星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ついに神域に到達したハジメ達。

地上をプレデターハウリア達やファウストらの軍勢に任せた中、彼らの行く手を阻むものは。

楽しんでいただけると嬉しいです。


神の領域

 三人称 SIDE

 

 

 

 極彩色の世界。

 

 

 

 屋形船が入界したのは、そうとしか形容できぬ果てのない世界。

 

 初めて目の当たりにする【神域】の不可思議な光景に、ハジメ達はほんの一時魅入られる。

 

 しかし、直後に聞こえた屋形船の崩壊音にハッと我を取り戻した。

 

「チッ、元はただの鞍だからな。ここら辺が限界か」

 

 ハジメは視線を巡らせ、少し下にのっぺりとした白亜の通路を見つける。

 

 様々な色が入り乱れる世界の中でぽつりと浮かんでいるそれに、崩れゆく船を操作して着陸。

 

 そしてハジメ達が原因通路に降り立った瞬間、役目を終えたと主張するように船は壊れた。

 

 ハジメは船を強度や容量を改良した〝大宝物庫〟に収納し、周囲に目線をやる。

 

「どうやら魔物や使徒達が来たのとは別の場所らしいな」

「不思議ね。距離感が掴めないわ」

「下も見えませんね〜」

 

 通路、というよりもダムの壁のように屹立している足場の下を覗き込んでシアがぼやく。

 

 上も下も横も、まるで幅がわからぬ世界。もしや通路のすぐ側に不可視の壁があるやもしれぬ。

 

 そんな中で、ハジメはベストのポケットから懐中時計型になった〝導越の羅針盤〟を取り出す。

 

「……羅針盤は通路の先にシュウジの存在を示してるな。とりあえず進むしかなさそうだ」

「ん。警戒して進むしかない」

「どちらにせよ、落ちたらろくなことにならなさそうじゃのう」

「じゃあ、私が殿をやるね」

 

 未来視を持つシアの次に、知覚能力に優れるウサギの申し出に頷くハジメ。

 

 それからドンナー・シュラークを抜き、全員の表情が引き締まっているのを確認して走り出す。

 

 続けてユエ達も後を追い、静寂に満ちた空間の中を一直線に、通路の上を走り抜けていった。

 

 

 

 走り、走り、走り続けるが、景色は代わり映えしない。

 

 こんな場所まで来て、誰一人無駄口を叩くこともなく、ひたすら前に向かって移動を続ける。

 

 あるいは先頭を疾走するハジメすら、羅針盤がシュウジへの接近を知らせなければ不安を感じたかもしれない。

 

 そんな風に簡素すぎる道をひた走ること、しばらく。

 

「っ、砲撃! 来ます!」

 

 突如、ウサミミをピン! と立てたシアが警告を飛ばす。

 

 〝未来視〟の精度を上げ、かつ魔力消費を抑える片眼鏡(モノクル)をかけた彼女の報告は素早いものだった。

 

 しかし、逆に言えば一番先にいるハジメすらも気がつかなかったということ。つまり相応の奇襲を意味する。

 

 

 

 それを証明し、直後に全方位から銀色に輝く砲撃が襲来した。

 

 逃げ場など与えない、必ず殺すという()()が色濃く滲み出た銀の流星。

 

「集まれッ!」

 

 ハジメの怒号に素早く全員が彼の周囲に固まる。

 

 全員の顔ぶれが揃っていることを刹那の時間で確認し、ハジメは〝大宝物庫〟を開いて──

 

 

 

 

 ドギュッ!!! 

 

 

 

「なっ!?」

 

 その瞬間、砲撃が目の前に現れた。

 

 充分に防御体勢を取るタイミングであったにも関わらず、突然砲撃が接近したのだ。

 

 そう、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これにはさしもの彼らも驚き、さりとてハジメは今更〝大宝物庫〟から半分露出したアーティファクトを手放せずに。

 

 

 

「〝邪念吸収〟ッ!!」

 

 

 

 あわや、使徒の分解砲撃だろう隙間のない豪雨を浴びるかと思われたその時。

 

 素早く、それこそ雫より速く抜刀した光輝がドス黒く染まった刀身を振り抜いた。

 

