楽しんでいただけると嬉しいです。
三人称 SIDE
開戦早々、完全なる【神山崩し】。
アークの圧倒的な力、そして愛子の力強い言葉に戦士達の闘志は頂点に達した。
先の演説に加え、圧倒なる力を目の当たりにした彼らは今にも飛び出していきそうだ。
「流石。良い景気付けになったな」
「ええ。エボルトと……シューに感謝しなくちゃ」
聞こえてくる怒号の数々に、二人は広場の上で不敵に、そして優しげに笑う。
アークを用いたこのパフォーマンスは、エボルトが発案したもの。
女神から与えられた知識から知り得たエヒトの性格から、最初にハジメ達を潰しに来るのはわかっていた。
それならば盛大に出鼻を挫いてやろうという、なんともエボルトらしい考えだ。
だが、これを支えるのは何よりもシュウジの存在である。
もしもエヒトがこの場に【神門】を開かなかったらという懸念は、僅かに存在した。
だからシュウジは最大の空間起点である【神山】以外の、世界各地の【神門】たりうる空間を掌握したのだ。
エボル:ブラックホールはワープをする際、現在の座標と任意の座標の空間を操作する。
そしてエボルアサシンは、エボルの特殊能力を数倍に強化する脅威のフェーズ。
ではその空間操作能力を強化した先には、何があるか。
──空間の支配である。
シュウジの肉体が完全に掌握された時、確実にエヒトの武器になり得てしまうだろうエボルドライバー。
それを装着したまま【神域】へ行ったのは、超エネルギー体への耐性以外にそういう側面もあった。
「何から何まで計算尽くし、まったくあいつらしい」
「ええ。だから──今度は私達が応える番ね」
「当たり前だ」
鋭く、強い視線で空の大穴を睨み上げるハジメと雫。
そのすぐ後ろに立ち上がったユエ達も立ち並び、一様同じ方向を見やる。
さしもの使徒や魔物達も、アークの超火力に動きを止めていた。
むしろ、ここまで聞こえてくるほどの高笑いを上げて全く止まらず飛んでくる紅煉とコクレン達の方が恐ろしい。
だが腐っても神の作った人形、すぐさま鳥の集団飛行のように揃えた動きで要塞に迫ってくる。
「さて。それじゃあまずは俺からだ。最初にあいつを奪おうとしたお前らには──特大のプレゼントをくれてやる」
おもむろに懐から取り出した宝珠を握り、ハジメがそう呟き。
次の瞬間、大気を切り裂き極光が落ちた。
太陽光収束型レーザー照射装置兼、移動型大空母〝ヴァール〟。
大鯨の如き威容を持つそれは、高度一万メートルの上空から光の豪雨を容赦なく使徒達に放つ。
アークの一撃には些か劣るが、一機だけではなく計七機ものヴァールが飛び、数で補っている。
ハジメが宝珠をコントローラーに操作するそれに、完全に不意打ちを食らった使徒達。
当然分解の力を用いて防ごうとした個体もいたものの、圧倒的熱力に一瞬で消し飛んだ。
かろうじて射線から逃れた個体や、新たに現れた個体は一斉に空を見上げ、飛翔する。
向かう先は天に鎮座する七匹の大鯨。一気に数百体もの同胞を屠った驚嘆すべき兵器。
「おいおい、そう焦るな。まだまだたっぷり
ヴァールの瞳──〝遠透石〟でそれを見たハジメが獰猛に笑い、宝珠を輝かせる。
すると、全長三十メートルはあろうかというヴァール達の巨体の側面が開いていった。
正方形の穴から次々と飛び出していくのは、一メートル程のチョウチンアンコウ型のアーティファクト。
紅色の宝玉を頭部に生えた触手の先端につけたそれらは地上に向け、あるいは周囲に散らばっていく。
自分達に攻撃を仕掛けぬそれらを不可思議に思いつつも、使徒達はヴァールを目指す。
母艦であるヴァールを破壊すれば良いと判断したのだろう、突撃しながら銀の魔力を収束する。
そして、数百体分の分解の砲撃をヴァールに向けて撃ち放ち──
「ッ!? これは──」
