ユエ「誰も、エヒトなんか恐れない」
シア「やる気だけが漲ってますぅ!」
美空「取り返すよ、シュウジを」
ハジメ「当然だ。で、今回は前回の続き。恋愛話がなんだかんだと入ったな。それじゃあせーの、」
五人「「「「「さてさてどうなる終末編」」」」」
ハジメ SIDE
「姫は里にいた頃は聡明で情に厚く! 長に比肩しうる実力の持ち主であった! 誰からも畏怖と尊敬を集めていたのだ! 断じて、断じて痛みに喜び、罵られて身を捩るような変態ではなかった! であれば、貴様が何かしたと考えるのが自然だろう!」
『確かに』
俺自身を含め、またも非の打ち所がない正論に同意してしまった。
こいつからしたら、慕ってたカッコいい姉貴分が里帰りしたら変態になってて度肝を抜いたんだろう。
まあ、思慮深さや聡明さ、仲間を思う情の厚さや胆力……そういった魅力は俺もわかっている。
が、変態的な部分との落差が酷くてとてもマトモには扱えないのだ。
いや、わかってる。
こうしたのは俺だと、あのケツパイルが全ての原因であることは自覚してる。
竜人族の気持ちは察して余りあるし、祖父らしいアドゥルには後程ちゃんと挨拶をするつもりだが……
「にしたって、お前ちょっと突っかかりすぎじゃねえか? 後ろのそいつらもまだ大人しいぞ?」
アドゥルを含め、四人のイケメン共はこのリスタスほど俺に敵意を向けていない。
むしろ、ティオが選んだ? らしいこともあって興味深げな視線が向けられている。
「リスタス。やめよ」
「しかし族長!」
「ティオが洗脳などされていれば、私が気が付かぬはずなかろう?」
尚も言い募ろうとしていたリスタスが、アドゥルの言葉にグッと詰まる。
それから彼は、俺に先ほど一瞬向けた興味深そうな、面白そうな目を向けた。
「これはティオが決めたこと。確かにあの変化には私も驚いたが、彼を心から慕っていることは明白。ならば、その変化はティオの幸せであるのだろう」
「ですが……」
「何よりも。あの子は隠れ里での生には飽いていたよ。竜人の矜持と里の掟に縛られ、心の乾いた目をしておった。半ば無理やりに此度の任務に就いたのも、無意識に何かしらの変化を求めたからだろう」
違うか? とアドゥルが問うように目線を向ければ、いつになく真剣な顔でティオは見返す。
言葉こそなかったが、肯定したのだろう。アドゥルは少し寂しげに、だが嬉しそうに口元を緩ませる。
「そしてティオは、その何かを見つけた。であれば、私から言うことは何もない」
「そ、それは……」
「爺様……」
「それに、だ。南雲ハジメ殿、貴殿の先ほどの言葉は当たらずとも遠からずなのだよ」
「ほう?」
とすると、本当にこいつはティオにそういう意味で近しい存在だったってことか。
なんだか少し複雑な気分を不思議と抱きつつも、何やら引きつった顔をしているリスタスを見る。
「当たらずとも遠からずってことは、婚約者候補……いやその一歩手前か?」
「正解だ。こやつは自分より弱い者を伴侶にはしないというティオの言に従い、日々鍛えては候補達に挑んでいてな。今回のことは、言うなれば八つ当たりだ」
「なっ、なぁ……!?」
「八つ当たり、ねぇ……」
リスタスは、なんだか恥ずかしいような怒っているような、真っ赤な顔で震えていた。
どうやら知られたくなかったことらしい。そもそも気がつかれてないと思ってた類だな、こりゃ。
続けて隣のティオを見ると、困ったような顔をしている。本人的にはなんとも思ってないみたいだ。
「ご主人様、耳を少し」