 すると黒いエネルギーが口となり、砲撃の雨を真似するように全方位に分裂していく。

 

 

 

 それらは殺意という〝悪意〟を孕んだ分解砲に食らいつき、見事に全長の半分ほど削り取った。

 

 僅か数秒、光輝の稼いだその時間を使ってハジメは完全に取り出したアーティファクトを床に叩きつける。

 

 魔力を注ぎ込まれ、アーティファクトをはガシュン! ガシュン! と音を立てながら自らを展開する。

 

 瞬く間にドーム状に変形を完了し、やってきた残り半分の砲撃からハジメ達を守る。

 

 鱗のような無数の金属板が連なった、可変式の大盾〝アイディオン〟。

 

 その最後の一枚がカチリとはまった瞬間、ついに到達した分解砲がドームへと降り注いだ。

 

「ふぅ、危ねえところだった……」

 

 深いため息を吐き、間一髪というところで苦境を免れたハジメは安堵する。

 

 その間にもドームには使徒達の分解砲が降り注ぎ、表面から防壁を分解しにかかっている。

 

 〝復元石〟という再生魔法を付与し、ハジメの〝金剛〟も付与したアザンチウム製の多重構造だ。

 

 

 

 

 決して破れまいという絶対の自信の下で、ハジメは剣を鞘に収める光輝へと目を向けた。

 

 緑光石に照らされたドーム内の中で、光輝もまたほっとしたような顔でいた。

 

「まさか、お前に助けられる日が来るとはな。文字通り天変地異は起きてる最中だが」

「いや、危なかった。後一瞬()()を見るのが遅れていたらやられてたよ」

 

 苦々しい顔をする光輝の左目は、いつものように赤と黒に染まっている。

 

 〝死幻〟という、危機的状況において〝自分が死ぬ妄想〟を見る技能を咄嗟に光輝は発動していた。

 

 シアの未来視に似たようなことをできる彼は、言うなれば自分の見た妄想を回避するため行動したのだ。

 

「しかし、なんだったんだあれは?」

「ん。まるで空間を跳躍したような、不自然な接近の仕方だった」

「私の〝未来視〟にも、あんなのは見えてませんでした……」

「光輝、なんか知ってるか?」

 

 シアすら予測できなかった攻撃を唯一退けた光輝に、龍太郎が尋ねる。

 

 光輝は少しの間目を瞑り、思案したような素振りを見せた後に口を開いた。

 

「……多分、あれは〝ナァト〟だ」

「「「ナァト?」」」

「ああ。俺に埋め込まれた〝シンカイ〟と同じ、《傲慢の獣》の九体の眷属の一体。空間、物体、生物、あらゆるものに縫い針を通して、無理やり縫合する能力を持ってる」

「つまりあれか、さっきのは砲撃の先っぽの空間と、俺たちのすぐ側の空間を縫いつけたってことか?」

 

 龍太郎の的を射た例えに頷く光輝。

 

 いわば空間魔法に特化したような眷属ということだろう。なんとも厄介な相手にユエ達は顔を苦くする。

 

 

 

 だがしかし、ハジメだけは違った。

 

 

 

 むしろ面白そうに、仄暗いドームの中で歯を剥き出しにして笑っていた。

 

「ハッ、つまりは奴が空間を縫う前に殺せばいいんだろ? 二度とちまちまと針縫いなんぞさせる時間は与えねえよ」

 

 神の使徒に囲まれ、あまつさえ《獣》の刺客が紛れているこの状況で不遜な態度。

 

 それがこの世の誰より似合う、魔王とすら呼ばれたハジメの言葉はユエ達をも鼓舞する。

 

 ハジメがやれると言ってやれなかったことはない。この程度の苦境、簡単に乗り越えるだろう。

 

 

 

 その確信とともに、ユエ達は力強く頷き返して。

 

 そして同じようにその顔を見た光輝は、またも少しの間黙考すると。

 

 

 

 

 

「……南雲。俺に一つアイデアがある」

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 一斉砲撃が終わり、銀光が全て消え去る。

 

 

 

 

 直後、極彩色の空間から滲み出るようにして50を超える数の使徒が出現した。

 

 全てが銀色の魔力を纏い、既にインプットされたハジメ達の驚異的な戦力に最初から本気を見せている。

 

 そして彼女らの出現に合わせるように、ふっとアイディオンが消え──

 

「〝空笛〟」

 

 

 ドパァアアアンッ!! 