突如、声を上げた使徒は全身を細切れにされ絶命した。
発生源は
次の瞬間、枝分かれしたレーザーを再び地上へ──ではなく、天空全体へと散開していった。
それはレーザーの檻。ヴァールの照射装置とは全く異なる位置、全方位からの熱の牢獄。
「あの魚のようなアーティファクトですかっ」
銀翼の分解能力を最大に、自らを守る防壁とする使徒の一人が吐き捨てるように叫ぶ。
もし見るのみでなく、声も届けることができたのならばハジメの「ご名答」という返答が聞けただろう。
そう、この〝ミラーリヒト〟達の運用目的はヴァールの陽光レーザーを反射し、全角度から敵を殲滅することにある。
更にエボルトがシュウジと共に開発したミラーリフレクターの技術を応用し、レーザーを増幅できる。
現に今、常に宙を泳ぎ回る彼らはその触手の明かりで一本のレーザーを何本にも増やしていた。
そのレーザーを更に他のミラーリヒトが増幅し、不規則かつ超高密度の多角的乱撃が完成していた。
「さて。大詰めといくか」
絶え間ないレーザー包囲網にさらされ、防御に進撃を緩めた使徒達を鼻で笑い。
今一度宝珠を輝かせたハジメに答え、母艦たるヴァールは艦隊を発進させる。
各機から一機ずつ、拳大の輝くものが七つ落ちていく。
三白眼にギザ歯がペイントされたそれは、まるで彼女らを嘲笑う悪魔の子のよう。
それは今まさに、銀翼で防御をしながら進撃を再開しようとした夥しい数の使徒達の中に落ち──
ドッガァアアアアアン!!!!!
蠢動する空に、真昼の如き光をもたらした。
「朽ちろ、かの太陽に向けて飛んだイカロスの翼のように」
──太陽光蓄積型特殊宝物庫、有明。
夜明けの名を抱いたそれは、いわば自爆型の宝物庫だ。
ヴァールが太陽光を溜めて放つならば、これは臨界まで溜め込んだ太陽光を自壊して撒き散らす超高熱量爆弾。
それだけに各機につき一つしか詰め込めない虎の子であるが、その威力はハジメと共にこれを開発したあの老魔王のお墨付き。
七つの太陽が同時に生まれたかの如き閃光は、爆音と衝撃は、熱波を以って銀鳥らを焼き尽くす。
これにより、ヴァール破壊に迫っていた使徒はおろか後続の使徒達、そして大穴から出たばかりの使徒達もまとめて蒸発する。
まさしく、ハジメの初撃としては相応しいだろう。
●◯●
それを目の当たりにしたユエ達は、また引き攣った顔をした。
「ん。ピッカピカ」
「目が、目がぁ〜(棒)」
「うはぁ、二人もハジメさんがいるとこんなことになるんですねぇ……」
「自重って言葉、ハジメ君ほど似合わない人はいないよね……」
「むしろ、昔のハジメにこの素質があったことが驚きだし……」
「これでこそ南雲君、といったところかしら?」
「はは、こりゃ確かに魔王……つーか魔神か?」
「龍っちそれは……って言いたいところだけど、否定できないよ」
「俺、こんな奴を相手に喧嘩売ってたのか……?」
呆れ半分、圧巻半分。
これは全て作戦通りの進行とは知っていても、よもやここまでの威力とはユエ達も思わなんだ。
そんな彼女達の後ろでは、ティオが胸を張ってアドゥル達に満面の笑顔を見せている。
「どうじゃ爺様、あれが妾の伴侶様じゃ! すごいじゃろ!」
「…………ああ、うん、そうだね。超スゴイね」
「ぞ、族長。気持ちは分かりますが、口調が……いえ、何でもありません」
白目を剥き、口調まで変わってしまっているアドゥルに側近が何か言いかけるが、すぐに口を閉じた。
彼らとて、あの意味不明なレベルの超兵器を前に同じ気持ちになったのである。
「ヒャッハー!! 流石ボスぅ! とんでもねえことを平然とやってのける!」
「気ん持ちぃい! 何もかも木っ端微塵だぜぇ!!」
「あぁああん、ボスぅ! 抱いて下さいぃいい! たまんないわぁ!」
「紅き雷光の輪舞曲!! 万歳!!」