「なんだ」
「……後ろのあやつら、あれが婚約者候補じゃ」
「へえ、モテる女ってのは本当みたいだな。まあ変態でなければ見た目も中身もいいもんな。変態でなければ」
「んっ! 二回言ったのお主。気持ち良いではないか」
そういうとこだよこの駄龍。
「じゃがそうしたのはご主人様じゃぞ?」
「わかってるよ……はぁ」
小声でのやり取りもそこそこにしておいて、顔を正面に戻す。
何やら品定めのような目を向けてくる婚約者候補どもや、目を怒らせるリスタスはとりあえず無視しよう。
そして、アドゥルの前に数歩くらい……それこそ相手の拳が届くくらいの距離まで近づいて。
「初めまして、アドゥル殿。改めて名乗らせもらいます、南雲ハジメです。貴方の孫娘のおかしな扉を開いたのは俺ですので、どうぞ一発くらいはご自由に」
その瞬間、後ろがざわついた。
なんか「か、回復魔法を!」とか「ハジメが……狂った」とか聞こえてくる。おいティオ、なんでお前ドン引きしてんだ。
ついでにマジで回復魔法が二つほど飛んできて、アドゥルの手前、頬が引きつるのをなんとか堪えた。
「うむ、初めましてハジメ君。君のことはティオから聞いている。魔王城での一件もアーティファクトを通して見させてもらったが……随分大変な友人を持っているね?」
苦笑いと共にそう言われ、脳裏にティオに持たせたアーティファクトのことがよぎる。
香織と協力して作った、過去の出来事を再生魔法で再現・水晶に生成魔法で保存したものだ。
それには魔王城での一部始終──あいつが俺達を守るため、エヒトと共に消えた顛末を封じ込めた。
「ええ、まあ。バカでカッコつけな……俺の、親友です」
「ふむ……良い目だ。映像や、周囲の反応から普段の君とは違う態度のようだが、その眼だけはあの時と変わらん」
「ティオの祖父が相手となれば、言葉遣いくらいは改めますよ。ただの族長ってんなら話は別ですが」
「ほう! 族長ではなくティオの祖父だからか! ふふ、なるほど、なるほど」
ん、いきなり厳格さが崩れたな。一気にただの老人っぽい雰囲気に変わった。
好々爺然とした顔の原因は……まあまず、間違いなく俺の発言が原因だろう。
「美空、あれはオーケー判定なの?」
「んー、まあいい……かな。ティオさんがどれだけ一緒に戦ってきてくれたのかは、氷結洞窟の時のあれで知ってるし」
……とりあえず、美空の雷も回避できたようだ。
そんなくだらないことで内心安堵しつつも、くつくつと笑うアドゥルから目を逸らさない。
「ではせっかくだ、ハジメ君とそう呼ばせてもらおう。まず、君を殴るつもりはないよ。先ほども言ったように、ティオが心から笑えているならば、私はそれでいい。むしろ、五百年も伴侶どころか恋人も作らなかった頑固者を受け入れてくれたことの方が嬉しい」
「そう、ですか?」
「幸せとは、規範が決まっているものではない。性癖がどうこうというのもまたその表現の方法の一つに過ぎないのだよ」
それはまた、随分と寛容な物の見方だ。
流石に曖昧な感情を抱かざるを得ないでいると、アドゥルは俺の背後を見回す。
「ティオから聞いた。吸血鬼の姫に、兎人族の少女。解放者の遺産に幼馴染……両手一杯の花だな」
「ええ、俺にはもったいないくらいの」
「全員が、最愛と? 誰一人劣ることなく、同じほどに?」
「少なくとも俺自身は、たとえ神が違うとほざいてもそうだと断言しますね」
試すような言葉。それに俺は、まっすぐに目を見返しながら答える。