 

 

 ピョウッ!! という笛を吹いたような音と、いつも通りの炸裂音。

 

 それによって六人の使徒の頭部があっさりと爆ぜ、それに目を奪われた間近の使徒が二体ほど三枚に下される。

 

「「「っ!!?」」」

 

 神の使徒にあるまじき、あっけなさすぎる敗北。

 

 一瞬にて八人もの同胞を失い、使徒らは大きく息を飲む。

 

 

 

 彼女らの頭部を穿った紅き閃光、それは花火と同じ現象で銃声よりも早く届いたのは確かだ。

 

 だが、最初から臨界状態に至った使徒の回避能力であれば十分に回避できるはずのもの。

 

 ましてや、それに続いて飛んできた鎌鼬など恐るるに足らず。実際に当たったのは三つのうち二つだ。

 

 だというのに、現実はこれだ。

 

「あら、たった二人。負けたわね」

「早撃ちなら、流石にお前の抜刀にも劣るつもりはねえよ」

()()()()使()()()()()()()()()だなんて、そうそうできることじゃないわ」

 

 使徒らの驚愕と疑問の答えを口にしながら、不敵に笑う雫が楔丸を鞘に収める。

 

 隣に立つハジメも赤雷を迸らせるドンナーをリロードすると、獣の如き笑いを浮かべた。

 

 そう。ハジメはこの五十に迫る数の使徒のうち、瞬きをして刹那の間意識を外した個体を撃ち抜いたのだ。

 

 そして雫は、その驚きに肉体を硬直させた個体にあえて一瞬遅らせて斬撃波を飛ばした。

 

 

 

 これも全て、先んじて対使徒の訓練を積ませてくれた始の僥倖だ。

 

 彼は五十年前、狂ったシュウジが回収しなかったノイントの肉体を確保したまま保管していた。

 

 肉体を復元し、始の魔力で以前と遜色なく動く戦闘人形に仕立て上げ、ハジメ達に対使徒戦の経験を積ませた。

 

 その経験があるからこそ、完全に使徒のスペックを把握した二人は見事な絶技を放った。

 

 だが、神の使徒たる自負を持つ使徒達はそのことが理解できない。

 

 ただ事前に解析したはずの彼らとは全く違う。その事実に生まれて初めて総毛立ち、戸惑った。

 

 

 

 そう、戸惑ったのだ。この魔神と、剣鬼の眼前で。

 

 

 

 ドパァアアンッ!! と音を立て、今度は雫が追撃するまでもなく四人の頭が爆ぜる。

 

 羽をもがれた羽虫のごとく墜落していく同胞らに、使徒のうちの一人が無表情を恐怖に崩した。

 

「くっ、三人、いいえ五人は収束を! 残りは続きなさいッ!」

 

 いかに一つの情報で統率された使徒とはいえど、指示を下す個体はいるのだろう。

 

 それはまさに今表情を露わにした一人であり、残りの使徒が指示に従い動き出す。

 

「十五人、()()()()()()!」

 

 さらに彼女──ゼクストは銀翼をはためかせ、残像を引き連れながら二人に迫りつつ叫ぶ。

 

 すると、彼女に付き従う三十人ほどの使徒のうち半分に、どこからか毒々しい緑色の〝糸〟が繋がる。

 

 それを受けた使徒は、突如美しい銀の瞳を白目ごと緑に輝かせ、修羅のような表情になった。

 

 使徒にあるまじき顔をした彼女らは──瞬間、ハジメの真後ろに一斉に出現する。

 

 空間の縫い付け。先ほどのゼクストの言葉からして、おそらくナァトの縫い針に繋がれたのだろう。

 

 コンマ数秒で背後を取った彼女らは、無数の残像を発生させながら最も脅威であるハジメに迫る。

 

 取った、正面から挟撃を仕掛けるゼクストはそう確信しながら双大剣を振るい。

 

「……へぇ。お前が部隊長か」

「──ッ!!?」

 

 自らの本体を正確に捉えた、ハジメの瞳に身震いした。

 

