなかった。

 

「……そうして、この世界での戦いは終わった。あいつの犠牲一つで、俺達はエヒトと戦うことすらなく。この世界を支配していた奴の呪縛から解放された」

 

 始もまた、それを止めずに静かに話を続ける。

 

 それが、それだけが自分にできることだから。

 

「だが、俺達は帰ろうなどとは毛ほども思わなかった。こんな結末に、こんな結果に誰も納得なんてしなかった」

 

 

 

 

 

 偽物の人格がなんだというのだ。結果的に多数の人間が解放されたからなんだというのだ。

 

 

 

 

 

 ふざけるな。

 

 

 

 

 

 ふざけるなふざけるなふざけるなッ! こんな結末認められるものかッ! 

 

 

 

 

 

 あいつを壊してしまった世界など、他の誰が是と言おうと絶対に否定してやる! 

 

 

 

 

 

「五年間、俺達はあらゆる方法を模索してあいつを生き返らせようとした。寝食も忘れ、誰も彼もが心血を注いであいつの蘇生を望んだ。あいつの手を、もう一度握りたかったんだ」

「五年!? たったの五年つったかおい!? そんな程度で諦めてんじゃねえぞクソ野郎ぉ!!?」

「なんで! なんでもっと長くあの人を……!」

 

 始の襟首を掴み上げたハジメと雫を、今度こそ誰も咎めも止めもしなかった。

 

 むしろ、修羅のような顔でいる二人と同じように始をきつく睨みつける。

 

 

 

 その全てをわかっているかのように、始はあくまで穏やかな顔で。

 

「わかったからだ。五年の月日をかけた研究の末、あいつが生まれた時に一つの概念が植え付けられたことを」

「概念がなんだって──」

「あいつは死ぬ。十八歳までに自分の正体を知り、そして蘇生も復活もできない形で必ず死ぬ」

 

 

 

 時が、止まった。

 

 

 

「そうなるよう、女神マリスが作った。北野シュウジという人形は、最初から壊れるように作られていたんだ」

「な、ぇ…あ……」

「な、んで……」

 

 放心する一同に、始は淡々と告げる。

 

「そうでなければ、カインは表に出てこない。この世界でのようにあいつを助ける為であれ、俺の世界でのようにあいつを止める為であれ。どちらにせよ、カインが女神から逃れられない状況に陥るよう、生まれた時から運命が定められていた」

 

 故に、始の世界でもまたシュウジが完全に滅んだことにより、残ったカインは女神に捕らえられ。

 

 そして、魂の一片すらも残っていないシュウジは絶対に生き返らないという事実が。

 

 

 

 残酷な結論だけが、そこに残った。

 

 

 

「ふざっ、けるなぁああああああっ!!!」

 

 ハジメが怒りのままに、テーブルを蹴り飛ばす。

 

 乗っていた料理がテラスにぶちまけられ、食器が砕ける音が虚しく響く。

 

「最初から! 死ぬように作られただと!? 道具であるためだけに、あいつは生まれただと!? ふざけるのも大概にしろよ!?」

「……たいに……るさない……」

「……雫、ちゃん?」

「絶対に……絶対に許さないッ!」

 

 ハジメが荒ぶる怒気のままに叫び、雫が文字通りの血涙を流している。

 

 

 

 

 今、完全に二人の中で女神マリスは敵となった。

 

 

 

 

 いいや、シュウジの正体について知った時からそうだったのだ。

 

 ただそれが今、エヒト以上の怨敵となっただけのこと。

 

「……女神マリス。生かしておけない、敵」

「殺します。あの人をそんなふうに作った女を、ぶっ殺しますぅ!」

「……雫ちゃん、私もやるよ。私の大事な友達が生まれた時から死ぬようにされてたなんて、納得できるはずがない!」

 

 その怒りは、憎しみは、悲しみはユエ達にも伝播する。

 

 それほどまでに強い、シュウジへの愛が彼らにはあった。

 

「そうだよなぁ。そんな終わり方、許せないよなぁ」

 

 そう、だからこそ。

 

「だから、俺は諦めなかった。たとえその結末に俺の世界のユエ達が絶望し、諦めようとも。俺だけは絶望に抗った」

 

 

 

 最初に、ティオが諦めた。

 

 

 

 年長者として、ハジメ達のことを慮ってのことだろう。

 

 次にエボルトが諦めた。最初から全部知っていて、気の済むまで待っていたのだ。

 

 そしてユエが諦め、シアが諦め、ウサギが諦め、美空が香織が愛子がネルファがルイネが光輝が龍太郎が鈴が、諦めた。

 