「白き爪牙の狂飆!! イェアアア!!」
「いや、そんなもんじゃあ足りやしねえ! 何か、もっとボスに相応しい何かを……」
「終焉齎す白純の魔神はどうだ!」
「いや、それなら死と混沌の極覇帝がいい!」
「紅は外せないだろう! 真紅煌天の魔神王だ!」
なお、とんでもない命名をしようとしているプレデター共もいたりするが、皆スルーである。
「……ん? いや待て南雲、あれこっちにも来てるぞ!?」
光輝が叫びながら、こちらにも迫るものに目を剥いた。
当然これだけの規模だ、要塞にもその余波が届いてくるが──
「──〝生命の揺り籠〟」
どこからか、艶のある言葉が木霊する。
共に指を鳴らす甲高い音と共に、いつしか魔人族の大侵攻を防いだあの結界が張られた。
それは有明の余波を受け止め、
結果的に、こちらに迫っていた地上の魔物の戦闘を数万匹ほど溶かした。
「これは、あの時の……」
「うふふ」
背後から聞こえた笑い声に、ハジメは振り返る。
そこにはゴシック調の黒い衣装に身を包んだ、退廃的な雰囲気を醸し出す美女がいた。
「お姉ちゃん」
「やっほ、可愛い妹ちゃん」
「あんたは……そうか。ウサギと同じか」
ゆるりとウサギに手を振る彼女に、その正体を察するハジメ達。
彼女はくすりと笑い、それから被っていたシルクハットを胸に添えて礼を取った。
「この国の人達は、よく帽子を買って、くれたわ。だから力を貸して、あげる」
「そりゃありがたい。実は俺自身、あれの威力が想像以上だったもんでな」
「うふふ。大胆な彼氏さん、ね」
「うん。私の……私達の、魔王様」
そっとハジメに寄り添い微笑むウサギ。
ユエ達も同じ顔で頷き、彼女──〝ハッター〟はころころと笑った。
「それじゃ、魔王様。私の妹を、よろしく、ね」
「ああ、任せてくれ」
先のアドゥルの時のように、しっかりと頷くハジメ。
それをパンドラタワーの一角から見下ろした愛子は、やれやれと言いたげに肩をすくめた。
しかし呆れ笑いもそこそこに、表情を引き締めると一際大きな声で叫ぶ。
「これが我がもう一振りの剣! 勝利は我等にあり!」
「「「「「「「「「「勝利! 勝利! 勝利!」」」」」」」」」」
声だけで大気を破るのではないかという戦士達に、半笑いになっていたガハルドは気を取り直す。
そして、大きく口を開けるとアーティファクトなど要らぬほどの大声で命令を下した。
「総員、武器構え!! 目標上空! 女神の剣達にばかり武功を与えるな! その言葉通り、我等一人一人が勇者だ! 最後の一瞬まで戦い抜け! 敵の尽くを討ち滅ぼしてやれ! 我等〝人〟の強さを証明してやれ!」
「「「「「「「「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」」」」
凄まじい雄叫びと共に、各々支給された重火器を天空に構え、武者振るいと共に猛々しく笑う。
まるでハジメが何人にも増えたかのような光景に本人を含め広場の者達は笑い。
「さて──八重樫?」
「ええ」
そして、どこか挑発的な色を含ませたハジメの言葉に。
「あれだけ啖呵を切ったのだもの、私もやらないとね」
カツン、と下駄を鳴らして雫が立つ。
桜の花と白蛇が刺繍された、くノ一のように袖がなく丈の短い黒着物に身を包んだ彼女。
その視線は、あれだけの数を倒したにもかかわらず、無尽蔵に湧き出る使徒──そしてこちらになおも接近中の紅煉に向かう。
「抜け、八重樫。それはお前の刀──お前の信念だ」
「承知」
雰囲気を出して己を鼓舞するためか、堅苦しい口調で答え、大太刀の柄を握る雫。
「ふぅうう…………」
ゆっくりと瞼を落とし、深く深呼吸を行い、全身の力を湖面の如く静けさせる。
次にカッ! と目を開いたその時、大きく息を吐き出すと同時にその刀を抜いた。
バヂッ! バヂヂヂヂッ!