 小さく、されどよく響く言葉と共に、色あせたゼクストの視界の中で……ゆっくり、ゆっくりと。

 

 ハジメの口元が、嘲笑うように裂けた。

 

「〝猿落とし〟」

 

 そんな彼女の目の前で、まるで木の枝を削ぎ落とすような斬撃の嵐が解き放たれる。

 

 それは、肉体が壊れるのを承知でナァトの糸で無理矢理に、本来以上の力を引き出した同胞らを滅多斬りにし。

 

 それに目を見開くゼクストには……ゆっくりと赤雷を纏った弾丸が迫ってくるではないか。

 

 

 

 ようやく、ゼクストは悟った。

 

 これは自らの生み出す超速度による時間の停滞ではなく、今際の際に人間が見る〝走馬灯〟であると。

 

 彼女の脳内に、これまで様々な神の使徒が蓄積したあらゆる国、人々の中での暗躍が脳裏をよぎっていく。

 

 全ての使徒はネットワークで繋がっている同位体の以上、それはゼクストがやっていたことも同意。

 

 その上で彼女は思うのだ。自分の先に地上で、そして今は我らが主に肉体を献上した男に破壊されたノイントは。

 

 

 

 

 

 自分と同じ、この光景を見たのだろうか? と。

 

 

 

 

 

 それが彼女の最後の思考。

 

 今まで弄んできた者に見下され、嘲笑われながら、それでも彼女は弾丸を躱そうと首をひねって。

 

 しかしそれを知っていたかのように、眼前で弾丸は軌道を修正。ゼクストの眉間と接触した。

 

 

(あぁ。本当に、なんという──)

 

 

 イレギュラー、という心の中での思考を言い終えることはなく。

 

 ゼクストは衝撃にその意識を暗闇に叩き落とされた。

 

 同時に七体の使徒が頭部を失い、堕ちていく。

 

「何のために二人いると思ってんだ、木偶人形ども?」

「あなた達は知らないでしょうけどね──私達、今これ以上ないほどにキレてるのよ」

 

 全く同じように笑いながら、背中合わせで二人は攻撃をし続ける。

 

 ハジメはドンナー・シュラークをガンスピンさせながら四方八方に死の弾丸をばらまいていく。

 

 弾を装填し、照準を合わせ、確定し。そして発砲。

 

 一連の流れが速すぎて、傍目にはただガンスピンを繰り返すだけに見えるが……この現状が答えだ。

 

 雫もまた、その瞳で正確に使徒の筋肉、目線、翼、関節の動きを見定め、刀を振るう。

 

 空間に置くように飛ばした斬撃は、摩訶不思議なことに自らそこに飛び込むようにやって来た使徒を切り刻む。

 

「な、なぜっ!」

 

 たまらず、二十を下回った残る使徒の一人が声を荒げる。

 

 おかしい、ありえない、こんなことがあるはずがない。自分達は神の剣なのだ、一人で世界を滅ぼせる天災と等しきモノなのだ! 

 

 それがこんないとも簡単に、駆除されるように撃ち落とされるなど、不可能だ! 理不尽だ! 

 

 

 

 そんな風に考える使徒に、現実を知らしめるように弾丸が迫る。

 

 その使徒は沸き起こる得体の知れぬ衝動に任せるがまま、防げぬなら切り捨てようと大剣を振るい。

 

 そして、銀の軌跡は赤の雷を切り裂く──ことはなく。

 

 

(これは、光が……すり抜けて……?)

 

 

 代わりに、頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされてその思考を停止させた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「リビングバレット、だったかしら。末恐ろしいわね」

 

 ハジメの銃撃によってさらに一人落ちた使徒に、雫は刀を振るいつつ苦笑いする。

 

 変成・生成魔法を複合させた特殊弾、リビングバレット。

 

 

 

 

 

それは、〝生きた弾丸〟である。

 

 

 

 

 

 ユエを封じていた石やサソリモドキ、アレらは実は有機物と無機物を融合した生体ゴーレムだった。

 

 そこから着想を得たハジメは、〝狙った場所に当たれ〟と命令を組み込んだ弾丸を開発した。

 

 結果生まれたのは、雷速で飛びながらも軌道修正を行う脅威の弾丸。

 