竜人族どもから、剣呑な雰囲気が伝わってきた。リスタスなんか視界の端で今にも喚きそうだ。
ああそうだろうな、普通に考えて鬼畜野郎の言動だ。嫌だがそこは認めざるをえない。
「私も孫娘を思う、一人の老人だ。必ず守ると、五百年前の大災害で命を落としたあの子の両親にも誓った。故に、それが嘘偽りであれば、たとえティオ自身が構わないと言っても、思うところはある。できるならば
「でしょうね。どこぞの勇者には女をコレクションだと思ってるとか、阿呆を抜かされましたし」
「今それを言うか南雲!?」
懐かしいなぁ。あれはオルクスでの帰り道に散々天之河がわめいていた時だったか。
何言ってんだこいつとシカトしたものの、しかし思うところが全然なかったわけでもない。
「実際にどうなのかと、自問自答したことはあります」
「ほう。それで結果は?」
再度、覚悟を示せと言わんばかりの眼光が光る。
俺は言葉で返さず、少し襟元を緩めて首筋の右側を露出させた。
「それは……アーティファクトか? 刻印のようになっているが」
「製作者曰く、名付けて〝心理測定シール〟。魂魄魔法で設定した特定の感情が嘘か誠か、対象の魂を監視するアーティファクトです」
ざわりと空気が揺れる。
なんでそんなものをわざわざ自分につけているのかと言わんばかりの目線が、そこかしこから飛んできた。
奇異の目線はユエ達も同じことだが、どちらかといえば俺とシュウジに呆れているように思える。
「まあ、本来の用途は拷問用の武器ですが……その疑問に答えを出すのにちょうど良かったんで」
「……面白い。して、その真偽はどう確かめる? お主自身であれば、いくらでも弄れるだろう?」
「ですから、これの使用者は
後ろを振り向く。
ユエ、シア、ウサギ、そして美空。俺の大事で特別な四人。
彼女らはみんな、俺に仕方がないなぁこの人はと言いたげに笑ってくれる。
「まさか、その四人に?」
「はい。今の所右腕が木っ端微塵になる気配はないんで、俺の愛情は信じてもらえてるようです」
右腕が、のくだりで竜人族やベルナージュ王女達からの目がバカを見るものに変わった。
俺自身が、そして誰より愛すると誓った四人が、このアーティファクトを通して誠だと示している。
「そ、そんなもの嘘に決まっているだろう! 刺青ごときで我らを欺けると……」
「じゃあ試してみるか? 俺も一度本当に効果があるのか疑問に思って、少しだけユエ達に愛想をつかす想像をしてみたら……腕の骨が粉々に砕けたぞ?」
リスタスが口を閉じた。真っ青な顔色でイケメンが台無しになっている。
ちなみにこれはマジの話だ。美空達にしこたま怒られた。超怖かったわ。
「そして……」
「ぬおっ!?」
さっきから似合わぬ乙女のような赤面ぶりを見せている、ティオの腰を引き寄せる。
右手を取り、アーティファクトに触れさせ──その瞬間、新たに魔力の波長が登録されたのを実感した。
「ご、ご主人様?」
「すまんなティオ、手っ取り早く終わらせたい」
動揺しているティオの目をまっすぐ見つめると、恥じらうように俯いて頷いた。
可愛いなこいつ、などと思う自分に自嘲げな気持ちになりつつ、前を見る。
リスタス達竜人族、ユエ達、そしてアドゥル。
最初の恋人が怖いところではあるが、そろそろはっきりさせるべきだろう。
ティオに対して、どう思っているのか。少なくともあの性癖の責任は取らなくてはなるまい。
だが、そういう責任やら義務やらは放っておいて。
俺自身は、ティオ・クラルスという女とどうなりたい?