ゆっくりと、色濃い紫電と共に引き抜かれる大太刀。
刀を抜く。それだけの余波で雫の体を包むような旋風が巻き起こり、紫電が床を打つ。
やがて、黒鞘から抜け切った時──そこには白く、穢れなき刃が在った。
「行くわよ──〝
業を定めしその刃を、雫は両手で柄を握り、切先を天に掲げた。
腰を落とし、右半身を後ろに。仄かに紫に光る大太刀を、空を舞う黒と銀の軍勢に向け。
「──〝我、人を斬ら
そして、詠唱を始める。
●◯●
「〝我、命を斬ら
詠唱を重ねながら、昇華魔法を発動してその技の発動に備える。
共に大太刀の刃が輝きを増していき、巻き起こる激しい風の中ハジメ達は目を細めた。
それとは裏腹に、着物の端すらも揺れぬ雫は、どこか超越した瞳で言葉を紡いだ。
「〝我が刃、ただ一人が為。
──強く。
──深く。
──鋭く。
我が想いに震えよ大地、燃えよ黒天」
それは、雫の想いに応えるためだけに未来の魔王が鍛えた刀。
〝定めを断ち切る〟──彼女が一人の男への愛の先に見つけ出した、その一意が極まる時。
その時に初めて応える、
「〝我、修羅となりて。かの者の業を断ち切らん〟」
彼が魔王の城に残した一振りの剣が、老いた魔王によって姿を変えしそれこそは──
「〝いざや参らん、かの者待つ空の彼方へと〟──《
あらゆる理、天すらも断ち切る究極の剛の剣。
大太刀が振り下ろされ、その柄頭に嵌め込まれた円輪がチャリンと鳴り響く。
それ以外は無音──まるで時が止まったかのような静寂。
だが、次の瞬間。
比喩ではなく、本当の意味で空そのものが真っ二つにずれて、斬れた。
その切れ味は尋常ではなく、使徒もコクレンもまとめて二つ、左右均等に綺麗なまでに両断される。
肉体も、意思も、魂さえも。この世に繋がる因果全てを、一振りで断ち切った。
程なくして空は戻り、世界に音が蘇って──戦士達は三度目の雄叫びを挙げた。
「は、はは。こりゃすげえ。やっぱりお前は最強の剣客だよ、八重樫」
「お褒めに預かり光栄よ、理不尽破りの魔王様」
それとは対照的に、目の前でそれを見たハジメ達はどっと全身に冷や汗を流している。
大太刀を鞘に収め、背負い直した雫はトレードマークのポニーテールを翻して振り返った。
あれほどの一太刀を見せたにも関わらず、涼しげな微笑と共に。
「し、雫ちゃん、ついに世界そのものすら斬っちゃえるようになったんだね……」
「雫、君はどれほど……」
「俺らも大概強くなったと思ってたけどよ。ありゃ無理だわ。絶対食らったら気がつかねえうちに斬られてるわ」
「シズシズの北野っちへの愛、凄すぎるよぉ……」
特に幼馴染組と鈴の驚愕っぷりは凄まじく、雫は少し照れ臭そうに「この太刀があってこそよ」と呟く。
〝業奠〟。
シュウジが残したルインエボルバーを原材料に始が錬成した、雫専用の大太刀。
空間、魂魄、昇華。三つの概念を用いて鍛え上げた、老魔王をして最高傑作と言わしめた一振り。
具体的な言葉にするならば、「対象をこの世界の中で構成するあらゆる概念の切断」である。
その気になれば魂を肉体から切り離すことも、体力や魔力、感覚を斬ることもできる。
ともすれば……破壊の概念そのものや、融合した二つの魂を、綺麗に分離することさえも可能。
エヒトも悲しき運命もシュウジから断ち切らんが為、雫が始の協力の元に生み出した概念だ。
「素晴らしい、と言うしかありませんね。八重樫さん」
「あ、愛ちゃん先生」
そこへヴェノムを使って飛び降りてきた愛子が現れる。