 クソエイムなFPSプレイヤーには必須だろう。

 

「いや、俺からしたらお前の方が怖いんだが? どんな目してたら逐一あいつらの動きを読んで斬れるんだよ?」

 

 最も、千里眼かとツッコミたくなるような先読みをかます雫のほうがハジメとしては恐ろしい。

 

 使徒を淡々と撃ち殺しながら問いかける彼に、彼女も斬撃を飛ばしながら自信満々に答えるのだ。

 

「愛の力よ」

「愛ってなんだっけ?」

「っ、貴方達ふざけるのをいい加減にっ!」

 

 目の前でそんな会話をされた使徒からすれば、コケにされているようでたまったものではない。

 

 しかし彼女は一秒後に到達した斬撃で鼻から上を斬り飛ばされ、続けて来た赤雷に粉砕された。

 

 その光景に戦慄する他の使徒達もまた、次々と斬られ、あるいは撃たれて堕ちる。

 

「確か、もう一人の俺の話ではお前らは情報を共有してるんだったな。だとすればあの城で戦った俺らの情報もインプットされてるのか」

「でしょうね。何度か斬撃の軌道を読むような動きをしてたし。まあその前に斬ったけど」

「だから怖えよお前」

 

 もはや剣聖かという雫の発言に呆れつつも、ハジメは残り少ない使徒達を見る。

 

 そしてまた、嗤うのだ。不遜に、大胆に、お前達など取るに足らない雑魚だと示すように。

 

「だがな、それがどうした。そんな遠い昔の俺達を解析して対応して、それで? 技を鍛えたか? 武器を変えたか? 知恵を磨いたか? お前達はお前達自身で、一度たりとて俺達を〝殺そう〟としたのか?」

「だ、黙りなさいっ!」

「貴女がね」

 

 〝空力〟を付与された下駄で飛びあがり、雫は唐竹を見舞う。

 

 更に強度や密度を増した楔丸は、文字通り使徒を叩き潰す。

 

 そうして通路に着地した雫のすぐ側を、潰れたパイのようになった使徒が奈落へ消えていった。

 

「練度が足りない。術が足りない。罠が足りない、切り札が足りない。俺らを殺すには、お前らじゃ力不足だ」

「黙りなさいと言っているでしょうっ!」

 

 嘲るハジメに応え、頭上から叫ぶ声が一つ。

 

 ハジメと雫が見上げると、そこには燦然と輝く銀の太陽があった。

 

 五人の使徒が剣を重ねるように掲げたそれは、おそらく彼女らが複数で発動する大威力の砲撃。

 

 更に彼女らは、最初の使徒達のように淀んだ緑に瞳を輝かせ、ナァトに強化を受けている。

 

「へえ、それがお前らの切り札か。いいぜ、来いよ」

「あれは、どれほど斬り甲斐があるかしら」

 

 尚も怯まず。

 

 腰だめに刀を構え、銃口を向ける二人に使徒達は顔をより歪ませ、全力で剣を振り下ろす。

 

 幅十五メートルはありそうな極太のレーザーが、二人を滅ぼすために轟音を伴って進んでいき──

 

 

 

「──それを待っていたぞ」

 

 

 

 彼らの頭上に、突如として光輝が現れた。

 

 バッ! と顔を上げ、目を見開く使徒達。彼女らを見下ろし、黒々しく燃える剣を掲げる愚か者。

 

 そんな彼を使徒達より上に送り届けたのは、十匹ほどの小型シュヴァルツァーが集まってできたゲート。

 

「貴方は、勇者ッ!」

「いいや違う! 俺は天之河光輝だ! ぜやぁあああああああッ!!!」

 

 裂帛の叫びとともに、彼は使徒達──ではなく、その翼のあたりの空間を斬る。

 

 すると断ち切られた緑色の糸が可視化し、強制強化の元を絶たれた使徒達は力の逆流に体をひしゃげさせた。

 

 全身をおかしな方向へと曲げた彼女らの絶命に伴い、レーザーも自然と消滅した。

 

 

 

 

 しかしそれでは終わらない。

 

 光輝は左手を剣から手放し、むんずと宙に舞う糸を掴み取ると勢いよく引いた。

 