 

 

 そして、最後に雫が諦めて。

 

 

 

「だが俺は求めた。あいつのいる世界を。あいつの生きる未来を」

 

 何千年も前に、女神が定めた運命を変えられはしない。そうユエ達は挫折した。

 

 そんなユエ達をこれ以上頑張らせない為に、そして自分の我儘に付き合わせない為に。

 

 

 

 

 

「俺は、ユエ達と決別した。俺一人で、たとえ俺の世界にあいつがいないとしても。他の可能性、他の並行世界であいつの未来を──明日を創るために」

 

 

 

 

 

 南雲始は、一番大事なものを最初に切り捨てた。

 

「それまでの研究を持ってユエ達の前から消え、一人でありとあらゆる面から解決法を模索した。手を替え品を替え、何万、何十万、何千万という実験をした」

 

 時には単身地球に行きさえして、少しでも役に立ちそうな知識を探し求めた。

 

 智恵を蓄え、技能を磨き、力を磨き。無数のアーティファクトを作り上げた。

 

 

 

 貪欲に、強欲に、傲慢に。

 

 親友の明日を創り出すために。クソッタレな女神の敷いたレールをぶち壊すために。

 

 狐狼と成り果てた一人の男は、他の誰もが忘れようとした絶望を忘れなかった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「そして二十年以上の研鑽の末、俺は作り出した──別の世界線、並行世界を観測するアーティファクトを」

 

 それは、複数の概念を込めた究極のアーティファクト。

 

 空間魔法で境界を超えて他の世界線に干渉し、魂魄魔法でその世界の南雲ハジメと同期する。

 

 自分の意識が消滅しないよう昇華魔法で固定し、そして再生魔法でその世界の未来を見る。

 

 

 

 

 

 名を〝ヘイムダル〟。

 

 

 

 

 

 全てを見通す、ただ一人のためだけの神の瞳。

 

 またそれは意思を持ち、並行世界の観測を繰り返すほどに成長した。

 

 あるいはそれは、無意識に始が言葉を交わす何かを求めたからかもしれない。

 

 そうすることで、一人と一機で解決の糸口を探した。

 

「だが、結局空振り。他の研究と同時並行で二年間探し続けたが、どの世界線でもあいつは死んだ。俺は何もできなかった。過去は、変えられないと知った」

 

 それどころか、度重なる実験の失敗は始に決して少なくない傷を与えていた。

 

 おもむろに始は帽子を脱ぎ、そして顔を隠す。

 

 次に出てきた顔に、憤怒に心を染めていたハジメ達は目を剥いた。

 

 

 

 

 

 顔が、メタリックな髑髏仮面に覆われている。

 

 

 

 

 

 いいや違う、正確には〝流体金属〟によって擬態していた皮膚に隠されていた素顔だ。

 

 某未来からの刺客のようなデザインの顔の上では、赤く輝くカメラアイが動いている。

 

「今じゃこのザマだ。体の半分以上は機械仕掛け、もう自分が魂のある南雲ハジメなのか、頭のメモリーに残ってるコピーなのかすらわからん」

 

 今一度顔を隠し、帽子を頭に被った時には元に戻っていた。

 

 決して金属には見えない顔に不適な笑みを浮かべ、老魔王は告げる。

 

「だがそれでも、俺を俺たらしめるものは失ってない。それは、何があろうと諦めないことだ」

 

 芳しくないヘイムダルの観測。

 

 また絶望の淵に足をかけたが、それでも始は往生際悪く踏ん張った。

 

 そのせいで始を止めるために何度もユエ達が立ちはだかった。

 

 彼女達から逃げて研究を続けて、そろそろ万策が尽きてきた頃。

 

「それは偶然だった。最後の観測の時、ヘイムダルが俺に教えたんだ」

 

 

 

 

 

 ──一つだけ、北野シュウジが生きる可能性世界がある。

 

 

 

 

 まさしく、希望の光だった。

 

 さすがの始も心折れかけた時にヘイムダルが告げた一言に、全てが報われた気さえした。

 

 藁にもすがる思いで、始はその可能性に賭けることにした。

 

「ヘイムダルは、その可能性を実現するために重要なことを俺に教えた」

 

 一つ。

 

 この可能性を完成させる為には、まだシュウジが生きている五十年前の時間軸に、始が直接介入しなければならないこと。

 

 一つ。

 

 結果、歴史の修正力によってその世界は最も危険な世界線になるということ。

 

 これこそがアベルのみならず異世界から眷属が召喚され、《七罪の獣》が生まれた所以。

 