漆黒の巨体から元に戻った彼女は、雫を一瞥した後に下を見下ろす。
「見てください。あれで完全に最後の恐れが払拭されました。ここからは正真正銘、全霊をかけた人類と神の軍との戦争となるでしょう」
「私はただ、あの人が背負った悪いものを斬りたいだけなんだけどね」
「それでいいのです。どんなに英雄と持て囃されようと、誰だって結局は自分の願いの為に戦うのですから」
「じゃあ、そうさせてもらうけど……先生も随分様になってたわよ?」
「私とて、自分が失いたくないもののために戦わねばなりません」
「それであれだけできるんだ、あんたはもう立派な先導者だよ」
力強く笑い合う二人にハジメが歩み寄る。
こちらに振り返った彼女らに、ハジメは愛子へと握った宝珠を差し出した。
両手でそれを受け取った愛子は、決然とした表情でハジメを見上げる。
「この力、確かに預かりました。必ず使いこなしてみせましょう」
『フン、暴レラレナイノハツマランガナ』
「仕方ないでしょう。私が先頭に立って戦ったら死んでもついていくなどと言われれば、留まらざるをえません」
「厄介な生徒達を持っちまったな」
「貴方達も、その一部なのですけどね」
じとり、と半眼で見てくる愛子に目を逸らすハジメと雫。自分達が筆頭なのは充分自覚済みだ。
無論それを知っているので、愛子はため息一つで胸の中の不安を吐き出すと凛々しい顔に戻った。
「行ってください。一人でも多く、全員で地球に帰るまでがこの戦いの終幕です」
「まるで遠足みたいだな……香織、美空」
「うん」
「ん」
ハジメの呼びかけに、治癒師コンビが歩み出る。
黒色が多めの銀鎧に身を包んだ彼女は、シュウジが完璧に再現した艶のある黒髪も相まって堕天使のようだ。
美空もまた、巫女服をベースとした黒白の戦装束に身を包み、天より舞い降りたかぐや姫のようである。
いいや、それでこそ全ての理不尽を打ち砕き、従える魔神の女達に相応しいと言えよう。
「頼んだぞ」
「うん。ハジメ君の帰る場所は、私たちが守るよ! もう二度とミュウちゃん達に手出しはさせない!」
「この突撃おバカのことは任せて。どんだけ無茶しても、いくらでも回復して支えるから」
「ちょっと美空、またそんな意地悪なことを〜!」
「ちょ、暑苦しいし!」
いつも通り密着し、百合百合している二人にハジメは曖昧に、だが頼もしげに笑う。
まるで緊張感はない。いいやそれでこそハジメ達なのだ。それは絶大な信頼を感じさせる。
ハジメの後ろに、ユエ、ウサギ、シア、ティオ、雫、光輝、鈴、龍太郎が立ち並ぶ。
それからハジメは、広場に設置された要塞各部を映し出すディスプレイを見やる。
そこには今、司令室にいるベルナージュとエボルトや、カム達などの各部隊長が映し出されていた。
「ベルナージュ様、使徒用のアーティファクトは任せたぜ」
『無論。それがなくとも、我が力は生半可なものではない』
『完全体の俺すら火事場の馬鹿力で弱体化させたんだ、心配はいらない』
あくまで飄々とした態度でいるエボルトと真剣な表情のベルナージュに、ハジメが頷く。
次に目を移したのは、今にも画面から飛び出してきそうな筋骨隆々のプレデター……カム。
「カム」
『はっ』
「暴れろ」
某キャプテンの如く、人差し指を立ててニヤリと笑うハジメ。
カムもまた同じ顔で笑い、改良済みのガントレットに包まれた拳を打ちつけ合った。
『委細承知。我等らプレデターハウリア一同、神殺しを為してセンセイと一緒に帰ってくるのを心待ちにしております』