 その動作と共に、糸が繋がっていたモノ──最初の使徒達のように空間に隠れていた〝それ〟が引き摺り出される。

 

「キュリリリィッ!!」

「ようやく見つけ出したぞ、ナァトッ!」

 

 それは、〝両手〟だ。

 

 五指の第一関節から先が極太の縫い針になった、口のついた右手と左手。その指先から糸が出ていた。

 

 驚いて金属を組み合わせて作ったような口から甲高い声を上げる〝ナァト〟に、光輝は剣を振り上げる。

 

「一つ、()()()を貰う!」

 

 

 

 〝悪以悪断〟。

 

 

 

 悪戯に他者の肉体に糸を縫いつけ、操る悪魔に断罪の剣が突き立てられる。

 

 混じり気のない光輝の〝殺意〟によって極限の切れ味を持つ一撃は、あっさりとナァトを両方とも切り裂く。

 

「ギェァアアアァァアアアアアァッ!!!」

 

 悍ましい断末魔を挙げながら、ナァトは緑色の粒子になって霧散した。

 

 最大の懸念が消えた今、残るはかろうじてまだ生き残っている四、五体の使徒のみ。

 

「イレギュラー達っ! 否、あなた達こそ本当の、化けも──っ!」

「〝竜巻上げ〟」

 

 そのうちの一体が、最後まで言い切る前に斬撃の嵐に輪切りにされた。

 

 立て続けに響いた銃声に二体が粉砕され、最後に落下して来た光輝の斬撃によって最後の二体も処理。

 

 そして通路に立つのは、理不尽の体現者と愛の為一切合切を切り捨てる剣鬼、そして自ら悪意を力とする愚者。

 

 

 

 

「お前らは進歩しない。生存の為にも、勝利の為にも戦えない──そんなお前ら如き、俺達を止める石ころにすらなれると思うな」

 

 

 

 

 銀の羽と使徒の残骸が舞う中で放たれた決め台詞に、観戦をハジメに言い渡されていたユエやシア達が恍惚とした表情になった。

 

 龍太郎と鈴は苦笑いしつつも、無傷で圧勝した二人、そしてナァトを仕留めた光輝に畏敬の目を向ける。

 

 近付いてくる彼女達を見ながら、銃をホルスターに収めたハジメは振り返った。

 

「よくやった、天之河。おかげで処理が楽だったぞ」

「……凄いのは南雲さ。俺じゃあ、あんなアーティファクトは思いつきもしない」

 

 自分の奇襲の要となったアーティファクトを思い出し、光輝は素直にハジメを褒めた。

 

 

 

 かつてフリードに一泡吹かせた、空間に隠れるアーティファクト。

 

 それは改良を加えられた結果、空間に〝ポケット〟を作れるようになった。

 

 最初のハジメ達の攻撃で使徒達の意識が集まった時に、光輝はそのポケットで移動を開始。

 

 そして、必ず使徒達の切り札を強化するだろうナァトの居場所を突き止めるためじっと隠れた。

 

 

 

 だがそれを為せたのは、やはりハジメの創造性と発明力があってこそ。

 

 人間は他の生物が持っている身体的優位性の代わりに、その知恵で生態系の頂点に立った生物だ。

 

 何が非戦闘系職業か、何が〝ありふれた職業〟か。

 

 ならば数々の恐ろしい兵器を作り出せるハジメこそが、最も恐ろしい才能を持っていたのだろう。

 

「勇者様らしくもない、地味な役回りだったな?」

「ふふっ、シューが見たらまた夢とか幻とか、そんなことを言いそうな光景だったわ」

「お、おい、もうそれで揶揄うのはやめてくれ」

「わかったわかった。とにかくこれでひと段落だ。第二陣が来てもめんどい、さっさと行くぞ」

 

 ハジメの言葉に合流したメンバーも頷き、何事もなかったかのように通路を前へと進む。

 

 【神域】にあっても余裕で刺客を撃退した彼らは、やがて虹色の壁へと到達した。

 

 波紋を打つ壁に手を当てれば、ズブリッと向こう側へと沈み込む。

 

 

 

 

 

 互いに頷き合い、一行は、波紋の向こう側へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

光輝と雫の成長具合が著しいなぁ…
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