「俺、最近魔王とか魔神とかよく言われるんですよね」
「ふむ?」
「だから、欲しいものは全部手に入れるし、そのためなら邪魔するものは全部ぶっ飛ばす」
俺はこれから、地球じゃその場で殺されてもおかしくないことを宣言する。
だがしかし、このアーティファクトに。
そして俺自身の心がある手前、躊躇いはしない。
「俺は、ティオが欲しい」
ビクンと、腕の中でティオが震える。
「ティオがどう思おうが、関係ない。今更離れさせはしない。確かに、ユエ達への愛は揺るがないが、それでもティオが愛しいと。この手の中にいて欲しいと、そう思うから」
「だから?」
聞き返すアドゥルの目は、それは面白そうで。
言ってみろと。吠えてみろと、そう訴えかけているようにも見えるその瞳に、俺は笑う。
いつものように。変わらぬように、確信と絶対の覚悟を持って。
「ティオは、俺のものだ。俺が気にくわないのなら、力づくで奪ってみせろ。疑うというのならば、この世界にある嘘を見抜くあらゆる道具を持ってきてみろ」
たとえ、何がやってこようと。何を疑われようとも。
「いつでも、どこでも、何度だって、受けてたってやるよ」
我ながら、なんと自分勝手で滅茶苦茶な台詞だろうか。
誰もが絶句している。
ユエ達すらも何も言わず、ただ俺とアドゥルの間で目線が応酬され。
「──くはははっ! 確かに、これは理不尽の権化。まさしく御伽噺の中の魔王よな。なるほどなるほど、孫娘は魔王の手に堕ちたか。世界を救う魔王の手に」
「どっちかっていうと、あいつを連れ戻すのがメインでそっちはおまけなんですがね……」
「うむ、その不遜さえも心地よい。大した男に魅入られたな、ティオ」
ひとしきり笑ったアドゥルが、さっきから動かないティオを揶揄う。
つられて腕の中を見ると、恍惚としたような……それでいて幸せそうな顔で笑っていた。
胸が高鳴ったのは、気のせいではないのだろう。
「良い顔だ。里では一度も見たことのない顔だ。お前は愛し、そして愛されているのだな」
「……その、ようじゃ。妾はご主人様を、そしてユエ達を愛しておる。そして今、ご主人様の手で思い知らされた。皆にも愛されておるとな」
俺の首筋、ユエ達とも繋がったアーティファクトが貼り付けられた場所をなぞるティオ。
どこか蠱惑的な表情とその手つきに、誰かが生唾を飲み込む音がした。
「それだけ見せつけられれば、もう十分。では、魔王殿。孫娘をよろしく頼むよ」
「確かに、頼まれました。この命が果てるその時まで」
俺が答えれば、頭を下げていたアドゥルは姿勢を戻す。
その顔はどこか晴れやかな、肩の荷が下りたようなものであり。
そのままベルナージュ王女達の方へ踵を返し、立ち尽くしていたリスタス達に喝を入れ去っていく。
野次馬もバラバラと解散していき、残ったのは俺達……といつの間にかいたクラスの連中だけだが。
「やべぇ、俺現実でエロゲー見てるわ」
「羨ましいとすら思えねえ……」
「魔王様……はぁはぁ」
「理不尽すぐる……でも、そこが素敵!」
大丈夫か俺のクラス???
「ふふ、ふふふふふ」
「随分と嬉しそうだな」
「うむ。とても、とても嬉しい言葉じゃったぞ」
いつの間にやら首に両腕を回していたティオが、少し離れて笑う。
ユエや美空達とはまた違う、大人びた魅力に溢れた笑顔。今はそう思えた。
しかしそんな顔は一瞬で、真剣味を帯びた顔になる。
「じゃが、一つだけ確認させておくれ。あれほどはっきりと言い、そのアーティファクトに妾の魔力を刻んだのは──よもや、最後の可能性を考えたからではあるまいな」
……ああ、なんだ。そんなことか。
「微塵もそんなこと考えちゃいねえよ。ただ、お前の身内相手にはっきりさせたかっただけだ」
「そう、か。それならば良いが……またシュウジ殿に揶揄われるの?」
「さてな。あいつのことだ、この光景も見てて、エヒトなんてとっくに押さえつけて【神域】に教会でも作って待ち構えてんじゃねえのか?」
「いやいや南雲、さすがの北野でもそれはないだろ」
野村だか誰だかがそう言い、クラスメイト達が笑う。
だが、ユエ達の誰一人として頷きもしなかった。それを見て徐々に笑いは収まっていく。
「……南雲? さすがに、ただの冗談だよな?」
「……自分で言っておいてなんだか、ありえないこともないのが奴の怖いところだ」
こっちが必死に助けに行ったのに、余裕の表情で待っていることすら想像できる。
我ながら呆れた笑顔を浮かべると、クラスメイト達が顔を見合わせた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回、決戦開始。やっとだよ!