「おう」
今更、必要以上の言葉など要らず。
言うべきことは全て伝えたハジメは、後のランズィやアルフレリック、イルワ等の顔を見渡し。
「じゃ、行ってくるわ」
ごく軽い口調で肩をすくめたハジメに、彼らもまたたった一言。
「「「いってらっしゃい」」」
彼らならば、ありとあらゆる不可能を破壊すると確信するが故に、送り出す。
勢い良く広場から跳躍した彼らを、既に待機していたアークの屋形船型の鞍が受け止める。
《いざ、天の先へ!》
天へと至る甲高い咆哮と共にそう叫び、アークは勢いよく空の裂け目へと飛び立った。
●◯●
豪快な風切り音を立て、標高八千メートルの空の穴へ迫るアーク。
白と金の燐光を放ちながら向かうアークに、見上げる戦士達は口々に歓声を上げる。
女神の剣の出陣だ、と喉が張り裂けんばかりに叫ぶ彼らを置き去りに、グングンと飛んでいくアーク。
それを阻むため、五千メートルに達したところで使徒達の第一陣が進路に揃う。
が、先のありえない殲滅攻撃を受けた影響なのか、解放者達最強の遺産であるアークを警戒したか。
あるいはその両方で無闇に攻撃を仕掛けることはなかった。
ドシュゥンッ!
それが命取りとも知らずに。
「今のは──っ!?」
無表情を驚きに変えた一人が、先程と同じ鋭い音ともに閃光に頭を吹き飛ばされる。
すぐさま万物を分解する大剣と銀翼を構えるが──そんなものは無意味とでも言わんばかりに、今度は何条もの光が走った。
「こ、これは?」
思わず声を上げたシアのポーチが不意に震える。
素早く取り出した発生源は彼女の携帯であり、そこには一列の文章が。
『姉御、露払いは俺たちに任せてくだせえ!』
「まさか、パルくん!?」
その通りである。
ここより遥か後方、要塞の一角にある狙撃台にはプレデターハウリアの狙撃手達が揃っている。
彼らは〝遠見〟と〝先読み〟を付与したスコープ付きの〝電磁加速式超長距離アンチマテリアルライフル〟を用いて狙撃をしたのだ。
もとより一族の中でも特に秀でたスキルを持った彼らにそんなものを与えれば、この程度の長距離射撃、どうということはない。
すぐさま使徒達も対応しようとするが、下方からの狙撃はその隙を与えない。
遠距離からの砲撃や大規模魔法、突貫をしようとする矢先にダメージを負わされている。
流石に奇襲はもう通じないのでヘッドショットは決まらないが、それでも確実に足は止まった。
「うちの一族が、どんどん超人化していきますぅ……」
「ん。もうみんな立派な規格外」
「よしよし」
「シアだけというよりも、ハウリア族全体にその素質はあったのじゃろうなぁ」
「南雲、お前と北野は本当に、なんというか……凄いな」
「なんだろうな、天之河。もう最近、お前がどんな普通の反応をしても俺は動じなくなってきた」
「南雲君とシューに関わると、軒並み人の枠を外れるのね……私も含めて」
「ね、ねえ龍っち、鈴はまだ人間だよね? ね?」
「はは、俺はもう手遅れかもな〜」
ウサギに頭を撫でられながら遠い目をするシアに、他の面々もそんなことを呟き合う。
ともあれ、これで道は開いた。ハジメはアークへと話しかける。
「アーク、【神門】に後どれくらい近づけばお前の力で扉を開ける?」
《三千余り》
「つまり千メートル以内なら届くんだな。よし、このまま突き進め!」
《御意》
アークの体に異変が起こる。
全身に模様を描くように並ぶ黄金の鱗が震え、一人でに剥離していく。