 そして一つ。

 

 

 

 

 

 その世界線に行くためには──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「何故仮面ライダーなのかはわからん。あるいは()()()()()()()()()()仮面ライダーならば、歴史の強制力にすら対応できるとヘイムダルは観測したのかもしれん」

 

 とにかく、始は準備を始めた。

 

 

 

 どの仮面ライダーがその力を持つのか分からない為、まず〝力〟を概念として保存できるアーティファクトの作成に着手。

 

 結果、一人で研究を始めてから二十五年目にして〝ライドウォッチ〟が完成。

 

 

 

 続けてヘイムダルを改良し、この世界以外の()()()()()()()()()()を観測した。

 

 そしてついに、二十年目にして見つけたのだ。

 

「すべてのライダーの力を受け継ぎ、過去と未来を知ろしめす時の王者、オーマジオウ。この力を手にすれば、別の世界線の過去にさえ飛べると確信した」

 

 結果、オーマジオウの雛形である〝仮面ライダージオウ〟を含めた、二十の仮面ライダーの力を封じたライドウォッチが完成。

 

 そこから観測したオーマジオウの力を解析し、四年以上をかけて概念魔法で模倣した。

 

 

 

 その〝時間軸を自在に移動する概念〟を付与した、オーマジオウドライバーが完成し。

 

 

 

「準備が整った。五十年をかけた俺の挑戦は、ついに実を結んだ。そして今、俺はここにいる」

 

 長い絶望だった。

 

 長い孤独だった。

 

 長い、後悔だった。

 

「シュウジが生き残ったその暁には、歴史の修正力で俺は消える。なにせ俺は〝シュウジが既に死んだ世界線の南雲ハジメ〟、この世界線の異物だからな」

 

 だが、それでいい。

 

 もうこれ以上、シュウジのいない世界で。

 

 ユエ達が隣にいない世界で、始は生きていたくない。

 

「俺の戦いは、もうすぐ終わる。だからお前達も、全身全霊をかけてあいつを取り戻せ。お前達が──俺の、最後の希望だ」

 

 ふっ、と息が漏れた。

 

 

 気がつけば、隠れ家の擬似太陽はとっくに頂点を過ぎている。

 

 随分と長く話していた始は、左腕──義手の一振りでテーブルを元に戻す。

 

 そうして戻ってきたグラスの水を飲むと、ハジメ達を見た。

 

「で、どうする? まだ何か聞きたいか?」

「……いや、もう十分だ」

 

 最初に声を上げたのは、ハジメ。

 

 顔を上げると、そこにはもう怒りに歪んだ瞳はなかった。

 

「お前は、俺だ。そのことが改めてよくわかった」

「おお、そりゃあどうも」

 

 どこかハジメは、この男が自分とは別の人間のように思えていた。

 

 口にこそ出さなかったものの、シュウジを失ったのにのうのうと過去になど来ている暇人とさえも。

 

 だが。この話を聞いた瞬間、自分と目の前の老人が完璧に重なってしまった。

 

「そうだよな。俺が一回や二回絶望した程度で終わるタマじゃねえ。お前に比べたらたった一回エヒトごときからあいつを取り戻すのなんざ、楽勝だ」

「ええ、そうね。あとはもう一人、巫山戯た女神様も斬る必要があるみたいだけれど」

 

 同調した雫もまた、その瞳には怒りの炎ではなく澄んだ水のような静けさがある。

 

 ユエもシアも、香織も同じ。

 

 目的は変わらず、されど自分達より悲惨な過去を背負った始を前にその覚悟がより強靭なものになった。

 

「やるぞ。あいつと一緒に、地球に帰るんだ」

「ええ」

「ん!」

「はいですぅ!」

「絶対に!」

 

 今、改めてハジメ達の心が一つになった。

 

「もし失敗したその時は、全員仲良く地獄であいつを待とうじゃねえか」

 

 付け加えたようなハジメの軽口に、少しだけ笑いが起こった。

 

 それは、誰もその可能性を考えてなどいないからこその反応だ。

 

「その意気込みで頑張ってくれ……さて、腹ごしらえも終わったことだ、少し食後の運動といくか」

「次は私がやらせてちょうだい。少し、自分の剣を見つめ直す必要があるから」

「承った。ああ八重樫、模擬戦が終わったら新しい刀をやる」

「あら、やる気を引き出すのが上手いのね」

 

 微笑む雫に、ハジメ達もやる気に満ちた顔になっていく。

 

 

 

 

 

 決戦まで、残り1日と9時間。

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

いやあ、筆が乗った。  


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