そしてそれらはぐるぐると、アークの体の周りで螺旋を描くように滞空を始めた。
《参る》
直後、それまで以上のスピードで動きの止まった使徒達に突撃。
共に螺旋も回転速度を劇的に挙げ、二百メートル級の擬似的な黄金のドリルが使徒を蹴散らした。
防御する暇など与えない、圧倒的質量による強引な突破。それはこの場においての最適解だ。
瞬く間に残る四千メートルのうち、最低目標地点である三千メートルを飛び越すアーク。
そのまま残り八百メートルといった所で長い体を直線にし、空間魔法で四脚を空中に固定する。
そのまま最初の一撃のように、しかしそれよりももっと凄まじい音を立てて口元にエネルギーのチャージを始めた。
《界越大魔力砲、〝天蓋崩し〟起動。しばしの時を要する》
「そうか。なら俺達は──」
上を見上げれば、新たに召喚された使徒達がこちらに向けて猛スピードで向かってくる。
来た道を見下ろしても、プレデターハウリア族の狙撃を免れた使徒達が迫っていた。
「雑魚掃除だ!」
「「ん!」」
「いっきますよぉ〜!」
「新たに賜ったこの着物の力、試させてもらうのじゃ!」
「龍太郎! 雫!」
「わかってるわ」
「いくぜぇ!」
「勇気全開だよっ!」
各々の武器を構えて、アークまで到達した使徒達の迎撃を始めるハジメ達。
【神門】を破壊して【神域】への入り口をこじ開けようとするアークに、使徒達は攻撃を仕掛ける。
同時にハジメ達を排除せんと双大剣と銀翼による分解砲を放ってきた。
「任せてっ!」
それを受け止めたのは、鈴が双鉄扇を振るい展開した透明の障壁の数々。
描かれた美しい絵は障壁の密度を向上させる魔法陣であり、使徒の分解能力すら防ぎ切った。
「二人とも、一緒に戦ってくれっ!」
「今更ね!」
「言われるまでもねえっ!」
屋形船から飛び降りて、動きを止めた使徒達に光輝、雫、龍太郎が突貫した。
不遜にも神の僕である自分達に立ち向かってくる愚か者達に、使徒らは急接近し──
「〝穢れた我が魂に刻まれし悪業を以って、汝らの悪業をも喰らわん! 〟 《悪以悪断》ッ!!!」
ビギリッ!! と一瞬で膨れ上がった光輝の剣の一振りに、十体以上が纏めて撫で切りにされた。
事前にインプットされた情報より遥かに上回る勇者の力に、さしもの使徒達も驚く。
「おおらぁッ!」
そこへ龍太郎が、裂帛の叫び声と共に正拳突きを放った。
メリケンサック型のアーティファクトから絶大な衝撃波が発せられ、使徒達の体を痙攣させる。
「シッ──!」
「がッ──……」
その硬直した一瞬の隙に、後続した使徒達の心臓を一人残らず穿つ黒鉄の刃。
魔力供給機関を破壊され、ガクリと力を失った使徒達がアークの体を滑り落ちていった。
「ふぅー……さあ、次は誰?」
長足袋の力によって文字通りの疾風と化した雫は、鋭く呼気を吐きながら刀を構えた。
無論、戦っているのは三人ばかりではない。
ハジメが数々の銃火器を用いて、ユエが無慈悲なまでに強力な魔法で、シアが改良されたヴィレドリュッケンの砲撃で。
ウサギが剛腕を振るい、ティオが新たな着物の力で昇華された黒い極光を放ち、使徒達を退ける。
その全員を、黄色を基調とした着物に身を包んだ鈴の障壁が守り続け。
そうして稼がれた時間は、充分にアークに準備するだけの余裕を与えた。
膨大すぎる光がアークの口門に集まり、余力なしの全開最大の力を振り絞る。
そのままに、新たに出現しようとする使徒達もろとも、濁った【神門】に向かって。
ゴァッ──────────!!!
極大の光の柱が解き放たれる。
八百メートルという距離を一瞬にて走り抜けた光は、【神門】に正面からぶち当たる。
エヒトが許したもの以外、何人たりとも通さない暗黒の深淵は拮抗するように蠢いて。
それに負けじとアークは力の限りを出し尽くし、黄金の光を吐き出し続ける。
攻めて、攻めて、攻めて。
やがて、あまりの使徒の物量に少しハジメ達が顔を険しくした時。
バリィ──ンッ!!!
盛大な破砕音を立てて、【神門】が砕け散った。
代わりにそこに出現したのは、アークの瞳を思わせる虹色の巨大な波紋。
やった、とハジメ達が目を見開いたのも束の間に、ズズズズ……! とアークの体が揺れた始めた。
「うおっ!? なんだ!」
《我はここまでにて。しばし動けず》
文字通り、〝天蓋崩し〟に何千年も溜め込まれたエネルギーを使い果たしたアーク。
生命維持にこそ問題ないものの、四肢を支える空間魔法すら維持できないレベルの疲労だ。
「そうか、だがよくやった! 大金星だアーク! あとは俺達に任せろ!」
早口に叫びながら、ハジメは宝物庫にオルカンを投げ入れ走る。
屋形船の先頭、そこに設置された台座にハジメは取り出した宝珠をはめ込み、魔力を流し込む。
すると、やや鈍い音を立てながら屋形船が揺れ動き、少しずつアークの背中から浮き始めた。
スカイボードという、ティオが郷に帰る際に使ったアーティファクトの巨大版に改造しておいたのだ。
魔力駆動二輪や四輪と同じ要領でそれを操作し、新たに開いたゲートに進路を決めながらハジメは振り向く。
「八重樫! 坂上! 天之河! 戻ってこい!」
「っ、ええ!」
「おう!」
「ああ!」
素早く武器を納め、体を翻して屋形船に走り出す三人。
残った使徒達がその後を追い、迫り来る重圧に三人は全力疾走した。
「おいおい、これたどり着けるかっ!?」
「喋ってる分の体力も足に回しなさいっ! じゃないと背中から真っ二つよっ!」
「二人とも、飛ぶぞ!」
「「はぁっ!?」」
驚いて振り返った二人の襟首を、光輝が力強く掴み取る。
そのまま〝力〟を発現し、羽赫を伸ばすと言葉通りに屋形船に向けて飛翔した。
「うぉおおおおあああっ!?」
「す、すごいわね光輝っ!?」
「スピードを上げるぞ!」
ゴバッ、と羽赫を形成する口から赤黒いエネルギーが噴射される。
ジェット噴射の役割を果たすそれによって数倍のスピードを得た光輝は、瞬く間に使徒達を引き離す。
そのまま追撃を受けることなく、無事に屋形船に到着した。
パッと襟首を手放された二人は危なげなく着地を決め、光輝も羽赫を納めて降りる。
「待たせた、南雲っ!」
「ハッ、いい仕事だ天之河! お前ら、行くぞっ!」
「んっ!」
「りょうかい!」
「はいですぅ!」
「うむ!」
「ええっ!」
「いつでもいいよっ!」
「おうよっ!」
力強い返事と共に、頷いたハジメは屋形船を急発進させた。
先の光輝に匹敵する速度で、少しずつ縮小を始めたゲートへと突っ込む!
直後、使徒達が押し寄せ。
だがしかし、彼女らの攻撃の一つも届くことはなく。
ハジメ達がくぐり抜けた直後、虹のゲートは永久に閉じられた。
一つ、駒は進んだ。
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